IS あの空もきっと蒼い   作:AK74

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 第二話

 

 爆発音が響き施設全体を揺らす。

 悲鳴がそこらじゅうから聞こえ、次々と生きている者が生きていた者へと変わり果てる。

 血肉があたり一帯に飛び散り鉄の匂いを発している。

 ISが見えた。

 IS用のライフルが火を噴き、人が肉片へと変貌する。

 IS用のブレードが宙を舞い、人を二つに切り裂く。

 それはISはスポーツの一つであり、軍用兵器ではないと言う常識が存在していなかった。

 そしてISの操縦者は嫌悪などひとつも抱いていない顔。逃げ惑う存在を人間と見ていない。その顔はまるでゴミを見るかのようだ。

 ”人゛と認識していないからこそ、平然と命を奪っていく。

 ”人だった存在”だとしても。

 

 これらは全て、後に”異能者”狩りと言われる出来事の一部始終であり、世間に”異能者”を一掃したとしか伝えられなかった、知らされることのない真実だった。

 

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

 

 10代後半と思われるアメリカ系の少女が、12歳ほどの少年を連れて逃げていた。

 病院で使われている病人服を着ている。いや、着ているとは言えないほどボロボロで血が付着していて、黒く変色していた。

 戦闘が行われている場所を素足で走っているせいで、ところどころ切れていて出血も無視できないほどまでになっている。それでも少女は走るのを止めない。

 手を引いている少年を守ると約束したのだから。自分を頼ってくれる震える少年を置いて逃げるなどできない。

 少年に抱いた、おかしいとは思える特別な感情もまた、助けると言う一心を生み出している。

 いくら自分たちが”異能者゛と言え、少女は力があっても自身を守ることができないもので、ISを倒せるとしても一撃でも受ければそれだけで終わる。ある意味欠陥品と言われる能力しかない。

 一方少年は”異能者”最高傑作と言われるが、それを使うのは12歳の子供。人が死んでいく中まともに能力が使えるはずもない。

 逃げることしかできなかった。

 

「アリ・・・ス・・怖い・・・よ」

 

「大丈夫だから・・・!あともう少しで助かるから・・・!」

 

 怯える少年を励まして、少しでも安心させるよう言葉をかけた。

 あと少し走ればISの武装があっても突破できない部屋に辿りつける。そこにたどり着ければ逃げ切れる。その部屋には脱出用の隠し通路があるのだから。

 

 T字路を右に曲がってあと10mという場所。

 今まで見つからなくて済んだ運が尽きた。

 

「みぃつけたぁ・・・・・・!」

 

 

 少女・・・アリスたちが曲がったのとは逆側。つまり左側にISに乗った女がいた。

 緑色が特徴のそのISはラファールリヴァイヴで、射撃型と一瞬で少女は見抜く。対IS用に改造された存在には全てのISのモデルナンバーを記憶させられていたからだ。

 自身の能力とは圧倒的に相性が悪い。アリスは冷や汗をかいた。

 攻撃する力はあっても防御できる能力がないアリスにとって、銃という存在は圧倒的に不利でしかない。

 距離を取られ一方的に攻撃されるとなすすべもなく死んでしまう。

 

「・・・・・・アリス・・・?」

 

 少年を自身の後ろに隠しISの操縦者の女を見据える。

 絶対に少年だけは守る。ならどうすればいい?

 ゛異能者゛として改造された脳を使い、一瞬でありとあらゆるパターンを考える。少年を守ることを最優先に。自分の安全を非優先に。

 そして導き出された答えは残酷なまでに、考え出した時の条件にぴったりだった。

 

「そのドアまで走って゛一夏”。全力で、振り返らないで」

 

「え?何・・・言ってるの?」

 

 予想通りの反応。あらかじめ用意していた言葉を一夏にかける。

 

「大丈夫だから。私は大丈夫。絶対に後から行くから、心配しないで」

 

 目線を一夏に合わせ強く抱きしめる。最後と言わんばかりに力強く抱きしめる。

 ISに乗った女が攻撃してくるかもしれないということを無視して。

 しばらくの後抱きしめるのをやめ、一夏と向き合い無理にでも笑う。

 

「えぁ・・・アリス・・・・・・」

 

 勘付かれてはいけない。

 強く言う。

 

「行ってっ!!!」

 

「ッ!!」

 

 気迫に押され一夏は歯を食いしばり走る。

 一度も振り返ることはなかった。

 

「ありがとう。待っていてくれて」

 

 一夏がドアの向こうにいったのを確認し、振り返りながら言う。

 その女に良心があったのは理解できないが、待ってくれたことは確かだ。

 ”一夏との最後”を。

 

「ふん。どうせ最後だろうしまってあげたけど、ドラマでもやっているつもり?胸糞悪いわね」

 

「ドラマなんて知らない。けど絶対に一夏のところになんて行かせない」

 

「あらやる気?所詮男が作った欠陥品ごときISに勝てると思うの?」

 

 

 女の言う通りアリスは欠陥品のような出来だ。攻撃しかできないなど役に立たない。

 ”異能者”の目指すべきは単体でISに勝利できることだ。

 だが、アリスの考えは違う。

 

「勝てなくてもいい。貴方を一夏の所に行けないようにできればいいんだから・・・!」

 

