紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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最近煩悩と戦いながらこれを書いている私がいます。でもよく考えたら私自身が煩悩みたいなものでした。

誤字脱字等御座いましたらご報告していただけると助かります。


ホグワーツ決戦やら、ポップコーンやら、戦況やら

 1997年、六月十三日。

 ついに私の計画も最終段階に来た。いよいよ今日が決戦の日だ。私は自分の部屋に美鈴と咲夜、小悪魔を呼ぶ。クィレルは今は魔法省にいるだろうし、パチェはホグワーツにいるだろう。私は三人を後ろに待たせた状態で、ダンブルドアに手紙を書いていく。内容は、分霊箱を従者に届けさせますというもの。私はその手紙を直接蝙蝠に変化させると、部屋の窓から放った。

 

「……と、これでOK。」

 

 小悪魔は蝙蝠を見送ると、身に着けている分霊箱を銀の盆の上に載せていく。これをダンブルドアの元に運ぶのは咲夜の仕事だ。私は無事ダンブルドアに手紙が届いたことを確認し、咲夜に合図を出す。

 

「……よし、ダンブルドアは手紙を受け取ったわ。咲夜、行ってらっしゃい。」

 

「畏まりました。」

 

 咲夜は私に一礼し、盆を持って姿を眩ませる。私は軽く一息つくと、美鈴と小悪魔を連れて部屋を出た。

 

「さて、咲夜が分霊箱を持って現れたことによってダンブルドアは滅茶苦茶びっくりするでしょうね。そこを狙うのよ。」

 

「何がです?」

 

 私の言葉に、美鈴が首を傾げる。そんな美鈴に小悪魔が人差し指を立てて説明を始めた。

 

「ヴォルデモート率いる死喰い人は、クィレルが繋げた煙突飛行ネットワークによってホグワーツに侵入するんです。侵入してからホグワーツに死喰い人が広がるまでの少しの間、ダンブルドアの目を何かに釘付けにしておけばいいということですよ。」

 

「咲夜ちゃんの愛らしさでメロメロにするってことですね。」

 

「……まあ、そういうことにしておきましょう。」

 

 あ。小悪魔が諦めた。まあでも、あながち間違ってはいないか。私たち三人は階段を降り、大図書館へと入る。私が何時ものように椅子に座ると、小悪魔が目の前の机の上にホグワーツの映像を映し出した。

 

「先生があちこちに目を仕込んでいたみたいで。悟られることなく戦争を見学することが出来ますよ。」

 

 大広間は凄い騒ぎになっている。悲鳴かと思ったら悲鳴交じりの歓声だ。どうやら咲夜が生きていたことに関する歓声らしい。ダンブルドアはダンブルドアで、目の前の分霊箱と咲夜を交互に見ていた。

 

「三、二、一……今アズカバンとホグワーツの暖炉が煙突飛行ネットワークで繋がりました。ダンブルドアは……まだ気が付いていないでしょうね。」

 

 まあ、気が付かないだろうな。そのための咲夜だ。咲夜には死喰い人が大広間に到達するまで、ダンブルドアの目を引いてもらわないとならない。それにこの爆発したかのような歓声のおかげで、周囲の音も掻き消えていることだろう。

 暖炉から沸いた死喰い人は廊下にいる生徒に死の呪文を掛けながら凄い速度で大広間へと進んでいく。その中で一つだけ攻めに出ず、陣地を構築するかのような動きがあった。スリザリン寮の暖炉だ。

 

「どうやらヴォルデモートはスリザリン寮に拠点を構えるつもりらしいわね。」

 

 安全を確保したあとで、悠々とホグワーツに乗り込むつもりなのだろう。

 

『敵が攻めてくるわ! 全員戦闘配置につきなさい!』

 

 咲夜の叫び声と同時に、津波のように死喰い人が大広間になだれ込んできた。用意が出来ている死喰い人と、不意を突かれたホグワーツ生。どちらが有利かは言うまでもない。だが、死喰い人に被害がないわけでもなかった。ホグワーツの大広間は死屍累々で、床が生徒や死喰い人で埋め尽くされる。廊下のあちこちでは光線が飛び交い、そのたびに人が倒れ伏した。

