紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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なんだか不死鳥の騎士団編はすんなり終わりそうで一安心です(フラグ)
時間もないので必要ないところは容赦なく割愛していきます。ご了承ください。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


嘘つきやら、尋問官やら、ナギニやら

 審査員席で二人してオロオロしていたらマダム・ポンフリーに医務室に案内された。私はソファー代わりにベッドに腰かけ、ホグワーツ内の気配を探る。流石に人間が多すぎるためか、咲夜の気配を感じ取ることは出来ない。

 

「何か感じる? 美鈴。」

 

 私は隣で珈琲の入ったマグカップを傾けている美鈴に話しかける。というか何処から手に入れて来たんだそれ。

 

「んー、ホグワーツ内にいるとしたら多分校長室じゃないですかね。気配は完全に感じませんよ。」

 

「そう、美鈴がそういうならそうなんでしょうね。」

 

 私は美鈴の珈琲を一口貰うと、クィレルに繋がっている手帳を開く。

 

『そちらの状況を簡潔に説明しなさい。』

 

 私は手帳に一文だけ書き込む。クィレルとしても今は忙しいだろうし、向こうの状況が簡単にわかればそれでいい。

 暫く待っていると、手帳に文字が浮かび上がってきた。

 

『ヴォルデモートの復活は無事成功。ハリー・ポッターは逃走。十六夜君は時間を止めて何処かへ消えました。』

 

『そう、詳しい話はこちらに帰ってこれるようになってから聞くわ。今は死喰い人の中で高い地位につくことに集中しなさい。』

 

『御意。』

 

 私は手帳を閉じるとポケットの中に仕舞い直す。これで取りあえず咲夜の無事は確認できた。

 

「咲夜は帰ってきてるらしいわ。多分校長室でしょうね。」

 

 私はベッドに横になり、美鈴の頭を見上げる。美鈴は当然だと言った顔をしていた。

 

「まあ咲夜ちゃんですし……っと、ハリーが医務室に来ますね。」

 

 美鈴は珈琲を飲み干すと、窓枠にマグカップを置く。私も体を起こし、扉を注視した。数秒後、ハリーは黒い犬を連れて扉を開けて医務室の中に入ってくる。ハリーは癒者(名をポンフリーというらしい)から熱烈な歓迎を受け、あっという間にベッドに押し込まれてしまう。ハリーはそれに慣れっこなのか、素直に従いベッドの中に潜り込んだ。

 ポンフリーはそのあと少し医務室を空けますからね! と言い残して扉から出ていく。その瞬間にハリーが跳ね起きた。本当に手慣れた小僧だ。

 

「レミリアさん! あの……咲夜は帰ってきてました。今は校長室でダンブルドア先生と話をしています。」

 

「そう、まあ咲夜だし。当たり前といったら当たり前かしら。」

 

 私はハリーのベッドの横で丸くなっている黒い犬を見る。あれは多分シリウス・ブラックだろう。

 

「今は眠りなさい。話は大人から聞くことにするわ。主にダンブルドアからね。」

 

 私はハリーの頭を撫でると、ベッドに寝かせる。そのままもう一度頭を撫で、魔力を使って無理やりハリーを眠らせた。傍から見ればハリーが疲れのあまり眠ったようにしか見えないだろう。美鈴は美鈴でブラックを撫でまくっている。ブラックは鬱陶しいと言わんばかりに美鈴から逃げるとベッドの横で丸くなる。そして数分もしないうちに寝息を立て始めた。どうやらかなり眠たかったようだ。

 私はベッドに座りなおすと医務室内をぐるりと見回す。どうやら私たちの他に起きている者は誰もいないようだ。

 

「あれ、シリウス・ブラックですよね。」

 

