はい、スランプです。というか花粉の影響でコンディションが最悪です。超絶不調……死ねる。というわけで難産気味の今回ですが、次回から頑張ります。
誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。
1997年、四月。
冬もすっかり過ぎ去り、紅魔館の庭には花が咲き乱れている。美鈴が手入れしているそうだが、見事なものだった。そして、私の心も今日の天気のように晴れやかだ。ようやく、ようやく計画の修正策がまとまった。私の考えた策がきっちり嵌れば、最終的に出る死者は当初の予定より随分少なくなる。下手をすると普通に戦争が起きるよりも死者が少なくなるだろう。
さて、考えが纏まったところで早速実行に移そう。まずは魔法省だ。私は外出用の服に着替えると、咲夜に一言出かけることを伝え、大図書館に移動する。大図書館では、小悪魔が妖精メイドと共にポーカーをしていた。妖精メイドは裏表がないが故に、手札が読みにくい。深く考えるタイプであればあるほど墓穴を掘るのだ。
「小悪魔、ちょっと魔法省に行ってくるわ。」
「あ、はい。気を付けてくださいね。今の時間帯は警備の者以外全員退社しているはずです。」
「大丈夫よ。占い学の権威ということで、神秘部の予言保管庫に関してはフリーパスを持ってるから。」
吸血鬼であるということを考慮してか、夜でも自由に魔法省に出入りしていいという許可が下りている。煙突飛行ネットワークで魔法省に移動し、受付で通行証を見せ、エレベータに乗り込む。魔法省のアトリウム、暖炉のある階は地下八階、神秘部は地下九階なので、エレベータで一つ降りるだけだ。
神秘部についたら総当たりで予言保管庫に続く扉を探し、時計の間を抜けて保管庫に辿り着く。下手をするとここに来るのも最後になるだろう。ボードは元気にやっているだろうか。私は歩き慣れた通路を足早に進んでいく。私の予言が並べられている棚まで行くと、去年の秋に咲夜が並べたであろう二つの予言を確認した。ヴォルデモートに向けて送った予言は、棚から無くなっている。これはクィレルから話を聞いている為、確認済みだ。ロックハートがここから回収して、その後捕まりアズカバンまで持って行ったはずである。問題はもう一つ。ダンブルドアに向けて送った予言だ。
「予言は……よし、まだあるわね。」
クリスマスに予言について言及されなかったので、まだ回収していないとは思っていたが、それから既に四か月も経過している。流石に回収されているものかと半分諦めていたが、まだダンブルドアはこの予言を見ていないようだった。
私は予言を手に取り、まだ誰も閲覧していないことを確かめると、その内容を書き換える。いや、書き換えるというよりかは書き加えるか。
「アルバス・ダンブルドアに送る。1997年、六月。魔法界の命運を懸けた戦いが起きるだろう。その戦いで多くの死者が出るが、その殆どは息を吹き返す。」
私は予言を書き加え、水晶玉を棚に戻した。取りあえず、これでいいだろう。何故このタイミングで予言を書き加えたか。それは灯消しライター問題を解決するためだ。パチェの熱心な調査により、灯消しライターの運用法が明らかになってきた。まず第一に使い方だが、これは簡単だ。死亡した直後の人間のそばでスイッチを押すと、その人間の魂がライター内に保管される。人間というものは本来は死ぬと肉体から魂が離れ、あの世へと向かっていく。その道中で魂を回収するわけだ。そしてその魂を解放すると、魂は肉体にもどるということである。
だが、気を付けなければならないことが少しある。まず第一に、回収した魂の肉体が生存に適している状態でないと蘇生は不可能。魂は一度肉体に戻るが、その後すぐに死に絶える。勿論、死んでいる間に肉体を修復すればこの限りではないが。第二に、一度あの世に行ってしまった魂は定着することがないということだ。つまりはどういうことか。死んですぐの人間にしか効果がないということである。このすぐという時間が非常に短く、平均で数秒、長くても十秒ないぐらいだ。
