本を読んでいたこともあり、今回少し難産気味ですが、いつものごとくあまり話は進んでいないのでつまらないと思ったら適当に読み飛ばして頂けたらなと思います。
誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。
仕事をしていると毎回思うことがある。こういう仕事って全部パチェの魔法で自動化できるのではないかと。だが、その話をパチェにすると毎回言われることがある。貴方の仕事の半分は手紙のやり取りじゃないかと。そう言われて毎回思うことがある。あとの半分を自動化したいのだと。その話をすると毎回言われることがある。今まで私が自動化した仕事の件数を覚えているかと。そう言われて毎回思うことがある。本当に申し訳ねぇ……。
そんなことを考えていたらお茶の時間になった。仕事の進行具合は……この際置いておこう。私は机の上を片付けると書斎から自分の部屋へと移動した。部屋に置いてある机の上に日刊預言者新聞が置かれている。朝起きた時にはなかったものなので、パチェが送ってきたということだろう。パチェがわざわざ私の部屋に送ってきたということは、それ相応の記事が載っているということだろうか。
私は椅子に座って新聞の一面を読む。うん、そういうことだった。新聞の一面にはクィディッチワールドカップで暴動騒ぎが起きたという記事が載っている。記事によれば死喰い人っぽい人間が暴れまわり、マグルの一家を殺したらしいのだ。最終的には闇の印が打ち上げられ、実行犯は全員逃亡。魔法省は犯人を一人も捕らえることが出来なかったとか。
確かこの場にクィレルもいたな。昨日のクィレルからの手紙はワールドカップの会場から飛ばしたものらしいし。
「お茶が入りました。お嬢様。」
そんなことを考えていたら部屋の扉がノックされる。咲夜だ。
「入っていいわよ。」
「失礼致します。」
咲夜はカートを押しながら部屋の中に入ってくる。そしてテキパキと紅茶と茶菓子を机の上に並べた。
「あのあと少し事件があったようね。ごたごたに巻き込まれる前に帰ってきて正解だったわ。」
私は先ほどまで読んでいた新聞を咲夜に渡す。咲夜は興味深そうに記事を読んでいる。
「死喰い人よ。でも闇の印が空に出た途端に逃げていったようね。」
「闇の印……確かヴォルデモート卿の印でしたっけ。印を見て逃げていくということは信念を持って行動しているわけではないのですよね? なのにマグルの家族を殺したということは……。」
咲夜は机の上に新聞を置く。私は咲夜の淹れた紅茶を一口飲んだ。うん、いつもと変わらず美味しい。
「クィレルを放った途端にこれ。本当に仕事が早いわ。多分マグルを殺したのはクィレルよ。」
確信があるような雰囲気を出して咲夜に言ったが、本当に確信があるわけではない。ただ、あの場にいた死喰い人でそのようなことをやりそうなのがクィレルしかいないというだけだ。咲夜は何かを考えるように顔を伏せている。
「そういえばお嬢様は生贄がいると言ってましたが……どのぐらい戦死者が出ればいいのですか?」
そういえばとはいうが、また随分と話が飛んだな。確かに私が行おうとしている紅魔館の移転計画には生贄がいる。というよりかは大量の死者を出すことによってこの世とあの世の境界をこじ開け、その隙間を通って紅魔館を移転させるのだ。つまり下限はあっても上限は無い。
「多ければ多いほどいいけど、量より質よ。取りあえずダンブルドアとヴォルデモートには死んでもらうわ。……リドルを何とかしないとヴォルデモートは死なないけどね。」
できればリドルの件を今年中に何とかしたいとは思っている。思ってはいるが、少し難しいだろう。まあパチェのことだ。何かしら対策を考えるだろう。これは決して丸投げしているのではない。親友を信頼しているのだ。
「そうだ咲夜。これはマルフォイから聞いた話なんだけどね。約百年ぶりに三大魔法学校対抗試合が行われるそうよ。それもホグワーツで。」
私は紅茶を飲み干すとソーサーに逆さに被せ、人差し指で弾く。そして軽くカップの底を指でなぞった。
「三大魔法学校対抗試合……とは一体どのようなイベントなのでしょうか。」
