紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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今週中に完結させたいと思ってはいるのですが、多分無理です。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


抑止力やら、教師やら、見送りやら

 1996年、七月、朝。

 私は書斎の椅子に座って考え事をしていた。私の手元に手札が揃いつつある。六月の戦争への準備は着実に整っていっていると言っていいだろう。死喰い人はクィレルを通じて制御できる。魔法省は既に私の物といってもよい。あとは不死鳥の騎士団だが、咲夜の死を利用して少しは制御することが出来るだろう。

 

「でも死喰い人の情報が入ってこないのは少し厄介ね。トンクスあたりを殺して咲夜にすり替えるとか? ……いや、確か配偶者がいたわね。」

 

 咲夜を見ず知らずの男にやることは出来ない。別の手を考えるしかないだろう。

 

「クィレルを不死鳥の騎士団に入れるとか……いや、それだとクィレルの負担が大きくなるわね。いっそのことパチェを駆り出すか?」

 

 いや、それをやるとパワーバランスがとんでもないことになってしまう。原始人に戦車を与えるようなものだ。搭乗員付きで。いや、待てよ……原始人に戦車ではなく、現代人に弾道ミサイルと考えれば少しは見方が変わってくるか。核抑止。人類は核爆弾という巨大な力を得たことによって、一時的な平和を手に入れた。

 

「パチェをホグワーツに配置すれば、それだけで死喰い人は攻めてこれなくなる。核抑止ならぬパチェ抑止ね。普通核抑止は双方が核を持たなければ成立しないけど、ヴォルデモートには分霊箱というアドバンテージがある。ダンブルドアも分霊箱を何とかしない限り動くことはないでしょうね。」

 

 そうと決まれば、あとはどうやって引きこもりのパチェを外に出すかだ。案外私が頼めばすんなり引き受けてくれそうだが、こればっかりは聞いてみないと分からない。まあパチェなら咲夜と違ってへまをして死ぬこともないだろうし。

 私は立ち上がると書斎を出る。寝る前にパチェに確認を取っておこう。廊下を歩き、階段を降る。図書館に近づくと、パチェと咲夜、小悪魔、クィレルの声が聞こえて来た。

 

「なんというか、パチュリー様本当に狙われているんですね。」

 

 咲夜の声だ。咲夜の言葉の後に小悪魔とクィレルがため息をついた。私は気が付かれないように慎重に中に入ると、ゆっくり咲夜の隣に座る。

 

「咲夜、貴方も先生の技術と知識は知っているでしょう? 先生がどちらかの陣営に手を貸すだけでパワーバランスが崩れる。」

 

「そうだぞ、十六夜君。彼女の技術がなかったら君を生き返らせることは到底不可能だった。」

 

 どうやら、ちょうどパチェの立ち位置の話をしているようだった。

 

「そう、片方に手を貸したらパワーバランスが崩れるのよ。そういうわけだからパチェ、両方にバランスよく手を貸せばいいのよ。」

 

 私はドヤ顔でパチェにそう言った。パチェは少し考えたあと、頭を抱える。

 

「んな面倒くさいことを……。とは言っても一年だけか。だったらべ――」

 

 パチェはいきなり言葉を切る。何かあったのだろうか。私は紅魔館の周辺の気配を探った。ああ、なるほど。何かが結界を越えたのか。

 

「何かが結界を越えたわね。パチェと咲夜とクィレルは大図書館から動かないこと。」

 

 パチェは机の上に外の光景を映し出す。そこには驚き顔の美鈴と、ハリー・ポッターがいた。それを見た瞬間、小悪魔がフランの部屋の方へ駆けていく。結界を張りに行くようだ。美鈴はハリーと何かを喋ったあと、ハリーを脇に抱える。そしてそのまま玄関の方へと歩いて行った。どうやらハリーを紅魔館の中に入れるようだ。勝手な行動だが、その判断は正しい。

 

「何故ハリーがここに? それ以前になんで一人で出歩いているのよ。」

 

 咲夜が少し不機嫌そうな表情で呟いた。どうやら騎士団だった頃の癖が抜けていないらしい。まあ私としても、ハリーには無事でいて欲しいが。ハリーには六月にヴォルデモートを殺してもらおうと思っている。生きていて貰わないと計画を変更しないといけなくなる。