 美鈴が声を潜めて私の耳元で囁く。私は声を出さずに小さく頷いた。次の瞬間、ホグワーツから人の気配が消える。いや違う、時間が止まったのだ。その証拠と言わんばかりに目の前に咲夜が立っていた。怪我や汚れなどは無く、いたっていつも通りの容姿に少し笑えてくる。ハリーなんてボロボロだったのに。

 

「お嬢様、不死鳥の騎士団への侵入は無事成功しました。」

 

 咲夜はニヤッと笑うとそう報告してくる。なんというか、行動が早い従者だ。

 

「よくやったわ。意外と早かったわね。」

 

「ヴォルデモートの復活を利用させてもらいました。」

 

 なるほど、そういうことか。美鈴はまだピンとこないらしく、首を傾げていた。

 

「どうやって説得したの? 学生がホイホイ入れるような組織じゃないと思うけど。」

 

「自殺の真似事と偽りの涙を少々。男というのはいくつになっても女性の涙には弱いものですよ。」

 

 咲夜のことだ。ヴォルデモートに目を付けられた私はお嬢様に迷惑が掛かる前に死ぬしかないとか言ってダンブルドアの前で自殺しようとしたのだろう。そんなテクニックを教えた記憶はないが、学校で少しは成長しているということか。

 

「やるじゃん。」

 

 美鈴がくしゃくしゃと咲夜の頭を撫でる。咲夜は頭を撫でられながらも鞄から優勝杯を取り出した。

 

「あとそれと、優勝杯です。」

 

 私は咲夜から優勝杯を受け取る。そしてそのまま大図書館に転送した。郵便が私の引き出しに届くのと同じ原理だ。咲夜はそれを不思議そうに見ている。

 

「パチェのところに送っただけよ。いつまでも持っていると返せって言われそうだし。そういえばクィレルの調子はどうだった? 会ったんでしょう?」

 

「見たところでは死喰い人の中でもそこそこの地位を手に入れたようです。」

 

 そこそこの地位か。咲夜が不死鳥の騎士団に入り、クィレルも力を手に入れた。これなら十分戦局を左右することができるだろう。パチェは既に術を発動させる準備を行っている。ここ数年のうちなら好きな時に術を発動させることが可能だ。それを踏まえて……。

 

「そう……、咲夜。二年後よ。戦争は二年後に起こすわ。」

 

 私は百年前、ダンブルドアに死の予言をした。1997年の六月。それに合わせて戦争が起きるように調整を行おう。

 

「それまでに不死鳥の騎士団を大きく強くしなさい。死喰い人とぶつかったときに多数の死者が出るようにね。それまでは出来るだけ仲間が死なないように気を付けなさい。」

 

「畏まりました。」

 

 私はベッドから立ち上がり、窓の方へと歩き出す。

 

「さて、私たちはもう帰るわ。優勝賞金はウィーズリーの双子にでもあげなさい。」

 

「それはまた一体何故です?」

 

 私は今朝の小部屋での話を思い出す。

 

「今朝ウィーズリー夫人と話したのだけど、その双子が何やら面白そうなことをしているらしいわ。悪戯グッズっていうの? 夢を持つ若者は応援しないとね。まあそのうち一人は若いうちに死ぬけど。」

 

 私はそう言い残すと医務室の窓を開ける。私は窓から外に出ると空中で留まり、咲夜の方を向く。

 

「じゃあ帰るわ。夜だから人目にはつかないと思うけど。時間の停止は適当に解除していいわよ。」

 

「じゃあね、咲夜ちゃん。また夏休みに会おう。」

 

 美鈴も私に続いて外へと出る。私は後ろから美鈴に抱きついた。そのまま思いっきり羽を羽ばたかせ、雲の上まで上昇する。そのまま音速を少し超えたぐらいの速度で紅魔館の方へと飛び始めた。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああ。はやいって! これメッチャ風が……。」

 

 美鈴が叫ぶのはまあ仕方がない。私は半分美鈴を風よけにして飛んでいるわけだ。モロに風を受けている美鈴がどのような状態かは想像に難くない。

 

