紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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急に始まる資本家の話。完全に無駄話なので軽く飛ばしちゃってもいいです。ただ少しレミィの活躍シーンを書きたかっただけなんで。
誤字脱字が御座いましたらご報告していただけると助かります。


狙撃手やら、兄妹やら、妹やら

1993年十二月。私はスーツ姿の美鈴を連れて資本家のビルに来ていた。私はテーブルの上に置かれた紅茶を一口飲む。そして勝ち誇るように軽く笑った。

 

「何がおかしい?」

 

「いえ、うちの従者が淹れた紅茶の方が美味しいから。」

 

「従者というと、横に立っているそいつか? 生憎、私は珈琲派だ。紅茶には左程拘っていない。」

 

 貴様に合わせているのだと言わんばかりに資本家は紅茶に口をつける。だが、この紅茶はヴィンテージだ。拘っていないものがヴィンテージものの茶葉など取り寄せるか。

 

「そう、じゃあ今度来た時にはその拘りの珈琲を頂こうかしら。」

 

「ああ。パイント単位でミルクを用意しておいてやろう。ついでにシロップと角砂糖もな。」

 

「あら、それが貴方拘りの飲み方ってわけ? 意外とお子様なのね。」

 

「会って早々に口喧嘩するのやめません?」

 

 私の横に立っている美鈴が苦笑いを浮かべながらそう言った。まあ、挨拶のようなものだ。私の正体を吸血鬼だと知っているマグルで、ここまで私に大きな口を叩くやつも珍しい。

 

「……。今日は急に呼び出してすまなかったな。」

 

「一週間前に手紙を送ってきたくせによく言う。ところで、私に何の用かしら。」

 

 資本家はティーセットを隅に追いやると机の上に写真を並べる。私は写真の一枚を手に取った。

 

「これは?」

 

「全部私の部下だ。いや、元部下というのが正しいか。一人目が殺されたのが今年の八月。二人目がその二日後。三人目が更に三日後だ。」

 

「それがどうかしたの? 貴方の部下が殺されたのと私に何か関係が?」

 

「私はお前が犯人なんじゃないかと睨んでいる。」

 

 資本家は私の目を見ながらそう言った。途端に美鈴の目つきが変わる。私は右手を上げて美鈴を抑えると、資本家の言葉を待った。

 

「冗談だ。」

 

「でしょうね。冗談じゃなかったらとんだ自殺志願者よ。で、犯人の目星はついているの?」

 

 資本家はもう一枚机の上に写真を出す。その写真は私もよく知る人物だ。

 

「シリウス・ブラック。刑務所から脱獄したという殺人鬼だ。奴が脱獄した時期と部下が殺された時期がピッタリ重なる。今のところ一番怪しいのが奴だ。」

 

「証拠らしい証拠はあるの?」

 

「証拠らしい証拠がないからこそだ。だからこうして魔法使いであるブラックを疑っている。」

 

「あら、彼が魔法使いであることは知っているのね。」

 

「これでも日刊預言者新聞を購読している。」

 

「あ、そう。」

 

 ということはブラックに関してそこそこの知識は持っているということだろう。ブラックを普通のマグルの殺人鬼だと思って疑っているのだと思ったが……。まあ確かに全く証拠がない事件現場を見たら魔法使いの仕業だと思うだろう。

 

「こちらの世界でも報道しているということは、シリウス・ブラックという男は相当やばいやつなのだろう? 魔法界に詳しい貴様なら、何か知っているかと思ってな。」

 

 さて、どうしたものか。咲夜の調べでブラックは白だということが分かっている。ポッター家を裏切ったのはピーター・ペティグリューで、ブラックは罪を被せられただけだ。そのペティグリューの居場所も、既にパチェが掴んでいた。ペティグリューが生きているというだけで、ブラックの無罪を証明するには十分だろう。だが、今のところ魔法界ではブラックは殺人鬼ということになっている。ブラックの無罪を知っているのは私と紅魔館にいる面々だけだ。

 

「証拠がないというのは証拠となり得るものが全く無い。そう判断していいのかしら。」

 

「ああ、その通りだ。」

 

「三人の死因は?」

 

「頸動脈を切られていた。解剖医によれば、並の刃物じゃここまで鋭く切れないらしい。」

 

「まあ確かに、魔法なら実現不可能じゃないでしょうね。でも、そうじゃない可能性もある。美鈴。」

 

