紅く偉大な私が世界   作:へっくすん165e83

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べ、別にsteamのウィンターセールで積みゲーが増えてそれを消費するために執筆時間割いてゲームしてるわけじゃ、な、ないんだからねっ。ただ前作を読み直しているだけなんだからぁ!!

この作品では一ポンド五百円で計算しています。一応当時のレートを頼りに計算していますが、そもそも当時の物価が分からないのであくまで適当にしか計算していません。ご容赦ください。ご参考程度に。

誤字などありましたらご報告していただけると助かります。


杖やら、入学やら、資本家やら

 机の上には税金関係の書類が溜まっている。その横には土地の申請書、さらにその横にはダンブルドアからの手紙。もうどれから手を付けていいか分からない。まあ、優先順位が高いのはダンブルドアからの手紙だろう。私は他の書類を引き出しの中に仕舞うと、便箋の封蝋を破った。

 

「さて、大方咲夜関係の内容だとは思うけど」

 

 手紙を慎重に取り出し、机の上に広げる。まあ、手紙の内容は私の予想通りだった。咲夜が入学するということを了承したということと、入学するまでの詳しい日程や学校生活の詳細。あとは社交辞令だ。

 

「やっぱり寮よね。帰ってくるのはクリスマスと夏休みだけか。寂しくなるわ」

 

 取りあえずこの手紙に返事は不要だろう。私は手紙を引き出しに仕舞うと税金関係の書類を取り出す。紅魔館自体はイギリスに認知されていないため、税金は関わってこない。だが、マグルの街に持っている土地や建物などは普通に税金が掛かってくるし、向こうで持っている仕事の所得税は払わないといけない。

 

「少し手を広げすぎたかなぁ……んー、面倒くさい。でもこういうのを咲夜に任せるのもなんだし、美鈴には絶対無理だし。パチェは忙しそうだし。外で事務員でも雇う? いや、外部で雇うのはちょっと面倒か」

 

 そういえば数日前、パチェと咲夜の二人でダイアゴン横丁に買い出しに行ってきたんだったか。それの請求書もこちらに来ていたはずである。それぐらいパチェ自身が払ってくれればいいのに。まあ、ガリオン金貨なら余っているが。

 

「あ、でもそんなに大きな出費でもないわね。制服と杖だけ。……杖ねぇ」

 

 まあ、何にしても私からしたらはした金だが。そういえば昨日咲夜に給金がどうのといった話をしたが、私は咲夜に一度も給料を支払ったことがない。そもそも咲夜の仕事は、私が指示していることではなく、咲夜が美鈴の真似事を続けた結果、あの場所に落ち着いただけである。そろそろ正式な形で雇ってもいいかと思っていた矢先のホグワーツ入学だ。

 

「まあ、ホグワーツの入学支度金を咲夜の給金から出すってのは流石に冗談だけどね。……あ、美鈴に出させるってのはありかな? いや、それだと美鈴が咲夜の保護者ということに……やっぱり私が出そう。というか咲夜に関するお金は全部私が出そう」

 

 私は無駄な決心をすると手元の書類に目を落とす。あ、税金関係の書類、全然進めてなかった。

 

「あぁ……もうやってられん。休憩しよ。さくやー。お茶」

 

 次の瞬間書斎の扉がノックされた。叩く強さからして咲夜だろう。

 

「お嬢様、紅茶がはいりました」

 

「入っていいわよ」

 

 別に私の呟きを聞きつけて紅茶を持ってきたわけではない。いつもこれぐらいの時間にティータイムがあるだけだ。咲夜は私の許可が下りると扉を開けてティーセットを持ってくる。

 

「それで、九月の頭に入学だったかしら。もうあと数日じゃない。準備は済ませたの?」

 

 咲夜は慣れた手つきでティーカップに紅茶を注ぎ、私の前に出した。

 

「ええ、数日前に。思った以上にパチュリー様が教材を持っていらして、結局新しく買い足したのは制服と杖ぐらいです」

 

 確かにパチェならいくらでも教材は持っているだろう。教科書や大鍋、魔法薬学で使う薬草などだ。それにしても杖か。

 

「杖? ピリカピリララポポリナペペルトみたいな?」

 

