天才娘達の三つ巴合戦   作:小鳥遊 甲斐

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篠ノ之 束と望まぬ対面

 

「――――ですよ、―――てください。リューさん、起きてください」

 

 綺麗な声は美しい肉体から生まれるものだという話がある。

それが本当ならモーニングコールの声の持ち主は絶世の美少女に違いない。

 

「朝ですよ、起きてください。リューさん」

 

 ゆっくりと上体を上げる。

寝起きな為、喉が渇いて仕方がない。

収容してある新品の水を口に含み口内を潤す。

だるめの身体に喝を入れ、専属オペレーターである彼女に朝の挨拶をする。

 

「おはよう、ソフィー。今は何時だ?」

 

 彼女の溜息が聴こえてくる。

 

 困ったように眉を顰めて見せる彼女の名はソフィー。

年齢にして幼いながらも類まれな頭脳を使って如何に敵を楽に倒すか、

ルートや優先順位など細かく指示を出して手助けしてくれる。

彼女が居る事で作戦成功率が大幅に上がるだけでなく、

何よりも俺が楽できる為、彼女の機嫌を損ねないように日々注意している。

 

 自分が言えた事では無いが、

基本無口&無表情キャラの彼女でも、

やはり年相応というか子供である彼女は時偶(ときたま)に拗ねる事がある。

たとえ拗ねても怒っても可愛いのは卑怯だと思う(真顔)

 

閑話休題(それはさておき)

 

 伸びをして次の言葉を待つと背骨がボキボキと音を立てた。

もう8時ですよ、ソフィーが淡々と報告してきた。

 

「そうか。じゃ、そろそろ行こうか」

次の目的地はフランス。

あらゆる面において豊かな国とされている。

例えば、観光においてはモン・サン・ミッシェルやヴェルサイユ宮殿など数多くの歴史遺産、食通をうならせる料理とワインにスイーツ、芸術家たちを虜にしたパリの都等々。

 前々から一度は行ってみたいと思っていた所だ。

 

 服を着替え、顔を隠すための黒のバイザーをサングラス同様耳にかけ黒のISスーツを着用する。

愛機に乗りシステムを立ち上げ操縦桿を握る。

このChaos・Luminous(無秩序に光り輝く者)のデータは何時見ても凄いとしか言いようがない(小並感)。

 

 

 

機体データ表

 

Chaos・Luminous(ケイオス・ルミナス)

 

外見はコードギアス反逆のルルーシュに出てくるランスロット・アルビオンを黒と赤を5:1の比率でデザインされたIS(アイエス)

その上から分厚い装甲である『黒百合』を装着させているので、

ケイオス・ルミナスの頭しか出てない形になっている。

 

生産形態  専用機

 

全長 通常状態5.23m  『黒百合』装着状態6,51m

 

推進機関

高機走駆動輪(ランドスピナー)

エナジーウイング

高機動ユニット(黒百合のみ)

 

武装

・スラッシュハーケンの改造型MVSハーケン 両腕両脚・腰部・胸部の8つ

・ワイヤーカッター式スラッシュハーケン×10 

・エナジーウイング

MVS(メーザー・バイブレーション・ソード)×2

超電磁砲(レールガン)×2

・スーパーヴァリス(可変弾薬反発衝撃砲、ハドロン砲)×2

・拡散構造相転移砲(黒百合のみ)

・130㎜ハンドカノン×2(黒百合のみ)

 

特殊装備

ゼロの愛機『蜃気楼』のシールド

・絶対守護領域

 

・ワイヤーカッター式スラッシュハーケン

指10本がスラッシュハーケンとなっており、

ワイヤー部分には切断能力がある。

 

・アーマーテイクオフ機能 『黒百合』

 上に着ている装甲は完璧なフルステルスを実現した単一仕様能力。

機動戦艦ナデシコに出てくるブラックサレナと同様の物。

ボソンジャンプは脱離時でも可能。

絶対守護領域も使用可能。

なお、装甲『黒百合』を装着状態ではエナジーウイングは使用不可。

現在の攻撃方法は、ディストーションフィールドを展開したままの体当たりと拡散構造相転移砲、130㎜ハンドカノンの3つである。

 

 因みに高機動ユニット、所謂(いわゆる)ブースターも装着済みである。

11.13mものブースターを黒百合背部に装着させる事で機動力を大幅に引き上げる事となる。

 

拡散構造相転移砲

『黒百合』胸部に貯蓄された特殊な液体金属を、胸部ブロック全体の冷却システムによりプリズム状に凝固させて射出、続けて後を追うようにビームを発射する。ビームはプリズムによって乱反射し、広範囲に拡散ビームを撒き散らしていく。プリズムを用いない一点集中ビーム砲撃も可能。

