月曜日のたわわ〜幼馴染はとてもたわわです〜   作:とちおとめ

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本話の登場人物。


ユー君
バレー部ちゃん
徳森さん


後二話で完結します。
短い間でしたが是非とも最後までお付き合いください。


8たわわ!

「……んじゃ先生、おつかれ~っす」

「おう。じゃあな」

 

 日直の日誌を職員室の担任に届け俺は下駄箱に向かう。

 いつもなら下校は俺と同じく部活に入ってないアイと一緒なのだが、今日アイはとある喫茶店のバイトの日なので一緒ではない。

 上靴を脱ぎ靴を履いて玄関から出ると、バレー部の女子がランニングをしている姿が目に入った。帰りに校外を走っているのを見たことがあるがそれなりに長い距離を走っていた。流石は運動部、体力作りからよくやるなぁと感心するものだ。

 息を荒く吐く者、そうでない者たちが校内に帰ってくる中見知った顔を見つけた。

 

「よ、バレー部ちゃん」

「? あぁユーか。あんた今帰りなの?」

 

 アイの親友であり俺にとっても友人であるバレー部ちゃんだった。

 汗を流しながら息を吐く姿はいつものバレー部ちゃんからは想像できない姿、それだけバレーに本気で打ち込んでいるのが窺える。アイもバレーをしているバレー部ちゃんはとてもかっこよく自慢の親友だと言っていたし、こういうところを見れば少しだけかっこよく見えてしまうかな。決して言葉には出さないけど。

 

「うん? なんか変なこと考えてない?」

 

 ……女は勘が鋭いと言うがその通りらしい。

 バレー部ちゃんが訝し気に見てきたが俺は別に変なことは考えていないため特に慌てることもなかった。

 

「別に変なことなんて考えてないさ、寧ろ逆かな」

「逆?」

「あぁ」

 

 言葉には出さないと言ったから言わないさ。

 バレー部ちゃんのことだからからかってくるに決まってるからだ。いつもの構図はアイを弄るのはバレー部ちゃん、そしてそんなバレー部ちゃんを弄るのが俺なのだ。バレー部ちゃんには悪いがこれだけは譲れん、君は一生俺を弄ることなどできん、ずっと俺に弄られろ。

 

「……今度こそ変なこと考えてる気がするわ」

「……………」

 

 本当に勘が鋭いなこの子は。

 しかしこうして俺と話していていいのかねバレー部ちゃんは。気づいているか分からないけどバレー部ちゃんと一緒に来た部員たちは既にここにはいないのだが。

 俺の言いたいことに気づいたのかバレー部ちゃんはあっと慌てたように声を上げた……やっぱり気づいてなかったらしい。

 

「まっず、それじゃあねユー。また明日!」

「おう」

 

 バレー部ちゃんに短くそう返し歩き出そうとした時、もう一度俺はバレー部ちゃんに呼び止められた。

 何だと思い振り向くとバレー部ちゃんはこんなことを言い出した。

 

「ユーさ、来週暇?」

「来週? ……特に予定はないけど」

 

 バレー部ちゃんにそう聞かれ考えてみたが特に予定はなかった。

 別にないと伝えるとバレー部ちゃんは頷いて続ける。

 

「実はさ、海に行こうと思ってるんだよ。もちろんアイも誘ってる」

「アイも?」

 

 あぁそういえば友達と海に行くかもしれないって言ってたような気がする。

 気づけばもう暑くなってきたこの季節、アイの話を聞いて偶には海もいいなぁとは考えたっけ。もちろんそう言うとアイは一緒に行こうと言っていたが。

 

「アイも誘ってるけど少し乗り気じゃなさそうなんだよね。それはたぶんユーが一緒じゃないからだと思うんだ」

「いやそんなことは……」

 

 友人……それも親友に誘われて渋るとは思えない。

 アイは遊ぶことは好きだし海に限らず山登り、何気ない散歩すら楽しそうに俺の手を引いていたのを思い出す。そのアイとの記憶が嘘でなければバレー部ちゃんの誘いにすぐ頷かないとはやはり思えなかった。

 

「いやそれはあんただからでしょ」

「……自信持っていうのな」

「まあね。アイは親友だよ? 分からない方がおかしい」

 

 そんなもんかと俺は苦笑する。

 とはいえ海に行かないか……か。俺も別に暇だし海は嫌いじゃない、何だかんだバレー部ちゃんには世話になってるし飯でも奢る意味も込めて誘いに乗るとしようか。

 

「分かった。行くよ。アイも誘っとく」

「よし!」

 

 分かりやすいようにガッツポーズをするバレー部ちゃん。

 ていうかあれだよね、明らかに俺の参加よりもアイが一緒に来ることが彼女にとって本命なだけだ。海に行って起きる光景が今からでも予想できる。水着に身を包んだアイにバレー部ちゃんがセクハラをこれでもかとしている光景が。流石にバレー部ちゃんを信用してなさすぎだろうと思われるかもしれないが許せ、そういう期待を悪い意味で絶対裏切らないのがバレー部ちゃんと言う女の子なのだから。

 絶対アイを誘え、最重要任務だと言い聞かせられた俺はバレー部ちゃんと別れ帰り道を歩く。

 いつも用事があったら立ち寄るであろうコンビニも今日は用がないためスルーする。コンビニを通り過ぎようとしたその時、中からごみ袋を持って出てきた女性と目が合った。彼女とはコンビニを利用するときにいつも会計をしてもらっているので自然と頭を下げてしまった。

