私の名前   作:たまてん

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注意・サンタイベ開始前に書いた作品なので、リリィの多少性格が異なります。

そのことを了承の上、読んでいただければ幸いと思います。

ではどうぞ、よろしくお願いします。




私の名前

Pr.

 

 

 

ーー何故だ。

 

 

「ーーさぁ行くわよトナカイさん。さっさと種火を集めて、私に貢いてください」

 

そう言って少女は、自らを肩車してる少年の頭をぺしぺしと叩いた。

 

「ーーはいはい。わかったよジャンヌ。けど少し待ってね。まだちょっと準備必要なんだから」

 

しかし少年は、馬のような扱いをされているというのに、ただ苦笑するだけで怒るような素振りも見せなかった。

 

ーー何故なんだ。

 

「まったく、ほんとにノロマですね。こんなんだったら、貴方なんかに召喚されてやるじゃありませんわ」

 

「まぁまぁ。そう気を悪くしないでくれよ……よし、準備ok。じゃあ行こうかジャンヌ」

 

そう立ち上がって、彼はマイルームの扉を開けた。

 

すると彼は振り返って、不思議そうな顔をしてこちらを見る。

 

ーーそうしたのは、私が部屋の壁に寄りかかったまま、まったく動こうとしなかったからだろう。

 

「どうしたの?」

 

そう、私に問いかける。

 

……いつも通りの、腹立たしいくらい能天気な顔で。

 

けど、いつもと違うのは、その彼の頭の上に、別の誰かの顔があったこと。

 

ーー自分によく似た顔をした少女は、ただじっとこちらを見つめる。

 

ーーああ、ほんとうに。

 

「……何でもないわよ。今行くわ」

 

ぶっきらぼうに、彼女は答える。

 

ーー私じゃない『ジャンヌ』。

 

その名を彼が呼ぶ。

 

それがどうして。

 

……こんなにも、胸をざわつかせるのだろう。

 

わからないわ。

 

そう心につぶやく彼女ーージャンヌ・ダルク・オルタは、小脇に立て掛けていた旗を手に取った。

 

ーー災いをもたらす、竜の御旗を。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

「ああっもう!あの小娘、ほんとにムカつく!今すぐ串刺しにしてやりたいわ!」

 

「……ああそうかい。別に誰を串刺しにしようが構わんがな。執筆中の俺 の邪魔をしないでくれるかな」

 

ダンダンと机を叩いて抗議するジャンヌに、アンデルセンは手元の原稿用紙から少しも目を離すことなく淡々と言った。

 

しかし、ジャンヌはアンデルセンの言葉などまるで聞こえず「ムカつくムカつく……」と言葉を繰り返していた。

 

「……そうは言ってるがな。アレは一応お前に相当するんだろう?それを串刺しにするってどうなんだ?」

 

「仕方ないでしょ。ムカつくものはムカつくんだから。あーほんとぶちのめしたい……」

 

机に頬をあてながら物騒きわまりない台詞を吐くジャンヌに、アンデルセンはやれやれとため息をついた。

 

 

「……あいつもあいつよ。なんであのガキばかり優先するのかしら。ロリコンなの?」

 

「ひどい言い掛かりだな。ただ単に育成しているだけだろう。アレはまだここに来て日が浅い。マスターがより多く運用しようとするのも頷ける……そう邪険にすることもないだろ。他でもない、お前自身なのだから」

 

「……あんなのと、いっしょにするな」

 

ガンっ!と一際大きく机に額を打ち付けて、ジャンヌオルタはそう言った。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

一週間ほど前だ。

 

このカルデアに、新しいサーヴァントが召喚された。

 

そのサーヴァントが召喚される際、たまたまジャンヌもその場所に居合わせたが……そこで、彼女は目を疑うような者を見た。

 

ーー真っ白な体に、華奢な手足。

 

まだまだ成長仕切れてない肢体に、金の髪と瞳。

 

……見間違えようがなかった。

 

 

ーー召喚された少女の名は、 ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ 。

 

他でもない、ジャンヌ・ダルクの過去の姿であった。

 

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

「……それが、何が悲しくてあんなわけわかんないサンタのコスプレなんてやってんのよ」

 

 

「俺に聞かないでくれ」

 

うつむき、どんより落ち込むジャンヌに、アンデルセンはそうばっさりと斬った。

 

……幼少気のジャンヌが召喚された。

 

それはいい。

 

百歩譲ってまだいい。

 

問題なのはその服装だ。

 

「ーー黒ビキニにサンタ帽って、どこの風俗よ……?」

 

「本人は中々気に入ってるようだが」

 

