今年もよろしくお願いします。
高校の時の同級生とチゲ鍋囲んでご飯食べました私です。
……チゲ鍋って結構辛いなと身に沁みました。
お正月、学生にとっては冬休みの時期に入り長い長い休暇の日々である。
例年通り正月とはいえ休みの日なので正直いつもなら昼頃までベッドの住人と化しているはずなのだが――俺は隣を見る。
「……あむ」
俺の隣にピタッと引っ付き炬燵に足を入れてみかんを摘まんでいるアイの姿があった。
正月早々どうしてアイが俺の家に……なんて特に珍しいことではない。昔からよく遊びに来ていたし俺もアイの家にお邪魔してお雑煮をご馳走になったりもしていた。無論今年も元日は朝早くから初詣に向かい、姉さんと共にアイの家にお呼ばれしたのでお邪魔になり先も言ったがお雑煮をご馳走になった。
「……8時か」
俺は時計を見て小さく呟く。
8時というのは学校がある日からすれば遅刻完璧な時間ではあるものの、今日みたいな休みの日にこの時間に俺起きていること自体かなり早い。詳しく説明するならばアイは確かに遊びに来ている。ただし今日の早朝から訪れたわけではなく昨日泊まる形でだ。
寝坊助な俺と違いアイは朝に強い、それもあってアイに合わせて目を覚ました結果今の状態になっているわけである。
本音を言うならば眠たい、少し横になればすぐ眠れるくらいにはまだ眠気がある。だけど俺の隣にいる大事な恋人のことを考えるなら……そんな失礼なことをしたくはなかった。まあおそらく……いや確実だろうけど俺がここで寝たとしてもアイは怒らないだろう。寧ろ喜んで膝枕としてくれそうだが今は何より、アイと一緒にこの瞬間をしっかり楽しみたいと思う俺の気持ちが強いのかもしれない。
「……………」
「……? どうしたの?」
ジッと見つめればどうしたのと首を傾げるアイ。
そんなアイが可愛いと感じ、いつもしているようにその頭を撫でる。すると目を細め、更に体を密着させて頭を手に押し付けてくる。そんなアイの姿がまるで猫のように感じてしまい、ついつい言葉に出してしまった。
「なんか猫みたいだな」
「えへへ、そう? う~んと、それじゃあ――」
そう言いながらアイが炬燵から出る。
何をする気だろうと俺が見ている中、アイは手と膝を付き四つん這いのような格好になる。それはまるで俺が先ほど口に出した猫のようなポーズだ。
「……えっと? アイ?」
「にゃ~ん。なんてね♪」
片腕を頭の前に持ってきてポーズ一つ。
どうやらアイは猫の真似をしているつもりのようだ。アイはゆっくりと俺の傍ににじり寄り、俺の頬に手を伸ばして一言こんなことを口にする。
「今から私はユー君だけの飼い猫にゃん♪ たっっっくさん可愛がって欲しいにゃあ」
「え、ちょ!?」
そう言ってアイは更に俺との距離を詰めてキスができる距離にまで近づいてきた。
そのままアイは俺の頬に顔を近づけペロッと舐めてきた。その瞬間何とも言えない感覚、言葉にするならくすぐったさのようなものが突き抜ける感覚だ。冬とはいえ炬燵に入っているためそこそこ温まっているはずだが、それでも今の感覚は少なくとも俺の背筋を震わせるには十分だった。
今の震えもアイに伝わったのか舌なめずり一つ、そして妖艶な流し目と言うのか、そんな表情を俺に向ける。
「ふふふ、ユー君可愛い。もっと舐めちゃうにゃん♪」
再び顔を近づけるアイに俺は思う。
これは断じて猫ではないと。これはあれだ……標的をロックオンした豹にしか見えないと。ジリジリと近づいてくるアイに対しどう反応するか考えはするものの、まだまだ俺も若いのかアイにいいようにされるのは何となく我慢ができなかったのだ。近づいてきたアイに同じように顔を向け、その勢いのままアイの唇に自身の唇を押し当てた。
「っ!?」
いきなりの俺の行動にアイは目を大きく開いて驚くがもう遅い、とあるアニメの台詞を使うならここからは俺のターンというやつである。驚くアイに内心で苦笑し、そのまま唇を割る様に舌を押し入れる。アイからくぐもったような声が漏れだすがそれでも続けていると、今度はアイからも舌が伸びてきた。
吸い付くように求めるアイから一旦顔を離すと、アイの目は既にトロンとだらしなくなり息も荒かった。
「躾けのなってない猫には仕置きが必要か?」
……俺は一体何を口走ってんだと殴りたい衝動に駆られる。
それもこれもアイがいきなり猫になるとか言い出したのが悪い、まあそれに悪乗りして今のこんな状況にした俺の方が悪いのだが。
俺の言葉を聞いたアイは小さく頷き口を開く。
「私は悪い猫、だからユー君の思うままに躾けして? いっぱい、いっぱい躾けして?」