 

「順調に生徒が死んでいるようね。やはりホグワーツを戦場に選んで正解だったわ。」

 

 魔法使いと言えど、ホグワーツに通っている生徒はまだまだ子供だ。大人の魔法使いに対抗できるわけもなく、一方的に死の呪文によって殺されていく。

 

「そろそろ不死鳥の騎士団が到着する時間よ。闇祓い及び傭兵部隊は更に二十分後。」

 

 いきなり私の横にパチェが現れる。そういえばすっかり馴染んでいて気が付かなかったが、教員テーブルの端っこにパチェは座っていたようだ。多分戦争が始まったからヴォルデモートに明言した通り干渉しないようにこちらに逃げて来たのだろう。パチェは私の横に腰かけた。

 

「そんなに早く騎士団員がくるの? 闇祓いより到着が遅れるものと思っていたんだけど。」

 

「不死鳥の騎士団は今日ホグズミード村で会議を行っていたのよ。都合良くね。」

 

 パチェはそう言うが、きっとパチェが何か仕込んだに違いない。

 

「そう。それは何ともまあ『都合の良い』ことで。」

 

 私は適当に納得すると、パチェが動かした映像を見た。目の一つは咲夜を追っているものらしく。咲夜は死喰い人を物凄い速度で蹴散らしながら廊下を走っていた。

 

「咲夜、これ普通にナイフで殺しているけど……。」

 

 パチェがぽつりと呟く。まあ、言わんとすることは分かる。ナイフで殺したら、その外傷が原因で蘇生が出来なくなる。

 

「まあほんの一部じゃない。」

 

「いいなあ、咲夜ちゃん。楽しそうだなぁ……。」

 

 私の隣で美鈴がそんな物騒なことを呟いた。この戦闘狂め。

 

『なんだ!? 敵か! いや幽霊だな死ね!!』

 

 咲夜がマッドアイと鉢合わせる。どうやら、パチェの言った通り不死鳥の騎士団のメンバーが到着したようだ。咲夜は騎士団員と一言二言言葉を交わすと、別の方向に駆けだす。そして物陰に入った瞬間に消えた。数秒後、バチンという音がして咲夜が私の目の前に現れる。ここまでは予定通りだ。

 

「おかえり、咲夜。いい感じに戦争が起こっているわね。」

 

「ふむ、現在死者はホグワーツの生徒が五十人、死喰い人が三十人。少し死喰い人が押しているように見えるわね。」

 

 パチェの言葉が本当なら、騎士団員はまだ生き残っているようだ。だが、私の予想では、戦場はもっと血と肉で泥沼と化す。

 

「パチェ、ダンブルドアは今どこ?」

 

 パチェは映像の端の方を指さす。ああ、ここは私の記憶にもある。この無駄に小物が多い部屋は、間違いなく校長室だ。ダンブルドアは壁に掛けてあったグリフィンドールの剣を手に取ると、分霊箱を次々に壊していく。

 

「生徒を見捨てて自分は分霊箱優先……より大きな善のため、ね。」

 

 パチェがぽつりと呟いた。まあ、分霊箱の破壊を優先して貰わないと困るのだが。ダンブルドアは分霊箱を破壊し終わると、蘇りの石を見て少し固まったあと、ポケットの中に入れた。

 

「ちゃっかりしてるわ。咲夜、ポップコーン。」

 

「どうぞ。」

 

 咲夜は鞄からバケツほどのカップに入ったポップコーンを取り出すと、私に差し出してくる。アメリカの映画でよく見るようなサイズのポップコーンに少し戸惑うが、まあ雰囲気が出ていいかと、半ば強引に自分を納得させた。

 

「さあ、賽は投げられた。」

 