 

「なんにしても、ハリーが何かの目的のためにここに来たのは事実よ。小悪魔、地下に結界は張り終わった?」

 

 パチェが確認を取ると、帰ってきた小悪魔が親指を立てた。まったくもって仕事の早いやつだ。美鈴はハリーを抱えたまま紅魔館の中を進んでいき、来客用のバスルームの中に放り込んだ。次の瞬間、私の目の前から咲夜が消えた。いや、そうではない。時間が止まったのだ。横を見ると、咲夜が私の肩に触れている。今まさに私の時間停止を解除したのだろう。咲夜は順番に固まっている者たちを動かしていく。この場にいる全員の時間停止を解除すると、最後に美鈴を連れていた。

 

「さて、ハリーの目的は何だと思う?護衛も無しにここまで独りで来るなんて不自然よ。」

 

 私は親指と人差し指を使って円を作り、両方の目に当てる。ハリーの真似だ。そもそもハリーは紅魔館の位置を知らないはずだ。

 

「咲夜、貴方ハリーにここの位置を教えたとか、そういったことはしていないのよね?」

 

 私が咲夜に視線を送ると、咲夜はふるふると首を振った。なんか妙にかわいい。

 

「当然ですお嬢様。紅い館であるという程度しか情報を与えておりません。」

 

 紅い館程度の情報で、ここまでたどり着くことは不可能だろう。もし知っていたとしても単独でここまで来るということ自体が異常だ。私がハリーがここに来た理由について考えていると、不意に美鈴が手をポンと叩いた。

 

「そうか、謝罪に来たんだ。」

 

「謝罪?」

 

 小悪魔が美鈴に聞き返す。だが、そのあとすぐに美鈴の言葉の意味を理解したようだ。

 

「ああ、なるほど。ハリーは咲夜が死んだのは自分のせいだと思っているわけですね。それでお嬢様に謝ろうとここまで来たと。」

 

「「「なるほど~。」」」

 

 確かにそれなら納得だ。魔法省に咲夜たちを連れて来たのはハリーなのである。責任を感じているのだろう。まあハリーは死喰い人の思惑通りに罠にかかっただけだが。

 

「なるほど。謝罪することが目的なら結界を通り抜けられたのも納得出来るわ。」

 

 パチェがそういうならそうなのだろう。だがハリーがここに来たということは、そのうちダンブルドアもここにやってくるだろう。いや、むしろダンブルドアを誘い込み、ハリーを回収させるか。その方がいくらか面倒が省ける。咲夜が私の指示を仰ぐようにこちらを見た。

 

「……そうね。ハリーを正式な客人として迎え入れるわ。小悪魔はハリーと面識があったわね。ハリーが風呂から上がったら客室に案内しなさい。咲夜はハリーに見られないように客室と食事の準備。美鈴は外から不死鳥の騎士団や死喰い人が入ってこないか警戒して。クィレルはそのうち魔法省に出社するから論外として、パチェはフランの管理を頼むわよ。」

 

 私が指示を出すと皆バタバタと準備を始める。私は私で一度自室に戻ることにした。パチェを説得しようと思ったが、それどころでもないだろう。今日の夜、目が覚めた時にもう一度話を持ち掛けよう。というか、単純に眠たいだけだが。私は自室に戻ると、寝間着に着替え、ベッドに潜り込む。おやすみなさぃ……。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待ちなさいよ。それ私の負担が物凄いことになるんじゃないの?」

 

 パチェは怪訝な顔をしてこちらを見た。まあ、当然の反応か。夜起きてすぐ、私は大図書館にいるパチェのところに向かった。あの後少し考え、パチェの力を上手く計画に組み込めることが分かったのだ。パチェを不死鳥の騎士団に加担させるのではなく、教師としてホグワーツに配置する。

 死喰い人から見れば不死鳥の騎士団員もホグワーツの教員も印象的には変わらない。十分抑止力として機能する。勿論、不死鳥の騎士団の活動には参加させない。そして六月が近づいたらパチェにアズカバンに出向いてもらい、戦争には参加しないと宣言してもらう。

 

