紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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今回、これを書き終わってびっくりしたことがあります。
おぜう、紅魔館から全く動いてねぇ!!
この作品書く前から危惧していたことではありますが、あまりにも話に動きがないですね。基本的にこの作品のレミリアは策を巡らせるだけなので仕方がないと言えば仕方がないのですが……次回からもう少し他のキャラの視点も織り交ぜていけたらなと思っています。
……あ、でも前作もアズカバンの囚人編は咲夜ちゃんがおいたんの世話をするだけで終わったか。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


脱獄やら、許可証やら、接触やら

 1993年八月。新しく仲間になったリドルも、随分と紅魔館での生活に慣れてきたようだ。淡々とパチェの助手をこなし、空いた時間に研究をする。パチェにリドルの評価を聞いてみたが、やはり優秀なようだ。この様子なら警戒こそする必要はあるが、計画の一部に組み込んでも大丈夫だろう。取りあえず、去年のクリスマスにやり残したことを咲夜に実行してもらおう。そう、アズカバンに侵入し、シリウス・ブラックを脱獄させる。その後はそのまま野放しにし、様子を窺うのだ。ヴォルデモートに接触したらそれはそれでいいし、そのまま行方をくらませても別に問題はない。

 私は書斎でアズカバンに関する資料に目を通す。アズカバンというのは北海の中心に位置する監獄で、主に魔法界で法を犯した魔法使いや魔法生物が収監される。アズカバンの看守は吸魂鬼が務めているのだが、これがまた厄介な生物なのだ。吸魂鬼は人間の幸福を吸いとり、気力を奪う。監獄にいる囚人は常に吸魂鬼に生気を吸われている。そのため脱獄する気も起きないのだそうだ。海という間接的な壁、魔法による術的な壁、吸魂鬼という精神的な壁。アズカバンには三重の壁がある。咲夜がアズカバンに侵入し、シリウス・ブラックを脱獄させるには、この壁を突破しないといけない。

 

「失礼します、お嬢様。紅茶が入りました。」

 

「入っていいわよ。」

 

 私は懐中時計を取り出し時間を確認する。確かにそろそろお茶の時間だった。私は机の上の資料を仕舞い、机の上を空ける。咲夜はそこに紅茶を並べた。

 

「一か月で随分馴染んだわね。」

 

「そうですね……やっぱり一度挫折したから……ですかね、やっぱり。」

 

「そうね、やっぱり一度挫折したからよね。やっぱり、やっぱり。」

 

 リドルの話題を振り、咲夜がそれに答える。咲夜の話では、リドルはハリー・ポッターに敗北したらしい。その敗北がなければここまですんなり紅魔館には馴染まなかっただろう。

 

「もうすっかりパチュリー様の助手が板についてきたみたいです。パチュリー様のことを先生と呼んで慕っていますよ。」

 

「まあ、パチェは先生っぽいから。あ、そうだ。シリウス・ブラック助けに行きなさい。」

 

「そうシリウス・ブラックを……って、えっと、シリウス・ブラックって、あのシリウス・ブラックですか?」

 

 いきなりの私の命令に、咲夜は目を白黒させる。

 

「はい……畏まりました。」

 

 きょとんとした表情のまま、咲夜は返事をした。命令を承諾した以上、咲夜はやり切るだろうが、あまりにもふわっとした返事をしたので少々心配になる。

 

「多分単独では厳しいでしょうからパチェを頼りなさいな。便利な魔法具を沢山持っているはずよ。で、話は戻るけど、リドルとの関係はどうなの? 咲夜が友達って言い切るぐらいだから相当仲がいいんでしょ?」

 

「通じ合うところがあるというか……似ているところがありまして。気が合うんですよね。」

 

「でしょうね。私から見ても似た者同士だもの。ただリドルの方が勤勉のようだけど。咲夜は少し自分の能力に頼り過ぎよ。リドルを見習いなさい。」

 

「……。」

 

「返事。」

 

「はい、お嬢様。」

 

 まったく、真面目なようで真面目でない。どうしてここまで勉強が嫌いなのだろうか。もっとも、勉強するときはするので頭が悪いわけではないのだが、探求心に欠けるというか、魔法使いには向いていない性格ともいえるだろう。