 美鈴は少し離れた机に置いてあるペーパーナイフを手に取る。そして手元にあった金属製のペーパーウェイトを宙に放り投げるとペーパーナイフを振り下ろした。空気を切り裂く音がして、ペーパーウェイトが二つに割れて地面に落ちる。美鈴はそれを拾うと一つを私に、もう一つを資本家に手渡した。

 

「断面を見てみなさい。研磨したように綺麗でしょう? 技術があればこのように刃の付いていないペーパーナイフで金属を切り裂くことができるわ。」

 

「妖怪が馬鹿力を用いて引き裂いたようにしか見えんな。少なくとも人間業じゃない。」

 

 まあ、確かに人間業ではないが。

 

「まあ確かに金属を切り裂くのは人間には難しいでしょうね。でも、切れ味のあるナイフで斬るものが柔らかい人間の首だったらなら。人間でも十分可能なはずよ。」

 

「では、貴様の考えでは犯人はブラックではないと?」

 

「そもそも貴方とブラックは何の関係もないじゃない。偶然貴方の部下がピンポイントで襲われたとでも? そもそも、事件が起こったのは今年の夏でしょう? もう冬よ。どうして今更私に相談しているの?」

 

 資本家は私の顔をじっと見つめる。そして諦めたようにため息をついた。

 

「普通の人間の線はもう十分調べた。数か月調べて全く足跡が発見できなかったから、こうしてブラックを疑っているのだ。」

 

「苦労しているわね。」

 

「苦労しているのは私ではなくお抱えの探偵だがね。……少し前にその探偵に泣きつかれてしまってな。何の証拠もない。これ以上調べようがないと。そこで、魔法族が犯人ではないかと思いついた。」

 

 なるほど。所謂消去法というやつなのだろう。

 

「残念だけど、犯人はシリウス・ブラックじゃないと思うわよ。ここだけの話、ブラックは殺人鬼ではないし。彼は冤罪でアズカバンに収監されていた。」

 

「ふん、残念なものか。やはり貴様に話を聞いて正解だった。これでまた一つ犯人を絞ることができる。」

 

 冗談とは言いつつ、最初に私を疑ったのも実は本心だったのだろう。こいつは私が犯人である可能性も考えていた。私の反応を見て、違うと判断したようだが。

 次の瞬間、私の目の前にある机が血で汚れた。私は急いで目の前にいる資本家に飛びつく。そして机を跳ね上げ遮蔽物にした。

 

「資本家、無事?」

 

 資本家は一瞬何が起こったか分からないといった顔をしていたが、やがて顔を真っ青にする。私は手鏡を取り出すと窓の外を確認した。

 

「狙撃ね。まったく殺気を感じ取れなかったわ。かなりの手練れか……。」

 

「チッ。すまんレミリア。貴様の部下を巻き込んでしまったな。」

 

 私は机の影から美鈴の様子を見る。後頭部を撃たれたらしく、頭の位置に血だまりを作っている。血だまりに沈む美鈴はピクリとも動かなかった。

 

「美鈴、そのまま動くなよ。」

 

 私は倒れている美鈴に命令を下す。美鈴は身体を動かさず返事をした。

 

「はーい。」

 

 頭を撃たれて動いていては美鈴が化け物であるということが狙撃手にバレてしまう。その場合美鈴の判断は正しいと言えるだろう。

 

「資本家、窓ガラスを防弾に張り替えたほうがいいわよ。」

 

「全部防弾だ。それを貫いたということは対物用の大口径のものだろう。」

 

「銃声がしなかったけど? そんな大型のライフルにサイレンサーってつくのかしら。」

 

「あるにはある。だが、それでも結構な音がするはずだ。」

 

 私は手鏡でもう一度窓の外を見る。既に狙撃手の姿はなかった。

 

「窓のない部屋は?」

 

「この奥だ。部下はどうする?」

 

 私は資本家の手首と、美鈴の足首を掴むと隣の部屋へと走る。ドアを開ける時間も惜しんで、突き破るように部屋へと転がり込んだ。次の瞬間、扉の近くに着弾音が聞こえる。どうやら狙撃位置を変えただけのようだ。だが、取りあえずこの部屋なら狙撃されることはないだろう。

 

「あーあ、せっかくのスーツが台無しですよぉ。」

 

