紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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さて、どんどんレミリアの計画が進んでいきます(話は殆ど進みません。やばいなぁ。これ本当に四月までに終わるかなぁ……)
誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


主催やら、衰弱やら、忠誠やら

 1993年、クリスマスパーティー当日。パーティーホールには少しずつ人が入っていた。パーティーホールには魔法が掛けてあり、ホール自体は紅魔館の中にあるのだが、ホールの出入り口全てがロンドンの町中にある建物に繋がっている。来場者はその建物から中に入る仕組みになっているのだ。その建物の入り口には雇われたマグルが立っており、招待状の確認と案内をしている。もっとも、案内をしているマグルは紅魔館の存在すら知らないが。

 パーティーホールの中では服従の呪文が掛けられた妖精メイドが給仕についている。妖精メイドを操っているのはリドルとパチェだ。もっとも、強制的に操っているわけではなく、妖精メイドの承諾を得て術を掛けている。服従の呪文は中毒性の無いヘロインみたいなものなので、掛けられるだけで快感を得ることが出来るのだ。何も考えず仕事が出来て、同時に快感を得ることが出来る。妖精メイドからしたら願ったり叶ったりなのだろう。

 私は懐から懐中時計を取り出して今の時刻を確認する。あと一時間もしないうちにパーティーの開催時間だ。私は少し高いところに登って周囲を確認する。今回パーティーに誘ったのは主にマグルのお偉いさんやお金持ち、政治家などだ。人外や魔法族も混ざってはいるが、極少数だ。それにマグルの常識のある者しか呼んでいない。そうでなければ確実に死人が出るだろう。流石に私が主催のパーティーでそれは避けたい。

 

「よう。期待通りの古風さで安心したぞ。」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。声のした方向に振り返ると、そこには資本家が立っていた。何というか、いつもと変わらないふてぶてしさである。まあ、いつもと違い今回はあっちが客だ。多少の大きな態度は許そう。

 

「そういえば、美鈴にはスーツを送っていたけど、私には何か無いの? 私も貴方の部下に撃たれて服が血で汚れたんだけど。眉間よ、眉間。」

 

「アホか。貴様の部下のアレは完全にこちらの失態だ。それに、回避不可能な一撃だったしな。だが、貴様が眉間を撃たれたのは、貴様が無抵抗だったからだ。車内で撃たれたってことは向かい合っていたんだろうが。かっこつけて怪我をして、服が汚れたから代わりを寄越せだと? 笑わせるな。」

 

「相変わらずで安心したわ。あ、そうだ。裏切者の生首がまだ冷蔵庫の中に残っているんだけど、持って帰る? 今なら上等な入れ物を付けるわよ。」

 

「そんなものを手土産として持って帰ったところで死んだ私の部下は戻ってこない。そちらで適当に処理しておけ。」

 

 ふうん、案外仲間思いな一面があるんだ。冷徹非道な金稼ぎマシーンと認識していたが、少し考えを改める必要がありそうだった。

 

「そういえば、会場にいる客。貴様の招待客にしてはまともそうなやつばかりじゃないか。」

 

「私を何だと思ってるのよ。」

 

「吸血鬼だろう? 見たところ明らかに人間じゃないのはいないように見える。」

 

「殆ど人間よ。それも、魔法界とは全く関係のないね。あそこにいるのは大手自動車ディーラーの会長。あそこにいるのは有名な不動産屋の社長ね。」

 

 資本家の知り合いも、探せば何処かにいるだろう。まあ、イギリスだけではない。私と友好関係がある世界中の人間が今日は集まる。

 

「貴様に私以外のまともな知り合いがいたことに驚きを隠せないよ、私は。」

 

「え? 私的にはお前はまともじゃない知り合い筆頭なんだけど。」

 

「私の何処が変なんだ? このさいだから言ってみろ。」

 

「う~ん、存在?」

 

「違いない。」

 