 私は飲み干したティーカップをソーサーに被せると、指で底を三回叩き、指で弾いて表向きに戻す。そしてハンドルを持ち中を覗き込んだ。

 

「まあ、リドルとは今まで通り仲良くやりなさいな。友達にしか相談できない事とかもあるでしょうし。もう下がっていいわよ。」

 

 咲夜はテキパキとティーセットを片付けると、私に一礼し書斎を去っていく。咲夜がちゃんと命令通りブラックを助け出せるかが少し心配だが、パチェが付いているからまあ大丈夫だろう。クリスマスから数か月、守護霊の呪文も使えるようになっているはずだ。

 

「そもそもフランの狂気が大丈夫なんだから、吸魂鬼の邪気なんてへっちゃらよね。」

 

 なんの自慢にもならないが、フランの狂気は相当なものである。咲夜は赤子の頃からそんな狂気に包まれて育ってきたのだ。今更吸魂鬼など……大丈夫、だよね?

 

「心配するだけ損しそう。まあでも、これで咲夜がどこまで使えるかが確かになるわ。もしこの程度でしくじるようなら咲夜は使えない駒ということになる。使い捨てるならまだしも、咲夜は大切な従者だからそれは出来ないし。」

 

 今回のこれで咲夜がしくじるようなことがあれば、咲夜には従者としての仕事に専念してもらうことにしよう。その場合ホグワーツを退学することになるだろうが、計画の為には仕方がない。咲夜が紅魔館に居れば美鈴を思う存分動かせるというものだ。生意気な従者だが、あれはあれで非常に優秀なやつである。自由に動かせるとなれば相当な働きを期待できるだろう。まあ、失敗したらの話だが。ヴォルデモートが生きていると確信した時から既に一年以上。未だ、ヴォルデモートが復活する気配は無かった。

 

 

 

 

 

 

 咲夜に命令を出してから数日。書類仕事をしていると書斎の扉がノックされた。ノックの強さと間隔から察するに、咲夜だろう。

 

「入っていいわよ。」

 

 私が許可を出すと咲夜は静かに扉を開け、部屋の中に入ってくる。そして扉の前で姿勢を正した。

 

「シリウス・ブラックは無事脱獄しました。今頃はロンドンで1人困惑しているでしょう。」

 

 私はその報告を聞いて内心ほくそ笑んだ。やはり咲夜は使える子だ。パチェの助力があったと言え、単身でアズカバンへの侵入を成功させ、もっとも監視が厳重な牢からシリウス・ブラックを脱獄させた。私は机の上に置いてあるチェス盤にオセロの駒を載せる。少々滑稽な絵面だが、状況を比喩するにはこれがピッタリだ。

 

「彼は一体どちら側なのか、これではっきりすると思うわ。白なのか、黒なのか。」

 

「というのは……。」

 

「興味があるのよ。チェス盤の上にオセロの石が立てた状態で置かれていたら困るじゃない? 彼の犯した罪は一見黒だわ。でもだからといって黒に交ぜてしまってもよいのかしら。黒に交ざらないのだとしたら白には交ざるのか。それとも、初めから白なのか。白であって黒と交ざり合うのかしら。」

 

 私はオセロの駒を持つと親指で軽く上に弾く。オセロの駒は空中で数回回転し、チェス盤にストンと落ちた。表は白だ。私の占いではシリウス・ブラックは白と出た。私は指でオセロの駒をずらす。オセロの下のチェス盤の色も白。

 

「楽しみじゃない? というわけで、今年も報告を期待しているわね。下がっていいわよ。」

 

 咲夜は一瞬不可解な顔をすると、深く礼をして部屋を出ていく。この夏は新聞とにらめっこすることになるだろう。私はチェス盤を片付け、代わりに書類の束を取り出す。そしてボチボチ仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

「調子はどう? リドル。」

 

 紅魔館の地下に広がる無駄に大きな図書館。四方八方に規則正しく並んだ本棚にはこれでもかというほど本が詰められている。私は空いたスペースに置かれている机で本を読んでいるリドルに話しかけた。

 

