『完結』黒歴史の輝き   作:万歳!

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デケム「何とでもなるはずだ!!」


第7話 因果

 大広間は、ひどく冷えているように感じられた。いや、実際に冷えているわけではない。壁に並ぶ燭台の炎は変わらずゆらめき、暖かな光を放っている。だが、その光が遠く、色褪せて見えるのは――目の前に立つ女のせいだ。

 

「初めまして、そしてお帰り、お父さん」

 

 その言葉は、耳に届いた瞬間、時間を止める呪いのように重く響いた。デケムは一瞬、自分が聞き間違えたのではないかと思った。だが女の視線はまっすぐにこちらを射抜いており、口の端が冷たくつり上がっていた。

 

「お、お前は何者だ!?」

 

 声を張ったつもりだったが、自分でもわかるほど声が震えていた。玉座に座る王として、こんなみっともない声をあげるなど許されぬことだ。それでも、目の前の女は笑みを深めただけだった。

 

「分かってるんじゃないの? お父さんが外で敗北したぷれいやーの仲間だよ」

 

 デケムの胸の奥に冷水を浴びせられたような感覚が走る。あの敗北――思い出したくもない屈辱が脳裏に蘇る。長い耳がわずかに震える。彼は思わず、宝物殿にあるアイテムのことを考えた。だが、そんなものに執着している暇はない。生き延びるためならば捨てて逃げる。それが合理的な判断だ。

 

 そう決断した瞬間、女の持っている鎌がかすかに動いた。

 

 鋭い音が空気を切り裂き、次いで焼けるような痛みが足を貫いた。

 

「ぎゃー!! 痛い、痛い!」

 

 膝から崩れ落ちる。屈辱だ。王たる自分が、玉座の間で、こんな醜態をさらすなど……! だが痛みが理性を押し流し、歯を食いしばるしかない。周囲のエルフたちが動き出し、自分の腕を掴んで大広間の中央へと引きずった。衣の裾が床を擦る音が耳に障る。

 

 女は軽やかな足取りで近づいてきた。その足音が、やけに響く。まるで死刑執行人がゆっくりと歩み寄ってくるかのように。

 

「それにしてもお父さん。凄いね。まさか、ここまで嫌われているとは思わなかったよ」

 

 淡々とした声。それがかえって心臓を握りつぶされるような恐怖を呼び起こす。

 

「何の話だ!?」

 

 怒鳴ったつもりが、嗄れた声だった。女は片膝をつき、デケムの顔と視線を合わせる。至近距離で覗き込まれ、思わず身を引きそうになる。

 

「まだ気づかない? 私の目を見なよ。お父さん」

 

 言われるがままに女の瞳を凝視する。左右で色が違う――オッドアイ。王族の証。それを見せつけるように女は髪をかき上げ、長い耳を露わにした。

 

「挨拶は大事だからね。もう一度言うよ。初めまして、お父さん。あなたの娘だよ」

 

「なんだと……」

 

 信じられなかった。こんな娘、知らぬ。だがその耳も瞳も、血筋を疑えぬ証だ。冷たい汗が背を流れる。誰との娘なのか、必死に思い出そうとするが、心当たりが多すぎる。

 

「誰との娘かわからない感じかな? いいよお母さんの名前も教えてあげる。ファーインって言うんだよお父さん」

 

「ファーイン、だと?」

 

 その名を口にした瞬間、背筋がぞくりとした。記憶の底に沈んでいた女の顔が、血に濡れた戦場と共に浮かび上がる。

 

「あれ、それでも分からない? お母さんの名前すら覚えてないなんて最低だね。じゃあもっと分かりやすく言うよ? お父さんが法国から奪った切札をレイプしてできた娘だよ? そこまで言えばわかるかな?」

 

 世界が一瞬、赤黒く染まった。記憶が一気に蘇る。あの女は強かった。だからこそ、手に入れた。強い母体を得れば、最強の子が生まれる――それは自分の信念だった。

 

(間違っていなかった。私は正しい。強い母体を得れば、エルフが最強であることを証明できる!)