何故ここまで詳しくデータが取れているか。それはひとえにパチェの功績だ。なんとダンブルドアから五分だけ実物の灯消しライターを貸して貰えたらしい。会話の中で灯消しライターの話題が出て、少し触らせてもらったようだ。その時に内部構造を解析し、精巧なレプリカを作り上げた。パチェが持って帰ってきた灯消しライターのレプリカに蘇りの石を組み込み、人体実験を開始した。食材用に保管していた人間を用い、死の呪文を掛けては灯消しライターで魂を保管、肉体に戻してみる。それを繰り返し行い、データを取ったわけだ。
パチェ曰くレプリカはレプリカ、言ってしまえば劣化版で、耐久性はあまり高くはないらしい。ダンブルドアが持っている灯消しライターには特殊な素材が使われているらしく、完全に同じものを用意することは叶わなかったそうだ。レプリカに保管できる魂の容量はおよそ三十程度。パチェの試算では、ダンブルドアの作ったオリジナルを用いれば軽く千の魂を保管できるらしい。
まあ、要するにこの実験で分かったことは、灯消しライターを戦場で使用し、死者を蘇らせることが出来る者はただ一人、十六夜咲夜だけであるということである。彼女の時間停止がないと、死んですぐの魂を保管することは出来ない。それをさらに完璧に行うには、時間を戻す必要性も出てくるだろう。そう、逆転時計を用いるのだ。
今考えている計画はこうだ。私が咲夜に分霊箱を託し、咲夜がダンブルドアに分霊箱を渡す。私が咲夜に逆転時計を渡し、ダンブルドアも咲夜に完成した灯消しライターを渡す。戦争が終わり、私たちは紅魔館と共に移動を始める。その瞬間、もしくはその前に咲夜が逆転時計を使って戦争が起きる直前に戻る。咲夜が灯消しライターと逆転時計を使い、死者の魂を保管。紅魔館が移転したらその魂を解放し、死者を蘇らせ、咲夜は逆転時計で紅魔館移転前に戻る。
取りあえず流れとしてある程度は計画を立てることが出来たが、あとはこの計画をどう実行に移すかということかだ。今回、予言を書き加えたのはその辺が関係してくる。ダンブルドアにこの戦争の結末を匂わせることで、灯消しライターの準備をさせるのだ。ダンブルドアに分霊箱を渡した瞬間に、死喰い人が攻めてくるように調整する。ダンブルドアは当然受け取った分霊箱をすぐに壊しに掛かるだろう。それこそ何事よりも優先して。そしてその時に、蘇りの石を灯消しライターに組み込むように意識を向けさせるのだ。
まあ、何にしても不確定要素が付き纏う。何より今の計画では、咲夜には何も知らせないことを前提としているのだ。咲夜がどういった状況でどう動くかを予想し、計画を立てている。
「まあ、あとは咲夜次第か。私としては別に生き返らなくても何も問題ないし。」
そう、この計画で最も重要なのは、失敗しても失うものが限りなく少ないということだ。例え死者が生き返らなくても紅魔館の移転は出来る。死者が生き返らない状況になったということは、咲夜は私のそばにいるはずなので、咲夜を魔法界に置いていくということもないだろう。
「……咲夜を試してみるというのもいいかもしれないわね。と言っても、あの子は結構簡単に死んじゃうからあまり無理はさせられないけど。」
十六夜咲夜は吸血鬼であるレミリア・スカーレットの従者だ。その本質は人間というよりかは妖怪に近く、価値観も私や美鈴にかなり近い。自分が人間であるということは理解しているようだが、人間を接するとき、相手を『人間だ』と意識して接している節があるのだ。ハッキリ言って、これは人間としては異常である。咲夜は早々に人じゃない何かに変化してしまうかも知れない。まあ、私としてはそれも構わないのだが。構わないのだが、それは私が選ぶべきものではないと思う。今まで咲夜は選択できる環境になかった。妖怪に育てられ、魔女に見守られ、吸血鬼に仕える。だが、今は選択できる立場にいる。人間に囲まれ、人間から慕われている。
「ああ、そうか。」
私は予言保管庫を歩きながらポンと手を打った。咲夜を動かすために色々と考えていたが、逆だ。咲夜に、この戦争の命運を任せてみよう。パチェもそれなら納得してくれるだろう。ある程度の道具を状況を与えて、死者を生き返らせるか、死者をそのままに私たちと一緒に移動するか。
「一概には言えないけど、もし死者を生き返らせたらなら、咲夜はまだ人間として生きていけるかも知れないわね。その時は……少しは協力してあげましょうか。」
