「ホワイトグリント、ワンオフアビリティーアクティブ」
―――ワンオフアビリティー機動準備完了。
「限界解除(リミッターリリース)起動」
―――ワンオフアビリティー起動コマンド確認。ホワイトグリントシャットダウン。
一時的に展開が解除され、パイロットスーツのみの姿になる。
――――全パイロット保護機能を全て停止状態での再起動開始。
そして光に包まれ、ホワイトグリントを再展開。
―――――エネルギーシールド・・・・・展開不可
絶対防御・・・・・発動不可
皮膜装甲(スキンバリア)・・・・・・展開不可
オートガード・・・・・・発動不可
ブラックアウト防御・・・・・・・発動不可
パワーアシスト(補助動力)・・・・・・・発動不可
搭乗者生体機能補助・・・・・・発動不可
PIC・・・・・・・・オート制御不可、マニュアル操作に移行。
ハイパーセンサー・・・・・・視覚補助、超高感度モード、射撃補佐以外の機能全停止。
ISの特徴だった全方位を見ることが叶わなくなる。PICがマニュアルに移行したためにそれに意識を幾らかさく。
――――エネルギー供給バイパス再構築。
全ブースタ、武装との直結供給ライン構築完了。
ワンオフアビリティー限界解除(リミッターリリース)起動完了。
ISホワイトグリント展開可能限界まで5:00分。
「・・・・動かないじゃないの」
ぼそりとクレアが呟く。
突然、今までに感じたこともないような殺気を全身に感した直後、一夏によるワンオフアビリティー発動の宣言。
そしたら展開を解き、すぐさま再展開。
違う点があるとすれば、マシンガンがアサルトライフルに。スラックガンがプラズマキャノンに変わったというところだろうか。
この一連の行動自体が理解出来ないのだが、一夏は未だに動こうとしない。
誘っているのか、それとも本気で動くつもりがないのかどうかは別として、スナイパーであるクレアにとって好機なのは間違いない。
(何だか知らないけど、貰った)
スナイパーキャノンを構え、照準内に収める。
それはあまりにも初歩的なこと。ISのアシストもあり、たかが100メートルもない距離だ。外すはずがない。
なのに、
「な・・・・・・・・!?」
引き金を引いた瞬間、照準内から一瞬で消える。
弾丸が中を舞うだけになるのを無視し、慌ててあたりをハイパーセンサーを使い見渡す。
そして居た。
「・・・・・・・なんなのよ・・・・・?」
ただし、先程に居た地点から100メートル以上離れた場所に、だが。
有り得ないはずだ。
先程まで使っていたクイックブースタとは明らかに速度、距離ともに桁違い。瞬時加速だとしてもあそこまでの距離を一瞬で移動など出来ない。
そもそも、あの機動が本物だとして操縦者が耐えられるはずがない。ISの亜音速戦闘化ですら、ブラックアウト防御が働き気絶仕掛ける操縦者がほとんどだ。公式で最速となるISですら2000キロメートルという速度。その速度化でさえパイロットが耐えられないという話だ。
だが、あの機動性はソレの遥か上。明らかにおかしい。少なく見積もってもマッハ3は超えている。耐えれるはずがないのだが、
(どうゆうことなのよ・・・・・)
目の前にソレを耐える操縦者がいる。
「ふん。まぁいいわ。お前をひねり潰すのに―-――ッ!?」
その言葉を最後まで続けることはできなかった。
超機動で距離という壁を一瞬で詰められていたからだ。
「クッ!」
危機感を感じ、ほとんどカンに近いように後退。
直後、自分がいたところに07-MOONLIGHTの超高熱のブレードが振るわれた。
後進したおかげで直撃こそなかったが、微かにバリアーへ掠る。掠っただけなのにもかかわらずエネルギーが削られていた。馬鹿げている威力だった。
お返しと言わんばかりにチェーンガンを向けるものの、ロックが終わる時にはもう目の前にはいない。遥か右方に位置していた。
いくらロックしようとも、一瞬にもみたない時間ですら捉えることが出来ない。ノーロックオン状態で撃つも当たるはずがない。
叫ぶも、ソレをした程度でどうにかなることもなかった。
”やめろ一夏!!今すぐISの展開をやめるんだ!!”
突然アリーナに響いたブリュンヒルデ織斑千冬の悲痛の声。
(・・・・・・な、なに?)
”頼むからやめてくれ!!そのままじゃ死んでしまう!!”
(あ・・・・・が・・・・・)
混濁した意識の中千冬姉さんの声が聞こえた。
”頼むからやめてくれ!!そのままじゃ死んでしまう!!”