 私は軽く冗談を飛ばす。咲夜も笑いながら冗談で返してきた。私は咲夜の淹れた紅茶を一口味わう。美味しいが、まだ美鈴のほうが紅茶を淹れるのは上手だろう。咲夜は何を思ったのかいそいそとポケットの中を探り、杖を取り出す。そしてそれを私に差し出してきた。

 

「これを振るうと魔法が使えるらしいんですけど、私にはさっぱりで」

 

 その仕草は新しく買ってもらった玩具を自慢するようで、何とも微笑ましい。私は咲夜から杖を受け取るとクルクルと指の先で回す。杖は赤く、ほんのりと吸血馬の魔力を有している。何とも私らしい杖だった。なんというか、このままでは少しおかしなことになる。杖というのは使用者に忠誠を誓うものだが、私に仕える咲夜が私っぽい杖を支配する。それはなんだか……いや上手く言葉にできないが、何か違う。

 そこで私はこの杖に対して能力を行使することにした。

 

「私の分身のような杖ね。いい趣味しているわ。貴方の入学祝いに、少し能力を掛けてあげる」

 

 まだ一度も魔法を行使していないこともあり、この杖の忠誠心は曖昧だ。その曖昧な忠誠心を私に固定する。これで私がこの杖を使って戦いに負けない限り、杖の忠誠が移ることがない。そしてそんな状況は絶対に来ないため、杖の忠誠心が敵に移ることは絶対ない。魔法界の杖の弱点を完全に消した。私ってやっぱり天才かもしれない。

 

「はい、終わったわ」

 

 私は杖を咲夜に返す。咲夜が不思議そうな顔をしていたので一応説明しておくことにした。

 

「これはパチェからの受け売りなんだけど、魔法使いが使う杖っていうのは使用者に忠誠心を抱くそうよ。その忠誠心っていうのは決闘などで杖を奪われると相手に移ってしまうものなのだけれど、この杖はどれだけ決闘を繰り返しても忠誠心は貴方から移らないわ」

 

「それはまた……一体どうしてなのでしょう?」

 

「答えは簡単。電話の親機子機みたいなものね。私は今この杖に私に忠誠を尽くすように命令を掛けた。その杖を、貴方に渡すわ。貴方が私に対する忠誠心を失わない限り、私に忠誠を誓ったこの杖は貴方を仲間と認知していつも以上の力を貴方に与えてくれるでしょう。主は独りで十分。貴方が主になる必要はないわ」

 

 咲夜はその説明を聞いて大体理解できたみたいだ。

 

「つまり、この杖は私の従者ではなく、同僚であり友であると……そういうことですね」

 

「まあそういうことね。杖自体は私に忠誠を尽くしているから、私がこの杖を使って決闘でもしない限り、忠誠心が他の誰かに移ることはないってわけ」

 

 咲夜はいそいそとメイド服の胸ポケットに杖を仕舞っている。なんだろう。手つきが可愛い。忠誠云々の話もそうだが、実を言えば杖の忠誠心を私に移したのには他にも理由もある。咲夜にとって杖というのは馴染みのないものだろう。さらに言えば咲夜は杖を使わなくても飛行や、ある程度の物体操作、それに時間操作の術が使える。

 

「紅茶おかわり」

 

 このように私に忠誠を誓わせ、それを貸し出すような形で杖を渡せば、馴染みのないものでも大切にできるだろう。魔法使いにとって杖は命だ。大切にしてもらわなければならない。

 

「なんにしても、咲夜がホグワーツねぇ。少し楽しみでもあるし、心配でもある」

 

「そう、ですかね。……楽しみ、ですか?」

 

 私は咲夜の淹れた紅茶を一口味わう。

 

「そう、楽しみ。多分思っている以上に学ぶことが多いと思うわ。魔法の勉強だけじゃなく、他の事もね」

 

 まあ、楽しみでもあるのだが、心配だという気持ちが大きい。勉強については何も問題ないだろう。だが、問題は生活面だ。咲夜は今まで人間を食材程度の認識でしか見ていない。もっとも、無駄な殺しをしているわけではないが、今までに殺した人間の数は両手で足りないどころの話ではない。そんな咲夜を人間しかいない空間に放り込むのだ。ホグワーツで殺人を犯さないといいのだが。咲夜に道徳を説くつもりはないが、流石に人を殺すと退学になるだろう。