「その質問が体調のことを聞いているのでしたら、何も問題ありませんよ。」

 

「分かってるくせに。」

 

 私が聞いているのはそんな分かり切ったことではない。ここに慣れてきたのかということを聞いているのだ。リドルは読んでいる本を閉じると机の上に置く。そして真っすぐ私の方を見た。

 

「そちらこそ、わかっているんではないですか? それぐらいのことは。」

 

「まあね。馴染んできているとは感じるわ。この前のアズカバンの件、貴方も手伝ったんでしょ?」

 

 咲夜がパチェに助力を求めたとしたら、その助手であるリドルも少なからず手伝っているはずだ。リドルは私の言葉に頷いた。

 

「ええ、まったく先生の技術には驚かされます。姿現しは基本的な魔法ではありますが、失敗するリスクを孕む難しい魔法です。それを魔法具だけで自由に使えるようにしてしまうとは……。」

 

「あら、私としてはそんなに凄いこととは思えないけどね。まあ姿現しができない私が言えたことではないけど。でも、マグルの世界じゃ当たり前じゃない?」

 

 マグルの世界では多くの者がコンピュータを持っている。私は小難しいことは苦手なので手を出していないが、あれは難しい計算を馬鹿でも行えるようにしたものだ。使用する者はボタンを押すだけでも、コンピュータの中では複雑な計算がなされている。パチェが咲夜に渡した魔法具も、言うなればそういう物だろう。

 

「もっとも、パチェにそんなこと言ったら怒られそうだけどね。パチェにとってあの魔法具の数々は只の副産物でしかないだろうし。パチェからしたらあんなものワインを絞った後に残ったブドウの搾りカスのようなものよ。」

 

「先生の目的は何なんでしょうか。何か目的があって研究を続けているんじゃないんです?」

 

「私も直接本人から聞いたわけではないから、これはあくまで私の予想でしかないけど……パチェは好奇心の塊よ。知りたいから研究する。知ったら次の研究をする。多分、この世の真理に辿り着くまで続けるでしょうね。辿り着いたあとは……。」

 

 パチェが研究をやめる時、それは魔女としての死を意味する。探求心を失った研究者は、死んでいるも同然だ。

 

「まあ、何にしても。パチェの下で働くならそう言った考えで働いたほうがいいわよ。貴方も魔法使いの端くれならね。」

 

「そんなこと、言われなくてもわかってますよ。パチュリー・ノーレッジという大魔法使いを前にして、小さいことを考える魔法使いなどいません。彼女は噂通りの魔法使いです。」

 

「貴方が向上心の塊のような魔法使いで助かったわ。」

 

 もっとも、判断を下すにはまだ早い。目の前にいるこいつは仮にもヴォルデモートなのだ。学生の頃の記憶だとはいえ、それでも油断ならない。学生の頃に分霊箱を作ってしまうほどの奴だ。吸血鬼というものは忠誠心というものを敏感に感じ取ることができる。真に確信が持てるまでは監視を怠らないようにしよう。

 

「そういえば、咲夜は今年から三年生ですね。三年生といったらホグズミード村に行くことができるようになりますが、誰が許可証にサインしたんです?」

 

 私が考え事をしていると、リドルが興味深いことを呟く。

 

「許可証? 何よそれ。」

 

「ホグズミード村に行くための許可証ですよ。保護者のサインがいるんです。咲夜からまだ話を聞いていませんか?」

 

 保護者のサイン。それは初耳だった。ならば咲夜の楽しい学校生活の為にも、サインをしてこなければならないだろう。今日のお茶の時間にでも咲夜に持ってこさせよう。

 

「なら、私がサインするしかないわね。何せ私は咲夜の保護者だから!」

 

「なら急いだほうがいいんじゃない?」

 

 私がそう宣言したのと同時に後ろからパチェの声が聞こえてくる。パチェは私の隣に座ると、机の上に紅魔館の廊下の様子を映しだした。

 

「さっきまで美鈴が今日の献立を決めるために図書室にいたのよ。さっきのリドルの話を聞いてあっという間にいなくなってしまったわ。」

 

「え?」

 

