紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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地面に座りながらパソコンを打つと、あちこち凝ります。正直しんどいです。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


代理やら、食事やら、旅行やら

 1996年、九月。

 随分と後回しにしてしまったが、そろそろ予言を用意しなければならないだろう。そもそも予言を用意するとはどういうことか。予言は行うものであって用意するものではないだろうと、そういう意見が出てくるのは至極当然だ。だが、この場合は予言を用意するで正しい。要は、自分の都合がいいように予言をでっち上げるのである。

 他の予言者が聞いたら唾を飛ばしながら『占いに対する冒涜だ!!』と叫ばれそうだが、幸いここに他の予言者はいないし、普段死の予言をでっち上げている私からしたら、この程度冒涜もくそもない。それに、上手くいけばこの予言は本当の出来事になる。何も問題などなかった。

 

「準備はいいかしら。咲夜、小悪魔。」

 

 書斎には今私の他に、咲夜と小悪魔がいる。予言を正式なものとするために、証人として立ち会ってもらうためだ。私は咲夜と小悪魔をダンブルドアとヴォルデモートに見立てて予言を行うわけである。

 

「ええ、大丈夫です。お嬢様。」

 

「準備は出来ています。」

 

 咲夜と小悪魔は互いに頷く。私は机の上に置いてある水晶玉を手に取り、魔力を込めた。

 

「アルバス・ダンブルドアに送る。1997年、六月。魔法界の命運を懸けた戦いが起きるだろう。」

 

 私は、咲夜に向かってそういう。すると、水晶が一瞬光り、中にもやのようなものが保存された。これで取りあえずダンブルドアに送るものはOKだ。

 

「ヴォルデモート卿に送る。1997年、六月。魔法界の命運を掛けた戦いが起きるだろう。そこで対峙する偉大な魔法使いは、貴様に及ばない。魔法使いは死に絶え、新たな秩序が生まれるだろう。」

 

 もう一つの水晶玉を握り、今度は小悪魔に対して言った。またもや、水晶玉の中に予言が保存される。これで予言の準備は出来た。あとは然るべきところに配置するだけだ。

 

「じゃあ咲夜。この水晶玉二つを神秘部の予言保管庫に収めてきなさい。そうね……変装して、クィレルから正式に許可状を貰えばいいわ。ちょっと待ってて。」

 

 私は引き出しから羊皮紙を引っ張り出すと、万年筆でクィレルへ手紙を書いた。内容は、予言を収めたいから神秘部に入る許可を出しなさいというものだ。

 

「これを見せればいいわ。偽名はこの前決めたやつで。分かった?」

 

「かしこまりました。明日の昼のうちに収めに行ってきます。」

 

「ええ頼むわ。多分そろそろだと思うのよねぇ……。」

 

 多分そろそろ、ロックハートに掛けた時限装置が作動する頃だ。時限装置が作動すれば、ロックハートは私の指示通りに聖マンゴを抜け出し、神秘部の予言保管庫へと向かう。そして予言を回収した後、魔法省侵入の罪で捕まるのだ。神秘部に侵入したとして、死喰い人認定されたロックハートは一時的にアズカバンに投獄されることとなる。そこで、ヴォルデモートに予言を渡す。まあ直接クィレルに渡して、クィレルからヴォルデモートでもよいのだが、やはりワンクッション挟みたいというものだろう。私とクィレルの繋がりは、極秘中の極秘なのだ。

 咲夜は水晶玉を二つ鞄の中に仕舞うと、一礼した後にその場から消える。小悪魔もその場で深々と一礼し、姿現しで何処かへ移動した。さて、ダンブルドアとヴォルデモートはこの予言を信じるだろうか。いや、信じなくとも、意識を向けさせることは出来る。あとはこちらが調整を行えば、ある程度自由に戦争が起きる日を決めることが出来るだろう。戦争まであと九か月。ここから先は全力疾走だ。

 

 

 

 

 

 1996年、十月。私は資本家のビルを訪れていた。今の時間は深夜の二時。道路に人の気配はなく、辺りはシンと静まり返っている。

 

「まったく、こんな時間に来る奴があるか。……今日はお前ひとりなんだな。」

 

