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今、蒼の薔薇は全員フル装備で、ラナーの部屋を訪れていた。それはこれから訪れる存在に対する警戒心だったり恐怖心であったりする。
ラナーを見るといつものような雰囲気だ。だが普段とは違うのだ。心を変えてもらわなければ。
「ラナー本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ガゼフ様が認めた、
ラナーがいつもと変わらないのは私たちに対する信頼からだったのか。可能であればこの信頼に応えたいし、応えなければならないと思う。だがあの人間とは思えない殺気。今あの時のことを思うだけで震えてしまう。
「……正直に言うわね。私たちはアダマンタイト級冒険者。英雄と言われているけど、あの
その言葉に、あの時の殺気を受けたガガーランと、イビルアイが同意する。そしてイビルアイが話し出す。自分よりも強大な存在だとして。
「自称、難度280だが恐らく間違いないだろう。我々が命を懸けても10秒すら稼げるかわからない」
「私たちは見てないけど、イビルアイがそう言うなら信じる」
「ただ、それが本当で、王国の膿を斬ろうとしてくれているなら、好機」
双子の忍者が思い思いに話す。あの殺気は常人を超えているのは間違いないが、見てなければ普通は信じられない。だが、イビルアイや私たちを信じているのだろう。肯定してくれる。それにラナーか少しだけ不安そうに首をかしげる。
しかし王国の膿を斬ろうとしてくれているのは間違いない。確かにチャンスだとラキュースは思う。あの圧倒的武力に勝てる存在はいない。そして存在感はまるで英雄……違う確実に英雄だ。それも私たちが言う英雄ではない。言うなれば帝国の
王国戦士団が噂を流していたが、アンデッドに襲われたエ・ランテルを救ったらしい。しかも無償で蘇生魔法を行使して、多くの人を救った。
ラキュースは思う。彼の行動指針は……間違いなく英雄だ。困っている人を助ける……。あるいは彼がこの国の王となれば亜人との共存も可能かもしれない。確かに私たちにも甘いところがある。あるいは強者ゆえに亜人を助けたのかもしれない。しかし、何の罪もない存在を手にかけることは許されるのだろうか…彼ならすべてを武力でまとめることができる。それが最善ではないだろうか?
その場合、ラナーと結婚することになるが……。クライムに悪いか。今クライムが戦士長と二人を迎えに行っている。さすがに養子にするのは王が認めたとしても他の王族が認めないだろう。
陽光聖典の者たちには思うところがある。だが、それは今は横に置いておかなければ、何はともあれ今は王国の膿を殺すための仲間なのだから。
そして強大な威圧感だろうか。あの
クライムが扉を開ける。そこにはガゼフを先頭に
「初めまして、
「お初にお目にかかります。私、たっち・みーと申します。気軽にたっちさんとお呼びください。それと兜を脱がないことをお許しください。私は神の祝福により兜を外すことができないのです」
「あら、そうなのですね。では紅茶も飲めないのですか?」
「はい、私はこの指輪で飲食を不要にしていますので食事は必要ないのです……できれば私の分の食事は名もなき民たちに与えていただけると幸いです」
「あなた様は、まさに
「それなら、違法娼館に突入してもらって、証拠を挙げていただくのはどう? クライムと一緒に行ってもらえれば、あなたの功績になるわ」
そう。違法娼館に私たちだけで突入するのは実家に迷惑が掛かってしまう。そしてクライムだけではいるであろう犯罪者すべてを打倒するのは難しい。だが、この
「それはいいわね。たっち様。お願いしてもいいでしょうか?」
「私は構いませんよ。ですがその前に、ニグン殿の話を聞いてから優先順位を決めましょう」
そして、陽光聖典の隊長であるニグンが、紙を手に取り出しながら口をはさむ。
「横から失礼させてもらう。私は、法国の上層部の者だ。たっち様と共に麻薬の製造所を3か所つぶしてきたのだが、換字式暗号だと思われる。解ける者はいるか? いないのであれば法国に持ち帰って解かせるが」
その言葉に、ラナーが見せてくださいと手を伸ばし、暗号書を受け取る。そして少しだけ考えた後、こういった。
「解けました」
「なに、それは本当か!?」
ニグンが思わずバカなと言っている。そう、このラナーは思考という一点においては誰もかなわない。
「恐らく八本指の他の部署の本拠地だと思われます……麻薬の製造所に仕掛けた以上、地下に潜られる危険性もありますね……蒼の薔薇の皆さん、ガゼフ様、たっち様で一人一か所として7か所まではしかけられますね……そこにいる陽光聖典のニグンさんだったかしら、あなたはアダマンタイト級の戦士に勝てますか? それであれば違法娼館を含めて、すべての八本指の拠点に攻め入ることができます」