と。
だが、途方もない、シュミレーションを遥かに超える体へ掛かる莫大なG。混濁し、まともに考えることもできず、ただクレア=インヒューマニティを倒すことに意識を削がれた今、その言葉の意味を理解することができなかった。
返事もできなかった。
「このぉッ!!!!」
高速で発射されたスナイパーキャノンの弾丸を避けるためにクイックブーストを使う。距離を詰めるためにもクイックブーストを使う。
ソレを使うたびに莫大なGが体に掛かる。
まるで、最高速度の新幹線や、100トントラックにはねられたかのような衝撃とともに俺を飛ばす。
ブラックアウトしそうになるが、パイロットスーツが異常を感知し、ドクンッと体を一瞬圧迫。どうにか気絶を止める。ISのブラック保護機能も使えない今、気絶は死を意味する。超音速化で生身で障害物にぶつかれば死ぬ。そのことに対する恐怖がかろうじて耐えることが出来ていた。
「なんで!なんでなのよ!?何故当たらない!!??」
またクイックブーストを使う。それだけで寿命を削られるような錯覚に陥る。
体中が痛い。口の中に鉄のような味が広がった。
ソレを血だとは理解できなかったが。
(まけ・・・・・な、い)
痙攣仕掛けている体にムチを打って、04-MARVEを構え、プラズマキャノンSULTANをアクティブ。
トリガーを引くごとに、04-MARVEの反動が直に腕に響く。攻撃力を重視した分反動はほかのアサルトライフルよりデカい。激痛が腕を伝い、全身に響く。
プラズマキャノンを放つが、ギリギリの所で回避される。だが、着弾点であるアリーナの地面は大きくえぐれ、熱量で融解していた。
「化物が・・・・・!!」
チェーンガンを、ミサイルを、底上げされたブースト出力を使い避け、アサルトライフルを叩き込み続ける。隙あらばプラズマを叩き込みながら。
バギリ。
突然、そんな音が鳴り響く。
最初ソレを意味することが理解できなかったが、すぐに分かった。
04-MARVEの弾が見当たらなかったからだ。左腕を見ると関節部分から先が無くなっていた。どうやら、04-MARVEの反動に加え、時速5000キロを軽く超えるスピードのおかげで耐久限界を迎えたらしい。中の腕を含めて。
「貴様・・・・・」
左腕が使えない。なら使わなくても良いだけのこと。
プラズマキャノンを常時アクティブに変更し射撃。制限撤廃され、通常以上にエネルギーを供給されたソレ馬鹿げた威力だった。かするだけでも十分すぎるダメージだ。
だが、キャノンという性質故に弾数が少ない。すぐにカチリという弾切れの音が聞こえる。
これで完全に射撃武器は弾切れ。07-MOONLIGHTだけになった。
不要になったプラズマキャノンをパージしたその時、一発の銃声と共に視界隅に飛び散る紅い血が見えた。
「ぐ、が・・・・!!」
バランスが取りにくくなったために地上へと降りる。よく見てみれば、腹部を撃たれたらしかった。痛みを感じないのはGの負荷が高すぎるからか。
シールドバリアーも、スキンバリアー。挙げ句の果てには絶対防御も発動しないから銃弾一発が致命傷になりかねない。隙を見せたのがまずかったか。
「お前・・・、ISに何をした・・・・?」
信じられないとった顔だった。それはそうだろう。こうなるとは誰が予想できるのだろうか。
血がドクドクと流れ止まることがない。このパイロットスーツも流石にIS用の銃弾は防げないらしい。
押さえるのにも左腕は無く、右腕を使えば攻撃できなくなる。そのままにする他ない。
もう、身体的にも残り時間的にも余裕がない。この中で展開が解除されれば、救助が来る前に死ぬからだ。
「ッ!!!」
限界をとうに迎えた体を無理くり動かし、クレア=インヒューマニティへクイックブーストを発動。体に掛かるGを無視し、前方に向けて連続使用。
迎撃のチェーンガン、ミサイルはサイドのクイックブーストで全て避けきる。
せり上がってくる血液など無視した。
「この、死にぞこない!!!」
07-MOONLIGHTにエネルギー供給を開始、コンマ数秒の後紫に僅かに白が掛かる刀身が現れる。
ソレを振りかぶり距離を詰め、切る―-――
「嘘ッ!?」
と見せかけて真横を超音速ですれ違う。
そしてすれ違いコンマ一秒も待たずにクイックターン。
(おわりだ・・・・!)
旋回が追いつかず、無防備な背中へ07-MOONLIGHTを全力で振り抜く。
その一撃は残っていた相手のエネルギーを全て喰らい尽くす。
―-――勝者、織斑一夏。
アナウンスが入り、試合が終了したことを告げられる。
―-――ホワイトグリント展開可能限界まであと1:00
そして同時に限界までの時間も同時に告げられる。そろそろピットに戻らないとやばいかも知れない。
だが、ソレよりも先にしなければいけないことがある。
地面にうずくまるクレア=インヒューマニティの前に降り立つ。
顔をあげようとしないがそんな事は関係ない。
「これが・・・・・・おれだ。ありすをころしたかたきはとらせてもらった。にどとおれのまえにあらわれるな」
どうにか絞り出した言葉はまともに喋れなかったが伝わったらしい。
ソレを確認するとゆっくりとピットに移動する。
「ゴホッ!」
到着すると同時に展開可能限界に達し強制解除がされる。
そして、せり上がる血液を耐えることができず大量にぶちまけた。
「・・・・・・・・っあ」
自分の足で立つことが出来ず、膝から崩れ落ちる、はずだった。
「織斑君!!」
不意に簪の声が聞こえ、抱きとめられるような感覚がする。完全に体を預ける形になった。
焦点が定まらず、目の前がほとんど見えない。
「・・・・・今はゆっくり休んで」
その言葉に返事をすることが出来ないまま、俺の意識は闇に落ちていく。
完全に意識を手放す直前、微かにいい匂いがした気がした。