紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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――――――ッ!!!
自分は全く悪くないのに理不尽に謝らないといけなくなることってありますよね。社会の辛さを噛みしめる今日この頃です。辛いので寝ます。
誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


アルバニアやら、宿屋やら、チケットやら

 1994年、七月。今日は咲夜がホグワーツから帰ってくる日だ。あれからブラックが捕まったという報道は無いので、私の見た通りに、ブラックは逃走したのだろう。私は咲夜の帰ってくる時間に合わせてかなり早めに起きると、服を着替える。多分そろそろ図書館に着いた頃だろう。美鈴が迎えに行っているはずなので、皆が大図書館に揃うことになる。良い機会なので少し今後の計画について話しておいた方がいいだろう。

 階段を下り、廊下を曲がり、大図書館の中に入る。どうやら私の見立て通り既に咲夜は帰ってきたようで、今は新入りのクィレルと話をしているところだった。

 

「だが、ヴォルデモート卿が居なくなった今、それは必要ない。吸血鬼に仕える身でありながらニンニクの匂いを振りまくなんて滑稽もいいところだ。」

 

「まあ嫌いなだけであって弱点ではないのだけどね。」

 

 私はクィレルの言葉に軽く反論すると、咲夜の方に向き直る。

 

「ただいま戻りました。お嬢様。」

 

 咲夜は私に向かって丁寧にお辞儀をした。少し背が伸びただろうか。全体的にしっかりとした顔立ちになってきているような気がする。

 

「ええ、早速井戸端会議をしましょう! パチェ、黒板。」

 

 私はパチェに黒板を出させると、その前にある椅子に座る。パチェは面倒くさそうに黒板の前に立った。

 

「さて、まずは報告を聞こうかしら。咲夜、シリウス・ブラックはどうなった?」

 

 咲夜はホグワーツで起こったことを説明し始める。どうやら私が見た通り、ブラックはヒッポグリフによって逃亡したらしい。咲夜の話を聞く限りでは、あの後結構な騒動があったようだ。

 

「このことを知っているのは誰と誰?」

 

「何人かの生徒とダンブルドア先生は信じています。ファッジ大臣などの耳にも入ったようですが、生徒のたわごとだと思われているでしょう。」

 

「咲夜とブラックの関係は?」

 

「良好なものだと自負しております。ダンブルドア先生と一時期敵対するような関係になりましたが、最終的には和解を。」

 

「なるほどね……。」

 

 咲夜の話を簡単にまとめると、ハリーたちはブラックが無罪であるということを知り、ロンのネズミが本当の裏切者のペティグリューだったということを知る。その後なんやかんやあってブラックは捕まったが、逆転時計で過去に戻ったハリーたちに助け出されたと。私の予想通りじゃないか。

 今度はクィレルに質問を飛ばす。

 

「クィレル、今現在ヴォルデモート卿が何処にいるかわかるかしら?」

 

 アルバニアの森にいる可能性が高いが、あくまで可能性が高いだけだ。

 

「別れてから二年経っているので、何とも……。ですがヴォルデモート卿は自らにゆかりのある土地にいると思われる。」

 

「それは何故?」

 

 私がクィレルに聞き返すと、クィレルの代わりにリドルがその質問に答えた。

 

「ああ、僕ならそうするだろう。大人になりさらに誇り高くなった僕なら尚更だ。」

 

「ふむ……。」

 

 私はパチェが黒板にまとめた情報を見ながら、今後の策を考える。と言っても、この分なら大きく修正を加える必要もないだろう。

 

「よし。咲夜はダンブルドアにつきなさい。クィレルはヴォルデモートね。パチェとリドルは引き続き紅魔館。美鈴は知らないわ。」

 

 軽く冗談を飛ばすと、美鈴が私に泣きついてくる。私は美鈴の頭を叩いて、無理やり引きはがした。

 

「冗談よ。貴方がいなくなると紅茶を淹れる使用人がいなくなるでしょ?」

 

 さて、咲夜に今後の方針を伝えたところで、今日のところは解散にしよう。

 

「クィレルはこれからヴォルデモート卿の追跡と元死喰い人への接触。咲夜は私の指示ではなく、自分の意思でダンブルドア側についているという意思表示をしておきなさい。以上解散!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいお嬢様。話が飛躍しすぎていてついて行けません。」