 私はガタリと音を立てて椅子から立ち上がる。確かに映像の中の美鈴はまっすぐ咲夜の自室目指して走っていた。

 

「そうはさせないわ!」

 

 大丈夫、美鈴と私では速度に大きな差がある。今から追えば十分間に合うはずだ。私は羽に力を込めると一気に加速し、大図書館を飛び出した。美鈴に先を越されるわけには行かない。咲夜の保護者は私。これはもはや自明の理だ。複雑に曲がりくねる廊下を縫うように飛び抜け、咲夜の部屋に飛び込んだ。

 部屋の中には唖然とした様子で紙を持っている咲夜がいた。駆け込んできた私に驚いているようである。いや、今は取りあえず咲夜の持っている許可証だ。私は固まっている咲夜から許可証を奪うように取ると、署名欄を確認した。

 

「あぁああ!!」

 

 署名欄には嫌に丁寧な文字で『紅美鈴』と書かれている。私は万年筆で無理やり美鈴の名前に重なるように署名すると美鈴の後を追った。

 

「待ちなさーい!」

 

「はっはっは! 咲夜ちゃんの保護者は私だ!」

 

 美鈴は笑いながら廊下を駆ける。私は懐からナイフを取り出すと、全力で投擲した。

 

「そんな直線的な攻撃あたりませんて。」

 

 美鈴は投げられたナイフを半身になって躱すと、へらへら笑いながら窓から飛び出す。私は窓枠を掴み、上半身がせり出すような形で美鈴に怒鳴った。

 

「明日の夕飯抜きッ!!」

 

「殺生なぁ~。」

 

 美鈴はそんな呟きと共に森の中に姿を消した。まったく、逃げ足だけは速い。私は小さくため息をつくと大図書館へと戻る。そして先ほど座っていた椅子に座りなおした。

 

「はぁ。見事に先を越されたわ。まさか大図書館の中にいたとは。」

 

「まあ、美鈴は気配を消すことに関してはプロフェッショナルだから。」

 

私はぐったりと机の上に伏せる。にしてもホグズミードか。思えばホグワーツというのは刑務所かの如く娯楽がない。売店や遊ぶ場所がないのはまだしも、それに加え外出許可さえ出ないのだ。全寮制の学校でもここまで厳しいのは珍しいと言えるだろう。

 

「そういえばパチェ、リドル。ホグワーツでの生活って飽きが来ないの? 基本的に娯楽と呼べるものがないじゃない。」

 

 私はぐでっと両手を前に投げ出す。私の問いにパチェとリドルは顔を見合わせると、同時に同じ答えを返した。

 

「「ずっと図書館に籠ってた。」」

 

「あー、はいはい。貴方たちに聞いた私が馬鹿だったわ。」

 

「娯楽がないわけではないですよ? ……ほら、クィディッチとか。」

 

「年に数回じゃない。」

 

「一応ホグズミード行きがあるわ。」

 

「それも三年生からでしょ? それにそれも年に数回だし。……はぁ、マグルの世界なら児童虐待だって言われてもおかしくないわね。」

 

 まあ魔法界なので、何かこう夢中になれるような暇つぶしがあるのかもしれないが。……薬とか。

 

「そんなことないですよ。」

 

「そんなことないわ。」

 

「その自信はどこから来るのよ。」

 

 なんにしてもまた今度咲夜にも聞いてみよう。勉強があまり好きじゃない咲夜なら違う答えが返ってくるかもしれない。

 

「ところでパチェ。シリウス・ブラックのその後はどう? 消息は掴めてる?」

 

 これ以上この二人にホグワーツのことを聞いても仕方がないので今度はブラックの話題を振る。これでもパチェは優秀な魔法使いだ。ブラックの所在ぐらいは掴んでいるだろう。

 

「プリベット通りにいるわ。ハリー・ポッターが住んでいる近くね。果たして命を狙っているのか、護りに行っているのか。そこまではわからないわ。」

 

 プリベット通り。ということはロンドンからはあまり離れていないということだろうか。

 

「レミィ、それとは別にシリウス・ブラックに関することで興味深いことが分かったわ。彼は動物もどきよ。」

 