 資本家は紫煙を燻らせながらため息をついた。こいつは女のくせに妙に葉巻の似合うやつだ。私は葉巻は滅多に吸わない。いや、それどころかパイプですら最近は殆ど吸っていないような気がする。私はソファーの上で足を組むと軽く息をついた。

 

「今日は大事な話をしに来たから。ほら、あれは大事なところで真面目になりきれないタイプだし。」

 

「ああ、まあそういうタイプだな。あれは。……で、大事な話とは?」

 

 資本家は葉巻を一口吸うと、葉巻を灰皿の上に置く。

 

「実は私、趣味で占いをやっているのよ。今日は貴方を占ってやろうと思ってね。」

 

「占いなんてそんな眉唾な……と言いたいところだが。お前、魔法界では有名な占い師みたいだな。」

 

「あら、よく知っているじゃない。」

 

 随分と魔法界に足を突っ込んでいるようだ。まあ魔法界に誘い込んだのは私なのだが。

 

「それで、私の何を占うっていうんだ? 今後の株価か? それとも情勢か?」

 

「貴方の将来よ。」

 

「へえ、将来ね。まだ私の人生に先があると?」

 

 資本家はショーでも楽しむかのように、ゆったりと指を組んだ。そんな態度の資本家を見て、不敵に笑う。私は静かに、だがハッキリと聞こえる声で資本家に告げた。

 

「1996年、十月十日。貴方は死ぬわ。」

 

 資本家は一瞬眉を顰め、次の瞬間にはソファーから立ち上がり、ドアに向けて走り出す。だが、今ドアはぴったりと閉じている。ドアが閉じているということは、その扉は絶対に開かないということだ。

 

「あら、どうしたのよ。貴方らしくもないわね。そんなに急いでどこに行くの?」

 

「――ッ! クソ、なんで開かないんだ。まるでコンクリートで固められたようにドアノブすら回らない。」

 

 資本家は何度かドアを蹴り、無駄だと分かると壁を背にしてこちらに振り向く。まるで化け物でも見るかのような目でこちらを見ている。まったく酷いものだ。

 

「ああ、そういえば言うのを忘れていたわ。私は今日一人の従者を連れているの。紹介するわ。メイドの十六夜咲夜よ。」

 

 私が紹介すると、私の隣に咲夜が出現し、深々と一礼する。資本家は気が付いていないが、今は時間が止まっているのだ。それ故にドアは開くどころか、ドアノブを捻ることすらできない。

 

「……理由を説明しろ。気まぐれとか言ったら恨むぞ。」

 

 資本家はこちらを睨みながら強気な口調で言う。私はクスクス笑いながら資本家に語り掛けた。

 

「どうしたのよ。私はただ『今日』貴方が死ぬと予言しただけじゃない。何をそんなに焦っているの? ただの『予言』よ。」

 

「はっ、どうだか。お前にとっては確定した未来なんじゃないのか?」

 

 資本家は懐からリボルバーを取り出し、こちらに向ける。咲夜が私の前に出ようとしたので、手で制止して、私は一歩前進した。

 

「相変わらず鋭いわね。まあ、そういうことよ。そういえばさっき理由を聞いていたわね。理由は簡単。邪魔になったから。」

 

「クソが――ッ!!」

 

 資本家は苦し紛れにリボルバーを発砲するが、私にとって四十五口径程度は豆鉄砲に等しい。特に拳銃弾は先端が丸いので、私の皮膚を貫くことはなかった。私は地面に落ちた拳銃の弾を拾い上げる。そして、少し感心した。

 

「へえ、銀の弾じゃない。ちゃんと対策してたのね。でも残念。対策をするんだったら弾の先端を鉛筆削りで尖らせておいた方がよかったんじゃない?」

 

 私がケタケタと笑うと、咲夜もクスクスと笑い始める。この部屋で資本家だけが笑っていなかった。そのままゆっくりと歩みを進め、私は資本家の目の前に立つ。資本家は諦めたように床に崩れ落ちた。

 

「そんな……理不尽な理由が通用するか……。」

 

 私はそんな資本家にゆっくりと抱きつく。もう諦めたのか、抵抗はしてこなかった。

 