「それが余計に不味いのよ……」

 

 

……あのヤヴァイ服装をドヤ顔で着る彼女。

 

それが自分であるという真実。

 

「……死にたい」

 

両手で顔を覆った彼女に、アンデルセンは御愁傷様と一言言った。

 

「まぁそう落ち込むな。あれはいわば若さの暴走というやつだ。そういう時期なのだろう」

 

「……その暴走した時期が現在進行形で一般公開された挙げ句、永久にあのままで私の目と鼻の先にい続けるという地獄が待っているのよ。ああ、ほんと。どうにかしたい……」

 

「……おまけにマスターまで取られたわけだな」

 

「そうよ!一番の問題はそれよ!あの小娘、レベルが低いからってことをダシにして彼にべったりなのよ!前までずっとずーっと私が傍にいたのになんなの!?アイツが来てから全然、とゆうかマスターもマスターで私がどう思ってるかなんてさっぱり!!いつもジャンヌジャンヌってあの娘のこと呼んでばかりで。ついこの間までそう呼んでもらえたのは私だけだったのに……」

 

そこまで言いかけて彼女はハッとなる。

 

原稿用紙しか興味のなかったアンデルセンが、いつの間にかにやにやとした顔でジャンヌを見ていた。

 

「ーー熱いな。とても心震える言葉であったよ。ペンの進みが止まるぐらいにはな」

 

「……忘れなさい。でないと殺すから」

 

善処しよう、と答え苦笑するアンデルセンに、ぐっ、とジャンヌは歯噛みする。

 

気の毒なことに、彼女の耳はゆでダコのように真っ赤であった。

 

「しかしあれだな。そうなってくるとなおさら厄介なことになると思うぞ」

 

「……何がよ」

 

「だからな。あのサンタ幼女はお前自身なのだろう?ならーーお前と同じ思いを抱いていてもおかしくなかろう?」

 

言われてジャンヌは一瞬ぽかんとする。

 

それからさぁっと一気に青ざめた。

 

口元を手で覆い、「やばいかもしれない……」とつぶやく。

 

「……考えてみればそうよね。一応あのガキ私なんだから、マスターを好きになるに決まってる。あのボンクラも、鈍いちゃっ鈍いけど割りとちゃっかりしてるし、私に夢中だったし、いつ関係が出来てもおかしくないわ……」

 

「自分への評価が低かったり高かったりで忙しないな」

 

「ええ本当。自惚れすぎではありませんこと?」

 

 

唐突に入ってきた第三者の声に、二人はぎょっとする。

 

……いつの間にか、机にもうひとつの人物が腰かけていた。

 

「……清姫。いつからいた?」

 

アンデルセンが問うと「ちょうど今来たところですわ」と彼女は答える。

 

「暇をもて余していましたので辺りを散策していたらなにやら面白げなお話をしていましたから。わたくしも混ぜてくださる?」

 

清姫がそう訊ねると横にいたジャンヌが鼻で笑った。

 

「ーー病気持ちの女と話したって何も面白くないわ。時間の無駄よ。貴女の会話って壁に話しかけるのと大差ないから。じゃあね」

 

「まぁひどい言い草……けれどわたくし、貴女のことをとても評価していましてよ」

 

清姫の唐突な台詞に「はぁ?」と疑問符を浮かべるジャンヌ。

 

清姫は透き通った眼でジャンヌを見つめながら、まるで心の内を吐露するかのように語りだした。

 

「ーーええ。私は知っています。貴女がどれだけますたぁに尽くしたか、どれだけますたぁを思っていたかを。ますたぁを命懸けで守りその傍に居続けた。ますたぁが助けを呼んだとき貴女はすぐに駆けつけた。雨が降ろうが槍が降ろうが、林檎を砕かれ、令呪を使われ、貴女は戦い続けた」

 

「なぁ。後半やけに生々しくないか?」

 

「そんな貴女を清姫は知っています。だからこそ、わたくしはわかってしまいました……ますたぁの真の理解者は、貴女なのだと」

 

 

……これ以上ない、見え透いた嘘だとアンデルセンは思った。

 

だって言いながら頬に青筋立てまくっているし。

 

ものすごい殺気を感じるし。

 

これで騙される方がどうかしてる。

 

流石にこの嘘に意味があるのかと、彼は呆れていた。

 

 

「……ごめん清姫。私、貴女のこと勘違いしてた。私の気持ち、こんなにもわかってくれていたなんて……」

 

……前言撤回。

 

どうかしていたらしい。

 

涙ぐむジャンヌを、清姫が(表面上は)やさしく抱き止める。

 

