不滅の桜に捧ぐ、諸行無常の祈り   作:未来

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失われし者と滅びし桜の女帝 ④

「該当しないのではなく、類似する伝承が多すぎる故の、404(エラー)だったか」

 

歯車を溶断した宝具には多少なりとも驚きはしたが、所詮はその程度。

炎を象徴とした英霊など、文字通り、山ほどいるし、そこに炎を司る宝具を掛け合わせれば、対象は数倍にも膨れ上がる。

今、クレーンに押しつぶされ霊子へと還ろうとしている、はぐれサーヴァントも、そのうちの一人であろう、と興味を失い、背を向けた時だった。

 

「――儚き悠久(ルクシオン)ッ!」

 

まだ、死んでいなかったか、と振り返るがもう遅い。

薄紅色の刀身は緋色に染まり切り、天より降る、熾天の焔(たいようのかけら)は、既に召喚されている。

 

「ぐ、おおおぉぉおおぉぉおおおおおおおおおッ!」

 

迎撃は不可能と、守りの姿勢に入ったが、それこそ最悪の悪手。

熱量が違う。質量が違う。速度が違う。

真名解放以前の儚き永久ですら防ぎきれなかった、歯車が耐え得るはずがない。

なにより、地球の33万倍の質量を誇る太陽の欠片。

静久の魔力量では、ほんの一滴を落すがやっと。

だが、その一滴ですら、そこらの孤島を上回る質量。その圧縮された塊が、音速を超えた速度で降り注ぐ、その破壊力は転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)すらも上回る威力。

その強力さ故に、巨神に敗れるときですら使用を封じており、イクステリアが放てば、大陸が沈み、地球の環境すらも変えかねない、必滅の宝具。

それは、SE・RA・PHにおいても変わりはしない。

本来、如何なる攻撃も通用しない、その大地は、水は蒸発し、草木は塵に、墜落した中心には巨大なクレーターが生まれ、たった一撃で、荒野へと変貌させていた。

 

「――ッ、はぁッ……はぁッ……」

 

薄紅色の刀身へと戻った儚き悠久を、地面に突き刺し、膝から崩れ落ちる静久。

やられたフリをしていたが、その身に追ったダメージは本物。

それに加え、全魔力を使用した真名解放に、静久の体力は限界だった。

 

「ば、かなぁぁ! 太陽に縁のある宝具だとッ!」

 

炎に縁のある英霊・宝具は絞り込めないほどに膨大であり、その質も大小様々だ。

しかし、太陽の縁のある英霊・宝具となれば話は違う。

遥か古代、文明が発達する以前、銀河発生して以来、変わらず天上に存在する大いなる存在。

数多く存在する神話・伝承においても、太陽に縁のある存在に、弱きものなど存在しない。

それが、SE・RA・PHすらも破壊しうる威力を引き出せる宝具ならば尚の事。

そんな存在が、検索に掛からないはずがないのだ。

驚愕に打ち震えるサーヴァントと同じく、焼き焦げ、露わになったその体に刻まれし毒々しい紫に不可思議な金色の線が入った紋様に、目を見張った。

 

「――その紋様、まさか……!」

 

イクステリアの記憶に存在する、文明の破壊者。

静久が倒すべき敵の体に在った、紋様に似ていた。

 

「この紋様を知っているだと……

馬鹿な、過去の文明はムーンセルの記録ごと破壊されたはず。

さらに、正体不明の宝具―――――分かったぞ(エーウーレーカー)! 」

 

「遊星のサーヴァント!」

 

その目的が何であれ、生かしておくわけにはいかない。

ここで消し去る。限界を迎えた体を強引に動かし、斬りかかるが、既にその姿は其処にはない。

 

「ここは痛み分けといこう。旧き文明の亡霊よ!

次に合いま見えるときは、1万4000前と同じく、この文明ごと破壊してやろう」

 

姿だけではなくその気配も消え、今度こそ、前哨戦とも呼べない始まりの戦いは終わりを迎えた。

痛み分け。確かに、敵対したサーヴァントにしてみれば、お互いに満身創痍になったこの状況はそう言えるだろう。

 

「―――くそ、何が痛み分けだ……」

 

だが、静久の正体も悟られ、必殺でなければならない真名解放すら知られてしまった。

それだけの情報を持ち逃げされ、遊星に与されたサーヴァントを仕留めることさえできなかった。

静久にしてみれば、完全敗北とすらいえる結果だ。

 

「呵々々、手酷い敗北だな、失われし者(しずく)よ」

 