神秘部から出て、エレベータに乗り込む。これである程度の方針は出来た。こちらで厳密に計画を立てるよりも、お膳立てをするだけの方が相当楽だ。何より生き返らなくても、それが咲夜の選んだ道だと納得できる。失敗したと認めなくてよいのはかなり精神的に楽だ。エレベータを降り、受付に一言挨拶をしてから煙突飛行で紅魔館に帰る。さて、次は引っ越しだ。私は本の整理をしている小悪魔の横を通り抜け、自室に戻った。
私が書斎で仕事をしていると、突然私の横にパチェが現れた。私は一瞬ピクンと反応したが、すぐに表情を取り繕う。
「あら、お帰りパチェ。このタイミングで帰ってきたということは、ダンブルドアが動き出したのね?」
私は軽く椅子を引きパチェの方へ振り返る。パチェは小さく頷いた。
「ええ。どうやら六月に死喰い人のアジトに攻め込むらしくてね。何が何でも分霊箱を手に入れたいようよ。」
なるほど、ということはそろそろ強引な手段で分霊箱を奪ってくるかも知れないということか。
「わかったわ。今すぐにでも紅魔館を移しましょうか。」
「咲夜を少し借りるわよ。今から四時間後……そうね、深夜零時には大図書館に来て頂戴。」
パチェは部屋の中を見回すと、その場から居なくなる。多分館内にいる咲夜のところに行ったのだろう。にしても四時間か。もっと数分ぐらいで出来ると思っていたが、案外時間が掛かるらしい。まあ、なんにしてもパチェと咲夜に任せておけばいいだろう。私は椅子の位置を戻して書類仕事に戻る。と言っても、マグルの世界との繋がりはこれで切れるのでこの書類も必要ないものか。
「あ、そうだ。地下にあるプラチナ、パチェに渡しておかないと。」
少し前に小悪魔がグリンゴッツから取ってきたものだ。勿論、正規の手続きを取ってだが。あの時は意地を張って手で持って運んだが、魔法で移動させてしまうのが一番手っ取り早い。小悪魔なら数トンの荷物程度なら簡単に転送できるだろう。
そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされた。
「十六夜咲夜です。」
「入っていいわよ。」
「失礼致します。」
咲夜は静かにドアを開け、書斎の中に入ってくる。そのまま私の隣に来ると、もう一度小さく礼をした。
「パチュリー様から伺いました。お引越しをなさるようで。」
どうやら先ほどパチェから話を聞いたということを報告しに来たらしい。私は椅子を軽く引くと、肘を机の上につき、咲夜の方に体を向けた。
「ええ。防犯の重要性に目覚めたの。」
「それはそれは……ちなみに今まで泥棒に入られたことは?」
「そうね、私が当主になってからは無いわ。」
咲夜と冗談を飛ばし合い、くすりと笑い合う。
「そうだ。館にいる全員にヘルメットを支給しなさい。着用義務よ。こんな大きなものを動かすんだからきっと滅茶苦茶揺れるわ。落下物注意よ。」
「防災頭巾でもよろしいでしょうか。」
防災頭巾? 聞いたことのない単語を聞いた。私が首を傾げると、咲夜が鞄からクッションのようなものを取り出す。咲夜はそれを開き、頭巾のように被った。
「なにそれ! かわいい!」
咲夜はふふんと胸を張る。私は咲夜の差し出した防災頭巾をかぶり、顎ひもを軽く縛った。うん、こういうのをギャップ萌えというのだろう。咲夜は防災頭巾の代わりに工事用の黄色いヘルメットを被りなおす。咲夜の身長なら防災頭巾よりもヘルメットの方が似合っているだろう。
「では、妖精メイドに支給して参ります。時間になりましたら大図書館に集まるように招集を掛けますので。」
「ええ、あそこなら落ちてくるものは本ぐらいでしょうし、ちょうどいいと思うわ。パーティーホールでもいいかも知れないけど、シャンデリアが怖いものね。」
「では、私はこれで。」
咲夜はヘルメットを被ったままぺこりと頭を下げ、その場から居なくなる。さて、私も引っ越しの準備を始めよう。私は防災頭巾を被ったまま、棚の上の落ちたら壊れそうなものを床に並べていく。ついでに引き出しもテープで止めておこう。
「貴重品はベッドの上に置いておこうかしら。上から毛布を掛けておけば落ちないわよね。」
これで振動対策は完璧である。少しの地揺れ程度では落ちる物はないだろう。
「さて、次は私の部屋ね。」
私は貴重品をベッドのある自分の部屋に運ぶために書斎を後にした。
