花は根に、鳥は古巣に   作:丸焼きどらごん

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花は根に、鳥は古巣に(後)

 住んでいた町を出て、最初に向かったのは元忍空組子忍の隊長である風助さんのところだった。何故かと言えば、戦時中に彼の住んでいた村の事をよく聞いていたので一番場所が特定しやすかったのだ。本当は浜地さんのこともあるし、我が酉忍の隊長である藍朓さんに相談したかったんだけど……3年前の戦で分かれたきり、俺は彼が今何処に居るのか知らない。かつての部下がくれる情報は表立って動いている忍空の残党や世間の情勢についてが主だったから、知る機会が無かったのだ。…………ついでに言うと、会ったら会ったで3年前の事で怒られそうでちょっと気まずい。あの人元ヤンだから怒ると怖いんだよね。

 

 そして風助さんの住む村まで行った俺なのだが、いざ村に付着けば、彼は現在隣に住んでいるおばあさんの病気の薬をもらうために一人都へ向かったとのこと。なんとタイミングの悪い……。

 しかし彼の向かった足跡をたどるのは容易かった。なにしろあの目立つ顔だからな……。「カエルっぽい顔した少年を知りませんか?」と聞けば十中八九見た人間の記憶に残っているのだから凄い。それにしても、行く先々で風助さんに助けられたという話をちらほら聞いて彼が3年前と何も変わらないのだと分かって少しほっとした。

 幼いならが、彼は尊敬できる方だった。

 

 

 でもって、たどり着いたのは元巳忍の副隊長、黄愁さんが幅を利かせている村だった。ここについては目立つことしてるもんだから小耳にはさんではいたけど……いざ実際に見てみると酷いな。

 村の人間に話を聞けば元から住んでいた人間のほとんどが虐殺されて土地を奪われた上に、奴らは店などから高額な金を毎日のように吸い上げたんだとか。村で営業している店などほとんどなく、潰れた店が立ち並ぶ寂れた様相を呈していた。……おそらく、絞れるだけ絞って残りカスになったら次のターゲットを探して別の村か町に行くんだろうな。まるで寄生虫だ。

 橙次さんのあの人柄の下で過ごしておきながら、何でこういうことしようって人間になるのだか。時代が悪いと言えばそれまでだが、それを言い訳に好き勝手やられるのは気分が悪い。

 

「ようよう姉ちゃん、可愛いね~! げっ、でもキモイ傷……まあいいや! 俺とヤらない?」

「いやんっ! お口臭いわ!」

「どぶふらッ!?」

「てめぇ何を、げむびゅび!?」

 

 とりあえず声をかけてきた頭悪そうなチンピラどもの腹に、内臓飛び出させるつもりで蹴りを入れて多少のストレス発散をする。それから風助さんを探すと、村の中でも珍しく営業していた薬屋でカエル顔の少年がたった今薬を買っていったと話を聞いた。どうやら彼は今「心の家」という孤児院に居るらしい。その買っていった薬はその孤児院の院長先生のものらしいから、おそらく世話になってそのお礼に……ということだろう。

 

 やっと追い付いたと思い、うきうきと俺はその孤児院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 風助はこの村についてから、心の家という孤児院で食事を与えてもらった。食料が不足している今、自分たちで精いっぱいだというのにマザーと呼ばれる院長が自分の分の食事を分けてくれたのだ。その上風邪をひいていた風助を心配して一晩泊まっていくといいと言ってくれた……そんな優しい彼女から、風助は亡くなった母の香りを感じていた。

 しかしそんなマザーが守る優しい空間に、子供が敷地で立ちションをしたからという理由だけでこの一帯を「黄愁ファミリーのものだ」といって憚らない輩がいちゃもんをつけてきた。

 ただ気に入らない。それだけで、この空間のなにもかもを壊そうとする者たちを風助は許せなかった。

 

 そして心の家や子供たちを傷つけようとした黄愁の部下をぶっとばし、世話になった孤児院で狼藉を働いたそいつについて文句をつけるため、そして忍空をこれ以上悪用しないようにと風助はかつて友人の部下であった黄愁に話をつけてきた。……つけてきたつもりだった。しかし、ここまで酷い事を平然とする輩が大人しく引き下がるはずがなかったのだ。

 

「よー! おばちゃん、薬買ってきたぞ」

「まあまあ、鼻水たらして。まだ風邪が良くなっていないのですね。ゆっくりお休みなさい」

 

 笑顔で帰ってきた風助を見て、ほっとした表情で風助に歩み寄ろうとするマザー。しかし風助はその足元……不自然に盛り上がった地面に気づき咄嗟に叫ぶ。

 

