――夢を見た。
それは、
イクステリア、そう名付けられた少女の生まれは決して裕福とは言えなかった。
朝早くから、畑を耕し、昼には獣を狩り、夜には家事に追われる。
幼き頃から、他者とは異なる在り方を自覚し、農婦如きに収まる器でないことは誰よりも理解していたが、村の中心に咲き誇る桜を見上げられるのならばと、器にそぐわない生活でも満足していた。
しかし、時代の流れはそれを許さない。
王朝が倒れ、時代の覇者を決める戦乱の世。
その戦禍の灯は、イクステリアの村にまで及び、補給を目的とした略奪により村は焼き滅ぼされた。
この時代にはよくある悲劇だが、それこそ、イクステリアによる覇道の始まりともあれば、それが普遍的な悲劇で終わるはずがなかった。
野盗や盗賊などとはわけが違う、訓練された正規の兵士たちは一人も残さず皆殺しにされ、焼かれた村で生き残ったのは、村が焼かれてなお雄大に咲き誇る桜と、その桜の下、返り血で身を染めたイクステリアのみ。
「美しき華を手折ろうなどと、無粋極まりない。
それが世の流れと言うのならば―――――――良かろう。
我が覇道、この世界を飲み込むまでよ」
たった一人の少女に手を貸したのは、その桜に宿る精霊。
神霊はおろか、凡百の精霊にさえ劣る、小さき精霊が、その力の全てを込めて鍛えた、薄紅色の刀身を持つ聖剣。
聖剣と言うには、あまりにもお粗末な剣が持つ力は、慈しみの陽光を発するだけという、戦闘において役に立たないものでしかなかった。
しかし、イクステリアはその剣をもって、万軍を薙ぎ払い、百の英雄を打倒し、ついには神すらも討ち滅ぼし、その覇道を成し遂げた。
イクステリアの祈りは、少女であったころから女帝を経て英霊になっても、不変のまま。
―――美しきものよ、悠久であれ
ありえないと、少年は慄いた。
『SE.RA.PH』における人とは、聖杯戦争の勝者である岸波白野を除けば、NPCと呼ばれる、極めて高精度な人を模倣した情報体。
そこに、当然、自由意志など存在せず、与えられた役割を与えられるがままに実行し、一定周期に、
その一人であり、ムーンセルより、与えられた
有り得ない、起こり得てはならない現象。
観測の怪物ムーンセルが、把握すら出来ない現象など、あってはならないのだ。
――だというのに、夢で見た桜が、あるはずのない魂に焼き付いて離れない。
脳内で鳴り響く
未開領域とは、文字通り、前人未到の領域であり、如何なる危険が潜んでいるかも定かではない。
引き返すべきだ、と備え付けれらた
引き返すべきだ、と備え付けられた
それを、知ったことかと、有るはずの無い魂が一蹴する。
霞んでゆく自意識。NPCとして作られた以上、創造主の命令に反せば、待っている結末は
徐々に動かなっていく体。摩耗していく精神。
自分の識別番号すら忘れ、なぜ、この道を歩いているのかすら忘れてしまった。
――美しきものよ、悠久であれ
だが、歩みを進める足は止まらない。
全てを失って尚、彼を動かし続ける、何者かの言葉と、雄大に咲き誇る桜。
有るはずの無い夢
有るはずのない記録
有るはずのない魂
限界を迎えた体を動かし、眠りにつこうとする精神を奮起させ、歩み続けたその先―――夢に見た桜を見た。
「―――がはっ!」
呆けている静久は、与えられた衝撃に踏みとどまることさえできず、無様に吹き飛ばされる。
元々、消えかけの体に衝撃を加えられれば、最早立つことさえできず、顔だけを動かし、自らを薙ぎ払った相手を見上げた。
攻性プログラム。未だ、どの勢力下にもない未開領域を護る使い捨ての兵士。
戦闘能力は決して高くはないが、戦闘能力すら与えられていないNPC、それも、創造主の命に背き、消えかけた静人が敵うはずがない。
――美しきものよ、悠久であれ
だめだ、と有るはずの無い魂が叫ぶ。
――だめだ、あれでは、あの程度のモノでは、護れない。
迫る戦禍の灯から、無粋極まる略奪者から――いずれ来る巨神から、美しきモノを護れない。
必要なのは力。彼の女帝が振るった、最強の証。
万軍を薙ぎ払い、百の英雄を打倒し、ついには神すらも討ち滅ぼし、今度こそ、破壊の権化である巨神から、全てを護り切る為の聖剣を
「力を貸してくれ、
眩き光と共に、桜の幹から現れる。
それは、夢で見た、女帝の剣。桜の精霊から賜った、薄紅色の刀身を持つ、神殺しの聖剣。
「呵々々、余と同じ渇望を抱きし者よ。
神々でさえ焼きつくす、太陽の権能、一度、其方に貸し与えよう」
それは、歴史にすら残っていない、古き文明にのみ伝わる神話の具現。
―――曰く、薄紅色の刀身が緋色に染まりし時、天より降るは熾天の焔、断罪の陽光也
全ての宝具の原典を持つ、人類最古の英雄王でさえ持ちえない、失われし歴史に在った太陽の聖剣。
凡百の精霊よりも劣る桜の精霊だが、覇を成したイクステリアの偉業により、神格を得て、神木へと至ったその桜の拡張した霊格により、春を司る権能から、太陽の権能までその領域を拡張させている。
聖剣から神剣へと至った、儚き悠久の真名解放。
それは、太陽に近づき翼を折られたイカロスの如く、
太陽の下に生きる者ならば、いかなる場所に在ろうとも逃げることは叶わない、対界宝具。
神々でさえ焼き滅ぼすその宝具を前に、攻性プログラムが耐ええるはずもなく、霊子の欠片も残すことなく蒸発させた。
「――美しきものよ、悠久であれ、か」
貸し与えられた、薄紅色の刀身を持つ、夢で見た聖剣。
万軍を焼き払い、神にすら届く、旧文明に伝わる最強の宝具。
例え、仮初の主だとしても、この剣を手に取ったのならば、やることは決まっている。
薔薇の帝都、千年魔京、未明領域。
新生されゆくSE.RA.PHに、存在する3つの勢力に、たった一人の勢力が参加した。