えりなは、屋敷に戻ると自分の部屋に駆け込んだ。そしてベットに顔を埋め泣きじゃくった。
えりな「バカ、バカ、幸平君のバカ」
そんなえりなの鳴き声を新戸はドア越しに聞いていた。
新戸(やはりえりな様は、幸平が・・・)
【極星寮】
佐藤「お代わり」
青木「てめーはゴリラか。バクバク何杯喰う気だよ」
佐藤「なんだと?」
吉野「もう、食事中ぐらい静かにしなさいよ」
創真「ご馳走様」
一色「創真くん、もういいのかい」
創真「はい、食欲なくて」
榊「珍しいわね。量はともかく食欲がないなんて」
伊武崎「朝なんかあったんじゃにのか?」
和希「今は、そっとしといてやろうよ」
創真は、自分の部屋の床に横になりながら考えていた。
創真(薙切の奴、何であんなに怒ってたんだ?)
和希「女心は、ちっとは理解しろよ創真」
創真「和希!」
和希「親父からの連絡だ。明日、暫定的に十傑を選出することが協会で決まったらしい。その中にお前の名前も一応ある。だが、お前が留学する場合は変更の可能性もあるから覚悟はしとけとよ」
創真「そうか」
和希「なあ創真。お前は、どっちかでいいのか?」
創真「どういう意味だよ」
和希「俺には、留学も十傑も諦めたくないって顔に見えるぞ。お前がえりなちゃんって十傑における何かでも通じるものがあるんじゃないのか?」
創真「お前は、すべて見通してるわけか。その通りだよ」
和希「俺は、よく十傑のシステムはよくわからんし、お前は一席の司先輩に勝った。勿論、えりなちゃんをバカにする気はないがお前の実力派十分証明できただろ」
創真「俺は、順位とかに興味はない。ただ、俺は薙切に美味いって俺の料理を認めてもらいたかった。入学試験からずっとあいつに認めてもらったことはなかったから、でも今回の件では俺に色々教えてくれた。俺の成長を支えてくれたのはあいつと言ってもいいぐらいさ」
和希「つまりは、恩を返したい。そういうことか?」
創真「そうとも言えるが、一緒に高みを歩みたいとも思った。でも、それは無理なことなんだよな」
和希「創真・・・」
和希には、創真が哀しそうに見えた。友として何とかしてやりたい。そう思った。
和希「創真、俺は神ではないが、お前の想いは受け取った。やれることはやってみるよ」
そういうと和希は部屋を後にした。
それから数日がたち創真たちは、一色に呼び出され遠月の会議室に呼ばれた。
一色「みんな来たようだね」
創真「一色先輩、それに女木島先輩に久我先輩まで」
えりな「一体、何をするつもりですか?」
一色「実は総帥・仙左衛門殿に頼まれたんだ」
水戸「総帥に?」
一色「決まったんだよ。協会から通達された新たな十傑が」
葉山「新たな十傑だと」
久我「それを今日ここでお前らに発表しろってお偉いさんに言われたわけ」
田所「でも、先輩たちも入れたら十人以上がここに」
和希「まあ、こそこそやられるよりいいんじゃない」
黒木場「お前、結果を知ってるんじゃないのか?」
和希「いくら協会委員の息子でも機密情報までは教えてくれないよ」
葉山「どうでもいいから早く発表してくれよ」
一色「そうだね。それじゃあ発表するよ」
一色は、封筒の封を切り書類を取り出した。そこには十傑の名前と詳細な選出理由が記載されている。
一色「第10席・田所恵、第9席・薙切アリス、第8席・黒木場リョウ、第7席・葉山アキラ、第6席・一ノ瀬和希、第5席・久我照紀、第4席・一色慧、第3席・女木島冬輔、第2席・幸平創真、そして第1席は薙切えりな・・・以上だ」
タクミ「ちょっと待て、なぜ幸平が第2席なんだ?」
えりな「そうです一色先輩。今回のことで学園を救った功績を考えたら幸平君が1位では?」
創真「いいんだよ。俺はほとんど十傑にはいないわけだし」
黒木場「どういう意味だ幸平」
一色「どういうことかな創真君?」
創真「俺、和希の親父たちの勧めで海外に料理留学するんす。当然十傑の責務は果たせない。なんで十傑も外してくれますか?」
すると、えりながささっと創真の目の前に立つ。そして、彼の頬を思いっきり引っ叩いた。
創真「薙切!」
えりな「どうしてよ・・・どうしてそうあっけらかんとできるのよ。あなた私を超えるんじゃないの? 遠月の頂点に立ちたいんじゃなかったの?」
アリス「幸平君、それを本気で言ってるなら私は許さないわよ」
タクミ「俺もだ。お前との決着もまだついていない。メッツァルーナは、今はお前が持ってるんだぞ」
和希「ちょっとお取込みのところいいっすか?」
創真「和希?」
和希「見損なったぜ。てっきりお前なら無茶覚悟でもらうかと思ったのにな。お前の志は、その程度だったのか。協会は、なぜ留学を進めたにも関わらずお前を十傑に入れたと思う?」
葉山「おい、それはどういう意味だよ」
新戸「一ノ瀬、もう言ってもいいんじゃないか?」
田所「新戸さん、何か知っているの?」
新戸「幸平、以前に一ノ瀬にこのことを問いただされたことがなかったか?」
その時、創真はあの時のことを思い出した。
創真「まさか・・・」
新戸「お前が留学するのに十傑に推薦したのも一ノ瀬さ」
みんな「何!」
一ノ瀬「創真、男なら腹を割って決めろ。お前はどうしたいのか。何のために留学をしたいのか」
創真は、しばらく黙り込んだ。するとえりなは創真の顔を両手で添え、くいっと自分の顔の前に上げた。
えりな「幸平創真、あなたの気持ちを教えて」
創真は、歯を噛みしめながら、そして涙をこらえるようにして言った。
創真「親父から留学の話があった時、それはとても嬉しかった。だけど、俺が悩んだのは十傑がどうこうじゃない。お前たちと・・・仲間と料理ができないこと、そして学園が元通りになってない状態で、それを放っておけなかった」
えりな「バカ、なんであなたがそんなに背負い込むのよ。学園は、あなたが救った。でも、それは私たちも救われたのよ。あなたを支えるために私たちはいるのよ」
葉山「そうだぜ。別にお前に振り回されてるわけじゃねえ。それに留学したって会えないわけじゃない」
アリス「そうよ。なんだったら食戟しに追いかけてもいいのよ」
新戸「幸平、お前がここにいるみんなは仲間だ。お前がいない間にその席を狙うやつは私たちが阻む」
田所「そうだよ。創真君は私たちの希望なんだよ。強くなって戻ってきてくれるために支えるのが友達でしょ」
和希「創真、2席はお前の席だ。言ってこう海外の技術を奪って来い」
すると、一色はふと笑い。創真の元へ歩み寄った。
一色「創真くん、夢をあきらめる必要はない。君なら2年かかるところでも1年で帰ってこれる可能性を秘めている。挑戦してきてよ」
えりな「私は、あなたが私に勝つまではこの席を譲らない。帰って来たら勝負しなさい」
創真「ああ、みんなありがとな」
今回は創真の秘める想いを告白。留学への決心を固めた創真だが、本心を言い切れないえりなは関係性に苦労することに、次回は創真とえりなの想いのクライマックス