「六腕か……すまないが私一人ではアダマンタイト級冒険者を倒すのは不可能だ。だが、配下の者と共にであれば、一人なら相手できる。だが万全を期すなら、より兵が欲しい」
そこに不思議そうな声で、たっち・みーが話し出した。
「ラナー王女。八本指を潰すのは私一人でも十分だと思いますが?」
「いえ、さすがに八か所を同時に回るのは不可能ではありませんか?」
「……なるほど。蒼の薔薇は私の力を正確に伝えていないようですね。もしくはあなた達も私の言葉が嘘であってほしいと理解したのかはわかりませんが……私の力は正確に把握していただく必要があります」
そう言うと、彼は何かを唱えた。そして……気づけば座っているラナーの首筋に剣があてられていた。全員本気で警戒していた。イビルアイは恐ろしいものを見たかのように小さくなっている。クライムが怒りでたっち殿に切りかかろうとするのを抑える。これは力を正確に教えていなかった私たちのミスだ。
「ラナー王女。失礼しました」
そう言うときれいにお辞儀をして元の席に戻っていった。そしてアダマンタイト級冒険者の私たちに話しかけてきた。
「あなた達は私が何をしたかわかりましたか?」
「……あなたは以前、ぷれいやーは難度210以上になるころには時間停止対策が必須と言ってたわね? まさか本当に時間を止めたの?」
唇が震える。もしそれが事実だとしたら蒼の薔薇では何もできない。一番強いイビルアイですら難度は150程度。10ぐらい難度が上程度であれば十分勝ち目はある。だが100以上の差がある以上。勝ち目はない。その上、時間停止? 信じることができない。
「私は
その言葉に蒼の薔薇、クライム、ニグンの視線がガゼフに向かう。そして一つの指輪を指から離し、こちらに見せやすいように見せた。
「私はたっち殿に時間停止を無効化する指輪を頂いた。本来なら時間が停止されたとき動くことができた、私が動いてラナー様を守らなければならなかった。ラナー様申し訳ありません。ですが、たっち殿はこの中で一番賢いラナー様にたっち殿の力を完全に把握してもらった方が良いと言われたので、動きませんでした。申し訳ありません」
「……い、いえ、まさかこれほどの力をお持ちとは驚きました。ですが時間停止ができるという情報は我々だけで止めておくべきですね。うかつに使用すれば、討伐対象である者たちが自暴自棄になりかねません。使うなら、貴族たちすべてにけりをつけるときにですね」
ラナーの言うとおりだ。あれだけの武力に時間を停止する力。さらに時間停止を無効化する指輪。疚しいところがあるものは暴走する危険性は高い。であれば、この情報はここで止めておくべきだろう。そう、切り札として。
「
「その通りだ。ラナー王女。加えてたっち・みー様は我々法国は六大神様と同列に扱う予定だ。つまりたっち様は現人神だ」
法国なら、信仰しても仕方ないと私も思う。実際神のような力を行使している。ラナーは法国から評価されている、あるいはクライムと駆け落ちする未来もあるかもしれない。
「なるほど……となると、八カ所を同時に仕掛けるために、陽光聖典のニグン様に兵力が必要ですね。それさえクリアできれば、八本指を掃討できます。クライム。レエブン侯を呼んできてくれる?」
「レエブン侯をですか? 畏まりました。ラナー様」
クライムがラナーに一礼してレエブン侯を呼びに行く。だがあの蝙蝠は信用できるのだろうか。ガゼフさんも険しい表情をしている。それはニグンも同じだ。いやニグンの表情は険しいというよりも驚きが強い気がする。自分たちも蝙蝠と言われているレエブン侯を信頼はできない。
だが一番賢いのはラナーだからと、私たちはラナーを信じる。そして数時間は待たせられると思っていた。その間、
レエブン侯が第二王子を連れてすぐに訪れたからだ。
「ラナー殿下、お呼びとのことで参りました」
「面白そうだから、参加させてもらうぞ」
第二王子の言葉を聞きながら、レエブン侯がラナーではなく、兜を外していないたっち・みーに話題を振る。
「あなたが、王国戦士長が勝てないという
「ちなみに
「さて、私ごときが力になれるかどうか……」
「大丈夫です、宮廷の事でレエブン侯の右に出る者はいないと思いますから」
「高く評価していただき感謝いたします。それで何をすればいいので?」
「王派閥を陰でまとめている方として兵士の動員は可能ですか?」
「はっ?」
今、ラナーは何といった。たっち・みーと陽光聖典の隊長以外の全員が驚愕の表情を浮かべている。レエブン侯は蝙蝠ではなかったのか?