 

「人間しかいない学校で上手くやっていけるのでしょうか。私はそれが一番心配です」

 

 やはり咲夜もそのことが心配なようだった。年相応な悩みに聞こえなくもないが、咲夜の場合事情が違いすぎる。

 

「まあ、大丈夫よ。楽しんできなさいな。もう下がっていいわよ」

 

 咲夜はティーセットを片付けると私に一礼して書斎を出ていった。私は先ほどの書類を取り出し、机の上に広げる。だが、私の頭は全く違うことを思考していた。

 

「咲夜は自分の私利私欲で人を殺さないし。まあ大丈夫でしょう。……いや、私の為にはいくらでも殺すから、そう言った状況にならないことを願うばかりだわ。流石にホグワーツでの殺人は隠蔽しきれないし。……パチェならもしかしたらいけるかしら」

 

「無理よ」

 

 間髪入れずにパチェの声が書斎に響く。大図書館とこの書斎は通信用の魔法具で繋がっている。どうやらいつの間にか魔法具が作動していたみたいだ。

 

「状況にもよるけど、学校みたいな閉ざされた空間での殺人は隠しきれないわ。容疑を他の生徒に被せることはできるけど」

 

「そう、なら大量殺人でも犯さない限りは何の問題もないわね」

 

 私は軽く伸びをすると、万年筆を手に取り書類に手を付け始める。

 

「それ、私が処理する前提よね。嫌よ面倒くさい」

 

「えぇ~……頑張ってよ」

 

「嫌。そもそもホグワーツに干渉するって結構難しいのよ? それに私の居場所がバレる可能性もあるし」

 

「隠れる必要ないと思うんだけどねぇ。そもそもホグワーツ卒業と同時にここに隠れているでしょ。当時もあまり話題に上がって無かったし。何をそんなに警戒しているのよ」

 

 そう、パチェはずっと紅魔館の大図書館に籠っている。本人曰く姿を隠しているようだが、パチェのことを探している者がいるようには思えない。

 

「……噂が独り歩きしているのよ。ホグワーツに幾つか著書を残してあるし、多分そこからだとは思うけど」

 

「何年前の話よ、それ。それにそれを書いたのも学生の頃でしょ?」

 

「……ひそかに出版もしてるし」

 

 それを聞いて私は小さくため息をついた。

 

「何してるのよ。隠居はどうしたの?」

 

「してるわ。だからあまりホグワーツには行きたくないの」

 

 パチェにはフランの監視をしてもらっているが、これではどちらが引き篭もりか分からない。まあ私からしたらその方が都合はいいのだが。

 

「なんにしても、隠蔽しきれない事件が起きたらそれまでよ。諦めなさいな。失うのは世間体ぐらいでしょ?」

 

「まあ吸血鬼に世間体もなにもないんだけどね。咲夜も紅魔館から離れることはないだろうし。……ないよね?」

 

 私の心配そうな声に、パチェが呆れたようなため息をついた。

 

「心配なら咲夜に魅了でも掛けることね。術で縛れば離れることもないでしょ?」

 

「なんか嫌。それに美鈴に負けた気がするし」

 

「面倒くさいわね」

 

 プツ、と魔法具が静かになる。どうやら向こうで切ったようだ。勝手に繋げておいてそれはないんじゃなかろうか。私は大きなため息とともに心配事を頭の隅に追いやり、書類仕事に専念した。

 

 

 

 

 

 ついに咲夜がホグワーツに行く日がやってきた。

 私は机の上に溜まっている書類を片付け軽く伸びをする。まだ眠くなる時間ではないが、既に太陽は出ている。なんというか、直射日光を浴びていなくとも朝は調子が出ない。出ているのに出ないというのはなんというか、面白いな。いや、出ているから出ないと言えば少しは違和感が少なくなるか。

 まあ今はそんなことはどうでもいい。書斎を出て廊下を歩き、階段を下る。そして大図書館の扉を開けた。

 

「あら、お揃いで」

 