 

 その誇りが、痛みに、恐怖に、揺らぐ。どうする。この場を切り抜けねば。女は隙を見せない。だが叫べば多少の時間は稼げるはずだ。

 

「お前たち!! 我が娘を、生け捕りにしろ!!」

 

 声が玉座の間に響く。しかし、返ってきたのは嘲笑だった。裏切りの笑い声が、耳を刺す。

 

「何故だ。なぜ自分に従わない」

 

 情けないほどかすれた声だった。女はゆっくりと立ち上がり、見下ろす。

 

「残念だけど、ここにいるエルフは全員、私に忠誠を誓うってよ。お父さん。強い者なら、何をしてもいい。そんな蛮族じみた考えだっけ? それならここにいる全員がお父さんより強い、私に従うのも当然だよね?」

 

 否定できない。喉がひくりと鳴る。自分が信じた論理が、自分を殺そうとしている。

 

 そのとき、外から足音が響いた。扉が軋みをあげて開き、純白の鎧を纏った存在が入ってくる。その背後には人間の女、そして失敗作と呼んでいた存在が並ぶ。

 

 視界が暗くなる。これは終わりか。だが、まだ死ねぬ。生きねばならない。エルフが最強であると証明する――それこそが私の使命だ。どんな屈辱を受けても、この場を生き延び、もう一度立ち上がらねばならない。

 

☆ ☆ ☆

 

「リーネ。まだ殺していなかったのですか?」

 

 たっち・みーの声が、大広間の空気を震わせた。

 

 天井から差し込む明かりは、白銀の刃のように鋭く、血で濡れた床を照らしている。かつて王の威厳を象徴したはずの玉座は無残に倒れ、部屋の隅に転がっていた。鉄と土の匂いが鼻を突き、遠くからは夜鳥の鳴き声さえ聞こえてくる。それが、むしろ不気味な静けさを強調していた。

 

 私は視線を父。エルフの王に落とす。彼は血まみれで、片膝をつき、荒い呼吸を繰り返している。今まで高みから命じる立場だった男が、こんなに小さく見えたことはなかった。

 

 私は肩をすくめ、たっち・みーに答える。

 

「うん。もう少し拷問にかけてから殺したいからね……」

 

 自分の声が驚くほど冷えていることに気づいた。こんな感情、私はかつて抱いたことがあっただろうか。胸の奥がざらつき、手がわずかに震える。怒りか、恐怖か、自分でも判別できない。やはり母の恨みが自分にも伝わっていたのだろうか。

 

 ふと、別の考えが浮かぶ。

 

「そういえば、たっち・みー。精神を支配するようなアイテム、何か持ってない? この男がどういう気持ちでこんなことをしてきたのか、知ってから殺したいんだ」

 

 たっち・みーは一瞬、私を見つめると、短くため息をつき、腰の後ろから黒光りする杖を取り出した。その動作は、まるで儀式でも始めるかのように慎重で、静かだった。

 

「やれやれ……ですが確かに、理由は知っておくべきでしょうね」

 

 そう言うと、杖の先端で空中に紋様を描いた。王の身体を包み込む。光は蛇のように絡みつき、王の体がぴたりと動きを止めた。

 

支配(ドミネート)

 

 大広間の空気が、さらに冷たくなるのを感じた。

 

「さて、聞きましょう。何故、あなたは子どもや女ばかりを戦わせていたのですか?」

 

 王の口が勝手に動き出す。声は感情が削がれ、機械のように平坦だった。

 

「強い母体を探し出して、エルフこそ最強の種族であることを証明するためだ」

 

 私は唇をかみ、爪が手のひらに食い込む。これが、母を、私を、法国の仲間を苦しめた理由か。

 

 たっち・みーは淡々と続ける。

 

「……ルーギーでしたか。なぜこの娘を一人で戦わせたのですか?」

 

「成功作か失敗作かを見極めるためだ。結果は王に手間をかけさせた、失敗作だったが」

 

 私の喉から、自然と笑いが漏れた。笑い声は冷たく、石壁に反響して不気味に響いた。

 

「……自分の娘だよ。愛してはいないの?」

 

「何故? 失敗作を何故愛さなければならない?」

 

 その答えが、私の中で何かを切り裂いた。腹の底から嫌悪感がこみ上げ、吐き気が喉を突き上げる。私は奥歯を噛みしめ、涙がこぼれるのを必死で堪えた。

 