「それ教師職と共にクィレルの手伝いと紅魔館移転の準備、さらには犠牲が足りない時の為の魔法の開発も行わないといけないんでしょ?」

 

「そうなるわね。お願いパチェ。」

 

 私はパチェの手を取って頼み込む。パチェはふいっと視線を逸らした。

 

「まあ確かにそうしたほうが計画の成功率が上がるのは確かだけど……。」

 

 あともうひと押し。よし、ここは……。

 

「パチェも最後に母校に帰ってみたくはない? 卒業してから表舞台には全く出ていないでしょ? もう魔法界には帰ってこられないかも知れないわよ?」

 

「……それも、そうね。……確かにそうかも。」

 

 パチェはふむぅ……と考え込む。私はパチェの手を引き寄せた。

 

「これでもパチェ(の技術)を信頼しているのよ? おねがい……。」

 

「そうね、一年ぐらいだったら……いいかもね。最近ダンブルドアが私を探し回っているみたいだし。一か所結界の緩い場所を作っておくわ。」

 

 ちょろい。地味に初耳な情報があったが、取りあえずこれで不死鳥の騎士団の情報を問題なく入手することが出来る。抜けた咲夜の穴を埋めるには十二分だろう。

 

「どうせ一年だけなんだから、好き勝手に授業を行えばいいわ。確か闇の魔術に対する防衛術の教師がいなかったはずだから、配属されるならそこかしら。」

 

「闇の魔術に対する防衛術……脳内の水分を沸騰させる魔法とか?」

 

 え? なにそのえぐい魔法。死の呪文も真っ青な発想だった。こんなのに授業をやらせて大丈夫か?

 

「まあそういうのよ。……いやそういうのじゃないでしょ? なんにしても、そろそろ時間だから私は客間に戻るわ。ハリーの話を聞かないといけないのよ。パチェは紅魔館の結界を少し緩めておいて。多分そのうちダンブルドアがここへやってくるわ。」

 

「わかったわ。誘い込めばいいのね。」

 

 私はパチェに手を振り、大図書館を後にする。確か小悪魔が十時にハリーを迎えに行っているはずだ。今からいけば十分間に合うだろう。私は廊下を早足で歩き、客間に入る。そこには咲夜が立っており、いそいそと紅茶の準備をしていた。

 

「ハリーはあと三分でやってまいります。紅茶の準備をしておきますね。」

 

 咲夜は手早くティーカップに紅茶を注ぐと、杖を向けて呪文を唱える。多分魔法で紅茶を透明にしたのだろう。

 

「ありがと、咲夜。ほら、ハリーが来るわ。」

 

 咲夜は私に一礼するとその場から居なくなる。それと同時に小悪魔とハリーの気配が近づいてきた。急いでソファーに座り、表情を取り繕う。さて、どう料理してやろうか。ここでハリーを魅了しておけば、今後何かの役に立つかも知れない。まあ、その前にダンブルドアが乱入してきそうだが。

 暫く待っていると、客間の扉がノックされる。その後静かに扉が開かれた。小悪魔とハリーだ。

 

「ポッターさんをお連れしました。」

 

 小悪魔は私に一礼すると、ハリーを中に入れ、扉を閉める。ハリーはどうしていいか分からないと言った表情で部屋を見回していた。

 

「座りなさいな。立ち話もなんでしょう?」

 

 私は対面のソファーを指差す。ハリーはおずおずとソファーに腰かけた。

 

「今日は何の用で私に会いに来たのかしら。」

 

 私は先ほど咲夜が掛けた魔法を魔力で打ち消す。掛けられた魔法が解かれ、テーブルの上に紅茶が現れた。こういうのは演出が大切なのだ。

 

「レミリアさん……実は、咲夜の件で――」

 

 やっぱりそのことか。美鈴の考えは正しかったということだろう。私はハリーの言葉に割り込むように言った。

 

「十六夜咲夜、彼女は私の従者だわ。それで、彼女がどうかしたの?」

 

「……咲夜が死んだのは僕のせいなんです。僕が……魔法省に行くなんて言わなかったら……。」

 

 まあ確かに、ハリーが魔法省に行くなんて言わなかったら咲夜は死ななかっただろう。だが、ハリーが魔法省に行かなかったら、咲夜がハリーを魔法省に行くように誘導したに決まっている。

