紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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書いた端から書いた内容を忘れる系の二次創作者……私です。今作どんなこと書いてたか半分ぐらい忘れている気がするので、一度読み直してきます(自分の作品を)

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


生首やら、凶報やら、伝言やら

「さあ第一の課題も残すところ半分になりました。次の選手をご紹介しましょう! 三番目に挑戦するのは皆もよく知る伝説の魔法使い! 生き残った奇跡の男の子! ハリー・ポッター!!」

 

 バグマンの力強い実況が競技場内にこだまする。それと同時にブザーが鳴り、ハリーが控えのテントから出てきた。手には既に杖を構えており、まっすぐドラゴンを見ている。

 

「あ、ハリーだ。どうするんだろ?」

 

 ハリーは競技場の中に入った瞬間に杖を上空に向ける。そして力を振り絞るような大声で呪文を唱えた。

 

「アクシオ! ファイアボルト!!」

 

 呼び寄せ呪文だ。ファイアボルトというのは箒の名前なので、ハリーは何処からか箒を呼び寄せたということになる。なるほど、ハリーは自らドラゴンと同じ土俵に立ったのだ。大した度胸である。ドラゴンに対して空中戦を仕掛けようとは。

 

「リンお姉ちゃんはどう思います?」

 

「発想は悪くないけど、仕掛ける相手を間違えたよね? 大蛇や大蜘蛛相手ならまだしも、空の生き物であるワイバーンに仕掛ける策じゃない。」

 

 ハリーは飛んできた箒に飛び乗ると、物凄い速度でドラゴンの周囲を回り始める。なるほど、学生のくせして大層な箒を持っていると思ったが、宝の持ち腐れというわけでもないらしい。国際競技級の箒をハリーは自由自在に操っていた。

 

「いやはや、これはなんということでしょう! たまげるほどの飛びっぷりだ! ドラゴンを完全に翻弄しております。」

 

 行動そのものを見れば大胆と言わざるを得ないが、ハリーはびっくりするほど堅実だった。下手に挑発するようなことはせず、ただ静かにドラゴンの周りを飛ぶ。下手に攻撃など加えると、ブレスによる反撃がくると分かっているのだ。ハリーは慎重にドラゴンの周りを飛び回り、ドラゴンの気を引く。多分立ち上がるのを待っているのだろう。

 

「もっと一気に行くのかと思いましたが、そうではないんですね。」

 

「そうねぇ……もっと大胆に攻めればいいのに。まあ大胆に攻めすぎるとさっきのクラムみたいになるけど。」

 

 ドラゴンはハリーに興味を引かれたのか、重たそうに首を持ち上げる。ゆっくりと後ろ脚に力を込めていき、やがてドラゴンは後ろ足で立ち上がった。次の瞬間、さきほどとは比べ物にならない速度でハリーはドラゴンの懐に飛び込む。出てきたときには金の卵をしっかりと抱えていた。

 

「やった! やりました! ハリー・ポッターが最短時間で卵を取りました! これでポッター君の優勝の確率が上がるでしょう!」

 

 順番に点数が発表されていく。結果としてはカルカロフ以外の全員が高得点を付け、合計点は四十点。クラムと同点だ。所謂暫定一位というやつである。

 

「よくやったよね。少しチキンプレーだったけど。」

 

「そうですね。意外に堅実でびっくりしましたね。」

 

 派手なのか地味なのかよくわからないが、なんにしても卵を取ることが出来た。ハリーなりの頭脳プレイと言ったところだろう。まあ、はっきり言えばそんなことはどうでもよろしい。私たちにとって本番はこれからだ。ついに咲夜の出番である。

 ホーンテールが二十人ほどの魔法使いに連れられて退場したあと、卵の入れ替えが行われたが、その時点で少し奇妙な点があった。卵のサイズが異様にでかいのだ。混ぜられた金の卵が小さすぎて少し浮いてしまっているぐらいだ。卵のサイズがアレなら、ドラゴンはどのような大きさなのだろう。少ししたのち、何十人の魔法使いに連れられてドラゴンが競技場内に入ってくる。そのドラゴンは先ほどのものとサイズを比較するまでもなく、明らかに大きかった。

