紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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第二の課題で丸々二話分も使うとは思いませんでした。前作では一話分で終わってたのに……どうしてこうなった。多分おぜうさまが色々いらんこと考えすぎなんでしょうね。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。というか、ほんと助かってます。大体いつも書き終わると「うぼはぉ……もう見直す気もおきん、投稿じゃボケェ……」と言った感じなので。


眼鏡やら、道徳心やら、切符代やら

「なんだなんだなんだー! 湖から玉座がせりあがってきました! あそこで日傘を差しているのは十六夜選手でしょうか!?」

 

 あの声はルード・バグマンだろうか。相変わらず威勢のいい実況だ。私はゆっくりと階段を降り始める。出来るだけ威厳たっぷりに見えるように。折角咲夜がこのような舞台を用意してくれたのだ。存分に楽しまなくては。最初は固まっていた観衆も次第に拍手をし始め、今では大歓声だ。

 階段を下りると審査員が出迎えてくれる。ダンブルドアが一番初めに前に出て、私に一礼した。

 

「今回はご協力に感謝しております。スカーレット嬢。」

 

 随分とよそよそしいが、まあ皆の手前という奴だろう。私は大物のように軽く手を上げてそれに応える。

 

「私と貴方の仲じゃない。それに愛すべき従者の晴れ舞台だしね。」

 

 私はダンブルドアに向かって右手を差し出す。ダンブルドアはその手を握り返した。その後も他の審査員と握手を交わしていく。そういえば、クラウチ・シニアの姿が見えないな。代わりにウィーズリーの子供のパーシーが来ていた。

 

「あら、貴方はクラウチの代理?」

 

「は、はい! クラウチ氏の代理のパーシー・ウィーザビーです。どど、どうぞよろしくお願いいたします!」

 

 完全に名前を噛んでいたが、緊張しているのだろうか。握手を交わした時も右手が震えていた。もしかしたら吸血鬼恐怖症とか? なんにしても弄り甲斐がありそうである。私が全ての審査員と握手を終えると同時に、バグマンが実況を再開させる。

 

「十六夜咲夜選手がやりました! 華やかに自らが仕える主人を連れて三十八分で第二の課題をクリア! 玉座がせり出したことによって他の選手に影響がないかだけ心配ですが、多分大丈夫でしょう!」

 

 一体その自信は何処から来るのだろうか。私はフリットウィックがいそいそと用意していたパラソル付きの椅子にどっかりと腰かける。どうやらスペシャルゲスト扱いのようだった。というかフリットウィックの奴、本当に気が利くな。出来ることなら美鈴と交換したいところである。

 

「お嬢様、私は――」

 

「まだ競技の途中でしょう? 私についていなくてもいいわ。」

 

 私は咲夜に向かって手を払う。何時までも咲夜を横に侍らせているわけにもいかないだろう。先ほどは私が主役のようになってしまったが、一応主役は咲夜だ。咲夜には選手らしく他の代表選手を待ってもらわなければならない。咲夜は私に一礼すると、湖岸を歩いて行った。

 

「さて、パーシー君。クラウチ氏の様子はどうだね? 今日欠席ということは、相当に多忙なようだが。」

 

 私はわざと堅苦しい口調でパーシーに話しかける。パーシーは分かりやすくビクンと動くと機械人形のような動きでこちらを見た。本当にこいつは何をそんなに緊張しているのだか。

 

「クラウチ氏は今日は体調がよろしくなく……。」

 

「今日は?」

 

「いえ、ワールドカップが終わってからずっとです。」

 

 やはり服従の呪文で操られていることの弊害が出ているようだ。まあ完全に隠し通すことは難しい為、人の目につくような場所に出さないというのはある意味正解だろう。それに、この青年からかなり強いクラウチに対する忠誠心を感じる。ここまで妄信的ならこいつにバレることはなさそうだ。

 

「そう、若いのに頑張るわね。あ、ちょっと眼鏡貸して。」

 

 私はパーシーの掛けている眼鏡を掴み取ると自分の顔に掛ける。度は殆ど入っていないようで、半分威厳を出すために掛けているのだろう。まあ、見た目というのは大切だ。私も容姿にはそれ相応に気を使っている。

 

「ダンブルドア、どうかしら? 似合ってる?」

 