 私は不敵にほほ笑むと、机に映し出された映像に集中する。ホグワーツでは着実に死者が出ているようだ。そのうち蘇生できそうなものはその半分といったところだろうか。ホグワーツの生徒は死の呪文によって殺されることが多いが、死喰い人はその他の、もっと殺傷的な呪文によって死ぬことが多い。

 

「ダンブルドアとハリーが合流したようですね。」

 

 小悪魔が、校長室の入り口あたりを指さす。確かにそこにはダンブルドアとハリーが並んで走っていた。これは都合がいい。ハリーがここで死んでは非常に困るのだ。ダンブルドアもそれをよく分かっているのだろう。前に出ようとするハリーを庇いながらホグワーツの廊下を進んでいく。どうやら死喰い人が沸いてくる暖炉を先に潰すことにしたようだ。

 

「魔法省の闇祓いが、今ホグズミード村に到着したようです。」

 

 小悪魔が指差す先には、慌ただしく指揮を執るクィレルの姿があった。だが、ホグワーツは現在多数の吸魂鬼によって包囲されている。ホグワーツに到着するまでにはもう少し時間が掛かるだろう。

 

「ダンブルドアが暖炉を一つ封鎖しましたね。」

 

 ダンブルドアを目で追っていた咲夜がぽつりと呟いた。

 

「なるほど。ダンブルドアもバカじゃないわね。確かに暖炉を封鎖すればこれ以上死喰い人が入ってくるのを防げる。」

 

 だが、全ての暖炉を塞ぐことは不可能に近い。暖炉に近づけば近づくほど死喰い人の数は増えるのだ。暖炉の数が限られてくると、必然的に一つの暖炉から出てくる死喰い人の数が増える。最終的には暖炉に近づくことすらできなくなるだろう。

 私はポップコーンを食べながらこの戦争を見守る。今のところ、順調だと言えるだろうか。双方ともにかなりの死者が出ているように見える。

 

「いけ! そこだ! よし、いいぞ!」

 

「美鈴うるさい。」

 

 だが、パチェと小悪魔の表情を見る限り、少し問題も起こっているようだ。小悪魔は死者の数を数えながら、ぽつりと呟いた。

 

「やはり死喰い人の数が圧倒的に少ないですね。死んでいるのは殆どが生徒です。死喰い人の殆どが気絶させられたりといった、死とは違う方法で無力化されていってます。」

 

 想定内、とは言えないだろう。死の呪文を多用する死喰い人に比べ、ホグワーツの生徒や教員は失神呪文など、相手を無力化する術を使っていることが多い。倒れ伏している死喰い人の殆どは気絶しているだけで、まだ息があるということか。まあいい、死者の数は最悪足りなかったらこちらで殺せばいいのだ。

 

「死喰い人の本陣が到着したわね。やはりスリザリン寮を占拠し使う目論見みたいよ。」

 

 パチェは映像の一つを拡大する。そこにはヴォルデモートの姿があった。しっかりと拠点を築いてから現れるあたり、ヴォルデモートは用心深い性格とみえる。

 

「あ、ホッグズ・ヘッドにクィレルがいますね。どうやら闇祓いの本陣を率いてきたようです。」

 

 美鈴が呑気にそう言った。さっき小悪魔が言った言葉を聞いていなかったのだろうか。闇祓いたちは隊列を組み、吸魂鬼を突破しようと必死になっている。あの様子なら、数分で吸魂鬼の包囲に穴が開くだろう。

 

「さらに戦いは激化していくわね。」

 

 さて、そろそろ頃合いだろうか。私は計画を少し進めることにした。ポケットの中を探り、逆転時計を引っ張り出す。これはパチェが持っていた逆転時計だ。魔法省が管理していた逆転時計は去年の神秘部の戦いで全て壊れてしまっている。

 

「咲夜、持っておきなさい。」

 

 それを、咲夜に手渡した。

 

「あの時の答えを見せて頂戴な。」

 