 

 私が踵を返し大図書館を去ろうとすると、咲夜に呼び止められる。咲夜がこのようなことを言うとは珍しい。確かに少し説明を省いたが、そこまで飛躍していただろうか。

 

「そうね、今まで通りハリー・ポッターやダンブルドアと仲良しこよししてればいいのよ。初めは三重スパイとして両陣営を駆けまわってもらう予定だったけど、クィレルがいればその必要もないわ。クィレルが死喰い人に戻って向こうの情報をこっちに入れてくれるみたいだし。」

 

「お嬢様は一体何をしようとしているのですか? それによって今後の私の判断も変わってくるものかと……。」

 

 お、ついに咲夜のほうからこの質問が来たか。今まで意図的に伝えていなかったが……。さて、どう伝えたものだろうか。取りあえず、言葉巧みに言い包めることにした。

 

「そうね。一つ言えることは魔力が必要なの。とてつもなく大きなね。後は生贄。これも大量にいるわ。……あと、行動しにくいなら助言をあげる。」

 

 私は咲夜に一歩近づく。

 

「こっちの利益や不利益を考えずに自由にやりなさい。基本的には死喰い人は敵だと判断してダンブルドアの味方をしていればいいわ。今重要なのは、ヴォルデモートを復活させることと、ダンブルドアとヴォルデモートの陣営が衝突すること。」

 

 咲夜は私の言葉を聞いて、少し考え込む。そして結論に辿り着いたのかぽつりと呟いた。

 

「お嬢様は戦争を望まれているということでしょうか。」

 

 惜しい。私が目指すはその先だ。戦争は、あくまでそこに至るための過程でしかない。

 

「結果が大事だけど、過程も楽しまなくちゃね。生きた駒でチェスができるのですもの。」

 

 私はケタケタと笑いながら大図書館を後にした。まあ、精々混乱するといいだろう。咲夜には自分の力で考えて行動してもらいたい。咲夜に足りないのは経験値だ。この経験で咲夜がまた一つ成長できたらと、期待をしておこう。逆に言えば、クィレルにはしつこいぐらい指示を出す予定だ。ヴォルデモートを復活させるというのは並の人間に出来ることではない。紅魔館の粋を集めて情報操作と隠蔽に取り組まなくては。

 

「これから忙しくなりそうね。まず手を付けるべきはクィレルのほうからかしら。今頃パチェが全力でヴォルデモートの行方を追っているでしょうし。見つけたらそのままクィレルを送り込むでしょうね。」

 

 私は書斎に戻ると、新品の羊皮紙を一枚取り出す。

 

「そういえば、咲夜はペティグリューを逃がしたと言っていたわね。あれはどうなるかしら。そのまま行方をくらませるか、それとも……なんにしても、何か起こりそうだわ。」

 

 羊皮紙に今後の計画を書き記す。それを机の上に置いて眺めると、大きく伸びをした。

 

 

 

 

 

 

 咲夜が帰ってきた次の日の晩。パチェから連絡があった。どうやらヴォルデモートの所在が掴めたらしい。ヴォルデモートは今のところアルバニアの森に一人で潜伏しているということだった。

 

「了解。今そちらに向かうわ。」

 

 私は書斎を出て大図書館に移動する。そこには準備を進めているパチェ、リドル、クィレルの三人の姿があった。図書館の床には大きな魔法陣が一つ。多分クィレルをアルバニアまで飛ばすためのものだろう。アルバニアまで二千キロほどの距離がある。普通に姿現しするには少し遠い距離だ。

 

「さて、おさらいしておくわよ。クィレル、貴方はヴォルデモートに見捨てられたあと自分のふがいなさに失望し、必死で魔法の修行をした。そして、自分でも満足のいく魔法の腕を身に着けることが出来た為、ヴォルデモートの元に戻ってきた。」

 

「心得ております。」

 

 このような設定なら、すんなりヴォルデモートの元に戻ることが出来るだろう。

 

「ヴォルデモートと接触したらアルバニアを離れてイギリスを目指しなさい。」

 

「イギリスにリドル家の館がある。僕の父が住んでいたところだ。多分僕ならそこに潜伏するだろう。」

 

