紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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病院編。色々伏線張った割にはあまり回収してないですね……すみません。今作で回収できると良いのですが……

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


病室やら、写真やら、包み紙やら

 1995年、十二月二十五日。

 私は咲夜と小悪魔を連れて聖マンゴ病院に来ていた。もっとも、吸血鬼は病院とは無縁の存在だ。話で聞いたことはあるが、ここに来るのは初めてだった。

 

「小悪魔は来たことがあるんだったかしら。」

 

「実はあまりないです。病院にくるよりも病院送りにした回数の方が多いので。」

 

 私の後ろでは咲夜と小悪魔がそんな世間話をしている。まあ確かに小悪魔の性格から考えたらそうだろう。咲夜は受付の方に歩いていき、そこにいる女性に話しかける。どうやら、お見舞いの受付はそこらしい。

 

「お見舞いに来たのですが。」

 

 咲夜が女性に話しかけると、女性は私と小悪魔を見て少し固まる。その後我に返ったのかすぐに案内を始めた。

 

「ああ、はい。お見舞いね。何方のお見舞いかしら。」

 

 まあ確かに吸血鬼という存在は魔法界でも珍しい。それに小悪魔なんて頭から羽が生えているのだ。少なくとも、私は頭から羽の生えた生物を見たことがなかった。

 

「ギルデロイ・ロックハートです。」

 

「まあ、ギルディのお見舞い? 五階の呪文性損傷の長期療養病棟よ。」

 

 女性は見取り図を指さしながら場所を教えてくれる。咲夜は女性に軽くお礼を言うと、案内された方向に歩き出した。

 

「なんというか、病院らしくないわね。患者が愉快すぎるわ。」

 

 私は階段を上りながらそう言う。

 

「愉快って、見た目がですか?」

 

「受付前にいた頭から手を生やしている少女なんて、傑作じゃない? 手も途中で別れて全部で五本になってるし。」

 

 私は手を頭の後ろに回して、こんなの、と真似をした。病院というよりかはサーカスだ。フリークショーのような。何にしても、手が五本もあれば細かい作業をするときなど便利そうだ。まあかといって腕が欲しいのかと言われれば、そうではないのだが。

 

「私は頭が鳥になっている女性の風体が結構好きですが。あの目が紫色の。」

 

 小悪魔がそんなことを言うが、そのセンスには頷けなかった。

 

「てかキモイ。」

 

 ペストマスクはカッコいいと思うが、実際に嘴を生やそうとは思わない。目が紫色というのも少しどうかと思う。

 

「あ、ここですお嬢様。長期療養病棟は……あちらだと思います。」

 

 咲夜は廊下に出るとキョロキョロと周囲を見回す。それっぽいところを見つけたのか、ドアの一つに近づいて行った。

 

「ヤヌス・シッキー病棟……ここでしょうか。」

 

 また懐かしい名前の付いた病棟だ。時代が違うためか、咲夜はシッキーを知らないらしい。

 

「ヤヌス・シッキーは1973年にレシフォールドに殺されたかのような走り書きを残し失踪した魔法使いです。」

 

 小悪魔は簡単にシッキーについて解説した。そうか、小悪魔はその世代の人間だったな。

 

「それよりも、今はこの中にロックハートがいるかどうかが問題かと。」

 

 小悪魔がそう言葉を続ける。私は躊躇なくドアノブに手を掛けた。

 

「いなかったら他を当たればいいだけでしょう?」

 

 ガチャガチャとドアノブを捻るが、扉が開くことはない。どうやら鍵がかかっているようだった。

 

「鍵が掛かっていますね。」

 

 咲夜が杖を取り出そうとする。だが、こんなもの魔法を使うまでもないだろう。

 

「そんなことないわ。」

 

 私は力任せにドアノブを捻り、鍵を捩じ切って扉を開ける。

 

「咲夜、後で直しておきなさい。」

 

「かしこまりました。」

 

 扉の奥にはいくつかベッドが並んでおり、そのうちの一つにロックハートはいた。鼻歌を歌いながらベッドに腰かけている。周囲の壁は現役時代のロックハートの写真が貼り付けられており、ロックハートの周囲だけ異様な雰囲気になっている。

