紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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字を書くときよく万年筆を使うのですが、コンバーターにインクを入れる時に指にインクが付いてしまいます。それが水性のくせに中々落ちないんですよね。それが嫌で最近普段使い用はカートリッジにしていたり。って何の話ですかねこれ。何にしても次回で炎のゴブレット編終えれるといいなぁ。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


合言葉やら、迷路やら、優勝杯やら

 1995年、六月二十四日。

 私は大あくびをしながら寝間着から外出用の洋服に着替えていた。現在の時間は朝の七時。わざと寝る時間をズラしたのだ。つい先ほど起きたばかりである。

 眠い目を擦らないようにしながら薄く化粧を施し、小銭やハンカチなどをポケットの中に突っ込む。よし、これで準備は大丈夫だろう。私はチラリと机の上に置いてある手紙を見た。ホグワーツから送られてきたものだ。

 簡単に内容を説明すると、第三の課題を行う日に、選手への激励の為に保護者を集めたいのだという。それも早朝に。吸血鬼を朝に呼び出すなど非常識にもほどがあるが、行かざるを得ないだろう。何せ私は咲夜の保護者なのだから。間違っても美鈴を一人で行かせることなど出来るわけがない。

 私は美鈴に保護者面させないことを固く決意すると部屋を出て大図書館に向かう。今回は流石に時間がないのでホグワーツ特急は無しだ。煙突飛行でホグズミードまで飛んでちゃちゃっとホグワーツに向かおう。

 廊下の途中でスーツを着込んだ美鈴と合流し、一緒に大図書館に入る。そこではパチェがクィレルとコンタクトのとれる手帳を片手に持ちながら何やら魔法の準備を進めていた。そうか、予定通りに進めば今日ヴォルデモートが復活するんだったか。

 

「クィレルの様子はどう? 競技の結果次第では今日ヴォルデモートが復活するんでしょう?」

 

 私はパチェの後ろから手帳をのぞき込む。そこには儀式の手順が細かく書き込まれていた。

 

「今日ヴォルデモートが復活するかどうかは貴方次第よ、レミィ。遊びに行くんじゃないんだからね。」

 

 パチェがジトッとした目で釘を刺してくる。そんなことは分かっている。分かっているつもりだ。

 

「分かってるわよ。ようは私がどれだけ上手く咲夜を誘導できるかに掛かっているんでしょう? その辺の抜かりはないわ。」

 

 私が思い浮かべている第三の課題の流れはこうだ。まず咲夜が一番に優勝カップの元へとたどり着き、カップに双子の呪文を掛ける。複製したカップを残して、本物を鞄に入れようと手を触れたところでポートキーが発動し咲夜がヴォルデモートの元へと飛ばされる。遅れてやってきたハリーが複製されたポートキーに触れ、ハリーも飛ばされる。そして、ハリーの血を使ってヴォルデモート復活。あとは咲夜さえ帰ってきてくれればそれでOKだ。

 

「まあ現地にクィレルもいるし、咲夜は時間を止めれるから逃げるだけなら何の問題もないと思うわ。ハリーは死ぬかもしれないけど、まあこの際どうでもいいわね。」

 

 取りあえず今最優先で行われるべきはヴォルデモートの復活だ。

 

「あわよくば、ヴォルデモートの復活をきっかけに不死鳥の騎士団が再編成され、それに咲夜が参加できたら一番なんだけど、そのへんは咲夜任せになるかしら。」

 

 パチェが手帳をパタンと閉じながら私の方を振り向いた。そういえばと、私はパチェに聞きたかった質問をする。

 

「ホグワーツに行ったついでに校長室に入ってみようかと思うんだけど、どうやったら入れるの?」

 

 私の質問に対し、パチェは机の上に手をかざす。そこには一体のガーゴイルの石像があった。

 

「これに対して合言葉を言えば開くようになっているわ。合言葉は……今日は百味ビーンズね。」

 

「どうしてそんなことまで分かるのよ。」

 

「鍵穴をピッキングするのとあまり変わらないわ。」

 

 涼しい顔で言っているが、ドヤ顔を隠しきれていない。なんとも可愛げのある魔女だ。

 

「でもどうして校長室なんかに入るんです? 入ったところで不審者扱いしかされないと思うんですが……。」

 

 美鈴が首を傾げながら聞いてきた。まあその質問はもっともだろう。

 