深夜零時頃。私は防災頭巾を被って大図書館に来ていた。咲夜やパチェから話を聞いたのか、美鈴や妖精メイドも大図書館内にいる。妖精メイドは数人でグループを作り本を積み木のようにして遊んでいる。美鈴は美鈴で何か期待したような目でそわそわしていた。
「そろそろパチュリー様の仰っていた時間になるんですけど……。」
咲夜が一冊の魔導書を見ながら、やはりそわそわとしている。やはり皆一大イベントということを理解しているようだ。ロンドンに建てられてから数百年、一度も館を移動させたことはなかった。いや、そもそも館を移動させることなど普通は出来ないのだが。
「あ、連絡きました。少し行ってきますね。」
咲夜は魔導書を確認すると、私の隣に瞬間移動する。いや、多分瞬間移動したのではない。時間を止めパチェの作業を手伝ったあと、止まった時間の中で私の時間を動かしたのだろう。ということはだ。
「さて、もうすぐよね?」
私が咲夜に確認を取ると、咲夜はコクコクと頷いた。
「はい。準備は整っているようです。」
さて、それではそろそろか。私は防災頭巾を深く被り直し、いつでも揺れに対応できるように羽をそわそわと動かした。地揺れに対する対策は出来ている。空を飛べば揺れは感じないはずだ。大図書館はそこそこ広い。浮かぶぐらいなら十分可能だろう。
次の瞬間、私の目の前にパチェが現れる。大図書館で儀式を行うということか?
「終わったわよ。」
パチェは何時もの調子でそう言った。私は少しきょとんとしてしまう。
「何も起きてないじゃない。」
「咲夜、時間停止を解除していいわよ。」
次の瞬間、妖精メイドが一斉に動き出す。どうやらパチェは私の呟きを完全に無視することにしたようだった。
「全員注目!」
パチェが呼びかけると妖精メイドが一斉に振り向いた。
「これから数か月、館の外には出られないわ。」
パチェがそう言った瞬間、妖精メイドからブーイングが沸き起こった。妖精メイドに関しては殆ど管理していないが、紅魔館の周辺で遊んでいることもあるらしい。だがここは我慢して貰わないといけないだろう。
「というか、結界があるから妖精メイドは出られないけどね。」
どうやら、物理的に出られないようになっているようだった。それなら情報漏洩の危険性はないだろう。
「レミィ、美鈴、咲夜、小悪魔、よく聞きなさい。紅魔館はホグワーツの禁じられた森の中に存在する。……さて、儀式は終了。一応起きたことを説明しておくわね。」
パチェは私の方をチラリと見て、小さくため息をついた。どうやら、ようやく説明をしてくれるようだ。パチェは空中をなぞるように手を動かし、黒板を出現させる。
「まず、私たちが向こうの世界にわたるときに紅魔館も送りたいって話になったのよね。それで戦いが起こりそうな場所に紅魔館を持ってきた。」
話になったのよねなんて簡単に言ったが、その話をしたのは相当昔だ。少なくとも数十年前だったはずである。
「もっとも、ただこっちに持ってきただけだとダンブルドアにその存在がバレるし、何より目立つわ。だから私は紅魔館が移動してくると思われる場所に予め忠誠の呪文を掛けた。これは生きた人間に秘密を封じ込める魔法で、私が秘密を漏らさない限り館にぶつかるまで近づいても紅魔館の存在には気が付けない。つまり紅魔館は今誰にも認知されない。同時にヴォルデモートの分霊箱も隠されてしまったわけだけど、まあいいわよね。」
パチェは私に確認を取ってくる。というか、まあいいわよねじゃない。それをするために引っ越したのだ。
「ええ、問題ないわ。」
忠誠の呪文は秘密を隠す呪文としては最上級なものだ。忠誠の呪文で隠された物や場所は例えパチェでも見つけることは出来ない。それほどまでに完璧に隠されるのだ。確か今だとアズカバンの一部に掛けられていたはずである。
「でも、つまらないわね。もっとガタンゴトンと大騒ぎになると思ったのに。」
少し肩透かしだ。私は顎ひもを解き防災頭巾を取る。
「私がそんなヘマをするわけないでしょう? それと、美鈴。貴方門番の仕事はもういいわ。」
「解雇通知!?」
パチェの言葉に美鈴は唖然とするが、そういう意味ではないだろうに。
「あら、本当に解雇してもいいのよ。」
「おぜうさま~、冗談はよしてくださいよ。」
美鈴はへらへら笑うが、私は無表情を貫く。美鈴はそんな私の無表情を見て無言で頭を下げた。私はその無防備な後頭部に私は拳骨を落とす。
