月曜日のたわわ〜幼馴染はとてもたわわです〜   作:とちおとめ

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ストーリーはなく短編みたいな感覚ですと手が進みますね。

今回の話ですがアイの妹ちゃんが出ます。
でも話し方とか一切分からないので完全に妄想の産物。


3たわわ!

「……はぅ」

「……やれやれだ」

 

 学校帰りのショッピング街、俺の横で顔を真っ赤に染めて歩くアイを見て俺は先ほどの光景を思い出していた。

 登校時の約束通り、俺とアイは二人で買い物へと出かけていた。アイのお母さんが頼んでいた夕飯の買い出しを済ませた後、アイが手を引いて向かった先は大手デパートの中に位置する下着売り場だった。

 一応下着を買いに行くというアイの意図は理解していたが、男である以上女性の下着売り場に近づくのは正直言って苦行だった。商品を見ていた幅広い年齢層の女性客には最初訝し気に見られたものの、手を繋いでいるアイに視線を向けたらあらあらまあまあと口に手を当てて微笑ましそうに見られたのだ。まあ俺的にはこいつ変態かみたいな目で見られないことは良かったが、やはりそれでも居心地が悪いことに変わりはなかった。

 さて、ではどうして下着売り場に行った帰りの今、アイがこんな風になっているかというとその原因は俺と店員のやり取りにあった。

 アイが下着を選んでいる間、手持無沙汰になった俺は少しばかりその場所を離れスマホを弄っていた。

 傍にいてねと言われはしたが流石にあの居心地の悪さには耐えられないというやつである。そんな風に離れた場所でスマホを弄っていた時、俺は下着売り場の女性店員に声を掛けられたのだ。

 

『彼女さんですか? とても可愛らしい方ですね』

 

 ニッコリと営業スマイルを浮かべる店員さんにそう声を掛けられ、俺はまだ付き合ってはいませんと苦笑しながら答え幼馴染なのだと補足しておいた。店員さんはまだの部分が引っ掛かったのか興味深げにしていたが、特に訂正する必要もなかったのでそのままだ。

 それからしばらく会話をしていたが話題はいつの間にかアイにどんな下着が合うのかというものになっていた。

 

『あの子は可愛らしくもありスタイルもいい……ふむ、この下着とか似合いそうですが』

『エロいですね……でも俺的にアイは清楚な感じの方が似合うと思うんですよ。これとか良さそうかな』

『いいですね……ふふ、彼女のことよく見ておられるんですね』

『まあずっと一緒でしたからね』

 

 店員さんと笑顔を交えての会話は思いの外捗って、俺は場所を忘れてアイのことを考えながら口を動かしていた。思えばこの時に気づくべきだったのだ。店員さんが一瞬チラリと俺の背後に視線を向けた時、何か企んだかのようにニヤリと笑ったことに。まあ今から考えればそれが後の祭りというやつで、店員さんからの問いかけ。

 

『あの子のこと、どのように思ってるんですか?』

 

 普段であれば少し考えて言葉を選んでいたであろう俺だったが、店員さんとの会話で気が緩んでいたのか俺はそのまま思うことを口にしていたのだ。

 

『大切な幼馴染ですよ。少しおっちょこちょいで目を離せないんですけど、それでも時折しっかりしてて頼りになって……傍にいて心地いい、大好きな子です』

 

 言った傍から恥ずかしくなって頬を掻いたが、俺は気付いてしまったのだ。

 店員の企んだような笑みの意味に。店員さんがゆっくり視線を後ろに向けたのを見て、俺もそれに釣られて後ろを振り向くと……うん、いたんだ。手に持った下着で顔を隠し耳まで真っ赤にして俯くアイが。俺はその時やっちまったと悶えると同時に、下着で顔を隠すそのアイの姿がシュールに思えてしまって恥ずかしがればいいのか笑えばいいのかよく分からない気持ちになってしまった。

 

『えっと……終わった?』

『う、ううん……あと一着くらい買おうかなって思ってるけど……』

『そうか……』

『うん……』

 

 下着売り場で互いに挙動不審になる俺とアイの姿は他の客にどのように映ったのだろうか、正直あまり考えたくないものである。結局その後アイは最後の一着を決めるために下着を見始めるのだが。

 

『彼、これを見てあなたに合うって言ってましたよ?』

『買います!』

 

 こんな会話があったのも、俺の耳には届いていたが聞こえないふりをしておいた。

 とまあそんな経緯があって今のトマトのようなアイが傍にいるというわけだ。ただ流石は長年培ってきた幼馴染としての時間があるのか会話がないとかそんなことはない。照れながらもアイは話をくれるし俺が振る話にもこたえてくれる……それでもデパートでのことを考えると頬に熱が集まるのは当然だが。