 私と資本家は二人してケラケラと笑う。取りあえず、資本家のビルに生首を配達しよう。冷蔵便で。私は資本家と別れると、咲夜を探し歩き始める。ホールには人が増えてきており、給仕の妖精メイドもパタパタと動き始めた。

 

「お探しですか? お嬢様。」

 

 私が探していることを察したのか、私の前に咲夜が姿を現す。流石にマグルが多いので大っぴらげに時間停止を使うことができない為、瞬間移動のような現れ方はしない。

 

「そろそろ時間よね。人の入用はどう?」

 

「受付で聞いてきますね。」

 

 そう言うと、咲夜はホールの外へと駆けていく。そして三分としないうちに帰ってきた。

 

「大体八割ほどです。始まってからもう少し増えるかと。」

 

「そう、案外集まったわね。そろそろ始めるわよ。準備なさい。」

 

「畏まりました。」

 

 咲夜は私に軽く頭を下げると、壇上横にある司会者席へと移動する。そしてマイクの電源を入れた。

 

「本日はクリスマスパーティーにご参加頂き、誠にありがとうございます。主催のレミリア・スカーレット嬢による挨拶が御座います。」

 

 咲夜の声を聞いて、参加者の殆どが壇上に注目する。私は壇上に上がると、マイクを手に取った。

 

「今日は私が主催するパーティーに来てくれてありがとう。……以上よ。あまり長々と挨拶しても疲れるだけだしね。このパーティーの目的は主に社交よ。素敵な話が聞けることを願っているわ。」

 

 私はマイクを置いて優雅にお辞儀をする。割れんばかりとはいかないが、決して小さくない拍手がホールに響いた。さて、ここからは自由だ。私が壇上から降りると参加者の何人かが挨拶しに私の前に来る。私は握手をして二言三言近況を報告しあった。

 

「やあ、どうも。初めましてでしょうか。スカーレット嬢。」

 

 私は声のした方へと振り返る。そこにはイギリスの首相が立っていた。いつぞやマフィアから助けたあの政治家である。そういえば顔を合わせるのはこれが初めてだったか。

 

「これはこれは。招待に応じてくれて嬉しいわ。」

 

「いやなに。何度も相談に乗ってもらっている礼もかねてだよ。それにしてもこんな綺麗なお嬢さんだったとは。お目に掛かれて光栄だ。」

 

 普通驚くところだと思うのだが、魔法界と関わり始めて少し頭がおかしくなったのだろうか。それとも真正のロリコンなのかもしれない。まあ、私の知り合いにロリコンは多いので、別にそれで軽蔑したりはしないが。

 

「ええ、こちらこそ。まさか貴方がイギリスの首相にまで登り詰めるとはね。これからも変わらぬお付き合いを。」

 

 一瞬、ここでこいつを魅了に掛けておこうかという考えが頭をよぎった。こいつを自由に操ることが出来たら、イギリスを支配することが出来る。……いや、こいつにそこまでの権力はないか。私は首相と握手を交わした。

 

「ところで、シリウス・ブラックのことなのだが……。魔法省からはあれからなんの連絡もない。それこそ夏に訪問してきたことが嘘だったかのようにだ。何か知らんかね?」

 

「魔法省も適当にしか仕事してないのね……奴なら北の方に潜伏中よ。少し前に魔法界の新聞に載っていたわ。まあ、奴に関しては余り警戒する必要もないけどね。」

 

「というと?」

 

「奴は狂ってはいるけど頭がいい。ここまで大々的に追われている状況で、証拠を残すようなことはしないということよ。魔法界でならいざ知らず、警察の目の届くところで殺人なんか起こさないでしょう。それに、貴方としてはこっちの世界に被害がなかったら魔法界のことなんてどうでもいいんでしょ?」

 

 首相は困ったように苦笑いすると、頭を掻く。どうやら図星のようだった。

 

「彼らはイギリス魔法界と言うが、私としてはどうも同じ国のようには思えんのだ。むしろ他国に国が侵略されているようでね……。あまり向こうでの出来事をこちらに持ち込まないで欲しい。」