「それじゃあ、いただきまーす。」

 

 私はそんな資本家の首筋に噛み付いた。牙が刺さった途端、痛みに資本家が暴れ出すが、吸血鬼の力に逆らうことは出来ない。私は少しずつ資本家の血を飲み始めた。

 

「や、やめろ! 吸うな。私にはまだやらなくてはならないことが……やめろ、やめろぉおおおおお!!」

 

 何か叫んでいるが、まあ気にすることはない。私はそのまま血を吸っていく。といっても、実のところ私は少食だ。失血死するほど血を飲むことは出来ない。さらに言えば、口が小さい為か、滅茶苦茶零れるのだ。既に私の服は資本家の血で染まっている。

 暫く血を吸っていると、資本家からの抵抗がなくなった。どうやら、血が少なくなって意識を失ったようだ。私もそろそろ満腹なので、資本家から離れる。

 

「咲夜。」

 

「はい。」

 

 私が咲夜の名前を呼ぶと、咲夜は杖を取り出し、私の服と地面に零れた血を魔法で綺麗にする。その後、資本家の首を止血し、手足を縛って猿轡を嵌め、鞄の中に仕舞いこんだ。

 

「あら、生きたまま持って帰るのね。」

 

 咲夜のことだからその場で殺すものかと思ったが、どうやら持って帰るようである。

 

「はい。殺すと日持ちしないんですよ。なので紅魔館に持って帰って捌きますわ。血抜きもしないといけませんし、皮も剝がないと。」

 

「時間止めとけばいいじゃないの。あ、今止まっているのか。」

 

 多分だが、鞄の中の資本家は既に時間が止まっているのだろう。自分の中で勝手に納得すると、私は咲夜の肩に手を置く。私は意図を察したのか、咲夜は私を連れて紅魔館の私の部屋に姿現しした。

 

「さて、今のでかなり儲かったわ。今プラチナのレートいくらぐらいだったかしら。……いや、一気に市場に流すと値が崩れるわね。それよりかはパチェに錬金術の触媒としてプレゼントしたほうが喜ばれるかな? ああ咲夜、もう下がっていいわよ。」

 

 咲夜は頭を下げると、その場から姿を消した。まったく気が付かなかったが、いつの間にか時間が動き出していたようだ。私は軽く伸びをすると、書斎の椅子に座る。資本家が死んだことによって……いや、厳密にはまだ死んではいないが、死ぬことによってグリンゴッツの金庫の中に入っているプラチナは私の物になった。面倒事も一緒に片付けることが出来て一石二鳥だ。私は資本家の肉の味を想像しながら書類仕事を始めた。

 

 

 

 

 

 1996年、十一月。久々にパチェが紅魔館に帰ってきた。私は自室に突然現れたパチェに内心びっくりしつつも、飛びついてパチェを抱きしめる。

 

「パチェ! お帰り!」

 

 パチェも一瞬びっくりしたような顔をしたが、すぐに笑顔になった。

 

「ただいま、レミィ。いきなりで悪かったわね。少し気になることがあって……。」

 

 パチェは椅子に座ると机に手をかざす。すると小さなライターのようなものが浮かび上がった。私もパチェの対面に腰かける。

 

「これは?」

 

「これはダンブルドアが発明した灯消しライターよ。その名の通り光をこのライターの中に保存することが出来る。」

 

 ホログラムのようなものを出しているということは、実物は今ダンブルドアが持っているのだろう。

 

「でも、そんなものに使い道ってあるの? 魔法でいくらでもできそうな気がするけど。」

 

「そう、それだけなら別になんてこともない小物なんだけど、重要なのはそこではないの。この灯消しライター、光を保存する容器が、特殊な構造になっている。まるで、魂を保存することを想定しているように。それに、ここを見て。」

 

 パチェはホログラフをひっくり返す。そこには、何かをはめ込むためのくぼみがあった。そのくぼみは、どこかで見たことのある大きさの四角錐。これはもしかして……。

 

「もしかして、ここに蘇りの石をはめ込むの?」

 

「私はそう睨んでいるわ。構造から見て、ここの部分はライターのボタンを押し込むと回るようになっている。」

 

