紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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まだまだ続く咲夜ちゃん回。今回はずっと六歳です。
誤字脱字等御座いましたらご報告いただけると嬉しいです。


買い出しやら、抗争やら、会食やら

 一九八六年。十六夜咲夜六歳。

 咲夜は美鈴と共に闇市場に来ていた。ここは人間が運営している市場ではなく、化け物が中心になって運営している。故に取引されるモノも多種多様だった。勿論、人間の社会では違法なものばかりだが。

 

「そういえば、ついにおぜうさまから能力を使う許可が下りたんですよね?」

 

 美鈴は咲夜の手を引きながら闇市場を歩く。咲夜をここに連れてきたのは今日が初めてではない。流石に一人でここに来させるわけには行かないが、社会勉強は重要である。

 

「はい。ここ一年ずっと勉強漬けだった甲斐がありました」

 

 咲夜はこの一年、何十、何百冊という本を読了したため、随分語彙力が上がっていた。美鈴は思う。ああ、やっぱり咲夜ちゃんは天才だと。

 

「今日はどういった食材を買うんです?」

 

 咲夜は今月の献立表を確認する。レミリアは血は自分で飲みに行くが、食事自体は従者に任せているのだ。

 

「そうねぇ……取りあえず肉のストックが少ないから、それは買わないといけないかな? あとは東方由来の調味料が少々、あと紅茶も欲しいですね」

 

 それを聞いて咲夜は周囲の店を見回す。そしてお目当ての肉を売っている屋台を見つけた。

 

「安心安全! 完全養殖の人間です! 血抜きし解体したもの、まだ生きているもの、色々ございますよ!」

 

「人狼のおじさん、太もも肉三人分とタンを三百グラムください」

 

 咲夜が店主である人狼に話しかけると、人狼は微笑みながら接客した。

 

「お、レミリアのとこの嬢ちゃんかい。美鈴ちゃんも久しぶりだねぇ」

 

「最近は咲夜ちゃんの練習もかねて自分たちで捕ってたからね」

 

「へえ、その歳でハンティングかい。立派なもんだ! へい、これ注文の奴ね。合計で四百ポンド!」

 

 咲夜は鞄を開くと二十ポンド札の束を取り出し、二十枚数えて店主に渡す。

 

「へい丁度ね! 少し重たいけど大丈夫かい?」

 

 咲夜は店主から肉を受け取ると新調したばかりの鞄に入れる。六歳が持つと少々大きく見えるが、普通のサイズの革製のアタッシュケースだ。入れている肉の方が一回りも二回りも大きいが、何の問題もなく入っていった。

 

「へぇ、便利なモノ持ってるね。じゃあ、これはおまけだ!」

 

「わぁ! ありがとう!」

 

 店主は太ももをもう一本咲夜に手渡す。咲夜はそれを受け取ると満面の笑みでお礼を言った。

 

「いやぁ、どうもねおっちゃん。またよろしく~」

 

 美鈴はブンブンと手を振ると咲夜を連れて屋台を後にする。

 

「やっぱり咲夜ちゃんがいるといいねぇ。みんなデレデレでおまけしてくれる。やっぱり人間の子供は珍しいのかな?」

 

 もっとも、この市場に全く人間の客がいないわけではない。それどころか人間が出している屋台もあるぐらいだ。

 

「みんな優しいですよね」

 

 咲夜は献立とにらめっこしながら次の屋台へ向かう。そこは色々な茶葉を扱っている屋台だ。

 

「ふむ、紅魔館の。今日はどういった?」

 

 ここの店主は人間だ。全身を黒い服で包み、顔にはマスクを嵌めている。美鈴は品揃えを一通り確認すると、百グラムずつ色々な種類を頼んでいく。

 

「基本はこれでいいから……今日は何か変わり種はある?」

 

 美鈴が店主に聞くと、店主は棚の下から真っ赤な紅茶缶を取り出した。

 

「人間の血だけを栄養に育った茶葉を使用している」

 

「味は?」

 

「鉄臭い」

 

「じゃあそれ一缶。他には?」

 

 店主は黒い紅茶缶を棚の下から取り出す。

 

「肥料に人肉を」

 

「味は?」

 

「普通」

 

 まあ曰くがあるからいいかと、美鈴はそれも一缶購入した。

 

「おじちゃんお代は?」

 

 黒ずくめで仮面の男をなんの臆面もなくおじちゃんと呼ぶ咲夜。店主は何も気にせず受け答えした。

 

「六十ポンド」

 

 咲夜は鞄から札束を取り出すと3枚店主に渡した。

 

「確かに」

 

