ユー君
アイちゃん
この小説を投稿して3日、250を超えるお気に入りありがとうございます。
多くの方に読んでいただけてとても嬉しく思っています。
これからも頑張りますので、どうかよろしくお願いします。
「ふんふんふ~ん♪」
「ご機嫌だな」
俺は隣で鼻歌を歌っていたアイにそう問いかけた。
今いる場所は俺の家の自室、ベッドを背もたれに二人して座りアイが俺に寄りかかりながら昔のアルバムを見ているという構図だ。昔と言ってもそんなに昔のアルバムではない、高校に入学してイベントなどの際に姉さんが撮った写真が主である。
「うん。こうして改めてみてみると新鮮だなって」
そう言ったアイはまたアルバムに視線を戻す。
俺はスマホを片手に、アイがパラパラとアルバムをめくる音だけが聞こえる。会話も少なく静かではあるが、俺はこんな空間が好きだ。すぐ傍にアイがいることでその体温が感じられ安心できる瞬間、チラッと見つめて気付かれ視線が絡み合うと照れくさそうに微笑むアイを見るとほんわかとした温かい何かが胸の内に溢れ出す。
そんな風にゆったりとした時間が流れていた時、あっ! とアイが一枚の写真を見て声を上げた。
その写真は文化際の時に取った写真。俺たちのクラスで提案された男装喫茶というものだ。どのような物かというと言葉の通り、クラスの女性陣が執事服を着て客を持て成す喫茶店である。
「懐かしいな、あの時は思った以上に盛り上がったよな」
「そうだよねぇ。まあ私としては凄く恥ずかしかったけど」
確かにあの時のアイは少し恥ずかしがっていたか、でも途中からはバレー部ちゃんと一緒にノリノリで接客していたなぁと今でも思い出せる。まあ男装喫茶とは名ばかりで面白かったもの、それはある一つの場所において絶対に誤魔化せない男装だったというものだ。いくら執事服を着こんでもアイの持つ豊満なバストは残念ながら隠すことはできず、胸元がとにかく窮屈だったとアイ自身も俺に言っていた。もちろんこれはアイだけでなく他の女子も全員同じ気持ちだったらしい。
「本当にキツかったよあれ……」
「胸が?」
「うん……って、もう!」
思わず言っちゃったと、そう言わんばかりにポカポカと肩を叩いてくる。
そんなアイに悪い悪いと苦笑しながら落ち着かせ、あの時の思ったことをそのまま口にしてみた。
「アイの男装は新鮮だったけどさ。やっぱアイの可愛さは隠せなかったよな」
どんなに外面を男に寄せてもアイの可愛らしさというのは隠せない。
他の女子に対して俺以外の男子も同じように考えたことのはずだ。だからこそ女性よりも男性の方が客足が伸び売上に関して言えば俺たちのクラスはトップに近い数字だったのだから。
そう伝えたアイは目に見えて照れていた。
そんなアイに悪戯心が芽生えて少しだけ困らせたくなってしまった。
「俺のスマホにも写真入ってるぞ? その時の別に撮った写真」
「え!?」
驚くアイを他所に俺は画像が収められているファイルを開く。
そこからアイに見せようとした写真を出そうとしたのだが……ここで一つ予想外な写真が現れた。
「……あ」
それは妹ちゃんから送られてきたアイの風呂上りの写真だった。当時は送られてきた時に何してんだと呆れたものでアイに悪いと消したものだと思っていたのだが、どうやらそのまま綺麗に残っていたみたいだ。これは流石に拙いだろうと、アイに気づかれる前に咄嗟に消そうとしたのだが。
「どうしたの? ……あ、はは~ん」
さっきまで恥ずかしそうに真っ赤な表情だったのに、とても活き活きとしたアイさんがいらっしゃった。
スマホの画像を見て動きを止めた俺、そこから察せられることは何か、それはアイの口から見事に俺に投げかけるのだった。
「エッチな画像でも見つけたの? へ~、ほ~」
「……えっと、アイさん?」
アイから不穏な空気を感じて後ろに後退すると、アイは豹のように獲物を見つけたかのような目をして四つん這いににじり寄ってくる。その間外されたカッターシャツのボタンから谷間が見えたのだが、今の俺にそれを堪能する余裕は決してなかった。
「……………」
「……………」
お互いにいつ動き出すのかを見計らう時間が過ぎる。
まさに勝負は一瞬というやつだ。俺はアイが息を吐いたその瞬間一気にスマホの画面に視線を移し写真を削除するように操作する。しかしそれを良しとさせないようにアイが飛びかかってきた。
「なんもないから! ちょっと消すだけだから!」
「消すって言っちゃってるじゃん!」
しまった、勢いで墓穴を掘ってしまった。
抱き着かれるような体勢になったことで拙いと感じ、咄嗟に立ち上がろうとした俺。アイも逃がすまいと立ち上がろうとした……それが拙かった。
