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1996年六月十九日。
日刊予言者新聞の朝刊にはヴォルデモートが復活したという記事が載っている。既にファッジが辞任することを見越して、新しい魔法大臣を選出し始めているらしい。だが、この情勢だ。魔法大臣をやりたがるものなどいない。そんな中、予言者新聞にはもう一つ記事が載っていた。そう、クィレルのものだ。
「あの人のもとから生きて帰った男……ね。いかにも人気が出そうな記事だわ。」
今の魔法省としても、クィレルを魔法大臣に推したいらしい。まあ当然か。誰もやりたがらない魔法大臣を引き受けてくれるのだ。この分ならそう遠くないうちにクィレルが魔法大臣になるだろう。あのファッジでもなれたのだ。クィレルになれないはずがない。
「これでヴォルデモートは魔法省を手にしたことになる。すぐに魔法界を落とそうだなんて考えないと思うけど……これは少し干渉する必要があるかしら。」
なんにしても、ギルデロイの時限装置がそろそろ発動するので予言の準備もしなければならない。咲夜も死んだことにする予定なので、不死鳥の騎士団側に干渉する何かを準備しなければならないか。
「……いや、もしかしたら要らないかも。」
ダンブルドアは分霊箱を求めている。そして、分霊箱は全て私が押さえている。
「ダンブルドアに分霊箱をチラつかせ、私のタイミングで与えれば、それまでダンブルドアを押さえつけておくことが出来る。」
尚且つ、ダンブルドアは私に大きな負い目がある。咲夜の死という負い目だ。やはり咲夜は死んだことにしておこう。
「でも、それだけじゃ少し弱いわね。ダンブルドアがクィレルそっちのけで夢中になるような何かがあればいいんだけど……これは要検討ね。」
流石にダンブルドアがクィレルを完全に黒だと断定して動き出したらあっという間にボロが出るだろう。そうなればこちらの計画はご破算だ。完全に騙すことは無理でも、何とか疑心暗鬼程度に留めておく必要がある。
「死喰い人側はクィレルを使えば十分操作できる。ダンブルドアは出来るだけ心を掻き乱すしかないわね。ひと思いに殺せたらどれだけ楽なことか。」
私は机の上に置いてある魔法具を起動させた。パチェは咲夜を生き返らせる準備で忙しい為、今なら小悪魔が出るだろう。
『こちら小悪魔。何か御用でしょうか、お嬢様。』
「用というほどでもないわ。そっちの状況はどう?」
『そうですね……既に後任の選考会議が行われておりまして、八割ほどの支持を受けてクィレルが魔法大臣に任命されました。表向きの発表は明日になるかと思われます。』
魔法省も仕事が早いと見るべきだろうか。いや、多分違う。ファッジを早々に降ろして代わりを据えなければ自分たちの立場が危ぶまれると思ったのだろう。ヴォルデモートが復活したということが証明されたこともあり、今までファッジ側だった役員が発言力を失った。さっさと他の馬に鞍替えしなければ落ちぶれていくだけだ。
「ダンブルドアからの干渉はあった?」
『新しい魔法大臣と一対一で対話したいと魔法省のほうに連絡があったようです。回避は困難でしょう。』
「そう、なんとか咲夜が生き返るまで時間稼ぎをしなさい。パチェの支援がないと多分キツイわ。死喰い人のほうはどう?」
『取りあえず予言は手に入りませんでしたが、厄介な十六夜咲夜の殺害、クィレルの魔法省への侵入、実質的な魔法省掌握と、結果が出ているので満足しているようです。今後はアズカバンを拠点にして勢力の拡大を図るだとか。』
アズカバンを拠点にするというのはまた奇策を考えたものだ。それなら魔法省がいくら死喰い人を捕まえても、本拠地に送り返すだけになる。あとはどれだけアズカバンの実情を隠すかだが、それも難しい話ではないだろう。魔法省を乗っ取るならまだしも、アズカバンは北海の中心に位置するのだ。完全に周囲から孤立している。服従の呪文と忠誠の呪文を用いれば十分に隠し通せるだろう。