 

エナジーウイング 

8枚羽となっており、エネルギー翼で全身を覆う防御姿勢を維持したままでの超高速突撃が可能。

また、エネルギー翼からその粒子を「刃状」にして広範囲に射出する砲撃が可能となっている。

 

高速切替(ラピッド・スイッチ)

大容量の拡張領域を活用し、事前に武装の呼び出しをせずに戦闘と同時進行で武装を呼び出す。

 

 

 

 

無敵だな、その小さな呟きがソフィーの鼓膜を揺さぶったのか、

何のことかと問いかけてきた。

「この機体の事さ。それよりも、ボソンジャンプをする。座標を出してくれ」

「分かりました。・・・・・・座標表示します」

 

表示された座標を確認し、全てのシステム、装備を再確認する。

 

「座標確認、システムALL CLEAR。

ディストーションフィールドを展開。

ボソンジャンプを開始する」

 

「マスター、‥‥幸運を」

 

 心配してくれているのを嬉しく思いながら気を引き締める。

 

ボソンジャンプが始まり辺り一面、光に包まれる。

 

 ここで一応ボソンジャンプについて復習しようと思う。

ボソンジャンプは簡単に言うとワープ現象である。

また、過去に行ったりも出来るのでタイムマシンの能力もある。

 

 ボソンジャンプは目的地を明確にイメージする事が前提であるため、時間というイメージのしにくい概念は扱いきれず、座標跳躍にとどまっていると思われる。

そのせいもあり、ボソンジャンプ時に時差が発生することがある…が、

今の所、ボソンジャンプを完璧に使いこなすことに成功しており、

時差を無くして五体満足のワープ現象を我が物としているのである。

 

 

 

 

 

 

ボゾンジャンプが終了し、映し出された光景に焦りを覚える。

「マスター、聞こえますか?」

ソフィーの変わらない声に一先(ひとま)ず安堵したい所だった。

「ああ、成功だ」

頭を整理させながら報告する。

「ご無事で何よりです」

「ありがとう。だが、問題発生だ。女性に見られた」

「一大事ですね」

オペレーターの冷静なのか呑気なのか分からない態度に思わず苦笑いしてしまう。

 

 

 目の前には機械的なウサ耳を頭に着けエプロンドレスを着た独特な女性が居た。

カメラに映し出される光景に感歎を禁じ得ずにいた。

優雅さの象徴の様に君臨する艶やかな髪。

好奇に濡れた瞳を覆う目元の線には無駄がなく美を掲げる。

奇抜な服装を押し上げるように母性の象徴たる胸はその者の自信を表しているのか突出している。

色香や曲線美を感じさせる脚は見事な造形で、持ち主について一言で表すならば・・・・。

 

美人である。

 

その傍らには鮮やかな銀色の髪を持つ少女が居た。

盲目なのか、杖を持ち瞳を閉じている。

こちらも美人である。

上等な着物を着せれば大和撫子と言ったところで誰も反論しない程の美を持っている。

 

 

 突然現れて驚いているのか、ぴくりとも動かない。

それもそうだ。

先程まで何もなかった空間にISが急に出現したのだから。

この場をどうしようか?そう考えていると向こうからコンタクトをとってきた。

 

「ねぇねぇ、君一体何者なのかなぁ?急に現れたから束さん、びっくりしちゃったよ~」

あはは~、と笑う束と名乗る女性は、

その瞳には獰猛な好奇心が見え隠れ見え、見え見え隠れ見えの比率で窺わせているものだった。

 

 

「ソフィー、束という女性のデータを送ってくれ」

敵か味方か、安全か危険かを判断するには情報が要る。

無ければ仕方がないが有れば目を通さなければ勿体無い。

「分かりました、データを送ります」

 

モニターにデータが送られてきた。

 

 篠ノ之 束(しののの たばね)

ISの発明者であり自他共に認める天才であること。

これはまだいい。

各国から追われるお尋ね者。

アウトだ・・・・・。

 

 こんな事になるならステルス機能を使っておけばよかったと自分の考えの浅はかさにうんざりする。

今からでもボソンジャンプで過去に飛ぶか?