「痛ッ!? なんで叩かれたの私?」
いや、なんとなくだが。パチェは手を振り、妖精メイドが遊んでいた本を全て本棚に戻した。
「また少し出かけてくるわ。ホグワーツに。」
パチェは軽く肩を竦めると姿をくらませる。まあ準備に数時間使ったこともあり、あまりホグワーツの自分の部屋を空けられないのだろう。本当に、苦労を掛ける。
「美鈴、咲夜、少しついてきなさい。」
私は美鈴と咲夜に軽く手招きし、大図書館を離れる。小悪魔には不貞腐れた妖精メイドのフォローを任せておこう。私は階段を上り、時計台の展望室に出る。そこの窓の先にはホグワーツ城があった。なんというか、こうやって見るとホグワーツは紅魔館より少し大きい。まあ、内部に関してはうちの方が大きいと思うが。
「面白いわね。こっちからは見えているのに向こうからは見えないなんて……どう? 咲夜、久しぶりのホグワーツは。」
「……不思議な感じがします。そもそもこのアングルから城を見ることが殆どないので。」
まあそうか。ここは禁じられた森の真ん中である。普段生徒は立ち入らないだろう。
「そうでしょうね。でも、ここともあと二か月でお別れよ。私は六月にここで戦争を起こす。多分大勢死ぬでしょうね、都合のいいことに。私たちは伝説になるのよ。」
「伝説に……ですか?」
咲夜がおうむ返しに聞いてくる。ここの伝説にというのは、パチェが行う術に関わってくることだ。これはこの術の概要を説明されたときに聞いたことだが、私たちが行く土地には特殊な結界が掛かっているらしく、その結界は面白い性質を持っているようだ。
現代社会にて幻想となったものを引き入れるという性質だ。ようは妖怪や化物を引き込む結界ということである。そういう性質を持っている為、一見簡単に結界を越えられそうだが、そんなに簡単な話でもない。私たちは魔法界で有名になり過ぎた。要は魔法界という人間の社会では、幻想のものではなく、現実のものと認識されているのだ。
だから伝説になるような戦争を起こし、現実的ではないその結果に乗って移動するのである。とても簡単に説明したが、術の内容はもう少し複雑だ。
「そう、伝説。異端である魔法界という世界から異端だと認識されるように。伝説、幻想、神話。まあ特殊な存在だったら何でもいいわ。」
おっと、しゃべり過ぎただろうか。私は咲夜に軽く手を振り、時計塔を降りた。その後を美鈴が駆け足で追ってくる。
「伝説になりたいだけなら、自分で魔法界に宣戦布告したほうがいいんじゃないですか?」
美鈴は私に追いつくと、そんなことを提案してくる。私は階段で立ち止まり、美鈴の顔を見た。
「貴方……暴れたいだけでしょ。」
美鈴は何時ものようにヘラヘラしているが、獣のような目をギラギラさせている。この戦闘狂めが。私はため息をつくと、階段という高さを利用して美鈴の肩に手を置いた。
「美鈴、力を溜めておきなさい。移転した先で侵略戦争を始めるわ。貴方には特攻隊長を任せようと思っている。暴力によって仲間を集め、軍隊を作りなさい。」
「え? 私が隊長ですか? ……いいですねぇ。でも、仲間を増やすってことは殺しは無しってことです?」
「侵略に行くって言ってるじゃない。皆殺しにしてどうするのよ。」
なんにしても、美鈴は取りあえず納得したようだった。変な歌を歌いながら階段を駆け下りていく。何とも調子のいい奴だ。私は肩を竦めると、階段を降り自室へと戻った。
1997年、五月。
私が部屋で一人チェスの駒を並べていると、部屋のドアがノックされた。
「お嬢様、手紙が届いております。」
どうやら咲夜のようだ。にしても手紙か。忠誠の呪文が掛かっていても、その辺は届くらしい。まあ確かに、私の引き出しにはマグルから送られてきた手紙が溜まり続けている。それに一応目を通すのも私の仕事だ。
「入りなさい。」
私はチェスの駒を各陣営に見立て、盤の上に置いていく。現状では、死喰い人の方が人数としては多いが、魔法省のほうが質がいい。まあバランスは取れていると言えるだろう。咲夜は私の横まで来ると、一通の便箋を差し出した。
「ダンブルドアからです。」
私は咲夜から便箋を受け取り、宛名を見る。そこにダンブルドアの名は無かったが、咲夜は一枚の鳥の羽根をチラリと見せた。不死鳥の羽だ。ダンブルドアが飼っているものだろう。私は封蝋を破り、手紙を取り出す。手紙の内容は咲夜に関する謝罪と、私が持っている分霊箱がないと魔法界のこの先が危ういといった内容が書かれていた。