「そうね。理由は簡単よ。第三の課題前の前哨戦といったところね。ようは一発かましてビビらせようって作戦。」

 

「なんか餓鬼の嫌がらせみたいですね。」

 

「あ?」

 

 私は軽く美鈴を睨みつけるが、まあそう捉えられても仕方がないだろうな。学のないやつには分からない話だ。

 

「駆け引きと言いなさい。なんにしてもそろそろ行くわ。九時までにホグワーツについていないといけないみたいだし。」

 

 私は美鈴を半分引きずるようにしながら暖炉の方に歩いていく。そういえばと気になることがあり、パチェの方に振り返った。

 

「そういえばリドルの姿が見えないけど、何処にいるの?」

 

「ここに居ますよー。」

 

 奥の方の本棚から声が聞こえてくる。どうやら見えない位置にいただけのようだった。

 

「優秀な雑用が持てて私も幸せよ。」

 

 パチェが何気ない様子でそう呟く。なんにしても、パチェとリドルのペアは上手く機能しているらしい。

 

「まあパチェが満足そうで私も幸せよ。アレを持って帰ってきた咲夜に感謝ね。優秀だと思うんだったらアレを殺さなくて済むように、精々研究に励みなさい。」

 

 私は暖炉に火をつけ、煙突飛行粉を投げ入れる。そして色の変わった炎の中に美鈴と共に入った。

 

「三本の箒!」

 

 私がそう発音すると同時に地面から足が離れる。もう慣れたものだが、服が若干焦げ臭くなるのはどうにかならないのだろうか。電気で動く煙突飛行などあったら便利だろうに。電気の暖炉にも煙突飛行は繋げられるのだろうか。あとでパチェに聞いてみよう。

 そんなことを考えている間に三本の箒に到着する。私は服についた煤を軽くはたき、店の外に出た。六月下旬ということもあって、日差しは少しずつ強くなっている。私は差し込む朝日に焼かれないように気を付けつつ、上手いこと美鈴の差す日傘の中に入った。

 

「さて……と。美鈴、今の時刻は?」

 

「八時です。ここからなら三十分もあればホグワーツに到着するでしょうね。」

 

 なら時間は大丈夫だろう。ペースを気にすることなくゆったりと歩き、四十分掛けてホグワーツに到着する。ホグワーツの校門にはハグリッドが目印代わりに立っており、その横にスネイプの姿もあった。何故あの組み合わせなのかは分からないが、きっと暇なのだろう。

 スネイプは魔法薬の教員だと聞いている。対抗試合の準備に直接的に関与しているわけではないということか。逆に前回良くしてくれたフリットウィックなどは、今頃大忙しなのかも知れない。

 

「よくぞいらっしゃいました。ダンブルドア校長がお待ちです。」

 

 ねっとりとしているが、厳格な声でスネイプがそう言い、城に向かって歩き出す。ハグリッドも付いてきているところを見るに、私たちで最後のようだった。何か会話があるわけでもなく、数分後には小さな部屋の中に通される。そこには何脚かの椅子と机、そしてソファーが置かれていた。既に中には人間が何人かおり、皆入ってきた私を見ている。

 

「おお、よくぞ来てくれました。レミリア嬢。」

 

 モリーと話していたダンブルドアがこちらに軽く頭を下げたあと、右手を差し出してくる。私は軽くその手を握り返した。

 

「吸血鬼をこんな時間に呼び出すなんて頭おかしいんじゃない? ついにボケた?」

 

「そうかもしれんの。最近よく間違えて靴下を裏返しで履いてしまうことがある。歳を取るとは怖いものじゃ。」

 

 私の軽口を気にも留めず、ダンブルドアは愉快そうに笑う。まあ長くてあと数年の命だ。精々楽しく可笑しく生きればいいだろう。私が空いているソファーにどっかりと座りこむと、美鈴がその横にビシッと立った。どうやら、今日は少しは気合が入っているようだ。

 

「わしは少し魔法省の役員と競技に関して話し合わなければならない。そろそろ失礼しようかの。あと少しで選手たちがこの部屋に入ってくるはずじゃ。」

 

 ダンブルドアはそう言い残すとスネイプと共に部屋を出ていった。そういえば途中からハグリッドの姿が見えなくなったが、あれは何処に行ったのだろうか。あの巨体を見失うなんて相当だと思うのだが。まあいいか。ハグリッドだし。