 咲夜は店主から茶葉を受け取ると鞄に仕舞い込む。咲夜は店主に手を振ると、美鈴を連れて屋台を後にした。

 

「あとは香辛料ですね、美鈴さん」

 

 咲夜は慣れた足取りで目的の屋台に向かう。美鈴はその様子を後ろから微笑みながら追った。

 

「店主さん、こんにちは」

 

「お、咲夜ちゃんかい。美鈴さんもどうも」

 

 店主の吸血鬼が二人に微笑みかける。吸血鬼に人が良いという言葉が合うのかどうかは分からないが、何はともあれ、ここの店主は人が良い。

 

「お嬢は元気かい?」

 

「はい、今日もお嬢様は元気です」

 

 咲夜からそれを聞いて吸血鬼の店主はうんうんと頷く。

 

「やっぱり元気が一番だ。で、今日は何をご所望かな?」

 

 咲夜は献立を引っ張り出し、使う調味料を確認する。

 

「えっと、鷹の爪と、ハバネロと、デスソースと——」

 

「待って咲夜ちゃん、献立見せて」

 

 店主は献立表を受け取ると、手を加え始める。そして美鈴の方をジトっとした目で見た。

 

「美鈴さん? 冗談でデスソースは厳しいですよ? お嬢はそんなに辛いもの平気じゃないんですから」

 

「いやぁ、これでおぜうさまが死んだらデスソースを吸血鬼殺しって呼ぼうかなって」

 

「デスソースってなんですか?」

 

 咲夜がそう聞くと店主が棚から小さな瓶を取り出す。

 

「指出して?」

 

 そして咲夜の細い人差し指に一滴垂らした。咲夜は何の躊躇いなくそれを口にする。

 

「んー、なんか生臭い……」

 

「あれ!?」

 

 いいリアクションを期待していた店主は拍子抜けするようにデスソースの表示を見る。

 

「私も試してみていいですか?」

 

 美鈴もデスソースを指に垂らし、それをぺろりと舐めた。

 

「あー、確かにタバスコと比べると生臭い感じはありますね。でもあんまり辛くない」

 

 店主はおかしいなと首を傾げ、自分の指にデスソースを垂らして、それを舐めた。途端に悶絶し始める。

 

「痛ッ!! なにこれ痛い! え!? 全然辛いじゃん!!」

 

 それを見て咲夜と美鈴はケラケラと笑う。仕掛けは簡単だ。咲夜は舐めとる前に時間を止め、デスソースをハンカチで拭っていたのである。美鈴は普通に舐めたが、もともと辛いものが平気なだけだ。

 

「ナツメグとシナモン、あとワサビと山椒」

 

 悪戯も済んだところで美鈴が本来の目的の調味料を頼む。店主は角砂糖を口に放り込んで調味料を用意した。

 

「はい、えっと……六ポンドね」

 

 咲夜は財布から二ポンド硬貨を三枚取り出すと店主に渡す。

 

「はい、確かに」

 

 店主は涙目で微笑みながら二人に手を振る。咲夜も手を振って応えた。これで取りあえず今日の買い出しは終わりだろう。美鈴は咲夜の手を引いて闇市場を出る。そしてロンドンの街でタクシーを捉まえた。

 

「嬢さん方、どちらまで?」

 

「ここの……ここまでお願いします」

 

 美鈴は地図を指さし、運転手に目的地を伝える。運転手はその場所を二度三度確認すると、車を発進させた。

 

「さて、帰ったら夕食の下ごしらえを始めますか。私は今日買ったモモをハムにするから、咲夜ちゃんはスープの出汁を取って」

 

「わかりました。一本はバラして、その骨で取ろうと思います」

 

 運転手はその会話を微笑ましいものとして聞いているが、まさかそこで語られているモモが豚ではなく人のモノだとは思ってもみないだろう。

 咲夜と美鈴もその辺はわきまえており、不審に思われる単語は使わなかった。暫くロンドンの街を走り、美鈴と咲夜は指定した場所で降りる。美鈴が料金を払うとタクシーは走り去っていった。

 

「さて、ここからは徒歩だ」

 

 美鈴は大きく伸びをすると森に入っていく。咲夜もそのあとを追った。森の中を三十分ほど歩いただろうか。不意に人の気配がして咲夜と美鈴は息を潜めた。美鈴は注意深く周囲を見回し、その気配の主を確認する。そこにはカメラを持った人間の男性が立っていた。

 

「あれ? 迷子の人ですか?」

 

 美鈴は男性に近づきながら声を掛ける。男性は美鈴の声に少々驚いたようだったが、女性だと分かると困り顔で笑った。

 