 

「咲夜、何をもたもたしているのよ。いたわよ。」

 

「只今参ります。」

 

 部屋の外でドアノブを直していた咲夜が小走りで入ってくる。ドアが閉まったところで私はロックハートに話しかけた。

 

「こんにちは、ロックハート。」

 

「やあ、こんにちは! お嬢様方が三人も。私のサインが欲しいんでしょう?」

 

 おお、こいつはエスパーか何かなのだろうか。確かに私はロックハートのサインが欲しい。私は小悪魔の用意した丸椅子に腰かけ、ロックハートと向き合った。

 

「貴方の著書を読んだわ。なんというか、ファンタスティックね。」

 

「そうでしょう、そうでしょう。……私が本を書いたって? 何かの間違いでは?」

 

 ああ、そこは覚えていないのか。ロックハートはベッドの横に積み上げられているロックハートの写真を手に取り、サインを始める。かなり汚い文字だが、一応筆記体になっていた。

 

「私はもう続け字を書けるようになったんですよ! さあ何枚書きましょうか? 今でも私にはファンレターが沢山届きましてねぇ。なんでか分からないけど、多分私がハンサムだからですね!」

 

「いや、違うわ。それもあるけど貴方の書いた本が面白いからよ。」

 

「いやぁ写真が足りるといいけど……。」

 

 こいつ絶対私の話を聞いていないな。まあそれも良いだろう。会話程度で分かりあおうなど、それこそ笑い『話』だ。

 

「最近調子はどう?」

 

「今日のご飯にはゼリーが出たんです! 美味しいんですが手が汚れてしまうのが難点ですね。」

 

「そう、元気そうね。」

 

「いえいえそんなことは。そこまでハンサムではないですよ。」

 

 だが私の言葉に何かしらの反応を示しているあたり、言葉が理解できていないわけではないのだろう。

 

「ねえ貴方。この写真に百個サインを書いてみてくれない?」

 

「勿論です。最近ようやく続け字が書けるようになったんですから。」

 

 私がそうお願いするとロックハートは小さい文字で写真にサインを書き始める。私はその光景に目を見開いた。なんだこの集中力は。相変わらず字は汚いが、細かい文字でびっしりと文字を書き始める。私は試しにロックハートが書いている写真を取り上げてみた。

 

「ああ、まだ途中ですよ。返してください。」

 

 ロックハートは私から写真を奪い返すと、またサインを書き始める。なんというか、インプットした命令を実直に実行しようとするその姿はまるで出来の悪いコンピュータだった。

 

「サヴァン症候群というやつね。……これはもしかしたら使えるかも。」

 

 といっても、こいつを手駒に加えるつもりはさらさらないが。だがこのまま病院で眠らせておくには勿体ないと思うのも確かである。

 

「死喰い人に押し付けてみるか。何か面白い反応を示すかも。」

 

「さあ書けましたよ。はいどうぞ。」

 

 ロックハートはにこやかな笑みを浮かべながらサインのビッシリ書かれた写真を手渡してきた。私は軽くサインの数を数える。私が見落としていなければ百ぴったりの数が書き込まれていた。

 

「フランク? ……アリス?」

 

 咲夜が不意に名前を呟く。私は咲夜の視線の先にいる患者を見た。そこには不死鳥の騎士団員だったロングボトム夫妻が隣同士のベッドの上で横になっていた。ロックハートに意識が向いていて気が付かなかったが、この病室には私の知っている顔が何人かいるようだ。

 

「咲夜、知り合い?」

 

 私は咲夜に声を掛けながら、ロックハートと反対側に位置するベッドの患者を見る。よく見たらこいつは無言者のボードじゃないか。入院したという話は聞いていたが、まさかここにいるとは思わなかった。ボードはいつもの元気は何処へやらと言った表情で天井を見つめている。

 

「はい、フランク・ロングボトムとアリス・ロングボトム。どちらも元騎士団員です。」

 

「ああ、ロングボトム夫妻ですか。アレには苦汁を飲まされたようですね。ヴォルデモート卿は。」

 