 美鈴が血のべったりついたスーツの上着を脱ぎ捨てる。シャツも血まみれだったが、流石にそれを脱ぐわけにはいかない。汚れた服を脱いだというよりかは、動きやすいように脱いだと言ったほうが正しいだろう。

 

「すまない。あとで新しいのを送ろう。とにかく今はあの狙撃手だ。」

 

「心当たりは?」

 

「ありすぎるな。」

 

「部下殺しと繋がりがあると思う?」

 

 資本家は部屋の壁にもたれかかる。この部屋には窓はないが、それと同時に机も椅子もなかった。元々物置として設計してあるのだろう。

 

「どうだろう。部下殺しは初めから部下を狙った犯行だった。だが今回のこれは完全に私を狙っている。……いや、もしかしたら貴様を殺しに来たという可能性もあるな。」

 

「外と連絡取れる? というか、こんなことがあったのに誰も駆けつけないじゃない。貴方嫌われてるのね。」

 

「まだ撃たれてから一分と経ってない。そのうち来るだろう。来るだろうが、この部屋に来るには先ほどの部屋を通らなければならない。……つまりだ。」

 

 次の瞬間、先ほど私たちがいた部屋に資本家の部下が入ってくる。

 

「来るなっ!!」

 

 だが入った時点で手遅れだ。既に部下の頭は木っ端微塵に弾け飛んでいた。

 

「チッ……騒ぎを聞きつけて警察が来るまでここで粘るしかないか。おいレミリア。カウンタースナイプできるか?」

 

「今粘るしかないっていったじゃない貴方。……出来なくはないけど、いいの?」

 

 私が確認を取ると、資本家は眉を顰める。

 

「何がだ?」

 

「狙撃手を殺してしまっていいのかと聞いているのよ。」

 

「構わん。」

 

「あっそう。何か壊れても弁償しないからね。」

 

 私は頭を掻きながら先ほどいた部屋へと戻る。相変わらず殺気も無しに鉛玉が飛んでくるが、飛んでくると分かっていれば掴み取ることなど容易い。私は飛んできた鉛玉を左手で掴み取ると、右手でナイフを投擲した。鉛玉が飛んできた方向から狙撃位置はわかっている。あとは速度と精度だ。私が投げたナイフは音速を超えた速度で飛んでいき、狙撃手の頭を吹き飛ばす。ここからでは小さくしか見えないが、確かに死んだだろう。

 

「流石私。ドンピシャね。」

 

 私は隣の部屋にいる二人に向かって手招きをする。資本家は全速力で私の後ろを駆け抜けると、反対側の扉へ消えていった。

 

「何処まで行くのよ。」

 

「二人目がいるかもしれないだろうが。なんにしても、このまま下へ降りるぞ。」

 

 用心なことだ。まあ資本家は普通の人間なので、簡単に死んでしまう。用心が過ぎるというわけでもないか。私は肩を竦めると美鈴を連れて資本家の後ろをついていった。

 

「取りあえず先ほどいた狙撃手は仕留めておいたわ。あとで回収しておきなさい。」

 

「そんなもの警察に任せておけばいいだろう。別に私はやましいことは何もしていない。これは普通に殺人未遂だ。それにしても、本当に貴様は規格外だな。」

 

 階段を降り、一階のロビーに入る。そこで資本家の部下達に囲まれた。

 

「ご無事ですか!?」

 

「警察には通報したか?」

 

「いえ、確認を取ってからのほうがよろしいかと思いまして。」

 

「すでに通行人が通報しているはずだ。当事者が通報しないのは不審がられる。今からでも通報しておけ。それと車を回せ。レミリア嬢を護送するのだ。それでいいなレミリア。」

 

 資本家の指示で部下がバタバタと動き出す。私は資本家に連れられて建物の地下へと降りた。

 

「また手紙を送る。今回狙撃手を殺したことによって何か進展があるかもしれないしな。」

 

「ならクリスマスパーティーに招待するわ。また招待状を送るわね。」

 

 地下には黒塗りのセダンが何台も並んでいた。そう言えば紅魔館には自動車がない。美鈴のスーツ代として一台貰っていこうかと思ったが、そもそも紅魔館まで自動車で移動するのは不可能だった。私と美鈴は資本家の部下と共に自動車に乗り込む。

 

「じゃあまた今度。」

 

