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1996年、十二月二十四日、午後九時。
パーティーの準備は済んでおり、パーティーホールでは咲夜が最終確認を行っている。私は自室で真紅のドレスに着替えると、隣にいる小悪魔から分霊箱を受け取る。髪飾りを頭に乗せ、ロケットを首から下げ、指輪を親指に嵌める。
「カップは後で受け取るわ。……貴方メイド服似合うわね。」
私は小悪魔の服装を見る。小悪魔は今咲夜とお揃いのデザインのメイド服を着ていた。色は黒と白だが、黒い服に紅い髪が良く映えている。
「喜んでいいのか分からないですね。少し複雑な気分です。」
まあ確かに、小悪魔はあまりオシャレをするタイプではない。何時もの司書服以外の服装を私は見たことがなかった。
「まあ何にしても、貴方は給仕に専念しなさい。パチェとの関係を悟られないように。一番いいのは、パチェと接触しないことだけど。」
「極力鉢合わせないように気を付けます。」
さて、パーティーまであと三十分。私は今日行う作戦について頭の中で整理した。私は今日分霊箱を全て身に着けてダンブルドアの前に出る。当然、ダンブルドアはそれを欲するだろう。その時に無理難題を突き付けてやるのだ。『分霊箱は咲夜と交換だ』と。
「最悪ダンブルドアが強引に分霊箱を奪おうとしてくる可能性があるわ。あいつのことだからその可能性はほぼ無いとは思うけど。」
仮にも正義を名乗っているのだ。皆が見ている前で襲い掛かってくることはないだろう。それに、不意打ちを受けなければダンブルドアに後れを取ることはない。多分。
「それでは私は咲夜の手伝いに戻ります。」
小悪魔は一礼した後、姿現しで何処かへ消える。私は今一度服装を確認し、パーティーホールへと向かった。
パーティーホールには妖精メイドが一ミリの誤差もなく整列しており、気を付けの体勢のままピクリとも動かない。時間が止まっているのかと思ったが、お腹が動いているので時間が止まっているわけではなさそうだ。きっと服従の呪文を掛けられているのだろう。
「見事なものね。流石は服従の呪文だわ。お馬鹿な妖精メイドにここまでの精密動作をさせるなんて。」
「恐れ入ります。」
並んでいた妖精メイドの一人が一歩前に出て、耳たぶを引っ張る。次の瞬間、前に出た妖精メイドが咲夜の姿になった。いや、違う。咲夜が妖精メイドに化けていたのだ。人間は自分の意志であそこまで動きを止めることが出来たのか。少しびっくりだ。
「パーティーでの給仕は任せるわ。」
「お任せください。」
咲夜は深々と一礼し、小瓶の中身を飲み干す。次の瞬間には、先ほどの妖精メイドの姿になっていた。見た目で見分けはつかないが、咲夜だけ異様な魔力を持っているため、見分けられないこともない。
妖精メイドたちはパーティーホールのあちこちへと散っていく。私はパーティーホールの横にある小部屋の中へと入った。部屋の中では、小悪魔がポートキーの最終確認を行っている。私は部屋の中に置かれた椅子に座った。
「さて、そろそろかしらね。」
「あと十分でポートキーが作動します。」
小悪魔は部屋の壁のあちこちにパーティーホールの様子を映しだす。
「お嬢様の好きなタイミングで料理が出現するようになっております。演出にお使いください。」
なるほど、テーブルが空だったのはそのためか。なら挨拶の後にでも出現させよう。
「料理の補充はどうなっているの?」
「キッチンの所定の場所から転送されるように設定されています。」
ということは、かなりの量の料理を用意したということだろう。下手なサラリーマンの年収レベルの予算が料理につぎこまれていたのはそのためか。
「そもそもお金を取っていないので赤字もなにもないですが、それでもお金を使いすぎでは? 今回新調したテーブルクロスや調度品の数々。普通に去年の年間予算レベルですよ?」
そんなことは分かっている。何せ予算の書類を作成しているのは私だ。
「来年からはお金が有っても物が無くて買えないという状況が想定できるからね。今のうちに新しくしておかないと。特に消耗品はね。」