「でも確かホグワーツにはスネイプがいたはずよ。奴から情報がダンブルドアに漏れるのではなくて?」
『ヴォルデモートはスネイプを完全に切り離して動かすみたいです。実際に、スネイプとクィレルは殆ど顔を合わせていません。入れ替わるようにクィレルが魔法省に行ってしまいましたから。まあ問題になるようだったらこちらで抹殺すればよいでしょう。』
まあそれももっともな話である。ダンブルドア以上にスネイプの存在がネックになるだろう。多分ダンブルドアはスネイプからクィレルの情報を受け取ったこともあって、今回の対話に踏み切ったのだろう。クィレルが真に白か判断するために。
「まあ抹殺とまではいかなくても、最悪こちらでスネイプを操る必要は出てくるでしょうね。ヴォルデモートはクィレルにどのような政策を進めさせようとしているの?」
『多分暫く潜伏させておきたいのでしょう。死喰い人に真っ向から対抗する政策を進めさせるようです。良き大臣を演じろと。』
「アズカバンを隠すことに集中させるということね。まあ今の情勢で魔法省を陥落させても意味が無いし。まずは仲間集めといったところかしら。なら話は早いわ。」
死喰い人が増えるのは私としても好都合だ。だが、ならそれに合わせて魔法省側の戦力も増強せねばなるまい。
「クィレルに魔法省に傭兵制度を作るように言っておきなさい。正規の闇祓いではなく、非正規雇用の戦士を募るのよ。戦時中の一時的な措置としてね。」
『魔法省役員以外の戦力を募るということですね。分かりました。』
これで両陣営ともに大きく戦力を増大させることが出来るだろう。
『あ、ちょっといいかしら、レミィ。』
横から割り込むようにパチェの声が聞こえてくる。どうやら小悪魔の近くにいたようだ。
『咲夜をこちら側に引っ張る術式は完成したんだけど、月齢が大きく関わってくるわ。次の満月まで術を行うのは無理そうよ。』
「マジで?」
『マジよ。取りあえず術の準備だけならあと数日で終わるから、それが終われば手は空くわ。クィレルの補助につくことは出来る。』
次の満月は七月の一日だ。まだ二週間ほど時間がある。本来ならば咲夜が生き返ってからやりたかったことが多くあるが、それらを全て後回しにしておくわけにもいかない。
「そう、ならクィレルとダンブルドアの対話は咲夜の復活を待たずにパチェの手が空き次第行いなさい。多分そのうちダンブルドアがうちに謝罪にもくるだろうから、それの準備も同時に進めて。」
『わかったわ。』
「小悪魔はパチェに仕事を引き継いだあとは分霊箱の管理と美鈴の補助ね。」
『畏まりました。』
さて、差し迫るべき問題は謝罪に来るダンブルドアへの対応だろう。ここでの返答次第で随分今後が変わってくるはずだ。なんにしても、ここが正念場である。
1996年、六月二十三日。私は自室でダンブルドアの到着を待っていた。ホグワーツから送られてきた手紙には今日の三時に紅魔館を訪れると書かれている。訪れるということは、紅魔館の位置をダンブルドアは把握しているということだろう。
「でもパチェ、ぶっちゃけダンブルドアは紅魔館に辿り着けるの?」
『そうね、結界を緩めたら辿り着けるんじゃない? まあこちらから誘い込めばいいでしょう。』
紅魔館の門には美鈴を配置してある。ダンブルドアを門で出迎え、客間に通した後私の部屋に来るはずだ。
「地下の隠蔽は任せたわよ。」
『分かっているわ。従者として小悪魔を貸すわね。』
私は懐中時計を取り出して時間を確認する。午前三時、そろそろ来るだろう。私は窓のから門の方を見る。そこには美鈴と対話しているダンブルドアの姿があった。
「来たわね。」
私は服装を正し、机の上に映し出された客間の映像を見る。ようは監視カメラのようなものだ。これで客間に入ったあとのダンブルドアの様子を観察することができるのである。五分ほどすると、美鈴がダンブルドアを連れて客間に入ってきた。