「ああ、またな。」

 

 バタバタと別れることになってしまったが、まあ仕方がないだろう。私は運転席に乗り込んだ資本家の部下の女に道を指示すると先ほど資本家からされた話を頭の中で整理する。資本家はブラックを疑っていたみたいだが、その可能性はゼロに等しいだろう。

 まったく関係ないことに巻き込まれたものだ。まあ、資本家自体このような世界で生きていることもあり、このようなことは慣れっこだろう。かく言う私もこのようなことは日常茶飯事だが。資本家と違い殺しも行っている分、襲撃される頻度も多い。まあ、人間が私を殺せるとは思えないが。

 

「そういえばおぜうさま、咲夜ちゃんが殺したっていう可能性はないんです? あれぐらいの時期って咲夜ちゃんこっちにいましたよね?」

 

「咲夜が人を殺す場合は死体を回収するわ。解剖医が解剖したってことは死体はその場にあったんでしょ。あいつも結構手広くやってるから。……部下。部下よね。ちょっと貴方。」

 

 私は車を運転している黒服に話しかける。

 

「はい、なんでしょうか。」

 

「殺された部下ってあいつの会社ではどういう立場の人間? 下働きじゃないわよね。」

 

「はい。全員が幹部クラスです。」

 

「空いた席を埋めるために最近幹部に上がった者はいる?」

 

「それは……はい、三人います。」

 

 被害者の数と同じ。まあ空席が三つ出来たのだから当たり前ではあるが。

 

「今回部屋に駆けつけて撃たれたのは? あれは下っ端?」

 

「いえ、幹部です。」

 

「これはわかる範囲でいいんだけど、その幹部さん。誰かに声を掛けられて上に行かなかった?」

 

 私の質問に、資本家の部下は黙り込む。どうやら心当たりがあるようだった。

 

「その声を掛けた誰かさんって、空席を埋めるために上がってきた幹部じゃない?」

 

「このことはボスには既に?」

 

「いえ、言ってないわ。でも、気を付けたほうがいいわよ。こんな方法で上がってきたことがバレると、色々と拙いでしょう?」

 

 美鈴は会話の意味が分からずポカンとした表情をしていたが、やがて意味が分かったのか車内の空気を全く読まずに言葉を漏らした。

 

「なるほど。撃たれた幹部さんに上に行くように進言したのが貴方なんですね!」

 

「そんなわけないじゃないですか。」

 

「そんなわけないでしょ。美鈴、貴方少し黙りなさい。」

 

 もっとも、そんなわけあるんだが。実行犯は別にいるとしても、その実行犯に指示を出したのはここにいる部下だろう。半分当てずっぽうな推理で、当たるかどうかも分からず質問を飛ばしたが、案外当たるものである。

 

「とにかく、私たちはこの件にこれ以上は介入しないわ。関係ない組織の内部抗争に巻き込まれてたまるものですか。指示した場所で降ろしなさい。」

 

「それは出来ません。」

 

 私の言葉を半ば遮るようにして部下が冷たく言う。美鈴がピクリと反応したので、私は美鈴の太ももに手を置き、まだ動くなと合図した。私たちを乗せた車は当初のルートを外れ人の少ない工場地帯へと入っていく。今の時刻は深夜の二時。この時間、工場地帯はもぬけの殻だ。

 

「見逃してやると言っているのに、聞き分けのない馬鹿は嫌いよ。私たちを殺したら、あっという間にバレてしまうじゃない。」

 

「それも、もうどうでもいいことです。幹部の椅子など、もうどうでもいい。あの人がいないのなら。」

 

「……そういうこと。偶然なんてそうそう起こり得ないわよね。」

 

 先ほどこの部下に質問を飛ばしたとき、私は別にこいつが黒幕だとは思っていなかった。こいつが黒幕だと分かったときは内心びっくりしていたほどである。偶然というのは恐ろしいものだと。だが、乗り合わせたのは偶然でも運命でも何でもなかった。この部下は自分の意思でこの車に乗り込んだのである。私を殺すために。

 

「私が先ほど殺した狙撃手、貴方のボーイフレンドってわけね。敵討ちのつもり?」

 

 部下は静かに首を横に振る。そして人気が完全になくなったところで車を停めた。

 

「兄です。ですがこうなってはもう……」

 

 部下は慣れた手つきでグローブボックスから拳銃を取り出す。そしてそれを真っすぐ私へと向けた。

 