 つまりボタンを押すと蘇りの石が回転し、死者が蘇る。蘇った魂は、そのままライターの中に保存されるということか。

 

「……なんか凄そうだけど、保存してどうするのよ。只の自己満足じゃない?」

 

「ダンブルドアがそんな中途半端なものを作るとは思えないわ。私の推測ではこの灯消しライター、死の呪文で死んだ者……ようは肉体が無事な者を蘇らせるために作られた物だと思うわ。」

 

「死喰い人の死の呪文に対抗するために作ったってことか。蘇りの石を機構の一つとして取り入れているわけね。でもダンブルドアは蘇りの石を持っていないじゃない。」

 

 蘇りの石は今小悪魔の指に嵌っている。

 

「多分文献で読んだ特徴や資料から大きさと機能を想像して作ったんでしょうね。ようは実現しないけど取りあえず作ったっていうロマン溢れる小物よ。でも、これは使えるんじゃない?」

 

 パチェはずいっとこちらに顔を近づける。その顔は何時ものジトッとした目をした表情を浮かべていたが、私はその中に何か訴えるような感情を感じ取った。

 

「……ふふ、やっぱり、根はやさしいわね。パチェは。」

 

 私はパチェの頭を優しく撫でる。平然な顔で計画を立てていたが、パチェとしてもなるべく死者を出したくないのだろう。死者を蘇らせる道具の使い道など、今回の計画には限られている。

 

「ようは儀式を行う時には死んでいて、終わってから生き返らせればいいわけよね?」

 

「……そうね、多分それなら大丈夫。」

 

 だとすると色々と考えなければならない。計画をまた大きく変更する必要が出てくるだろう。

 

「まあ何か考えておくわ。それよりもパチェ、儀式に必要な死者が足りなかった場合の保険、考えてる?」

 

「ええ、大丈夫。ちゃんと用意してあるわ。」

 

 うん、ちゃんと私の期待に応えてくれる分、私もパチェの期待に応えないとならないだろう。一度死んだものを蘇らせる……か。ネックはダンブルドアが灯消しライターを所有しているということと、私たちが移動してから魂を戻さないとならないということ。さらに言えば、部外者にこの計画を話すことが出来ないということか。……部外者、いや、このことは私とパチェの二人だけの秘密にしよう。直接動くものにこのことを教えておくと、変に意識しちゃって結果失敗することがあるかも知れない。というか、咲夜の死がまさにそれだ。下手に遠慮し、時間を止めずに戦闘を行った結果、注意不足で自らアーチに飛び込んでしまった。今回のことは取り返しがついたからまだマシだが、この先一つのミスが取り返しのつかないことに発展するかも知れない。

 

「そう。……パチェ、このことは私と貴方だけの秘密よ。それと、可能な限り頑張るけど、もしかしたら無理かもしれない。それは承知しておいて。」

 

「大丈夫よ。私はレミィを信用しているもの。」

 

 パチェはそう言ってにっこり微笑んだ。かわいい。

 

「さて、そろそろ戻るわ。」

 

「クリスマスにでも招待状を出すわ。少しやりたいこともあるし……あ、そうだ。紅魔館をホグワーツに移す準備って進んでる?」

 

 パチェは椅子から立ち上がりながら頷いた。クリスマスのすぐ後に紅魔館を移動させないと、色々と問題事が起こる。というか、クリスマスパーティーでその問題事の元となることをするということだが。

 

「ええ、簡易的な測量と生態系の調査は済んでいるわ。言ってくれれば半日で移動させられる。」

 

 戦争を起こす場所はホグワーツにすると決めてある。それもあってパチェをホグワーツに送り込んだということもある。それにホグワーツの煙突飛行ネットワークを管理しているのは魔法省だ。やろうとすればアズカバンとホグワーツの暖炉を繋げることも出来るわけだ。一気に戦闘員を送り込めて、尚且つ死にやすい人間も多い。いいこと尽くめだ。

 

「じゃあね。またクリスマスに。」

 

「ええ、クリスマスに。」

 