『お嬢様を連れてきます。こちらでお待ち下さい。』
美鈴は一礼すると客間を出ていく。客間にはダンブルドアだけが残された。
「さて、ダンブルドアはどういった行動に出るかしらね。十分ほど泳がせてみるか。」
私はじっとダンブルドアの行動を観察する。ダンブルドアはそわそわする様子もなく、じっと私が来るのを待っていた。つまらん。
「おぜうさま~、ダンブルドア来ましたよ。あのまま待たせておきますか?」
美鈴がノックをしてドア越しに私に声を掛ける。確かにそれも楽しそうではあるが、本来の目的を達成できない可能性が出てくるためパスだ。
「いや、ぼちぼち向かうわ。貴方は紅茶の準備をしなさい。小悪魔に運ばせるのよ。」
「了解しました~。」
もうすっかり美鈴は何時もの調子を取り戻したようだった。それだけ、美鈴もパチェを信用しているということか。私は部屋を出ると客間へと移動した。
「待たせたわね。」
私はノックもせずにドアを開け、ダンブルドアの対面にどっかり座り込む。勿論、いかにも不機嫌そうに。ダンブルドアはそんな私を見て、頭を下げようとした。
「頭を下げるな。」
私は冷たくダンブルドアに告げた。ダンブルドアは下げかけた頭をゆっくりと持ち上げる。どうやら私の言葉を待っているようだ。
「あの子の死を侮辱するな。」
ダンブルドアは雷に打たれたような顔をして絶句していた。そう、私のスタンスはこうだ。咲夜は名誉の戦死を遂げた。私はそれを誇りに思っていると。
「咲夜は立派に戦って死んだ。そうなんでしょう? なら、もうそれでいいわよ。」
もう諦めたわ、と小さくため息をついた。
「優秀な従者ではあったんだけど、アレも所詮は人間だったということね。死ぬときは死ぬ。死ぬのが数十年早かっただけ。でもね。」
私はぐいっとダンブルドアの顔に自分の顔を近づけた。至近距離でダンブルドアの青い目を睨む。
「仇は絶対に討ちなさい。ヴォルデモートを殺さないことには咲夜は安らかに逝けないわ。」
私は目の力を抜きソファーに腰かけ直した。それを見計らってか、小悪魔が紅茶を運んでくる。
「この話はこれでおしまい。ここからは世間話と行きましょう。」
私は力なく微笑むと、小悪魔が用意した紅茶を一口飲む。咲夜のことを無理やり諦めました感は出ただろうか。少し未練があるようなそんな仕草。流石私だ。ハリウッドスターも夢じゃない。あ、カメラに映らないか。
ダンブルドアは若干躊躇したようだったが、紅茶に口を付けた。勿論毒など入っていない。
「魔法省が今てんやわんやなんでしょ? ハリーとクィレルを一生懸命おだて上げて、正直笑えるわよね。てかクィレルって誰よ。」
「……昔ホグワーツで教員をしておった。」
「へえ。……ああ、確か日刊予言者新聞に載ってたわね。マグル学だっけ? よくわからないわ。ざわざわマグルの生活を学ぶとか。まあでも純血主義のヴォルデモートに立ち向かうんだったら、マグル学の教員でもいいのかしら。」
「クィレル先生は闇の魔術に対する防衛術を担当されておったこともあったのじゃ。」
「そうなの? ……ん~、え? そうなの?」
ああ、勿論知っているとも。ダンブルドアは小さく頷いてから答えた。
「1991年のことじゃ。」
「ああ、咲夜が入学した年の。でもその頃ってヴォルデモートに寄生されてたって新聞に書いてあったわよ?」
あくまで妄信的に新聞を信じているように見えるだろうか。ダンブルドアは何か言いたいことがありそうだったが、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「そのクィレルじゃが……自分からヴォルデモートを受け入れた可能性があるのじゃ。」
「どういうこと?」
私は少し身を乗り出す。