 動物もどきという言葉にリドルがピクリと反応した。動物もどきとは、完全な動物に変身することができる魔法使いのことである。そのものが化けられる動物は決まっており、選ぶことも変えることもできない。また、動物もどきになった魔法使いは魔法省に届け出ないといけない決まりになっている。

 

「動物もどき……シリウス・ブラックが? 魔法省のデータベースには登録しているの?」

 

「していないでしょうね。無許可の動物もどきだと思うわ。ほら、これ。」

 

 パチェは机の上にプリベット通りの様子を映しだす。そこには確かに大きな黒い犬が伏せていた。

 

「これがシリウス・ブラックよ。これなら逃亡も簡単でしょうね。まあ私みたいに便利な地図を持っていたら別だけど。」

 

 確かにパチェの使う魔法は反則級だ。世界中の何処にいても探知することができる。例外があるとすれば、高度な魔法で、例えるならば死の秘宝の一つとして挙げられるような透明マントのようなもので隠れるか、完全に別世界に逃げ込むかだ。どうやら動物に化けた程度ではパチェの目は誤魔化せないらしい。

 

「ハリー・ポッターと接触を図ろうとしているのは確かのようですね。でないとこんな場所に用事などないでしょう。」

 

 リドルの言う通りだ。ブラックがどちら側だとしてもハリーに接触しようとしているのは確かだ。でも、それだとおかしなことになる。ここまで近くまで接近しており、尚且つ姿を隠してもいるのに、なぜブラックはハリーに接触しないのだろう。

 

「なぜダンブルドアがハリーをダーズリーに預けておくのか。私なりに少し調べたわ。やっぱり守りの呪文がダーズリーの家に掛かっているみたいね。この魔法はハリーが成人するまで切れることはない。つまり、ダーズリーの家に居たら誰も手出しができないということよ。」

 

「そういえばダーズリーのところのペチュニアはリリーの姉妹だったわね。リリーの護りの呪文がペチュニアに受け継がれたってこと?」

 

「そういうことよ。ああ、あとこれ。」

 

 パチェは机の上で手を振るう。すると新聞紙が一枚現れた。魔法界の物かと思ったが、よくよく見るとマグルの世界のものである。見出しは『大量殺人犯、シリウス・ブラック脱走』と書かれている。内容は市民への注意喚起だった。

 

「魔法界では既にニュースになっていたけど、ついにマグルの世界でも騒がれ始めたわ。多分魔法大臣がイギリスの首相に伝えたんだと思う。首相から何か聞いていない?」

 

 私は簡単に記憶を探る。そういえば、首相から手紙が届いていたような気がした。だとしたら私の机の引き出しの中だろう。

 

「……届いてるかも。」

 

 パチェがまた手を振るう。すると空中に魔法陣が展開され、私宛の手紙がそこからバサバサと落ちてきた。

 

「まったく、プライバシーも何もあったもんじゃないわね。」

 

「ポストの管理を私に任せたのは誰だったかしら。」

 

 お約束のやり取りをしつつ、私は手紙の山の中から首相の名前を探す。流石に首相レベルとなると便箋も良いものを使っている為、見つけるのに苦労はしなかった。

 

「えっと何々……うん、確かにシリウス・ブラックに関することが書かれているわ。ようは情報が欲しいみたいね。」

 

「ほう、マグルの世界の大臣と繋がりがあるのですか。凄いですね。」

 

「これでも昔は王室との付き合いもあったのよ? まあ、首相と知り合いなのは完全に偶然の産物だけど。」

 

 私はパチェに首相からの手紙を渡す。パチェは手紙にさっと目を通すと机の上に置いた。

 

「で、どこまで情報を与えるの? 多分もう大体のことは魔法大臣から聞いていると思うけど。」

 

「そうね。取りあえず魔法界で語られている程度に留めておくわ。多分魔法大臣もそんな話をしたんだろうし。多分首相も魔法大臣から聞いた話の確証が欲しいんでしょうね。関係がなさそうな二人から同じような話があれば少しは信用できる。」

 

 いつの間にか机の上にあった手紙の山が無くなっている。私は首相からの手紙をポケットにしまうと、椅子から立ち上がった。

 