どうやら咲夜は対抗試合については何も知らないらしい。
「ホグワーツの他に有名な魔法学校が二つあってね。ボーバトンとダームストラング。それぞれの学校から一人ずつ代表選手を出して競わせるのよ。目的としては若い魔法使いの国際交流の場を設ける為といったところかしら。でも競技が少々危険で夥しい数の死者が出たから最近は行っていなかったみたい。」
カップの側面を指で弾き、表を向かせる。さてさて、今日の占いは……と。なるほど、トロフィーか。
「咲夜。私この試合の優勝トロフィーを部屋に飾りたいと思うのだけど。ちょっと取ってきてくれないかしら。」
私は咲夜の顔を見る。咲夜はにっこりと笑うと静かに頭を下げた。
「かしこまりました、お嬢様。必ずや優勝トロフィーを持って帰ります。」
「ヴォルデモートもまだ復活していないわけだし、暫くはこの試合に専念しなさい。」
「御意。」
これで咲夜は何が何でも優勝を目指そうとするだろう。ハリーを優勝させようと躍起になる死喰い人。自力で優勝を狙いに行く咲夜。さて、どちらが優勝することになるだろうか。今から楽しみである。
咲夜がホグワーツに行ったその日の夜。私は大図書館の机の上で突っ伏していた。その行為に何か意味があるわけではない。ただやりたいからしているだけだ。リドルからの冷たい目線が少し痛いが、それは無視することにする。
「そういえばお嬢様、咲夜に対抗試合で優勝してくるようにとの命令を出したとか。こんな時に遊ばせておいていいんです?」
リドルが本の整理をしながら私に話しかけてきた。どうやら咲夜から対抗試合の話を聞いたようである。
「別に遊ばせるつもりはないわ。これも作戦よ。まあ咲夜ならお遊び感覚で優勝できるとは思うけどね。」
「能力が反則的ですから。それは当たり前のことです。」
まあ、リドルの言う通りだ。咲夜の能力は持っているだけで最強と呼んでもいいぐらいのものだ。それ故にそこが弱点になったりもするのだが。
「あら、咲夜を三大魔法学校対抗試合に出すの?」
遠くの本棚に魔法を掛け直していたパチェがこちらへ戻ってくる。そして私の隣に腰かけた。
「ええ、優勝カップを私の部屋に飾ろうと思って。というかパチェ、対抗試合が行われるって知ってたでしょ? どうして教えないのよ。」
私は机に伏せながらパチェの方を見る。パチェは小さくため息をつくと興味なさげに椅子にもたれ掛かった。
「報告するまでもなく知ってると思ってたからよ。あんなに魔法省が動いていたじゃない。」
「普通に知らなかったわ。これからは何か大きな動きがあったら私に報告すること。」
「面倒くさいわ。それに、咲夜は対抗試合には出れないわよ。」
パチェは手に持っていた本を開き、読み始める。って、え? 今パチェがおかしなことを言ったような気がしたのだが。
「咲夜が対抗試合に出られないってどういうこと?」
「今年行われる三大魔法学校対抗試合には年齢制限があるのよ。十七歳以上じゃないと立候補すら出来ないわ。」
「なんですって! 聞いてないわよ!」
私は勢いよく立ち上がり机を叩く。パチェは耳を覆いながら呟いた。
「いや言ってないし……ていうか、そんな曖昧な情報しか持たずによく咲夜に優勝してこいなんて言ったわね。今頃咲夜困惑してるわよ。」
いや、少し待て。死喰い人が優勝させようとしているハリーは咲夜と同い年のはずだ。もしかしたら何か抜け道があるのかも知れない。
「まあ咲夜なら何とかするでしょ。対抗試合で優勝しないと拙いわけではないから、参加できなかったらそれはそれってことで。」
「そもそもなんでそんな命令出したのよ。」
「少しでも目立たせるためよ。ダンブルドアに咲夜がどれだけ有能かを見せつけてやるのよ。もしこれでクィレルたちがヴォルデモートを復活させれば不死鳥の騎士団が再結成されるだろうし。その時咲夜が立候補して、即採用される程度には咲夜の実力を認めて貰わないとね。」
杞憂だと思うんだけどねぇ……とパチェは本を読みながら呟く。まあ確かに、咲夜の能力をダンブルドアに明かせば簡単に不死鳥の騎士団員になることが出来るだろう。だが、私が思うにそれでは弱いと思うのだ。