 大図書館の暖炉の周りには既にパチェ、咲夜、その他の姿がある。咲夜は普段のメイド服ではなく、目立たない少し地味な洋服を着ていた。あれは確か人間を狩りに行くときの服装だ。咲夜は私の視線に気が付いたのか少し恥ずかしそうに身体を捻った。

 

「やっぱりこれが一番目立たないと思いまして。どうせ学校では制服なので」

 

「まあ、確かにね。制服には列車の中で着替えたらいいわ。まあ、着ていってもいいんだけど」

 

 パチェが暖炉を見ながらそう言う。確かに今日はマグルの街を歩くわけではないから制服でも大丈夫だろう。

 

「もう少しお洒落したほうが良かったでしょうか」

 

「あまりこだわる必要はないわ。少なくともメイド服やチャイナ服よりかは全然ね」

 

 私はチラリと美鈴の方を見る。今日も変わらず美鈴の服装はチャイナ服だった。

 

「というかそれ何よ。チャイナ服? なんでロンドンに建つ洋館でチャイナ服?」

 

「なにおう! チャイナ服なめんなよ!」

 

 美鈴がわざとらしく両手を挙げて怒る。そんな様子を見て咲夜がクスリと笑った。

 

「美鈴さんチャイナ服の上からメイドエプロンつけますもんね」

 

「おぜうさまに言われたくないですよ。ドアノブカバーみたいな帽子被りやがって!」

 

「いや、私は何時もあれ被ってるわけじゃないから。何時も被ってるのはどちらかというとパチェよね」

 

「まさかこの状況で私に飛び火するとは思わなかったわ。なんにしても、そろそろ時間よ。咲夜」

 

 それを聞いて咲夜はズボンのポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。咲夜はあの懐中時計を愛用している。能力を解禁したときに私が送ったものだが、大切にしてくれているようだ。

 

「本当だ。そろそろ出ないと拙いですね」

 

 咲夜が名残惜しそうに呟く。

 

「咲夜ちゃん! 頑張って! 寂しかったら手紙送っていいからね」

 

「ふくろうは貴方が撃ち落としたでしょうに」

 

「おぜうさま~、そんな昔のことを掘り返さなくても……」

 

「いや、昔でも何でもないから。つい先日のことでしょ」

 

「私は過去を振り返らない妖怪なんです」

 

「あら、首の筋肉が死んでるのね」

 

 私と美鈴はいつもの調子で言い争いを始める。すると唐突に咲夜が私の方へと向き直った。

 

「では、行ってまいります。御不自由をお掛けしますが、どうかお許しください」

 

 咲夜は深々とお辞儀をする。咲夜のそれを聞いて私と美鈴とパチェは顔を見合わせた。そしてニヤリと笑いほぼ同時に咲夜の頭を三方向から叩く。咲夜は不思議そうに顔を上げた。

 

「うぬぼれ過ぎですよ、咲夜ちゃん。メイド長としての私の実力、よく知っているでしょう?」

 

 美鈴がドヤ顔で言う。美鈴に言い負けるわけにはいかない。私も何かいいことを言わないと。

 

「咲夜、大きく成長してらっしゃい」

 

 うん、これだ。これでいい。なんだか保護者っぽい。少なくとも美鈴のよりかは保護者っぽいだろう。

 

「分からないことがあったら手紙を頂戴。魔法に関しては魔法界の中でも私が一番だと自負しているぐらいだしね」

 

 ……まさかの頼れるお姉さんアピールをするパチェ。なんというか、正直少し負けたような気がする。いや、そんなところで争ってどうするのだ。咲夜はそんな私たちを見てもう一度頭を下げると、煙突飛行粉を暖炉の中に放り投げる。そして炎の色が変わった暖炉の中に入っていった。

 

「九と四分の三番線ッ!!」

 

 咲夜が元気よく叫ぶと同時に炎に包まれ、暖炉の中から消える。どうやら無事に煙突飛行できたようである。

 

「ねえ、パチェ」

 

 私は気になっていたことをパチェに聞くことにした。

 

「この時間の九と四分の三番線って滅茶苦茶混雑してるわよね」

 

「ええ、そうね」

 

「煙突飛行なんかで行って大丈夫なの?」

 