 私はわざとらしく中指でクイっと眼鏡を持ち上げる。パーシーは面白いぐらいオロオロとしていたが、ダンブルドアはクスリと笑ってくれた。

 

「そういえば吸血鬼も目は悪くなるのかのう。片眼鏡を掛けているイメージがあるのじゃが……。」

 

「確かに私の父とかは掛けていたわね。でも、アレは装飾品のようなものよ。威厳を出したいだけね。そういう意味では、この眼鏡と同じようなものだけど。それを言うなら魔法使いも同じよ。視力ぐらい魔法でどうにかなりそうなものだけど。」

 

 私はダンブルドアの掛けている眼鏡を見る。マグルの世界でも視力を戻す研究が成功しているほどだ。医療に明るい魔法界で同じことが出来ないとも考えにくいが。

 

「そうじゃのう。多分あるんじゃろうが、わしは知らんの。」

 

 ダンブルドアが知らないとなると、本当に腕のいい癒者しか知らない魔法なのではないだろうか。そもそもあるのかも怪しい。まあ目が悪くなったら眼鏡を掛ければいいという考えなのだろう。その辺はマグルも魔法使いも変わらないように思えた。

 

「なんか面白いもの掛けてますね。」

 

 不意に後ろから手が伸びてきて、私から眼鏡を外す。袖の白と黒を見る限り、腕の主は美鈴だろう。私が後ろを振り向くと、そこにはパーシーの眼鏡を掛けた美鈴が立っていた。

 

「どうです? 似合いますかね。」

 

 美鈴は眼鏡を掛けたままクルリと回る。なんというか、眼鏡一つでここまで印象が変わるとは思わなかった。何時ものマヌケ面が妙にしっかりして見える。スーツと相まって敏腕秘書のようだ。

 

「あら、少しはまともに見えるわね。あとは髪を黒く染めたら完璧よ?」

 

 そしてついでに肌を白く塗ろう。そしたら完全にモノクロになる。結構楽し気な恰好になるだろう。

 

「やですよ。髪が痛みそうですもん。それにおぜうさま的には赤髪の方がお好きでしょ?」

 

「まあそうなんだけどね。だったらスーツも赤にしなさいよって話で。」

 

「どこぞの怪盗みたいになるので嫌です。」

 

 あれはジャケットでしょうに。と心の中で突っ込む。私は美鈴が掛けている眼鏡を背伸びして取ると、パーシーに掛け直した。

 

「そういえば、咲夜以外の選手が全然湖から顔を出さないわね。大丈夫なの?」

 

 咲夜がクリアしてから既に十分以上が経過している。そろそろ次の選手が出てきてもいいぐらいの時間のはずなのだが、湖面は全く動かない。私の横に座っているパーシーも次第にそわそわしだした。そういえば弟が沈んでいるんだったか。

 そんなことを考えていると、湖面が大きく揺れ、水しぶきと共に水中人が出てきた。肩に人間を担いでいるのを見るに、どうやら水中で気絶した選手がいたようだ。

 

『デラクール!』

 

 審査員席でマクシームが悲鳴に近い叫び声を上げ、水中人に駆け寄っていく。それと同時に癒者だと思われる魔女も駆け寄っていく。水中人は癒者に人間を預けると、湖に戻っていった。どうやらボーバトン代表のフラー・デラクールのようだ。癒者はあっという間にデラクールを毛布でグルグル巻きにすると、目にも止まらぬ速さでデラクールに魔法を掛けていく。その手際の良さと言ったら私でも舌を巻くほどだ。

 

『デラクール! しっかり! 何があったの!?』

 

 マクシームがフランス語で早口で捲し立てる。癒者は癒者でデラクールの意識が戻った瞬間に魔法薬をデラクールの口に押し込んだ。次の瞬間、デラクールの耳から湯気が噴き出し、デラクールが我に返る。

 

『ガブリエル!!』

 

 デラクールは大声で叫ぶと同時にすごい勢いで体を起こすと、もう一度湖に戻ろうと暴れ出す。一瞬気でも狂ったのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。

 

『フラー! 戻ってはダメです! 貴方は十分頑張りました!』

 

『嫌よ! 嫌! ガブリエル、返事をしてガブリエル!!』

 

 どうやら湖の中に残してきた人質が心配なようである。

 