「野心を持っていた頃のダンブルドアならいざ知らず、今のあいつは教育者よ。自分の都合で生徒を戦争に巻き込むような真似はしないような気がするのよね。何かひと押し、咲夜が戦争に参加する明確な動機が必要よ。」
「明確な理由ね。まあ確かになんかよくわからないけど不死鳥の騎士団に参加して死喰い人ぶっ潰しますなんて言っても参加させてくれないわよね。咲夜が死喰い人と敵対する明確な理由……死喰い人に命を狙われるとか?」
そうそう、そんな感じだ。
「クィレルの話では、対抗試合の最後の競技は優勝カップを一番初めに触った選手が優勝みたいだし、クィレルたちはその優勝カップをポートキーに変えてハリーを連れ出す魂胆みたいよ。ハリーよりも先に咲夜がポートキーに触れれば、咲夜が連れて行かれることになる。そうなれば何かしらの動機が生まれる事件が起きそうじゃない?」
我ながら天才かも知れない。こういうのを先見性というのだろうか。
「何をニヤニヤしてるのよ。なんにしてもそれ咲夜が対抗試合に参加できなかったら意味ないじゃないのよ。」
あ、そうだった。私は椅子に座りなおすと机に突っ伏せる。まあ、なるようになる。もし代表選手に選ばれることが出来たら素直に褒めてあげよう。
「そういえば私の方にはクィレルから連絡があったけど、パチェの方には何かあった?」
「特にないわね。手紙が来たんですって?」
私はパチェにクィレルから届いた手紙を渡す。
「ワールドカップの会場にいたそうよ。今頃はクラウチの家にいると思うけど。」
「バーテミウス・クラウチ? 魔法省の?」
パチェはクィレルからの手紙を流し読む。そして一言心底どうでもよさそうにへぇっと呟いた。
「ちょっとこの作戦無理があるんじゃない? ていうかスパイとして送り込まれたクラウチ・ジュニアがかわいそうね。一年もあんな変人のふりをしないといけないなんて。」
どうやらパチェは私と同意見なようだった。
「ヴォルデモートも無茶な作戦を立てるわね。」
「そうね……ん? 『も』ってもしかして私のこと指してる?」
私はパチェの言い方に違和感を覚える。パチェは当たりまえといった顔で頷いた。
「引っ越しの為だけに戦争を利用しようって作戦を無茶苦茶っていうのよ。」
まあ、パチェの言うことも一理ある。一理ある……が、そこを譲るわけには行かない。一回失敗しているだけに、次失敗するわけにはいかないのだ。
「私は無茶苦茶な作戦だとは思っていないわ。私はパチェを信用しているもの。パチェからしたらなんてことないでしょ?」
パチェは驚いたような顔をして私の顔を見る。だが、すぐにジトっとした目になった。
「流石に何回も騙されないわよ。いつもそう言って全部私に丸投げするじゃない。私は魔法使いであって便利屋ではないのよ?」
「何が違うのよ?」
「何もかもが違うのよ。」
違うなら仕方がない。少しは自分で動くことにしよう。私は無駄に決意を固めた。
「対抗試合について何かわかっていることはある?」
「そうね。競技内容と日程は大体決まっているわ。選手が選ばれるのがハロウィーンの夜ね。」
三大魔法学校対抗試合の選手は炎のゴブレットで選ばれる。炎のゴブレットとは青い炎が燃え盛る木彫りのゴブレットで、各校から代表者を一人選出するように魔法が掛けられているのだ。私が知っている対抗試合では年齢制限などなかった為、年齢差が出ることもあった。まあ年齢差が出ると言ってもゴブレットは競技をするのに最もふさわしいものを選ぶため、実力差が出ることは少ないのだが。
「ゴブレットの中に名前を入れさえすれば確実に咲夜が選ばれると思うんだけどねぇ……。年齢制限って具体的にどんな処理を施すのかしら。パチェは何か知ってる?」
「その件に関してはダンブルドア任せらしいから詳しい話は魔法省には入ってきてないわ。口頭でバグマンとかが聞いてるかも知れないけど、書類には残ってないわね。」
ダンブルドアが担当すると聞くと途端に不正をするのが難しいような気がしてくるから困る。だがもしこれで咲夜がダンブルドアを出し抜き代表選手になれたら、私の思惑通りに事が進むというものだ。咲夜には頑張ってもらおう。