「ヴォルデモートの命令で魔法大臣になったってこと?」
「あくまで可能性の話じゃが……その可能性も捨てきれない、という話じゃよ。」
私はふぅと息を吐くと、姿勢を正した。懐からパイプを取り出し、マッチで火をつける。
「詳しそうね。少し話を聞かせなさい。」
「少々長い話になるかもしれんが、よろしいか?」
「ええ、いいわ。」
ダンブルドアはクィレルに関する情報を古い順に話し始める。賢者の石の事件からヴォルデモートが復活した現場にいたことなど。その話は大体の内容が合っていた。一つ事実と違うことと言えば、クィレルが私と繋がっていることを知らないことだろうか。三十分ほどダンブルドアの話は続き、時間軸が今に追いつく。
「わしはクィレルと話をしてみるつもりじゃ。直接対話して、事の真偽を確かめようと思っておる。」
小悪魔がダンブルドアに紅茶のおかわりを差し出した。その光景は少し滑稽だと言える。まさかダンブルドアも、今自分の横にいるのが分霊箱のなれの果てだとは思わないだろう。
「それでもし黒だったらどうするのよ。抹殺するとか? あ、言ってくれたら噛み殺すけど。」
「それには及ばんよ。黒だと分かっても、目的が分かるまでは泳がせようと思っておる。なんにしてもまだ情報がないというのが現状じゃな。」
まあ、まだ表向きには魔法大臣に決まったことも発表されていない。私も今さっきダンブルドアから聞いて魔法大臣に選ばれたことを知ったという設定だ。
「まあ私にはあまり関係ない話かしら。私はこの戦争に関わるつもりはないし。咲夜のことはもう終わったことよ。故に、私は協力はしないからね。何にしても――」
私は空になったティーカップをソーサーに被せると、指で底を二回叩く。そして指で下に弾き、表を向けた。
「1997年、六月までに決着をつけなさい。まさかボケて忘れたとは言わないでしょうね?」
「ああ、覚えておるとも。あと一年……あと一年で決着をつける。」
ダンブルドアはソファーから立ち上がると、私に礼をする。私は軽く手を上げてそれに答えた。
「ではこれで失礼する。」
バチンと、ダンブルドアは姿をくらませた。私はため息をついたあと、虚空に向けて話しかける。
「あれでよかったのかしらね。パチェ。」
私は天井を見たあとに先ほどまでダンブルドアがいた場所を見る。そこにはパチェが腰かけていた。
「まあいいんじゃない? スカーレット家はこの戦いに手を出さないと意思表明も出来たわけだし。」
「まあそうなんだけどね。」
「でも良かったの? 咲夜を戦いに巻き込んだことを許しちゃって。利用しようと思えばいくらでも利用できたでしょうに。」
パチェは私の目をじっと見る。私は不敵な笑みを浮かべた。
「こういうのはね、少し狂気が混じってた方がいいのよ。利用するのは咲夜が生き返ってからね。」
具体的な日程はまだ決めていないが、作戦だけは用意してある。
「狂気?」
「そう、狂気。ダンブルドアに、分霊箱を渡す代わりに咲夜を返しなさいと言うのよ。」
つまりはダンブルドアに無理難題を言い渡すわけだ。ダンブルドアは混乱することだろう。
「それも涙交じりにね。ダンブルドアは私が狂ったと思うかも知れない。でも、ダンブルドアにはどうすることも出来ない。私はダンブルドアを許したけど、ダンブルドアはまだ自分が咲夜を殺したようなものだと思っている。」
「貴方もえぐいことを考えるわ。」
私はパチェと共に客間を出る。そのまま一緒に大図書館に向かった。なんにしても次備えるべきはクィレルとダンブルドアの対話だ。まあそれに関してはあまり心配はしていない。ヴォルデモートを一年以上に渡り騙し通したクィレルだ。数十分の間ダンブルドアを騙すぐらいわけないだろう。
二人で大図書館に入り、椅子に座る。取りあえず私は誘導用の予言でも用意することにしよう。ここまで準備が整えば、あとはなるようにしかならないような気がするが、双方がその予言を信じて行動すれば、かなり行動を変化させることが出来る。私は水晶玉を取り出すと、そこに予言を込め始めた。