 

「ウクライナ・アイアンベリー種ですね。魔法界に生息するドラゴンでは最大級の大きさで、さらには狂暴という。」

 

 これは見ものである。一体咲夜がこのドラゴンをどのように料理するのか。私にあのような確認を取ってくるということは、まともな攻略の仕方をするのではないだろう。ドラゴンが落ち着いたところでバグマンが実況を再開させる。

 

「さて、次が最後の選手になります。最年少選手の一人にして、ホグワーツ創設以来の天才! 十六夜・咲夜!」

 

 歓声と共にブザーが鳴り響き、咲夜が控えのテントから姿を現す。私はその姿に全く違和感を覚えなかったが、周囲からは異様な歓声が沸き起こる。ああ、そうか。びっくりするほど違和感がないと思ったが、なるほど、納得だ。咲夜は今、いつも紅魔館で着ているメイド服を着ていた。

 

「さあ最後の選手の登場です。おーと! これはサービス!? メイド服を着ています。みなさんよく心のカメラであの姿を……っと話がズレました。」

 

 咲夜は右手に杖を構えると、ドラゴンに向かって恭しく一礼する。ドラゴンは咲夜のそんな様子に首を傾げていた。

 

「おっと、ドラゴンと決闘でもしようとしているのか? ドラゴンは奇妙なものを見るような目で十六夜選手を見つめます。」

 

 バグマンは決闘のようだと言った。だが、それは大きな間違いであると言わざるを得ないだろう。決闘をするものは、少なくともあんな目をしない。あれはどちらかというと、鶏の首を刎ね落とすかのような、機械的な目だった。

 咲夜は近くにある岩に杖を向けると、それを粉砕する。どうやら、何か策があるようだった。砕かれた岩は咲夜の杖の動きに合わせて浮遊し、列をなしてドラゴンを包囲する。言うなれば土星の輪っかのようなものでドラゴンを取り囲んだとも言えるだろう。次の瞬間、取り囲んでいた岩が全てナイフに変わった。

 

「it`s Show Time. 踊り狂いなさい。」

 

 咲夜の冷たい声が競技場内に響き渡る。咲夜は変身させたナイフを左手に持つと、一度に三本ずつ次々に投擲した。投擲されたナイフはドラゴンを取り囲んでいたナイフに弾かれ、ドラゴンの方へと飛んで行った。

 

「これはなんということでしょう! まるでナイフが意思を持っているかのようにドラゴンを包み込み傷つけていきます。ですがこれでは致命傷は与えられません!」

 

 バグマンの言う通り、ナイフはドラゴンを掠めるだけで突き刺さることはない。故にどんどんとドラゴンを囲むナイフの本数が増えて行っていた。

 

「秘儀『黒髭危機一発』」

 

 咲夜がドラゴンに向けて杖を振るう。それを合図にしてナイフが一本ずつ、物凄い速度でドラゴンに突き刺さっていった。秒間百本以上のナイフがドラゴンを襲う。

 

「物凄い連撃です! 硬い鱗をものともせずにナイフがドラゴンに突き刺さっていきます。ドラゴンを剣山にでもするつもりなのでしょうか!?」

 

 全てのナイフがドラゴンに刺さるまでに十秒も掛からなかった。最後の一本がドラゴンに刺さった瞬間、爆音と共にドラゴンの首が打ち上げられる。

 

「へぇ。」

 

 ついつい感嘆の声を漏らしてしまう。時間を停止させて何かを行ったのだろうが、流石にこれは予想していなかった。

 

「ど、ドラゴンの首が飛びました! 一体どういうことだ!? どのような魔法を使ったのか見当もつきません!」

 

観客の歓声と悲鳴と共にドラゴンの首が落下し始める。落下地点には大きな銀の皿が用意されており、ドラゴンの首は見事に銀の皿の上に載った。その光景に観客はみな押し黙る。どうリアクションを取っていいか分からないといった表情だった。いや、単純に唖然としているだけか?