「なんにしても咲夜が代表選手になれるかどうかはハロウィーンまで分からないわけだし、取りあえずそれまではクィレルの援助をしましょうか。何か連絡手段が欲しいわね。それもヴォルデモートに悟られないようなね。」
「方法はいくらでもあるけど、一度ここに戻ってこさせないと厳しいわよ。前に美鈴にやったような直接羊皮紙を送り付けるやつ。あれ結構面倒くさいし、失敗すると皮膚にめり込むし。一番いいのはリドルの日記のような方法ね。こちらが書いた情報をリアルタイムで向こうに伝えられるような。」
まあそれに関しては考えておくわ。とパチェは再び読書に戻る。私としてはまだ少し話したいことがあるので、何の躊躇もなく会話を続けた。
「例の人工衛星を使った監視方法でクィレルの様子を探れない?」
「出来なくはないけど、多分ヴォルデモートにバレるわよ。流石にこちらの正体や術の詳細は分からないでしょうけど、勘のいい奴だと視線を感じることがあるみたい。周囲に人が満ちている状況ならともかく、隠れ家でペティグリューとクィレル、ヴォルデモートの三人だけって状態だとしたら確実に違和感に気が付くでしょうね。ほら、例えばだけど……。」
パチェが机の上に真上から見た私たちの様子を映しだす。確かに神から監視されているような、漠然とした違和感を感じる。リドルは感じないようだが、それは多分肉体が無いからだろう。
「確かに少し違和感があるわね。ほんと進歩しないんだからうちのパチェさんは。」
私は大きく肩を竦めてため息をつく。何か反論があると思い待ち構えていたが、パチェはそのまま読書に戻ってしまった。なんだか今日はつれない。これはこちらから甘えに行く必要があるかも知れない。私は椅子から立ち上がると後ろからパチェに覆いかぶさる。パチェは筋力があるわけではないので、そのまま机の上で潰れた。
「重い……。」
「そうね。思いよ。なんだか今日はやけに冷たいじゃない。」
リドルが気を利かせて遠くの本棚の整理に向かった。まったく、出来た弟子をパチェは持っている。私はパチェの髪に顔を埋めた。
「あなた……咲夜がホグワーツに行くと毎回こうよね。いい加減慣れなさいよ。」
「なによ、パチェは寂しくないっていうの?」
「そりゃ寂しいけど……だったらなんで学校に通わせたの? ホグワーツの入学も断ればよかったじゃない。」
まあ、パチェの言うことももっともだ。教育ならパチェの指導だけで十分である。わざわざ全寮制の学校に通わせることもない。
「そりゃ道徳的な観点から通わせた方が咲夜の為になると思ったから。」
「吸血鬼が道徳を語るっていうのは、少し滑稽なような気もするけどね。」
「別に悪魔じゃないんだから、吸血鬼が道徳を語ってもいいでしょうに。」
私はパチェを捕まえたまま椅子ごと地面に倒れる。バタンという音と共に背中に衝撃がきたが、私からすれば痛くも痒くもない。
「私はね。最悪移転なんてできなくてもいいかな、って思っているの。勿論、新しい環境に移動できるならそれに越したことはないけど……。でも、計画の為に私の大切なものを捨てる気はないわ。」
「なんの話よ。……貴方の言う大切なものっていうのは何処までのことなのかしら?」
「フランに、パチェに、美鈴に、咲夜に……リドルとクィレルはどっちでもいいけど。私にとっては家族のようなものよ。誰も欠けさせない。みんな揃って新たな土地に行きましょう。」
「自分勝手ね。大切なものを守るためなら他人は犠牲になっていいって?」
パチェがからかうような笑みを向けてきた。
「だって他人は他人だもの。私の印象が悪くならない程度なら犠牲になっても構わないわ。」
私は立ち上がり、床に転がっているパチェを見下ろす。
「今回の計画だってそう。本当だったらアホみたいに目立って殺して暴れたいぐらい。でも、それをやるとフランが危険に晒される可能性が出てくるでしょう?」
「シスコン?」
「何とでもいいなさいな。」
私はパチェを抱きかかえると椅子に座らせた。パチェは手に持っていた本を開くと、元あったページを探してページを捲り始める。
「なんにしても寂しいのはわかったから、妹様にでも構ってもらいなさい。私はこう見えても忙しいのよ。」