「……運が悪いと着いた瞬間に上から人が落ちてくるわ」

 

 ……咲夜の幸運を祈るばかりである。

 

 

 

 

 咲夜がホグワーツに行ってから一週間が経った。今のところホグワーツから手紙は来ていない。問題となるような行動は取っていないようだ。咲夜は果たしてどの寮に決まったのか。性格からしてハッフルパフとグリフィンドールはないだろう。あと残るはレイブンクローとスリザリンだが、咲夜の場合はスリザリンだろうか。レイブンクローという可能性を捨てきれるだけでもないが。

 

「パチェはレイブンクローよね」

 

 私は横で本を読んでいるパチェに話しかけた。パチェは私のベッドの上で横になりながら本を読んでいる。

 

「そうよ。あの時は只の子供だったし」

 

「咲夜は何処になるかしらね」

 

 パチェは本を顔を上に乗せると少し考える。

 

「……スリザリンじゃないかしら」

 

 やっぱりパチェも私と同じ結論に達したようだった。私は机から離れるとパチェの横に寝転がる。

 

「ていうかほぼ消去法よね」

 

「……あの子の本質がわからないわ。ていうかなんでレミィの部屋で寝転がっているのかしら。私」

 

 パチェがゴロンと寝返りを打つ。私もパチェがいる方向へ寝返りを打った。私の手がパチェのお腹に乗るが、パチェは気にしていないようだ。

 

「咲夜がいないからでしょ? ほら、なんか寂しいし」

 

「フランの監視はいいのレミィ」

 

「あ、それいいわね」

 

 私はパチェを抱き上げると部屋を出る。そのまま廊下を飛び階段を下り、下り、下り、フランの部屋の扉をノックした。

 

「入るわよー」

 

「いいわよー」

 

「いいんだ」

 

 フランの許可を得ることができたため、私とパチェはフランの部屋へと入る。フランは何時ものように机で絵を描いていた。

 

「あら、お姉さまにパチュリー。何しに来たの?」

 

 私とパチェはフランのベッドに横になる。そんな私たちをフランが怪訝な顔で見た。

 

「……いや本当に何しに来たのよ」

 

「だらけに?」

 

「私は本を読んでいるだけだけどね」

 

 私はパチェのお腹を枕にして寝る。パチェは私の頭を本立てにして本を読み始めた。

 

「仕事しなさいよ」

 

「いつもはしてるわ。それに今日もさっきまでは仕事してたし」

 

 フランはペンを置くと私たちの方へと浮遊してくる。そして私のお腹を枕にしてベッドに寝転がった。フランの枝のような羽がパチェの首筋に当たる。パチェは寝苦しそうに寝返りを打った。パチェのお腹の位置が変わり私の頭はベッドの上に落ちる。

 

「……ぅ、ん…………。すぅ……」

 

 フランは私のお腹の上で寝息を立て始める。パチェもいつの間にか寝息を立てていた。

 

「いや貴方眠る必要ないでしょ」

 

「貴方だって食べる必要のないものを食べるじゃない」

 

 もうなんかどうでもいいや。私はクッションを手繰り寄せるとそれに頭を乗せる。寝た妹と寝たふりした友人と同じ部屋で寝るのも悪くないだろう。私は目を瞑ると疲れに身を任せてそのまま寝た。

 

 

 

 

 一九九一年十月。私はロンドンに建つ高層ビルの最上階にいた。机を挟んで向かいの席には知り合いの資本家が座っている。

 

「いいビルね。この辺の建物の中じゃ一番高いんじゃない?」

 

「それはどっちの意味だ?」

 

 資本家は足を組み替えて私を見る。彼女とは古い付き合いだ。まあ、主に金の貸し借りの関係だが。

 

「両方よ。メートル的にもポンド的にもね。ほら、うちは古めかしいし」

 

「古い建物は好きだ。是非ともお呼ばれしたいね」

 

 資本家は葉巻を取り出すと吸い口を作り火をつける。それを見て私もパイプを取り出した。

 

「「ふぅ」」

 

「いや、お呼ばれっていうけど、普通に無理よ。まだ貴方を殺したくないし。逆に貴方の家に行ってみたいわ」

 