『ガブリエルなら大丈夫ですから! 貴方は大人しくしてなさい!』

 

 デラクールはマクシームの制止を振り切って湖に飛び込まんばかりの勢いである。マクシームは仕方なしとばかりにデラクールの後ろ襟を掴むとグイッと持ち上げた。マクシームは二メートルを優に超える巨体だ。デラクールも背は低いほうではないのだが、完全に足が地面から浮いていた。

 次の瞬間、何者かに後ろ襟を掴まれ、持ち上げられそうになる。いや、何者かになんて言い方をしたが、そんなことをしようとするやつなどこの場に一人しかいない。私はその場で体を捩じると美鈴の腹に思いっきり拳を叩きこんだ。

 

「どふっ……。」

 

 美鈴の口からそんな鈍い声が聞こえる。十メートルほど殴り飛ばす気持ちで撃ったのだが、案外丈夫な奴だ。数センチ後退しただけだった。

 

「やだなぁ……冗談ですよ冗談。」

 

「襟を掴んでおいて白々しいわね。次やったらお腹に穴が開くまで殴るわよ。」

 

 私は美鈴を睨みつけてから湖面を見る。そろそろ制限時間のはずだ。バグマンも杖を手に持ち自分の喉に拡声呪文を掛けている。

 

「さて! 制限時間になりました。ですがまだクラム選手とポッター選手の姿は見えません。かなり水中で手こずっているのか、それとも人質が見つからないのか。」

 

 どうやら制限時間を越えても失格にはならないらしい。何とも生易しいことである。そういえばデラクールも失格判定は出ていなかったな。人質を連れ戻す競技とは言いつつ、結果だけでなく過程も採点要素のようだ。

 突如湖面から一匹のサメもどきが飛び出してくる。何故『もどき』かと言えば、頭以外は人間のそれだからだ。かなり不完全な変身術だと言える。サメもどきはそのままの勢いで湖面から飛び出すと、両足で湖岸に着地した。腕にはハーマイオニーを抱えている為、あの選手はクラムなのだろう。

 

「クラム選手、制限時間を三分オーバーしましたが見事人質を取り戻しました! いやはや素晴らしい!」

 

 またもや先ほどの癒者が凄い勢いですっ飛んできて二人を毛布でグルグル巻きにする。そして二人の意識があることを確認すると、両方に魔法薬を手渡した。先ほどの耳から蒸気が出るという特徴から察するに、あれは元気爆発薬だろう。

 ようはマグルの世界でいう覚醒剤のようなものだ。まあ覚醒剤の主成分であるメタンフェタミンと違って副作用や中毒性はない為、その点に関しては心配が要らないが、調合に失敗すると結構酷いことになるらしい。何にしても、ビジュアル的に私は飲むのは御免だった。

 さて、これで残る代表選手はハリーだけになった。妙に遅いが、水中人がハリーを連れて現れないところを見るに、湖の中で行動不能には陥っていないらしい。私はデラクールの絶叫を聞きながらハリーが出てくるのを待った。横を見ると、パーシーが顔を真っ青にしながらそわそわしている。いや、運営がその様子というのは色々とダメだろう。安全対策はしているはずだろうに。

 暫く待っていると、ハリーが水を吐きながら湖面から顔を出した。その後ろには少女を連れたロンの姿もある。様子を見る限りでは、どうもハリーはロンだけではなく、デラクールの人質も連れて帰ってきたようだ。

 

「ロン!」

 

 パーシーが我慢できないといった様子でロンに駆け寄っていく。デラクールもマクシームの制止を振り切って少女に駆け寄っていった。まったく、皆情熱的なことで。私は軽く肩を竦めると、懐中時計を確認する。制限時間をかなりオーバーしているが、人質は無事助けることが出来た。まあ及第点ではないだろうか。

 あちらこちらで歓声や悲鳴が上がっている中、湖から水中人が出てきてこちらに近づいてくる。どうやら彼女がここの湖に住んでいる水中人の長のようだ。水中人はダンブルドアの元まで歩いていくと、悲鳴のような声で何かを話し始める。残念ながら私はマーミッシュ語を聞き取ることは出来ない。だが、ダンブルドアは水中人が何を言っているか分かるようだ。流石はホグワーツが誇る変態魔法使いである。パーセルタングを扱えるという噂も聞くし、一体何か国語話せるのやら。