 咲夜は私から逆転時計を受け取ると、目をぱちくりさせて不思議そうな顔をした。まあ、いきなりこんなことを言われても意味が分からないだろう。でも、それでいいのだ。あの時の答え、咲夜が二年生になったときに、私は咲夜の価値観を弄った。人間を人間として見れるように。ようは、生物というくくりから、人間を切り離したような形だ。そうしたことで、咲夜の中では人間というものに固有の価値観が出来たはずである。それが果たしてどういうものなのか、今ここで見せてもらおう。

 

「多分現存する最後の一つだわ。貴重なものよ。」

 

「あの時の答え……ですか。」

 

 咲夜は首を傾げつつも、逆転時計を首から掛ける。ダンブルドアなら、咲夜が首から下げているものが逆転時計だと分かるだろう。あとはダンブルドアが逆転時計を持っている咲夜を見て、全てを察してくれればいいだけだ。なんだか凄くダンブルドアまかせのように聞こえるが、そうなるように色々と種は撒いておいた。

 

「面白い戦いが見られそうですね。」

 

 小悪魔が指差した先はホグワーツの玄関ホールだった。ホグワーツ城の中でも一番の激戦区になっている場所である。そこは既に床が死体で埋め尽くされており、足の踏み場が無いほどである。何故このようなことになっているのか。答えは簡単だ。吸魂鬼の包囲を突破した闇祓いは当然のように一階の玄関ホールから入ってくる。それを死喰い人が迎え討ち、共倒れになった結果がこれだ。だが、小悪魔が面白そうだといったのは、この面白珍事件のことではないだろう。玄関ホールで睨み合っている二人の魔法使いがいる。マッドアイとクラウチだ。クラウチは一昨年中マッドアイの真似をしていた。その癖がまだ抜けていないらしく、しゃべり方や仕草がマッドアイに似ているのだ。

 

「新旧マッドアイね。実力的にはどうなの?」

 

「現役時代なら旧マッドアイのほうが強いでしょうけど、アレももう歳よ。今なら新マッドアイのほうが強いでしょうね。」

 

 パチェは冷静にそう分析した。先に動いたのはマッドアイの方だ。物凄い速度でクラウチに杖を向け、呪文を放つ。クラウチは放たれた呪文を盾の呪文で弾き、同じように呪文を掛けた。確かに、動作のキレはクラウチのほうがいい。

 私はふと目を放してダンブルドアの様子を確認する。ダンブルドアとハリーは暖炉を塞ぐことに集中しているようだ。闇祓いは死喰い人の無力化に走り、教員は暖炉を塞ぎに掛かっている。いい感じに役割分担が出来ているように思えるが、そうではない。闇祓いは単純に死喰い人を無力化しているだけ。教員は暖炉を塞いでいるだけだ。打ち合わせたわけではないだろう。

 そうこうしていると、玄関ホールに違う人影が飛び込んできた。騎士団員のトンクスとルーピンに、死喰い人のレストレンジだ。いや、二人は結婚したからニンファドーラ・ルーピンにリーマス・ルーピンと言ったほうが正しいのか。だが、まあ混乱するのでトンクスとルーピンでいいだろう。これで総合的に見れば二対三。騎士団側が少し有利か。

 

「あ、これ床に転がっているうちの一人はキングズリーみたいですね。多分クラウチにやられたんでしょう。」

 

 小悪魔が死者のメモを取りながらポツリと呟いた。キングズリーはダンブルドアからも信頼を置かれるかなり優秀な魔法使いだったはずだ。ただの死喰い人にやられるとは思えない。多分クラウチにやられたところに、マッドアイが来たのだろう。現在、クラウチはマッドアイと、レストレンジはルーピン夫妻とやりあっている。あ、ルーピン夫妻って言い方便利だな。そんなことを考えていたら、トンクスの放った逆転呪文がレストレンジに直撃した。そのせいで今まで罵声を飛ばしていたレストレンジが急に祝いの言葉を怒鳴り始めた。

 

「呪ってやるよ、じゃなくて、祝ってやるよってこと?」

 

 一番漢字を感覚として知っていそうな美鈴に冗談を飛ばす。

 