ふむ、やっぱりつれない。私は小さくため息をつくと右手をぶらぶらと振った。
「いや、今日はもういいわ。仕事に戻る。また何かあったら連絡して頂戴。」
私はパチェに手を振ると、大図書館を後にした。
咲夜がホグワーツに行ってから一週間が経った頃、ベッドで眠っていた私の耳元で、パチェの声が聞こえた。何かを大声で伝えているようだが、意識がぼんやりとしているため中々内容が頭に入ってこない。
「んあー、もっかい……。」
私は朦朧とする意識の中、パチェに問いかける。というか今何時だと思っているんだ。部屋の窓からはカーテン越しに薄明かりが入ってきている。この明るさ加減からして、日が沈んでいるどころかまだ昇っている最中なのではないかと思えるほどだ。
「だから、クィレルが帰ってきたって言っているのよ。三十分しか紅魔館に滞在出来ないみたいだから、強制的に大図書館に飛ばすわね。」
一瞬無重力になったかと思えば、いつの間にか私は部屋着を着た状態で椅子に座っていた。先ほどまで寝間着姿だったと思うのだが、パチェが配慮してくれたのだろうか。ついでにこの眠気もどうにかしてほしいのだが……私は大きく欠伸をすると、周囲を見回しパチェの姿を探した。
「なんだ、目の前にいるじゃないの。はぁいクィレル。……調子はどう?」
見回すまでもなく、パチェとクィレルはそこにいた。クィレルは私の前に立っており、その横にパチェが座っている。そしてこれも今気が付いたことだが、リドルが私の隣に腰かけていた。
「今のところは全てが順調に進んでおります。ワールドカップが終わった後、クラウチ邸を襲撃。クラウチ・ジュニアを仲間に加え、クラウチ・シニアを操り人形にしました。その後クラウチ・ジュニアと共にマッドアイを襲撃。クラウチ・ジュニアをマッドアイに変身させ、マッドアイ自体は服従の呪文を掛けてトランクに詰め込み、クラウチ・ジュニアに同行させました。今現在私はヴォルデモートとワームテールと共にクラウチ邸に潜伏中です。」
「私は体調を聞いたつもりだったんだけど……まあいいわ。その様子なら元気そうね。貴方には少し過酷な任務を与えていたから心配だったのよ。で、パチェ。連絡手段は整ったの?」
私は目をしょぼしょぼさせながらパチェを見る。パチェは一冊の手帳を取り出したあと、クィレルの頭を指さした。
「クィレルの意識をそのまま手帳に反映させる魔法を掛けたわ。つまりリドルの日記の逆バージョン。リドルの場合日記が本体で、実体自体が端末だけと、これの場合クィレルが本体で、手帳が端末ね。」
私は手帳を手に取ると、試しにクィレルには見えないようにしながら文字を書く。
『例えばこんな風に? クィレル、右手を上げなさい。』
私がそう書きこんだ瞬間、クィレルの右手が上がった。そして手帳にはクィレルの意識が書き込まれていく。
『私がそちらに伝えようとしたことがその手帳に現れるようです。』
どうやら思っていること全てが手帳に現れるわけではないらしい。その辺はリドルの日記と同じく融通が利くようだ。
「でもこれって私は常に手帳とにらめっこしていないといけなくなるんじゃない? それにクィレルの脳みそにかなりの負荷がかかりそうだけど。」
「何かが書き込まれたら音がするようになってるわ。それと負荷のことだけど、確かに掛かるっちゃ掛かるわね。だから長時間の使用は禁止。自由に連絡が取れるようになるまでの繋ぎと考えて頂戴。」
「自由に連絡が取れるようになるのかしら?」
「自由に連絡が取れるようにするのよ。レミィ、貴方がね。」
つまりそうなるように作戦を立てろということだろう。まあ、クィレルが自由に動けるようになったほうが都合がいいのは確かである。今の状況だとクィレルは常にヴォルデモートに監視されているも同然だ。それにこんな時間に起こされることもない。
「わかった。何か考えておくわ。でも暫くは無理よ。とにかくヴォルデモートを復活させないことにはね。現状死喰い人はヴォルデモートを含めて四人。最終的にはこの何百倍の人員が必要になる。ある程度死喰い人が増えたら時間も出来るでしょう。」
私はぼさっとしている髪を人差し指に巻き付ける。