 咲夜の言葉に、小悪魔もそこに寝ているのがロングボトム夫妻だとわかったようだった。

 

「騎士団員……ね。こんな状態になってまで生きている価値あるの?」

 

「ないでしょ。」

 

 私の問いに小悪魔が答える。この二人は自分の意志で生きているわけではない。第三者の自己満足でいかされているだけに過ぎないのだ。一思いにここで殺してあげたいぐらいだが、そうもいかないだろう。

 

「アロホモーラ。……ん? 元から開いてる?」

 

 物思いに耽っていると、一人の癒者がドアを開けて中に入ってきた。咲夜は一瞬身構えたが、その必要は全くない。なにせ、ここには受付をしてきているのである。逆にここにいなければ何処にいるという話だ。

 

「あら、ギルデロイのお見舞い? ああ、よかった。クリスマスだというのにこの子には一人もお見舞いに来ないの。ゆっくりしていって。ささ、ミセス・ロングボトムとお孫さん。こちらへ。」

 

 癒者に連れられて二人の人間が病室に入ってくる。一人は老婆でもう一人は咲夜と歳の変わらなさそうな子供だった。子供の方は咲夜と目を合わせた瞬間、メデゥーサにでも睨まれたかのように動きを止めてしまう。

 

「ネビルのお友達かえ?」

 

 老婆が咲夜に声を掛けた。咲夜の様子を見る限りでは、ネビルと呼ばれた少年とは面識があるようだ。

 

「十六夜咲夜と申します。」

 

「おお、良く知っとるとも。去年の対抗試合で優勝した方ですね。ネビルがよく貴方のことを食事の席で話すんですよ。ということはそちらのお嬢様方は――」

 

 老婆がこちらを見る。随分歳を取っているようだが、目から力強さは消えていない。

 

「レミリア・スカーレットよ。」

 

「小悪魔です。」

 

 私たちが自己紹介をすると、老婆は何度か頷いた。

 

「コアクマさんはご存じないですが……」

 

 老婆が小悪魔に何気に酷いことを言った後に私の方を見る。

 

「そしたら貴方が咲夜さんの。」

 

 どうやら、私もそこそこ有名なようだった。まあ去年咲夜が目立ちまくったからその影響もあるだろう。

 

「ええ。私がこの二人の主の吸血鬼よ!」

 

 私は胸を張り、何度か羽をバタつかせる。その瞬間、ロックハートがベッドから立ち上がり部屋の外に出ていった。散歩か何かだろうか。なんにしてもそのうち戻ってくるだろう。

 

「貴方たちはロングボトム夫妻のお見舞いかしら。」

 

 私は確認を取るように老婆に聞いた。確証は持てていないが、多分この老婆はオーガスタ・ロングボトムだろう。彼女自身優秀な魔女だったはずだ。

 

「はい、ネビルがホグワーツから帰ってきた時には毎回お見舞いに来てますよ。」

 

 私の問いに、オーガスタは笑顔で答える。だが、ネビルのほうは更に表情を固くした。どうやら、両親が入院していることを咲夜に知られたくなかったらしい。

 

「お嬢様。」

 

 咲夜が一言私を呼ぶ。いや、確認を取ってきているのだろう。不死鳥の騎士団員だということをこの二人に教えていいかと。まあ、放っておいてもいずれ耳に入りそうなので、ここは許可をしておくことにした。

 

「言っていいわよ。」

 

 私が許可を出すと咲夜が一歩ネビルに近づく。ネビルはビクンと体を震わせた。

 

「大丈夫、そう固くならないでネビル。貴方のご両親の事情は知っているわ。私も騎士団員だもの。」

 

「ええ!? そうなの?」

 

 咲夜の言葉に、ネビルは面白いぐらい驚いた。

 

「立派な闇祓いだったと聞いているわ。」

 

「ええ、それはもう。二人とも一族の誇りです。」

 

 オーガスタは誇らしげに答える。一族の誇りだというのなら、一思いに殺してやればいいのにと思うのは私だけだろうか。

 

「それにしてもその歳で騎士団員なんて……立派な従者をお持ちですね。」

 

 この歳でというが、咲夜ももう十五歳だ。多分。既に戦士として立派に戦える年齢であると言えるだろう。

 