1996年、七月一日。
私はパチェ、美鈴、小悪魔、クィレルと共に神秘部にある石造りのアーチの前に立っていた。地下の底の神秘部では月を確認することは出来ないが、今日は確かに満月のはずである。アーチの周辺には巨大な魔法陣が描かれていた。儀式を行うためのものだろう。パチェは確認を取るように私を見た。
「ええ、お願いするわ。」
パチェは頷くと、ポケットから蘇りの石を取り出した。それを両手で包み込み、祈るように胸の前に持っていく。
「人を死へと導く門よ。その中に取り込みし魂と肉体を現世に返せ。」
パチェが呪文を唱えると、アーチが光を放ち始める。私はアーチの前に移動した。
「さあ、レミィ。」
私はパチェに向かって頷くと、アーチと向かい合う。
「咲夜。」
私は静かにあの子の名前を呼んだ。
「十六夜咲夜。」
アーチの中にあの子の気配を感じ取り、私はそっと手を伸ばす。そして掴んだものを一気に引っ張り出し、抱きかかえた。
「咲夜、お帰り。」
「あ、あぁあああ……え?」
私は優しく咲夜を抱き続ける。次第に落ち着いてきたのか、咲夜の首が左右に動いた。
「お、お嬢様。ここは一体……。ここは……神秘部ですか?」
まだ力が入らないのか、咲夜はぐったりとしている。だが、立ち上がろうと少し足をバタつかせた。まあ、放す気はないが。
「あの、お嬢様? もう大丈夫ですので。」
咲夜はそう言うが、私は放すつもりなどない。さらに強く咲夜を抱きしめた。
「私の命令も無しに死ぬなんて……ほんとに、ほんとに……。」
「お嬢様?」
言葉が出てこない。咲夜も不思議に思ったのか、私の顔を見て聞き返してきた。
「本当に……――っ、勝手に、居なくなっちゃ駄目なんだから!! おかえりっ!」
私は思いっきり咲夜に覆い被さる。さらに私の上から美鈴、パチェ、小悪魔も咲夜に覆い被さった。
「重いです! 潰れちゃいますって!」
「潰れちゃえばいいのよ! 体があるってことじゃない!」
「そうだよ咲夜ちゃん! おかえり!」
「おかえり、咲夜。」
「よく帰ってきましたね。咲夜。」
「無事帰ってこれて何よりだ。十六夜君。」
口々に咲夜に言葉を掛けていく。パチェの仕業だとは思うが、気が付いたら私たちは大図書館で寝転がっていた。咲夜はようやく本来の力が戻ってきたのか、私の下から這い出る。そしてよろよろと椅子に腰かけた。どうやらかなり混乱しているようである。
「えっと、何がどうなったんでしょう。私はホグワーツ特急で学校から帰ってきて、美鈴さんとロンドンの街を飛んで……。」
咲夜のトンチンカンな言葉を聞いて、私とパチェは顔を見合わせる。記憶が混乱しているのか? それとも夢を見ていたとか……。
「一体なんの話をしているの? まあ確かにホグワーツは夏休みに入っているけど。」
「咲夜ちゃん大丈夫? 混乱してる?」
パチェと美鈴が心配そうな声をあげる。パチェは小さく咳ばらいをすると、説明するように話し出した。
「六月十九日の朝一番にレミィ宛てにふくろう便が届いたわ。貴方が神秘部の戦いで死亡したという知らせよ。」
「そんなはずはありません! 私は身体の時間を巻き戻してアーチから飛び出し生き返ったんです。そのあと――」
「だから混乱していると言っているの。」
パチェが咲夜の言葉を遮った。咲夜の言っていることはあまりにも意味が分からない。本当に何か変な夢でも見ていたのではないだろうか。
「いい? 貴方はアーチを潜ってしまい死んだの。その後ダンブルドアが駆けつけて死喰い人を一網打尽にし、ハリーたちがヴォルデモートに捕まって人質交換。貴方はこの戦いで唯一の戦死者になったのよ。」
パチェは更に詳しく当時の状況を説明する。だが、咲夜は納得するどころか不満げな顔をしていた。
「ですが、私は生きています。」