 咲夜は審査員席に向かって優雅にお辞儀をすると、ドラゴンの死体を踏み越え金の卵を持ち上げた。

 

「や、やりました! 十六夜選手最短時間で金の卵を手に入れました! しかもドラゴンを討伐してのクリアです。えぇ、非常に魅せてくれました! まさに優雅! まさに瀟洒! 傷どころか服さえも汚しておりません。これは高得点が期待できそうです。」

 

 バグマンの実況と共に固まっていた観客たちが我に返る。ダイナマイトでも爆発させたような歓声と拍手が沸き起こった。

 

「圧倒的ね。他の選手とはレベルが違うわ。」

 

 横で美鈴がドヤ顔をしている。なんというか非常にウザい表情だが、きっと私も無意識のうちにドヤ顔をしていたことだろう。鏡がないので確認することが出来ないが、全くもって誇らしい。

 

「さあ、審査が終わったようです! 審査員の皆さんは点数をお願いします!」

 

 マクシームから点数を出していく。当然のように十点。その後も十点の表示が続いていく。まあ普通に考えて五十点満点だろう。他の選手と比べて劣っている要素が何一つ存在しない。クリア時間、使っている魔法の高度差、魅せ方。どれをとっても咲夜が一番優秀だろう。

 五十点満点と予想しながら私は審査員の点数を確認していく。カルカロフまで十点表示が続いているので、このまますんなり五十点満点になるだろう。だが、カルカロフは私の予想を完全に裏切った。カルカロフが掲げた点数は三点。今までで一番低い配点である。

 

「マジかよ!!」

 

 隣にいた美鈴が思わず叫ぶ。周囲の観客もその配点に完全に黙っていた。皆の心境を代弁するならこうだろう。まったく意味が分からない。あのダンブルドアでさえ、目を見開いてカルカロフを見ていた。一触即発とまではいかないが、流石にカルカロフも不正が過ぎたことに気が付いたらしい。少し顔を青くしていた。

 

「あら。」

 

 静まり返った会場に声が響く。痛々しいまでの沈黙を破ったのは、先ほどまでドラゴンと戦っていた咲夜だった。

 

「貴方の自慢のクラムは競技をクリアするのに何分掛ったのかしら? 自慢のクラムは私と同じことが出来ると?」

 

 まさかここで咲夜がカルカロフに救いの手を差し伸べるとは。咲夜は暗に採点をやり直す機会を与えたのだ。そうでなければ、流石に自分の生徒を贔屓しすぎているとして、審査員を降ろされるところだっただろう。咲夜の抗議をきっかけにして、観客たちがカルカロフにブーイングを送る。カルカロフは苦々しい複雑な表情を浮かべて点数を十点に変更した。

 

「満点! 満点が出ました! 今大会初の満点です! 学生とは思えないような……いや、闇祓いも単身でドラゴンの討伐などやってのけないでしょう! 文句のつけようがない技術と力量です!」

 

 割れんばかりの拍手の中、咲夜は悠々と控えのテントに戻っていく。まったく、大したものだ。次帰ってきたときにでも抱きしめてやろう。覚えていたらだが。

 

「さて、帰りましょう。」

 

 私は肩に立てかけていた日傘を持つと、伸びをしながら立ち上がる。美鈴も満足げな表情を浮かべていた。

 

「帰りはどうしようか。ホグワーツ特急?」

 

 ホグズミードへの帰路を歩きながら、美鈴が私に聞いてくる。確かにそれでもいいのだが、少し面倒くさいとも言えた。

 

「いえ、帰りは煙突飛行にしましょう。お姉ちゃんも一回乗れれば十分でしょ?」

 

「まあそうだけどね。お金もかかるし。」

 

 ホグズミード村にある適当な店に入り、暖炉を借りる。私はその暖炉に煙突飛行粉を放り込み、美鈴と一緒に中に入った。

 

「紅魔館。」

 

 店主に聞こえない程度に、だが発音が怪しくならない程度の小声で目的地を言う。次の瞬間には私たちは紅魔館の大図書館の暖炉に降り立っていた。

 

「待った。」

 

 パチェの鋭い言葉に暖炉から出ようとしていた私と美鈴の足が止まる。

 

「三手、いや六手戻して。」

 