「三十分も我慢すれば紅魔館よ。我慢しなさい。」

 

「いや長いですって!!」

 

 そうか、ならさらに速度を上げよう。私は更に羽を動かし音速の四倍まで加速する。これなら八分ぐらいで到着するだろう。

 

「あばばばばばばばばばば。」

 

 美鈴の腕が今にも引きちぎれそうな動きをしている。あ、千切れた。まあまた生えてくるだろう。五分後、半分肉塊と化した美鈴を庭に投げ捨て、私は紅魔館の玄関へと歩き出す。

 

「おぜうさま……ひど……す。」

 

 あ、生きてたか。案外丈夫な奴だ。何にしても、今は大図書館に向かうのが先だろう。私は美鈴に魔力を込めると、玄関の扉を開けて紅魔館の中に入る。あれだけの魔力を与えておけば、数時間後には元通りになるはずだ。私は階段を下り大図書館の中に入る。中ではパチェが優勝杯を机の上に置き、眺めていた。

 

「ただいま、パチェ。ヴォルデモートは無事復活したわ。予定通りに術の準備を進めて頂戴。」

 

 パチェは視線を優勝杯からこちらへと向けると、小さく頷いた。

 

「わかったわ。予定としては1997年の六月だったかしら。言っておくけど、本格的にそれに合わせて準備を始めると後で変更が出来なくなるわよ。いいの?」

 

「ええ、大丈夫よ。上手いことやるわ。」

 

 私は机の上に置いてある優勝杯を手に取る。それを眺めながら言葉を続けた。

 

「そういえばリドルは?」

 

「いますよー。」

 

 リドルの所在を聞くと、本棚の奥から声が聞こえてくる。そして高く積まれた本を運びながらリドルが本棚の影から姿を現した。

 

「僕が復活したという話でしたね。クィレルも優秀なやつです。」

 

 リドルは本を机の上に置くと、整理を始める。その本のどれもが魂や命に関するものだった。

 

「熱心ね。なんにしてもさっさと分霊箱をなんとかしなさい。もし間に合わなかったら容赦なく殺すからね。」

 

「そんなことは分かっていますよ。」

 

 だからこうして熱心に勉強しているんです。とリドルは軽く本を叩く。まあリドルには頑張ってもらおう。私は優勝杯を机の上に置き、パチェの前に座る。

 

「そういえば、クラウチ・ジュニアはどうなったのかしら。ホグワーツに居るとは思うけど……。」

 

 パチェは机に手をかざすと、ホグワーツ城を映し出す。そのまま拡大していき、クラウチのいる部屋を映し出した。

 

「教員の使う部屋に閉じ込められているようね。逃がすことも出来るけど、どうする?」

 

「逃がしておきなさい。クラウチのような実力者は是非とも戦争の時に活躍して貰わないと。」

 

 私がそう言った瞬間、クラウチがその場から消えた。その手際の良さに惚れ惚れしてしまう。

 

「何処に飛ばしたの?」

 

「墓場よ。ヴォルデモートが復活したところ。多分そこにまだヴォルデモートがいることでしょうし。まあバレる可能性もあるから映像は出せないけど。」

 

 多分まだヴォルデモートは墓場にいるだろう。あとは死喰い人たちが適当に保護してくれるだろう。

 

「取りあえず今は咲夜とクィレルに頑張ってもらいましょう。こっちで少しずつ調整しないといけないことも出てくるでしょうけど、まあ追々でいいわ。」

 

「呑気ね。随分と。」

 

「分霊箱の問題もどうにかしないといけないしね。というか、分霊箱がそこにいるリドルだけという可能性も少ないし。その辺も同時に調べていく必要があると思うわ。」

 

 つまり戦争の時にヴォルデモートを殺せる状態にしておかないといけないのだ。それにはヴォルデモートの不死の秘密を完全に解き明かす必要が出てくるだろう。まあ、ここには魔法界一の天才、パチュリー・ノーレッジと、ヴォルデモートご本人のトム・リドルがいる。そう難しいことでもないはずだ。