 

「貴方のせいではないわ。」

 

「ですが――」

 

「おこがましいとは思わないの? 人間の生き死にを人間が左右するなんて。咲夜はあそこで死ぬ運命だったのよ。」

 

 私はいかにもしょぼくれた表情でティーカップの縁を指でなぞる。人間の生き死にを左右するのが人間じゃなかったらなんだというのだ。人間の生き死にを左右するのは何時の時代も人間で、それ以上でもそれ以下でもない。まあ、運命論はある程度信じているが。

 

「彼女はいい従者よ。仕事は出来るし物分かりもいい。彼女を失ったのは紅魔館にとって一番の損失かもね。」

 

「そんな、彼女を物みたいに――」

 

「道具よ。従者というものはね。咲夜は私の扱う道具。このティーカップと同じようなものね。」

 

 私は一口紅茶を飲み、ソーサーに戻した。実際のところ私にとって咲夜とはどういう存在だろうか。少し考えたが、答えは一つしかない。私は咲夜の主で、咲夜は私の従者。それでいいじゃないか。別の何かに例えることは出来ない。

 

「ですが! ……ですが。彼女は、僕の友達です。ホグワーツの生徒です。……一人の人間です。」

 

 私の背中がビクンと震える。今こいつ何を言った? 咲夜は僕の友達? ……く、ダメだ……笑うな、堪えるんだ……。私は表情から感情を読まれないように少し俯く。なんにしても、友達か。片腹痛い。

 

「そう、彼女は人間。だから死んだ。それは仕方のないことよ。」

 

 私の言い方が気に障ったのか、ハリーがソファーから立ち上がり叫ぶ。

 

「レミリアさんは咲夜が死んで悲しくないんですか!? 僕は彼女の死を仕方のないことだと割り切ることはできません!! 彼女は僕のせいで……彼女は……。」

 

 ハリーは拳を硬く握ったまま、俯く。なんだこいつ。私が冷静に慰めてやったのに、逆ギレしたぞ。面白すぎるだろ、これは本格的に魅了してやってもいいかも知れない。私はテーブルを飛び越え、ハリーをソファーに押し倒した。そのまま腕でハリーの頭を包み込む。まずは優しい言葉を掛け、相手をリラックスさせるのだ。

 

「この二か月余り、貴方はずっと咲夜のことを思い続けていたのね。」

 

 私は魔力を込めた手でハリーの頭を撫でる。徐々にハリーの意識を奪っていき、冷静な思考が出来ないようにするのだ。

 

「私も悲しいわ。家族のようなものですもの。悲しくないわけ……ないじゃない。」

 

「レミリアさん、僕……あの……。」

 

 ハリーの言葉がたどたどしくなる。あと少し、もう少しで完璧に下準備が整う。

 

「大丈夫、全て私に任せればいい。貴方は何もしなくていい。力を抜いて、リラックスして、全てを私に委ねて……。」

 

 ハリーの目から力が抜ける。もう焦点が定まっていない。よし、では仕上げだ。私は牙をむくと、ハリーの首筋に噛み付くために大きく口を開けた。

 

「それぐらいにしといて欲しいかのう。レミリア嬢。」

 

 ノックも無しに部屋の扉が開け放たれる。扉の向こうにはダンブルドアと、その足元にしがみ付いている美鈴の姿があった。

 

「美鈴、誰も館に入れるなと言ったはずよ。」

 

「いやぁ、お歳の割には力が強くて。殺してしまうわけにもいきませんし。」

 

 美鈴はダンブルドアから離れると、地面に転がったまま頭を掻く。ダンブルドアはそのまま部屋に踏み込んできた。

 

「レディをこんなところまで引きずってしまって悪かったのう。レミリア嬢、ハリーを迎えに来た。」

 

 少し残念だが、一応計画通りのタイミングだ。私はハリーの上からどくと、ゆっくりと立ち上がる。

 

「それはそれは、ご苦労様。でも勝手に上がってきたのは感心しないわね。不法侵入って言葉を知ってる?」

 

「勿論知っておるとも。マグルの法律じゃろう。」

 

