不滅の桜に捧ぐ、諸行無常の祈り   作:未来

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プロローグ②

――夢を見た。

 

それは、現代(いま)を生きる人たちとは異なる、文明、時間軸を生きた少女の覇道の軌跡。

イクステリア、そう名付けられた少女の生まれは決して裕福とは言えなかった。

朝早くから、畑を耕し、昼には獣を狩り、夜には家事に追われる。

幼き頃から、他者とは異なる在り方を自覚し、農婦如きに収まる器でないことは誰よりも理解していたが、村の中心に咲き誇る桜を見上げられるのならばと、器にそぐわない生活でも満足していた。

 

しかし、時代の流れはそれを許さない。

王朝が倒れ、時代の覇者を決める戦乱の世。

その戦禍の灯は、イクステリアの村にまで及び、補給を目的とした略奪により村は焼き滅ぼされた。

この時代にはよくある悲劇だが、それこそ、イクステリアによる覇道の始まりともあれば、それが普遍的な悲劇で終わるはずがなかった。

野盗や盗賊などとはわけが違う、訓練された正規の兵士たちは一人も残さず皆殺しにされ、焼かれた村で生き残ったのは、村が焼かれてなお雄大に咲き誇る桜と、その桜の下、返り血で身を染めたイクステリアのみ。

 

「美しき華を手折ろうなどと、無粋極まりない。

それが世の流れと言うのならば―――――――良かろう。

我が覇道、この世界を飲み込むまでよ」

 

たった一人の少女に手を貸したのは、その桜に宿る精霊。

神霊はおろか、凡百の精霊にさえ劣る、小さき精霊が、その力の全てを込めて鍛えた、薄紅色の刀身を持つ聖剣。

聖剣と言うには、あまりにもお粗末な剣が持つ力は、慈しみの陽光を発するだけという、戦闘において役に立たないものでしかなかった。

しかし、イクステリアはその剣をもって、万軍を薙ぎ払い、百の英雄を打倒し、ついには神すらも討ち滅ぼし、その覇道を成し遂げた。

 

イクステリアの祈りは、少女であったころから女帝を経て英霊になっても、不変のまま。

 

―――美しきものよ、悠久であれ

 

 

 

 

ありえないと、少年は慄いた。

『SE.RA.PH』における人とは、聖杯戦争の勝者である岸波白野を除けば、NPCと呼ばれる、極めて高精度な人を模倣した情報体。

そこに、当然、自由意志など存在せず、与えられた役割を与えられるがままに実行し、一定周期に、再構築(リロード)される、人形でしかない。

その一人であり、ムーンセルより、与えられた識別記号(なまえ)浅上(あさがみ)静久(しずく)。上級AIですらない彼が、夢を見ることはおろか、ムーンセルによって作り出された人形だと言う事に気づくことすらありえない。

 

有り得ない、起こり得てはならない現象。

観測の怪物ムーンセルが、把握すら出来ない現象など、あってはならないのだ。

 

――だというのに、夢で見た桜が、あるはずのない魂に焼き付いて離れない。

 

異常(エラー)異変(エラー)緊急時対応(じめつ)を実行せよ。

脳内で鳴り響く警告音(アラーム)を無視し、呼び寄せられるがままに、未開領域を突き進む。

未開領域とは、文字通り、前人未到の領域であり、如何なる危険が潜んでいるかも定かではない。

 

引き返すべきだ、と備え付けれらた理性(プログラム)が通達する。

 

引き返すべきだ、と備え付けられた生存本能(プログラム)が警告する。

 

それを、知ったことかと、有るはずの無い魂が一蹴する。

 

霞んでゆく自意識。NPCとして作られた以上、創造主の命令に反せば、待っている結末は削除(デリート)のみ。

徐々に動かなっていく体。摩耗していく精神。

自分の識別番号すら忘れ、なぜ、この道を歩いているのかすら忘れてしまった。

 

――美しきものよ、悠久であれ

 

だが、歩みを進める足は止まらない。

全てを失って尚、彼を動かし続ける、何者かの言葉と、雄大に咲き誇る桜。

 

有るはずの無い夢

 

有るはずのない記録

 

有るはずのない魂

 

限界を迎えた体を動かし、眠りにつこうとする精神を奮起させ、歩み続けたその先―――夢に見た桜を見た。

 

「―――がはっ!」

 

呆けている静久は、与えられた衝撃に踏みとどまることさえできず、無様に吹き飛ばされる。

元々、消えかけの体に衝撃を加えられれば、最早立つことさえできず、顔だけを動かし、自らを薙ぎ払った相手を見上げた。

攻性プログラム。未だ、どの勢力下にもない未開領域を護る使い捨ての兵士。

戦闘能力は決して高くはないが、戦闘能力すら与えられていないNPC、それも、創造主の命に背き、消えかけた静人が敵うはずがない。

 

――美しきものよ、悠久であれ

 

だめだ、と有るはずの無い魂が叫ぶ。

 

――だめだ、あれでは、あの程度のモノでは、護れない。

 

迫る戦禍の灯から、無粋極まる略奪者から――いずれ来る巨神から、美しきモノを護れない。

 

女帝(イクステリア)が愛し、有るはずの無い魂が渇望する、桜を!

 

必要なのは力。彼の女帝が振るった、最強の証。

万軍を薙ぎ払い、百の英雄を打倒し、ついには神すらも討ち滅ぼし、今度こそ、破壊の権化である巨神から、全てを護り切る為の聖剣を

 

「力を貸してくれ、儚き悠久(ルクシオン)

 

 

眩き光と共に、桜の幹から現れる。

それは、夢で見た、女帝の剣。桜の精霊から賜った、薄紅色の刀身を持つ、神殺しの聖剣。

 

「呵々々、余と同じ渇望を抱きし者よ。

神々でさえ焼きつくす、太陽の権能、一度、其方に貸し与えよう」

 

 

それは、歴史にすら残っていない、古き文明にのみ伝わる神話の具現。

 

―――曰く、薄紅色の刀身が緋色に染まりし時、天より降るは熾天の焔、断罪の陽光也

 

全ての宝具の原典を持つ、人類最古の英雄王でさえ持ちえない、失われし歴史に在った太陽の聖剣。

凡百の精霊よりも劣る桜の精霊だが、覇を成したイクステリアの偉業により、神格を得て、神木へと至ったその桜の拡張した霊格により、春を司る権能から、太陽の権能までその領域を拡張させている。

 

聖剣から神剣へと至った、儚き悠久の真名解放。

それは、太陽に近づき翼を折られたイカロスの如く、(かみ)に仇成すものへと降る必滅の審判。

太陽の下に生きる者ならば、いかなる場所に在ろうとも逃げることは叶わない、対界宝具。

 

神々でさえ焼き滅ぼすその宝具を前に、攻性プログラムが耐ええるはずもなく、霊子の欠片も残すことなく蒸発させた。

 

 

「――美しきものよ、悠久であれ、か」

 

貸し与えられた、薄紅色の刀身を持つ、夢で見た聖剣。

万軍を焼き払い、神にすら届く、旧文明に伝わる最強の宝具。

例え、仮初の主だとしても、この剣を手に取ったのならば、やることは決まっている。

 

 

薔薇の帝都、千年魔京、未明領域。

新生されゆくSE.RA.PHに、存在する3つの勢力に、たった一人の勢力が参加した。

 

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