「―――ふッ、はぁッ!」
吐き出される、喝破の声と共に、十の攻性プログラムが両断される。
原典である、
さらに、力の一分も引きだせてはいないとはいえ、その手で振るうは、神殺しの聖剣。
生半可な宝具では受けることは許さず、ましてや、攻性プログラムなど物の数ではない。
剣を盾に受けようとしても、剣ごと両断してしまい、初陣は容易く勝利へと終った。
「うむ、一帯の平定、ご苦労。
必要以上の領土など必要ない故に、地盤固めはここらでよかろう。
肩慣らしも済んだならば、ここらで打って出ようではないか」
「相手は、聖杯戦争の勝者だぞ。
こんな状態で勝てるわけないだろ」
「なにを言っておる。
戦士が、真にその光を発するのは、戦場のみ。
修羅場の一つや二つ乗り越えずして、なにが、英霊か」
「頼むから、少しは戦力差ってものを考えてくれ……」
領域を護るアグレッサーを倒し、静久の容量は何倍にも膨れ上がったものの、元が上級AIですらない、NPC。
何倍になったと言っても、正規のサーヴァントに比べれば、比べるまでもない。
その容量は、精々B級マスターが持てる程度。
とてもではないが、イクステリアの霊格を降ろせるほどではない。
「なればこそ、サーヴァントの一人や二人、倒せばよいではないか」
「この剣がもう少し、使い勝手が良ければそれも、不可能じゃなかったんだけどな」
如何に静久のステータスが低いとはいえ、その手に持つ剣は、神殺しを成した、太陽の聖剣。
目視範囲なら当然の事、気配でも音でも、その位置が特定できれば、地球の質量の33万倍であり、如何なる金属すら蒸発させる高温、摂氏一万度を優に超える、太陽の欠片を音速で落下させることができるのだ。
そんなものを不意打ちで落とされれば、如何なるサーヴァントでも倒すことは出来るだろう。
しかし、放てば最期、霊子の欠片も残さず、灰燼と化すその宝具故に、目的である
「ふむ。であれば、
「王権?」
「聖杯戦争の勝者に与えられておる、ムーンセルの力を行使できる権能を持つ指輪。
それがあれば、余を降ろすことも可能であろう」
「―で、その王権を奪うために、聖杯戦争の勝者とそのサーヴァントと、その配下にあるサーヴァントと戦えと?」
无二打、八極拳の極みに至った、魔拳士・李書文
魔槍の担い手、北欧にその名を知らぬと言わしめる、クラウの猛犬・クー・フーリン
正体不明、本来有り得るはずの無い、多くの宝具を使う、錬鉄の英雄・無銘。
円卓の騎士、太陽の下であれば無敵と言わしめる、太陽の騎士・ガウェイン。
そして、その四騎を従えるは、聖杯戦争の勝者であるサーヴァント。
ローマにその人在りしと言われた暴君、薔薇の皇帝、ネロ・クラウディウス。
そして、相対するは
血の伯爵夫人、竜の血を引く残虐無情なる、鮮血魔嬢・エリザベート・バートリー
暗黒神殿、目にしたものを石化し食らう、ギリシャ神話の怪物・メドゥーサ
裏切りの将、三国志における最強の武将、万夫不当・呂布奉先
大英雄、神ですら後光を視る聖人、施しの英雄・カルナ
そして、その四騎を従えるは、聖杯戦争の勝者であるサブサーヴァント
傾国の美女にて、災悪の化生、大妖狐・玉藻の前。
渡されたデータに表示された、計8騎ものサーヴァント。
その一部を除けば、層々たる面子である。
特に、ガウェインとカルナ、この2騎は他のサーヴァントとは一線を画し、その2騎を退け、聖杯戦争を勝利したネロ・クラウディウスと玉藻の前も、カタログスペック以上のものだろう。
「案ずるでない、其方が上げた2騎は、確かに強力なサーヴァントであろう。
だが、太陽の権能を持つ余に、彼奴等の宝具は通用せぬ。
そして、彼の大妖狐に至っては、妖怪としてではなく英霊として召喚されておるのだ。
その霊格も大きく弱体化しておろう」
「その、頼みの綱の太陽の権能が、俺にも扱えたらの話な……」
確かに、神殺しを成し、その身一つで太陽の権能すら掴み取った、旧文明最強の女帝ならば、8騎のサーヴァントを同時に相手どることも可能だろう。
しかし、実際に相手をするのは、万倍に希釈された静久なのだ。
なんでもかんでも、自分を基準に考えるのは、どうにかしてほしいと思うのだが、泣き言にも似た、進言に耳を貸すような殊勝な相手ではない。
我を貫く、それ故に、彼女は覇を成し得たのだから。
「それにしても、イクステリアは、旧文明の英雄だろ?
どうして、現代の人類史に記されている英霊に詳しいんだ」
「余の装いには、かつて、神殺しの前座として戦った、七天の天使の羽が使われておるのだ。
第二階級である智天使、其が司るは『叡智』。その権能を用いれば、SE.RA.PHにおける情報収集など容易なことよ」
蛇足ではあるが、イクステリアを桜ごと月まで運んだのは、第三階級である座天使の司る、玉座を運ぶ『車輪』の権能であり、学がない農婦で有りながら、国を統治できたのは、第四階級である主天使の司る『支配』の権能によるものである。
「万能すぎるだろう、桜の女帝……」
「当然であろう? 余は人間としてその生涯を全うした故に英霊という型に嵌まっているが、その実、太陽の権能を持つ太陽神、すなわち、神霊としての側面もあるのだ。
神が敬われ畏れられるはのは、その力故、余が万能であることは、自明の理よ」
そもそも、神に付き従う天使の権能を限定的とはいえ行使できるのは、イクステリアが神霊と言う側面を持つが故。破格の宝具である、七天の羽衣は、高い神性を持たなければ、ただの重く動きずらい服でしかない。
少なくとも、現状の静久がもつ程度の神性では、真価を発揮する事などできない。
「――ったく、雇い主の命とはいえ、薔薇の帝都にも、千年魔京にも攻め込むつもりはない。
だが、約束は約束だ、それなりの戦果は挙げてやるさ」
戦士としても王としても、比類なき存在であるイクステリア。
だが、その欠点とも呼べない悪癖は、軍略を立てる気すらない所だろう。
なにせ、彼女が戦場に出れば、それで戦いは終わる。
『車輪』の権能があれば、地上において神秘の極点、魔法に近い転移すらも思うがまま。
単身で敵陣に出陣し、一振りで焦土にする火力を持つ、最強の女帝を、どう止めろというのか。
当時、彼女を敵に回した勢力には、哀れみすら沸いてくる。
「――呵々、よかろう。其方の思うがままに戦うがいい。
だが、忘れるでないぞ。我らが仇敵は、すぐそこに迫っておる。
彼奴を滅ぼすためには、余が万全の状態、否、それ以上の力が必要なのだ。
故に、王権の奪取は必須。いつまでも手招いては、手遅れになるぞ」
「大丈夫だ、忘れてなんかないさ」
その返事に満足したイクステリアは桜の内側へと消えゆく。
時を止め、散ることを許されない、不滅の桜。
だが、イクステリアの無茶ぶりの中にも、思わぬ収穫があった。
――王権、ムーンセル全権能を司る代理者の証。それさえあれば……