 いや、違う。勝手に入ってきた奴は殺されても文句が言えないという意味だ。だがダンブルドアはそんなことはお構いなしに言葉を続けた。

 

「その件に関しては謝ろうかの。さて、ハリー。この三日四日何処をほっつき歩いていると思ったら、こんなところにいたとは。皆心配しておる。」

 

「ごめんなさい。でも、どうしても謝りたくて。」

 

 いや、一言も謝られていないが。こいつ本当に何しに来たんだ? ハリーはソファーから立ち上がると、ダンブルドアのほうへと歩いていく。ダンブルドアとハリーはそのまま客間を出ていこうとした。

 

「ダンブルドア、覚えているでしょうね。」

 

 私はソファーに座りなおし、ダンブルドアに声を掛ける。ダンブルドアは肩越しに振り返った。

 

「覚えておるとも。覚えているからこそ、わしはこうしてことを急いでおる。」

 

 ダンブルドアはそう言い残すとハリーを連れて廊下を歩いて行った。私はカップを手に取り、紅茶を一口飲む。そして小さなため息を一つついた。

 

「美鈴、いつまで這い蹲っているの? そんな大きくて重たいモップは要らないわ。」

 

「いやはや、夏場って結構ひんやりして気持ちがいいんですよ? これが。」

 

 美鈴はそう言いつつも片手を地面について器用に立ち上がる。そしてハリーが飲まなかった紅茶を手に取って飲み始めた。

 

「あれでよかったんですか? ハリーを送り出すならそれこそクィレルでも良かったと思うんですがね。私は。」

 

 どうやら引きずられていたのは演技だったようである。まあそうだろう。美鈴ほどの武人が老人一人組み伏せられないわけがない。

 

「いいのよ。ハリーはクィレルを信用していないと思うし。美鈴、パチェに結界を戻すように言いなさい。あの二人が外に出たらね。」

 

「え~、面倒くさーい。」

 

「頭捩じ切るわよ。」

 

「うわ、怖ッ!」

 

 美鈴は駆け足で客間から逃げていく。逃げていった方向には大図書館へと降りる階段があるので、問題なく伝言は伝わるだろう。私は一息つくと、空になったティーカップをソーサーに戻す。

 

「咲夜。」

 

 私が呼ぶと、咲夜が私の隣に現れた。咲夜は美鈴が飲み干したティーカップを片付けると空になった私のティーカップに紅茶を注いだ。

 

「ダンブルドア先生を紅魔館に招き入れてよかったのですか? 結界まで緩めて。」

 

 私はティーカップを持ち上げた。

 

「いいのよ。あれでね。私とクィレルの関係を知られても拙いし、無理矢理入ってこられるとパチェが危ないわ。だとしたら誘い込むのが一番。ダンブルドア自身に自覚はなくともね。」

 

 咲夜はあ~、と相槌を打った。なんというか、咲夜は少し天然が入っているかもしれない。最近はぼんやりしていることも多いし、少し心配だ。もしかしたら、蘇生した時に何か副作用的なものがあったのか?

 

「それとこれはパチェと話し合って決めたことだけど、少し手を貸すことにしたわ。」

 

「両陣営にということですか?」

 

「ええ、そうよ。もっとも、戦いが終結するまでの一年だけっていう条件付きだけど。」

 

 といっても、直接武力介入するようなことはしない。あくまで間接的にだ。私は紅茶を飲み干すと、ソーサーに被せて指で弾いた。空中で何度か回転したティーカップを掴み取り、中を覗く。ふむ、どうやら今日中にダンブルドアとパチェが接触するらしい。

 

「なるほどね。今晩ダンブルドアとパチェが接触するわ。」

 

「それは色々と拙いのではないでしょうか。パチュリー様は隠居中の身ですし。」

 

「だから一年なのよ。」

 

 パチェが隠居しているのは……いや、隠居生活を続けるしかない状態になってしまったのは、余りにも魔法を極め過ぎたからだ。自分の力を利用されるのを恐れ、紅魔館の図書館に閉じこもっている。だが、一年だけという制約を付ければその限りではない。咲夜は神妙な顔をして何かを考え込む。そして無駄に決意を込めた目で私を見た。

 