「ははは、鳥を撮りに来たんですけどね。夢中になって随分と奥に入り込んでしまったようで」

 

 パチュリーが紅魔館周辺に結界を張っており、森に入ってきても紅魔館までたどり着くことはない。フランドールも狂気も結界の内部だけで、周囲には影響を及ぼしていなかった。

 

「町の方向はわかります?」

 

「それがさっぱり」

 

 男性は肩を竦めた。美鈴は地図を取り出し、丁寧に道を教えていく。男性は美鈴にお礼を言うと森を進んでいった。

 

「仕留めないんです?」

 

 男性が見えなくなった後で咲夜が美鈴に聞く。美鈴は紅魔館に向けて歩きながら咲夜に説明を始めた。

 

「さっきの人間、カメラを持ってたでしょ? そして鳥を撮りに来たって言っていた。更に言えば指に結婚指輪をしていたんですよ。家族にこの森に行くことを伝えているかもしれない。そんな人間が行方不明になったら、家族はこの森で行方不明になったと思い、警察に通報する」

 

 もっとも、警察が森を捜索しても紅魔館が見つかることはないし、これぐらいの案件ならレミリアの権力で揉み消すことができる。

 

「なんとかなるけど、食材を捕るだけにそれは面倒じゃないですか。というわけで、厄介になりそうな人間には手を出さないのが無難なんです」

 

「なるほど。気を付けますね」

 

 咲夜は納得したように歩き出す。もう紅魔館までさほど距離もなかった。

 

 

 

 

 

 

 深夜一時。ロンドンの街は静けさに満ちており、道には殆ど人がいない。だが、人が全くいないわけでもなかった。何かの用事で帰宅が遅くなったのか、二十代そこそこの女性が住宅街を歩いていた。普段からこのぐらいの時間帯に出歩くのか、怯えた様子はない。今日も何事もなく家に帰れると、女性は信じていた。次の瞬間、何者かが女性の腕を掴み路地裏に引っ張り込む。

 

「な、誰か————ッ!!」

 

 女性は叫ぼうとするが、口を押えられて声が出せない。女性はこの時初めてこのような時間に外を一人で歩いていたことを後悔した。

 

「なぁ……スケベしようや……」

 

 後ろから聞こえた男性の声に女性は肩を震わせる。女性は必死に抵抗しようとしたが、恐怖に体が竦んで全く動けなかった。女性はそのままズルズルと引きずられていき、車に乗せられそうになる。いや、乗せられた。女性は閉まっていくドアをただ見つめることしかできない。そうこうしているうちにドアは閉まり切り、車は発進した。だが、その車の中に女性の姿はない。

 

「——ッ!? どこ行きやがった!?」

 

 誘拐を企てた男性が驚くのも無理はない。何せ先ほどまでその女性に直に触れ、腕を持って拘束していたのだから。その男性からしたら女性がいきなり消えたことになる。

 

「おいどうした? って、いねえじゃねえか!!」

 

 運転席に座っていた共犯の男性も異常に気が付き車を停める。その後、数分狐につままれた表情で固まった後、夢でも見ていたと考え直し一度アジトに戻った。

 その後、二人は誘拐、殺人の罪で逮捕された。二人は容疑を否定、女性の死体は未だ見つかっていない。

 

 

 

「貴方も災難でしたね。こんな時間に外を出歩くから……」

 

 女性は混乱していた。先ほどまで自分は誘拐されそうになり、車に連れ込まれたではないかと。だが今目の前に広がっている光景は車内ではない。先ほどまでいた路地裏だった。女性は夢でも見ていたのかと思ったが、手首にくっきりとついた握られた痕を見て、夢ではないと気が付く。ようやく周囲を見る余裕ができたのか、女性は先ほど声がした方向を見た。

 

「え?」

 

 そこには小学校に入ったばかりぐらいの歳に見える少女が可愛らしいメイド服を着て立っていた。そう、十六夜咲夜である。

 

「えっと、君は一体……」

 

 目の前にいる咲夜に女性は戸惑いを隠せない。こんな時間に出歩く小学生がいるはずがない。そういう先入観があるからか、女性にはそこにいる咲夜が人間には見えなかった。

 

「君が助けてくれたの? えっと……さっきのあれから」

 

 その言葉に咲夜はピクリと反応する。確かにこの女性を先ほどの誘拐犯から助けたのは咲夜だ。だが、咲夜からしても、女性のほうからその言葉が出てくるとは思っていなかった。

 

「なんでそう思うんです? 変なこと言ってるって自分でも思っていますよね?」

 