「あなた、自分をどう考えてるの?」

 

「自分より弱い者に強くなるチャンス、強い子どもを産むチャンスを与える慈悲深い王だ」

 

「……はは、頭が痛くなるね」

 

 私は頭を振った。視界が滲む。どうして、こんな男が、王として君臨してきたのだろう。

 

「ラキュース、あなたも何か聞きたいことある?」

 

 私は振り返り、たっち・みーの背後に立つラキュースを見る。月光が彼女の金髪を白く輝かせ、まるで天の使いのように見えた。

 

「ないわ。むしろ聞けば聞くほど胸糞が悪くなりそう……私は罪もない人を殺すのは止めたいけど、この男を殺すのを止めたいとは思わない」

 

 ラキュースの声は静かだったが、その瞳は怒りで燃えていた。私は再び父を見た。血まみれの顔が、今はただ醜く見える。

 

「私があなたの娘だと思って、どう思った?」

 

 少しの間があって、王の口が動いた。

 

「私の考えは正しかった。強い母体に子どもを産ませれば、強い子どもが生まれる。あとはお前と私が子どもを作っていけば、エルフこそ最強と証明できると思った」

 

 耳が熱くなる。頭の中でその言葉が何度も何度も繰り返される。

 

「気持ち悪い! 気持ち悪い!! 気持ち悪い!!!」

 

 私は叫び、たっち・みーの背中に隠れた。肩が震え、視界が滲む。彼の背中は広く、温かい。その温もりが、かろうじて私を現実につなぎ止めてくれていた。

 

 たっち・みーは小さく息を吐き、周囲を見渡した。

 

「エルフたち、聞きたいことは?」

 

 一人のエルフが進み出た。顔は憎悪で歪んでいる。

 

「もう、十分です。我々もこの男の思考を知りました。あとは復讐を遂げるだけです」

 

「そうですか。ではリーネ、どうしますか?」

 

 たっち・みーが私を見た。その視線は優しかったが、決断を促す重みがあった。

 

「無理。触りたくもない。近づけば孕まされそう。私を孕ませていいのは、たっち・みーだけ」

 

 小さな声で答えると、たっち・みーが苦笑した。

 

「……私には妻がいるのですがね。まぁいいでしょう」

 

 彼は杖を下ろし、静かに呟いた。

 

支配(ドミネート)、解除」

 

 光が消えた瞬間、たっち・みーの剣が閃いた。王の四肢が、次々と切断される。血が噴き出し、石床に赤い花を咲かせた。

 

「痛い! 痛い!」

 

 王は絶叫した。だが、その声に誰も同情の色を見せなかった。

 

「さぁ、これでまともには動けないはずです。あなたたちの手で思う存分なぶり殺しにしなさい」

 

 たっち・みーは複数の武器を取り出し、床に放り投げる。それぞれに魔法が籠められており、刃が淡く光を放つ。これなら高難度であるエルフの王にも届くだろう

 

 

 エルフたちが一斉に武器を手に取り、王を囲む。足音、笑い声、嗚咽、怒声――すべてが渦を巻き、復讐の宴が始まった。

 

 私は一歩下がり、壁にもたれかかった。涙が頬を伝い、床に落ちる。だけど、もう迷いはなかった。

 

 これは裁きだ。そして、私たちの新しい始まりなのだ。

 

 最後にこう付けくわえた。

 

「お父さん、最後に一言だけ。あなたのおかげで好きな人ができました。強い子どもは私が作るから、苦しんで死ね」

 

☆ ☆ ☆

 

 その後は目まぐるしいほど忙しかった。

 

 あの血まみれの夜から数日。私はエルフの王城の一室に腰を下ろし、深く息をついた。薄緑色のカーテンが風に揺れ、外から差し込む光が床に淡い影を落としている。かつては父の権威を象徴するこの城も、今は解放された民や法国の兵士たちで賑わい、どこか落ち着かない気配に満ちていた。

 