「畏まりました。」

 

 クィレルは私とリドルに恭しく一礼すると、魔法陣の真ん中に立つ。

 

「じゃあ飛ばすわね。ヴォルデモートに感知されたくないからこれから先私たちの接触はほぼ無いと思いなさい。」

 

 パチェは魔法陣に手をかざし、魔力を込め始める。次の瞬間クィレルの姿が消えた。どうやら無事転送できたようだ。

 

「ふう、成功ね。多分イギリスに入る頃には連絡が来ると思うわ。」

 

 パチェはストンと椅子に座る。私もその向かい側に腰掛けた。

 

「クィレルをどの辺に飛ばしたの? 流石にヴォルデモートの真ん前じゃないわよね?」

 

「アルバニアの首都のティラナよ。ヴォルデモートがいる森からかなり離れているけど、悟られないようにするには距離を取らないとね。多分順調にいけば明日には接触できるでしょう。」

 

「アルバニアと言えばつい最近政権が移って鎖国状態が解除されたけど、急速に民主化が進んでいるんだっけ。ヴォルデモートがアルバニアに渡ったのは鎖国状態の頃だったかしら。」

 

 アルバニアという国は結構滅茶苦茶な運命を背負っているが、ヴォルデモートは何故アルバニアに向かったのだろうか。何か思い入れがあるのか、それとも他国の干渉が少ない鎖国状態の国に逃げ込んだのか。

 

「そういえばクィレルが最初にヴォルデモートとアルバニアで出会ったとき、アルバニアはまだ鎖国状態じゃない。なんだかアルバニアって人気ね。魔法使いにとって、何か特別な場所だったりするの?」

 

「そんなことは無いと思うけど……。」

 

 まあ何にしても、ヴォルデモートがそこにいることはわかっているのだ。私は大きく伸びをすると魔法陣の片づけをしているリドルを観察した。

 

「あれもどうにかしないとねぇ。」

 

 私につられてパチェもリドルを見る。ヴォルデモートを殺すにはリドルを殺さないといけない。リドルを殺さないといけないということは咲夜の友達を殺さないといけないということだ。どうしようもなくなれば、殺すのもやむなしだが、出来れば生きたまま残しておきたいというのが本音だ。

 

「まあ、その方法は空いた時間にでもリドルに調べさせるわ。彼もまだ死にたくはないでしょうし。」

 

「取りあえず、クィレルから何か連絡があったら報告して頂戴な。私は書斎に戻るわね。」

 

 私は椅子から立ち上がるとパチェに手を振り大図書館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 アルバニア……なんというか懐かしいものだ。数年前にここに旅行に来た時に、私はヴォルデモートと出会った。そこから紆余曲折あり、お嬢様のもとに辿り着いたことを思うと、運命を感じざるを得ない。

 私は首都のティラナに降り立つと姿現しを用いてヴォルデモートが潜伏している森の近くの町へと移動する。今日はこの辺で宿を取り、明日捜索を開始しよう。私は街を少し歩くと、目についた宿屋に入った。受付で金を払い、二階へと上がる。そして借りた部屋に入ろうとしたその時、私は一人の女性と鉢合わせた。

 

「あ、あなたまさかクィリナス・クィレル? どうしてこんなところに……。」

 

 私は逃げられる前にその女性の腕を掴み、杖を突きつける。その女性には見覚えがあった。バーサ・ジョーキンズ。魔法省の職員だ。まさかこんなところに魔法省の職員がいるとは……。なんにしてもこいつの記憶は消さなければならないだろう。

 

「いや、どうせ記憶を消すなら、その前に可能な限り情報を引き出すか。手土産になるような情報があるかもしれないしな。」

 

「や、やめ……。」

 

 ジョーキンズに杖を突きつけたまま、貸し与えられた部屋に入る。そこにジョーキンズを投げ転がし、石化呪文を掛けた。

 

「ペトリフィカス・トタルス、石になれ。少しそこで大人しくしていろ。」

 

 私は部屋に防音呪文を掛け、周囲に音が漏れないようにする。あとは他に宿泊客がいないかだ。もしマグルがいるようなら今晩はゆっくりと眠ってもらおう。私は扉を一つずつ開け、中に誰もいないかを確認していく。そのうちの一つの部屋がジョーキンズのものだったらしく、大きな旅行鞄が置かれていた。旅行鞄は乱雑に開けられ、中に入っていたお菓子の袋にネズミが顔を突っ込んでいる。