「呪うと祝うって漢字が似てますからね。」

 

 美鈴はすぐに私の言わんとすることを察して言葉を返した。そのあと、何かに気が付いたかようにハッとする。

 

「そういえば、私たちは戦いに参加しなくてよいのですか?」

 

 美鈴は体を疼かせながらそう言った。こいつは……何度か言ったはずなのだが、戦いを見てかなり興奮しているように見える。私は大きなため息をついて美鈴に再度確認した。

 

「あのねぇ……私たちはこれから何をしに行くの?」

 

 美鈴は少し考えたあと、ポンと手を打つ。

 

「日本にある秘境を侵略に。」

 

「じゃあその戦いの前に消耗してどうするのよ。私たちが手出しするとしたら、ダンブルドアとヴォルデモートが死ななかった時よ。」

 

 その場合はやむを得ず、私が直接手を下そう。まあ手を下すと言っても、咲夜に時間を止めさせて、止まっている時間の中で首を刎ねるだけだが。

 

「ああ、惜しい。新旧マッドアイ対決は二代目の勝ちですね。」

 

 アホみたいな話をしている間に、マッドアイが死んだ。やはり、クラウチは天才的な魔法使いだ。咲夜が一度殺されたのも頷ける。

 

「あ、トンクスが激情した。おお! 強い。まるで親を目の前で殺された子供のような怒りっぷりですよ?」

 

「なんですか? その具体的な例えは。」

 

 これで二対二になったが、クラウチとレストレンジのペアのほうが戦力的には上だろう。あの二人はペアで戦うことに慣れている。すぐにでもルーピン夫妻はただの有機物になるだろう。

 

「あ、ロンが死んだわね。」

 

 咲夜が誰に言うでもなく、一人ぽつりと呟いた。私は咲夜の視線の先を見る。そこでは見覚えのある赤毛を泣きながら引き摺る癖毛の女がいた。死んでいるのがロンで、泣いているのがハーマイオニーだろう。なんというか、懐かしい光景だ。死んだ人間を、無意味だと分かっていても運ぶ。それが自分の命を脅かす行為だと分かっていても。そのような状態で満足に動けるはずがない。ハーマイオニーも死の呪文にあたり、息絶えた。

 

「あら、貴方と仲の良かった人間じゃない?」

 

 私は二人並んで死んでいる人間を指さして咲夜に問う。咲夜は表情一つ変えずに問いに答えた。

 

「ハーマイオニーは優秀なはずなのですが、情に流されすぎましたね。」

 

 その答えを聞いて、パチェが少し表情を固くした。魔法界の行く末を咲夜に任せたという話はパチェにしてある。つまりパチェとしては、咲夜に少しは人間を思いやる心を持って欲しいわけだ。じゃないと、死んだ人間は生き返らず、多数の犠牲を残したまま魔法界を離れることになる。まあ私としては、どちらでもいいわけだが?

 

「悲しくはないの?」

 

 そう咲夜に聞いたのは美鈴だった。こいつからそういう言葉が出るとは思ってもいなかっただけに、少し驚いてしまう。だが、咲夜にとってはそこまで違和感がなかったのか、平然と答えた。

 

「本当に大切だったら何処か遠くへ隠していますよ。」

 

 口ではそう言っているが、咲夜の表情は何処か物哀しげだった。

 

「そう。」

 

 私は短く言葉を返し、咲夜の首に掛けられた逆転時計を見る。咲夜はまだ時間を越えていない。逆転時計で時を越えた瞬間から、世界は書き換えられるのだ。

 

「あ、ルーピン夫妻も死んだわね。」

 

 

 

 

 

 暫く経つと死喰い人の巨人部隊が到着した。巨人は暖炉では運べない。遠くから徒歩でやってきたのだろう。

 

「ついに巨人と人狼部隊も到着したわね。吸魂鬼は動かないのかしら。」

 