 私が手を振ると、パチェはその場から居なくなった。私は書斎に移動し、椅子に座って机と向かい合う。パチェが出した無理難題。殺すだけなら簡単だ。だが生き返らせるとなると話は変わってくる。

 

「う~……。」

 

 私は頭を悩ませながら羊皮紙の上で万年筆を滑らせた。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ向かいましょうか。日も完全に沈んだしね。」

 

 今日は咲夜と一緒に日本へ視察に行く日だ。夕食を取り終わり、外出用の洋服に着替える。さて、問題はどうやって日本まで行くかだが、それはちゃんと考えてある。私が魔力の外付けタンク代わりになり、膨大な魔力で一気に日本まで姿現しするのだ。

 

「では、参りましょう。」

 

 咲夜は私の手を握り、姿現しの準備をし始める。私は咲夜が爆発しない程度に魔力を送り込んだ。次の瞬間、イギリス間を移動する時には絶対感じないほどの巨大な力で体が引っ張られる。さて、日本の何処に向かうか。簡単だ。日本といったら京都に決まっている。そもそも何故日本なのか。それも簡単だ。私たちが移住する場所は、日本の山奥に位置するのだ。

 体が引っ張られるような感覚が無くなった瞬間、今度は浮遊感が体を襲う。どうやら、日本の上空に出たらしい。まあ当然か。地球の反対側まではいかないまでも、イギリスから日本まではかなりの距離がある。流石に数百メートル単位で誤差が出るためだろう。

 私は頭から落ちそうになった瞬間に羽を羽ばたかせ、空中で浮遊する。咲夜が落っこちていないか少し心配だったが、私の少し上を飛んでいた。さて、無事に日本についたところで視察を始めよう。

 

「さて、視察視察。」

 

 私は羽に力を込め、一気に地面を目指す。雲が完全に静止しており、風もないことから察するに、今現在時間が止まっているようだ。私は建物の窓ガラスを割らないように速度を調整し、地面に降り立つ。私が軽く伸びをすると、咲夜が私の隣に現れた。バチンと音がしたということは、姿現ししてきたということか。普段は音もなく現れ、音もなく消えるが、それはきっと時間を止めて姿現しをしているのだろう。

 

「おお、まさに日本って感じの場所ね。瓦屋根に木造住宅。」

 

 私は京都の街並みを見回す。流石は日本の首都だ。やはり首都はその国を象徴するような街でなければならない。

 

「はい。ここは二年坂と言いまして。日本の伝統的な建物が多い場所です。」

 

 ほう、なかなか咲夜は日本に詳しいようだ。私はと言えば実を言うとそこまで詳しくはない。日本の文化は好きだが、歴史は知らない。

 

「日本の建物は全部こうなの?」

 

「いえ、最近は西洋風の街並みも多くなってきているらしくて。」

 

 西洋風の街並みか。私としては木造に瓦屋根のほうがいいと思うのだが。やっぱりアレか。大東亜戦争でアメリカに負けたのが原因だろうか。

 

「大戦の影響ね……。」

 

 私はしんみり呟く。やはり戦争は国の形を変えてしまう。まあ、大戦がなければ今の日本は無かっただろうが。今の日本は平和の象徴のような国だ。確か軍を持っていなかったと思う。……ん? じゃあGA隊って何者だ?

 

「あの……多分ペリーが日本を開国させたからだと思うのですが……。」

 

 咲夜が遠慮がちに呟く。開国……そう言えば日本は百年ぐらい前に鎖国を解いて文明開化したんだったか。すっかり忘れていた。

 

「……そう、開国よ! 開国。……うん。」

 

 私は苦し紛れにそう言う。これからは出来る限り口を滑らせないように努力しよう。私は気を取り直し、二年坂を上っていく。真夜中ということもあり、周囲の店は何処も閉まっている。

 

「店は何処も閉まっているわね。不況?」

 

「オイルショックでしょうか。」

 

 私の冗談に咲夜も乗ってくれる。良かった。真面目に返されたらどうしようかと思った。坂を上っていると、ふと目につく看板があった。

 

「ゆどうふ……でいいのかしら。新種の豆腐?」

 

 湯豆腐と書いてあるのを見る限り、お湯が関係してくるものだとは思うのだが、お湯のような豆腐……それともお湯に入った豆腐?