 

「こんにちは」

「あら、こんにちは。学校の帰り?」

「はい」

 

 見た目は少し年上の女性、もしかしたら同い年くらいに見えなくもないほどの若い女性。幼い顔立ちだが甘く見ることなかれ、アイに勝るとも劣らない立派なバストの持ち主だ。意識したわけではなかったが一度少しだけその胸をジッと見た時に思いっきりアイに足を踏まれたことがある。その時は痛みに悶える俺にそっぽを向いて私不機嫌ですと言わんばかりのアイ、カウンターの向こうにいるため何が起きたか分からず首を傾げていた女性……今思えばあの時の光景を他の客に見られなくて良かったと心から思う。

 

「そういえば今日は彼女は一緒じゃないの?」

「彼女? ……あぁいつも一緒にいる子ですか? それなら彼女じゃないです。幼馴染なんです」

「あら、そうだったの。私てっきりあなたたち付き合ってるものだと思ったもの」

 

 ……別にこんなふうに勘違いするのはこの人が初めてではない。

 商店街とかアイと買い物に行くとよく勘違いされて二人して赤くなってしまうが、こうして改めて言われてしまうとアイがいないのだとしても恥ずかしいものである。そんな俺の様子にクスクスと笑った女性は少し昔を思い出すように口を開いた。

 

「私にも幼馴染がいたの。高校に入学するときに離れてしまったのだけどね」

 

 女性のいきなりの語りに驚いたものの、俺も少しだけ気になってその場から動かなかった。

 

「それから今になるまでずっと会えなかったわ。もう二度と会うこともない、そう思って懐かしい記憶に蓋をしようと思ったことも少なくない。彼にとって私は口煩い幼馴染だったのかもしれないけど、私にとっては彼との時間は何よりも充実していたから」

 

 儚そうに話す彼女の雰囲気はひどく印象に残った。

 その様子から女性は別れた幼馴染のことがとても大好きなのだという想いが伝わってくる。とても真っ直ぐで純粋な想い、無粋かもしれないが俺は気になって続きを聞こうと思ったがここで一つのことに気づく。それは女性が今になるまで会えなかったと言ったものだ。その言い方はつまり、女性はその幼馴染と再会できたのではないかと俺は気付いた。

 

「その言い方……再会できたんですか?」

 

 そう問いかけると、女性は花の咲いたような笑顔を浮かべて頷いた。

 

「えぇ。中学の同窓会が先日あって……そこでようやくね」

「……良かったですね」

「ふふ、ありがとう。でもね、私が彼と再会したのは正確には同窓会の時ではないのよ?」

「え?」

 

 それは一体どういうことだろうか。

 それから女性の話を聞いた俺は思わず笑ってしまった。どうやら女性がこのコンビニで働いているとき、朝早くから利用しているお客さんがいてそれが例の幼馴染だったそうだ。幼馴染は女性にずっと気づかず、同窓会という場所と女性が昔からやっていた仕草でようやく気付けて本当の意味で再会できたのだという。

 そして今、女性と幼馴染の人は交際をしているのだとか。

 ずっと離れていた幼馴染が再会し恋人となる。まるでドラマか何かだと思ってしまうが、少なくとも確かな現実が今目の前にはあった。俺は当事者ではないが、純粋に幸せそうに話す女性を見て自分のことのように嬉しく思う。本当にどうしてかはわからないけれど。

 こんな話を聞いたからだろうか。

 今俺は無性に幼馴染に……アイに会いたくなってしまった。アイはまだバイトだけれど、また本人に黙ってバイト先に客としてお邪魔するのも悪くはないかもしれない。

 それから挨拶そこそこに俺は女性――胸元の名札で分かった徳森さんと別れる。

 

「ふふ、気持ちは分からないでもないけどまた幼馴染ちゃんに嫉妬されちゃうわよ?」

 

 ……本当に女性は鋭くて勝てない存在だな。

 でもしょうがないと思う。あんな立派な胸を持っていて名前は徳森さんときた……徳森さん、うん素晴らしいトクモリをお持ちでございました。

 コンビニから離れ、アイのバイト先である神戸屋に向かう。

 そんな中ぼそっと無意識に口が動く。

 

「徳森さん、幸せそうだったな」

 

 幼馴染と恋人になれたことが本当に幸せそうだった。

 本当に大切な人ができた時、あそこまで人間とは綺麗に笑顔を浮かべることができるのか。俺は感慨深い何かを感じながら歩き続け、アイのバイト先である神戸屋に着き店内に入る。

 店員の女性たちがいらっしゃいませと声を上げ、一人の店員が走ってくる。

 その途中でその店員は俺に気づき驚いて、けれどもすぐに笑顔となって俺の前まで来てくれる。

 

「いらっしゃいませ! 席にご案内しますね……ユー君♪」

 

 好きな人を想いあんな素敵な笑顔を浮かべられるのならそれはきっと素敵なことだ。

 俺もそろそろ答えを、分かり切った答えを出すのもいいかもしれない。

 

 

 ただ一言好きだと、彼女に伝えるために。

 




月曜日のたわわのロマンチック代表は間違いなく徳森さん。

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