「そろそろ書斎に戻るわ。パチェは引き続きブラックの監視をお願いね。」

 

「何か動きがあったら伝えるわ。」

 

 私はパチェの返事を聞き、大図書館を後にする。取りあえず、新学期が始まるまでは動きはないだろう。私はそう予想しつつ、書斎へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「……あれ? なんかこの体勢デジャヴを感じるわ。」

 

 私は図書館の机の上に伏せながらそう呟く。何故図書館で机に伏せているか。理由はシリウス・ブラックにある。

 少し前、咲夜が大図書館から紅魔館を出発した。そう、ホグワーツの授業が始まるのである。それに合わせ、ブラックもハリーを追うように動き出す。私は今日朝明かししながらそれを監視しにきたのだ。現に今ブラックはロンドンの、キングズ・クロスにいる。様子を見る限りでは、ホグワーツ特急に忍び込むつもりなのだろう。

 

「咲夜ちゃん送ってきましたー。あれ? おぜうさままだ起きてるんです?」

 

 暖炉が一瞬大きな炎を上げたと思うと、中から美鈴が出てくる。美鈴は咲夜の見送りに行っていたのだ。

 

「ぱっちゃん! 咲夜ちゃん行っちゃいましたー! この寂しさは何で埋めたらいいの!?」

 

 出てきた瞬間に美鈴がパチェに抱きつき、噓泣きを始める。パチェは面倒くさそうに美鈴の頭を分厚い魔導書で叩いた。次の瞬間、美鈴が何かに投げられるように吹き飛ぶ。そんな様子をリドルは呆れた顔で見ていた。

 

「そうだ美鈴。九と四分の三番線で大きな黒い犬を見なかったかしら。」

 

「犬ですか? いえ、居ませんでしたけど……あと数分で列車が出ますね。」

 

 美鈴が懐中時計で時間を確認する。私は机の上に表示されている駅の様子を見た。

 

「近くにいることはわかってるんだけど、まだ列車に乗り込んでないみたいね。あ、美鈴は洗濯物干しに行っていいわよ。」

 

「えぇ、私も混ぜてくださいよ。そんな邪険にしなくても……。」

 

「咲夜が学校に行ったんだから貴方が家事をするのは当たり前じゃない。」

 

 美鈴は面倒くさそうに頭を掻くと大図書館を出ていく。私は地図の端に黒い犬の姿をしたブラックを発見した。

 

「いた。どうやらギリギリに列車の貨物室に乗り込むつもりだったのね。」

 

「まあ出来るだけ人に見られないようにしないといけないしね。犬はホグワーツに持っていけるペットのリストに入っていないし。」

 

 実験が一段落したのか、パチェが私の向かい側に座った。そして同じように駅の様子をのぞき込む。

 

「ブラック……やはり少し分からないわね。レミィ、二週間前のこと覚えてる?」

 

「ええ、ブラックがハリーに接触したときのことよね。ハリーがおばさんを膨らましてそのまま家出。その時に一度接触している。しているけど、特に何かアクションがあったわけでもないし。」

 

「そして今回のこれも。なんというか虎視眈々と狙っているようにも見えるし、ただハリーの様子を見守っているようにも見える。」

 

「なんにしても、列車の中で接触するということはなさそうね。このまま眺めていても仕方がないし、私は部屋に戻ることにするわ。何か動きがあったら報告して頂戴。」

 

 私はパチェに手を振ると、大図書館を後にする。そして自分の部屋に戻りベッドに潜り込んだ。流石にこの時間は……眠い。

 

 

 

 

 

 

 1993年、十月。

 ハロウィーンの昼、私はノックの音で目を覚ました。眠たい目を擦りながら私は時計を確認する。現在の時刻は真昼の三時。こんな真昼に部屋をノックする奴の気が知れないが、それだけ一大事ということなのだろうか。

 

「もう、誰よこんな時間に……。美鈴?」

 

「いえ、リドルです。こんな時間に申し訳ありません。咲夜から緊急のメッセージが届きましたのでお伝えに参りました。」

 

 なんと、部屋をノックしたのはリドルだった。つまり咲夜が日記帳を通じてこちらに連絡を取ってきたということだろう。

 