 

「そもそも豆腐ってなんで豆腐なのかしらね。」

 

 豆腐という文字を分解すると、豆を腐らす。もしくは豆が腐ると書く。でも、別に豆腐という食材は豆を腐らせて作るものではない。私はそのことを聞いたつもりだったのだが、咲夜は違う捉え方をしたようだった。

 

「それは空が何故青いのか、とか、そういう話でしょうか。」

 

 どうやら咲夜はロメオがどうしてロメオなのかといった質問と同じようなニュアンスの問題だと捉えたらしい。

 

「いや、そうじゃなくて……まあ難しいからいいわ。」

 

 私はこれ以上は埒が明かないと判断し、坂を上り始める。道なりにまっすぐ進んでいると、なにやら清水寺への案内が多く見つかった。流石に私でも清水寺は知っている。何でも寺のくせに定期的に投身自殺をするものが出るらしい。

 

「咲夜、ここを真っすぐ上がれば清水の舞台に行けるそうよ。しかも英語で案内が書いてあるわ。親切ね。イギリスには日本語の案内なんて空港ぐらいにしかないのに。」

 

「この松原通を真っすぐですね。そういえば今更なのですが、京都でよかったんですか?」

 

 咲夜が随分今更なことを言ってくる。それはそうだろう。何せ京都は日本の都だ。名前にも都という文字が入っているぐらいだ。

 

「だって都を見た方がいいじゃない。……ん? 日本の都って江戸に移ったんだっけ?」

 

 それとも江戸から京都に都を移したんだっけ?

 

「随分前のことだったと記憶しているのですが……。現在の首都は東京です。京都は都市部は発展していますが、歴史的な建物が多く、特に今歩いているこの道など数百年は変わってないかと。」

 

「へ、へぇ。」

 

 ダメだ。やはり付け焼刃の知識だとボロが出る。私は看板を頼りにしながら真っすぐ坂を上っていく。すると次第に日本家屋を積み上げたような建物が見えて生きた。流石にアレは知っている。東京タワーに並ぶレベルで有名な建物だ。

 

「これがかの有名な五重塔?」

 

 私はドヤ顔で咲夜の方に振り向く。咲夜はすまし顔で解説を始めた。

 

「前方にありますのが仁王門、その奥が西門。そして、五重塔ではなく、あれは三重塔ですね。」

 

 ……あ、そっすか。もう咲夜に任せることにしよう。

 

「右から回り込みましょうか。そろそろ清水の舞台が見えてくるはずです。」

 

「……いやに詳しいわね。」

 

「実は最近勉強しまして。」

 

 随分と小さな声で呟いたはずなのだが、咲夜には聞こえていたようだ。

 

「ふうん、暇なのね。」

 

 聞こえてしまったものは仕方がないので、私は軽く冗談を飛ばす。咲夜は私の冗談に対して、少し得意顔で言葉を返した。

 

「ええ、暇すぎて昨日など一日に三十時間も寝てしまいました。」

 

 何とも咲夜らしい返しだ。というか、咲夜以外には言えない冗談とも言える。私たちは咲夜の言うところの三重塔を回り込むように寺の中を歩いていく。すると私にも見たことのある光景が見えて来た。

 

「あちらが、かの有名な清水の舞台でございます。」

 

「あちらがかの有名な清水の舞台?」

 

 私は咲夜が指し示す建造物を見る。何というか、確かに見覚えのある建物だが、もっと高いところにある建物だと思っていた。

 

「意外ね。もっと断崖絶壁にあるものかと思ってた。」

 

 私は羽を羽ばたかせ、建物のベランダのようなところに降り立つ。咲夜もその後を追ってベランダに降り立った。私は手すりから身を乗り出し、下を覗き込む。下から見るとそうでもないが、上から見ると結構な高さだった。

 

「あら、上から見たら結構あるわ。どれぐらい?」

 

「そうですね……目測十二メートルと言ったところでしょうか。」

 