「きゃっ!?」
「え、うお!?」
尻に敷いていた座布団でアイが足を滑らせたのだ。
俺の腕を掴んだまま倒れるものだから流れに逆らえず一緒に倒れる。ドドン!と姉さんがいたら何かあったのかと慌てるほどには大きな音が響いたと思う。
膝が床に直に落ちて痛みが走るがそれよりも、俺は自分の下で倒れたアイが心配だった。
「大丈夫か? アイ……」
名前を呼び、アイの状態を確認した瞬間俺の時間が止まった気がした。
目と鼻の先、少し前に顔を突き出せばアイの唇に触れてしまう……それほどの至近距離にアイの顔があった。
「いったたた……うん。だいじょ……う……ぶ」
アイも目を開けて状況が確認できたのか、俺の問いに答える言葉は最後まで続かなかった。
俺がアイに被さる様に、見方によっては俺がアイを押し倒しているようにも見えるだろう。痛みのない方の足はアイの股の間に位置し、左手はしっかりとアイの胸に押し当てられギュっと押し潰していた。
「……………」
お互いにどうしていいのか分からないのか微動だにしない。
聞こえるのは俺とアイ互いの吐息と、左手から伝わるアイの心臓の鼓動だけ。数秒、数十秒、どれだけそうしていただろうか。退かないといけない、なのに体が動かない矛盾、この温もりを、この柔らかさをもっと味わいたいという欲求。
左手に少し力を込め動かせば、ビクッと震えるアイの体。
俺はその震えを感じ取り少しばかり冷静になった。事故とはいえアイはもしかしたら怖いのかもしれない。だとしたら早く離れないと。そう考え体に力を入れようとしたその時、アイはその時俺が想像していなかった言葉を放った。
「……いいよ」
「……え?」
思わず問い返した。
相変わらず頬が赤く、若干涙目になっているアイだったが……その浮かべている表情は少しばかり色気を見せる笑顔。アイは再び口を開く。
「いいよ……ユー君なら。いつだって」
「……アイ」
目を瞑ったアイは待っている。
何をなんて考える必要もないことだった。ゆっくりと、ゆっくりと近づいていく距離。後少しで互いの距離が0になる正にその時だった。
ピロロンッ!
「「っ!?」」
俺のスマホがメッセージの着信を知らせた。
その音を聞いて俺は一気に頭が冷えたのを感じ上体を起こす。アイも同じように起き上がって服装を整えた。
スマホに届いたメッセージはアイの妹ちゃんからで、帰ってこないアイが俺の家に来ているのかという内容だった。
「妹ちゃんからだ。もしかして今日ここに来るの伝えてない?」
「え……あっ!」
どうやら伝えてなかったようだ。
アイは自身のスマホからメッセージを送りこれで大丈夫と言って改めて座りなおす。するとやはり思い出すのは先ほどの光景なわけで、俺とアイが喋らなくなるのは当然のことだった。
でもこの空気を最初に打破したのはアイで、完全に忘れかけていたあの話題を呼び起こすのだった。
「それで……さっきの写真のことなんだけど」
「……あ、やっぱ気になる?」
「……うん」
まあしょうがないかと、さっきよりも冷静になった俺は観念してアイに写真を見せた。
「こ、これって!」
「……前に妹ちゃんから送られてきたやつでな。残ってたみたいだ」
アイの風呂上り、火照った体をバスタオル一枚巻いた状態の姿だ。大きな胸が今にも零れそうに包まれているそんな画像。
さて、これに対してアイはどんなリアクションを取るのか。
おそらく恥ずかしがって消してと言ってくるだろうなと思っていたが、意外にもアイは予想外の反応を見せた。
「なんだ……良かった。別の女の人の写真じゃないんだね……」
「……お、おう」
俺の方がどんなリアクションをすればいいか迷う切り返し方だった。
アイは悪戯が成功したかのように微笑み、それでも少しだけ照れくさそうに。
「と、特別にその写真を所持することを許可します! ユー君だけだからねこんなこと言うのは!」
そんなことを言いながらアイは俺に指を突きつけた。
外は暗くなり少しだけ冷え込む。でも俺の体を取り巻く体温は高く熱いまま、それはアイが帰宅するその時まで続くのだった。
今悩んでいることが一つ。
それはキャラクターの呼び方です。
妹ちゃんは名前がないのでユー君は妹ちゃん統一なんですが、アイちゃんにどう呼ばせようか分かっていないため、基本的にアイちゃんが妹ちゃんの名前を呼ぶような状況は作らないようにしています。
そしてそれはバレー部ちゃんにも言えることで、アイちゃんにとって彼女は親友ですがこれも名前を呼ぶことがないように場面を作っています。
名前が呼べないこの不憫さ、ほんの少し大変です(笑)