 

「まあ、こちらと向こうは相容れないからねぇ。魔法使いという人種は魔法を使えない人間を完全に見下しているし。あ、それはこちらも変わらないか。貴方としても魔法使いを気の狂った変人程度にしか考えていないでしょう?」

 

「流石にそこまでは…………考えていないとも。」

 

 どうやら、そのように考えているようだった。

 

「まあ、魔法が便利過ぎて進化することを忘れた人種だから。甘ったれた人間が多いのよ。」

 

「それはこちらも同じことが言えそうですがな。」

 

「そうかもね。」

 

 私は首相に軽く手を振るとその場を離れる。テーブルの方へ行き、少し料理をつまんだ。

 

「ワインをどうぞ。」

 

 いつの間にか横にいた咲夜が私にワインを手渡してくる。いつも思うが、気が利きすぎではないか? これはパーフェクトメイド長の称号を与えてもいいレベルである。まあ、うちにそんな役職は無いが。

 

「あら、ありがとう。中の様子はどう?」

 

「てんてこ舞いですわ。リドルなんか今にも死にそうな顔してましたよ。」

 

 確かリドルが妖精メイドの大半を操っているはずである。妖精には考える頭がない。故に、難しいことをやらせるためにはリドルが考えて指示を出さなければならないのだ。聖徳太子もびっくりな曲芸である。

 

「料理のほうは? 食材のストックは大丈夫?」

 

「ストックは大丈夫なのですが、そろそろ作り置き分が無くなりますね。ボチボチ作り足しにキッチンに行ってきます。」

 

「そう、中のことは任せるわよ。」

 

 咲夜は一礼すると扉の奥へと消えていく。だが三秒もしないうちに料理が載ったカートを押しながら戻ってきた。表情は笑顔だが、化粧が若干濃くなっている。どうやら咲夜の中では相当な時間が流れたようだ。一体止まった時間の中で何時間キッチンに籠っていたのか少し気になるが、聞くだけ野暮というものだろう。

 私はワイン片手にパーティーホールを徘徊し、その場その場で思い思いの会話を繰り広げる。面白い話も沢山聞くことが出来た。

 

 

 

 

 

 1994年、一月。クリスマスも年越しも終わり、紅魔館は落ち着きを取り戻していた。ついでに言えば、咲夜の能力もこの休み中にパワーアップしたらしい。クリスマスに酷使しすぎたせいで限界を超えて覚醒したのかと思ったが、話を聞く限りそうではないようだ。どうやら自分の能力を枠に当てはめて考えすぎていたようで、以前はかなり能力を制限したような状態だったようだ。何とも勿体ない話である。

 パチェに聞いた話ではパワーアップしたことによって、咲夜の能力は文字通り最強になったらしい。今までの制限が消えたことによって、咲夜は私であろうと瞬殺することが出来る。つくづく私の従者であって良かったと思った。

 そんな咲夜は今ホグワーツの制服を着て私の前に立っている。今からホグワーツに向けて出発するところだ。フランには既に挨拶を済ませているらしい。私は玄関で首にマフラーを巻き付ける咲夜の様子を眺めていた。

 

「咲夜ちゃんもう少しあったかくした方がいいよ? ほら、手袋。」

 

 美鈴が咲夜に毛糸の手袋を手渡している。だが、咲夜はそれを丁重に断った。

 

「気持ちだけ受け取っておきますね。毛糸の手袋ではナイフが投げられませんので。杖を取り落とす危険性もありますし。」

 

「でも寒くない?」

 

「私としては美鈴の恰好のほうが寒そうに見えるわよ?」

 

 私は二人の会話に口を挟む。美鈴は何時ものチャイナ服こそ着てないものの、ジーンズにセーターと十分寒そうな恰好だった。

 

「私はほら、馬鹿だから風邪引かないんですよ。でも咲夜ちゃんは所謂天才でしょ? 体調崩しそうじゃないですか。」

 

「……確かに。」

 