 一緒に並んで向かう先はアイの家。

 今日姉さんは飲み会で帰りが遅くなるため夕飯をどうしようかと思っていたところ、それなら食べに来てとアイに誘われたため向かっているのだ。

 お互い片手に買い物袋を持つ暗くなった道、空いていた右手が温かい何かに包まれた。

 考えるまでもない、傍にいるのはアイだけだ。ならこの包まれた物の正体は手、それができるのは隣を歩くアイだけ。

 

「……えへへ」

 

 照れくさそうにはにかむアイの横顔に心臓がドキリと脈打つ。

 心臓の鼓動が煩い、頬に集まる熱が鬱陶しい、でもこの感覚は嫌ではなかった。だってこの気持ちは俺がアイを想っている証でもあるから。

 

「……待っててほしい、いつか必ずこの気持ちを伝えるから」

 

 ボソッと聞こえないように小さく、本当に小さく呟く。

 

「うん……待ってるよ。いつまでも」

 

 小さく呟かれたアイの言葉、それは夜の風に溶けて俺に届くことはなかった。

 お互い会話少なめに歩いていると少しして目的地であるアイの家へと着いた。最初にアイが玄関を潜り俺もそれに続く。

 今でもそれなりに訪れるので懐かしいとかそんな感覚はない。

 

「おじゃましま~す」

「いらっしゃいユー君」

 

 すぐ傍で答えてくれたアイと共に慣れたようにリビングへと進んだ。

 リビングに入ると見知った顔が一つ、アイを若干幼くした容姿ではあるが立派な胸を持つその女の子――アイの実の妹である。

 

「あ、ユーさんいらしたんですね」

「おう。アイに飯に誘われてな」

 

 俺の返事を聞いて妹ちゃんはなるほどと頷く。

 

「お母さんは?」

「少しお隣に行ってる~。すぐ帰ると思うよ」

「分かった。それじゃあ夕飯の用意しておこうかな。ユー君は座ってていいよ」

「何かやるなら手伝うぞ?」

「大丈夫だよ。今日は御もてなしするんだからユー君は待っててね?」

「……ならいいけど」

 

 何か手伝えるならやろうと思ったが、アイにそう言われてしまっては仕方ない。

 キッチンからごそごそと聞こえる音をBGMに俺は妹ちゃんの隣に腰掛けた。座った俺に妹ちゃんがくっ付きながら口を開いた。

 

「ユーさん最近お姉ちゃんとはどうなんですか?」

「どうって言われても……まあ変わらずってやつかな」

 

 まあ先ほど妙な決心を決めたところですけどね。

 そんな俺の返答を聞いた妹ちゃんは何を思ったのか俺に抱き着いてきた。服越しとは言え伝わる大きな胸の感触が幸福である。毎度毎度思うことだがこの家の女性陣は皆胸が大きくなる魔法でも掛けられているのだろうか、まあ単純にアイすら凌駕するお胸様を持つ母からの遺伝だとは思うが。

 

「妹ちゃんや」

「なんです~?」

「この行動の意味はなんでしょうか」

「ふふふ、さあなんでしょうね?」

 

 曖昧に答えを濁す妹ちゃんを見て溜息が零れる。

 大人しそうな外見だがアイよりも行動力がある妹ちゃん、残念ながら俺にはその真意は理解できない……いや。

 

「何してるのかな?」

「お姉ちゃん後ろに般若が見えてるよ……ふふ」

 

 人一倍アイが大好きな妹ちゃんのことだ。

 怖がるふりをしながらもその口元がニヤリと弧を描いている……単純にからかって楽しんでいるだけだこの子。

 

「お姉ちゃん嫉妬かな?」

「なっ!? そんなことないもん!」

 

 口ではやはり妹ちゃんの方が上か。

 でも本気で怒ると妹ちゃんを泣かすくらいアイは怖いんだがな。普段妹ちゃん然りバレー部ちゃん然り、常に弄られる側に回っているアイからは到底想像はできないことだが。

 まあでも、やっぱりこの賑やかさは嫌いじゃない。

 俺は一人、うんうんと頷くのだった。

 

 

 

 

 

「……ユー君何頷いてるんだろう」

「さあね。でもお姉ちゃん安心していいよ」

「?」

「ユーさんはやっぱりお姉ちゃんのこと一番想ってるんだよ。お姉ちゃんを見る目優しいから」

「そ、そうかな……えへへ」

「うわぁこれだけでニヤけてるし……まあでも」

 

 

「いつでも妹というのは、お姉ちゃんの幸せを願っているものなのです。だからお姉ちゃん、頑張ってね」


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