「無理だ。私はまだお前を殺したくない」

 

「「ふぅ」」

 

 資本家は葉巻を咥えこむと懐から封筒を取り出す。資本家はその封筒から一通の手紙を取り出した。

 

「なんだかわかるか? 思った以上に意味不明なことが書かれていてな。紙自体も上質紙じゃない。いつの時代だと思うような羊皮紙だ」

 

 私は羊皮紙を受け取り、中に書かれている内容に目を通す。そこにはグリンゴッツと提携しないかということが書かれていた。まあ要するにグリンゴッツにお金を預けないかということだ。

 

「グリンゴッツ魔法銀行。聞いたことのない銀行だ。レミリア、貴様なら何か知っているかと思ってな」

 

「まあ名前からして胡散臭いわよね。魔法銀行なんて」

 

「いや、気になっているのはそこではない。ロンドンにはいくつか魔術結社があるしな。私もそういうものと繋がりがないわけではない。だが、こういうことに関してはレミリアのほうが詳しいと思ってな」

 

 ふむ、と私は腕を組んで考える。資本家は私の正体を知っているわけではない。だが、そう言った話をしていないわけでもない。

 

「グリンゴッツは結構大きな銀行よ。私も口座を持っていないわけではないわ。ただよくわからないのはどうしてグリンゴッツがこっちの世界の資本家に手紙を出したのかということね」

 

「こっちの世界とはどういうことだ? 貴様まで狂ったか?」

 

 私は資本家の目を見る。

 

「まあそろそろ教えてもいいかもね。手を伸ばしてみて」

 

「ん? こうか」

 

 資本家は私に言われた通りに右手をまっすぐ私の方へと伸ばす。私はその手を誘導し、私の羽に触らせた。資本家は不思議そうな顔をして二度三度私の羽に触れると弾かれるように椅子から立ち上がり私から距離を取った。

 

「なんだそれはッ!?」

 

 どうやらようやく私の背中についている羽を認識したようだった。化け物でも見るかのような目で資本家は私を見る。いや、実際私は化け物か。

 

「何って、羽だけど。私吸血鬼だし」

 

「……おい、ハロウィーンにはまだ早いぞ」

 

 資本家は私のことを睨みつけながら椅子に座りなおす。そして火の消えかかった葉巻を少し吸った。

 

「……マジか」

 

「結構マジよ。多分だけど、イギリスの首相と魔法大臣は繋がっているわ」

 

「魔法大臣?」

 

「ああ、そこからね」

 

 私は小一時間かけて魔法界のことを説明していく。資本家は始めは動揺していたみたいだが説明を終える頃には何時もの調子に戻っていた。

 

「なるほど、魔法界にある銀行か」

 

「というよりかは貸金庫に近いかしら。セキュリティは万全よ。それに向こうの通貨はポンドじゃなくてガリオン。セキュリティを突破してまでポンド札を盗もうとする奴なんていないわ」

 

 それを聞いて資本家は怪訝な顔をする。

 

「セキュリティは万全なのに二言目には突破してまでって……それは突破されることが前提の言い方じゃないのか?」

 

「……実をいうと今年の夏に一度突破されているわ。その時は既に金庫が空だったから何も盗まれなかったんだけどね」

 

「随分間抜けな強盗だな」

 

 いや、問題はそこではない。

 

「だが、被害がその金庫一つだったことが奇妙だ。もしそいつが金銭目的の強盗だったのであれば複数の金庫を狙ったはず」

 

 そう、問題は強盗が一つの金庫だけを狙ったことである。

 

「グリンゴッツのゴブリンの話では、中に入っていたものは何なのかを詮索しない方がいいとのことよ。つまり、金庫の中には何か特別な『一つ』のものが入っていた。または一種類ね。金銭や宝石ではないことは確かだけど」

 

「まあ巨大な桁の素数を金庫に入れて保管している会社もあると聞く」

 

「特に魔法界では特殊な魔法具も多い。多分今回盗まれそうになったのはそういう部類のものだと思うわ」

 

 資本家は紫煙を燻らせると軽く吐き出す。私も火が消えない程度にパイプを吹かした。暫く資本家も私も黙り込みそのことについて考え込む。三分ほど経過したところで資本家が顔を上げた。