いや、今も目を輝かせている彼女が何をするか分からない。

ケイオス・ルミナスに突然抱き着いてくるとする。

ディストーションフィールドが展開していれば助かりはするが、

彼女も一緒に来てしまう。

今後の展開を見て判断するか…。

 

「あれ?聞こえてないのかなぁ、にしても全身装甲(フルスキン)か~。・・・・・・・分解しようかな」と物騒なことを呟いている。

返事をしないと本当にされかねないので、マイクのスイッチを押す。

 

「・・・・ISを解除するので攻撃しないで欲しい」

 

・・・・・・・。

返事がない、と言う事は約束は出来ないという事か・・・。

賢明だが、此方としては不安だな。

どちらにせよ、言ったことはしなくてはいけない。

顔を隠しているバイザーを整え防御性能が高い黒のロングコートで全身を覆い、

左胸の内ポケットにリボルバーをしまう。

 

 ISを解除し自然豊かな森へと足をつける。

 

 昔、数少ない友人の一人が、

「危険人物とは何か?好き好んで危険そのものを服として着飾っている奴の事さ」

と言っていたが篠ノ之 束に関しては正解なのだろう。

 各国や企業の人間が彼女を追い求め、裏組織なども彼女を捕らえようと必死になっている事だろう。にも関わらず、救助(捕縛)されずに自分の目の前に居るのは篠ノ之博士が自衛手段を持っている事を意味する。ISの生みの親である女性を無用な刺激を与えて機嫌を損ねたら勝てる自信が無い。かといって無視しようものなら、天才の自尊心が傷つけられ面倒事に発展する可能性がある。

 やれやれ。今日生きなければ明日は無い。此処が正念場だぞ、柳生 柳太郎。

にしても、先程しまったばかりのリボルバーを早速使う事になるとはこれまた皮肉だな。

 

 コートの中に手を入れると篠ノ之 束の傍に控えている銀髪の少女は目に見えて警戒の色が濃くなった。

気にせずリボルバーを引き抜き構えると、少女が篠ノ之博士を庇うように前に進み出た。

それにしても眼を閉じているのにどの様にして此方の動きが読めるのだろうか?

疑問を胸に抱いていた所、閉ざされていた少女の瞳が開き、その異様さが映し出された。

――――綺麗だ・・・・・・・・・。

 白目が黒く、黒目が金色に染まり、彩られた瞳は、

絵画の世界から飛び出てきたフィクションの人物を想わせるものであった。

すると、突然視界が真っ白になる現象が柳太郎の瞳に飛び込んできた。

・・・・・。

 網膜或いは視神経などの神経系を狂わせる能力?

はたまた単純に幻覚などを魅せる能力か?

フィールドを破らずに来ると言う事は空間その物に影響を与える能力かな?

だとすれば、多少なりとも時間が掛かるが絶対守護領域を展開すれば回避可能かな。

でも、あの万能型天才に対して此方の手札を晒したくはないなぁ。

ましてやIS兵器の一部を見せるだなんて一瞬で解析されてしまいそうだ。

つまるところ釈迦に説法だよなぁ。

 思考の海に漂いながらも現実を見つめ直し引き金を引いた。

 

 バンッ!!!

 

 森を駆け巡る銃声に鳥達は陸上競技の様に一斉に大空へと羽ばたいていった。

銃口から吐き出される煙にひとつの高揚感を覚えながら其処から五射。

木の陰に隠れ此方の様子を窺っていた人間に銃を撃つ。

遠目からでも分かる手入れが行き届いた髪にISスーツに包まれた窮屈そうな胸元からして女性である事が分かった。

女性も此方にハンドガンを向け連射してきた。

銃撃戦を交わしている間にIS起動音(聞きなれた音)が別方向から聞こえてきた。

 

一旦冷静に状況整理。

 

相手の数は3人。

全員ISに搭乗しておりフランスだからではないだろうが、

『ラファール・リヴァイヴ』に乗っている。

政府なら民衆に理解されやすいシナリオを描いて軍を動かすだろうなぁ。

それなら非公式か裏組織か?

いずれにせよ目的は博士の暗殺ではなく誘拐だろう。

狙いが頭・胸などの急所ではなく脚を狙っていたのでIS関連を目的とした誘拐を企てての事だろう。

 博士達を庇うように前に出た時、一種の自己嫌悪に陥りかけた。

博士の誘拐を目的としたものなら無闇に乱射できはしない。

護る意志ありと見せて博士に印象を良く出来れば良し。

そうでなくても今日1日の付き合いとすればいい。

少なくとも博士が後ろ居るなら背後から撃たれる確率は減らせる。

そういった打算があっての自己嫌悪である。

 