 ルーギ――私の腹違いの妹は、相変わらず私の後ろをついて歩いている。言葉を発することは滅多にないけれど、離れようともしない。母親が何度か止めに入ったが、私はそのたびに肩をすくめるだけだった。正直、鬱陶しいと思う時もあるけれど、それ以上に――どこか、守ってやらなくてはと思う。こんな気持ちになるのは、自分でも意外だった。

 

 王城の中庭では法国の兵士たちが整列し、警戒に当たっている。敵同士だったはずの彼らが、こうして城内を歩いていても誰も剣を抜かない。普通ならあり得ない光景だ。だが理由ははっきりしている。

 

 法国側の上層部――元帥や参謀といった連中は、神が降臨したと伝えている。彼らにとって、たっち・みーは疑いようのない神なのだ。そして神が「困っている人を助けるのは当たり前」という信念を持っているから彼らもそれに従っているのだ。

 

 実際、たっち・みーが姿を現すと兵士たちは一斉に膝をつき、額を床に擦り付けるようにして拝む。

 

「どうか我らをお導きください」

 

 何度もそう繰り返す兵士たちを見て、私は苦笑する。気持ちは分かる。

 

 でも、たっち・みーは否定しない。むしろ落ち着いた表情で、彼らの敬意を受け止めている。上層部と兵士の間で温度差があることを理解しているのだろう。

 

「それで、エルフの老人たち。特に私たち法国と本来は同盟を結んでいたと知っている者は、どれくらいいるの?」

 

 私は宰相に問いかける。エルフにしては年がいっているように思える。今の彼の眼には奥に希望が宿っていた。

 

「はい、多くは……反逆を試み、王に殺されました。今生きているのは十人ほどかと」

 

 その答えに、私はため息をつく。

 

「本当に、あの馬鹿なお父さん……。人間種がどれほど亜人種や異形種に追い詰められているか、まるで理解してなかったのね。理解してたら、法国に喧嘩なんて売るわけないのに」

 

 隣に控えている法国の元帥や参謀たちが無言で頷く。彼らの顔には疲労と、それでも秩序を守ろうとする意志が滲んでいる。彼らと視線を合わせ、私は肩を竦めた。

 

 その間、後ろではたっち・みーがラキュースと一緒にルーギの相手をしていた。

 ……ラキュースめ、子どもと仲良くして好感度を稼いでる。後で絶対仕返ししてやるんだから。

 

「私はエルフの王族なわけだけど、私が人間と同盟を結ぶって言えば、多くの者たちは従ってくれる?」

 

 私は再び宰相に尋ねる。

 

「はい。ご安心ください。既に国民には、あの狂王が何を行ってきたかを伝達しております。それと同時に、王女様がエルフを解放しに来られたことも」

 

「私は国を運営したこともないし、常にここにいられるわけじゃない。たっち・みーについて行くからね。それでも大丈夫?」

 

「不在の間は、私が責任を持って統治いたします。絶対にしてはならないこと、した方が良いことを、後ほどご教示いただければと」

 

「なら詳しいことはそこにいる元帥たちと話し合って。彼らの方が実務は詳しいから」

 

 その時、たっち・みーがこちらを振り返った。

 

「ああ、リーネ。私からエルフに一つだけお願いがあります」

 

 私は思わず姿勢を正した。

 

「たっち・みーの言うことなら最優先でやるよ! 何かな?」

 

「私はリアルに数回、帰りたい。そのため、世界を渡れるタレントが欲しい。だから子どもたち全員がどんなタレントを持っているか調査してほしい。そして、エルフと人間が共に繁栄できる政策を取ってほしい」

 

 なるほど、と私は頷く。

 

「分かった。今の話、元帥たちも聞いてた?」

 

「もちろんでございます」

 

 元帥が深く頭を下げる。

 

「じゃあ法国から来る文官たちにも伝えて、その方針で統治を進めて。宰相さん、それでいい?」

 

「承知しました。必死に探してみましょう」

 

「お願いねー」

 

 私は立ち上がり、背後のたっち・みーに笑いかける。外の空気を吸いたかった。

 

「じゃあ、私はたっち・みーたちと一緒に外に出てくるね」

 

「……私もついて行っていい、お姉ちゃん?」

 

「うーん。ここからは大人の時間だからダメ。おかあさんといっしょにいなさい」

 

「……はーい」

 