 

「待て待て、今はそんな話どうでもいいだろうが。そのグリンゴッツとやらがこちらの基準で見て安全ならそれでいい」

 

「安全よ。マグルの銀行に比べたらね。でも近代化は進んでないから預けるものを持って行かないといけないけど」

 

「ということは現金で二十万ポンドが限界か。プラチナの塊なら六十万ポンドはいけるか」

 

 資本家はチラリと私を見る。あれは何かを値踏みしている目だ。

 

「おい、確か吸血鬼」

 

「なんで確かを付けるのよ。確かに吸血鬼よ」

 

「吸血鬼ということは人外だよな。何キロ持てる?」

 

 資本家のそんな問いに私は疑問符を浮かべる。

 

「え?」

 

「だから、何キロまでなら運べるかと聞いているんだ」

 

 そこまで聞いて私は資本家の狙いを理解した。

 

「おい、私を荷馬車代わりに使う気かこのアマ。嫌よ、絶対に運ばないわ」

 

「ぷっ」

 

 私がそっぽを向いた瞬間、資本家が噴き出す。

 

「吸血鬼なんて所詮そんなもんだよな。いやいや、すまん。ふふ、無駄に期待した私が馬鹿だったよ」

 

 …………。

 

「それは私に対する挑戦状だと受け取った。六千万だ」

 

「六千万? おい、プラチナを六千万ポンドも用意したら五トンはあるぞ」

 

「それが優雅に運べる限界サイズよ。それ以上大きくなると担がないといけなくなるし」

 

 ぷぷ、無理だ。五トンもプラチナの塊を用意できるわけがない。私はこの意地の張り合いに勝ったのだ。

 

「用意できるのなら、グリンゴッツの金庫まで運んであげるわ。そんな量のプラチナが用意できるのならね」

 

 資本家は黙って何かを考えている。多分言い訳を考えているのであろう。

 

「一か月だ。確かグリンゴッツはロンドンにあるんだったな。取りあえず十トントラックで近くまでは運んでやる。一か月後にまたこのビルに来てくれ。ついでにダイアゴン横丁の案内をしてくれると助かる」

 

 資本家はそういうと葉巻の灰を灰皿に落とす。そして何処かへ電話をかけ始めた。資本家の口からはプラチナや納期や六千万ポンドという単語が零れ落ちている。

 

「……。あれー?」

 

 どうやら完全に墓穴を掘ったようだ。でも実質問題片手で十トンまでなら余裕だ。こうなったら一か月後に資本家の度肝を抜いてやろう。私は内心ほくそ笑むとパイプを咥える。そしてゆっくりと紫煙を燻らせた。

 

 

 

 ついに来た約束の日。私は再び資本家のビルへと来ていた。私としては夜がいいのだが、グリンゴッツの営業時間を考えるとそうも言ってられない。なので今日は美鈴を日傘持ちとして連れてきている。美鈴は一応スーツ姿だ。

 

「待っていたぞレミリア。今日はよろしく頼む。あ、まあグリンゴッツの件は無理にとは言わないがな」

 

 資本家はロビーのソファーに座りながらニヤニヤとこちらを見ていた。美鈴はそんな資本家を物理的に上から見下ろしている。

 

「おぜうさま、これは?」

 

「これはとは失礼だな君」

 

「あれは一応私の知人よ」

 

 資本家はジロリとこちらを睨む。私は負けじと睨み返した。資本家は挨拶は済んだと言わんばかりに立ち上がる。そのまま私たち二人を外に案内した。

 

「美鈴、羽が焦げてる。日傘ぐらい真っすぐ差しなさいよ」

 

「ちょっとぐらい大丈夫ですよ」

 

 資本家は路上に停まっている十トントラックの荷台の扉を開ける。そこには手持ちの旅行鞄ぐらいの大きさのプラチナが二つ、『完全な長方形』を保って置かれていた。その長方形に持ち手のようなものはない。

 

「ねえ、持ち手は?」

 

「あ? んなもんねえよ」

 

 なるほど、さっきの笑みはそういうことだったようだ。五トンものプラチナを用意させた私に対するささやかな嫌がらせということだろう。

 