「いやお嬢様、大丈夫ですから。例え体調を崩したとしてもマダム・ポンフリーが三秒で治してくれますわ。」

 

 まあ、冗談はこのくらいにしておこう。私は咲夜の頭を撫でる。何というか、ここ数年で背もすっかり抜かれてしまった。こうして頭を撫でられなくなる日もそう遠くないだろう。咲夜はむず痒そうに目を細める。その愛くるしい仕草に思わず抱きしめたくなるが、それは流石にこちらが恥ずかしい。

 

「行ってらっしゃい、咲夜。」

 

「行って参ります。お嬢様。」

 

 私が手を放すと咲夜は深く頭を下げる。次帰ってくるのは夏になるのか。それまで少し寂しくなるだろう。私が手を振ると咲夜と美鈴は玄関から出ていった。私は小さくため息をつくと大図書館の方へと降りる。こういう時はパチェに泣きつくに限る。限るのだが……そういえば今の図書館にはリドルがいるんだった。私は本を読んでいるパチェの後ろに移動すると、そのまま抱き上げた。

 

「レミィ、読みにくいわ。降ろして。」

 

 何か言っているが、取りあえず無視だ。私はパチェを肩に乗せるとフランの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「何かが結界を越えたわ。」

 

 1994年三月。私が書斎で仕事をしていると、いきなりパチェの声が聞こえてくる。まあ、パチェが唐突に話しかけてくることなどいつものことなのだが。にしても結界というのは、紅魔館を包んでいる結界のことだろうか。

 

「壊されたってこと? だとしたら一大事だけど。」

 

 だが、パチェの声色からしてあまり焦りは感じない。あら珍しいとでも言わんばかりにパチェは落ち着いていた。

 

「もともと紅魔館周辺に張られている結界は物理的なものじゃないから。認識を阻害する結界よ。それに、特殊な魔法が掛けてあって、自分の利益のために紅魔館を探そうとしている者以外は普通に通してしまうし。」

 

「それこそどうしてよ?」

 

 パチェなら完全で完璧な結界を張ることも可能だと思う。だが、パチェの話を聞く限りでは、そのような結界を張れない明確な理由があるらしかった。

 

「梟が入ってこれないでしょ?」

 

「あー、なるほどね。で、今回結界を越えたのは人間?」

 

「ええ、門の前で倒れているからそのうち美鈴が見つけるでしょう。」

 

「倒れてるの?」

 

 私は窓を開けて門の方を見る。確かに門から左程離れていない位置に人影が見えた。あの位置ならパチェの言う通り、そのうち美鈴が見つけるだろう。それに、気配がかなり弱い。どうやら死にかけているようだった。

 

「紅魔館に害をなせるほど力を残していないわ。放っておいて大丈夫よ。」

 

 私は窓を閉めると椅子に座りなおす。なんにしても、このようなことは初めてだ。少し結界の在り方を見直させるべきだろう。

 

「パチェ。もう少し結界を強化しておきなさい。ここには貴方やフランもいるのよ。」

 

「ええ、そうするつもりよ。」

 

 プツリという音と共に魔法具は沈黙する。どうやら、パチェも結界を越えた者にあまり興味がないようだった。私は先ほどまで取り組んでいた書類仕事を再開した。

 

 十分ほど経っただろうか。廊下をバタバタと走る音が聞こえてくる。この足音は美鈴だ。というか、紅魔館に廊下をこのように走るやつは美鈴しかいない。太ももから下を切り落としてやろうかとも思ったが、多分腕で同じ速度で走るだけなのでやめた。

 

「おぜうさまー! 庭で人間捕まえました! 飼っていいですか?」

 

 予想の斜め上の提案に、私は椅子から落ちそうになる。次の瞬間、書斎のドアが勢いよく開き、美鈴が入ってきた。

 

「飼っていいですか!?」

 

「飼うって……ペットてこと? というか貴方ノックぐらいしなさいよ。そして質問の答えだけど、ダメよ。」

 