「ああ、なるほど。では館中の消耗品を調べて買い置きしておきましょうか?」
「いえ、その必要はないわ。機会があるときに新調する程度で十分よ。それをすると引っ越しするのがバレバレだからね。」
失礼しました、と小悪魔は軽く頭を下げる。まあでも、向こうに移動して落ち着いたら、こちらの世界から物資を輸入することも考えてみよう。向こうの文明レベルがどの程度なのかよくわかっていないので、それを確認してからだ。
「来たみたいですね。」
小悪魔は壁に映し出した映像を指さす。確かに、パーティーホールは人で溢れていた。一気に隣が騒がしくなる。皆の興奮が少し落ち着いたら壇上に上がろう。私は五分ほど小部屋で待機し、壇上へ上がる。これはテクニックの一つだが、足音の立て方一つで注目度がぐっと上がる。自然な歩き方で、尚且つ印象に残るように。一言で纏めるなら、カリスマ溢れる歩き方というやつだ。
「紅魔館へようこそ。人間と人狼と吸血鬼と……まあいろいろ居るわね。」
私はパーティーホールを見渡す。ダンブルドアは、信じられない物を見るかのような目で私を見ていた。その近くにはパチェの姿もある。
「今日はクリスマスイブだけど、あんまりキリストの誕生を祝う気分でもないわ。吸血鬼だし。そう、私はただ騒ぎたいだけ。」
私は右手を真っすぐと上げると、指を打ち鳴らす。次の瞬間、テーブルに料理が出現した。なんというか、これは少し気持ちいいな。
「飲んで喰らって大騒ぎしなさい! 身分や種族なんて関係ないわ! 今年は死者が出ないことだけを祈るばかりよ!」
私は獰猛に笑い両手を上げる。一瞬の沈黙の後、爆発したような歓声が沸いた。良かった。一瞬滑ったかと思った。何にしても、無事にパーティーが始まった。私は壇上から降り、小悪魔から分霊箱であるカップを受け取る。小悪魔はカップにワインを注いだ。
「小悪魔は私についてきなさい。早速仕掛けるわよ。」
私はパーティーホールを歩きながら機をうかがう。ダンブルドアは時折こちらを確認しながら、パチェと話していた。あれだけこちらをチラ見していれば、私から近づいても違和感ないだろう。私はワインを一口飲み、ダンブルドアに一気に近づいた。
「メリークリスマス。いい夜ね、ダンブルドア。……と、そちらの彼女は初めましてかしら。」
私はパチェを真っすぐ見る。パチェは何時もと変わらない表情で自己紹介を始めた。
「パチュリー・ノーレッジよ。ホグワーツで魔法薬学の教師をしているわ。」
「そう、じゃあ貴方がかの有名なパチュリー・ノーレッジなのね。よろしくパチュリー。私はレミリア・スカーレット。今日は私が主催したパーティーに来てくれてありがとう。」
私は大げさに胸を張る。ダンブルドアは私の胸の前で揺れたロケットから明らかに目を背けた。パチェは私のやりたいことをある程度理解したらしい。都合よく分霊箱のことを聞いてくる。
「素敵なティアラね。ゴブリン製?」
「いえ、そんなちんけな物じゃないわ。これはロウェナ・レイブンクローが所有していた髪飾りよ。『計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり』……貴方は確かレイブンクロー生だったかしら。本か何かで読んだわ。」
私は軽く髪飾りの位置を直す。パチェはクスリと笑った。
「詳しいのね。失われたって聞いたけど、貴方が所有していたのね。じゃあもしかしてそのロケットは――」
「そう、サラザール・スリザリンのロケット。」
今日の為に散々練習したのだ。一発で開いてくれよ……。私は蛇語で『開け』と囁く。するとロケットは二つに開き、中に入っている二つの目玉があらわになった。
「面白いでしょう?」
ダンブルドアが何とも言えない表情でロケットを見つめているが、私はパタリとロケットを閉じる。
「生きた目が入っているロケットなんて素敵じゃない? これって誰の目なのかしら。」
「サラザール・スリザリンの持ち物なのだから、彼のじゃない?」
パチェは次に私が手に持っているカップを指さす。