「ふ、まあ初めから期待していないさ。グリンゴッツにはコレクションの腕時計をいくつか預けることにしよう」

 

 資本家はケラケラ笑いながら私の肩を叩く。そんな資本家を美鈴が呆れた様子で見ていた。

 

「全く分かってないな君は。おぜうさまがこれぐらいでプライドを投げ出すわけがない」

 

 そう、この程度本当に『ささやかな嫌がらせ』でしかない。私はプラチナの上面に手を当てると、そのまま指を塊にめり込ませた。そのまま手を握りこんでいき、取っ手のような形にする。そしてそのまま持ち上げた。

 

「……見かけ以上に重たいわね。流石にこのまま運ぶと目立って仕方がないんだけど。何かケースみたいなのないの?」

 

 資本家はポカンとした顔でこちらを見ている。美鈴はその顔を見てケラケラと笑っていた。

 

「おぜうさま、一つ持ちましょうか?」

 

「鬼か貴様」

 

 美鈴のそんな提案に、私より早く資本家が突っ込む。

 

「一つだと物理的に運べないだろう。やじろべえのように両手に一つずつ持たないとバランスが取れない。お前、それを分かって言ってるだろう」

 

 美鈴は私が持っているプラチナの塊を片手で持ち上げようとする。持ち上げようとしたら美鈴の体がプラチナを支点にして持ち上がった。

 

「まあ、そうなるな」

 

「おぜうさま、コレの立ち直りが早すぎて少し引きます。本当に一か月前まで一般的なマグルだったんですか?」

 

「だからコレはやめろ」

 

「じゃあ姉御」

 

 確かに、資本家は順応性が高い。逆にその順応性がなければ私との付き合いは無かったかもしれない。

 

「貴様には負けたよ。正直吸血鬼というものを侮っていた。まさかここまでとは。今日はよろしく頼む」

 

 資本家はぺこりと私に頭を下げる。それを見て美鈴も私に頭を下げた。

 

「ゴチになります!!」

 

 私は手に持っているプラチナの塊で美鈴を殴る。美鈴はその衝撃で吹き飛びトラックの荷台を飛び出して車道に転がった。そして牽引車に轢かれる。

 

「おい、あれ轢かれたが大丈夫か?」

 

 美鈴はそのまま三十メートルほど転がると、スクリと立ち上がる。そしてニヤケ面でトラックに戻ってきた。

 

「マグルに迷惑かけちゃダァメじゃないですぅかぁ。お・ぜ・う・さ・ま?」

 

 私は美鈴の足にプラチナを落とした。鈍い音がしてプラチナが落下する。

 

「うわ危な!?」

 

 美鈴は咄嗟に足を引くと私から距離を取る。次の瞬間爆発音がした。トラックが大きく揺れ、少し傾く。私はプラチナから手を放し臨戦態勢を取る。美鈴も素早く私の前へと移動し、荷台の扉の方を油断なく睨んだ。

 

「手榴弾? いや、音からしてもっと単純な……」

 

 美鈴はぽつりと呟くが、資本家が呆れた顔をして手を振った。

 

「いや、お前がそんな重たいものをいきなり落としたからトラックのタイヤがパンクしたんだ馬鹿。ちょっと遠いが徒歩で行くぞアホ。この脳筋が」

 

 資本家が黒い布を二枚、私に向けて投げた。私はその布で二つのプラチナの塊を包み、プラチナ特有の銀色を隠した。

 

「パンクするようなタイヤを履いてるこのトラックが悪いわ。なんで履帯じゃないのよ」

 

「やっぱりアホか。頭を下げた私が馬鹿だった。ほらさっさと案内しろ」

 

 資本家もどついてやろうかと思ったが、流石にそれをすると死んでしまう。それにさっきは強がったがタイヤをパンクさせたのは完全に私の不注意だ。ここはぐっと堪えてプラチナを持ち上げる。そしてそのままトラックを降りた。




咲夜の杖の忠誠をレミリアに固定する

咲夜、ホグワーツ入学

レミリアが資本家と会合。グリンゴッツのことが話題に上がる。

無茶ぶり合戦の結果、プラチナのレートが凄いことに。

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