「やだなぁ。ペットじゃなくて家畜ですよ。食べるところがないぐらいガリガリなので、太らせてから食べようかと。ほら、昔話で似たような話があるじゃないですか。ヘンゼルとなんちゃらほいみたいな。」

 

 確かにヘンゼルとグレーテルはそんな感じの話だ。だが美鈴は一番大切な話の落ちを忘れているようである。

 

「それだと貴方最後に暖炉に叩き込まれるわよ。……まあ、責任もって管理するなら別にいいわよ。ただし、家畜なら家畜なりに残飯食べさせるとかして食費を抑えなさいね。それと、美味しく育てること。」

 

「やったー、じゃあ早速拾ってきますね!」

 

 美鈴は手を叩いて喜ぶと窓を開けて庭に飛び降りた。なんというか、パチェほどではなくとも、リドル程度の落ち着きは持ってほしいところである。かといって真面目な態度が取れないのかと言われれば、必ずしもそうではない。そういう態度が必要な場面では、いくらでも真面目になれるのが美鈴である。だからこそ困っているのだ。

 窓の外を見ると美鈴が男を乱暴に担ぎあげていた。どうやら館の中へ持っていくようだが、フランの狂気は大丈夫なのだろうか。いや、大丈夫なはずがない。グリムでさえ一か月持たなかったのだ。それも外で飼育してである。これは太らせるどころか何か食べさせる前に死亡するだろう。

 私は美鈴のことを頭の隅に追いやり、書類に集中する。今進めているのは私が所有している土地を売却するための書類だ。紅魔館を別の世界に移転するとなると、外に資金を持っていても仕方がない。適当に叩き売りしてしまえばいいのだが、それだと足が付く可能性がある。紅魔館を移転させる計画は、咲夜にも話していないほどの秘密だ。そんなことで悟られるわけには行かない。

 

「レミィ、ちょっと大図書館に来て。面倒なことになったわ。」

 

 またもやパチェの声が魔法具から聞こえてくる。それにしても面倒なことになったとは、なんのことだろう。

 

「今度はどうしたのよ。」

 

「美鈴が拾ってきた人間。一昨年、頭の後ろにヴォルデモートを寄生させていたクィリナス・クィレルよ。ほら、ホグワーツで闇の魔術に対する防衛術の教師をしていた。」

 

 クィレル、確かにその名前には聞き覚えがあった。なんにしても、偶然迷い込んだ人間がそのような曰く付きの人間とは、これも運命なのだろうか。私は書類を軽く片付けると大図書館へと急いだ。

 

「待ってたわ。」

 

 私が大図書館に入るとパチェがこちらに声を掛けてくる。パチェの前には先ほどの男が横たわっており、その横には美鈴もいる。

 

「待ってたって言われてもねぇ。かなり弱っているけど、どういう状態?」

 

「衰弱もあるけど、強力な呪いが掛かっているわ。これはユニコーンの血によるものね。そういえばヴォルデモートを匿っていた時にそれを生き永らえさせるために飲んでいたんだったわね。解除する?」

 

「取りあえず解きなさい。こいつには色々話を聞きたいし。あわよくば、計画に組み込めるかもしれない。」

 

「これをですか? 私の食料……。」

 

 美鈴がクィレルを指さして呟いた。というか私の食料って……。自分で食べるために太らせるつもりだったのか。

 

「これでも貴重な資料よ。喋れるぐらいまで回復させて、真実薬で洗いざらい情報を吐いてもらうわ。ここに迷い込むぐらいだもの。そのまま殺してしまっても何の問題もないはずよ。」

 

 パチェは本棚から一冊の魔導書を取り寄せるとページを捲り、複雑な呪文を唱える。

 

「取りあえず、ユニコーンの血の呪いは解けたわ。あとは衰弱した体を元に戻せば終わり。」

 

 パチェはポケットから賢者の石を取り出すと何処からともなく取り出した水瓶の中に放り込む。そしてその水瓶に何度か魔法を掛け、特殊な魔法薬にした。

 