「当たり前よ。私の従者だもの。ロングボトム夫妻のお見舞いに来たのでしょう? 私たちには構わず二人のもとへ行ってあげなさい。」

 

 オーガスタとネビルは私に軽く頭を上げると、ロングボトム夫妻のベッドに近づいていく。そしてベッドを仕切るようにカーテンを引いた。私はロックハートのベッドを見て、わざとらしく声をあげる。

 

「あらら。そのうち戻ってくるかしら。」

 

「あの癒者、ドアのカギを閉め忘れたんですかね?」

 

 その口調から察するに、小悪魔もロックハートが出ていったことには気が付いていたようだった。

 

「そう言えば、お嬢様はロックハートの著書のどのようなところが気に入ったのですか?」

 

 咲夜はロックハートのベッドに置いてある写真を見ながら私に聞いてくる。それにしても、少し難しい質問だった。どのようなところ……面白いところという意味だろうか。

 

「今考えたらあんまり面白くもないわね。」

 

 あれは何が面白いとか、そういう作品じゃない気がする。何かもっと深い……なんだろう。なんにしても、咲夜は先ほどの答えで満足したようなので、私は先ほど考えた作戦を実行することにした。

 ロックハートの写真の一つに、小さい文字で文章を書きこんでいく。一見すると只の意味不明な文字の羅列だが、私が魔力を込めることでロックハートにしか読めない作戦計画書になっている。ようは、ロックハートにプログラミングを施すわけだ。時期が来たら発動するような、そんなプログラムを。

 

「そういえば、ホグワーツでロックハートはどのようなことを教えていたの?」

 

「闇の魔術に対する防衛術ですが……その殆どが自分の自慢話と座学でした。」

 

「ふうん、噂通りの無能だったわけね。……これでよし。」

 

 私は文章に間違いがないかを確認し、写真に魔力を込める。次の瞬間、ロックハートが癒者に連れられて病室へと戻ってきた。その後ろにはハリーたち三人組と、ジニー・ウィーズリーがついてきている。その四人の困惑顔を見る限り、病院内でばったりロックハートに遭遇してしまい、その光景を癒者に見られお見舞いだと勘違いされ、病室に連れてこられたのだろう。

 ハリーは咲夜の顔を見るなり動きを止める。なんというか、咲夜の目には人を石化させる魔法でも掛かっているのだろうか。

 

「もう、貴方もなの? ハリー。」

 

 咲夜がうんざりしたように声を漏らす。ハリーは我に返ると、少し驚いたような声を出した。

 

「咲夜! と、スカーレットさん。なんでここにいるの?」

 

 なんでここにいるのというのは少しアレな質問だ。ここに住んでいるわけでもあるまいし。お見舞い以外の何が有るというのか。

 

「ロックハートのお見舞いに来たのだけれど……それは貴方たちもでしょう?」

 

 咲夜が逆にハリーに聞き返す。それにハリーはごにょごにょと曖昧な返事を返した。まあ無理やり連れてこられた感は否めない。

 

「咲夜、そちらの女性は?」

 

 ロンが小悪魔について咲夜に聞く。さて、今日は運がいい。第二の目的も果たすことが出来そうである。ハリーが小悪魔に反応するかどうか。初対面というこの場面でなら、自然な形で体に触ることが出来るだろう。主に握手という形で。

 

「ああ、彼女は私の使い魔よ。」

 

 小悪魔は一人ずつ握手を交わしていく。その時にハリーに触れたが、ハリーが痛がるような様子はなかった。どうやら儀式は無事成功していたようだ。私は軽く安堵し、ほっと溜息をつく。

 

「始めまして。レミリア・スカーレットに仕えている悪魔です。」

 

 小悪魔はそう自己紹介したが、小悪魔が仕えているのは私ではなくパチェである。本来はパチェの使い魔だ。今日はパチェから小悪魔を借りているだけに過ぎない。

 私はふと向かい側にいるボードのベッドの横を見る。そこには何故か悪魔の罠が植えられた鉢植えが置いてあった。いや、なんでそんなものがベッドの横に置いてあるんだ。先ほどまでは置いてなかったはずだが……。横を見れば、先ほどロックハートを連れて来た癒者が患者にクリスマスプレゼントを配っていた。なるほど、この鉢植えは誰かがボードに送ったものということだろう。