「そうね、私とレミィが全力を上げて取り戻したのだもの。」
咲夜は戸惑いが隠せないようだった。
「ダンブルドアから貴方が死んだと連絡を受けた時、レミィと美鈴がすぐにホグワーツの校長室に殴り込みを掛けたの。レミィは私に相談して、貴方を取り戻す準備を始めた。幸い儀式に必要なものは揃っていたのよ。蘇りの石を使って私は貴方を呼び戻した。」
パチェはじっと咲夜を見る。
「というわけで、魔法界では既に貴方は死んだことになっているわ。」
パチェはそう言って話を締めくくった。咲夜は静かに目を瞑ると、心の整理をするように何かを呟く。目を開けた時にはすっかりいつもの冷静な目に戻っていた。
「では、多分私は夢を見ていたんだと思います。」
「夢?」
私が聞き返すと、咲夜は大きく頷いた。
「はい。あくまで私の主観ではありますが、聞いて下さるでしょうか。」
「ええ、話してみなさい。」
私は咲夜の対面に座る。咲夜は軽く咳払いをすると話を始めた。
「私はクラウチの攻撃を避けようとして誤ってアーチに飛び込んでしまったんです。私は死にたくなかったんで無理やり霊力を暴走させて肉体の時間を巻き戻すようにアーチから飛び出しました。」
「……まあ夢だし、何でもアリよね。」
私は咲夜の無茶な理論に苦笑する。咲夜は少し顔を赤くした。
「私が生き返ったと同時にダンブルドアが神秘部に到着し、あたりにいた死喰い人を一網打尽にしました。そのあとはヴォルデモートに捕らえられた魔法省役員と捕まえた死喰い人を交換し、私とハリーはホグワーツの大図書館に移動したんです。その時にダンブルドアに霊力の説明を。そのあとは普通に学校が夏休みに入って私は紅魔館に帰ってきました。魔法省はヴォルデモートの存在を認め、アンブリッジはアズカバンに収容されることになりました。」
「……概ねその通りだ。」
不意にクィレルが口を開く。
「人質のくだりも魔法省がヴォルデモートを認めたというくだりも、そしてアンブリッジのアズカバン行きが決まった話もな。」
それにパチェも同意する。
「ええそうね。違うところを挙げるとすれば、貴方が死んだか死んでいないかということよ。」
「では、私はどうすればよいのでしょう。このまま新学期、普通に学校に通ったほうがいいでしょうか?」
……さて、なんて答えたものか。咲夜を学校に行かせないことはほぼ決定している。だが、その理由が咲夜が心配だからだとは言えない。ここはまだ悩んでいるふりをした方がいいだろう。
「そうね、ダンブルドアの動き方次第かしら。ダンブルドアは貴方という大きな武器を失ったことで何かしらの行動に出るはずよ。それを見てから決めても遅くはないわ。それまで、館から出ることは禁ずる。いいわね? 貴方が生きているというのは極秘中の極秘よ。」
「かしこまりました。」
咲夜は納得したように頷く。心なしか少し嬉しそうだった。
「さて、咲夜奪還作戦も成功したことだし、今日のところは解散! ほら、みんな寝るわよ。もう朝も更けてきたわ。」
寝るにはまだ少し早いが、疲れのせいか少し眠たい。仕事をするのは仮眠を取ってからの方がいいかもしれない。私は大きな欠伸をすると大図書館を後にした。
クィレルが魔法大臣に選ばれる
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ダンブルドアが紅魔館を訪れる
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クィレルがダンブルドアと対話する
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ホグワーツで咲夜の葬式が簡易的に開かれる
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咲夜が生き返る←今ここ