 

「ん?」

 

 私の記憶にあるジョーキンズは決して几帳面な性格ではないが、流石に鞄を開ける時、ひっくり返すレベルで乱雑に開けるような者ではなかったはずだ。そしてお菓子の袋に頭を突っ込んでいるネズミ。ネズミは私の姿に気がついたのか、こちらを見て固まっていた。

 私はネズミにも石化呪文を掛け、尻尾をつまみ持ち上げる。まさかとは思ったが、このネズミ、指が一本欠けている。こんなところでこいつに会うとは思わなかった。

 

「おい、そのまま聞け。ピーター・ペティグリュー。私だ。クィリナス・クィレルだ。」

 

 私はペティグリューをつまみながらジョーキンズのいる部屋へと戻る。扉に複雑な施錠魔法を掛け、部屋を完全な密室にする。さらに姿現しが出来ないように部屋の周囲に魔法を掛け、念には念を入れ、ジョーキンズを備え付けの椅子に縛り付けた。最後にジョーキンズのローブから杖を抜き取り、地面に捨てる。

 

「さて、それじゃあ順番に話を聞こうか。と言ってもペティグリュー、お前はそこまで怯える必要はない。今石化を解こう。」

 

 ペティグリューに杖を向け、石化呪文を解除する。ペティグリューは動けるようになるとすぐさま人間の姿に戻りジョーキンズの杖を拾った。

 

「ま、まさかこんなところでお前に会うなんて……お、お前もあの人を探しに来たのか?」

 

「あ?」

 

「すみません、調子に乗りました。貴方もあの人を探しに来たのですか?」

 

 ペティグリューをひと睨みすると急に丁寧な口調になる。もともと気の弱い性格だとは聞いていたが、ここまでとは。

 

「ああそうだ。その途中でジョーキンズを見つけたのでな。今から尋問するところだ。私とお前の目的は同じなはずだな? だとしたら邪魔をするなよ。」

 

「し、しないですよ!」

 

 ペティグリューはびくびくしながら一歩後ろに下がる。私はジョーキンズの口の中に真実薬を垂らすと石化呪文を解除した。

 

「ジョーキンズ。お前に質問したいことが多々ある。正直に答えるんだ。」

 

「わかった。」

 

 ジョーキンズはぼんやりとした顔で答える。どうやら真実薬はちゃんと効いているようである。私はその後ジョーキンズに様々な質問をし、時には開心術なども用いてジョーキンズが持っている情報を隅々まで聞きつくした。朝まで尋問し続けた結果、かなり有益な情報を得ることに成功する。

 まず一つ目に、三大魔法学校対抗試合が百年ぶりに行われるということ。二つ目に今年アラスター・ムーディがホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の教師になるということ。そして三つ目に、バーテミウス・クラウチ・ジュニアがアズカバンから脱獄しており、今現在はクラウチ家に軟禁されているということ。

 最後の三つ目に関しては忘却呪文で忘れていたようだが、そこはパチュリー様の真実薬に助けられた。どうやら忘却呪文で忘れた記憶ですら鮮明に話させてしまうらしい。まったく末恐ろしいお人だ。

 

「さて、こんなものだろう。オブリビエイト、忘れよ。ステューピファイ、失神せよ。」

 

 ジョーキンズに忘却呪文を掛け、記憶を改ざんした後、失神呪文で眠らせる。次に目が覚める頃には今晩のこと全てを忘れているだろう。

 

「ペティグリュー、ジョーキンズの杖を元あった場所に戻しておけ。杖ならまた新しいものをやる。」

 

 ペティグリューは言われた通り杖をジョーキンズのローブの中に戻す。私はそれを見て、予備の杖をペティグリューに手渡した。

 

「夜が明けた。私はこの後あの人に接触するが、お前はどうする? 一緒に来るか?」

 

「えっと……うん。私も一緒に行きます。」

 

 思わぬところで仲間が増えたが、まあいいだろう。私は部屋に掛けた呪文を全て解除すると、ペティグリューの手首を掴む。そしてヴォルデモートが潜伏しているであろう森に姿現しした。