 咲夜は微笑みながら女性に近づく。女性は一歩後ずさりした。

 

「まあ、当たってるんですけどね。私が貴方を助けなければ、どこかに売り飛ばされていたかもです」

 

「貴方は……天使? 神の遣いとか?」

 

 現実離れした話と、咲夜の普通じゃない容姿に女性は錯乱しているようだった。咲夜は女性のそんな言葉を聞いて静かに頷いた。

 

「残念、悪魔の遣いでした」

 

 次の瞬間咲夜は女性に向けてナイフを投擲する。投げられたナイフは頸動脈に突き刺さった。

 

「え? あ」

 

 女性は何か言おうとしたが、気道に血が溢れ声が出ない。咲夜は返り血が付かないように気を付けながら女性の眉間にナイフを突き立てる。その一撃が致命傷になり、女性は即死した。

 

「えっと、これでいいかな。あとは……」

 

 咲夜は捕れたての肉の時間を止めると凍傷にならないように気を付けながら鞄の中に仕舞い込む。そして血だまりを踏まないように気を付けながら現場を後にした。

 

 

 

 

 咲夜が紅魔館に来てから五年。咲夜は随分と紅魔館に慣れたように思う。五歳の頃に能力に目覚め、ここ一年はずっとその能力を磨いていた。時間を止めるというその能力を咲夜が存分に私の為に使えば、天下を取るのも夢じゃないだろう。

 それとは別に、咲夜には殺人鬼の才能があるように思う。小さい頃から美鈴や私を見本に成長してきたためか、人間を殺すということに何の躊躇も抱いていない。罪の意識を感じることなく、ただ私や自分の利害の為だけに人を殺せる。それは一種の才能だった。既に自分の歳の数、いや、それの数倍は殺しているだろう。そして今日、その数を大きく増やすことになる。

 

「準備は出来ているかしら」

 

 咲夜は私の部屋で何時ものメイド服から少し特殊なメイド服に着替えていた。長袖にタイツ、手袋をし、肌を完全に隠している。そして身に着けている服全てに高度な盾の呪文が掛けてあった。

 

「パチェが厳重に盾の呪文を掛けたと言っていたから銃弾程度じゃ傷もつかないわ。あとこれ」

 

 私は咲夜の顔に仮面を被せる。これで無防備なところは存在しなくなった。美鈴はビシッとしたスーツを着込んで、手にはトンプソンを持っている。そして何故かサングラスをしていた。

 

「なんでトンプソン? なんでサングラス?」

 

「いや、ただの雰囲気づくりですよ」

 

 そう、私たちは今から敵対勢力のマフィアを壊滅させに行くところだ。俗にいう抗争というやつだが、まあまず戦いにもならないだろう。人間しかいない組織と武力抗争して負けるようじゃ吸血鬼失格だ。それに今回は秘密兵器もある。

 

「咲夜、何故あなたを連れていくのか、理由はわかるかしら」

 

「私が時間を止められるからですか?」

 

 咲夜が服の着心地を確かめながら私の問いに答えた。

 

「違うわ。はっきり言って、今日潰しに行く組織程度なら美鈴だけで十分。今日は貴方の戦闘訓練をしに行くのよ。今まで貴方は一方的な殺ししかしてなかった。相手が殺意を持ってこちらを殺しに来るという状況に遭遇したことがない。はっきり言って、戦う意思を持った人間は強い。吸血鬼ハンターが吸血鬼を狩れるのは、明確な殺意を持って、殺すための準備をしているから」

 

 まあ、私ほど血が濃く、経験豊富な吸血鬼なら、たとえ吸血鬼ハンターであろうと遅れを取ることはないが。

 

「あれ? じゃあなんでおぜうさまも行く準備してるんです? 私だけで十分なら私と咲夜ちゃんだけで十分じゃ……」

 

「貴方と2人きりにすると変な癖が付きそうだし。体術は上等なんだけどね。それに、咲夜の戦いの基本は投げナイフ。投げナイフなら私の方が上手いわ。それに、貴方の戦い方は妖怪としての怪力ありきでしょ?」

 

 美鈴が扱う体術は達人のそれと比べても遜色ない代物ではある。だがその戦い方を咲夜がそっくりそのまま真似しても物理的な破壊力に欠ける。美鈴のように拳一つでコンクリートを粉々にできるなら別だが。

 

「なら拳銃持たせたらいいじゃないですか。咲夜ちゃんに」

 

「反動がきついわ。その点ナイフは自分で投げるから反動はないし、それに音もしない」

 