 どうやら朝にやっていたチェスの決着はまだついていないようである。チェス盤を見ても殆ど局面が動いていない。私は小さくため息をつくとパチェの横に腰かけた。

 

「美鈴、取りあえず家事に戻っていいわよ。私はこの勝負の決着をつけてから寝ることにするわ。」

 

 私は大きく欠伸をしながらチェスの駒を動かす。戦況はアホみたいに悪いが、勝てない勝負ではないだろう。

 

「流石にズルくないですか?」

 

 対面にいるリドルがジトッとした目を私に向けてくる。私はパチェと肩を組んで不敵に笑った。

 

「パチェと私は一心同体よ。パチェは私の外部記憶装置だし、私はパチェの体のようなもの。故に、ここで私が代わりに打つのは正当な行為。」

 

「じゃあヴォルデモート呼んできてもいいですか? あれ僕の半身なので。」

 

「いいわよ。居ても居なくてもあんまり変わらないし。」

 

 リドルは分かりやすく舌打ちすると、チェスの駒を動かす。チェスというゲームは基本的に形勢を逆転させるのは難しい。難しいが、それは実力差がない場合である。代打でチェスを打ち始めて三十分。少し時間は掛かったが、なんとかチェックメイトをすることが出来た。

 

「……これでチェックメイトよ。」

 

 私はクイーンをキングが取れる位置に移動させる。リドルはこめかみを何度か指で叩くと、諦めたようにため息をついた。

 

「どうやら僕の負けのようですね。」

 

「あら、待ったは使わないの?」

 

 私はそう提案するが、リドルは静かに首を横に振る。そして大きく肩を竦めた。

 

「そんな恥知らずなことできませんて。」

 

 パチェが椅子を倒す勢いで机を叩きながら立ち上がる。両手を握りしめて全体的にプルプルしていた。なんだか可愛い。まあでも、今のは怒るのも致し方ないだろう。今のは完全に侮辱だった。パチェは顔を真っ赤にしながらリドルを睨みつけると、怒りに震えながらも椅子に座りなおす。

 

「どうせチェスは弱いわよ。チェスはね。」

 

「というか、リドル。貴方チェス強いのね。久々に苦戦したわ。」

 

「三十分であの状況から逆転させておいてよく言いますね。これでも魔法チェスのチャンプだったのですが。」

 

 リドルがチェスの駒をチェス盤の裏に仕舞いながら言う。よほど自信があったようで、少ししょげているようだ。まったくどいつもこいつも感情豊かで羨ましい限りである。

 

「キャリアが違うわよ。私五百歳貴方六十歳。それにここ数百年はひたすら頭を使って生き抜いてきたのよ?」

 

 これでもスカーレット家の当主だ。駆け引きで後れを取ってはいけない。闇の帝王なんぞに負けてたまるか。

 

「なんにしてもパチェ、一つ聞きたいことがあるんだけど。」

 

 私は机の上に伏せているパチェに問いかける。

 

「この変装っていつ解けるの?」

 

「ああ、そういえばまだ解いていなかったわね。」

 

 パチェは机から顔を上げると私の肩に軽く触れる。触れた瞬間に背中に羽が生えるのを感じた。それで気が付くが、そうか、先ほどまで羽は消えていたのか。何か物足りないとは感じていたが、まさか羽が無くなっていたとは思わなかった。

 

「まあパチェ、気を落とさないで。今気軽にやったそれですらリドルには不可能なレベルの魔法だから。」

 

「そうですよ先生。吸血鬼や妖怪をあそこまで完璧に人間に擬態させることが出来るのなんて先生以外にはいませんよ。」

 

 あ、どうやら変装どころの話ではなかったようだ。しかし今擬態と言ったか。もしかしたら日の光に当たっても大丈夫だったのかも知れない。まあ、怖くて実行出来たものではないが。私たちが必死におだてた結果、何とかパチェは機嫌を取り戻す。やはり引きこもりは少々我儘に育ってしまうものなのか? パチェといいフランといい、本当に手間のかかる家族である。

 

「なんにしても、今日も今日とて私は寝るわ。夜までにはまだ少し時間があるし、少しでも寝ておかないとね。」

 