 

「ヴォルデモートが復活したということもあって魔法省はバタバタしだすと思うわ。今まで以上にしっかり監視して頂戴。何か動きがあったら報告すること。いいわね?」

 

「わかったわ。」

 

 私はパチェが頷いたのを確認すると優勝杯を持って大図書館を後にする。そのまま廊下を歩き自分の部屋に入った。

 優勝杯を棚の上に飾り、美鈴の血で汚れた服から部屋着に着替える。窓から外を見ると美鈴が何時ものチャイナ服で庭の手入れを行っていた。というか復活早いな。私の予想ではあと二時間は掛かると思ったのだが。

 

「かわいいやつめ。」

 

 私はカーテンをきっちりと閉め、ベッドに横になった。少し仮眠を取ったら仕事を始めよう。私は数分もしないうちに夢の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 1995年九月。私は書斎でパチェが纏めた資料に目を通していた。資料の内容を簡潔に説明するなら、この夏に行われたハリー・ポッターの『未成年魔法使いの妥当な制限に関する法令』違反事件に関するものだ。今年の八月にハリーは守護霊の呪文を使用したとして、ホグワーツを退学になりそうになった。死喰い人がハリーに対して吸魂鬼をけしかけたのだ。

 

「咲夜もその場に居合わせたのよね……。」

 

 結局自己防衛のために呪文を使ったことが証明され、無罪放免になったのだが、この事件により分かったことがある。魔法省がハリーのことを必要以上に嫌っているということだ。

 一昨年ハリーが叔母さんを膨らませた時はハリーが一方的に悪かったにも関わらず無罪放免にしている。

 

「かなり嫌われているわよね。原因は……まあ決まってるか。」

 

 ヴォルデモートが復活したという事実を、魔法省は認めたくないらしいのだ。まあ確かに、ヴォルデモートが復活したところを目撃したのはハリーと咲夜だけだ。つまり学生の証言だけである。不確かな情報だと言えなくもない。

 それに、精神的に認めたくないというのもあるのだろう。ヴォルデモートといったら今の世代の魔法使いからしたら恐怖の象徴だ。信じたくないというまるで子供の我儘のような理由で、魔法省はヴォルデモートの復活を否定した。

 そう、否定したのだ。半信半疑などではなく、きっぱり『そんなことはない』と言い切ったのである。そしてヴォルデモートが復活したと証言するハリーをキチガイ扱いする有様だ。咲夜はこれ以上証言しても無駄だと判断したのか、そうそうに口を噤んだ為、そこまで魔法省から敵視されてはいないようだが。

 故に今不死鳥の騎士団は秘密裏に行動している。ダンブルドアと魔法省は半分ぐらい敵対関係にあると言っていいだろう。なにより厄介なのは日刊予言者新聞だ。予言者新聞は魔法省と繋がっており、ことあるごとにハリーのことを虚言癖のある目立ちたがりのような記事を書いている。そして、新聞に書いてあることは正しいことだと思ってしまう人間は多い。ハリーは世間的には大嘘つきということになっていた。

 

「なんというか不憫よね。咲夜がその風潮に巻き込まれなかったのが唯一の救いかしら。」

 

 私は違う資料を手に取る。この資料はホグワーツに新しい教師が入るというものだった。闇の魔術に関する防衛術の教師がまたいなくなったためだが、新しく教師が入るだけならパチェもこのように資料に纏めたりはしなかっただろう。

 

「魔法省がホグワーツに魔女を送った。確かに問題ね。」

 

 新任のドローレス・アンブリッジはこの夏まで魔法省に務めていた。それも大臣に近い位置でだ。先ほどのハリーに関する事件の資料にも名前が出てきていた。完全に監視のために送り込んだとしか思えないタイミングと人選だ。別にアンブリッジ自身闇の魔術に詳しいわけでもあるまい。