 がさがさと森の絨毯で不穏な音を奏でながら更なる不吉な音が3方向から聞こえてきた。

左、前、右と3方向から忙しなく放たれる弾幕にまいったなぁ、と頭を掻きたくなる衝動を抑えながら、

お役御免になった薬莢を抜き落とし新しい弾丸を、

カチャカチャと3回程音を鳴らせ装填を終わらせる。

その間も、正体不明の相手側から発砲され続けている始末。

それも全て、ディストーションフィールドに依って弾かれている。

にしても実に見事だ。

間違っても博士に当たらないように計算しつくされたルートに銃を撃っている。

撃つときも頭を常に働かせる辺り、やはりプロは違うなぁといたく感心させられた。

 

 引き金を3回引くとそれに伴って銃声が3回鳴る。

IS用の銃ではないので威力が心許ない所だが、相手もIS用の兵器の割に威力が弱い為フィールドを破るには至ってない。

博士が近くに居る事が功を奏したようで、高威力の兵器、例えばグレネードなどを使ってこない辺り有難い。

 

「天才と名高い篠ノ之 束博士にも随分と物騒な知り合いが居るようだな」

皮肉の要素が多分に混じった言葉が篠ノ之 束の耳に入り不愉快気味に顔を歪めた。

もっとも放たれた言葉は目の前の光景とも自身の感情とも見合わないお気楽な口調であったが,,,,

「まっさか~!あんなポンコツ共が束さんの知り合いな訳ないじゃん」

良かった、知り合いならどうしようかと思った。

「じゃあ2時方向と9時方向の敵は任せるぞ。正面の敵は引き受けよう」

量子化させておいたナイフを手に握り感触を確かめる。

取り出したナイフはSmith & Wesson(スミス&ウェッソン)製の戦闘用ナイフ。

それを視界に収めた博士は小馬鹿にした感じを隠そうともせずに尋ねてきた。

「それ、只のナイフだよね?そんなので倒せると思ってるの?」

なるほど。敵さんの使うIS自体は博士が作った代物では無いにしろ、使われているISコア自体は博士が手掛けた物だ。

自分の子供と言える存在が只のナイフで倒される筈が無いと思っているらしい。

自尊心が高くて結構だが、ディストーションフィールドが防御にしか使えないとは思わないで欲しい。

 「大丈夫だ、問題ない」そう言い切ると正面で今なお銃乱射している敵に向かって全速力で突貫する。頭に思い浮かべるのは機動戦艦ナデシコの第6話でイミディエット・ナイフを構えて突撃する天河 明人(テンカワ アキト)の『ゲキガン・シュート』という名の一点突破である。

フィールドの出力を全開にしつつ敵の懐へ飛び込む!

遮蔽物など一切使わず正面突破を図ったことで意表を突けることに成功した。

そこから一気に肉薄し身体に纏わせていたフィールドをナイフに移す。

そのままISのアーマーを貫く様に刺す!

甲高い音が辺り一面に響き続け火花が飛び散る。

一瞬にしてシールドバリアーを破り首元へナイフが喰らいつこうとした。

しかし、当然のことながら絶対防御が発動し搭乗者の身を護るようにそれを防ぐ。

此方も逃がさないように、ここで仕留めきるように歯を食いしばり足に力を入れる。

相手が絶対防御を張っているので搭乗者を気絶させる、無力化させる事が出来ないがこのまま行けばエネルギー切れで停止する。そこを狙う!

少しずつ、少しずつ、相手の肉体に刃が近づいていった。

 

 敵さんはと言うと、ISを使ってもないのに、世間でも弱いとされる男それも生身なのに、とイレギュラーな状態に深い混乱を招きつつも体勢を立て直す為にも必死の反撃に出た。

接近戦、それも超近距離戦なので銃は使わず近接武器で対抗する。が。

(なんでついてこれるのよっ!?)

世界最強にして攻撃力、防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器に生身の人間が対抗しているのだ。驚かない訳がない。

 

 何故ISを纏ってもいない人間が纏っている人間についてこれるか?