 まあ、投げナイフにも弱点はある。いや、弱点しかないともいえる。まず飛距離がない。咲夜の腕では五メートル程しか届かないだろう。あと連射速度が遅い。咲夜の小さい手では一度に一本しか投げられない。それに咲夜はまだ利き腕の左手でしかまともに的に当たらない。

 

「あれ? サブマシンガンでも持たせるべき?」

 

 いや、流石にそれは瀟洒に欠ける。いや、瀟洒は欠けるものなのかはわからないが。

 

「なんにしても今日は一緒に行くわ。潰しに行くのに大将がいないのは締まらないでしょう?」

 

「そうですかね? あ、そういえばなんですけど、今日潰しに行く組織って何やらかしたんです? おぜうさまが直接殲滅しに行くって相当ですよね?」

 

「ああ、知り合いの政治家がなんかやらかしちゃったみたいでね。マフィアに目を付けられてしまったのよ」

 

「なにやってんですかその政治家。ていうかよくそんな面倒くさいこと引き受けましたね」

 

「まあね」

 

 もっとも、それは建前だ。本当の目的はそのマフィアが壊滅することによって空く縄張りにある。私が資金を提供しているマフィアにそっくりそのままその縄張りを明け渡すのだ。そのマフィアが大きくなれば、それはそれで都合がいい。それに、その政治家というのがそこそこ権力を持っている政治家なのだ。ここで恩を売っておくのも悪くはない。

 

「じゃあ向かいましょうか。都合よく私の知り合いのマフィアのボスが車を出してくれるそうよ。本当に何故か都合よくね」

 

 私は咲夜と美鈴を連れて紅魔館の外の出る。そしてそのまま2人を連れて森を抜けた。

 

「おぜうさま、この森邪魔じゃないですか? 道路引けばいいのに」

 

「紅魔館まで直線の? それこそ邪魔だわ」

 

 今の時間は午後十一時。空を飛んで森を越えてもいいのだが、見つかって面倒なことになっても面倒だ。何とでもなることだが、面倒なものは面倒なのである。

 森を抜けて暫く歩くと黒塗りのセダンが指定された位置に停まっていた。私は何のためらいもなくそのセダンに乗り込む。後部座席に咲夜と私、助手席には美鈴。そして運転席には知り合いのマフィアの使い走り。

 

「出せ」

 

 私が指示を出すと使い走りは何も言わずに車を発進させる。多分マフィアのボスから私たちの容姿は聞いていたんだろう。普通に考えたら突っ込みどころ満載だ。女三人にそのうち二人は幼女。車に乗った瞬間追い出されても仕方がない。

 いや、使い走りは半信半疑のように見えた。十秒に一度ミラーをチラ見し、私と咲夜を見ている。その仕草に気が付いたのか、咲夜は鞄からトンプソンを取り出し、美鈴に渡す。美鈴は弾倉に弾が入っていることを確認すると、弾倉を叩き込んだ。

 

「お嬢様、何処までやりますか?」

 

 咲夜の声が仮面を通して聞こえてくる。

 

「そうね、手当たり次第に殺しなさい」

 

 それを聞いて、使い走りの顔が引き締まった。どうやらボスから聞いた通りだと思い直したようだ。

 

「建物の前に私たちを落としたらすぐにその場を離れなさい。一時間後に迎えに来てくれればいいわ」

 

「了解」

 

 咲夜は鞄から小ぶりのスローイングナイフを取り出すと、服のポケットに入れていく。戦闘準備は整っているようだった。

 暫くロンドンの街を走り、私たちは目的の建物の前に着く。使い走りは指示通り私たちを落とすとすぐさまその場を去った。

 

「さて、まずは建物内に入らないとね。ねぇ、そこにいる如何にも警備してますよって人。中に入れて貰ってもいいかしら?」

 

 私は建物の外に立っている黒服に声を掛ける。黒服は私の容姿を見て一瞬動きが止まったが、美鈴がトンプソンを持っているのを見てすぐさま銃を構えた。

 

「何者だ?」

 

 黒服は美鈴に銃を向けながらそう叫ぶ。美鈴はブンブンとトンプソンを振り回していた。

 

「何者? そうね……死神、かしら」

 

 私は武器を何も持たずに黒服に近づく。黒服は拳銃の銃口を私へと向け直す。私はそんなことはお構いなしに黒服に近づいた。

 

「動くな。これ以上こちらに来たら殺すぞ!!」

 

 殺す。面白い冗談だ。私は銃口が眉間に当たるまで近づき、銃口を咥える。そしてそのまま銃身を嚙み千切った。

 