「レイブンクロー、スリザリンときたらそれはハッフルパフ?」
「そう、ヘルガ・ハッフルパフのカップ。あとゴドリック・グリフィンドールの剣さえあれば完璧なんだけど、見つからないのよね。」
私は肩を竦めて見せる。まあ、何処にあるかは知っているのだが。グリフィンドールの剣は今ホグワーツの校長室にあるはずだ。1992年にハリーがそれでバジリスクを討伐していたはずである。
「ああ、それなら――」
「わしはその指輪が気になるのう。それもホグワーツの創始者に関わるものなのかな?」
パチェがグリフィンドールの剣のありかを言ってしまうのを恐れたのか、パチェの言葉を遮るようにダンブルドアが言った。ダンブルドア自身、この指輪がホグワーツとは関係ないことは分かっていることだろう。これは確かめにきているのだ。
私がこれを分霊箱だと分かったうえで身に着けているのか、それともホグワーツ関連の物をただ身に着けているだけなのか。もしここで私が『この指輪はゴーントの物で、ヴォルデモートに縁のある物よ』などと答えたらダンブルドアは私がこれらを分霊箱と理解したうえで身に着けていると判断するだろう。逆に嘘でも『なんでも、スリザリンが好んでつけていた曰く付きの品らしいわ』といえば、ホグワーツ関連の物を身に着けているだけと判断するかもしれない。
「ああ、これ? これはもっと凄いわ。歴史があるだけのものではないもの。」
だから私はダンブルドアの裏をかくことにした。右手を上げ、指輪がよく見えるようにする。
「死の秘宝ってご存知かしら。ペベレル兄弟が残した三つの魔法具なのだけど。」
そう言っただけでダンブルドアはゴーントの指輪の正体に気が付いたようだ。目の色が変わる。
「ニワトコの杖、蘇りの石、透明マントね。」
パチェの言葉に私は頷く。
「Exactly.この指輪にはその蘇りの石が嵌っているわ。」
「蘇りの石……実在していたとはのう。」
いけしゃあしゃあと冗談をかますジジイだ。あることを前提にした魔法具を開発しておきながらよく言う。それに、ダンブルドア自身、死の秘宝の一つを所持している。ダンブルドアはニワトコの杖の所有者だ。では、残る一つ、透明マントは誰が持っているかというと、ハリー・ポッターである。これは咲夜が教えてくれたことだ。
「スカーレット嬢、パーティーが終わった後に少々お時間よろしいかの?」
ダンブルドアがそんなことを言い出す。私はパチェの目を見た。パチェも私の目を真っすぐと見ている。以心伝心というわけではないが、私とパチェの考えは一致していることだろう。『計画通り』と。
「今じゃダメなの?」
「少し人には聞かれたくない話なのじゃ。」
私としても、交渉の様子を身内以外には見られたくない。私はダンブルドアの意見を飲んだ。
「そう、いいわよ。何時にこのパーティーが終わるか分からないけど、特別に十分だけ時間を取ってあげる。行くわよ小悪魔。」
私は小悪魔に合図し、ダンブルドアとパチェに軽く手を振ってその場を離れた。さて、作戦の第一段階はこれで完了した。見事ダンブルドアを釣ることが出来たと言っていいだろう。
「ダンブルドアの百面相、面白かったですね。」
小悪魔は小声で私に囁く。そうか、こいつは子供の頃からずっとダンブルドアを意識して生活してきたわけだ。ダンブルドアのあのような様子を見るのは初めてなのだろう。まあ、私もあそこまで動揺したダンブルドアを見るのは初めてだが。
「パーティーが終わった後はもっと面白いモノが見れると思うわよ。」
さて、ということで、パーティーが終わるまで取りあえず自由時間と行こう。まず初めに誰をからかいに行こうか。私はパーティーホール内を見回し、面白そうな人間を探した。
午前一時にパーティーは終了し、一時半になる頃には殆どの参加者が帰路についた。
「じゃあ私は先に戻るわ。今日はありがとう。」
パチェは私に軽く手を振ると、ポートキーに乗ってその場から消えた。これでパーティーホールに残っているのはダンブルドアだけだ。
「ん~……、疲れた。今年も楽しかったわね。」