「薬を作っても飲めなきゃ意味ないでしょ。」

 

「関係ないわ。」

 

 次の瞬間、水瓶の中の液体が消え去った。

 

「飲めないんだったら直接胃の中に送り付けるだけよ。」

 

「お、クィレルではないですか。これは一体どうしたのです?」

 

 ある程度の処置が終わると同時に、リドルが本棚の影から姿を現す。どうやら、かなり遠くの本棚にいたらしく、今騒動に気が付いたようだった。

 

「馬鹿が拾ってきたのよ。事情は今から聞くところ。」

 

 クィレルの意識が戻る前に、パチェが目隠しを施す。これは念のためだ。美鈴はクィレルを持ち上げると椅子に座らせ、縛り付ける。私たちはそれを四方から囲んだ。既にクィレルの顔色はかなり良くなっている。そろそろ刺激を与えたら目が覚めそうだった。

 

「起きろこら。」

 

 美鈴がクィレルの禿げ頭をバシバシ叩く。四発目が入る前にクィレルがうめき声を上げて首を持ち上げた。

 

「私は……。」

 

「気が付いたようね。クィリナス・クィレル。私の質問に答えなさい。」

 

「……分かった。」

 

 どうやら先ほどの魔法薬に真実薬が含まれていたようだ。私は念のために突拍子もない質問を飛ばす。

 

「好きな食べ物は?」

 

「ホットドッグ。」

 

 随分とフランクな答えが返ってきた。なんにしても、ここまで突拍子もない問いに一瞬の間もなく答えたところをみると、完全に真実薬が効いているようだ。私はパチェと頷き合うと、本題に入った。

 

「1992年、お前は賢者の石を持ってホグワーツを去った。そのあとのことを話しなさい。」

 

「私は……私は屋敷しもべ妖精の力を借りて、あの場を離れた。ダンブルドアが迫っていたからだ。私は姿現しを繰り返し、アルバニアへ逃亡した。私は石を持って我が主と隠れ家へと向かった。賢者の石が偽物であると気が付いたのはその時だ。我が主は怒り狂い、私を罰した。我が主は私に失望し、ユニコーンで呪われた私の体を捨て、消えた。」

 

「アルバニア……予想通りね。」

 

 パチェがぽつりと呟くが、本当に予想できていたのだろうか。疑わしいところである。パチェは素面で見栄を張るから厄介だ。私は質問を続ける。

 

「そのあと、お前はどうしたの?」

 

「私は呪われた体で彷徨った。行く当てもなく流されるままに彷徨い。やがて、力尽きた。」

 

 まあ、これは予想通りだ。

 

「何故賢者の石は偽物だったの?」

 

 一見おかしな質問だが、これには先ほどの質問以上の意味がある。誰が賢者の石をすり替えたと思っているのか。その人物によってクィレルの処遇が変わる。

 

「ダンブルドアがすり替えたのだ。偽物を城に隠し、本物は自ら携帯していたのだろう。」

 

 私はもう一度パチェと顔を見合わせた。つまりこいつは咲夜が賢者の石をすり替えたことを知らない。

 

「貴方に賢者の石を手渡した少女。彼女についてはどう思っている?」

 

「彼女は今頃アズカバンに収容されているだろう。良くてホグワーツを退学といったところか。何せ我が主、ヴォルデモート卿の復活を手助けしたのだからな。」

 

 どうやらクィレルは、咲夜のことを死喰い人か何かと勘違いしているようだった。だが、咲夜を仲間だと思っていることは利用できる。それに、ヴォルデモートに首ったけなところも簡単な錯乱呪文を使うことで十分利用できそうだった。

 

「何故ヴォルデモートに従うのかしら。貴方はマグル学の教員だったはずだけど。」

 

「私は子供の頃から力に憧れていた。だが、小さい頃から私は他人の力を借りないと力を得ることは叶わなかった。力しか取り柄のないトロールを操ったり、力がないことを隠すためにマグル学の教員になったりした。だが、私は旅行中に力に出会った。圧倒的な力だ。これを取り込み、操ることが出来たら、私は人生の高みに立つことが出来ると考えたのだ。」

