<1:京太郎>
<1:京太郎>
膝を壊した。
それが、中学三年間を費やしてきたハンドボールとの別れだった。
最後の大会、県大会決勝。
大きく飛んだ下、着地の時に偶然落ちていた石に足を取られた。
たったそれだけで、着地は不安定な態勢へと代わり。
激痛が、脳裏を走った。
医者の診察で、追い打ちを掛けられる。
診断の結果は、激しい運動は二度と出来ない。
たったそれだけの、突き放されたような宣告だけだった。
二度と動けない。
ずっと、頑張ってきたと言うのに。
只のそれだけで、全てを否定されるのか。
……いや、否定されるのだろう。
だから、諦めた。
時を同じくして。
父親の転勤の話が持ち上がった。
転勤先は、大阪。
付いてくるか、と。 父は問うた。
行く、と。 少しだけ考えた上で、俺は答えた。
このまま、長野に残っても。
多分、悲しい記憶しか浮かばない。
そう思っての――――やり直しの為に。
高校も、移り変わる。
考えていた学校も、切り替わる。
ただ、それでも他に集中するものが無いから。
勉強に必死に打ち込んで、一つの高校の席を勝ち得た。
「……此方の方は、もう暖かいくらいなんだな。」
そんな呟きをしながら、とある建物へと近付いていく。
右腕で支える、松葉杖。
力を入れればまだ痛む関係上、これしか頼りにならない。
入学が確定してから、一週間程。
既に此方にやってきていた俺は、今。
膝の治療のために移った、病院の前にいる。
……いや。
正確に言えば。
病院の前に佇む、少女の後ろにいる。
「…………?」
何かを胸の奥に押し込もうとしているようにすら見える。
何かを堪えるように。
何かから、目を逸らすように。
「……あの?」
邪魔、と思った訳ではない。
ただ、何かと思っただけだ。
声を掛けた少女は振り向く。
やや長い黒髪を、肩甲骨のあたりまで伸ばした。
和風の、少女。
「……あ、ゴメンな。」
一度だけ、目を擦ったように見えた。
見間違い、だろうか。
その手には、水が反射しているようにすら見えて。
何処か、声も。
上ずって、聞こえて。
「あの……いえ、変な意味じゃないんですけど。」
「…………?」
「……何か、あったんですか?」
不思議と、そう声を掛けていた。
心配だ。
大丈夫か。
そう言った、ある意味では不純になり得る言葉でなくて。
少しでも、力になれれば。
……苦労人なのは変わらないんだな、と。
自分で自分を、自嘲した。
「……あん、な。」
本来なら、無視されてもおかしくはない状況。
なのに、されなかったのは。
信用してもらえた――――からではないだろう。
多分。
少しでも、楽になりたかったから。
「……親友が、倒れてな。」
「倒れ、た?」
「…………長くないかも、しれないんやと。」
其の言葉を聞いて。
離れれば、良かったのだろうか。
後から考えても、分からないけれど。
「…………長く、ない?」
鸚鵡返しのように、問い掛け返す。
「……何を言っても、変わらないんやけどな。」
忘れて、と。
悲しそうな顔で笑った、彼女。
そんな彼女に、そんな顔をさせる親友。
「……忘れられません、よ。」
誰かに共有して欲しい。
だから、なんだろう。
縁も所縁もない、俺に話したのは。
……共有、してしまったのだから。
それで、と。
ぽつり、と。
口から、言葉を漏らしていた。
「……その人に。」
会ってみても、良いですか。
そう、告げていた。
足の治療より。
なんとなく。
この出会いは、偶然じゃない、と。
そんな風に、感じていた。