去年は小悪魔の儀式で中止になってしまった。その分今年は多めに予算を使うことが出来たのだ。
「で、用事だったわね。ここじゃなんだし、応接間を準備させるわ。」
私は周囲を見回す。確か近くに咲夜が化けた妖精メイドがいたはずだ。お、いたいた。
「そこの妖精メイドB、応接間の準備をしてきなさい。」
「かしこまりました。」
咲夜はたどたどしくぺこりとお辞儀をすると、ふよふよと応接間のほうへと飛んでいく。……あれ? 本当に咲夜だよな? 咲夜の演技が嵌りすぎていて私でも確証が持てない。まあ多分大丈夫だろう。
「さて、私たちはゆっくり向かいましょうか。小悪魔、片づけは美鈴に任せて私についてきなさい。」
「えぇ!? マジっすか!?」
美鈴は滅茶苦茶嫌そうな顔をしながら皿の片づけを始める。まあ今回ばかりは付き添うのが美鈴以外でなければならない理由というものが存在するのだが。
私とダンブルドアと小悪魔はパーティーホールを出ると、長い廊下をゆっくりと歩き出す。歩いている最中は不自然なほど会話がなく、ただ黙々と応接間にむかった。
応接間に入ると、妖精メイドが出迎えてくれる。咲夜だ。私はダンブルドアと向かい合うようにソファーに腰かける。咲夜と小悪魔は私の両脇に立った。
「さて、用事って一体何? 血生臭いものかしら。」
用事、そんなのは分かりきっている。今私が身に着けている分霊箱の話以外は考えられない。
「実はじゃがのう……スカーレット嬢。少々譲って欲しい物があるんじゃよ。」
ほらきた。私は悟られないようにもう一度冗談を飛ばす。
「譲る? 席なら譲らないわよ。私は貴方より年配だもの。」
私は咲夜が用意した紅茶を一口飲む。味で正体を悟られないようにするためか、紅茶の味は何時もより落ちていた。そんなところまで徹底するくせに、変なところで咲夜はミスをする。だが今日のところは取りあえず大丈夫そうだった。
「決してわしの私利私欲でこのようなことを言っているとは思わんで欲しい。貴方の今身に着けている物を、わしに譲ってくれんか? ティアラに、ロケットに、指輪に、カップじゃ。貴方はこれが何か知って身に着けておるように見える。」
やはり私が分霊箱だということを分かって身に着けていることはお見通しのようだ。私はわざとらしく不敵に笑って、小悪魔に目配せした。
「欲張りさんね。」
小悪魔は手品染みた動きで銀の盆を取り出す。私は分霊箱を一つずつ盆の上に置いていった。
「ロウェナ・レイブンクローの髪飾り、サラザール・スリザリンのロケット、ヘルガ・ハッフルパフのカップ、蘇りの石がついた指輪。これは元々ゴーントの持ち物だったと言っていたかしら。」
分霊箱を盆の上に置き終わり、私はダンブルドアに向き直った。
「さて、ダンブルドア。貴方このような『お宝』が何の代償もなく手に入るとは思っていないわよね?」
さて、咲夜を要求することは決まっていることだが、ダンブルドアが対価として何を差し出すのか少し興味がある。少し泳がせてみるか。
「ガリオン金貨ならたんまり貯めこんでおる。グリンゴッツのわしの金庫をそっくりそのままスカーレット家に献上しよう。」
……は? ついにボケたかこのジジイ。第一声が分霊箱を金で買うだと? 私も随分低俗に見られたものだ。私は表情を取り繕うことなく、吐き捨てるように言った。
「人間の定めた価値を押し付けるな。反吐が出る。」
決して金が嫌いなわけではないし、金がないと生活が出来ない。だが、ダンブルドアが持っている程度の財産など、私にとってははした金だ。ダンブルドアは私の言葉に分かりやすく顔を青くする。どうやら、私の作戦通りかなり混乱しているようだ。
「すまなんだ。気を悪くさせるつもりはなかった。……では、わしの杖腕でどうじゃ。」
「あと半年とちょっとで死ぬ人間の一部なんていらないわ。」
そもそも、貰っても困るし。老人の萎びた手など儀式の道具にもならない。
「では、貴方は代償として一体何を欲する?」
ダンブルドアは縋るような目でこちらを見る。私は精一杯真面目な顔を作ってダンブルドアに告げた。
「十六夜咲夜を返しなさい。」