「き、来ちゃ駄目だ!!」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、元々はは風助を狙っていた……黄愁の部下が仕掛けていった地雷が、爆発した。優しいマザーを巻き込んで。

 

 

 

 

 

 

「ま、マザーぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 孤児院で働いていた女性の慟哭が黒煙の中甲高く響き、それに対して風助は声も無く激しく後悔と怒りで身を震わせた。

 

 しかし、そこに鈴が転がるような軽やかな声が響く。

 

 

 

「まったく、本当にここはゴミ溜めですね。……お怪我はありませんか? マダム」

 

「! 誰だ!?」

 

 

 

 風に流されて煙が散り始めると、爆発の中心部から遠く離れた場所……そこに立つ人影が見えた。そしてその人物の腕には、たった今吹き飛ばされたと思ったマザーが抱きかかえられている。

 そして長いスカートを爆風で焦がしながらも、涼やかな表情で立っていたその人物は笑顔で風助に挨拶をした。

 

 

「お久しぶりです、風助隊長!」

 

「おめぇは……!」

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 やったー風助隊長みーつけた! とか思っていたら、院長さんっぽいマダムが地雷踏みかけてて焦った。空飛拳の要領で咄嗟に平行に建物の壁蹴って横からその体をかっさらったけど、正直爆風を受けた背中が痛い。ひりひりするから火傷くらいしたかな?

 とりあえずマダムに安否を確認したら大丈夫とのことで一安心する。駆け寄って来た若い女性にマダムを託すと、俺は満面の笑みで風助さんに挨拶した。

 

 

「お久しぶりです、風助隊長!」

 

「おめぇは! …………誰だ?」

 

 あうち

 

「ああ、まあ気づきませんよね……」

 

 

 自分から女装しているとはいえ、昔の知り合いに気づいてもらえないとちょっと悲しいのは我儘だろうか。でもすっかり女装がくせになってしまっていて、今さらもとには戻せそうにない。だって変な輩も絡んでくるけど、顔に傷を負った儚げな美女を装っていた方が色々親切にしてもらえてお得なんだ。

 少し遠い目になりつつ、とりあえず久しぶりの再会をもう一度やり直すために名乗る。

 

「葉鳥ですよ。覚えてませんか?」

「葉鳥って……藍朓んとこの葉鳥か? おー! なんだおめぇ、なんでオカマになってんだ?」

 

 まず生きてたのか! とか言って欲しかった俺は我儘ですか。それと女装は好きだけどオカマじゃない。俺はちゃんと女の子が好きなんですよ! 今は運命の出会いを待ちつつ結婚資金を貯めてるだけで!

 

「…………え~と、とりあえず風助さんはお元気そうでなによりです。ところで、この暴挙は黄愁さんですよね? シメに行くならお手伝いしますが。雑魚の露払い程度なら俺でも出来ますんで」

 

 そう申し出ると、風助さんは自分一人で行くからここを守ってくれと言ってきた。まあ、さっきみたいな事になっても困るしな……。ここは大人しく待っているか。

 そして風助さんを見送り、待っている間暇なので俺は黄愁ファミリーのせいでずいぶん酷い有様になっていた孤児院の修理を手伝うことにした。マダムとお姉さんには助けてもらった上にそんなことまでしてもらっては申し訳ないと止められてしまったが、違う隊とはいえ元忍空組がやらかした所業だ。償いにもならないだろうが、何もしないというのはそれこそ気分が悪い。これは親切というよりも、俺の自己満足だ。あまり気にしないでほしい。

 

 しばらくすると、無事に黄愁さんを倒したのか風助さんが帰って来た。……何故かペンギンを連れて。

 

「あれ、この子って橙次さんが飼ってたペンギンですよね」

「ヒロユキだ! 何か帰り道忘れちまったみてーだから、久しぶりに橙次にも会いてぇし俺が連れてってやろうと思ってな」

「あ、でしたら自分も同行しても構いませんか。道中お話しますが、お耳に入れたいことが有りまして……。出来れば他の隊長方にも」

 

 

 そして風助さんの旅路に同行することになった俺だったが、事前に知らせる前に忍空狼の刺客は各所に放たれていたようだ。まあ俺のとこに浜地さんが来るくらいだもんな……。そりゃ、当然隊長達の所にも行ってるか。

 