 

「というか、多分これ咲夜は嫌いなタイプでしょうね。何か問題を起こさなければいいけど……。」

 

 それに関してはもう半分願うしかない。まあその辺は咲夜に任せよう。

 

「咲夜は咲夜で不死鳥の騎士団では上手くやっているみたいだし。クィレルも順調に死喰い人での地位を高めているようね。」

 

 その証拠かわからないが、最近クィレルは紅魔館によく帰ってくるようになった。死喰い人の人数が増えたこともその理由の一つかもしれないが。クィレルの話では、ヴォルデモートはトレローニーの予言を手に入れるために奮闘しているらしい。騎士団はそれに気が付き防衛を行っているようだ。

 

「もしあの予言を完全に信じているとなると、ダンブルドアはハリーにヴォルデモートを殺させようとするでしょうね。じゃあ最終的な流れでは、ヴォルデモートにダンブルドアを殺させ、ハリーにヴォルデモートを殺させるのが一番いいかしら。」

 

 なんにしても、暫く様子を見たほうがいいだろう。騎士団に咲夜、死喰い人にクィレル。……出来れば、あと一枚手札が欲しいところだ。

 

「魔法省を完全に押さえることが出来たらスムーズに物事が進みそうだけど、流石にそれは目立ちすぎかしら。」

 

 もし魔法省を押さえるとしたら、かなり秘密裏に行わないとならないだろう。それこそ私が関与していると気が付かれないようにだ。まあ、やらないが。私はパチェの資料を片付けると仕事に取り掛かった。

 

『レミィ。新しい情報よ。』

 

 突如部屋にパチェの声が響き渡る。そして次の瞬間、机の上に一枚の羊皮紙が現れた。私は仕事を始めようとしていた手を止め、その羊皮紙を見る。

 

「ドローレス・アンブリッジがホグワーツ高等尋問官に就任……高等尋問官ってなによ。」

 

『ようは他の教師を視察して、その教師が魔法省が定める基準を満たしていなかったら解雇することができるというものよ。魔法省がなりふり構わずホグワーツに干渉してきたわね。』

 

 なるほど、ネックなのは『魔法省が定める基準』というやつだろう。ようはやりたい放題出来る権力を持っているということだ。

 

「これ、就任日が明日になってるけど、もっと早く分からなかったの?」

 

『ここ数日でバタバタと決まったのよ。まるでアンブリッジに早急に力を与えるためにね。もしかしたらホグワーツで何か事件が起こったのかも知れないわ。』

 

「そっちの情報は?」

 

『今調べているところ。』

 

 なんにしても、あまりいい傾向とは言えない。出来れば魔法省にはダンブルドアと一致団結して死喰い人に対抗して欲しいのだが。どうしても不死鳥の騎士団だけでは生贄になる人数が少なすぎる。それに今の状況では騎士団員が増えるということもないだろう。

 

「魔法省を何とかしたほうがいいかも知れないわね。これでは死者数が足りなくなる可能性があるわ。」

 

『私もそう思う。というか、死喰い人もそんなに増えていないし。どちらの勢力もあと十倍は人数が欲しいわ。』

 

 十倍。分かってはいたことだが、具体的な数を聞くと少し頭が痛くなる。やはり本格的に干渉し始めたほうがいいかも知れない。

 

『私から一つ提案するわ。戦争はホグワーツで起こしなさい。あそこなら被害者になり得る魔法使いが数百人単位でいるから。』

 

 パチェは淡々とそんな提案をする。まあ確かに、被害を大きくするにはそれが一番だろう。確実に魔法界で一番人口密度が高い場所だ。

 

「でもホグワーツって要塞みたいなものじゃない。攻め入る前に生徒には逃げられるんじゃない?」

 

『ホグワーツの中に直接死喰い人を送り込めばいいわ。パニックが起きれば避難も遅れるだろうし。』

 