「そういえば、現状はどうなっているのよ。クラウチ・ジュニアはホグワーツに居るとして、クラウチ邸で三人暮らししてるわけでしょう?」
「クラウチ・シニアが帰ってきますので実質四人ですが。基本的にはクラウチ・シニアに服従の呪文を掛けつつ、ヴォルデモートの世話をしています。現在のヴォルデモートは肉体を持っているだけの希薄な存在なので。魔法を使うことは出来るようですが、一人で自由に動くことは出来ない状態で、生活の殆どを私たちに依存していると言ってもいいような状態です。」
弱っているのは確かなようだ。まあクィレルに寄生していた時と比べたら少しはマシになっているようだが、それでも力が戻っていないのには変わりない。
「そうね、取りあえずクィレルは全力でヴォルデモート復活に尽力しなさい。ハリーを優勝させて連れ出す作戦を立てているって言っていたけど、それの成功率はどうなの? 私としては作戦が大掛かりな割には不確定要素が多いような気がするのだけど。」
私の問いかけにクィレルは考え込む。
「クラウチ・ジュニアは自信があるようでしたが……ヴォルデモート自身はそこまで当てにしていないのかもしれません。どちらかと言えばクラウチ・ジュニアを試しているような印象を受けます。」
「あら、レミィと同じね。」
確かに私も半分試すような気持で咲夜に優勝して来いと言った。間接的にはなるが、これは咲夜対クラウチ・ジュニアの構図が出来上がったかも知れない。私は図書館に備え付けられている時計を見る。そろそろ三十分だ。
「なんにしてもクィレル。咲夜も対抗試合の優勝を目指しているわ。もしかしたらハリーを連れ出す計画がそのままおじゃんになる可能性もあるってことを覚えておいて。」
「そろそろ時間よ。クィレル。」
パチェが懐中時計を見ながら促す。クィレルはローブを羽織りなおすと暖炉の方へ歩いて行った。
「では、そろそろクラウチ邸へ戻ろうと思います。十六夜君の件は承知しました。そのような動きがあることを計算に入れながら行動することにしましょう。」
クィレルは煙突飛行粉を暖炉に放り投げると、暖炉の中に入る。そしてノクターン横丁と言うと同時に炎の中に消えていった。どうやら複雑な経路でクラウチ邸に戻るらしい。
「クィレルも大変そうね……なんにしても…………これで、連絡が取れるようになった……わ。ねむ……。パチェ、今日はここで寝てもいい?」
私は机の上に横になろうとする。パチェは頭を抱えながら私の手に触れた。次の瞬間、私は部屋着から寝間着になっており、場所も大図書館から自室のベッドの上に移動している。まったくもって便利な魔法だ。
「ありが……。」
私は睡魔に誘われるままに眠りに落ちていった。
平和というのは戦争をするまでの間でしかないとは誰が言った言葉だったか。何にしてもそんなことを言われてしまうほど人間は戦争ばかりしているということである。戦争とは進化の歴史であり、進化とは戦争なのだ。と、話がそれたが、何にしても今は平和だ。
今は平和だというのは、今は平和の話だという意味ではない。魔法界は今のところ平和だという意味だ。ホグワーツの新学期が始まって早二か月。ハロウィーンも終わって十一月に入った。そろそろクリスマスパーティーの準備を始めないといけない時期だろう。
「そういえばハロウィーンの夜に対抗試合の選手が決まるって話だったわね。咲夜は選手になれたのかしら。」
私はもしやと思い窓の外を確認する。するとそこには足だけで窓枠に掴まっている梟の姿があった。何というか、今にも死にそうである。私は梟から手紙をもぎ取ると、梟を楽にしてやる。どうやら私の予想通り手紙はホグワーツからだった。このタイミングでホグワーツから手紙が来るということは咲夜は代表選手になれたのだろう。……いや、もしかしたら無理やり代表選手になろうとしてなにか問題を起こし、退学処分になったとか? そうでなくとも何か問題を起こし、手紙が送られてきた可能性はある。
私は窓を閉めると手紙を持ったまま椅子に座る。なんにしても中を改めればわかることだ。私は意を決して手紙を広げる。手紙には咲夜がホグワーツ代表に選ばれたということと、簡単な祝辞が書かれていた。どうやら杞憂だったようだ。それと共に、他の代表選手の名前も書かれている。