 道中で橙次さんの妹の里穂子さんに出会い、再会した我が隊の隊長だった藍朓さんには3年前彼をかばって死にかけた事、女装に対しての2つの事へのツッコミ兼鉄拳制裁を加えられ(「生きてるなら連絡くらいしろ!」と怒られた)、そのまま橙次さんを助けに行った流れで忍空狼の一派と忍空狼の刺客、麒麟こと浜地さんと戦うことになり……残念なことに、浜地さんは隊長との戦いで亡くなられた。

 ……後で遺骨だけでも彼の妻に届けよう。真実を知らせるのは残酷だが、何も知らずに帰りを待たせる方が酷だからな。同じ隊の隊員ながら特に役にも立てなかったことだし、せめてこれくらいはやらせてもらおう。無理に笑いながらも涙を流す隊長にこれ以上負担をかけたくないし。

 まったく、帰りを待つ妻子が居ながら何故浜地さんはこんなことをしたのやら。

 ……忍空狼、いったいこの組織を狂わせたのは誰だ。

 

 その後それぞれ元忍空組の隊長格に忍空狼の危険性を知らせるために、俺たちは再び分かれた。……といっても、また勝手に姿をくらませるなよと藍朓さんに釘を刺されたのでしばらくは彼と行動を共にすることになったのだが。俺個人としては、昔の部下に通達して出来るだけ隊長らに忍空狼の事を伝えてくれとお願いした。

 

 

 

 

 忍空同士の戦い……忍空戦争の蒸し返し。

 

 後にそれを仕掛けてきた馬鹿が、かつて風助さんや赤雷さんと共に忍空の師である麗朱のもとで学んでいた陽紅という男だと知ることになる。紅と名を変えたそいつは、釈迦の証という忍空の全てが記された巻物を求めていた。奴には赤雷さんのように求める未来の理想など無く、ただひたすら……愚かしいほど真っすぐに忍空一の使い手の称号に憧れ最強を求めた男だった。

 結局は忍空の里にて師、麗朱の弟である聖紫から釈迦の証を継いだ風助さんに負け……紅は去った。いずれ、風助を倒すと言い残して。

 

 それにしても、たった一人の野望のために今回の騒動になったのかと思うと人の執念とは侮れない。……俺たちが知らないだけで、どこかでまた誰かが胸を焼き焦がす感情に突き動かされ、なにかを仕出かすのだろう。それを思うと戦争が終わったとはいえ、まだまだ体を鈍らせている場合では無いなと思い知った。

 

 

 その後俺は新しい街で花屋を再開しつつ、時々忍空の里まで赴いて体を鍛えている。藍朓さんに「俺がまた直々に鍛えてやろうか?」と言われたが、それについては遠慮した。あの人絶対加減してくれないからな……。鍛えるにしても、自分のペースでやりたい。

 

 

 

 

 ふいに外で名前を呼ばれた。店から出つつ、笑顔で応対する。

 

 

「いらっしゃいませ、胡蝶亭へようこそ。本日はどのような花をお求めですか?」

 

 

 

 

 仮初めの平和がいつ崩れるのか分からない。そんな事実は正に胡蝶の夢のごとく曖昧で儚く、平和と戦争……どちらを生きるのが正しい自分なのかをふいに惑わせ迷わせる。

 

 しかし、俺は今日も花を売る。

 赤雷さんのように理想を掲げることも無く、紅のように愚直に求めるものこそないが……これが俺にとっての幸せなのだ。

 

 

 

 花は根に、鳥は古巣にという諺がある。物事は皆、その本質に帰るという意味だったと思う。

 

 花は根に還り肥やしになる。戦いが終わらぬのなら、せめて誰かの心の慰めに花を添えよう。いずれ来たる未来のために。

 鳥は古巣に帰るもの。いずれ身につけた戦いの力が己を戦場に戻すなら、その時は全力でもって応えよう。

 

 己の本質が何処にあるかなど、考えなくとも生きていればいずれ”そこ”に帰るのだ。だからそれまで俺は花を売る。いずれ帰るその場所が幸せに繋がるようにと願いながら、現在の幸福を出来るだけ長く続けていくのだ。

 

 

 

 

 軒先で俺がまいた米をついばんでいた雀が、呑気に頬を膨らませながらチュンと鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくれたあなたが神か(驚愕
このあとがきまでたどり着いてくれた方にはただただ感謝。お粗末様でした。まとまりのないなんちゃって短編で申し訳ない。
でも忍空好きだけど、二次を書くには難しすぎた……orz (結果、力尽きての最後のダイジェストである

書き直す前の原型では浜地登場だけで力つきるという有様でした。
そして昔の自分にひとつ突っ込もう。何故主人公に女装させた。ほぼ意味なかったやないか……!
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