「お嬢様、儀式の後には何が起こるのでしょうか。」

 

 それは紅魔館を移転させた後に何が起きるかという話だろうか。そういえば、その話を咲夜にしたことはなかったか。私はティーカップをソーサーに戻すと、咲夜へと向き直った。

 

「戦争よ。侵略、破壊、殺戮。」

 

 とまでは少し言い過ぎだが、紅魔館を移動させる行為は引っ越しというよりかは侵略に近い。それに、出来ることなら新しい世界で地位を手に入れるためにも、戦いは避けられないだろう。私たちは魔法界で起きる戦いに関しては、そこで出る死者を利用するだけだ。本番はその後、転移してからだと言えるだろう。

 

「さて、パチェの邪魔をしちゃ悪いし、私は事務仕事をすることにするわ。咲夜も自分の仕事に戻っていいわよ。」

 

 私は咲夜に軽く手を振り、客間を出る。さて、今日も始まったばかりだ。最近はバタバタしていて仕事も溜まり気味なので、さっさと仕事に取り掛からなければならないだろう。私は書斎の椅子に座ると、引き出しから書類を取り出した。

 

 

 

 

 

 1996年、九月一日、早朝。

 私はパチェを送り出すために玄関ホールへと来ていた。結局ダンブルドアがハリーを迎えに来たその日のうちに、ダンブルドアとパチェは接触した。パチェが作った仮想空間の一つに、ダンブルドアを誘い込んだらしい。ダンブルドア自身もパチェを探していた為、誘い込まれた自覚はないだろうが。

 パチェが外に出なかった理由。それは非常に簡単だ。パチェは押しに弱い。私はパチェほどちょろい魔法使いを知らない。それぐらいパチェは流されやすいのだ。パチェもそれを自覚しているらしい。だからこそ、力を利用されないために外に出ることはない。

 そういうこともあって、私は少しだけ心配だった。ダンブルドアにお願いされて、不死鳥の騎士団に入ってしまうのではないかという心配だ。昨日の晩から念を押しておいたが、定期的に確認を取ったほうが良いだろう。

 

「何かあったら呼んで頂戴。すぐ戻ってくるから。」

 

「ええ、いってらっしゃい、パチェ。先生としての生活を楽しんできてね。」

 

 私はパチェに手を振ると、一足早く自室へと戻る。私がいつまでもここにいては、パチェも出発出来ないだろう。咲夜が学校に行くのとは違い、パチェがいなくなるとなると、一気に紅魔館は防御力を失う。幸い結界の管理程度なら小悪魔でも出来るらしいので、何かが入ってくることはないだろうが、なにかあったら私が対処しなければ。

 

「まあでも、狙われる理由がないか。パチェの結界を突破できるような人間がいるとは思えないし。突破できるかも知れない魔法使いの二人はそれどころではないしね。」

 

 逆に、その二人がここに攻め入ってきた時は、私の計画が失敗した時だ。だが、可能性がないわけではない。分霊箱が私の手元にあることがバレると、紅魔館に攻め込まれる可能性もある。そうなったら紅魔館を移転させるのは不可能だ。攻め込んできたダンブルドアとヴォルデモートを殺し、本格的に魔法界を征服するしかない。

 一番最悪なパターンは攻め込んできたダンブルドアとヴォルデモートに私が殺されるというものだ。そうなると、本格的にフランを止めることが出来る者がいなくなる。魔法界が壊滅することも起こりうるかも知れない。

 

「流石にそれはないわね。パチェがいなくなって少しナーバスになっているのかしら。……これから毎日咲夜を抱いて寝るとか? いや、それだと紅魔館の仕事が滞るかな。いやでも美鈴は居るわけだし、だったら多少愛玩動物代わりに咲夜を使っても怒られないか?」

 

 私はアホなことを考えながらベッドに潜り込む。咲夜ではないが、今日は枕を抱いて寝よう。私は布団をかぶり、枕を腕に抱くとそのまま意識を睡魔に任せた。




ハリーが紅魔館を訪ねる

ダンブルドアがハリーを迎えに来る

ダンブルドアとパチェが接触する

パチェがホグワーツの教師になる

パチェがホグワーツに出発する←今ここ

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