ダンブルドアは余りの驚きに目を見開いた。そうだ、私はこの表情が見たかったのだ。
「スカーレット嬢、彼女は魔法省で――」
「嘘……そんな話信じないわ。貴方が隠してしまったんでしょう!?」
私はソファーから立ち上がるとヒステリックに叫ぶ。これでも演技は得意な方だ。涙を流す程度なら夕食前と言える。私は零れんばかりに目に涙を浮かべ、叫ぶ。
「咲夜は騎士団の仕事中に死んだと貴方は言ったわ! 返して……、私の、私の咲夜を返して……。」
私は固く拳を握りしめる。爪の先で手の平を少し切り裂き、血を滴らせた。怒りと悲しみを織り交ぜた様子が演じられていればいいが。
「彼女のことは本当にすまなかったと思っておる。じゃが彼女は貴方のために行動していたと理解してほしい。」
「死んだなんて嘘! 貴方が隠したんだわ。返しなさい……返しなさいよ!! 何度呼び出してもあの子は出てこない。何度も、何度も試したわ……。」
私は盆の上に置かれている指輪を乱暴に掴み取ると手の中で何度も転がす。まあ、蘇りの石では生きている者を呼び出すことは出来ない。咲夜は私の横にいるので呼び出せるはずがない。
「あの子は生きているんでしょう? 貴方の都合で、まだどこかで働いているんでしょう!? 十六夜咲夜は私の従者よ……。私の……大切な……家族よ。」
そこまで言い切り、私は大粒の涙を流してソファーに座り、蹲る。咲夜は私に寄り添って背中を優しく撫でてくれた。何とも悲壮感溢れる光景だが、咲夜が背中を撫でてはギャグにしかならない。反射的に笑いそうになるのを私は強引に抑える。笑い声が漏れそうになったので、嗚咽として口から出した。
「ダンブルドア様、今日のところはお引き取り下さい。」
小悪魔が淡々とダンブルドアに言う。ダンブルドアは一刻も早く逃げたかったのか、早々にソファーから立ち上がった。
「……彼女はもうこの世にはおらん。あのアーチを潜ってしまったのじゃ。あの奥がどうなっているのか、あの中から戻ってきた者は一人もおらん。今日はすまなんだ。辛いことを思い出させてしまって……失礼する。」
ダンブルドアは招待状を取り出すと、杖を当ててホグワーツに帰っていった。私は涙を拭い去ると、身体を起こす。ソファーに手を掛け、溜め込んでいた笑いを爆発させた。
「生きてる人間を蘇りの石で呼び出せるわけないだろバーカ! あははははは! お腹痛いッ……。」
「お嬢様演技お上手ですね。」
小悪魔が感心したようにそう言った。褒めても給金は出ないぞ。まあ何にしても、作戦は成功だ。今のダンブルドアはショーケースのトランペットを見つめる子供と変わらない。子供のお小遣いではトランペットは手に入らない。それこそ、ショーケースを叩き割って強引に盗まない限り。まあ追いつめられると人間は何をやらかすか分からない。さっさと店舗を引っ越すことにしよう。
「さて、変人の間抜け面も拝めたところで私は自分の部屋に戻るわ。小悪魔、分霊箱の管理は貴方に任せるわね。咲夜、服が濡れてしまったわ。私の部屋で着替えるのを手伝って頂戴。」
咲夜は既に元の姿に戻っている。私が応接間を出ると、咲夜も後ろからついてきた。
「あれでよかったんですか? お嬢様。」
「いいのよ。これでこちらの匙加減で戦争を起こすことができるわ。魔法省に、分霊箱。私は二つの鍵を手に入れた。」
私は部屋に入ると咲夜の手を借りてドレスから部屋着に着替える。さて、ダンブルドアに分霊箱のありかを教えてしまったので、早々に引っ越しの準備を進めよう。私は部屋の机へと向かう。
「じゃ、パーティーの後片付けをお願い。」
「かしこまりました。」
咲夜は私に一礼すると部屋を出ていった。私の予想ではそろそろだと思うのだが。部屋で暫く待っていると、パチェが私の部屋に現れた。打ち合わせをしていたわけではないが、パチェも早々に紅魔館を移動させないといけないと思っているようだ。
「ただいま、レミィ。」
「おかえり、パチェ。」
私はパチェを出迎えると、向かい合って机に座る。紅茶の一杯でも出したいところだが、先ほどまで散々酒を飲んでいたところだ。今更お茶会もないだろう。