 

「ヴォルデモートを、取り込む?」

 

「そうだ。奴は希薄な存在だった。復活させ、取り入れば誰も私に逆らえなくなる。」

 

 なるほど、こいつは純粋に力に惹かれ、そして欲している。これなら操り、手駒にすることも出来るだろう。私はゆっくりクィレルに近づいていく。ここからは私の出番だ。私は右手でクィレルの首に触れると、肌の上を滑らし頬へ持っていく。そして静かに包み込んだ。

 

「力に溺れ、捨てられた男よ。貴方はあの程度で満足できたの? あんな死にぞこないを寄生させても、手に入るのは虚しさだけ。それはよくわかったでしょう? それより、もっと良いものが欲しくない? もっと甘美で、計り知れない力が。並の人間には辿り着くことさえ出来ない魔法が。ねぇ、クィレル……」

 

 私は左手で目隠しを取る。クィレルは眩しそうに何度か瞬きすると、真っすぐ私を見た。

 

「私に仕えなさい。クィリナス・クィレル。この偉大な吸血鬼であるレミリア・スカーレットにね。」

 

 吸血鬼が扱える能力の一つに魅了というものがある。これは文字通り、対象を魅了し、自由に操る能力だ。並の人間なら、無条件で私に忠誠を誓わせることが出来る。精神力が強いと掛けることができないが、それでも条件を整え、相手が弱っていれば十分可能なのだ。

 クィレルは恍惚とした目で私に手を伸ばした後、電源を切るように気絶する。次目覚めた時には、私の下僕になっていることだろう。私はクィレルの拘束を解くと楽な体勢にしてやる。そして軽く息をつき、机に座った。

 

「パチェ、美鈴、リドル。取りあえず緊急会議よ。咲夜が居ないことが残念だけど、今回に限っては好都合ね。」

 

 私が呼びかけると、他の三人も机に付く。真っ先に口を開いたのはリドルだった。

 

「もしよろしければ僕が咲夜との中継役になりますが。」

 

「言ったでしょう。好都合だと。咲夜には出来る限り情報を伏せておきたい。能力がパワーアップして情報が漏れなくなったという話は聞いているけど、相手はあのダンブルドアよ。何があるか分からないわ。それに、私はあの子のありのままの行動を気に入っているの。咲夜には自由に動いてもらいたいのよ。」

 

 それに、この話し合いは咲夜抜きで行わなければ意味がない。

 

「あの子は意外と頑固だから。」

 

「レミィ、本題に入りなさいな。」

 

 パチェがじとっとした目で注意してくる。確かに少し子煩悩ぽかったかもしれない。私は小さく咳ばらいをすると、本題に入った。

 

「私の計画にクィレルを組み込もうと思うのだけれど、どうかしら。以前までの計画では咲夜が両陣営に潜入し、情勢を操作するというものだったわ。これは咲夜の能力なら問題なく行えることだと思ったからよ。でも、咲夜よりも死喰い人に近しいものがここにいる。そう、クィレルよ。クィレルなら咲夜より自然に、長時間、さらにヴォルデモートが復活していない今から潜入すれば、組織の上部に食い込めるはず。」

 

「つまり、咲夜の代わりにクィレルを使うということよね。信用しても大丈夫なの?」

 

 パチェがクィレルを指さして聞く。どうやらリドルと美鈴も同じことを考えているようだった。まあ確かに、今日ここに来たばかりのクィレルを信用しろというほうが難しい話だろう。

 

「勿論、暫く様子を見るわ。でもね、吸血鬼というのは忠誠心というものに敏感なの。それに今さっきクィレルに魅了を掛けたし。」

 

「潜入がバレて真実薬を使われる可能性があるのではないでしょうか。」

 

「それはパチェの役割よ。真実薬の解毒剤ぐらい簡単に調合できるでしょ?」

 

「まあ出来るけど……。」

 