 さきほどから吸魂鬼はホグワーツを包囲したまま動いていない。だがまあ、あれでいいのだろう。吸魂鬼が戦闘に加わると、敵味方関係なく襲い掛かるだろう。死喰い人としても、それは望ましくない。

 

「にしても凄いのはクィレルね。」

 

 私は机の端にチラリと映るクィレルを見る。

 

「こんな状況になってもまだ魔法大臣として指揮をしているわよ。少し考えたらクィレルが裏で手を引いていたことぐらい分かるはずなのに。」

 

 クィレルには、死喰い人のスパイだとバレたら紅魔館に帰ってこいと命令を出している。だが、闇祓いを指揮しているところを見るに、まだバレてはいないようだった。どうやらクィレルは私が思っていた以上に信頼を勝ち取っていたらしい。まあ、それ以外に、パチェが合図を出した時にも帰ってくることになっているが。

 

「そういえば、クィレルはどの段階で拾いに行くのですか? 紅魔館の敷地内にいないと一緒に移動できないのですよね?」

 

「私が合図を出すことになってる。戦況次第ね。」

 

 咲夜の問いに、パチェは小さな赤いボタンを取り出して答えた。なるほど、そのチープなボタンを押すことで、クィレルに合図を送るというわけか。実にシャレが効いている。先ほど咲夜は一緒に移動すると言ったが、実のところクィレルを向こうに連れていく気はなかったりする。出来ればこちらの世界に手駒が欲しいのだ。まあ、連れていく流れになったら、連れていくが。私の中では、クィレルはまだ捨てられる手駒だ。有能な男だが、代わりがいない人材でもない。

 

「凄いですね。ホグワーツの中で一番平和なのがスリザリン寮ですよ?」

 

 確かに小悪魔の言う通り、スリザリン寮はとても静かだ。まあ、それもそのはずだろう。スリザリン寮のソファーには、ヴォルデモートが不敵な笑みを浮かべて腰かけていた。その横にはペティグリューとロックハートがいる。ペティグリューはなんとなく分かるが、何故ロックハートがあんなところにいるんだ? 確かに私はロックハートがアズカバンに行くように仕組んだ。だが、そこで殺されるものだと思っていたのだが。

 

「聖マンゴに行った時にアレの運命を少し弄ったのよ。まさかこんなことになるとは夢にも思わなかったけどね。」

 

 そう言えば、聖マンゴと言えば、もう一人いたな。私は映像の中を軽く探し、目的の人物を見つける。

 

「いたいた。このデビルなんちゃらって子の成長も凄いわよね。」

 

「ネビルです。お嬢様。」

 

 ああ、そうだ。ネビル・ロングボトムだ。

 

「まさかあそこまで劇的に成長するとは思わなかったわ。」

 

 病院で見た頼りない姿は何処へやら。死喰い人と戦う顔つきは戦士のそれだ。

 

「お嬢様。まさかネビルの運命も操っていたのですか?」

 

「厳密に言えば能力ではないんだけどね。簡単なメッセージを送っただけよ。がんばれ~って。」

 

 私は両手を握り、小さく上下に振った。まあ、厳密にはそんなに生易しいメッセージでもないのだが。ネビルには『戦え』とメッセージを送った。それも、母親からのものだと勘違いするように。ネビルはメッセージ通り『戦って』いる。

 

「パチェ、被害状況は?」

 

「ゼロよ。」

 

「私たちじゃなくて。」

 

 パチェは死者をカウントしていた紙を私に見せてくれた。先ほどまでと比べると、死喰い人の死者数が一気に増えている。これは一体何事だろうか。都合がいいことこの上ないが、原因は知りたい。

 

「あら、死喰い人の死者が一気に増えているわね。一体どういうこと?」

 

 紙を返すとパチェは映像の一部を指さした。場所は大広間のようだが、そこでは見覚えのある老人が手当たり次第に死喰い人に死の呪文を掛けていた。

 

「ゲラート・グリンデルバルド。ダンブルドアは戦力になると思っていたようだけど。」

 