「女々しいわね、ダンブルドアも。過去に色々と背負い込み過ぎているのよ。」
「分霊箱に関する手紙ですか?」
咲夜が読んでも問題ない内容だと判断し、私は咲夜に手紙を渡す。ダンブルドアには悪いが、その背負い込み過ぎた過去というものを、武器としてヴォルデモートに与えた。ダンブルドアが抱える心の闇、弱点というのはアリアナ・ダンブルドアのことだ。ダンブルドアはアリアナを自分が殺したものだと思っており、今回咲夜の死に動揺しているのも、咲夜にアリアナを重ねた結果だろう。そしてアリアナのことは、クィレルを通じてヴォルデモートに伝達済みである。小悪魔を見ていると、ヴォルデモートは精神的な攻撃が得意と見える。実力が拮抗した場合、その一手が切り札となってヴォルデモートはダンブルドアに勝利するだろう。ヴォルデモートがダンブルドアを殺し、ハリーがヴォルデモートを殺してくれないと上手く両陣営のトップが死なない。
順調にヴォルデモートがダンブルドアを殺したとして、ハリーがヴォルデモートを殺せるかという問題が残るが、それもまあ問題はない。ヴォルデモートは絶対にハリーを殺せないからだ。ハリーに掛けられた護りの呪文はハリーが成人になるまで効力を持つ。1997年の六月の時点では、ハリーはまだ十六歳。十七歳の誕生日は迎えない。故に、ヴォルデモートからの攻撃で死ぬことは絶対にないと言い切れる。まあ取りあえず、ダンブルドアが分霊箱寄越せとうるさいが、まだ早いだろう。
「まだあと一か月早いわね。」
「渡す気はあるんですね。」
咲夜が少し意外だという顔をした。私は当然だと胸を張る。
「ヴォルデモートを殺すのはあくまでダンブルドアかハリー、つまり向こう側の陣営よ。まあ、ダンブルドアはヴォルデモートに殺されるんだけど。」
咲夜から返された手紙を、私は跡形もなく燃やし尽くす。いい機会だ。そろそろ戦争を起こす日を決めよう。私は机の上に置いてあるカレンダーをチラリと見て、少し考える。いや、考えるまでもなかった。
「クィレルに伝えなさい。ホグワーツに奇襲をかけるのは六月十三日にしなさいと。」
「六月の十三日……金曜日ですね。」
「そう、伝説を作るにはピッタリ。楽しい夜になりそうね。」
咲夜はそれを聞くと一礼して何処かへ消える。どうやら、クィレルに伝言を伝えるために魔法省へと向かったようだ。私は机の上に置かれた不死鳥の羽根を弄りながら一人呟く。
「ダンブルドアもビックリでしょうね。何せホグワーツ中の暖炉がアズカバンと繋がるんですもの。安全地帯が一気に戦場と化す恐怖。ぞくぞくするわ。」
魔法省に手駒がいるからこそ行える作戦だ。私はクツクツと笑うと不死鳥の羽根を引き出しに仕舞い込んだ。
レミリアが予言を書き換える
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紅魔館がホグワーツに引っ越し
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咲夜がアリアナと話す
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パチュリーが死喰い人に対し「この戦争に関与しない」と明言する
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アラゴグ、まさかの死
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ダンブルドアがレミリアに手紙を出す
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戦争を起こす日を決める←今ここ
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ダンブルドアがグリンデルバルドを仲間に引き入れる
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ヴォルデモートがニワトコの杖と同格、それ以上の杖を手にする
次回から戦争当日に入れるといいですね。