不滅の桜に捧ぐ、諸行無常の祈り   作:未来

4 / 7
失われし者と滅びし桜の女帝 ①

――それは、彼女が存在していた最後の記録

 

地表は燃え、世界は燃え、あらゆるものは踏みつぶされた。

 

まるで、彼女が歩み出した最初の時の様に、あの桜だけは雄大なままだった。

 

「軍神すらも敗れ去ったか。この戦、文明われらの敗北だな。

く、呵々々、余が破れるなど生前を含め、初めてのこと、敗北の味とはこうも苦々しい物とは、死して尚、死に切れぬ想いよ」

 

覇道は敗れ、剣も折れた。

その死をもってしても、失われることのなかった覇道の証も、ここまで。

しかし、それでも彼女の表情は清々しいものだった。

敗北は悔しい、護りたいものを護れず敗れ去る屈辱は耐え難いものだ。

 

「―――すまぬな。如何なる敵からも護ると誓ったが、どうやら余はここまでのようだ。

余が盟約を破るのもこれが初のことか……まったくもって、忌々しい奴よ」

 

でも、この世界に永遠はない。

そもそも、彼女の覇道は、永遠など欠片も求めていない。

咲き誇る花弁は散り去り、土足に踏まれ、大地に還る。

美しき花弁は、やがて緑葉となり、それすらも散り去る運命。

そこから、生き返るように、芽吹く花々だからこそ美しいのだ。

その刹那を、儚さこそ美しいのだと、高らかに謳うからこそ、彼女はそう言ったのだ。

 

――――美しきものよ、悠久であれ

 

「我が盟友よ、余の覇道の散り際、そこで看取ることを許すぞ」

 

だからこそ、その散り際に、悔いはあっても、恨むことはない。

これも諸行無常の理。文明が破壊され、人々が残らず死滅し、草木も残らぬ荒れ地となろうとも、永き時を経て、もう一度、その芽を覗かされることを信じているから。

 

 

「呵々々々々々――――――――ッ!

おお、巨神よ! ここまで、余を愚弄するか!」

 

だからこそ赦せない、赦せるはずもない。

散りゆく儚さこそ美しいと謳うからこそ、その散り際は、自らを討った者にこそ与えられるべきだ。

それを、与えず、惨めに生き延び、勝手に散れと?

 

「覚えておくがいい、巨神よ!

余は、最初にして最後、世界を手中に収めた、桜の女帝、イクステリア・ギルシレン・ルーヴェンフォード!

貴様に、終焉を齎す者の名である! 次に、まみえるときこそ、我が不滅の覇道が貴様を飲み込んでくれる!

呵々々々々々――――――――ッ!」

 

――違う、貴女の覇道は、貴女の願った祈りは、不滅などではない。

どれだけ、声を大にしようとも、その声は届くことはない。

憎しみに囚われた彼女は、滅びゆく霊体の全てを折れた剣に注ぎ込み、自らの盟友へと打ち込んだ。

 

それが、彼女の最期。

夢として記録を俯瞰していた静華は、夢から切り離されるように、意識が現実へと浮上していく。

現実と夢の狭間の空白。その刹那に、有るはずのない魂、その意味を知った。

 

――約束するよ。俺が、必ずお前を散らせてやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上し、目を覚ました静華が見た桜は、魂に焼き付いた物とは違っていた。

それも当然、この桜は永遠であり不滅。桜の女帝、イクステリアの魂によって時が止まってしまっている。

 

「いるんだろ、桜の女帝」

 

「呵々、もう少し取り乱すかと思えば、肝が据わっているではないか」

 

豪華絢爛、その言葉を体現している、十二単。一睨みで、射殺せそうな鋭い眼光に、漆を塗ったかのように艶やかな黒い髪。そこに在るだけで畏怖を放つ覇気は、まさしく女帝。

 

「聞きたいことが山ほどあるんだ。

一々、驚いていられない」

 

「呵々、悪くはない、良き戦士の顔だ。

よかろう、して、なにを聞きたい」

 

「なぜ、俺は生きている?」

 

そう、攻性プログラムに襲われたとき、否、襲われる前ですら、ムーンセルによって削除(デリート)される寸前だったはずなのだ。

一介のNPCである、浅上静久に、その命令を跳ね除ける権限などあるはずがない。

しかし、儚き悠久(ルクセルス)を手に取った時から、ムーンセルによる浸食が感じられない。

 

「なに、簡単なことよ。

其方は、今、余の霊格を取り込んでいるのだ。

万全の状態のムーンセルならばともかく、来る災悪に向け、あやつは、完全に接続を遮断しておる」

 

NPCに英霊の霊格(リソース)を?