 

「どうやら、点数を付ける前に協議が必要じゃな。」

 

 どうやら湖の中で協議をしないといけないような何かが起こっていたようである。十中八九ハリー・ポッター関係だとは思うが、協議を行うには審査員全員が集まらなくてはならない。ダンブルドアがマクシームに声を掛けると、マクシームはロンに引っ付いて離れないパーシーを引き剥がしにかかった。

 やがて、渋々と言った表情でパーシーが審査員席に戻ってくる。これで審査員が全員集まった。

 

「さて、審査員の皆さん。先ほどマーカスから興味深い話を聞いてのう。是非とも点数を付ける前に皆の耳に入れておきたい話じゃ。まず十六夜咲夜選手じゃが、水の中を水中人でも追いつけないような速度で泳いでおったそうじゃ。人質のもとに辿り着いたのは競技開始から二十分後。文句なしの一着じゃな。」

 

 まあ、咲夜なのでそれは当たり前だ。ダンブルドアの話はここからが本題なのだろう。

 

「次に人質のもとに辿り着いたのは、驚くことにハリー・ポッター選手だったということじゃ。ポッター選手は制限時間をたっぷり残した状態で人質を見つけたが、自分の人質だけを助けることはせず、人質全員の安全が確保できるまでその場にとどまったと。途中でクラム選手がミス・グレンジャーを助けたのを見届け、最終的には水中人の制止を振り切ってまでデラクール選手の人質であったミス・ガブリエルを自分の人質のミスター・ウィーズリーと共に救出した。」

 

 ああ、やっぱりそういう話か。ダンブルドアとしてはハリーの行動の道徳性を評価したいんだろう。なら、少し手助けしてやるか。咲夜が五十点満点なのは分かりきっている。第一の課題で咲夜とハリーには点差がついているので、ここでハリーが五十点満点を取っても咲夜の優位は変わらないだろう。

 

「順番に点数を話し合っていこうぞ。まず十六夜選手じゃが――」

 

「満点! 文句なしの満点だ。そうだろう?」

 

 バグマンがニコニコしながら間髪入れずにそう答える。その意見にマクシームは頷いた。

 

「第一の課題でもそーでしたが、かのじょのぎじつは頭ひとつ抜き出ていまーす。」

 

 自分の学校の生徒が途中棄権したこともあって、マクシームは咲夜に点を入れることに躊躇はないようだった。ダンブルドアとしても自分の学校の生徒に点を入れることはやぶさかでないだろう。だとすると、残るはカルカロフとパーシーだ。

 

「パーシー、君は十六夜選手についてどう思う?」

 

 ダンブルドアがそう聞くと、パーシーは分かりやすく私の顔色を確認する。どうやら下手なことを言うと私に食べられると思っているらしい。いや、純粋に私が滅茶苦茶お偉いさんだと思っているのか? 私なんて魔法界ではちょっと有名な占い師程度なのだが。パーシーは何度か深呼吸をすると、真面目な顔をして話し始めた。

 

「ホグワーツに在籍していた頃から彼女のことはよく見てきましたが、非常に優秀な魔女です。今回もその実力を遺憾なく発揮した結果であると分析致します。技量もさることながら、演出にも凝っており、満点をつけるに値するかと……。」

 

 なるほど、優等生の意見だ。これで残るはカルカロフだけだ。ダンブルドアは意見を求めるようにカルカロフを見る。カルカロフは苦々しい顔をしながら異論はないと答えた。満場一致、流石咲夜だ。議論する余地すら与えないとは我が従者ながら恐れ入る。

 

「では、次にフラー・デラクール選手の点数を話し合おうと思うのじゃが……彼女は人質を助けることが出来なんだ。競技としては本来失格扱いじゃが、わしは点数を与えても良いとおもっとる。」

 

「おーう、ダンブリドール。それーは、なぜでーす?」

 

 ダンブルドアの意見に、マクシームが声を上げる。どうやら、彼女的にはデラクールは失格扱いだと思っているようだ。

 

「彼女が用いた泡頭呪文は見事なものじゃった。マーカスの話では水魔に襲われた際に岩場に頭をぶつけてしまったらしい。半分事故のようなものじゃったと。勝負事において運というのは大きな要素にはなりうるが、運が悪かったと切り捨てていい問題でもないのでな。」