 

 

 

 

 

 

「紅茶が入りました。お嬢様。」

 

 クィレルを送り出してそろそろ一週間になるだろうか。無事に接触できていたらそろそろイギリスに入ってきてもいい頃である。私は何時もの紅茶の時間に、咲夜の淹れた紅茶を飲む。そろそろ、何か動きがないか確認したほうがいいだろう。

 そういえばマルフォイのところから手紙が届いていた。流石にクィレルと直接関係があるとは思えないが、まわりまわって関係してくるかも知れない。早めに確認しておいた方がいいだろう。私はポケットから手紙を取り出し、封蝋を破る。中には手紙と三枚の紙切れが入っていた。

どうやら紙切れのほうはクィディッチワールドカップのチケットのようである。私は折られた手紙を開いて読んだ。内容を簡潔にまとめると日頃の感謝を込めてささやかなプレゼントを贈る。まあそんなところだ。だがそれで紙切れを送ってこられても困るのだが。紅魔館にクィディッチに興味のある者はいない。

 

「咲夜、便箋。」

 

 次の瞬間、私の目の前にレターセットと万年筆が現れる。まあでも、せっかくの貰い物なので向こうに行く前に一度見に行ってみるものいいだろう。私は手紙に簡単なお礼と、ワールドカップを見に行くという旨を書く。そしてチケットの一枚を咲夜に手渡した。

 

「マルフォイのところからプレゼントが届いたわ。」

 

 咲夜は私からチケットを受け取ると、チケットの内容を読む。

 

「これは……クィディッチの試合のチケットですか?」

 

「そう、ブルガリア対アイルランドの。最上階貴賓席ですって。それも三枚。」

 

 咲夜はチケットを見ながらポカンとしている。やはり咲夜はクィディッチにはあまり興味がないようだ。

 

「せっかくの貰い物だし、行こうと思うんだけど、勿論ついてくるわよね。」

 

「勿論です、お嬢様。もう一枚のチケットはいかがいたしましょう?」

 

「美鈴に渡しなさい。多分そういうことよ。」

 

 美鈴を連れていくのは少し癪だが、他に誘う相手もいない。パチェは咲夜以上にクィディッチに興味がないだろうし、リドル……いや、クィディッチをやっていたという話は聞かない。資本家……論外だ。それに、美鈴はマルフォイ家と面識があったか。

 咲夜はチケットを裏返し、少し眉を顰める。その表情が気になって私も裏を見たが、そこには三日後にワールドカップが開催される旨が書かれていた。私は封蝋の刻印を見る。どうやらマルフォイが手紙を出したのは一週間も前のことらしい。

 

「多分フクロウが事故にあったのね。封蝋の刻印は一週間も前だし。」

 

 私は返事を書き終えると便箋の中に入れ、封蝋をする。その後、封筒に切手を貼る。身体の一部を分裂させ蝙蝠に変えると、手紙を足に掴ませ窓から外に飛ばした。

 

「近くのポスト何処だったかしら。」

 

「あ、普通に郵便で送るんですね。」

 

 まあ、別に郵便で送る意味はない。今回ばかりは只の気まぐれだった。

 

「美鈴みたいに捕まえて食べちゃう人がいるかも知れないでしょう?」

 

 私は適当な言い訳をすると、紅茶を飲み干す。

 

「さて、試合は三日後ね。マルフォイのところとは会場で会うだろうし……どうやって会場まで行きましょうか。」

 

 パチェに送迎を頼むのが一番早いだろうか。咲夜に時間を止めさせて飛んでいくのもありかも知れない。色々と方法を考えていると、咲夜がシンプルな指輪を手渡してきた。これはパチェの魔法具だったか。たしか姿現しを簡単に行えるようにするものである。

 

「パチュリー様の魔法具なのですけど、これで姿現しが出来るみたいです。」

 

「貴方、まだ姿現しできないのね。」

 

 咲夜のことだから既にパチェから習っているものだと思っていたが、そんなことはなかったようだ。

 

「できればホグワーツに行くまでには覚えておいた方がいいわ。あそこでは姿現し出来ないけど、便利ではあるからね。」

 