あまりにも目立ちすぎる、儚き悠久の真名解放。

SE・RA・PHすら破砕しうる衝撃も合わされば、セイバー陣営に悟られるなという方に無理がある。

現状で敵対するつもりは毛頭ないが、いずれは剣を交える相手。

可能な限り接触を避けたい静久は、満身創痍の体を引きずって、桜の領域へと帰還すると、からかう様な声音でイクステリアが出迎えた。

 

「あぁ、言い訳のしようとも思わないくらいにな」

 

「くだらん、驕りなど吹き飛んだようで、何よりだ。

高いステータス?強力な宝具? 愚か愚か、そんな基準が我らの戦場において何の役に立つ」

 

ステータスの差は、そのまま戦力の差となる。

ランクが2つも離れていれば、大人と子供の差とすらいえる。

強力な宝具とは、その一つで都市一つ壊滅させる兵器といえるだろう。

 

「だが、それを覆したからこそ、我らは英雄と呼ばれるのだ」

 

――比べるのも馬鹿らしい戦力差を覆し

 

――比類なき力を持つ幻想種を打倒し

 

――不可能と言われた偉業を成し遂げる

 

世間の下馬評も、世の常識すらも覆し、凌駕した者達こそが英雄と称される。

 

「故に、断言しよう、失われし者よ。

其方が、十全に、余の力を引き出せたところで、王権は奪えん。

サーヴァントの一騎やニ騎ならばどうとでもなるだろう。

しかし、聖杯戦争を勝ち残った、あやつらには、敵うまい」

 

ネロ・クラウディウスも玉藻の前も、決して強力なサーヴァントではない。

その能力も、宝具も、配下に従えたカルナやガウェインの方が、遥かに強力なのだ。

岸波白野よりも優れたマスターなど、いくらでもいただろう。

しかし、彼らは成し遂げたのだ。

誰もが、その存在を脅威として捉えることがなかった、始まりは最弱とすらいえる彼らが持ちえたのは、不屈の精神と英雄たる資質。

 

「呵々々、あれは恐ろしいぞ。

互いの戦力差なぞお構いなし、1%にも満たない勝機から目を背けることなく喰らいつく、可能性の権化。

限られた力と、無限の意志力で覆す、あれこそ天に愛されし英傑よ」

 

最優でもなければ、最強でもない。

絶対な力など持たず、誰が予想しても敗北は確実。

しかし、土壇場にあってこそ、万に一つの奇跡を掴み取る怪物に、強大な力を振りかざして勝てるはずがない。

 

「――俺を死地に嗾けたのもその為ってことか」

 

「そうとも、今のままで勝てぬのなら、其方もあやつらと同じ境地に立つしかあるまい。

戦士が真の光を発するのは戦場のみ。そして、その光を昇華し力と還るのが英雄よ。

英雄にすらなれん弱卒に、巨神が倒せるわけが無かろう」

 

無論、その過程で唯一の手足である静久が死んでしまう可能性は十分にある。

否、桜の女帝の力を1分も引き出せず、格上のサーヴァント達と戦えば死ぬ可能性の方がずっと高い。

それを承知の上で静久を死地に嗾けたのだ。

敗北すれば、それは死。所詮はそれまでの器でしかなかったというだけ。

 

「ご都合主義よろしく、窮地を覆して強くなれだって?

博打にしては、部の悪すぎる賭けだな」

 

「博打? ハッ、余を誰と心得る?

農婦の身でありながら、英傑らを討ち払い、列強国を滅ぼし、神すら下した桜の女帝ぞ。

この程度の窮地、博打を打つまでもない」

 

そう、信じているのは静久の力などではなく、覇を成した己の天運。

その天運に呼び寄せられた静久ならば、聖杯戦争を勝者にすら上回ると、一部の疑いすら持っていない。

傲慢と、誰しもが言い捨てるなか、自明の理と謳い、成し遂げる、絶対自負。

そもそも、イクステリアが巨神如きに敗北したことが間違い。

桜を護るという誓約の下では、地球と言う舞台はあまりにも狭すぎるただけ。

故に、勝つだろう。2度目はない。この月の舞台で、巨神は桜の女帝に敗北する。

桜を護ることから、巨神を滅ぼすことに執着しているイクステリアに、敵うはずがない。

 

――その果てに残るものが、不滅の桜だけ。

 

多くの命が生きる地球も、神の眼たる月も、全知的生命体の敵、捕食遊星ヴェルバーも、残らず灰燼に帰す終末の未来。例え、静久が自らの命を絶ち、イクステリアの手足を削ごうとも、その未来は変えられない。

1万4000年前に定められていた運命は、捕食遊星の到来と同時に、動き始めていた。

 

 

 

 

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