 ふむ、普通ならそんなことは不可能だと一蹴するところだが、パチェなら実現可能だろう。

 

「考えておくわ。また何かわかったら教えて頂戴。」

 

 私はパチェから送られてきた羊皮紙を引き出しの中に仕舞いこむ。そして今度こそ仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 1995年、十二月。私はベッドから起き上がると寝間着から部屋着に着替え、椅子に座る。今日は咲夜が帰ってくる日だ。既に紅魔館の中にいることだろう。そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。

 

「お嬢様、夕食の用意が出来ました。」

 

「入ってもいいわよ。」

 

「失礼致します。」

 

 私が許可を出すと咲夜が静かにドアを開けて部屋の中に入ってきた。

 

「おかえり、咲夜。」

 

「ただいま戻りました。お嬢様。」

 

 咲夜は可愛らしい笑顔を浮かべると、私の前に夕食を並べる。私はナイフとフォークを手に取り夕食を取り始めた。

 

「そうだ。騎士団の様子はどう?」

 

 私はサラダを食べながら咲夜に聞く。

 

「今現在は予言の防衛と魔法省への干渉、あとは重要人物の護衛でしょうか。」

 

 重要人物というとハリー・ポッターのことだろうか。何にしても……。

 

「ふうん、予言ね。」

 

 私は手に持っているフォークをクルリと回した。

 

「トレローニーごときの予言を有難がるなんて、ダンブルドアもヴォルデモートも地に落ちたものね。咲夜も知っているように、今騎士団が防衛している予言はトレローニーが十六年前にしたものよ。しかも無意識で。」

 

 トレローニーといったら私の講演会をキラキラした目で狂信的に聞いているぐらいのイメージしかない。極たまにまともな予言を行う程度だ。

 

「いえ、知りませんでした。」

 

「ん? 貴方は私の話を聞かなかったのかしら。」

 

「いえ、知ってました。今知りました。」

 

 私が少し弄ると、咲夜は慌てて言葉を付け足す。正直可愛い。

 

「そう、じゃあ話を戻すわよ。要するにあの予言にはあまり力がないということよ。」

 

 私がそこに予言を被せれば、簡単に崩れてしまうだろう。まあ、ダンブルドアとヴォルデモートがその予言を信じているのであれば、大きく崩すようなことはしないが。

 

「お嬢様は何故そこまで詳しく事情を?」

 

 咲夜は首を傾げながら私に聞いてくる。

 

「占い学の権威が神秘部の予言保管庫に入れないわけないでしょう?」

 

 そういった瞬間、咲夜の目が点になった。そうか、咲夜は私が仕事で魔法省に出入りしていることを知らないのだ。

 

「まあ、あそこは面白いところよ。愛だの死後の世界だの色々と研究しているわ。確か時間の研究もしていたはずよ。」

 

「お詳しいのですね。」

 

「まあね。神秘部の予言保管庫の棚の半分を埋めたのは私だし。」

 

 まあ、半分というのは流石に冗談だが、私専用の棚があるぐらいにはあそこに私の予言がある。

 

「なんにしてもよ。魔法使いという人種がそこまで予言を重視するんだとしたら、多分再来年の夏にはすべて終わるわ。」

 

 私はフォークでレタスを突き刺し、口に運ぶ。うん、美味しい。

 

「恐れ入ります。ですが何故終わると?」

 

 おっと、サラダの感想が口から出てただろうか。だが、咲夜はここまで質問をするタイプだっただろうか。分からないことは分からないまま、すまし顔でスル―するイメージがあった為、少し戸惑う。

 

「随分と質問が多くなったじゃない。騎士団に入れた影響かしら。」

 

 咲夜は失言をしたかといった表情で口を噤む。なんというか、怒られるかと身構える咲夜が妙に可笑しくて、私は声に出して笑ってしまった。

 