 一番初めに部屋に入ってきたのはクラムだった。クラムは両親らしき人間とブルガリア語で話している。内容としてはホグワーツでの生活はどうかというものだった。まあ留学しているようなものだ。積もる話は沢山あるのだろう。

 ということは反対側に座っている女性はデラクールの母親か。傍らの小洒落た少女はガブリエルなのだろうか。濡れた犬みたいな姿しか見たことがないので確証を持ってそうだとは言えないが、消去法で言えばそうだ。事実、部屋に入ってきたデラクールは笑顔でガブリエルに抱きつきに行った。流石フランス人。スキンシップを恐れない。

 残るハリーの保護者だが、これはウィーズリー家からモリーとウィリアムが来ていた。流石にマグルの家族を呼ぶわけには行かなかったのか、それとも呼んでも来ないと思ったのかは知らないが、まあ妥当な選択だろう。ハリーは何度かウィーズリー家に遊びに行っているという話を聞く。ハリーにとっては第二の家のようなものだ。

 

「お、咲夜ちゃんの気配発見。隣の大広間にいるみたいですね。」

 

 美鈴がぽつりと呟く。確かに咲夜の気配はそこにあった。だがそれと同時に隣の部屋に百人単位で人の気配がある。今は丁度朝食の時間帯なのだろう。よくこの人ごみの中で咲夜の気配だけを探れるものだ。

 

「まあそのうち来るでしょうね。あ、動き出した。」

 

 結構な速度で咲夜が移動を始め、ノックの後部屋のドアを開ける。そして私の顔を見るなり目を輝かせた。可愛い。私は近づいている咲夜に合わせてソファーから立ち上がる。

 

「咲夜、首尾はどう?」

 

「上々です。お嬢様。」

 

 私は咲夜に一歩近づき、耳元に顔を近づける。若干背伸びしないと耳元に届かなかったことは、喜べばいいのか悲しめばいいのか分からなかった。

 

「今日はどんな手を使ってもいいわ。少しでも早く優勝杯に触れなさい。双子の呪文で偽物を作るのも忘れるんじゃないわよ。」

 

「心得ております。」

 

 私は背伸びを維持したまま咲夜の頭を撫でる。すると不意に私の視線がぐんと上にあがった。美鈴だ。

 

「おぜうさま撫でにくそうですね。どれ、私がちょっとお手伝いを。」

 

 確かに撫でやすくはなったが、問題はそこではない。

 

「ちょ! 美鈴、降ろしなさい! そこまで小さくないわ。降ろせって言ってんでしょうが!!」

 

 私は軽く反動をつけて踵で美鈴の顎を蹴り上げる。あまり強く蹴ったつもりはなかったが、美鈴はそのまま後ろに吹き飛び肖像画を突き破りながら頭を壁にめり込ませた。その衝撃で部屋が揺れ、多少埃が舞う。咲夜は私の服についた埃を丁寧にはたき落とした。

 

「お嬢様、お怪我は御座いませんか?」

 

 咲夜がすまし顔で私に聞いている。壁に突き刺さっている美鈴にハリーが駆け寄った。

 

「これ……死んでない、ですよね?」

 

 ハリーは心配そうに美鈴を眺めている。

 

「大丈夫よ。門番だし。」

 

「美鈴さんですし。」

 

 うちの門番がこんなことで死ぬはずがない。というか、この程度の攻撃で死ぬようならうちで雇ったりするものか。兵隊は耐久力が命。実際美鈴はそこまで攻撃力は高くない。だが頭をライフルで打ち抜かれても動き続けることが出来るその生命力こそが魅力なのだ。

 美鈴はもぞもぞと動き、壁から頭を引っこ抜く。そして頭をふらつかせながら何かを叫んだ。もっとも、顎が外れているのか、言葉になってないが。美鈴は自分の顎を強引にはめ込むと、今度こそ私に抗議した。

 

「おぜうさま、学校で暴れちゃダメですよ? ほらこの肖像画とかとっても高そうですし。あー私知ーらない。」

 

 お前は一体何歳児だと言いたくなるが、ここはぐっと堪えよう。こういうのは相手にしたら負けなのだ。

 

「咲夜。」

 

「はい。」

 

 咲夜の名前を呼んだ瞬間に、壊れた壁と肖像画が元に戻る。

 

「あら、美鈴。何も壊れていないようだけど。何処の何が高そうだって?」

 