 私は皆に気が付かれないようにそっと悪魔の罠を焼き殺す。これでボードが殺されることはないだろう。まったく、手間の掛かるやつだ。今度魔法省に行った時にでもケーキを奢らせてやる。

 

「あら、ミセス・ロングボトム。もうお帰りですか?」

 

 次の瞬間、オーガスタとネビルがカーテンを開けてこちらに出てきた。カーテン一枚で仕切られていたので、ネビルは病室にハリーがいることを知っていたはずである。だが、まさに予想外、終末が来たかのような顔をしていた。

 

「ネビル! ネビル、僕たちだよ。ねえ見た? ロックハート先生がいるよ。君は誰のお見舞いなんだい?」

 

 なんとも能天気な声が病室に響いた。ロンだ。きっと何も考えずに話しているに違いない。吸血鬼である私が言うことではないが、お前はもっと人の気持ちを考えろ。

 

「ネビル、お友達かえ?」

 

 オーガスタが笑顔でハリーたちに声を掛ける。一人一人を観察し、ますハリーに握手を求めた。

 

「貴方がハリー・ポッターですね。ネビルから貴方の話は聞いていますよ。」

 

「あ……どうも。」

 

 ハリーは消え入りそうな声で挨拶する。先ほどから、異常なまでにネビルを気遣っているようだが、もしかしたらハリーはロングボトム夫妻の事情を知っているのかも知れない。

 

「それに貴方たちはウィーズリー家の子たちですね。」

 

 ハリーに続いて、ロンとジニーとも握手を交わした。最後にオーガスタはハーマイオニーに手を伸ばす。

 

「そして、貴方がハーマイオニー・グレンジャーですね?」

 

 ハリーは魔法界では有名だ。ウィーズリーも不死鳥の騎士団関係で知っていても不思議ではない。だが、自分のことを知っているとは思っていなかったようだ。ハーマイオニーは驚いたような顔をしながら、オーガスタと握手を交わす。

 

「ネビルが貴方のことをよく話してくれますよ。咲夜さんと並ぶ、グリフィンドールの優秀な魔女だと。うちのネビルをよくしてくれてありがとうございます。ネビルはいい子ではあるのですが、父親の才能をまるで受け継ぎませんでした。」

 

 オーガスタはベッドの上で寝ているフランク・ロングボトムを見る。その仕草を見て、ロンが声をあげた。

 

「えー!? ネビル、奥にいるのは君の両親なの!?」

 

 ロンの全く遠慮のない物言いに、ハリーは分かりやすく頭を抱えた。次の瞬間、オーガスタの鋭い声がネビルに飛ぶ。

 

「何たることです! ネビル、お前はお友達に両親のことを話していなかったのですか?」

 

 ネビルはこの世の終わりだと言った表情を浮かべながら首を横に振る。うん、正直なことは良いことだ。

 

「いいですか、何も恥じることはありません。貴方は自分の両親を誇りに思うべきです。あのように正常な体と心を失ったのは一人息子が親を恥に思うためではありませんよ。お分かりか!」

 

「僕、思ってないよ……。」

 

 恥とは思っていないだろう。だが、それ以上に複雑な感情を胸に抱いているに違いない。

 

「それにしてはおかしな態度ですね。」

 

 オーガスタは誇らしげな様子でハリーたちに向き直る。

 

「私の息子と嫁は例のあの人の配下に正気を失うまで拷問されたのです。」

 

 それを聞いて、ロンの表情が分かりやすく変わる。完全に自分が地雷を踏み抜いたことに気が付いたようだった。

 

「二人とも非常に優秀な闇祓いだったのですよ。夫婦揃って才能豊かでした。私は――おや、アリス。どうしたのかえ?」

 

 病室の空気がどんどん最悪なものになっていく中、アリス・ロングボトムがフラフラとネビルに向かって歩き出す。そしてネビルに向かって何かを差し出した。

 