「本来であれば、王派閥、他の大貴族の方に話を持ち掛けるべきかもしれませんが、ブルムラシュー侯は帝国に情報を流していますよね?」
「な、なんだと」
「少し待っていただきたい!」
私たちが、二人の表情を見る。それは驚きを感じているようだ。まるで本当のことを当てられたかのように。まさか本当にラナーの言うことは本当なのだろうか。だとすれば、私たちが敵だと思っていた存在は実は必死にこの国をまとめていた功労者になる。
そしてレエブン侯は驚きから立ち直り平静の表情になっている。傍にいるニグンの顔を見ながら口を開いた。
「……もしや、そこにいる、六色聖典の隊長から事実を聞きましたかな?」
その言葉にニグンは残念そうに、そして期待を込めた形で口を開いた。
「残念ながら、私は貴殿が王国を必死にまとめていたことの事実を知っていたが、この王女には何一つ語っていない。というより風花聖典は何をしていたのか……王女がこれほどの知恵を持っていると知っていれば、別の選択肢を取ったかもしれない……いや今からでも勧誘すべきか。王女よ、法国に来ないか? 人類の生存のためにその知恵をふるってほしい……ある程度の願いであれば私の独断で叶えることができる」
「嬉しいお言葉ですが、まずは王国の膿の退治が終わってから、もう一度伺ってもいいですか? それとどうやってレエブン侯が王派閥をまとめているか知ったかですが、メイドたちと話せば分かりますよ?」
「それもそうだな……レエブン侯、お前はどうする。このまま王国の膿を黙ってみているか、たっち様と共に王国の膿を消し去るか」
ありえない。レエブン侯が王派閥をまとめていたとは中々信じることができない。だが、ラナーだけでなくニグンまでも肯定した以上、真実なのだろう。自分たち蒼の薔薇も、ガゼフも驚愕の表情を浮かべている。
そしてザナック王子が一言呟いた。化け物と。それにクライムが少しだけ険しい表情になる。だが今まで化け物と言っていたのは非難ではなく、ラナーの実力を認めたうえで化け物と言っていたのだ。
メイドたちと話しただけでレエブン侯たちが必死に隠していたことを見抜いた。確かにラナーの知能は人間ではありえないかもしれない。
「ザナック王子の言う通り化け物、ですね。畏まりました。胸襟を開かせていただきます。王子、構いませんね?」
ザナック王子がこくりとうなずいた。これで確定した。レエブン侯は蝙蝠なのではない王国のことを真剣に考えて守ってきた忠臣だ。そしてザナック王子もそれに自身で気づいていたのだろう。
自分はレエブン候は帝国の手先としか考えていなかった。ザナック王子に対しては、おなかの中にラナーのために英知を置いてきてくれた存在だとしか思っていた。だが実際はザナック王子もラナーに劣るが、賢いのだろう。自分の目は腐っていたのだろうかと、心の中で自罰する。
「そしてできれば、本当の……いえそれは後にしましょう。それでこの度はどういった事情で私をお呼びになられたのでしょうか?」
「たっち・みー様がこの国にいる間に八本指に引導を渡します。すでに八か所、拠点を発見しています。こちらが出せる兵力は、蒼の薔薇の皆さんの5人に、戦士長様、
「なるほど。つまり、王派閥の兵力を動員すれば八か所まで同時に襲撃を掛けることができるということですね?」
「その通りです。兵の動員は可能ですか?」
「……絶対に信頼できる貴族は二つ程度でしょう。六腕は先ほど名前が挙がった方が打倒すると考えれば、並の兵士でいいのであれば、勝率は高いですね……陽光聖典のニグン殿には、私の親衛隊、元オリハルコンクラスの冒険者たちをつけましょう。これなら六腕と当たっても勝ち目は出てくるでしょう」
「オリハルコン級の冒険者か、確かにそこに陽光聖典の者たちが加われば……一人なら打倒可能だな」
その言葉にラキュースは安堵する。上手くいけば王国の害をすべて掃除できるかもしれない。
「なるほどな、確かに上手くいけばこの国は立ち直るな。ところで妹よ。一つだけ問題がある。我々が敬愛する兄上にも麻薬部門から金が流れている」
……絶句した。それは蒼の薔薇の全員とクライムだった。確かに良いうわさは聞いていなかった。だがまさかここまでとは。
(まさか、第一王子が麻薬売買に関わっているなんて)
思わず、唇をかんでしまう。どうするのが最善なのだろうか。だがレエブン侯とザナック王子を除いて別の表情をしたものがいた。
ガゼフだ。その顔には苦悩が浮かんでいた。そして先ほどまでこちらを窺うようにしていた、たっち・みーが話し出した。