「とても今人に会える恰好じゃないからそのままで言いなさい。」

 

 私は今寝間着姿で、もしかしたら髪の毛も跳ねているかもしれないような恰好である。とてもリドルの前に顔を出せるような状態ではない。少々やりにくいが扉越しにやり取りさせてもらおう。

 

「はい。つい先ほどシリウス・ブラックと接触したとのことです。」

 

「そう、咲夜とブラックがねぇ。現在地は?」

 

「ホグズミード村から少し離れた叫びの屋敷内です。」

 

 パチェの調べではブラックはホグワーツ特急を降りたあとはホグズミードに潜伏していた。拠点にしていたのは叫びの屋敷だったはずだ。ということは咲夜のほうからブラックに接触したということだろうか。いや、もし接触する気があったのなら、事前に連絡を入れてくるはずである。ということは偶然、ばったりと会ったのであろう。

 

「まずは話を聞きなさい。ブラックがどちら側か確かめるのよ。」

 

 ばったり会ったのだとしたら、咲夜は結構無防備を晒しているのではないだろうか。私はリドルに咲夜への伝言を伝えると、寝間着から部屋着へと着替える。そして鏡の前で髪形をセットした。よし、取りあえずこれで大丈夫だろう。

 

「リドル、大図書館に向かうわよ。何かあるかもわからないし、いつでもバックアップできるようにしておかないとね。ついてきなさい。」

 

「はい、お嬢様。」

 

 私はリドルを引き連れて紅魔館の廊下を歩く。窓から日の光が若干差し込んでいるので、少し気を付けないといけないだろう。

 

「咲夜からの伝言です。ブラックは自分は無実だと言っています。現在ホグワーツ近くに潜伏していますが、ハリーを殺す為ではなく救うためにここまで来たのだと。」

 

「なるほど、ということは白で白、真っ白ということかしらね。つまらないわ。」

 

「白で白? どういう意味です?」

 

 リドルが私に聞き返す。

 

「そのまま咲夜に送りなさい。」

 

 リドルは一瞬不思議そうな顔をしたが、やがてまた咲夜からの伝言を言い始める。

 

「まだ完全に白だと決まったわけではないかと……。だそうです。でも様子から察するに、白だと判断するに足りる何か証拠をブラックは提示したんでしょうね。」

 

「でしょうね。でなければ既に戦闘が始まっていてもおかしくないし。」

 

 暫く歩くと大図書館に到着する。私はパチェの前に移動すると椅子に座った。

 

「パチェ。咲夜がブラックと接触したわ。映像出せる?」

 

「咲夜がブラックと? ……少し待ちなさい。場所は?」

 

「叫びの屋敷。」

 

 パチェは何かを書き込んでいた本を机の隅に押しのけると机の上に手をかざす。すると小汚い木造の部屋が映し出された。そこにはホグワーツの制服姿の咲夜と、一匹の猫、そしてボロボロの服を着たこれまたボロボロのブラックがいる。そこで咲夜はクッキーと紅茶を、ブラックはパンと水を食べていた。

 

「なんで食事しているのかしら。」

 

「お腹でも空いたんじゃない? パチェ、音声出ないの?」

 

「この前も言ったじゃない。無理よ。映像出せているだけで奇跡に近いんだから……。」

 

「進歩無いわねぇ……。」

 

 私の言葉にパチェはムスっと顔を伏せる。何とも可愛らしい。

 

「そもそも先生、これは一体どういった魔法なのですか?」

 

 リドルがパチェに聞く。確かにそれは気になるところだ。パチェは顔を上げるとまっすぐ上を指さした。

 

「天から地上を監視する目があるのよ。マグルが打ち上げた人工衛星っていう星なんだけどね。その星の目を盗んでいるの。もっとも、普通に盗むだけじゃ雲や建物に阻まれてここまでは見えないわ。だからその目の方にも細工をね。マッドアイって知っているかしら。」

 

「闇祓いのムーディですよね。今は片目を失って魔法の義眼を付けているんでしたっけ。」

 

「ええ、それと同じ魔法を人工衛星の目に掛けてある。もっとも、それの使い方が分からないマグルからしたら、何の変哲もないカメラだけど。ようは上空から透視しているのよ。」