「またかえ? よしよしアリスや。……ネビル、何でもいいから受け取っておあげ。」

 

 ネビルがアリスに手を伸ばすと、アリスはネビルの手の平に風船ガムの包み紙をポトリと落とした。

 

「ありがとママ。」

 

 包み紙……、正気を失った親……、残された子供……これは使えるかも知れない。私は咲夜の裾をそっと引っ張った。次の瞬間、私の周囲の動きが止まる。私の意図通り、咲夜が時間を止めたようだ。本当に気の利く従者である。

 私は無言でネビルに近づき、手の平に置かれている包み紙を手に取る。それを丁寧に開き、机の上に置いた。万年筆を取り出し、わざと下手くそな字で『fight』と書き込んだ。あとはネビルがこれを母親が書いたものだと勘違いしてくれればいいのだが……こいつは頭が緩そうなので簡単に信じるだろう。

 私は包み紙をもとあった通りにネビルの手の平に置くと、元の場所に戻る。次の瞬間、周囲が動き出した。アリスは鼻歌を歌いながらベッドへと戻っていく。

 

「さて、もう失礼しましょう。皆さんにお会いできて本当に良かった。ネビル、その包み紙はゴミ箱にお捨て。あの子がこれまでにくれた分で壁が一面貼れるほどでしょう。」

 

 それは困るのだが……。折角メッセージを仕込んだ意味がなくなる。だが、オーガスタが言ったように、ネビルはいい子だった。病室を出ていくとき、こっそりと包み紙をポケットに滑り込ませる。きっと今までもらった分も後生大事に取ってあるに違いない。

 

「知らなかったわ。」

 

 オーガスタとネビルが出て行ってから、少し沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのはハーマイオニーだった。若干涙目だったが。

 

「僕、知ってた。ダンブルドアが話してくれた。でも、誰にも言わないって約束したんだ。」

 

 ハリーがぽつりとそう宣言する。やはりハリーは知っていたのか。あの態度にも納得だった。その後はまた長い沈黙が続く。このままでは埒が明かないのでそろそろ帰るとしよう。

 

「咲夜、小悪魔、帰るわよ。ロックハート、機会があったらまた会いましょう。」

 

 私は先ほど文章を書きこんだ写真をロックハートに渡す。文章の内容は神秘部に忍び込んで予言を取ってくると言うものだ。予言を取ってきたあとはクィレルか誰かに接触させればいいだろう。

 もっとも、取ってくる予言はまだ神秘部にはない。これから私が仕込むものだ。その予言には六月に戦争が起きるという内容を記しておく。ついでにダンブルドアがその戦争で死ぬということも。

 まあ戦争を誘導するために仕込むものなので、真の意味では予言とは言えないかも知れないが。

 私は椅子から立ち上がるとまっすぐ病室の外へと向かった。後ろから咲夜と小悪魔も後を追ってくる。今日はある意味大収穫だ。来るべき戦いに向けて、いくつか策を仕込むことが出来た。

 

「まあ、来た価値はあったかしら。ついでにウィーズリーのお見舞いでもしていく?」

 

 私は冗談半分に咲夜に聞く。咲夜は静かに首を横に振った。

 

「そう、じゃあ帰りましょうか。」

 

 あ、そういえば、咲夜はボードに関して何か知っているだろうか。それとなく聞いておくことにしよう。

 

「でもロックハートの向かいに寝ていた魔法使い。なんでベッドの脇に悪魔の罠なんて飾ってたのかしら。」

 

「あれ悪魔の罠だったんですか。」

 

 小悪魔が呑気にそう答えた。いや、こいつのことだ。多分気が付いていたに違いない。私は咲夜の反応を見るが、何か知っている風ではなかった。

 咲夜は私と小悪魔の手を握ると紅魔館の大図書館へと姿現しする。まあ知らないならそれでいい。あとで軽く調べておくことにしよう。私は大あくびをすると眠たい目を擦りながら大図書館を後にする。夜まで仮眠を取って、それから仕事を始めよう。私は寝間着に着替えると、ベッドに潜り込んだ。




ロックハートのお見舞いに行く

ロックハートにプログラムを施す(時限式)

ネビルを焚きつける←今ここ

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