「一つだけ聞かせて頂きたい、ザナック王子にレエブン侯。第一王子は八本指の麻薬部門から金が流れて民が苦しんでいるのを知っていますか?」
「……仮にその想定が事実だった場合、あなたはどうしますか?」
「決まっています。私の誓いは、困っている人がいたら助けるです。その困っている人を作る原因を放置することは
その言葉に蒼の薔薇メンバー、レエブン侯、ザナック、クライムが息をのんだ。この先に出る言葉は反逆だ。いや、この言葉を聞いた以上、普通なら取り押さえなければならない。だが勝てるだろうか…勝てるわけがない。そして必死にガゼフがたっち・みーに話し出した。
「たっち殿! あなたの気持ちは私にはわかる。本来なら王の剣として私がしなければならないことだ。だからどうか、それだけは王の許可を得てから――」
「ガゼフ殿。貴方は素晴らしい戦士です。尊敬できます。ですが、あなたの王は子どもを殺すことを決断できますか?」
その瞬間、空間に殺気が充満した。強さとは一定程度同じ強さではないと感知することができない。だがそれは通常の場合だ。
例えば難度280の者が本気で殺気を出せば、誰であれ理解することができる。そして強ければ強いほどその力の差の詳細もわかる。
イビルアイは以前以上のたっち殿の殺気で椅子から転げ落ちていた。それでもなお、この場に踏みとどまって、転移で逃げられるのに逃げないのは私たちが仲間がいるからだろうか。
そしてイビルアイを除いた4人は動くことができない。こちらに注意を集めたくない。注意が集まればその時点で死んでしまうような殺気だ。ラナーとザナックは椅子から転げ落ちている。レエブン侯は信じられないものを見たような表情で、必死に椅子にしがみついている。
そしてガゼフとクライムは……立っていた。クライムは必死になってラナーとたっち・みーの間に滑り込んだ。この状況でもラナーを庇うつもりのようだ。クライムがまさかここまで心が強いとは知らなかった。この殺気の中動けるとは。
そう思うと、自分が酷くちっぽけな人間に思えてきた。
そしてガゼフはたっち殿を見つめていた。たっち殿は、嘘ごまかしは許さないと言っている目でガゼフを見ている。
「王はきっと最善な手段を決断できる」
「ガゼフ殿が断言できる以上、それも可能かもしれません。ですが、それは肉親を手にかけることを決断させるに等しい。であれば、私の一存で斬ってしまうのが最善ではないですか?」
「そうかもしれない。私は王に酷な決断をさせるかもしれない。だが、たっち殿が王国から追われるようなことはさせたくない」
「では賭けをしましょう」
「賭けをする?」
「この場にいる戦えるものすべてと私で勝負しましょう。私は一人でそちらは全員で、手加減もしましょう。この場にいないレエブン侯の親衛隊も、戦士団も騎士でもあなたが利用できるすべての手ごまを使って私に一太刀浴びせてみせなさい。そうすれば、私はあなたに従いましょう」
無茶だとラキュースは思う。この殺気の中動ける存在は最低でもオリハルコン級の冒険者が限界だろう。一般の兵士では何もできない。
そんな空気の中。ラナーが殺気を受けながら表情を青白くしながらしゃべりだした。
「たっち様、バルブロお兄様の件は私が父上を必ず説得します。なのでまずは、八本指の拠点であろう箇所をどうにかしましょう。まずは今苦しんでいる人を救いましょう。お兄様や八本指から利益を得ている者たちを殺すのはそれからにすべきです。でなければ八本指は逃げ出すでしょう」
「……そうですね。少し怒りで取り乱してしまったようです。皆様申し訳ない」
その言葉を最後に殺気が消える。深呼吸をした。蒼の薔薇もクライムやレエブン侯もザナック王子も誰もが恐怖と共に安堵を感じていた。
「少々頭を冷やしてきます。その間にどこの拠点に私が攻め入るか決めておいてください」
☆ ☆ ☆
城壁の高いところに一人の
「モモンガ様、たっち・みー様。私はロールプレイをできているでしょうか……今まで存在した主人を亡くしたNPCたちのように壊れてしまえれば楽なのに……アルベド殿やデミウルゴス殿のように見て見ぬ振りができれば、どれだけ楽でしょうか。ですが私はまだ動きます。壊れきってしまう前に……必ず」
ラナー様の正体を蒼の薔薇やクライムにも見せようかと考えましたが、レエブン候が寸前で思い直してくれました! よかったねラナー!! クライムに嫌われなくて!
アンケートは今日の19時19分で締め切ります!
あと今日の19時19分にちょっとしたおまけを投下します!!
感想お待ちしております!
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