 いくら寝る時間を調整したからといって、昼間はやはり眠たいものだ。これは自然の摂理であり、逆らえない本能である。理性によってある程度は本能を抑え込むことも出来るが、それでも眠いものは眠いのだ。

 

「あらそう。そういえば、試合の方はどうだった?」

 

 すっかり顔色が元に戻ったパチェが椅子から立ち上がろうとしていた私に問う。私はそのまま立ち上がると大図書館の出口に向かって歩き出した。

 

「勿論咲夜が一番よ。満点を取って課題をクリアしたわ。」

 

「そう、まあ相手はドラゴンだし。咲夜なら何の問題もなく突破したでしょうね。」

 

 やはりと言うべきか、パチェは課題の内容を全部知っているようである。まあ当然だ。パチェには魔法省の情報を探るように言ってある。魔法省が今後の課題の内容を決めている限り、パチェもそれを知ることになるのだ。

 

「ただ能力の性質上、次の課題は厳しいものになりそうよ。だって――」

 

「おっと、ネタバレはそこまでよ。これでも私楽しみにしてるんだから。」

 

 パチェの言葉を遮りつつ、図書館のドアを開ける。

 

「じゃあ、また夜にでも。」

 

 私は眠い目を擦りながら大図書館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 1994年、十二月。クリスマスパーティーの準備を進めていた私の元に凶報が入った。いや、狂報と言い換えるべきかも知れない。私の目の前には、困り果てた表情のリドルが立っている。凶報を持ち込んだのはリドルだ。

 

「ごめんなさいね。仕事の疲れか上手く聞き取れなかったわ。もう一度、同じことを言いなさい。」

 

 私は軽く頭を抱えながらリドルに問い返す。リドルは申し訳なさそうに先ほど言ったことを繰り返した。

 

「クリスマスにお暇を頂くことは可能でしょうか。」

 

 どうやら仕事の疲れのせいではないらしい。今こいつは何を言った? クリスマスに休暇が欲しい? 頭がおかしいんじゃなかろうか。それとも天性の馬鹿なのかも知れない。

 

「リドル、ホグワーツを首席で卒業した貴方に、私としてもこんなことは言いたくないのよ? でも言わせてもらうわ。バッカじゃねぇの!? 論外よ。ただでさえ今年は咲夜がホグワーツのクリスマスパーティーに出席するとかで人手が足りないのに。パチェが過労死するわよ! そりゃね、何もない日に休暇が欲しいと言われれば、はいどうぞ休んでくださいと言えるわ。例えば今日とかね。でもねリドル。紅魔館ではクリスマスにクリスマスパーティーなるイベントが開催されるの。外から多くの客を呼び込んで盛大に行われるパーティーよ? そんなパーティーの運営を私含めて三人で行えって? もう一度言うわよ、バッカじゃねぇの!?」

 

 そもそも咲夜がいないというだけで大忙しなのだ。これ以上人員が減るというのは、あまりにも……。

 

「……はぁ。貴方の働きには期待しているのよ。そもそも外出が出来ない貴方が、休暇を貰って何をするというのよ。昼寝?」

 

「実はクリスマスパーティーに呼ばれてしまいまして。」

 

 今まで黙って私の怒声を聞いていたリドルが、信じられないようなことを口にした。もしかして怒鳴りすぎて言語を司る神経がおかしくなってしまったのだろうか。今こいつはクリスマスパーティーに呼ばれたと言ったか?

 

「ちょっと意味不明すぎるわ。順を追って説明しなさい。」

 

 私は立っているリドルを向かい側の椅子に座らせて詳しい話を聞くことにする。こいつの困り顔と意味不明な発言から察するに、何か事情があるのはわかる。

 

「それがですね。咲夜からダンスパーティーのパートナーになって欲しいとお願いされまして。いや、あれはお願いってよりかは命令の類でしたけど……。」

 

 そう言ってリドルは大きくため息をつく。確かにクリスマスにダンスパーティーがあるという話は聞いている。代表選手は強制参加で、ダンスのパートナーを見つけないといけないという話も聞いている。だが、そのパートナーがリドルである必要性は聞いていない。何故リドルなのだろうか。もっと適任がいくらでもいるはずなのだが。

 