それは小さいが必要な攻撃と移動の連続であった。

図体がデカいISに繊細な動きは出来ない。もしそれが可能であっても敵搭乗者の技量には到底適わぬものであったからだ。

例えるなら、巨人に針を持たせ糸を通してみろっと言っているようなものである。

接近戦において無駄が生じ、ハイパーセンサーなど使用しない肉眼でも見える距離で戦いが繰り広げられている状況である。

勿論相手も戦闘においてプロである。

一時の混乱をすぐさま収束させ迎撃してみせた。

しかし小さな差がやがて大きくなりそれが目に見えるものとして形に変えてからでは既に遅かった。

 再びナイフが当たった瞬間、絶対防御が発動し自らの体表には大粒の汗が噴き出る。

 

 絶対防御とは全てのISに備わっている操縦者の死亡を防ぐ能力。シールドバリアーが破壊され、操縦者本人に攻撃が通ることになってもこの能力があらゆる攻撃を受け止めてくれるが、攻撃が通っても操縦者の生命に別状ない時にはこの能力は使用されない。

 すなわち生命に別条がある時にこの能力が発動する。そう頭で理解しているからこそ一突き一突きがどれ程の威力なのか、考えるだけで悪夢である。

また、絶対防御が発動する度にエネルギーが極度に消耗するのだ。

エネルギー残量には眼を瞑りたいほど削れてしまっている。

 

 いっその事、降伏するのもいいかもしれない。頭の中の賢い選択が自己主張激しくアピッてくるのだ。それをプライドが邪魔する。

距離をとろうか?いや、駄目だ。脳裏には目の前に居る化け物が乗っていたIS。

異様とも言えるISだった。自分の使っているものと比べたら遥か倍近くのサイズで突然何もない空間から出現したのだ。今でも充分ピンチなのにこれ以上物理的に出血大サービスされたくない。

 

 あれを出されるのは不味いので下手に距離をとる事が出来ないのだ。

物理法則を無視する怪物との追いかけっこなんぞ此方は御免である。

だが、自分にも朗報の一つはある。

相手のバイザーで表情が読めないが得物であるナイフを見れば僅かにヒビが入っているのが確認できる。ナイフの破片が飛び散っていたので目を凝らしてじっと見てみると今にも壊れそうであることに気付いた。

 

 実のところ原因は普段から酷使して少しずつ摩耗していったため、今になって壊れそうになっているのである。

そしてそれは、ナイフを振るう当人とて理解していた。

 

 

 拙いな。

あぁ、拙い。

だが、焦るな。柳太郎。焦って良いことなど何一つ無いからな。

確かにナイフが今にも壊れそうではあるが敵さんだってエネルギー切れ間近の筈なんだ。

壊れないうちに次で決めてやる!

そう意気込み全身の筋肉が固まりきらないように自然体を作りながらも気合を入れる。

脚も腕も使えるところを全部使って敵ISに全身全霊で突貫する。

 

そしてナイフを当てた瞬間!

 

パキンッと、音を立てて折れた。

頭が真っ白になった・・・・・・。

絵面は欠けたナイフを突き出したまま静止する男の図である。

身に纏うフィールドを強め来るであろう衝撃に動かずにじっと耐える。

 

そしてその好機(チャンス)を敵は逃さなかった。

 

 (勝ったわ!第三部完ッ!)

目の前の光景である敵の得物が砕けたのを見て心が昂るのを感じる。

全速力で空を駆け巡る快感にも似た衝撃がその者を襲い、

その欲求に身を任せ勢いのままに近接戦闘用ブレードを振り下ろした。はずでしたがぁ!!

一向に振り下ろされないブレードに違和感を感じて水を掛けられたかのように急激に頭が冷めていく。

耳をすませば綺麗な音色がするヴァイオリンの音ではなく不快感を感受させようと必死に泣きわめいている警告音が鳴っていた。

『エネルギー切れです。全機能停止します』

誰でも簡単に状況が理解できる親切な言葉であったが、

この場合最も見たくも聞きたくもなかった言葉でもある。

 

 両者の間に白けた空気が吹きあたり、それに同調するかのように風が吹き荒れた。

ISが強制的に解除された女はただ一言。

「・・・・・・・・降参よ」

「・・・・あぁ」

 

 

虚しい勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 初めましての方は初めまして、小鳥遊 甲斐と申します。

 同じ時間帯に、ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか、を原作とした私の作品が投稿されていると思いますので良ければどうぞ(`・ω・´)


 あと、クロエ・クロニクルの現実世界では大気成分を変質させることで幻影を見せる能力に対して絶対守護領域を展開させれば回避可能と書きましたが、私の解釈では絶対守護領域は殻に篭る様なもので展開した後、範囲内の空間はクロエの能力を以後干渉させない効果も含んでいるのでは?と考えたのでこう書かせて頂きました。
 ディストーションフィールドでは駄目なの?と思う方も居るとは思いますが、そもそもディストーションフィールドとは時空つまりは空間を歪ませる事によってビームなどの攻撃を防ぐという仕組みとなっております。
しかし、クロエの大気成分を変質させるという空間その物を変える能力では歪ませたところで次第に反映させてくると考えております。
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