「うわ、汚い。おぜうさま流石にそれはひくわぁ」

 

 そう呟く美鈴に向けて拳銃の破片を吐き出す。勢いのついた拳銃の破片は美鈴の眉間に見事命中した。

 

「邪魔するわよ」

 

 拳銃を噛み切られた黒服は唖然とした表情で突っ立っている。私たちはその横を抜け建物内に入った。建物内には如何にも自分たちはマフィアですと言わんばかりの服装の男が何人もいた。美鈴はトンプソンを掲げると特に狙いもつけずに弾をばら撒く。爆音と共に建物のあちこちが壊れるが、銃弾は殆ど人には当たらなかった。まあ開戦のゴング代わりにはなっただろう。

 

「咲夜、私から離れるんじゃないわよ」

 

「わかりました」

 

 銃声を聞きつけて四方のドアから黒服が出てくる。咲夜は最も近い黒服に向けてナイフを投げた。そのナイフは吸い込まれるように喉に突き刺さり、黒服を絶命させる。

 美鈴は美鈴で拳銃の弾を素手で受け流し、物理的に殴り殺している。

 私は近くに落ちている死体の首をもぎ取ると近くで拳銃を構えている黒服の頭部を狙って投げつけた。ぶつかった頭部同士は互いにスイカのように弾け飛び、床を血で染める。

 咲夜の方を確認すると器用に銃弾を避け、的確にナイフを当てていた。あれを見る限り、咲夜にはかなりの戦闘センスがあるらしい。ものの五分で今いるフロアは死体で溢れかえる。私は咲夜と美鈴を連れてエレベータに乗り込んだ。

 

「あれ? エレベータ使うんです?」

 

「ええ、これなら勝手に入ってくるし」

 

 一つ上に上がるごとにエレベータは止まり、ドアが開く。当然のようにドアの前には黒服が数人待ち構えていた。ドアが開くと同時に咲夜がナイフを投げる。連射力に欠けるので一度に全て殺すことはできないが、射ち漏らした人間は美鈴がきっちり仕留めていた。

 エレベータは次第に上へ上へと上がっていき、ついに最上階へと到達する。私の調べでは、そこにこの組織のボスがいるはずだ。私たちはエレベータを降りると階段を進み、一番奥にある部屋のドアを蹴り破った。

 

「はぁい。遊びにきたわよ?」

 

 部屋の中には二人の人間がいた。一人は椅子に座り書類に目を通している。もう一人はその横に立って紅茶を淹れていた。

 

「ボス、お客様が見えたようです」

 

 秘書にも従者にも見える女が冷たい声で言った。ボスと呼ばれた男はこちらをチラリと見ると、書類を机に置いた。

 

「これはこれはスカーレット嬢。こんなむさ苦しいところに何の御用です?」

 

 男は眼鏡を外すと静かにそれを畳み机の上に置く。そして女の淹れた紅茶を一口飲んだ。

 

「ちょっと野暮用でね。貴方の組織潰れてくれないかしら」

 

「ほう、服に付いた血痕はそういうことですか。では下の階には私の部下が死体となって転がっているんでしょうな」

 

 男はティーカップをソーサーに戻すと椅子から立ち上がる。そしてスーツの上を脱ぎ、ネクタイを外した。

 

「では、私が戦わないと、部下に示しがつかないではないですか」

 

 男はまっすぐ私を見据えて、拳を握る。その眼には確かな意志が宿っていた。私は咲夜と美鈴を下がらせて、男に合わせて拳を握る。

 

「ボス——」

 

「下がっていなさい」

 

 男はゆっくりとこちらに歩いてくる。そして私の目の前まで来るとドカッと床に座った。

 

「何のまね?」

 

 床に座った男に私は尋ねる。男は私を見据えたまま静かに答えた。

 

「例え部下を殺した敵であっても、私は女を殴ることができない。故に、君が一方的に私を殴ると良い。私が死んだら貴方の勝ち、生きていたら私の勝ちだ」

 

「なら遠慮なく」

 

 私は力任せに拳を上から下へと振り下ろした。その衝撃で男は血と肉片に変わる。

 

「ボス!?」

 

 女は血だまりに駆け寄り、蹲って泣き始める。美鈴と咲夜はそれを黙って見ていた。

 

「帰るわよ。美鈴、咲夜」

 

 私は2人に声を掛けると部屋の出口へと歩き出す。私が蹴り破った部屋のドアを踏んだ瞬間、鈍い音が聞こえた。私はその音の正体が気になり、振り返る。そこには美鈴と咲夜が立っており、部屋には血だまりが残されていた。

 