 美鈴はクルリと後ろを振り向き、壁が元に戻っていることを確認すると軽くため息をついた。種も仕掛けもある簡単な手品じゃないかと言いたげな表情だ。

 

「直ればいいってものでもないでしょうに。……あ、咲夜ちゃん私の服も綺麗にしてくれない?」

 

「しなくていいわよ。」

 

「してください! お願いします!」

 

 美鈴が何時もの調子で咲夜に抱きつきにかかる。美鈴のそれはハグというよりかはベアハッグに近いので抱きつかれる前に咲夜は美鈴に杖を向けた。

 

「スコージファイ!」

 

 咲夜が呪文を唱えると一瞬にして美鈴の服が綺麗になる。なるほど、あの呪文を使えば紅魔館の掃除も簡単に終わるだろう。

 

「サンクスさくっちゃん。よっ! 我らがメイド長!」

 

 美鈴は咲夜の手を取るとブンブンと上下に振る。もうすっかり元通りな美鈴だったが、ハリーはまだ心配の様である。

 

「えっと、大丈夫ですか? 美鈴さん。」

 

 恐る恐るといった顔で美鈴に尋ねていた。

 

「ええ、大丈夫です。これでも丈夫なんですよ?」

 

 美鈴は袖の下から中国拳法で使うような投げナイフを取り出すと、何の躊躇もなく手の平に突き刺した。ナイフの刺さった隙間から血が滲み沸き、ナイフを伝って床を濡らす。

 

「ひぃ!」

 

 ガブリエルが小さく悲鳴を上げた。まあおこちゃまには少しショッキングな光景だったかも知れない。

 

「え? 美鈴さん一体何を……。」

 

 ハリーはどうしていいか分からないといった様子で美鈴の手に刺さったナイフを見つめている。美鈴はカラカラと笑うと刺さっているナイフを引き抜いた。その瞬間手の平から血が溢れ出すが、次の瞬間には塞がり、傷跡すらなく完治する。美鈴はハンカチで手についた血をぬぐい取り、ハリーに差し出した。

 

「ほら。もう治ってる。私たち妖怪なんてこんなもんよ。」

 

「こら、美鈴さん。床が血で汚れたじゃないですか。これでも毎日屋敷しもべ妖精がですね……。」

 

 咲夜が美鈴に文句を言いながら床の血を綺麗にする。美鈴は申し訳なさそうに頭を掻いた。少し空気を悪くしてしまっただろうか。ここから退室するとしよう。

 

「さて、校内を少し歩きましょうか。咲夜、案内は頼むわよ。」

 

「畏まりました。」

 

 私は大広間へと続く扉を開け、部屋を出る。既に授業が始まっているためか、大広間には殆ど生徒はいなかった。私はフルーツバスケットに入っているリンゴを一つ掴むと、咲夜のいる方へと放り投げる。次の瞬間には咲夜がリンゴの盛り付けられた皿を持って隣に立っていた。

 

「ありがと。」

 

 私はリンゴに刺さったフォークを摘まむと、リンゴを口に運ぶ。そういえば今日は朝食を取っていない。丁度良いと言えるだろう。美鈴は美鈴でリンゴをそのまま丸かじりしている。あれをするのもいいが、手が汚れるんだよな。

 

「んで、何処に向かうんです? 校長室?」

 

 大図書館でのパチェと私のやり取りを聞いていたのか、美鈴は私にそう尋ねる。

 

「そうね。それも捨てがたいけど、個人的には秘密の部屋ってのに興味があるわ。」

 

 だが、時間はまだあるので、出来れば他の場所を見て回りたかった。

 

「ですがあそこにあるのは蛇の死体ぐらいでして……。」

 

「じゃあ校長室。」

 

「かしこまりました。」

 

 見て回りたかったが、見ても仕方がないなら見る意味はないだろう。素直に校長室に向かうとしよう。咲夜に先導され妙に静かなホグワーツの廊下を歩く。授業中だとは言え、学校というのはここまで静かなところだっただろうか。そのことを咲夜に聞くと、どうやら今日は学年末テストの日のようだ。暫くするとパチェが図書館で見せてくれたガーゴイル像が見えてくる。咲夜はその前で立ち止まった。

 

「百味ビーンズ。」

 

 私がそう言うとガーゴイル像は命を吹き込まれたように動き出し、脇へ飛びのいた。そしてその奥の壁が音を立てて動き出す。

 