「それで私を撃つの? 眉間を?」

 

「ええ、敵討ちを。」

 

「そう。貴方のボスから聞いたってことよね?」

 

「そうですね。貴方が狙撃手を殺したと。」

 

 部下は悲しそうな笑みを私に向ける。そんな部下の言葉を聞いて、私は小さくため息をついた。

 

「撃ちなさい。」

 

「では遠慮なく。」

 

 車内に乾いた破裂音が響き渡り、私の服が血で汚れる。金属でコーティングされた鉛玉は私の額の皮膚を貫くと、頭蓋骨で動きを止めた。拳銃では、吸血鬼の骨を貫くことは出来ない。だが、部下は完全に私が死んだものと勘違いしているようだった。

 

「巻き込んでしまってすみません。ですが、目撃者は殺さなくては。」

 

 部下は次に美鈴に銃口を突きつける。美鈴は私と部下と拳銃を見た後、自分の服に目を落とした。

 

「あー、まあいいですよ。もうどうせ汚れていますし。」

 

 二回目の銃声が車内に響く。美鈴の頭から漏れた血は更に美鈴のシャツを赤く染めた。部下はクツクツと狂ったように笑うと、拳銃を取り落とす。どうやら、本格的におかしくなっていたようだった。普通に考えたらわかるはずである。普通、武器も何も無しにカウンタースナイプなどできるわけがないと。

 

「そう、普通わかるはずなんだけどねぇ。」

 

「――ッ!?」

 

 私はため息をつきながら体を起こす。美鈴もニヤニヤしながらハンカチで私の顔に垂れた血を拭いた。

 

「冷静に考えたら、私たちが人間じゃないことぐらいわかりそうだけど。服がこんなに汚れてしまったわ。主に美鈴の血で。これも貴方のボスに弁償させないとね。」

 

 私は部下が取り落とした拳銃を拾い上げると、部下の眉間に突きつける。部下は化け物でも見るかのような目で私を見ていた。

 

「一発は一発よね。」

 

 私は何の躊躇いもなく引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 クリスマスまで残すところ数日となった。紅魔館では急ピッチでクリスマスパーティーの準備が行われている。去年できなかった分、今年は去年の予算も次ぎこんで盛大にやることが決まっているが、咲夜が居ない為準備には時間が掛かる。

 特に面倒なのが料理だ。咲夜が準備を行えば調理した物の時間を止め、出来立てを振舞うことができる。だが美鈴が行う場合、温かいまま保管する為にキッチンにパチェが出向き、片っ端から出来上がった料理に魔法を掛けていかなければならないのだ。

 これの何が問題かというと、美鈴とパチェという準備要員がキッチンで固定されてしまうところだ。そうなると動けるものは私しかいなくなる。一昨年のクリスマスは本当に忙しかった。

 だが、その点今年は少しは楽だと言えるだろう。何せ今年からは便利な日記帳、トム・リドルがいる。彼は今パーティー用の三角帽を被りパーティーホールのセッティングを進めている。もっとも、かなり嫌そうな表情をしていたが。

 主催者の私はというと、パーティーの招待こそするが、準備自体は何も行っていない。その招待という奴がまた大変なのである。とある事情でパーティー自体は紅魔館で行われるが、人間や妖怪に直接紅魔館の場所を教え、来てもらうわけにもいかない。

 ポートキーを用いて飛んできてもらうというのも一つの手なのだが、ポートキーを使用する場合、いちいち魔法省に許可を取らなければならないのだ。無断で使用することもできるが、パーティーの参加者の多さからして魔法省にバレないわけがない。

 故に、パーティー会場はロンドンにある、とある建物の一室ということになっている。ここは私が所有している建物で、地下には大きな駐車場があり、大きな部屋がいくつもあるのだ。その部屋の入り口を、パーティーホールの入り口に同期させる。そうすることによってパーティーの参加者は気づくことすらなく紅魔館に足を踏み入れることができるのだ。勿論、フランの狂気は対策済みである。

 そういえば、クリスマスパーティーには資本家も呼んでいるのであった。少し前にあった狙撃事件。狙撃手と部下の兄妹関係がDNA鑑定で証明され、狙撃手の素性も割れた。狙撃手は元軍人で、かなり腕の立つ斥候兵だったらしい。軍を辞めてからは陰から妹の様子を見守っていたようだ。