 そう言って部屋を後にした。廊下の外はまだ騒がしい。兵士たちが命令を伝え、召使いが走り回る声が響いている。だが不思議と、胸の奥には一筋の光が差し込んでいた。

 

 ――これで少しは、この国も変わるかもしれない。返事を聞きながら後ろにいるたっち・みーたちに視線を向ける。そして外に出る。ここにいるのは、私――リーネと、たっち・みー、そしてラキュースだけ。

 

 

「……ようやく、喉に刺さった棘が一本抜けた」

 

 自分でも驚くくらい、声が軽かった。胸の奥につかえていたものが、ようやく吐き出せたような感覚だった。広間の冷えた空気の中、声が吸い込まれていく。

 

「お疲れ様でした、リーネ」

 

 たっち・みーの低い声が、静まり返った広間に落ちた。彼の声は、まるで金属の鈍い響きのようで、心臓の奥にじわりと届く。私は息を吐き、長椅子に腰を落とした。足元を見下ろすと、光を反射する石床に自分の影が揺れている。

 

「本当に疲れたよ、たっち・みー」

 

 手を握ると、指先がかすかに震えている。緊張が完全には解けていない証拠だ。

 

「でも、一つ大仕事が終わったかな……後は母親が、私を本当に愛していなかったのか……過去の文献を探してみようかなと思ってたけど……」

 

 言葉を吐きながら、自分の中の迷いも吐き出していくようだった。私は顔を上げ、毅然とした目でたっち・みーを見た。燭台の光に照らされた彼の姿は、神のように厳かで、近寄りがたいほどだった。

 

「もう、過去を振り返るのはいいかな。未来だけを見て生きていきたい。たっち・みーと一緒に」

 

 一拍の沈黙。

 

 そして、たっち・みーは肩をわずかに揺らした。

 

「ふー……私には妻がいると言ったはずですがね……」

 

 冗談めかした声音だったが、その裏に試すような響きが混じっていた。私は即座に応じる。

 

「絶対あきらめない。ラキュースと一緒に奪い取る」

 

 その場の空気が一瞬凍りつく。ラキュースの頬が、燭台の炎のように赤く染まった。彼女は視線を逸らしながらも、かすかにうなずいた。その様子を見て、私の胸に小さな優越感と照れが同時に湧き上がる。

 

 だが、次の瞬間――たっち・みーの雰囲気が変わった。

 

 深いため息を吐き、彼の視線は私たちではなく、遠く誰かを見据えるものに変わった。まるで別人のような、冷徹で実務的な顔。

 

「少々お待ちください、ニグン殿から連絡が入ったようです」

 

 たっち・みーは、普段の彼とは違うくらいに毅然としていた。その声は鋭い影を床に落とす。私とラキュースは、思わず息を潜める。しばらくして通信が終わると、彼はふっと口元を緩めた。

 

「ニグン殿の交渉は成功したようですね」

 

 その言葉に、広間の空気が少し和らぐ。私は胸を撫で下ろしながら、続きを待った。

 

「どうやら私はリアルに帰れそうです……リーネ、もしかしたら私の嫌な面や大きな嘘を見ることになるかもしれません。それでもついてきますか?」

 

 試されている。そう直感した。けれど、答えは決まっている。

 

「もちろん。どこまでもついて行くわ」

 

 即答した私に、たっち・みーの視線が一瞬だけ柔らかくなった気がした。そして彼は、隣に立つラキュースへと視線を移した。

 

「ラキュース、あなたはどうします?」

 

 ラキュースは一度だけ深く息を吸い、真剣な顔で答えた。

 

「私も……できればついて行かせてください」

 

「分かりました。では――向かいましょう、竜王国の王城に」

 

 たっち・みーの声が、広間の天井に反響する。私は立ち上がり、ラキュースと視線を交わした。互いに言葉は交わさずとも、心は一つだった。

 

 燭台の炎が大きく揺れた。広間の扉が開き、冷たい風が吹き込んでくる。

 

 未来へ進む道が、そこに続いている気がした。




次話でちょっとしたおまけを書いた後、最終章に突入します!

なお都合により次話の投稿は11月30日となります。お許しくださいm(__)m
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