「よく合言葉を知ってましたね。おぜうさま。」

 

 美鈴が感心したように呟いたが、こいつは図書館での私とパチェのやり取りを聞いていなかったのだろうか。

 

「夢で見たのよ。さあ行きましょう。」

 

 エスカレーターのように動いている石造りの螺旋階段に乗り、私は上へ上へと昇っていく。螺旋階段の奥には光沢が出るほど磨き上げられた樫の扉があった。

 

「お邪魔しまーす!」

 

 美鈴が何の遠慮もなしにドアを開けて中に入っていく。その恐れを知らない行動を称して紅魔館の特攻隊長の称号を与えてやりたいが、まずは後を追ったほうがいいだろう。私は美鈴の後に続いて校長室の中に入る。部屋の中は結構カオスな空間だった。棚の上では沢山の小物が奇妙な動きをしており、壁には歴代の校長の肖像画が掛けられている。

 

「小洒落た部屋ね。アルバスらしいわ。」

 

 部屋の隅にとまっていた不死鳥がじっとこちらを見ていた。どうやら、監視カメラ代わりらしい。次の瞬間にはダンブルドアが椅子に座った状態で現れていた。

 

「スカーレット嬢に褒められるとは光栄じゃのう。」

 

 ダンブルドアは何時もの調子でそう答えたが、眼鏡の奥で光る二つの目は、私の行動を見逃さないと言わんばかりにキラキラと輝いている。

 

「ええ、ここにあるやつなんか色々なものが出たり引っ込んだりしているわよ。これも魔法で動いているのでしょう? なんというか、万能すぎて美しみに欠けるわね。」

 

「ふむ、そういうものかのう。」

 

「ええ、発達しすぎた技術というものは面白みがないわ。時計がいい例ね。クォーツの時計は確かに正確で価格も安いわ。でも、時計としての価値は機械式には敵わない。機械的な機構を用いて様々な機能を持つ複雑時計はそれだけで一つの美を持つわ。」

 

 私は置いてある小物の一つから魔力を消し去る。するとその小物は動きを止めた。

 

「少しでも前提が崩れたらストン。と、こうなってしまう。」

 

 ダンブルドアはその小物を見て何か思うところがあったのだろう。何か遠くのものを見るような目で呟いた。

 

「ふむ、そうかも知れんのう。じゃが、わしはそこまで魔法が便利なものとは思っとらんよ。したいことも満足に出来ぬ不完全なものじゃ。」

 

 あの目、少し気に入らない。今ここに私がいるのに、私ではない違う誰かと話をしているかのような……そう思っていたら、ダンブルドアはいつの間にか私に視線を戻していた。

 

「さて、一つ聞いてもよろしいかの。どうしてスカーレット嬢がここにいるのかのう。」

 

 何を聞かれるのかと思ったら、そんなことか。私は胸を張って答えた。

 

「あら、城に招待したのは貴方じゃない。」

 

「ふむ、もっともじゃな。だがしかし、今生徒は試験中じゃ。なので試験が実施されておる教室には入らんようお願いしたい。」

 

「そんなことぐらいは分かっているわ。」

 

 先ほど咲夜からその話を聞いたばかりである。流石の私も試験中の教室に吶喊するほど世間知らずではない。私はダンブルドアにヒラヒラと手を振ると踵を返した。樫の扉を開け、螺旋階段を降りていく。美鈴と咲夜もその後に付いてきた。

 

「さて、競技まではまだ時間があるけど、何をして時間を潰そうかしら。」

 

 廊下へ出て、次の目的地を決めるために一度足を止める。

 

「そうですね……ホグワーツで何か時間を潰せるようなところですと……図書館、厨房、必要の部屋ぐらいでしょうか。」

 

 ふむ、やはりホグワーツには娯楽が少ない。ここは学生のセオリーに従うことにしよう。

 

「ホグズミード村に行きましょう。夜まではまだ相当時間があるし競技に間に合わないということはないわ。美鈴、日傘。」

 

「を?」

 

 美鈴がその続きを催促する。

 

「ぶちのめすぞお前。」

 

 口で警告しながら私は全力で美鈴にボディーブローを食らわせた。美鈴は三メートルほど吹っ飛び、お腹を押さえて蹲る。

 