 その妹が資本家の組織で中々出世できないと知るや組織の幹部を抹殺。妹に幹部の席が回ってくるまで殺し続けた。その頃は妹の方も兄の犯行だとは知らなかったようである。事件から数か月、妹は兄に真相を教えられた。資本家にこのことを言おうかとも思ったが、兄を前科者にしたくなかった妹はこのことを隠し続ける。

 だがそんな中、同僚が事件の真相に辿り着きそうになってしまい、今回のこれを計画。資本家の元にその同僚を誘き出して殺害し、兄はそのまま行方をくらます手筈だった。資本家を殺す気はなかったので、初めの一発は美鈴に向けて放たれたのである。

 だが、ここで兄妹にとって予想外の事件が起きる。そう、私が狙撃手に反撃し、兄を殺してしまったことだ。目的であった同僚の殺害こそ達成したものの、狙撃手の素性を調べられたらあっという間に妹のもとまで辿り着いてしまう。それでは同僚を殺した意味もない。

 やけになった妹は私の護送に志願し、私と美鈴の殺害を試みた。だが、結果は言わずもがな。私を殺すなら、核爆弾でも持ってこいと言ったところだろう。

 これが今回、資本家の組織で起こった一連の事件の真相だ。さてこんな話誰から聞いたんだと突っ込みが入りそうだが、勿論本人から聞いたに決まっている。

 あの時私は部下の耳元で引き金を引き、衝撃波と銃声で気絶させ、そのまま紅魔館に持って帰ったのだ。そこからはフランの狂気に晒しながら拷問と尋問を繰り返し、真相を聞き出したということである。私は尋問の時の音声を録音したテープを資本家に送り付け、事情を説明。資本家はすんなり納得してくれた。部下は拷問の怪我で死ぬ前に狂気に中てられ狂い死んだので数日後の私の朝食になった。

 そういえば、資本家から荷物が届いていたな。どうせ碌なものではないだろうが、開けないのもそれはそれで後が面倒だ。私は机の上に小包を置くと、封を解く。中身はスーツのようだった。そう言えば新しいのを送ると言っていたか。美鈴には勿体ないぐらいの上等なものだ。サイズを直して私が着てやろうかと思ったぐらいだが、あまりにもサイズが違い過ぎたので諦めた。

 あ、そうそうクリスマスパーティーだ。なんにしてもあと数日で咲夜が帰ってくるので、最終的な調整はそれからということになるだろう。私はスーツを包み直すとベッドの上に放り投げる。そして溜まり気味になっている書類に手を付け始めた。

 

 

 

 

 

 今現在、私の目の前には缶詰が十三個積まれている。こうして積んで眺めると結構な量があるように見えるが、実際に日で割ってみると一日に一つ以下。満足に食べるにはこれの三倍は必要だろう。だが、贅沢を言っていられない。これが無ければ私はクリスマス休暇が明けるまでネズミだけで腹を満たさなければならなくなる。

 

「にしても十六夜咲夜。彼女は一体何者なんだ……。」

 

 今年の夏、アズカバンにいた私の前に突然現れた仮面の女。体型と指の細さから女であることはわかったのだが、それ以外の全てが謎な存在。不思議な術を使って私を脱獄させ、そのまま行方をくらませた。彼女と再会したのはそれから数か月も経った後だ。仲間にした猫に連れられてきた少女。私はその少女の手の形と匂いに覚えがあったのだ。背丈も私を助けに来た者と左程変わりない。

 私は意を決して少女に正体を明かした。結果としては、その少女は私を脱獄させた者と同一人物だった。それから彼女は毎日のように叫びの屋敷に通い、私の世話をしてくれている。この缶詰も彼女が置いていったものだ。

 

「世話を焼いてくれるのには助かっているが、全く素性が知れない。それに彼女の主人だというレミリア・スカーレット。彼女の指示で咲夜は私を脱獄させたという話だったが、それこそ謎だ。」

 

 私の知り合いにスカーレットという名を持つ者はいない。赤の他人が理由もなしに私を脱獄させるはずもないのだ。世間では私は悪名高い殺人鬼。仲間内からも裏切者だと思われているだろう。だとすると、私に接触してきた理由はなんだ?