 その言葉とともに自身の攻撃しか能のない能力を解放する。

 長い髪は銀色に変色し、瞳が紅く染まる。

 

「へぇ・・・・・・・せいぜい頑張りなさい欠陥品」

 

 目の前の敵を相討ちにできればそれでいいのだから。

 二つの影が激突する。

 

 

―――――強く生きて、一夏

 

 

 その声は誰の耳に止まることもなかった。

 

 

 

 

 ぎぃぃと重いISですら突破できないドアが開き、中から一人の少年一夏が出てきた。

 あれから30分近くたち、何も音が聞こえてこなくなったのにも関わらずアリスが来ないのを心配した結果だ。

 見た所ISはいないらしい。アリスが撃退したのだろうか?と思った一夏だが、アリスの姿が見えない。

 

「どこにいるの?」

 

 おぼつかない足を動かし少し移動すればすぐに見つけることができた。

 少し離れたところで壁に寄りかかっている。

 

「アリス!」

 

 ボロボロの体を動かして大好きなアリスのもとにたどり着く。やっぱりアリスは強い。そう思ってながらアリスを見る。

 

「え・・・・?アリ・・・ス?」

 

 アリスの胸元には刺し傷と思われる無視できない傷跡があった。

 

 

「ねぇどうしたのアリス?返事してよ・・・」

 

 一夏の心の中を一つの予感が走る。認めたくない。でももしかしたら・・・・

 そんな考えが一夏を突き動かす。

 肩を掴んで揺する。

 

 

―――――アリスは力なく一夏に倒れ込んだ。

 

 

「え?」

 

 なんのことだか一夏には全く分からない。アリスがいたずらしてきたのか、ただ疲れて寝ているのか。

 悪い冗談と思いたかった。

 だけど現実がそれを許さない。

 

「嘘・・・だよね?」

 

 アリスは息をしていなかった。

 体は冷え切っていていつもの優しいぬくもりが微塵も感じられない。

 

「っあ・・・うぁ・・・嫌だ。嫌だよ・・・・・・」

 

 このことがどんなことを意味するのか。幼すぎる一夏でも理解できた。

 理解できたからこそ、

 

「っあ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」

 

 絶叫した。

 

 

 

 

「残っていたのね」

 

 一人のIS操縦者がうずくまる一人の少年を見つけた。

 うずくまる姿を見てズキリと操縦者は心の奥底が痛むのを感じる。

 少年のそばには少女の亡骸があり、ひと目で何があったのかが理解できた。少女が少年を庇ってなくなったんだろうと予想ができた。

 

(なんでこんなことになったのだろう)

 

 この操縦者は”異能者”狩りに消極的で、誰一人として”異能者”を殺害はしていない。どんなに強くても人であることには変わりないという考えが全てを拒んだ。

 この作戦にはかの織斑千冬も参加しているが、この操縦者と同じで誰一人として殺害はしていない。

 弟を誘拐され失って、目標とされている人たちが同じくらいの年代なのが大きいのだろう。

 だからこそ、その少年を保護しようと声をかける。

 

「もう大丈夫よ」

 

 だがISを装備していたのがいけなかった。

 少年の紅い瞳が自身を捉える。

 

「死んじゃえ」

 

 直後、その操縦者はこの世界から塵も残さず消えた。

 

 

 

 

 

 

 IS学園入学初日の真夜中。

 一夏は一人で屋上にいた。

 その紅い瞳は水平線を見ているかのように見えるが、それは見た目だけであり実際は何も見ていない。

 そもそも日付が変わった時間帯に一夏がいるのは寝れなかったからだ。枕が変わったから寝れないというわけではない。

 思い出したのだ。地獄から救い出され、代償のように大切な人を失った日のことを。

 そんなことを思い出してはまともに眠ることもできず、フラフラとIS学園をさまよっていたら屋上にたどり着いたという訳だ。

 

 

「めちゃくちゃな人生だな・・・・・」

 

 思い返せば生まれてからすべてが狂っていて、まともな人生という道を歩いた経験がない。

 親に捨てられ、誘拐され、改造され、大切な人を失って、人生の残りをほとんど亡くした。

 不幸すぎる人生だ、と思う。

 人間で居たかったなど、何度思ったか数え切れない程だ。

 今の一夏は人の形をしている人間だった存在でしかない。

 生身でISと渡り合えるチカラを持っているなんて人という存在ではない上、物理法則を無視した能力が使えるのだ。人とは到底言えない。

 そして残された時間も僅か。

 いつまで生きれるとはっきり分かる訳ではないが、感覚的に分かる。分かりたくなくてもわかってしまう。

 能力のせいで寿命を削られているが、あの日に能力を暴走させたのがまずかった。

 今から能力を使わなかったとしてもせいぜい数ヶ月。

 年は越せるほどは生きれない。

 ”死ぬ”という現実が近づいて来るが、不思議と恐怖心はなかった。

 生きることに諦めているのか、それとも。

  

 

「アリス。俺どうすればいいんだろうな・・・・・」

 

 今の一夏にはどう生きていけばいいのかが、全く分からない。

 願うように大切な人の名前をつぶやくが、もちろん返事など帰ってくるはずもない。

 ただ無償に時間だけが過ぎていった。

 残り僅かな時間が。

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