 

 なるほど、人工衛星か。確かに、昔はこのような便利な魔法は使っていなかった。科学の進歩に合わせて魔法も進化しているということだろう。

 

「だから見ることは出来ても音は拾えないってわけ。OK? レミィ。」

 

「ええ、大体わかったわ。つまりは新しい技術を導入する気ゼロってことね。」

 

「違うわよ!」

 

 パチェは拗ねたように顔を赤くする。リドルはそんなパチェの様子を珍しいものを見る目で見ていた。

 

「お、また咲夜から伝言が届きました。申し訳ございません。実は今、ホグワーツの制服を着て素顔でブラックの前にいるのです。ブラックから「なぜ私を助けた」のかと聞かれているのですが、どう答えればよいでしょうか。」

 

「うん、確かに何も隠せていないわね。完全に偶然、それも時間を止める猶予さえないほどの状況で出会ったということかしら。パチェはどう思う?」

 

「そうね。多分犬の状態のブラックに会ったんでしょうね。普通の犬だと思って近づいたらブラックだった。ブラックの方も咲夜の匂いを覚えていたんでしょ。咲夜が来た時に脱獄を手助けした者だということに気が付き、変身を解いた。咲夜としても不意打ちだったでしょうね。」

 

 パチェは匂いでバレたという話をしているが、それだと少しおかしな話になってくる。

 

「あれ? もしかしてブラックを助けに行ったとき、変装していったの? そんなことしなくてもよかったのに。むしろガンガン顔見せていった方が都合がいいぐらいよ。」

 

「あらそうなの? 気を使い過ぎたかしらね。一応死喰い人の恰好をさせて行ったんだけど。」

 

「ブラックが白か黒か分からない状況でよくそんな服装させたわね。」

 

「いや、咲夜がそうしたいって言ってたから……。」

 

「まあ何でもいいわ。リドル、今から私が言う言葉をそっくりそのまま咲夜に送りなさい。」

 

 私は椅子から立ち上がると大きく胸を張る。

 

「その様子だともしかして助けた時は変装していったの? 別にそこまで気を張らなくてもいいわよ。言ってやりなさい! 我が偉大なる主人、レミリア・スカーレットがそう望んだからよ! って!!」

 

 私は最後まで言い切ると満足げに椅子に座りなおす。リドルは苦笑いを浮かべていたが、ちゃんと一字一句咲夜に伝えたようだ。

 

「こんな時間に元気いいわね貴方。」

 

 パチェが冷ややかな視線をこちらに向けてくる。確かに、眠たくないわけがない。今は真昼間なのだ。今すぐにでも机の上で寝たいぐらいである。

 

「なんにしても、咲夜とブラックが接触することになるとは思わなかったわ。でも、結果オーライ。もしブラックが黒だった場合は問題になっていたけど、白ということはダンブルドアの味方ってことよね。ブラックを上手く利用して咲夜を不死鳥の騎士団にねじ込めないかしら。」

 

「あら、死喰い人のほうはもういいの?」

 

「そっちも大事よ。でもそっちはマルフォイの方から攻めるつもりだし。まあブラックが黒だった場合はブラック方面からも接触したでしょうけど。まずはブラックの容疑を晴らすところからかしらね。取りあえずこれでブラックには咲夜という理解者が出来た。このあとどう発展するかはまだ見えないけど、悪い方向には向かわないはずよ。」

 

 私は大きな欠伸を一つすると椅子から立ち上がる。映像の中の咲夜が消えたためだ。取りあえず、今日はこれ以上動きはないだろう。

 

「それじゃあ何かあったら連絡しなさい。私はもう一度寝るわ。」

 

 私はパチェに手を振ると大図書館を後にした。




リドルが仲間になる

咲夜がシリウスを脱獄させる

許可証騒動(美鈴のご飯一回休み)

ハリーがマージを風船に変える

ハリーが犬姿のシリウスと出会う

咲夜がホグワーツに行く

シリウスもホグワーツ特急に乗り込み、その後ホグズミードに潜伏

咲夜とシリウスが接触←今ここ
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