 

「私もダンブルドアに同意見だ。この競技の場合、今日というこの日も勿論大切だが、第一の課題終了時に渡された卵の謎をいかにして解き、準備を進めたかというのも大切になってくる。並の魔法使いでは、水に潜る準備すらままならず、棄権することになっただろう。」

 

 バグマンの意見を聞いてマクシームが少し視線を泳がせる。ああ、あの顔を見る限り、マクシームが少なからず助言を与えたようだった。

 

「そうだな、三十点ぐらいが妥当か?」

 

 カルカロフが点数を提案する。カルカロフのことだから甘いことは言わずに失格にすべきと言うかと思ったが、デラクールに点を与えることに賛成らしい。まあ第一の課題のデラクールの点数はクラムよりも低かった為、デラクールがクラムの障害になることはないと踏んでのことだろう。なんとも計算高いやつだ。

 

「いえ、二十点でも高いぐらいでーす。」

 

 マクシームがそう進言する。それならばと、ダンブルドアが二十五点にしてはどうかとの意見を出した。皆がその意見に賛成し、デラクールの点数が決まる。咲夜の半分か……多いのか少ないのかと言ったところだろう。

 

「次にビクトール・クラム選手じゃ。マーカスの話では少々湖で道に迷っておったが無事人質の元に辿り着き、無事救出したと。」

 

「変身術が中途半端ではあったが効果的なことには変わりないだろう。私はビクトールには四十五点を与えるのがいいと思っている。」

 

 カルカロフが真っ先にそう言った。こういうのは言ったもの勝ちではあるが、四十五点は流石に高すぎるだろう。

 

「確かに変身術を用いるというアイディアは画期的で、独創的だったと言えるだろう。四十五点も納得だが、カルカロフ。それは制限時間をオーバーしなかった時の話だと思うが。彼は制限時間をオーバーしている。その分の点数を引かなくてはなるまい。」

 

 バグマンがどぅどぅとカルカロフをなだめながらそう言う。確かに制限時間に間に合っていれば四十五点でも誰も文句は言わないだろう。だが、実際にクラムは制限時間をオーバーしているのだ。多少は減点しないとならないだろう。出なければ、制限時間を定めた意味がない。

 

「ふむ、カルカロフよ。四十点ではどうかの。わしとしては妥当な点数だと思うのじゃが。」

 

 ダンブルドアの意見にマクシームとパーシーが賛成する。カルカロフも渋々その意見に頷いた。さて、残るはハリーの点数だ。

 

「最後にハリー・ポッター選手の点数じゃが、わしはハリーの道徳的な行動に敬意を表し、満点を与えてもよいものと考えておるが、皆はどうじゃろう?」

 

 その提案にカルカロフが目を見開く。

 

「いや待てダンブルドア、ポッターはクラム以上に制限時間をオーバーしている。良くて三十五点だろう。」

 

 カルカロフの意見ももっともだ。クラムは制限時間をオーバーしたという理由で点数を引かれている。ならば同様にハリーからも点数を引くのが道理というものだろう。

 

「わたーしは、満点を与えてもよいとおもいまーす。ポーッターが遅れたのわ、デラクールがくるのを待っていたからでーす。」

 

「マクシームの言う通りだ。人質を助けようとしていなければ、ポッター選手は制限時間をオーバーすることはなかった。何せ、二番目に人質のところに辿り着いていたんだからね。」

 

「だが、タイムオーバーはタイムオーバーだ。減点は避けられんだろう。」

 

 まあ、カルカロフがここで引くわけがない。いくら道徳的な行動だったとしても、それが正解に繋がるわけではないというのがカルカロフの意見のようだ。まあ、本音はクラムより高い点を与えたくないという理由だろうが。

 

「では間をとって四十点ではどうでしょうか。」

 

 ずっと考え込んでいたパーシーがそう提案する。カルカロフもこの辺が妥協点だと踏んでいたのだろう。パーシーの意見に同意した。このままでは四十点で点数が決まってしまいそうである。少し助け舟を出してやるか。

 

「評価すべきは道徳心だけではないでしょうに。」

 