「……咲夜、さっきの女は?」

 

 何が起こったのか大体の予想はつくが、一応私は咲夜に聞く。咲夜は仮面をした顔を斜めに傾けると不思議そうな声を出した。

 

「え? 殺して鞄の中に仕舞いましたが」

 

 ……もう何も言うまい。逞しい子に育って嬉しいような悲しいような。なんにしても、そのうち食卓に先ほどの女が出てくることだろう。今度こそ2人を連れて部屋を出て、廊下を歩きエレベータに乗り込む。1階に降り建物から出るとことには先ほどの使い走りが車を停めて待っていた。

 

「まだ1時間には時間があったと思うんだけど」

 

 車に乗り込みながら使い走りに言う。使い走りは時計が十分進んでいたと真面目な顔をして冗談を言った。

 

「そうだ、貴方のところのお偉いさんに伝えておきなさい。『場所は空けた』と」

 

「了解」

 

 車は暫く走り、先ほどとは違う場所に停まる。私たちはそこで車を降りると徒歩で紅魔館へと帰った。

 

 

 

 

 

「咲夜、出かけるわよ」

 

 抗争から一か月ほど経った頃。レミリアは夜起きると服を着替える。そして咲夜に余所行きの洋服を着せ、一緒に出掛ける準備をした。今日はあの時車を出してくれたマフィアのボスと会食だ。ディナーの時間に合わせ、今日レミリアは少し早く起きている。

 

「咲夜と二人なら森を抜けなくても大丈夫そうね」

 

 レミリアは窓の外を確認し、今日が新月であることを確認すると咲夜を後ろから抱える。そして森の上スレスレを飛んだ。

 

「すみませんお嬢様。私も霊力を使った飛行を練習しているのですが、なかなか上手くいかなくて」

 

「まあ、難しいわよね。普通は何か道具の補助を得て飛ぶわけだし」

 

 森を抜ける寸前に地面に降り立ち、最後は徒歩で森を出る。道に出たら暫く歩き、適当なところでタクシーを拾った。

 

「この時間なら普通に拾えて便利ね」

 

 二人はタクシーに乗り込むと運転手にホテルの場所を教える。イタリア料理の店だ。

 

「夜の九時にホテルのラウンジに集合ですよね?」

 

 黒いワンピースを着た咲夜が少しレミリアの方を見上げながら待ち合わせの時間を聞いた。レミリアは軽く頷くと一通の手紙を咲夜に渡す。そこには今日の会食の場所と時間が書かれていた。それとは別に、当日は娘と一緒に来る旨も書かれている。

 

「あの、もしかして今日私がメイド服じゃないのって……」

 

「ええ、貴方にはその娘さんの相手をしてもらおうと思ってね。確か十歳ぐらいの娘だったはずだわ」

 

 これが娘ではなく奥さんだったらレミリアは一人で会食に臨んだことだろう。美鈴を一緒に連れて行ってもいいが、レミリアと美鈴が二人きりになると謎の化学反応が起き、ほぼ間違いなく問題が起きる。

 

「マナーは教えているし、問題ないわよね?」

 

「はい、心得ております」

 

 咲夜は小さく頷くと、手紙をレミリアに返した。二人を乗せたタクシーは既に暗くなったロンドンの街を走っていく。二十分ほど道を走り、タクシーは目的地のホテルへと到着した。咲夜がお金を払うとタクシーはそのままタクシー乗り場へと入っていく。そこで次の客を待つつもりなのだろう。そういえばと、咲夜はレミリアの方を見る。咲夜はレミリアのシルエットに違和感を覚えた。数秒そのまま悩み、違和感の正体を発見した。そう、今のレミリアには羽がない。いや、見間違いだ。咲夜が注意深く背中を見ると、いつもと同じ大きさの、同じ形をした羽がちゃんと生えていた。

 

「ん? ……あれ?」

 

 咲夜は目を擦りながらレミリアの羽を見る。咲夜のそんな様子を見てレミリアはクスクスと笑った。

 

「写真を撮られると厄介だし、意識して見ないと見えないようになっているのよ。一種の幻惑のようなものね。まあ、魔族や妖怪には通用しないんだけど。あると思えばちゃんと見えるでしょう?」

 

 確かに、咲夜にはレミリアの羽が見えている。タクシーの運転手には見えていなかったようだ。二人はホテルのエントランスに入ると、案内に従ってラウンジへと移動する。そこには既にマフィアのボスとその娘がソファーに座って待っていた。

 

「待たせたかしら?」

 

 レミリアは慣れた様子でボスに話しかける。ボスもレミリアの姿を確認し、ソファーから立ち上がった。

 