「それでレミィ、早速紅魔館を移転させればいいの?」
「いえ、少し様子を見るわ。移転させるのは、ダンブルドアが強引に分霊箱を取りに来る予兆が見られたときよ。」
すぐに移転させたら意図がダンブルドアにバレる可能性がある。六月までまだ時間はあるのだ。
「それ私がずっとダンブルドアの行動を監視してないといけないってことよね?」
「それが貴方の仕事じゃない。」
見るからに面倒くさそうだが、パチェには頑張ってもらわないといけない。基本的にホグワーツではダンブルドアの目があるから、こちらからパチェにコンタクトは基本取れないのだ。
「だからまあ、頃合いだと思ったら連絡を頂戴。なんにしても、今すぐっていうのはあまりにも露骨すぎるわ。ダンブルドアからしたら、私は咲夜を取り戻すために必死になっているように見えているはずよ。それこそ人前で大号泣するぐらいに。」
「なにそれ見たい。」
なんにしてもある程度はこちらから館の門を開いているスタンスを見せておかないといけないだろう。それこそ、強引な手段に出ようとした瞬間に移転させ、ダンブルドアを錯乱させるのだ。『お前の考えはお見通しだぞ』と。
「……まあ取りあえず分かったわ。ダンブルドアの動きには注意しておく。あ、そうだ。一応注意しておいて。ホグワーツの禁じられた森に紅魔館を移転させるつもりだけど、移転させたら外との連絡が取りにくくなるわ。特に梟便なんかはほぼ届かないから。私が魔法で繋げたポストから郵便は届くと思うけど。ああ、あと、煙突飛行ネットワークは問題なく使えるわよ。外出する場合はそれを使ってね。」
なるほど。では出来る限りマグルとの繋がりは切っていく方向で進めた方が良いだろう。移転させるまでは悟られないように繋がりを断つわけには行かないが、移転させた途端にぷっつり繋がりを切っても支障がないようにしておかないと。
「それじゃ、私はホグワーツに行くわ。作戦が成功したのならダンブルドアは今日は私に接触してこないはずだけど、いつまでもホグワーツから離れるわけにもいかないし。」
「ええ、行ってらっしゃい。」
私は椅子から立ち上がるとパチェをぎゅーと抱きしめる。パチェは表情こそ平然としていたが、顔を真っ赤にしていた。私がパチェを解放すると、パチェは軽く手を振ってからその場から消える。私は誰も居なくなった部屋でベッドに倒れこんだ。
「パチェとの約束……守れるかしら。」
パチェが提案した死んだ人間を生き返らせるプラン。考えを巡らせてはいるのだが、いまいちこれといった作戦を思いつけていなかった。まず大切なのが、ダンブルドアから灯消しライターを奪うこと。灯消しライターを奪うのは、蘇りの石を取り付けないといけない為、ダンブルドアに分霊箱を渡す前にしなければならない。だが、それをすると今度は蘇りの石をダンブルドアに渡すことが出来なくなる。というか灯消しライターごとダンブルドアに蘇りの石を渡さなくてはならない。だとしたら先に蘇りの石を渡して、分霊箱を壊させたあと蘇りの石と灯消しライターを奪うか? なんにしても、一番の難所はそこだろう。
「灯消しライターと蘇りの石……まるでパズルね。でも、やり方自体はいくらかある。あとは、どうするのが一番無難で確実かだけど……。」
それ以外の要素も複雑に絡んでくる。占いや術を用い、下準備をバッチリこなしたとしても、運の要素が付きまとうだろう。
「……手遅れになる前に手を打たないと。」
私はベッドから起き上がり、まずは書類仕事から始めることにした。
クリスマスパーティー
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ダンブルドアがレミリアに分霊箱を要求する
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レミリアが見返りに咲夜の返却を求める
↓
ダンブルドア悩む
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レミリアも悩む(主に計画で)←今ここ