 私がそう言うと一瞬場がシンと静まる。その滑った雰囲気やめろ、と一瞬思ったが、どうやらそうではないようだ。皆こちらを見ている。ならば語るしかないだろう。私は椅子から体を起こし、手を組んだ。

 

「自分の人質だけでなく、他の選手の人質も助けようとする。確かに道徳心溢れる行動ね。でも、それだけじゃないでしょう? 制限時間をオーバーする可能性が高いのに、人質の安全を優先してその場に留まる。素晴らしい自己犠牲の精神だわ。勝ちに固執しない器の大きさも評価できる。それに、一番評価すべきはその勇気よ。」

 

「勇気?」

 

 バグマンがおうむ返しに聞いてくる。私は不敵に笑った。

 

「ハリーが潜水に用いていた海藻、鰓昆布はその名の通り服用者に鰓を持たせ水中での活動を可能とさせるものだけど、効果時間が一時間とかなり短いわ。今回に限って言えば、競技を行うのにぴったりな時間だけど、それは時間内に帰ってくることが前提ね。そして実際に、ハリーは一時間を越えて水の中に潜っていた。つまりは鰓昆布の効果時間を越えて水の中にいたということよ。」

 

 私はそこで一度言葉を切る。少し勿体付けて話した方が説得力が増すものだ。

 

「ハリーは暗い湖のそこで水魔や魔法生物の他に、溺死の危険性とも戦っていた。自らの点数だけではない、自らの命をも犠牲にする覚悟で水の中に留まっていたのよ。流石はグリフィンドール生ね。私はその勇気にこそ敬意を払うべきだと進言するわ。」

 

 つまりどういうことか。制限時間をオーバーしたことこそ評価すべきと進言したわけである。これでタイムオーバーを理由に減点することが出来なくなる。我ながら策士だ。カルカロフはポリジュース薬を一気飲みしたような顔をしながら、小声でそういうことなら……と呟いた。

 

「では、ポッター選手も満点。これで皆さん異論はないですかな?」

 

 バグマンが最後に確認を取るように皆に聞く。カルカロフ以外の者は大きく頷き、カルカロフも嫌々ながらといった表情で小さく頷いた。それを見て、バグマンの顔が輝く。

 

「ではでは、早速公表と行きましょう。選手も観客も私たちの審査結果を首を長くして待っている。」

 

 話し合いが終わり、審査員が席に戻っていく。バグマンだけが立ち上がり、杖を喉元に向けた。

 

「レディース&ジェントルメン! 大変長らくお待たせしました。審査結果が出ました! 水中人の女長、マーカスが湖底で何があったのか仔細に話して聞かせてくれました。そこで、五十点満点で各代表選手の得点を発表して行きたいと思います。最初に湖から姿を現したのは十六夜咲夜! 湖の中では泡頭呪文と防水呪文、防寒呪文を使い、水中人でも追いつけないほどの速度で水中を自由自在に移動していたようです。そして最後の変身術を用いた演出! 文句なしの満点! 五十点です!」

 

 バグマンの発表に観客席から溢れんばかりの拍手と歓声が響いた。肝心の咲夜はというと、少しぼんやりしているように思う。最後の変身術で魔力を使わせすぎたか?

 

「次にミス・デラクール。素晴らしい泡頭呪文でしたが、途中で水魔に襲われ人質の元に辿り着けませんでした。得点は二十五点!」

 

 観客席にいる男性陣から大きな拍手が沸き起こる。どうやらその美貌のせいかかなりのファンがいるようだった。

 

「ビクトール・クラム君は変身術が中途半端でしたが、効果的なことには変わりありません。人質を連れ戻したのは二番目でした。得点は四十点!」

 

 クラムほどのクィディッチの選手ともなれば、世界中にファンがいるのだろう。ダームストラングだけでなく、ホグワーツやボーバトンの選手からも大喝采が沸き起こった。

 

「ハリー・ポッター君の用いた鰓昆布は特に効果が大きい。戻ってきたのは最後でしたし、制限時間も大幅にオーバーしています。ですがマーカスの報告によればポッター君はミス・十六夜に続いて二番目に人質のもとへと到着したとのことです。遅れたのは自分の人質だけでなく、全部の人質を安全に戻らせようと決意したせいだとのことです。これこそ道徳的な力を示す者であり、満場一致で五十点満点に値するとの意見が出ました。よって得点はミス・十六夜と並んで五十点!」