 メートルで言われると、やっぱり大した高さではないな。私は手すりを足場にして下に飛び降りる。そのまま地面へと自由落下していき、そのまま普通に着地した。咲夜も私の後を追って清水の舞台から飛び降りる。咲夜もまた、全く問題なく着地した。……ふむ。私と咲夜との間に気まずい沈黙が流れる。

 

「これ、飛び降りたらどうなるんだっけ?」

 

「確か願掛けのようなものだったかと。神を信じて飛び降りれば命は助かり願いが叶う、みたいな。」

 

「じゃあ神を信じていない私たちは今死んだことになるのかしらね。」

 

「私はもう既に一度死にましたけどね。」

 

 私は軽く服装を直し、飛び降りたときに目についた水場の方へと歩を進める。看板には『音羽の瀧』と書かれていた。

 

「お嬢様、お気を付けください。流れ落ちているのは聖水です。」

 

 咲夜はそう言うが、ここから流れ出ている水は聖水ではない。清水だ。

 

「違うわよ。聖水と清水は全然別物。同じものにしてしまってはいけないわ。」

 

 私は怪しげなケースから柄杓を取ると、空中に浮かんでいる水を軽く掬う。そしてそれを一口飲んだ。この瞬間に私の口が溶けはじめたら赤っ恥もいいとこだが、流石に今度ばかりは大丈夫だったようだ。よし、リベンジを始めよう。

 

「ここの清水は黄金水とか延命の水と言われているの。」

 

 多分。

 

「こういった単語に聞き覚えはない?」

 

「黄金……延命……賢者の石、ですか?」

 

「そう、よく知っていたわね。グリフィンドールに十点。」

 

 私は柄杓を魔法の杖に見立てて振った。

 

「昔は本当にそのような効果があったんでしょうね。時代が流れるにつれて効果が薄れてきた。私はここの源泉には賢者の石が埋まっていると考えているわ。」

 

 考えているわ、というよりかは考えたわ、だが。私が柄杓を咲夜に渡すと、咲夜も水を一口飲んだ。

 

「誰かが賢者の石を埋め込んだということですか?」

 

「それか……自然発生したという可能性もあるわ。」

 

 多分。

 

「悪いわね。少し持ってくわよ。」

 

 私は清水の舞台の建物の方へと声を掛け、小瓶に水を汲む。そしてコルクでしっかりと蓋をした。あとでパチェにでもプレゼントしよう。

 

「さて、視察はこれで終了。目的も果たせたしもう帰りましょうか。」

 

「畏まりました。」

 

 いいところが見せれたところで今日のところは帰ることにしよう。咲夜は私の手を握ると私の魔力を使い二回姿現しを行った。一度目はまた上空に出て、次の瞬間には私の部屋へと着いていた。私は外套を咲夜に手渡し、椅子に腰かける。咲夜は私の前に紅茶を出すと一歩後ろに下がった。

 

「いきなり日本に行ったら戸惑うかしらね。そもそも咲夜、貴方日本語喋れる?」

 

「日常会話でしたら。……一番心配なのは美鈴さんでしょうか。」

 

「美鈴は大丈夫よ。漢字ができるのなら日本語もできるわ。きっと。」

 

 一番心配なのは小悪魔だ。奴は生粋のイギリス人だったはず。多分日本語など勉強したこともないだろう。私はポケットから小瓶を取り出すと、引き出しの中に仕舞い込む。

 

「そういえば、パチュリーは元気でやっているかしら。」

 

 つい数週間前に会ったばかりだが、やはり気になってしまう。ホグワーツは埃っぽいらしいので、ぜんそくが少し心配だ。まあ、何にしてもクリスマスには一度帰ってくるのだ。

 

「さて、もうすぐクリスマスよ。盛大にパーティーしなくちゃね。」

 

「はい、最後ですので盛大に。」

 

 私は窓を開けてホグワーツの方向を見る。そろそろクリスマスパーティーの準備を始めないといけないだろう。

 

 

 

 

 1996年、十二月。

 私はポートキーの使用許可願の書類を作っていた。今回のクリスマスパーティーではポートキーを使って客を招待することにしたのだ。そうすれば、わざわざ他の会場に客を招待して会場の一部だけを紅魔館に移植する手間も省ける。……ん? 移植というのは少し違うか。

