あと、一話で纏めようとしたら長くなったので、分けさせてもらいます。
シンクとミルヒのお茶会から一夜明け、約束の朝になった。ちなみに、ミルヒはこの時にシンクと楽しい時間を過ごす分だけの仕事を終わらせようと、時間になるまで書類仕事を済ませるほどの張りきり様だった。
ライ親子とシンクはミルヒが来るより前に指定場所にやって来ると、そこに二頭のセルクルが用意されていた。片方はライが借りているセルクルだったが、もう片方はシンクのではなく、ミルヒのセルクルだった。
「あの、このセルクルって姫様のですよね?」
「はい。名前はハーランといって、フロニャルド全土でも希少な飛翔種という種別のセルクルなんです」
ライに説明を入れたのは、セルクルの用意をしてくれた若手騎士で、エミリオという名である。
「へぇ~、お前レアッ子だったんだ」
シンクがハーランのことをそう呼んでいると、そのハーランがシンクにじゃれ付いてくる。最初はライ達も微笑ましく傍観していたのだが…
「シンクー!」
仕事を終えたミルヒが到着し、こちらに気付いてやってくる。そこで彼女はあるものを見た。
「うわあああああああああああ!?」
「ハーラン、やめろ!」
「シンク食べたらお腹こわしちゃうよ! ペッして!!」
ハーランがシンクの頭を齧っており、ライとミルリーフがそれをやめさせようとしている光景だった。カオスである。
「まあ! ハーランがこんなに懐くなんて、シンクってセルクルにも好かれるんですね!!」
「って、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
「うん。だから姫様、助けて」
ハーランに頭を齧られてシンクは涎まみれになっている。にも拘らず、ミルヒのリアクションは呑気すぎて、ライも思わずツッコんでしまうのだった。ちなみに、ここ数日で一番騒がしい朝だったとか。
その後、ライ達はセルクルに二人乗りして湖沿いの道を疾走する。そして到着した場所は…
「私の秘密の場所なんですけど、どうですか?」
「へぇ~」
「うわぁ~」
「きれい~」
ミルヒに案内されたのは、とても広い花畑だった。その広大かつ美しい光景に、ライ達は思わず見とれてしまう。
「姫様は普段、ここで何をしているんですか?」
「普段は、のんびりとお散歩したり、お弁当を食べたりしたり、ですね」
「それもいいですけど、その前に軽く運動でもしませんか?」
「はい?」
「実は昨日の内に、試したことがあるんです」
それを聞いたミルヒは首を傾げ、ライ達も何をするつもりなのかと様子を見ている。
その試してみたことをミルヒの前で実践するシンク。それによってパラディオンは円盤状の道具、いわゆるフリスビーに変化した。
「いいですか? これを僕が放り投げるから、姫様にはそれを取って来てほしいんです」
「あ、はい」
と、そういう訳でシンクとミルヒのフリスビー遊びが始まった。
シンクが投げたフリスビーをミルヒが追いかける様子を見ていると、あまり運動慣れしていないのが伺える。だが、それでも必死に追いかけて、自分の視線と同じ高さに降りてきたところを一気に飛び出してキャッチする。
それをシンクの指示に合わせて投げ返すと、フリスビーの形状により、腕力のあまりないミルヒでも高く、そして早く飛ばすことが出来た。そしてそれをシンクが、大ジャンプして跳んでいる最中にキャッチして、そのまま上空で投げ返すと言う離れ業を披露してギャラリーのライ達を驚愕させるなどのことがあった。ちなみに、ライもミルリーフもシンクの活躍を戦い以外で見るのは初めてだったので、改めて彼の身体能力に驚愕しているのだった。
そんな中、ミルヒは尻尾を振りながらこの遊びが楽しいとシンクに告げている。
「パパ、シンクと姫様、すごくたのしそうだね」
「あ、ああ。そうだな…」
ミルリーフは純粋に二人のやり取りを楽しそうと捕えていたのだが、一緒に見ていたライは何故か表情が引き攣っている。
(なんか、飼い犬と飼い主みたいに見えて背徳的なんだが、オレだけか?)