 ダンブルドアとしては、本当はパチェに助力を仰ぎたかったのだろうが、それが不可能だと悟り、苦し紛れの策を取ったのだろう。

 

「めちゃんこ強いっすね。このおじいちゃん。」

 

 美鈴が感心したように頷いた。そのままシレっと私の持っているポップコーンに手を伸ばしてきたため、すぐさま叩き落す。例えこのポップコーンを一人で食べきれないとしても、美鈴には一粒たりともやるものか。

 

「グリンデルバルドというのはヴォルデモートよりも前に魔法界を征服しようとした闇の魔法使いです。」

 

 小悪魔が美鈴に簡単にグリンデルバルドについて教えた。グリンデルバルドは意識が有る無し、敵意が有る無しに関係なく死喰い人に死の呪文を掛けていく。つまり、失神して床に倒れ伏している死喰い人にも死の呪文を掛けていた。まったくもって都合の良い人材だ。

 

「何とも都合がいいじゃない。」

 

 パチェはペンを置くと、懐から羽ペンを取り出す。その羽ペンは自動的に紙の上で立つと、独りでに動き出した。

 

「あ、先生それズルくないですか?」

 

 パチェはもう一つ羽ペンを取り出し、小悪魔に手渡した。小悪魔は紙の上に羽ペンを置き、椅子に座る。小休止だと思ったのか、咲夜が紅茶の準備を始めた。

 

「あら、クィレルが怒るわよ?」

 

 私は咲夜の淹れた紅茶を手に取る。咲夜はクィレルのいる方をチラリと見た。

 

「はい。ですので私も紅茶は無しです。」

 

 次の瞬間、映像の中のグリンデルバルドが巨人に押しつぶされた。

 

「案外あっけないものね。」

 

 だがまあ、人間というのはいつ死ぬか分かったものではない。特に戦地では、どんな英雄でもギャグのように死んでいく。まあでもグリンデルバルドはよく働いてくれた。グリンデルバルドだけで、五十人を超える死喰い人を殺している。

 

「レミィ、ダンブルドアがスリザリン寮を目指して移動を始めているわ。」

 

 パチェに言われて、私は映像の中からダンブルドアの姿を探す。パチェが映像の一部を指さし、場所を教えてくれた。確かにそこにはダンブルドアとハリー、シリウスがおり、ダンブルドアとシリウスはハリーを庇いながらスリザリン寮の入口へと向かっていく。ダンブルドアは言うまでもないが、シリウスもかなり強い。その実力はダンブルドアに次ぐのではないだろうか。二人は死喰い人を蹴散らしながら凄い速度で前へと進んでいく。五分もしないうちに、ダンブルドア達はスリザリン寮の前までたどり着いた。ダンブルドアはシリウスに目配せすると、とっくに題材が避難した肖像画の入り口を魔法で吹き飛ばす。そして油断なく杖を構えたまま、中にいるヴォルデモートに話しかけた。

 

「こんばんは、トム。一言言わせてもらえれば、『やってくれたなこんちくしょう』じゃ。」

 

 そんな挨拶を聞いて、ヴォルデモートは愉快だと言わんばかりに杖を抜き、ソファーから立ち上がる。

 

「待っていたぞダンブルドア。ここさえ潰せばイギリス魔法界は私の手に落ちる。いや、違うな。貴様さえ潰せば……か。」

 

 ヴォルデモートは杖を持ったまま、無造作にダンブルドアに近づいていく。それを見てダンブルドアは何かを察したらしい。

 

「では参ろうかの。」

 

 双方ともに杖をおろし、並んでホグワーツの廊下を歩き出した。




レミリアがダンブルドアに手紙を送る

ダンブルドアがレミリアからの手紙を読む

咲夜が分霊箱をダンブルドアに持っていく

クィレルがホグワーツとアズカバンの暖炉を繋ぐ

死喰い人が大広間を襲う

ヴォルデモートの分霊箱が破壊される(髪飾り、ロケット、カップ、指輪)

ダンブルドアとヴォルデモートが対峙する←今ここ
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