「……咲夜ってそんなに、壊滅的なほどに友達いないの?」

 

「そんなことはないはずです。今ホグワーツで生徒の人気投票が行われたら間違いなく一位になる程度には人気があるでしょう。後輩からは慕われていますし、上級生にも嫌な顔はされていません。」

 

 なんでこいつこんなにホグワーツの情勢に詳しいんだ? 咲夜から色々と聞いているのだろうか。

 

「なら他にパートナーになり得る人間は腐るほどいるでしょう? なんでリドルなのよ。」

 

「咲夜曰く、自分に釣り合うのは僕しかいないとのことでしたが、真意は分かりません。」

 

 まあどこの馬の骨とも分からない男に咲夜の手を握らせるぐらいなら、リドルを派遣した方がいいというのは分かるが、それを咲夜の方から提案してくるのは謎だった。咲夜ならリドルをホグワーツに送る危険性をよくわかっているだろう。一応破壊されたことになっているとはいえ、リドルの姿は若き日のヴォルデモートそのものだ。魔法でガチガチに変装させないとあっという間にダンブルドアあたりに正体を見破られてしまうだろう。

 ダンブルドアはあれでも元変身術の教授だ。変装や変身に関してはプロフェッショナルなはずである。それに、パチェが死ぬ気で頑張って何とか偽装を施したとしても、それはそれで目立つ。ダンブルドアですら見破れない偽装を纏った少年。世間では、そういう存在のことを不審者と呼ぶ。

 

「珍しいわね。咲夜がそんな無茶苦茶なことを言うなんて。ある種の我儘なのかしら。もしそうなのだとしたら出来る限り叶えて上げたいところなんだけど……動機の可愛さによるわね。」

 

 可愛らしい動機。例えば、折角のダンスパーティーなのだから友達と一緒に踊りたい、とか。そういった理由だったら我が従者可愛さにリドルを派遣してしまうかも知れない。だが、咲夜がそんなどうでもいい、可愛らしい理由でリドルを派遣してほしいと言っているとも思えなかった。

 

「動機の可愛さ……ですか。まあでも確かにあの咲夜ですから、ただの我儘ではなさそうなのも確かです。わざわざ僕を派遣してほしいと頼む理由……。僕を囮にして何かやろうとしているとか?」

 

 確かに、可能性としては捨てきれない。そんな不審者が現れたら間違いなくそっちに目が行く。

 

「咲夜が何かをしようとしているというのは考えられないわね。それだと完全にリドルを捨て駒として使うことになる。どんなに怪しい相手でも、咲夜のダンスのパートナーとなれば強引な手段が取れなくなる。そういったことも考えてダンスのパートナーって言っているんだろうし。もし何かの陽動だとしたら、実行犯は他にいるはず。さらに言えば、そんな大掛かりな作戦を実行しようとしているんだったら、何らかの手段で私に確認を取ってくるはずよ。だから、陽動、囮ということはないでしょうね。」

 

「だとしたら僕と接触することが目的、もしくは咲夜と僕が一緒にいるところを特定の人物に見せたいと言ったところでしょうか。」

 

 まあそう考えるのが妥当なところか。

 

「リドルと直接会わないといけないような用事……何かを受け取りたいとか? でもパチェの手に掛かれば咲夜のところに直接戦艦を送り付けることも出来そうだけど。なんでリドルなのかしら。」

 

 本来ならば咲夜とコンタクトを取って意図を聞き出すのがいいのだろうが、咲夜の方にはあまり干渉しないことにしている。

 

「うーん……ただ友達と一緒にダンスを踊りたいだけとか、そんな簡単な理由ならこちらとしても救われるんだけどね。まあいいわ。行ってきなさいな。リドル。」

 

 咲夜のことだから何か考えがあってのことだろう。部下の思惑を台無しにするほど、私も無粋ではない。だが、リドルはそんな私の返答が予想外だったようだ。口を半開きにしたままポカンとしていた。

 

「え、いや……行ってきていいんですか? 自分から言い出しておいてなんですけど、てっきり断られるかと……いや、断られる前提でここに来たんですが。」

 