「傀儡は要らないわ。……そうね、これは教えておいてもいいかしら。」

 

 今まで咲夜には極力情報が渡らないようにしてきた。だが、ダンブルドアに近づいているということもある。これは知っていてもいい情報だろう。私は一度フォークを置き、咲夜の方を向いた。

 

「だってアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアに1997年六月に死ぬと予言を出したのは私だもの。その時のあいつの顔と来たら……。」

 

 多分凄い形相をしていたに違いない。その顔を想像してしまい、私は腹を抱えて笑ってしまった。私は何とか呼吸を整えると、咲夜に向き直る。

 

「というわけでダンブルドアは自分が生きている間に無理にでもヴォルデモートを殺したいというわけ。まあ、私の計画が上手くいけば嫌でも叶うことになるわけだけど。」

 

 咲夜は少しポカンとしている。ちゃんと私の話を聞いているだろうか。

 

「咲夜? さーくーやー? 聞いてるの?」

 

「……はい、聞いております。そう言えばお嬢様、少しお耳に入れていただきたい情報が。」

 

「……何かしら。」

 

 咲夜は軽く深呼吸をしてから話し出す。私は食事を再開させた。

 

「昨晩神秘部で予言の防衛にあたっていたアーサー・ウィーズリーが大蛇に襲われました。」

 

「へえ、あんなところで襲われたんじゃ、助からないでしょうね。そのうち葬式でも開かれる?」

 

 大蛇、というとヴォルデモートの飼っているナギニのことか。偵察としてナギニを送ることがあるという話はクィレルから聞いているので、多分それに襲われたのだろう。

 

「いえ、奇跡的にハリーがアーサーの襲われる夢を見まして、襲われてから数時間と経たずに聖マンゴに移送されました。」

 

「襲われる夢を……予知夢って奴?」

 

「というよりかは、蛇の中からアーサーを見ていたようですが……。」

 

「ふうん。」

 

 ハリーはナギニの中からアーサーを見ていた。これは少し面白いことになってきたな。普通見ず知らずの蛇と視界が繋がるなどありえない。だが、ハリーに関してはその限りでないと言える。

 もしハリーとナギニに繋がりがあったら。そう、例えばハリーもナギニもヴォルデモートの分霊箱だったとしたら。

 

「なるほどね。その情報はパチェにも伝えなさい。ヴォルデモートを殺すうえで重要な要素になり得るわ。」

 

「やはりハリーとヴォルデモートとの間には確かな繋がりがあるということでしょうか?」

 

 咲夜もそれには感づいているらしいが、まだぼんやりとしか思っていないようだった。

 

「そんな不確かなものじゃないわ。私の予想ではもっと大きく強いもの……そう、魂とかね。」

 

 私はフォークを置くと、ナプキンで口を拭く。いやあ、非常においしい夕食だった。咲夜は手際よく皿を片付けると、先ほどから準備していた紅茶を出してくれる。私は待ってましたと言わんばかりにティーカップを手に取った。

 

「魂……殺すうえで重要な要素……分霊箱?」

 

 ヒントを頼りに、咲夜が私と同じ結論に辿り着く。

 

「確証はないわ。でももしそうならハリー・ポッターもダンブルドアと一緒に死んでもらうことになるわね。」

 

「いざとなったら私がこの手で殺しますわ。」

 

 咲夜が即答した。頼もしい限りだ。

 

「『一方が他方の手にかかって死なねばならぬ。』トレローニーの予言の一部よ。ようはヴォルデモートとハリー、どちらかがどちらかを殺さないといけないってことね。そのせいもあってダンブルドアは弱っているヴォルデモートを殺さなかったと考えられるわ。」

 

 秘密の部屋が開けられた年、ダンブルドアはヴォルデモートの潜伏先を八割ほど特定していた。ダンブルドアが本気を出して殺しに行っていれば、完全に殺しきることは出来ずとも、封印することぐらいは出来たかもしれない。