「何々……ボーバトン代表がフラー・デラクール。ダームストラング代表がビクトール・クラム。あら、クラムってあのクィディッチの選手の? で、ホグワーツ代表が十六夜咲夜とハリー・ポッター。……ん?」
何故かホグワーツ代表の咲夜の名前の横に、ハリー・ポッターの名前が書かれている。これは一体どういうことだろうか。どちらか決まっていないということなのか、どちらも代表選手なのか。まさかタッグを組んで競技に挑むってことではないだろうな。足手まといにもほどがある。
「なんにしても、無事に代表選手になれたってことか。これはパチェに詳しい話を聞いたほうがいいかもね。」
私はホグワーツから届いた手紙を持ったまま大図書館へと移動する。図書館ではパチェとリドルの二人がせわしなく仕事をしていた。珍しくパチェも動き回っている。なんだか声が掛けにくい雰囲気だ。私は中央に置いてある机に座ると、手紙を上に置く。そしてそのまま声を掛けて貰えるまでじっと待った。
十分ほど経っただろうか。ついにパチェが私の前に立ちはだかる。いや、立ちはだかるという表現はおかしいか、怪訝な顔をして向かい側の椅子に座ったというのが正しい。パチェは机の上に置いてある手紙を手に取ると、軽く目を通した。
「へぇ、取りあえず第一関門はクリアってとこかしら。咲夜もクラウチ・ジュニアもよくやるわ。」
それだけ言ってパチェは本棚の方へ飛んで行ってしまう。え? 本当にこれだけ? 流石に冷たすぎるのではなかろうか。私は親友のそんな態度にガックリしつつもパチェの様子を観察する。何をそんなに慌ただしく動いているのだろうか。何やら魔法陣を出したり呪文を詠唱したり、とても忙しそうだ。
「ねえ、さっきから何をしているの?」
私がパチェに話しかけるが、返事が来る様子はない。これは本格的に集中しているな。邪魔しては悪いし、今日はもう書斎に戻ることにしよう。私は小さくため息をつくと、手紙をポケットに仕舞って椅子から立ち上がる。また今度何をしていたか聞くことにしよう。こうなったパチェを止めるのは私でも無理だ。
私は大図書館から書斎へと移動し、ホグワーツからの手紙を引き出しに仕舞う。にしても、ホグワーツから代表選手が二人というのはどういうことなのだろう。考えられる可能性としては、ハリーがホグワーツの代表選手に選ばれ、そこに無理やり咲夜が参加したというパターンの他に、咲夜がインチキしてホグワーツの代表になったが、クラウチ・ジュニアの策でハリーが割り込んできたというのも考えられる。どちらも十四歳ということで、まともな方法で選ばれたわけではないだろう。
なんにしてもこのような選抜結果では、他二校の校長が黙っていないはずだ。絶対何らかの抗議をしているだろう。表向きの目的は交流だが、この対抗試合は学校の格付けという意味合いもある。どの学校も自分の学校からでた代表選手を優勝させたくて仕方がないわけだ。
「もしあまりにもアレな方法で選手に選ばれたとしたら、咲夜をいじめる生徒とかも出てくるかも知れないわね。少し心配だわ。その生徒が。」
一人二人なら咲夜が適当に制裁して終わりだろう。だが咲夜に悪い印象を抱く生徒が少人数ではなかったら。何百人単位で咲夜を敵視する人間が現れたら、流石の咲夜でも手出しが出来なくなるだろう。いじめられて病むような性格ではないと分かってはいるが、本当に少し心配だ。
ホグワーツからの手紙によれば、第一の課題が行われるのは十一月二十四日。三週間後だ。美鈴を連れて変装した状態で見に行くのもありかも知れない。とにかく、代表選手に選ばれたということで新聞に載ることもあるだろう。これからは少し注意して新聞を読むことにしよう。私は大きく伸びをすると仕事に取り掛かった。
レミリアが咲夜に三大魔法学校対抗試合で優勝して来いと命令する
↓
クラウチ・ジュニアのもとにヴォルデモートと愉快な仲間たち(ネズミとハゲ)が来る
↓
マッドアイ襲撃、クラウチ・ジュニアがマッドアイに変装し、ホグワーツに潜入する
↓
咲夜がホグワーツに向かう
↓
クィレルか紅魔館に戻ってくる
↓
咲夜が代表選手に選ばれる←今ここ