(審査員たち)
「見た目は普通のカツ丼ですな」、「違いがあるとすれば卵が無く、マグロとカモ肉が加えられているぐらいですが・・・」、「ですが、何でしょうこの食欲を掻き立てる香りは」
【旧遠月ベンチ】
アリス「見た目などの第一印象は良いみたいね」
黒木場「ああ、だが勝負は味だ」
葉山「見た目は、普通のカツと変わらないからな」
和希「鍵は、あの容器の中身だね」
えりな「あの容器の中はタレかしら?」
和希「恐らくは」
創真「どうぞ。ソースはお好みでいいっすけど。マグロカツには左のを、カモ肉には真ん中のを、ロースカツは右のタレを使うのがおすすめっす」
(審査員たち)
「では、いただくとしましょうか」
審査員が一斉にかぶりつく。その瞬間に会場が異様な間合いに包まれた。
【スタンド】
吉野「どうなの? おいしいの?」
アルディーニ「分からない」
【メインステージ】
和希(創真、お前の皿に俺は賭けるぜ)
えりな(幸平君・・・あなたは私が認めた唯一の料理人よ。・・・絶対に勝って幸平君)
(審査員たち)
「これは、ただのカツ丼ではないですな」「これはカツをそれぞれ食さないと判断できませんな」「いや、それだけではないようですわ」「下のご飯にも仕掛けがありそうですわね」「では、再び」
審査員がしばらく食事を続ける。次の瞬間、審査員たちの眼つきが代わる。
審査員A「こ、これはそこらのカツにはない味だ」
司「な、何だと」
審査員B「この三種のカツと三種のタレこれらはそれぞれが品物の味を高めている」
審査員C「しかし、それらの引き立て役に一役買っているのは、この薬味を混ぜたごはんとカツの表面の味噌麹のようですね」
審査員D「この薬味は恐らく薬膳、この薬草が脂っこいカツの胃もたれを防いでくれています」
審査員E「だが、それでもこの迫力は表面に塗られた味噌麹の風味が三種のタレとマッチしていることだ」
【ベンチ】
アリス「わお、なかなか高評価みたいよ」
葉山「しかし、どういうことだ? 特に変わったことはしてねえはずなのに」
和希「調理的な部分は・・・ね」
田所「え、どういうこと」
新戸「幸平は、ここにいるみんなのそれぞれの長所を一つのさらにまとめたんだ」
和希「その通りだよ。新戸ちゃん」
えりな「幸平君のあのタレはおろし、赤ワイン、オイスターソースがベースとなった物をそれぞれ作っている」
和希「おろしダレは僕の和風ベース、赤ワインのソースは西洋の物でアルディーニ君と師匠である四宮さんの技術、オイスターソースは野菜をベースにする田所ちゃんの技術を使ってる」
黒木場「てことは、肉の調理自体は水戸のを?」
新戸「おそらくな」
アリス「ちょっと待ってよ。私やリョウ君や葉山君の技術はどこに?」
和希「葉山のスパイス技術は榊さんの麹と共に肉の香りづけや臭みどり、恐らくは表面に多く使われている。そして、アリスさんの分子技術は麹を肉に塗る過程に存在する」
アリス「何ですって」
えりな「麹は、原液ほどではないけど水分が多すぎるわ。カツを作るには水分を落とさないと」
アリス「もしや・・・」
葉山「一度急速冷凍し、常温に戻しながらゼラチンに近い状態にして塗ったんだろう。俺のスパイスやパン粉の接着の役目も含めて」
和希「創真のカツはジューシーな中身に対して表面の水分が見るからに少ない。つなぎに卵を使用していない証拠だ」
新戸「原理としては、少し唐揚げに近づけているな」
和也「その通りだ。でも、あれが本当の切り札だと思うよ」
創真「すいませんカツとご飯を少し残しておいてください。
さらに込められた想い、創真のカツ丼の切り札が次回炸裂