「じょ、冗談ですよぅ、おぜうさま。誰もおぜうさまのローストチキンなんて見たく――ぐぅゅっ!!」

 

 フラフラと立ち上がった美鈴の頭を今度は平手で叩いた。というか、どうして美鈴がそのネタを知っているんだ。咲夜が心配そうな表情で美鈴を見ている。どうやら頭を叩いた際に地面に思いっきり頭をぶつけたらしい。だが、美鈴はそんな程度で伸びるほどやわじゃないのだ。

 

「大丈夫よ、美鈴だし。馬鹿はほっといて行きましょう、咲夜。」

 

「はい。」

 

 咲夜は鞄から日傘を取り出すと、私の横に立って開く。私は蹲って悶える美鈴を放置してホグズミード村へと向かった。

 もっとも、美鈴はすぐに追いついてきたが。

 

 

 

 

 

 

「レディース&ジェントルメン! 第三の課題、そして、三大魔法学校対抗試合最後の課題がまもなく始まります! 現在の得点状況をもう一度お知らせしましょう。一位、得点百点――十六夜咲夜選手! ホグワーツ校!」

 

 バグマンの軽快な実況が観客席に響き渡る。私は今回も特別ゲスト扱いなのか、審査員席の横に席が設けられていた。観客席からの声援を受け、咲夜は大きく手を振っている。

 

「二位、得点九十点――ハリー・ポッター選手! ホグワーツ校! 三位、得点八十点――ビクトール・クラム選手! ダームストラング専門学校! 四位――フラー・デラクール選手! ボーバトン・アカデミー!」

 

 デラクールの点数を言わなかったのはマクシームへの配慮だろうか。デラクールだけ点数を大きく離されている。バグマンの実況では、どうやら得点上位の者からスタートするとのことだ。第三の課題は魔法迷路。つまり咲夜の得意分野である。

 

「では……ホイッスルが鳴ったら十六夜選手が一番にスタートします。」

 

 バグマンの実況を聞いて、咲夜が右手で杖を抜く。左手はスカートのポケットに突っ込んであった。多分懐中時計を握りしめているのだろう。咲夜独特のスタイルだ。

 

「いち……に……さん!」

 

 ホイッスルの音と共に、咲夜は杖先に光りを灯し、生垣の中へと走っていく。そして一番初めの角を曲がっていった。今頃は優勝杯の複製を作っている頃だろう。死角に入った瞬間に時間を止めただろうし。

 ホグズミードから帰ってきて、懇談パーティーの後に第三の課題は行われた。第三の課題の内容は巨大な迷路で、中には危険な魔法生物や罠が仕掛けられているという。点数の合計が高いものからスタートし、最終的に優勝カップに一番早く触れた選手が持っていた点数に関係なく優勝だ。つまり一般的な視点からみたらデラクールにもまだ優勝の目があることになる。まあ咲夜が出場している時点でないのだが。

 

「さあ、次にポッター選手がスタートします。十六夜選手が迷路に入ってから既に五分が経過しておりますが、まだまだ優勝が狙えます。では……さん……に……いち……」

 

 ホイッスルの音が響き、ハリーが迷路の中に駆けこんでいった。どうやら五分間隔でスタートしていくようだ。クィレルの話では、ムーディがハリーの前に立ちはだかる障害を影ながら消していくと言っていたが、果たして上手く行くだろうか。まあ補助がある分クラムやデラクールよりかは優勝カップに到達する可能性が高いだろう。

 

「さてさて、中の様子って分からないんですかね?」

 

 横に立っている美鈴が何処から手に入れたのかバタービールの入ったジョッキを傾けながらそう言った。確かに、中の様子は分からないらしく、観客席も時折光る魔法の光に騒いでいる。私は美鈴からバタービールを奪うと、一口飲んだ。アルコールは薄いが、たまにはこういうのもいいだろう。

 その後もクラム、デラクールの順で選手が迷路の中に入っていく。全員が見えなくなったところで、バグマンが今後の展開について話し出した。

 

「さて、選手がいなくなったところで皆さんにお話ししておくべきことがあります。対抗試合の優勝カップはポートキーになっておりまして、一番初めに触った選手が、ここ、スタート位置に戻ってくるように設定されています。つまり、ここに一番初めに現れた選手こそが、対抗試合の優勝者なわけです!」

 