人間であれば、間違いなく魔術回路がパンクし、良くて廃人、普通であれば、間違いなく脳が情報量に耐えきれず死ぬだろう。

であれば、NPCならば?

それも、結局は同じこと。上級AIですらないNPCに割り振られている許容量などたかが知れている。

コップ一杯の水に、バケツ一杯の絵の具を溶かすようなものである。

要するに、浅上静久の意識など欠片も残らず塗りつぶされる。

それが、神殺しであり、失われし文明に存在した最強の英霊ならば、尚の事。

 

「うむ、まさしくその通りよ。

其方の器に、余と言う存在は巨大すぎたのでな、貸し与えたのは霊格の欠片とも呼べぬ残滓のみ。

つまり、今の其方は、万分の一に希釈されたものではあるが、余の力を継いだサーヴァントということだ」

 

サーヴァント。人類史において、偉業を成した英霊を、再現した、高密度情報電脳体。

第三法、魂の物質化という、規格外の法によって生み出された、霊子生命体。

NPCとは根本的に異なり、ムーンセルに呼び出された存在でありながら、ムーンセルの機能を脅かさない限り、独自の思考によって行動することができる、一個の生命体。

 

「そんなものに、一介のNPCである俺が変質してるってるのか?」

 

「うむ。凡百のサーヴァントなら、いざ知らず、桜の女帝たる、余の魂であるぞ。

その残滓とはいえ、NPCをサーヴァントの格まで引き上げるのは容易なことよ。

――もっとも、其方がサーヴァントに成ったとはいえ、その能力は、凡百の、否、低級サーヴァントにすら劣る。

真に、余の力を引き出せるのならば、あの程度の攻性プログラムなぞ、一睨みで蒸発よ」

 

意図的に設計され、創られた存在故に、その器が小さいのは必然であるのだが、低級とまで呼ばれると、流石に勘に触るところがある。

NPCが低級とはいえサーヴァントと同格の力を持つこと自体、ありえない話ではあるのだが……

だが、英霊と化した今であれば、その問題も解決できないことはない。

生まれながらに決まっている、容量は増やせはしないが、他の電脳体を倒し分解することで、外付けの容量を作ればいいのだ。

もっとも、それも、規格外の霊格である桜の女帝を収めようとするならば、どれほどの量が必要になるのか、分かったものではないが……

 

「俺の体がどうなっているのかは理解した。

だが、何故、俺だったんだ? 上級AI、サーヴァントをなら、十全とは言わなくても、俺よりましだったろう。

いや、そもそも、あんた自身が動けばいいはずだ」

 

「知れたこと。今の余はこの桜と同化していて、この場所から動けぬ。

そして、何故其方かと聞かれれば、其方しかいなかったからだ。

余の覇道、その原点である祈りに同調する魂は其方しかいなかった、それだけのことよ」

 

巨神によって、滅ぼされた文明。

歴史による記録によって呼び出される英霊も、その歴史を失い、誰にも認識されなくなれば消えるしかいない。

その消滅の運命から逃れるため、選んだ道が、己が魂を桜に同化させ、生き永らえさせること。

故に、イクステリアは、この場所から動けない。

だからこそ、同じ渇望を抱く静久をこの場に導いた。

NPCとはいえ、それは過去に生きた人の記録をムーンセルが再現した、生き写し。

規格外の魂が、失われた魂を呼び寄せ、有るはずの魂を静久に定着させたのだ。

 

「大体の事情は理解した、なんにせよ、まずはあんたの力を取り戻さないとな」

 

来る収穫の星。かつて地上を滅びした、巨神を討ち倒すために。

桜の女帝の力、その全てを扱えるようにならねばならない。

 

「うむ、理解が早いのは結構だが、余に対し、その呼称は不敬であるぞ」

 

「その辺りは、俺の働きで見逃してくれ、イクステリア」

 

「呵々、良かろう。其方の奮迅、期待しておるぞ、失われし者(しずく)よ。

余の眼鏡に叶わねば、その魂、煉獄にくべると覚悟しておくがよい」

 

そう言い残し、霊体として桜に戻るイクステリア。

花弁が散ることもなく、咲き誇るまま時を止めた桜に、もう一度心に刻む。

 

――約束するよ。俺が、必ずお前を散らしてやる。

 

 

 

 




時間軸、並行世界ありきで時間軸と言うのもおかしな話なのですが、この物語を進行させている時間軸は焔詩篇となっています。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。