 

「……咲夜は私が無実であることを知っている。知っているということは、私が殺人鬼であるということを利用しようとして近づいてきたわけではないということだ。」

 

 ……悩んでいても仕方がない。なんにしても警戒するに越したことはないだろう。私は一つ目の缶詰に手を付けた。

 

 

 

 

 

 クリスマスパーティーの前日、咲夜が紅魔館に帰ってきた。私は以前から思っていたことを実行に移すために咲夜を自分の部屋に呼び出す。咲夜が紅魔館に来てから十二年と少し。そろそろ、私の妹に会わせるべきだろう。今までは咲夜を極力フランから遠ざけてきた。それは咲夜が人間だからではない。咲夜の実力では、あっという間にフランに殺されてしまうと思ったからである。実際にフランは過去に数人使用人を殺している。そしてそのどれもが弱い妖怪や化物の類だった。今の咲夜の実力なら、あっけなく殺されて終わりということはないだろう。それに私に仕えるにあたって、フランの問題は避けて通れない。

 部屋の外に咲夜の気配が現れた。どうやらパチェに言われて私のもとへ来たようである。

 

「咲夜ね。入りなさい。」

 

 咲夜が扉をノックする前に、私は咲夜に呼びかけた。咲夜は静かに扉を開けると私の部屋へと入ってくる。

 

「ただいま戻りました。お嬢様。」

 

「お帰り。ついてきなさい。大事なことよ。」

 

 私は咲夜の横を通り過ぎると部屋を出る。咲夜も私の後ろをついてきた。まっすぐと廊下を進み、階段を下りる。昔はフランの部屋は大図書館の中にあったが、今は少し離れた場所に移してある。私は図書館を通り過ぎ、フランのいる部屋へと続く廊下に入った。

 

「お嬢様、こちらの方向は……。」

 

 どうやら咲夜も察したようだった。この廊下の先からは時折フランの狂ったような笑い声が聞こえてくる。普段は冷静な妹だが、たまに発作のように手が付けられなくなる時がある。狂ったように笑い、ベッドの上をのたうち回る。発作を起こしている時は、私でも手が付けられない。強靭な生命力を持った吸血鬼であろうが、百年を生きる魔女だろうが、問答無用で壊しにかかってくるのだ。

 

「咲夜、貴方もここに来てから少し経つわ。……フランに貴方を紹介しようと思う。」

 

 もっとも、咲夜はフランのことを知っているし、フランも咲夜のことを知っているだろう。美鈴は結構なおしゃべりだ。フランとも仲が良く、よく一緒におしゃべりをしているらしい。私は扉の前で止まると、咲夜の顔を見た。表情こそいつも通りだが、明らかに目に恐れが現れている。

 

「フランが手を握ろうとしたら、時間を止めて移動しなさい。少しでも遅れたら死ぬわよ。」

 

 私は咲夜に向けて右手をまっすぐと伸ばし、軽く握った。

 

「フランは手を握るだけで貴方を殺すことができる。そしてそれをあの子は躊躇わないわ。」

 

「承知しました。」

 

 本当に承知しているのだろうか。フランは自発的に地下室にいるが、それとは別に理由がある。元々は、私の父がフランを地下室に軟禁したのだ。その理由は単純で、フランの危険性を危惧したからである。

 物質というものはそこを壊せば全体が壊れてしまうような『目』を持っている。フランはその目を手のひらに移動させることができるのだ。距離や強度は関係ない。どんなものでも、フランが手を握れば壊れてしまう。その能力はあまりにも破壊的で、驚異的なものだった。一国の軍隊どころではない。フランがその気になれば、この地球ですら二つに割れてしまうだろう。

 私の母はフランの力を抑止力として使用することも考えていたらしいが、制御できるようなものではない。制御できていたら、フランは当の昔に地下室から出てきていることだろう。

 父がフランを地下に閉じ込めてからというもの、フランは自発的にも外に出てこなくなった。父が亡くなってからは地下室の鍵を外し、自由に出入りが出来る状態にはなっているが、フランは出てこようとしない。私としても、閉じ込めておきながら今更引っ張り出すことなんてできなかった。

 私はフランの部屋の扉を三回ノックする。

 

「フラン、入るわよ。」

 

 返事はない。私は鍵の掛かっていない扉に手を掛けると、部屋の中に入った。部屋の中にはいつも通りな様子のフランが、片手に熊の人形を持って床に座っている。フランは咲夜の方を見ながら目をぱちくりさせると、まっすぐ手を伸ばし、握りしめた。