そう言うアイに一気に襲い掛かりたい衝動が俺を襲う。
けどアイはもしかしたら忘れているのかもしれない。今いる場所は俺の部屋ではなくリビング、そして昨日会社の飲み会があった姉さんがまだ寝ていて家にいると言うことを。
既にスイッチが入ったアイが寝そべり俺を待っているが、アイに比べて冷静な俺は気付いている。リビングと廊下を隔てる扉の向こうから足音が段々と近づいてきていることを。
「……アイ?」
「うぅユー君~……」
……お願いだからそんな切なそうな声を出さないでくれ、いや俺が悪いんだけどさ。
乱れて少し服が乱れ、気のせいか胸の先端に浮かび上がるものが見える気もするがそれは今置いておこう。アイを抱き起して座りなおすと、アイはゆっくりと顔を近づけてくる。
俺とアイの距離がもう少しで0になるそんな時に、扉が開いて足音の正体が入室してくるのだった。
「ふわぁ~! いやぁよく寝たよ。あ、ユー君にアイちゃんおはよう」
「うひゃっ!?」
「……? アイちゃん?」
「あ、あはは……えっと、おはようございます……」
姉さんの登場に流石のアイも気持ちを切り替えたようだ。少しだけ涙目で俺を睨んでいるような気もするが本当にすまない、ちゃんと後で相手するからと耳打ちすると顔を赤くしながらもしっかりとアイは頷いた。
「……うぅ、下着がひんやりして気持ち悪い」
「下着?」
「いえいえ!? なんでもないんです! それよりもお姉さん、お雑煮食べます? 温めてますよ?」
「本当!? それじゃあいただこうかな」
アイが立ち上がり台所へ向かう。
そんな中姉さんが寒いと口にしながら炬燵へ足を入れた。俺はそんな姉さんの様子、正確にはその姿を見て小さく溜息を吐いた。
たぶん寝ている時に無意識に外したのかパジャマの胸ボタンが外れてそのたわわな胸の谷間が丸見えなのだ。今ここにいる俺は弟だし、アイに関しても妹のように接しているので別に見られることは毛ほども気にしていないのだろう。
そんな風に姉さんをジッと見ていると、俺の視線に気付いたのか姉さんはニコッと笑みを浮かべる。家族贔屓に聞こえるかもしれないが姉さんは美人だ。それこそアイとはまた違ったベクトルで愛らしさというか何というか、とにかくそんなものを感じさせる。これでどうして今まで彼氏がいないのか疑問に思うこともあったが、まあこの姉が天然でありガードが思いの外固いというのが理由だろうか。
「どうしたの? そんなにお姉ちゃんをジッと見て」
「……いや、なんで姉さんには彼氏ができないのかなって思ってた」
思わずそのまま口にしてしまったが姉さんは小さく笑うだけ。
それからアイがお雑煮を持って戻ってきて再び俺の隣に腰を下ろす。餅をゆっくり味わいながら食べている時、姉さんがゆっくりと口を開いた。
「ユー君とアイちゃんを見てると……恋愛っていいなって思っちゃうな」
その言葉に俺とアイはいきなりのことに目を合わせた。
俺とアイの反応が面白かったのか姉さんはクスクスと笑い続ける。
「仕事が忙しくてそんなこと考える暇ないって思ってた。でもそんな仕事の中で、いつも支えてくれて励ましてくれる人がいる」
「……それって」
いつにも増して優しい表情で語る姉さん、少し頬を染めているその姿は間違いなく誰かを想う故の表情だと俺は気付いた。そしてそれは隣にいるアイも同じようで、俺はそんな姉さんが想う相手は分かっているけれど敢えて聞いてみた。ほぼ確信を持っている俺の問いに姉さんは照れくさそうに笑いながら頷くのだった。
「うん。もしこの気持ちが恋だとするなら……私はしっかり恋しちゃってるかな――先輩に」
やっぱり、姉さんの想い人は先輩さんだ。
まあ分かってはいたけれど、こうして本人の口から聞いたことで安心というか何というかだ。それからは言葉少な目に姉さんがお雑煮を食べ終え、先輩さんとお出かけするからと言って準備に取り掛かった。その姉さんの様子はとても楽しそうで、これは案外すぐに姉さんと先輩さんの交際宣言……気が早いかもしれないが結婚報告も聞けるのではないかと思う俺である。
「ふふ、お姉さんの恋……上手く行くといいね」
「上手く行くさきっと。姉さんと先輩さんなら間違いない」
姉さんは先輩さんを想っている……そして俺が見た感じだとたぶん先輩さんもきっと――。
化粧を済ませ身支度を整えた姉さんが笑顔で出ていくのを見送り、俺はアイと共に再び炬燵の住人と化すのだった。
「……ユー君忘れてる?」
「いや、部屋行くか」
「うん♪」
この後思いっきり可愛がりました。
話の流れ的に、次は後輩ちゃんと先輩のお話ですかね。
書ければですけど。