「……清姫。どうしよう。このままじゃ、マスターとられちゃう。あのロリ美少女な私にとらちゃう……」

 

「……安心してくださいまし。わたくしにいい考えがございますわ。わたくしたちあだるてぃでせくしーな大人にしかできない秘策が」

 

涙を拭ったジャンヌが、すがるような瞳で見つめる。

 

清姫はにっこりと笑っていった。

 

「ーー夜這いです」

 

「……何だ。お前の十八番かって、ごほぉっ!?」

 

鼻で笑ったアンデルセンの鳩尾を清姫の強烈な一撃が襲った。

 

対してジャンヌは『夜這い』という単語を聞いた顔を真っ赤にしておろおろとしていた。

 

「夜這いって、あ、あ、貴女の正気なの?」

 

「正気です。狂化してますが正気です。大丈夫ですよ。字面は中々ですが勢いでやれます。いけいけごーごーです。では早速いってらっしゃっい」

 

「え、今から!?」

 

「当たり前でしょう!?思い立ったら吉日。この時間なら部屋にはますたぁしかいませんし。それともーー幼女な自分に先を越されてもよろしくて?」

 

 

「………………わかったわ。このジャンヌ・ダルクの名にかけて、やってやろうじゃないっ!!」

 

 

「……い、いや。やったら不味いだろう史実的に……」

 

 

呻きながらもアンデルセンがそう警告したが、すでにジャンヌは脱兎の如く駆け出していた。

 

彼女の姿が完全に見えなくなったあと、清姫がくつくつと笑い出す。

 

「……まんまと引っ掛かりましたね。我ながら、断腸の思いの名演技でしたが大成功のようです」

 

「『名』ではなく『迷』だろうがな……しかし、お前から焚き付けておいて大成功とはどうゆうことだ?」

 

「まぁまぁよくお考えください。まずはあの女がますたぁの貞操を襲います。次にこのらぶりーなきよひーがますたぁをお助けします。最後にますたぁと一夜を遂げます。お分かりいただけましたか?」

 

「ああ。どうして最後に繋がるかわからない」

 

「吊り橋効果というものでございます。邪魔者を排除してますたぁもげっと。まさに一石二鳥の作戦」

 

「……そもそも、お前がアレに勝てるのか?」

 

「そこは愛でなんとかします。さぁますたぁ。待っててくださいまし。今まいりまーー」

 

言いかけたところで、清姫は背後から猛烈な殺気を感じた。

 

反射的に跳躍してその場を離れると、ドンと鈍い音が聞こえた。

 

振り替えると、さきほどまで自分のいた場所は深く地面が抉れ、そこには大きな槍が突き刺さっていた。

 

 

「……何をなさいますの、ブリュンヒルデさん」

 

清姫は目を細めて、突き刺さった槍を引き抜く彼女に問いかけた。

 

清姫と同じく、いつからいたのかとなるブリュンヒルデ。

 

彼女は「ええ、それはですね……」とつぶやくと、引き抜いた槍を清姫に向けて構え直す。

 

「ーーお姉様の邪魔はさせません」

 

「……なるほど、そうゆうことですか。ですがよいのですか?このままでは貴女のお姉様は想いを添い遂げてしまうのですよ?貴女の手元から、さらに遠のく。それは貴女の本意ではないのでは?」

 

「……確かにその通りなのでしょうーーですが清姫。それでも、私はお姉様の幸せを望むのです……」

 

そう言い切るブリュンヒルデに「まぁお優しい」と清姫は笑った。

 

……恐ろしいほど、冷たい微笑みで。

 

「……ですが、生憎と私はそこまでやさしくなれませんーー再会できたこの愛を見過ごせるほど、私は私に嘘はつけません。それを醜いと、病的であるというなら結構。それでこの愛が叶うなら、この身は喜んで蛇となりましょうーー!!」

 

その掛け声と共に、二人の戦いが始まった。

 

互いに一歩も譲らぬ、迫真の切り合い。

 

その喉元に届くのは清姫の爪か、ブリュンヒルデの槍先か。

 

ーーその光景を見ていて、アンデルセンはふとつぶやくのだった。

 

 

「ーー部屋で書こう」

 

ーーそうして、原稿用紙をまとめた彼は、踵を返すのであった。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

「……落ち着きなさい。ジャンヌ。大丈夫、貴女ならやれるわ……」

 

ーーマスターの部屋についたジャンヌを、そう自分自身に言い聞かせていた。

 

この扉開ければ、恐らく眠りについたマスターがいる。

 

私はそれにただ、よ、よ、よ……いを掛ければいいだけのことだ!