 

「まあ、うかうかしている間にヴォルデモートは復活してしまったわけだけど。ダンブルドアがハリー・ポッターを特別視しているのはそのためよ。アレはアレがヴォルデモートと戦う運命にあると思い込んでいる。馬鹿よね。トレローニーなんかの予言を信用するなんて。」

 

 いや、そもそも予言なんかを信用するのが間違いなのだが。

 

「ダンブルドアは占いや予言に関しての知識が低いと見えるわ。占いも予言もそうだけど、ああいうものは干渉を受けやすいの。少しでも周りを取り巻く状況が変わったり、もっと力の強い予見者が予言を上書きしてしまったりとかすると、すぐに効力が無くなってしまう。」

 

 私は逆転時計の砂時計をひっくり返すジェスチャーを行う。

 

「多分逆転時計の影響ね。あれは未来を確定的なものとして、そこに至る過程を変える。使用者が一度経験してしまった事を変更することは出来ないのよ。そういう事例から見て、予言が絶対のものであると思い込んでいる。おかしいわよね。でも重要なことなのよ。この場合。」

 

 私は紅茶を飲み干すと、逆さにしてソーサーに被せる。そしてハンドルの部分を指で弾き、コマのように回転させた。カップはソーサーの上でクルクル回っている。

 

「予言が本当であるという思い込みが強ければ強いほど予言というのは的中する。本人自身が予言と同じ行動を無意識に取ってしまうから。ようは墓穴を掘る感じ? 実際、ヴォルデモートも予言を信じたばっかりに死にかけてるし。」

 

 ソーサーの上で回っていたカップは次第に回転力を失い、表を向いてソーサーの上で止まる。私はティーカップの中に出来た模様を確認した。

 

「図書館に向かいなさい。貴方にとっていいことがあるわ。」

 

 どんないいことがあるかまでは分からないが、何かいいことがあるのは確かだろう。咲夜は空のティーカップを片付けると私に一礼して部屋を出ていった。何にしても、咲夜は良い情報を持って帰ってきてくれた。ハリーが分霊箱である可能性。ヴォルデモートがわざとハリーを分霊箱にしたとは考えにくい。つまりハリーはヴォルデモートも知らない分霊箱だという可能性があるのだ。

 

「でも、そうでないと辻褄が合わないわよね。これは使えるわ。」

 

 私は部屋で一人ほくそ笑む。まったく、優秀な部下を持つとこうも計画が上手く進むとは。私は椅子から降りると、ご機嫌で仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

 その優秀な従者がクリスマスパーティー中止の連絡をしにやってきたのは、それから数時間後のことだった。




咲夜が不死鳥の騎士団に入る

クラウチ脱走(というかパチェが逃がす)

不死鳥の騎士団再結成

賞金は双子たちの手に

ハリー嘘つき呼ばわりされる

ハリーが守護霊の呪文を使い退学になりそうになる

ハリー護送作戦

ハリー懲戒尋問

ハリー無罪放免

アンブリッジがホグワーツに就任

咲夜のアンブリッジいじめが始まる

ダンブルドアが咲夜のことを調べ始める

咲夜がダンブルドアからアンブリッジを探れと命令される

DA結成

ハリーがマルフォイに暴行し、クィディッチ禁止になる

咲夜がビーターに(ビーターどころやない、チートや! チーターや!)

アーサーがナギニに襲われる

ハリーがそれを夢で見てダンブルドアに知らせる

ウィーズリー兄妹、ハリー、咲夜がブラック邸へ向かう

アーサーのお見舞いにみんなで行く

咲夜帰宅

リドルの転生魔法が完成する

分霊箱の絞り込みを行う(八割がた判明)

リドルの転生の儀式を行うためにクリスマスパーティーが中止になる

こうやって見ると、おぜうさま視点では不死鳥の騎士団編、特に前半は動きがないな……。

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