 パチェに掛かれば真実薬の解毒剤の調合など造作もないことだろう。それに他にも便利な魔法具を沢山持っているはずだ。

 

「はいはい! 質問質問! そもそもこれ使えるの? 一回咲夜ちゃんに出し抜かれた雑魚でしょ?」

 

 美鈴が言うことも一理ある。それに、例え咲夜がいなくとも賢者の石を盗み出すことは叶わなかっただろう。

 

「並の魔法使い程度の働きは出来そうだけど、多くは期待できないわね。その辺はパチェとリドルで支えて頂戴。何にしても、クィレルが闇の陣営をコントロールできる立場につくことが出来たらかなり戦況を操りやすくなる。今送り込めばそれが可能なのよ。それに、下手に咲夜が両陣営に手を出すより、仕事の効率は上がるはずよ。」

 

 咲夜が死喰い人になる場合、学校に行っていない間、一部の時間しか死喰い人として活動することができない。それに比べ別にここの従者でも何でもないクィレルなら、時間に縛られず活動を行うことが出来る。

 

「まあ、クィレルを仲間にすること自体は特に構わないわ。それっぽいのがもういるし。でも、クィレルは一度ヴォルデモートに見捨てられているわ。そんなやつをもう一度仲間にするかしら。」

 

「その辺はクィレルに頑張ってもらいましょう。何か手土産を持たせるのもありかもしれないわね。」

 

「ヴォルデモートは開心術の使い手です。何か対策をしないとこちらの情報が漏れてしまいますね。」

 

「その辺はパチェが。」

 

「面倒くさいところ完全に私に丸投げじゃないの。」

 

 それは仕方のないことだ。私には難しい魔法は使えない。というかそれぐらいしか取り柄がないのだから頑張ってほしいところだ。

 

「信頼してるのよ。」

 

 私はパチェににっこり微笑む。パチェは恥ずかしそうに顔を伏せた。ちょろい。このちょろさを利用されないように、パチェはしっかり紅魔館で守らなければ。

 

「なんにしても、このまま様子を見て、使えそうなら使うという方針でいいわね。」

 

「いいわよ。」

 

「OKです。」

 

「大丈夫です。」

 

 全員の同意が得られたところで、取りあえずこの緊急会議は解散になった。パチェはクィレルに呪文を掛け、汚れた服装を完璧に綺麗にする。いつの間にか瘦せ細っていた体も元に戻っていた。どうやら魔法薬が完全に効いてきたようだ。

 

「美鈴、クィレルを客室にぶち込んでおきなさい。杖は取りあげておくこと。」

 

「ところで私の食料は?」

 

 美鈴がクィレルを肩に担ぎながら言った。そんなもの、無いに決まっているだろう。

 

「そうね、また新しいの捕まえてきなさいな。」

 

「はーい。」

 

 美鈴はクィレルを担いだ状態で大図書館を出ていく。そういえば、全く気にしてなかったが、フランの狂気は大丈夫なのだろうか。真実薬での尋問の際には結界は張っていなかった。それは今もである。クィレルは今現在、フランの狂気に晒されている状態だ。

 

「パチェ、狂気のほうはどうなっているの? なんだか大丈夫そうな感じがするけど。」

 

「頭の後ろにヴォルデモートを寄生させていたような男よ。近づきすぎなければ大きな影響はないでしょうね。少なくとも、私の学生時代よりかは肝が据わっていると思うし。」

 

 それならば安心なのだが、せっかく手に入れた手駒が一週間の消費期限付きだったとしたら使い物にならない。フランの狂気が大丈夫か。そこも見極めなければならないだろう。取りあえず一段落はしたので、仕事に戻ることにする。私はパチェに手を振ると、リドルの横を通って大図書館を後にした。




クリスマスパーティー

咲夜がフランから三重スパイの話を聞く

咲夜の能力強化

咲夜、ホグワーツに出発

クィレル、紅魔館に迷い込む

クィレル、仲間になる←今ここ

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