 次の瞬間、右隣にいた咲夜が左隣へと現れる。時間を止めて移動したのだろう。

 

「ん? あれ?」

 

「やめなさいフラン。咲夜。」

 

 これはフランの挨拶のようなものだ。フランは会話ではなく、相手を壊すことによって相手を知ろうとする。咲夜は私に声を掛けられて、一歩前に出た。

 

「お初にお目に掛かります。フランドールお嬢様。十六夜咲夜と申します。」

 

「貴方は壊れないのね。お姉さまや美鈴、パチュリーと同じだわ。」

 

 フランは満足そうに咲夜に微笑んだ。どうやら咲夜を気に入ったようだ。

 

「最近紅魔館に入ったメイドよ。咲夜、これからはフランの世話も貴方の仕事の一つになるわ。」

 

「畏まりました。これからよろしくお願い致します。フランドールお嬢様。」

 

「……そう、咲夜……ね。」

 

 咲夜はぺこりと頭を下げる。それを見てフランは立ち上がると静かに手を握った。私は一瞬咲夜が死んだと思ったが、杞憂だったようだ。咲夜はフランの後ろにいる。

 

「あら。」

 

「おやめください。」

 

 咲夜を声を追うようにフランは後ろを振り返る。だが振り返るころには咲夜はまた私の右隣にいた。それを見てフランはクスリと笑うと、ベッドに腰掛けた。

 

「あれ? やっぱり貴方も普通じゃないのね。お姉さまもこんな隠し玉を持っているなら早く見せてくれたらよかったのに。」

 

「貴方の気に慣らしていたのよ。フラン、仲良くしなさいね。……咲夜、行くわよ。」

 

 私はフランに手を振ると、咲夜の肩を叩いて共に部屋を出る。部屋を出た瞬間、咲夜の頬に一筋の汗が滴った。

 

「はぁ……はぁ……。」

 

 咲夜の足は震え、今にもその場に崩れ落ちそうになっている。どうやら少し刺激が強すぎたようだ。それはそうだ。咲夜は初めてフランにあの距離まで接近したのである。今、咲夜を震わせているのは純粋な恐怖。死という名の絶望だ。

 

「あの子がフランドール・スカーレット。私の実の妹よ。見て分かったでしょう? あの子の部屋には鍵もなければ封印もしていない。あの子は自らの意思であそこにいるのよ。あの部屋から外に出ようとしないの。」

 

 私は静かに廊下を歩き出す。

 

「あんな子だけど、可愛い妹なのよ。私のたった一人の家族なの。」

 

「お嬢様……。」

 

 母が死に、父が死に、最後に残ったのは私とフランだけだ。私には外という世界があり、色々な関係を築いているが、フランにはここしかない。あの小さな部屋が、フランの世界なのだ。

 

「休暇中だけでも、仲良くしてあげて頂戴。フランのことをよろしく頼むわ。」

 

 私は咲夜の方を向いて精一杯の笑顔を作る。上手く笑えているだろうか。咲夜には、あの子の世界の一部になって貰いたい。私は心からそう思った。

 

「勿論ですとも、お嬢様。お嬢様にとっての大切な方は、私にとっても大切な方です。何が有ろうとも、命を賭してお守り致します。」

 

 私はその答えを聞いて満足げに頷いた。さあ、儀式は終わりだ。楽しい話に入ろう。

 

「さて咲夜、クリスマスよ! 悪魔がクリスマスを祝うのはおかしいかもしれないけど、その矛盾がいいじゃない。去年はパチェの毒ガス騒ぎで中止になっちゃったし、盛大に行うわ。人も妖怪もわんさか呼ぶわよ!」

 

「盛大にやりましょう。お嬢様。」

 

 日本の神話によれば、引きこもりを部屋から出すにはその部屋の前でパーティーをすればいいらしい。クリスマスパーティーに釣られて、フランが少しでも部屋から出れば儲けものだ。私と咲夜は来た道を戻りながらパーティーの準備に関して話し合った。




咲夜とブラックが接触

ホグワーツにブラックが潜入

ハリーの箒が真っ二つ

資本家のビルで撃たれる

咲夜がファイアーボルトを購入、ハリーに送る

フランに咲夜を紹介する←今ここ
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