 

 

「……っよし!行くわよ」

 

そう意気込んだ彼女はいきよく扉を開けた。

 

「さ、さぁ。マスター!この憎悪、生半可なことでは収まらないわ。今宵は私の相手に、なっ、て……」

 

ーー言いかけて、やめた。

 

そこにあるものを見て。

 

マスターが寝ていた。

 

それは予想通り。

 

けれどその腕の中で、もう一人の誰かが寝ていた。

 

「…………」

 

……すぅー、すぅー。

 

聞こえるか、聞こえないかの本当に小さな寝息。

 

自分と同じ顔をした少女が、気持ちよさそうにマスターの腕に抱かれて眠っていた。

 

マスターの手には、一冊の絵本。

 

ーーなんとなく、想像がつく。

 

きっと、一人じゃ眠れないと『私』が駄々をこねて、彼を困らせて。

 

仕方ないなと、笑って寄り添って寝てくれた。

 

それでもまだまだ眠くないからと、『私』はせびって、彼に絵本を読ませた。

 

そうして彼の声を聞いてるうちに、いつしか『私』は眠ってしまって。

 

それでも、彼は『私』に寄り添ったままでいてくれる。

 

「……バカみたいだ」

 

そう、思わず呟いた。

 

さっきまて抱いていた感情なんて、どこかへ消えてしまった。

 

単純な話だ。

 

……私は私には出来ない、純粋な甘えかたが出来る『私』が羨ましくて、それを見ていたらジャンヌ・ダルク・オルタという存在まで甘くなってしまいそうだから、彼女を必要以上に遠ざけたんだ。

 

どうしようもない、私の見栄を守るために。

 

……そんな見栄、この二人の寝顔を見たらこんなにも簡単に揺らいでしまうほど、とっくにどうにかなってしまったというのに。

 

本当に、しょうがない。

 

彼女はベットの傍に歩み寄ると、そっと、二人を起こさないように横になった。

 

……吐息がかかるほど近く。

 

鼓動を聞こえてしまうほど、近く。

 

そんな近くに、貴方の顔がある。

 

……その腕に抱き締められるなんて、とても想像できない。

 

目の前の小さな自分の豪胆さに、感心してしまう。

 

「…………うらやましわ。ほんと」

 

そう言って、彼女は起き上がろうとする。

 

 

「ーーなら君も混ざる?」

 

ーー予想だにしなかった声に、彼女は目を見開いた。

 

いつの間にか、マスターは片目を開けていて、彼女を見つめていた。

 

「……起きてたの?」

 

まぁね、とマスターは頷く。

 

いつから、とジャンヌが聞くと「君が入ってきたあたりから」と彼は答える。

 

「なんだ。かなり前から起きてたのね。趣味が悪いわよ、貴方」

 

「悪いね。半分寝ぼけてて。ちょうどオレが寝たタイミングで君がきた感じかな。いや子供ってすごいよね。ついさっきまでこの子すごいぱっちり起きてたし」

 

「……迷惑かけたわね」

 

「そんなことないよ。むしろ新鮮で……あれ。今なんか夫婦みたいな会話になってない?」

 

「なってないわよバカ」

 

そっか、と彼は苦笑する。

 

……本当に、呆れるぐらいに能天気。

 

ーーああ、でも。

 

だからこそなんだろうか。

 

 

 

「ーー邪魔したわね。部屋に戻るわ」

 

「あれ。いいの?せっかくだから一緒に寝てけばいいのに」

 

「冗談。子供と寝るなんて御免よ。うるさいし」

 

「辛辣過ぎないかい、仮にも君なんだよこの子」

 

「ーーだから、空けておきなさい」

 

え、とマスターは怪訝な顔をする。

 

 

ーーこんな人だからこそ。

 

 

扉の前に立った彼女は最後に、ほんのりと、その頬を赤く染めながら、彼に言った。

 

 

 

 

「ーー明日の夜は、私だけをジャンヌと呼びなさい」

 

 

 

 

ーー全てを、委ねてもいいと思えたのは。

 

 

そう言って、彼女は部屋を去った。

 

 

 

……しばらくの間、彼はぽかんと呆けていた。

 

何度も、何度も、頭の中で彼女の言葉をリピートする。

 

そしてようやく、その意味を理解する。

 

すると彼は、片手で顔を覆い、ぽつりとつぶやいた。

 

 

「ーーそれは、さすがに卑怯だよ。ジャンヌ」

 

 

 

ーーああ、どうやら今夜は。

 

 

 

もう、眠れそうにない。

 

 

 

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