 そう、優勝杯はもともとポートキーなのだ。クィレルたちはその性質を利用し、ポートキーの設定を変えることでハリーを連れ去る計画を立てていたのである。それは私も知っていることだ。

 

「それにしても咲夜遅いわねぇ。」

 

 横に審査員がいるため、形だけでもそう呟いておいた方がいいだろう。審査員と言えば、今日はクラウチでもパーシーでもなく、ファッジが審査員席に座っている。どうやらクラウチに掛けた服従の呪文も限界だったらしく。クィレルの話ではクラウチは既に死んでいるらしい。魔法省内では失踪扱いになっているが、パーシーはその件に追われて審査員どころではないという話だ。

 ファッジはダンブルドアと楽しそうに会話している。今まさにヴォルデモートが復活しようとしているなど夢にも思っていないだろう。

 競技が始まって二十分が経過した頃だろうか。迷路上空に赤色の花火が上がる。あれは救出を求むサインだ。早速一人脱落者が出たらしい。

 

「おっと! 赤い花火が打ちあがりました。ホグワーツの優秀な教員が救出に向かいます。打ち上げた選手は現在確認中です。情報が入ったらお伝えします!」

 

 分かりやすく状況が見えたこともあって、観客席がざわつく。数分後、気絶したデラクールが審査員席のマクシームの元に運ばれてきた。

 

「どうやら脱落したのはボーバトン代表デラクール選手のようです。迷路で何があったのかはまだ分かりませんが、デラクール選手の意識が戻り、質問が可能な状況であればインタビューしてみたいと思います。」

 

 逆にそうすることでしか迷路の中の状況がわからないというのは問題ではないかと思うのだが、私だけだろうか。まあ誰が優勝するか分からないドキドキ感はあるが。

 数分後、今度はクラムが審査員席に運ばれてきた。赤い花火は打ち上がっていない為、たまたま発見したのを連れて帰ってきたのだろう。

 

「おっと! これはこれは。クラム選手も脱落の様です。花火が打ち上がっていないのを見るに、何かに不意を突かれたのでしょうか。これで迷路に残るのは二人。ハリー選手と咲夜選手だけになりました。さあ先にカップを手に取るのはどちらか。」

 

 選手にインタビューしたいとは言っていたが、癒者が凄い形相でバグマンを睨んでいた為実現はしなさそうだ。あの様子では許可など出さないだろう。それに、デラクールもクラムも昏睡状態のようで、なかなか意識が戻らない。これ以上は体に負荷が掛かると判断したのか、癒者は選手を静かに寝かせると、毛布を被せた。

 課題が始まってから四十分。ついに場が動き出す。迷路の入り口に泥であちこち汚れ、擦り傷まみれのハリーが優勝カップを持って現れたのだ。ハリーはそのまま仰向けになり、肩で息をしている。ダンブルドアとファッジが急いでハリーに駆け寄り、バグマンは満面の笑みを浮かべた。

 

「優勝はハ――」

 

 そこまで言いかけたところでバグマンは口を紡ぐ。ダンブルドアの様子にただならぬ気配を感じた為だろう。ダンブルドアはハリーを抱き起すと大きな声でハリーの名を呼んだ。

 

「ハリー、しっかりするんじゃ。何があった!?」

 

 とても百歳をこえたジジイから出たとは思えないような力強い声に、ハリーは意識を覚醒させる。そして息も絶え絶えといった様子で言葉を絞り出した。

 

「あの人が……あの人が帰ってきました……戻ったんです、ヴォルデモートが。」

 

 その言葉に私と美鈴は顔を見合わせる。美鈴は分かりやすく眉を顰めていた。私たちが顔を見合わせたのは簡単だ。何かの拍子にニヤついていたら互いに注意できるようにである。

 なんにしても、ヴォルデモートが復活した。今回の目的は達成だ。咲夜の姿は見えないが、多分違うルートで帰ってくることだろう。時間を止めて姿現しするに違いない。だが、咲夜を心配するふりはしなければならないだろう。

 

「咲夜? ねえ、咲夜はどうしたの? まだ迷路の中?」

 

 私は椅子から立ち上がって数歩迷路の方に歩く。私の言葉を聞いてハリーが分かりやすく青ざめた。

 

「咲夜……そうだ! 咲夜! ダンブルドア先生! ああ、僕はなんてことを……。」

 

 ハリーが必死に優勝カップのあるほうへともがく。ダンブルドアが少し強引にハリーをゆさぶり、落ち着かせた。

 