 リドルの態度を見るに、どうやら私から咲夜を説得してほしかったようだ。リドルの言うことは聞かなくても、私の言うことなら聞くだろうという判断だろう。まあ、リドルの言うことももっともだ。紅魔館としても、クリスマスは余裕がない。

 

「断られる前提ね。確かに人的余裕は全くないわ。でもそれと同時に面白そうでもある。若き日のトム・リドルをダンブルドアの前に晒すという行為そのものがね。パチェと良く相談して、偽装を完璧にしなさい。あとそれと、私から咲夜への伝言を託すわ。『不死鳥の騎士団に入るにあたって、咲夜の能力の話をしていい』とね。あの能力は非常に貴重なもの。ダンブルドアはそれこそ喉から手が出るほど欲しがるはずよ。例え咲夜が学生であっても、自分の陣営に引き込むに違いないわ。」

 

 咲夜が不死鳥の騎士団に入るにあたって危惧していたことの一つに、咲夜がまだ学生であるというものがあった。どんなに追い詰められていたとしても、あのダンブルドアが戦争に学生を巻き込むようなことをするかと。どれだけ咲夜が優秀であろうとも、普通に優秀なだけでは足りない。優秀ではなく、異常でなければ、ダンブルドアが自らの仲間として引き込むことはないだろう。

 

「そういえば、少し前にホグワーツが監獄のようだという話をしたわよね。」

 

「娯楽が少ないという話ですか? 図書館の中でしましたね。」

 

「その時は、娯楽という面でしか見ていなかったけど、今考えると本当に監獄のようね。教師から監視され、外出の自由は利かず、娯楽も少ない。外との通信方法は梟便による手紙だけ。まるで咲夜を人質に取られているようだわ。」

 

 それを聞いてリドルはまた目を丸くする。そのあとクツクツと笑い始めた。どうやら私の表現が余程面白かったらしい。

 

「娯楽が少ないというのは認めますが、あそこは魔法使いの学校です。元々、魔法使いを育成するために作られた学校だということをお忘れなく。今でこそあそこで学んでいるのは魔法族の子供ですが、昔はもっとちゃんとした魔法使いの為の学校だったのです。」

 

 私はリドルが言わんとしていることを理解した。咲夜が賢者の石を持って帰ってきた時にパチェが話していた内容を思い出す。『魔法使いとは知識を求める生き物なのよ。巨万の富や永遠の命は副産物でしかない。』

 

「なるほど、昔はパチェがいうところの本当の意味での魔法使いを育てる学校だったと。そういう意味ね。知識だけを追い求め、好奇心の赴くままに研究を続ける。」

 

「そうです。その頃の風習が残っているため、ホグワーツには自由がない。いや、当時は自由など必要としていなかったのです。」

 

 そう言われれば、自由のなさも納得できる。つまりあそこは純粋な魔法使いにとっては天国のような場所だということか。娯楽がないという話をしたときに、パチェとリドルが否定した理由が分かった。パチェもリドルも、ドン引きするぐらいの『純粋な魔法使い』だ。

 

「まあ実際リドルはホグワーツ生以上に自由がないわけだけど、不便はしてなさそうだしね。」

 

「今ではすっかり図書館が僕の家ですよ。何にしても、伝言をお預かりしました。クリスマスパーティーの時に咲夜に伝えます。」

 

 リドルは椅子から立ち上がると、一礼し部屋を出ていく。出ていった後で、ふと思うことがあった。魔法使いとしてあるべき生き方をしているパチェとリドルにとって、ホグワーツとは故郷のようなものなのかも知れない。だが、純粋な魔法使いではなく、勉強も嫌いな咲夜にとってホグワーツとはどのような場所なのだろう。

 敵国の軍隊にスパイとして潜入している。ふとそんなイメージが思い浮かび、私は一人部屋で笑った。なんにしても、第二の課題の時にでも会いに行こう。今度は変装することなく、普通に観戦しに行くのもありかも知れない。

 

「あ、クリスマスパーティー……。」

 

 …………。その前に盛大に頭を抱えそうだ。




第一の課題

クリスマスの運営が三人になることが決まる←今ここ

あれ? 本当に一万文字書いたか心配になるほど話が進んでないぞ?

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