「畏まりました。それでは私は美鈴さんにクィディッチの試合の件をお伝えしてきますね。」

 

 咲夜は指輪を付けると、バチンという音と共にその場からいなくなる。私はマルフォイからの手紙を机の引き出しにしまうと、大きく伸びをした。

 

 

 

 

 

 

 リトル・ハングルトンに荒れ果てた洋館が一つある。その洋館には昔リドル家が住んでいた。そう、ヴォルデモートの父親の家系である。私たちは今その洋館を拠点にしていた。ペティグリューと合流したあの後、私たちは森の中でヴォルデモートに出会い、再び仲間にしてもらった。ヴォルデモート自身戻ってきた私たちを怪しんでいたようだが、背に腹は代えられないというやつだろう。

 私たちが簡単な処置をしたおかげでヴォルデモートは少し力を取り戻してきた。取りあえずの肉体として赤子のようなものに魂を定着させているが、それはその場しのぎに過ぎない。このままではとてもじゃないが復活したとは言えないだろう。

 そのためにも新しい体がいる。私はパチュリー様から教わった肉体の錬成の仕方を知っているのだが、ヴォルデモート自身が何か肉体を復活させる術を知っているようだったので、そちらを行うことになった。わざわざこちらからパチュリー様の知識を世に出すこともないだろう。使わないなら使わないでいいのである。

 ヴォルデモートが知っていた魔法はかなり古いもので、肉体の復活のために色々と準備物があるらしい。まず最初に下僕の肉。これはまあそこら辺にいるペティグリューの腕を切り落とせばいいだろう。次にヴォルデモートの父親の一部。これも墓を暴くことで簡単に手に入る。一番のネックは敵の血。つまりはハリー・ポッターの血液だ。ヴォルデモートの肉体を復活させるにあたり、ハリーの血液は絶対に必要な物らしい。

 だが、ハリーはダンブルドアが施した保護の魔法で厳重に守られている。私としてもパチュリー様の力を借りない限り接触することすら難しいだろう。だとしたらどうするか。力は弱っても頭の良さは変わらないらしく、ヴォルデモートは私が手土産に持ってきた情報を巧みに組み合わせてある作戦を計画した。

 計画を簡単に纏めるとこうだ。まずクラウチ家に軟禁されているクラウチジュニアに接触し、仲間に引き入れる。その後、クラウチをムーディに化けさせ、ホグワーツに潜入させる。そして、ハリーを無理やり三大魔法学校対抗試合に出させ、無理やり優勝させる。最後に、優勝杯をポートキーにしておき、ハリーをヴォルデモートの父が眠る墓まで飛ばしてくる。それがヴォルデモートが考えた計画だった。

 どこまでも穴だらけで、不確定要素の多い作戦だが、本当にこんな計画で大丈夫だろうか。馬鹿と天才は紙一重だとは言うが……。なんにしても、今の私はヴォルデモートの下僕。作戦に従うだけである。クィディッチワールドカップが終わると同時にクラウチに接触し、計画を始動させる。それまでは、静かに潜伏しておくのがいいだろう。

 私は偵察のためにワールドカップの会場に行くことになっているが、これは私が考えた言い訳に過ぎない。本当の目的は偵察などではなく、お嬢様に手紙を出すためだ。イギリスに入って早数日、まだ連絡をとることが出来ていない。この機会に一方的にはなってしまうが、現状を報告しておこう。

 今現在、この洋館には私の他に、ヴォルデモートとペティグリュー。それに大蛇のナギニ。さらにはバーサ・ジョーキンズがいる。ジョーキンズに関しては、一度は逃がしたが、ヴォルデモートの命令で再び捕まえ直したのだ。ヴォルデモートが言うには、忘却術は無理やり解くことが出来てしまう。もしジョーキンズが魔法省に戻った後に記憶が戻ったら、それだけで計画が破綻してしまうからだ。今現在はヴォルデモートの服従の呪文によって操られている。操られているが、そろそろこいつも邪魔になってきた。ここを離れる時には殺していくことになるだろう。

 




咲夜帰宅

クィレルと咲夜が再会

クィレル、アルバニアに飛ぶ

ジョーキンズにばったり会い、尋問。ついでにワームテール

レミリアのところにクィディッチのチケットが届く←今ここ

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