「ハリー、咲夜がどうしたのじゃ?」

 

「咲夜を……咲夜をヴォルデモートのいるところに置いてきてしまいました。唯一の帰る手段だった優勝カップは……。」

 

 ハリーは転がっている優勝カップを見る。つまり咲夜は墓地で置き去りにされたということだろう。私は血相を変えて優勝カップに飛びつく。形だけでもやっておかなければならないだろう。勿論、ポートキーとしての機能が無くなったこれは只の優勝カップだ。今更触れたところで何が起きるわけでもない。

 

「ダンブルドア、話があるわ。取りあえずこっちに来なさい。」

 

 私は凄い形相でダンブルドアを睨みつけ、手首を引っ張ってハリーから引き剥がす。その隙をついてか、どこからともなくムーディが現れてハリーを城の方へと連れて行った。まああれは放っておこう。

 

「私は魔法には疎いからよくわからないの。このカップがポートキーなんでしょ? 私をさっさと咲夜の元へ飛ばしなさい。今すぐによ!」

 

 私はダンブルドアの胸倉を掴み一気に引き寄せる。それを見かねてか、美鈴とハグリッドが私を引き剥がしにかかった。グッジョブ美鈴。私もわざわざヴォルデモートのいる場所に行こうとは思わない。

 

「まあまあおぜうさま、咲夜ちゃんを信じましょうよ。ハリーが帰ってこれたんだったら咲夜ちゃんも帰ってきますって。それにほら、不思議な魔法も使えるじゃないですか。咲夜ちゃんは。」

 

 不思議な魔法という単語を聞いて、ダンブルドアはピクリと眉を動かす。ほんとにグッジョブ美鈴。こういう時本当に役に立つ奴だ。私たちからも少し匂わせることで、咲夜が不死鳥の騎士団の話を持ち出したときにダンブルドアの方から術の話を持ち出してくれるだろう。

 私は荒い息を整えると、ダンブルドアを放す。そして先ほどまで座っていた椅子に戻った。

 

「ふん、言われなくても分かってるわ。私の従者なら誰が相手でも負けることはない。ヴォルデモートの心配をするべきだったわね。いや、今心配すべきはハリーの方かしら。」

 

「どういうことじゃ?」

 

 私の言葉にダンブルドアが食いつく。咲夜を助ける以上に優先すべきことがダンブルドアにあれば、ダンブルドアはまずそちらの対処に当たるはずだ。

 

「さっきハリーを城に連れてったムーディだけど、多分偽物よ。ポリジュース薬の匂いがしたわ。」

 

 それを聞いてダンブルドアは血相を変えて城の方へと走っていく。スネイプもその後を追って城の中に消えていった。

 

「おぜうさま、これからどうするんです?」

 

 美鈴が小声で聞いてくる。私は分かりやすく心配そうな顔を浮かべた。

 

「心配そうな顔して立ってなさい。私も心配そうな顔して座ってるから。」

 

 美鈴はそれを聞くと同時にオロオロと心配そうな態度になる。私も美鈴に負けないように心配そうな顔をした。




第三の課題の朝、レミリアと美鈴でホグワーツに向かう

咲夜と合流

校長室にお邪魔する

ホグズミード村で遊ぶ

パーティーに出席

第三の課題スタート

咲夜がポートキーに乗って墓場へ

ハリー、クラム、デラクールが順次スタート

咲夜がクィレルと緊急会議

迷路内でムーディ(クラウチ・ジュニア)がクラムに服従の呪文を掛ける

デラクールがクラムに襲われて脱落

クラムが自分に失神の呪文を掛けて脱落

ハリーが咲夜の作った偽物の優勝カップを手に取り、墓場へ

ハリーがペティグリューに捕まる

儀式を行いヴォルデモート復活

死喰い人集結

ヴォルデモートとハリーが決闘、杖が繋がる

ハリーがポートキーを使って離脱

ハリーがスタート地点に帰ってくる

ヴォルデモートと咲夜が決闘

ダンブルドアがシリウスを校長室に入れる

ハリーがムーディ(クラウチ)に襲われそうになる

ダンブルドアがムーディを倒し、真実薬による尋問スタート

咲夜が校長室に姿現しする

咲夜とシリウスが話し合う

尋問が終わり、ダンブルドアとハリーが校長室に向かう

大体こんな感じ。

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