 ポートキーを使うにあたって、面倒なのがポートキーの申請だ。ポートキーは魔法省によって使用が制限されている。魔法省が許可したポートキー以外は違法となり、罰金が課せられるのだ。

 普段なら申請を行わずに使うこともあるかも知れないが、今回は魔法省役員もパーティーに誘う。許可を取らざるを得ないというやつだ。

 

「う~ん……結構ギリギリよね。パチェに頼んだら一瞬なんでしょうけど、流石に頼るわけには行かないし。」

 

 ポートキーの申請書類は、意外に面倒くさい。とくに今回は招待状をそのままポートキーとして使用するので、『何処から何処まで』の『何処から』がない。そのせいで、書類が一気に面倒くさいものになっているのだ。使用用途がきっちりしているほうが、若干書類審査が簡素になる。今回の場合五十六ものポートキーを使用するので、その分書類も増えている。

 結局パーティーの準備は咲夜と美鈴に任せきりだった。だが今年は咲夜が中心となって作業を進めているので、ある程度余裕はあると言える。咲夜の時間停止、やはり反則的なまでに便利だ。料理の作り置きが出来るし、会場の時間を止めれば埃が積もることもない。そのため小悪魔はポートキーの作成やフラン用の結界、その他魔法の設定に集中できるのだ。

 私の仕事は、ポートキーの使用許可願と招待状を書くことだ。特に招待状の枚数は半端ない。毎年のことだが、招待状を書くだけで一日が終わると言っていいだろう。

 それに今年はただパーティーを行うだけではない。ダンブルドアを引き留めておくための作戦を決行することになっている。その作戦が上手く決まれば、ダンブルドアは精神的にズタボロになり、暫く再起不能になるだろう。まあ、すぐ復活するだろうが。

 使用許可願にサインをしていると、部屋の扉がノックされた。入室許可を出すと、咲夜が一礼した後に入ってくる。手には一枚の羊皮紙を持っていた。

 

「お嬢様、パーティーでお出しする料理のメニューなのですが、こちらでよろしいでしょうか。」

 

 咲夜は手に持っていた羊皮紙を私に差し出してくる。私はメニューを上から下まで確認し、咲夜に向けて頷いた。

 

「ええ、これでいいわ。予算的には大丈夫なのよね?」

 

「はい、大丈夫です。では、こちらで準備を進めます。」

 

 個人的には別に咲夜の好きなようにやってもらっていいのだが、咲夜はこのへん非常に几帳面だ。というかただ怒られたくないだけかも知れないが。咲夜はまた一礼すると、今度は扉から出ず、その場から忽然と姿を消した。

 さて、私も頑張らなければ。取りあえず今日中に書類を書き終わり、明日朝一番で小悪魔に魔法省に届けさせよう。

 

「あ、万年筆のインク切れた。」

 

 万年筆の軸を外し、インク瓶を取り出してインクを吸引させる。今使っている万年筆はコンバーター仕様の物なので、インクの容量はあまりない。故に、酷使するとすぐにインクが切れてしまう。吸引式を買おうかどうか、検討するところだ。

 

「そういえば咲夜はどっちを使っているのかしら。流石にカートリッジってことはないでしょうけど……。」

 

 魔法界では万年筆のカートリッジは手に入らない。そもそも万年筆を使っている者が殆どいないのだ。基本的に皆羽根ペンである。

 

「羽ペンでもいいんだけど……いちいちインク瓶に付けないといけないのが意外に面倒なのよね。万年筆が開発された時は、これこそ顧客が望んだものだ! って大騒ぎしたんだけど。」

 

 万年筆のペン先についたインクをふき取り、軸を付け直す。さて、もう一仕事頑張ろう。




レミリアが予言を用意する

パチェが魔法薬学の先生になる

咲夜が魔法省に予言を収めに行く

ロックハートが聖マンゴを抜け出し、予言保管庫に侵入する

職員に捕まり、アズカバン送りに

資本家が食べられる

パチェが帰ってくる

灯消しライターの謎が分かる

レミリアと咲夜で旅行(こっちではカットしようかとも思ったけど、尺の都合で入れました)

クリスマスパーティー準備←今ここ

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