「いえ、私どもも今来たところですよ。では移動しましょう」

 

 咲夜は軽く周囲を見回し、周辺にいる人間を確認する。視線を追った感じでは、マフィアの構成員と思われる護衛は全くいなかった。どうやら向こうはお忍びでこの会食に臨んでいるようである。四人はエレベータに乗り込むと、最上階へと移動した。

 

「実は今日はお忍びでね。このことは黙っていてください」

 

 ボスがレミリアにそういう。レミリアは軽く微笑むと咲夜の肩を抱いた。

 

「私もその方が都合がいいわ。今日は咲夜もいるし」

 

 まったく理由になっていないがボスはそれで納得したようだ。レミリアはこのようにその場の雰囲気で誤魔化すことが上手い。伊達に五百年近く生きてはいないということだ。

 四人はレストランで受付を済ませると、窓際のテーブル席へと案内される。ボスの娘はそこからの景色に目を輝かせていた。

 

「ここから見える夜景が私は好きでね。人間が作り出した星空と言えるだろう」

 

 咲夜も窓の外を見るが、現在高いところにいるんだな以上の感想は浮かばなかった。

 

「星空ねぇ。私には人の魂を燃えている光に見えるわ。星空はもっとこう、ね?」

 

 レミリアのふわっとした説明に、取りあえずボスは相槌を打つ。そして対面するように四人掛けのテーブルに腰掛けた。

 

「そういえば、最近この町は変わったと思わない? なんというか、全体的に静かになったというか、ネズミを見なくなったというか」

 

「そうですね。私としても気分がいい。ところで、最近新しい事務所を作ることになりました。丁度空き物件が見つかって。ほんの二十か所ほど」

 

「景気がいいわね。人手不足が心配だわ」

 

「ご心配に及ばずとも、新しく人を入れたので大丈夫ですよ」

 

 レミリアとボスが話をしていると、前菜が運ばれてくる。

 

「ところで、例の会社の株がまた上がったとか聞いたわ」

 

「ええ、資金運用自体はうまくいっています。ご祝儀として取っておいてほしい」

 

 ボスはレミリアに茶色の封筒を渡す。中には二十万ポンドの小切手が入っていた。

 

「あらどうも、上手く行っているようで何よりだわ」

 

 レミリアとボスは一通りの仕事のやり取りを終わらせる。話は簡単だ。レミリアが壊滅させたマフィアの縄張りをそのままこのマフィアが使う。場所を空けた手間賃とレミリアがマフィアに投資した資金を運用して得た利益の少しをボスがレミリアに支払う。先ほどの二十万ポンドがそれだった。

 そうしているうちに一つ目のメイン料理が運ばれてきた。パスタだ。レミリアはフォークを使って器用にパスタを絡ませると口に運ぶ。咲夜も少し慣れないようだが、綺麗にパスタを食べることができていた。ボスの娘はフォークとスプーンを使って可愛らしくクルクルやっている。

 

「そういえば、お子さんは十歳ぐらいだったかしら。来年から中等教育ね」

 

 いきなり話を振られてびっくりしたのか、娘はピクリと反応する。ボスはそんな仕草を見て少し笑った。

 

「ええ、頭の出来はいいらしく、そこそこ名のある女子校に通えることに」

 

「あら、そうなの」

 

 娘は恥ずかしそうに、もじ、もじ、としている。

 

「そちらのお嬢さんも随分賢そうだ」

 

「まだ六歳になったところよ」

 

「それはそれは、うちのと同い年ぐらいだと思ってましたよ。では今は小学校に?」

 

「いえ、学校には行かせていないわ。今はこんな格好で呑気にパスタ食べているけど、一応使用人だし」

 

「気を使わせてしまったかな?」

 

「使わなかったと言えば嘘になるけど、何事も経験よ。ね、咲夜」

 

 レミリアは咲夜の頭を撫でる。咲夜はあっけらかんとした顔で言い切った。

 

「この前のも経験ですか?」

 

 テーブルの空気が一瞬凍った。もっとも、固まったのはレミリアとボスだけだが。娘は何の話か分からないのか、パスタをクルクルしている。咲夜も不思議そうな顔をしながらパスタを食べた。

 

「……スカーレット嬢」

 

「言わないで。まあ私の従者だし、それに何事も経験よ」

 

 場の空気を変えるように二つ目のメイン料理が運ばれてくる。その後空気も回復し、良い雰囲気のまま会食は続いた。

 




咲夜、時間停止の能力解禁

マフィアとの抗争、対人戦闘の練習を始める
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