 

 ホグワーツの生徒が一斉に拍手し、ハリーを歓声で包み込んだ。ハリー自身はきょとんとした顔でバグマンを見ていたが、すぐに我に返り隣にいたロンと手を取り合い喜びを分かち合う。カルカロフが何か言いたげな視線を私に送ってきていたが、まあ無視することにしよう。言いたいことがあったら口に出せ。

 バグマンは歓声が鳴りやむのを待つと、最後に事務連絡を行った。

 

「第三の課題、最終課題は六月の二十四日の夕暮れ時に行われます。代表選手はその一か月前に課題の内容を知らされることになります。諸君、代表選手の応援ありがとう!」

 

 バグマンは審査員席と観客席に頭を下げると、椅子に座る。どうやら、第二の課題はこれで終わりのようだ。咲夜は観客席に手を振ると、私の方に駆けてくる。ファンサービスを忘れないところを見るに、咲夜もなかなかの策士だった。私は咲夜が来るのに合わせて椅子から立ち上がる。

 

「お疲れ、咲夜。今のところ五十点五十点の百点満点じゃない。」

 

 私はすっかり乾いた咲夜の頭を撫でる。咲夜はむず痒そうに眼を細めた。

 

「恐れ入ります。」

 

「優勝は出来そう?」

 

「勿論です。」

 

 咲夜はにこっと笑うと、私に対して頭を下げる。私はその様子をみて大きく頷いた。

 

「さて……と。美鈴、帰るわよ。」

 

 私は咲夜と共にいた美鈴に声を掛ける。

 

「送りましょうか?」

 

 咲夜はこっそりと手の中に持っていた銀色の指輪を見せた。どうやら姿現しで紅魔館まで送ったほうが良いか聞いているようである。普段ならそれでもいいが、ダンブルドアの手前それもやめておいた方がいいだろう。

 

「大丈夫よ。来た方法で帰るわ。」

 

 私はポケットから行きに使ったホグワーツ特急のチケットを取り出した。もっとも、このチケットはもう切られている為、帰りには使用することはできない。

 

「あれ? おぜうさま。そのチケット一枚しかないように見えるんですが……気のせいですよね?」

 

 そして美鈴は私が何処かでチケットを買ったと勘違いしているようだった。

 

「交通費が出るわけないでしょう? 行きは出してあげたんだから帰りは走って帰りなさい。」

 

「マジっすか!? おぜうさま~。」

 

 美鈴は日傘を差しながらこちらにすり寄ってくる。正直鬱陶しい。私は日傘の影に入りながら咲夜の方に振り向いた。

 

「あ、そうだ咲夜。優勝杯は偽物とすり替えてでも持って帰ってくること。いいわね?」

 

 これはある意味保険である。ヴォルデモートを復活させるための布石とも言えるだろう。クィレルの話では、優勝杯をポートキーに変えてハリーをヴォルデモートの父親が眠る墓場に拉致する作戦らしい。つまり先に咲夜がポートキーに触れてしまっては、ヴォルデモートは復活できなくなる。それはそれで滑稽なのでありだが、私の計画に後れが生じるので、出来れば今年中に復活してもらいたいのだ。

 咲夜が双子の呪文か何かで優勝杯を増やし、その後本物の優勝杯に触れれば咲夜は墓場に飛ばされるが、ポートキーの能力が残った偽物がその場に残されるはずである。そうすれば、何も知らないハリーがポートキーに触れるという可能性も出てくることだろう。ある程度の可能性があるなら、頑張って運命を操ればハリーを墓場に誘導させることも可能なはずである。

 まあ、なんにしても出たとこ勝負なことには変わりない。あとは咲夜とハリー次第だ。私は咲夜に手を振ると、美鈴と共にホグズミードに向けて歩き始めた。帰りは、普通にチケットを買って帰ろう。来た時のような夜の時間帯ではないため、普通に運行しているはずである。

 

「おぜうさま~。五百キロはきついっすよ~」

 

 美鈴の泣き言を聞きながら、私は二人分の切符代の計算を始めた。




咲夜、第二の課題クリア

各選手クリアしたりしなかったり

協議、レミリアも参戦

第二の課題終了←今ここ

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