理由はこんなことを考えていたからだ。リシェル達やシンクの友人達がいたならば同意が得られたかもしれないが、その面々が来れるかどうかわからないので難しかった。
「ライさーん! せっかくだから一緒にやりませんか?」
「ミルリーフもどうですか? 楽しいですよー!」
シンクとミルヒがライ達も誘ってくる。それを聞いたミルリーフが、ライの方をじっと見てきた。まあ、十中八九混ざりたいのだろう。
「じゃあ、形は変わったけど親子団欒といくか」
「ワーイ!!」
ライの答えを聞いたミルリーフは、満面の笑みで喜んだ。
ちなみに、この時のミルリーフの表情にシンク達の表情が物凄く緩んだそうだ。
「じゃあ、ミルリーフに投げますよ」
「オッケー」
ミルヒが持っていたフリスビーはくるくると回転しながら飛んでいき、ミルリーフがそれを先程のミルヒと同じように追いかける。
そして、同じく高度が下がってきたところで前に跳び出してキャッチする。
「やったよ、姫様!!」
「やりましたね、ミルリーフ!!」
「じゃあ、つぎはパパに投げるよ!」
「おお、どんと来い!」
ミルリーフは、先程シンクがミルヒに見せた手本を思い浮かべながらその通りの仕草を取る。フリスビーを右手に持って、体を右方向にひねり、それを元に戻した時の勢いに乗せて投げる。
人型の状態のミルリーフは魔力の扱いに長けてるが竜形態と違い、身体能力が見た目相応になる。それでも投げられたフリスビーは勢いよく飛んで行った。
「お、意外と飛ぶな」
ライは身体能力や体力は高いものの、シンクとは鍛えた筋肉が違うこともあって彼のようなアクロバットジャンプは出来ない。だからただ追いかけるだけでなく、フリスビーの高度が下がったところで走力を上げて落下地点に回って受け止める。
「ライさん、今度は僕です!」
「おっし。じゃあ投げるぞ!」
と、早速ライもフリスビーを投げてみる。だが…
「あ…」
ライは力加減を誤ってしまい、これまでで一番高く飛んで行ったのだった。
「シンク、すまん」
「大丈夫、すぐにとって来るから問題ないですよ」
そう言ってシンクは走っていく。だが、流石に高すぎたようで、そのことについて小さくつぶやいていた。
そこでシンクはある行動をとった。
「お?」
パラディオンの棒形態を普段よりも長くして、それで棒高跳びを行ってフリスビーの飛んでいる高度まで跳びあがった。
「トルネイダー!」
更にそこからトルネイダーを発動、空中でバランスを取りながら上手いことフリスビーをキャッチし、そのまま地上に降りるのだった。
その後、四人は持って来たバスケットに入れていたサンドイッチで朝食を取りながら談笑する。
その際、ミルヒが領主になった際に受け継いだ宝剣【聖剣エクセリード】がいまだに覚醒していない、フロニャルドではどの国にも二本一対の宝剣が受け継がれている、等の話をする。
その後、シンクが帰った後もまた来たときにパラディオンを貸して欲しいということになって、シンクがまた来てくれるとミルヒが喜ぶなどのことがあった。
ちなみに、その際シンクがミルヒの頭や喉をシンクが撫でて、本人が気持ちよさそうにしているのを見て、ライはまたも背徳的に思ってしまうのだった。
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「パパ、楽しかったね」
「ああ。昨日の朝と違ってのんびり出来たしな」
ライはミルリーフと一緒に城の厨房にいた。昨日の昼食の件でユキカゼがライの料理センスの高さに目をつけ、それを人手を欲しがっていた給仕のおばさん達に話した結果、手伝いを頼まれたのだ。ライ自身も昨日言ったように腕が鈍らないというメリットがある為、手伝うことを決めたのである。
そして、昼の食事の仕込みに入ろうとした直後に、それは起こった。
『こちら、ヴァンネット城前のパーシー・ガウディです! つい先程、ガレット獅子団領のレオンミシェリ閣下より衝撃の発表がありました!!』
作業中にもニュースが聞けるように付けられた映像板から、緊急速報が入ったのだ。ビスコッティ出身のアナウンサー、パーシーが慌てた様子でニュースを告げている。
『と、とにかく、その発表の映像をご覧ください!!』
直後、映像がその発表をしたという会見の物に変わる。壇上にはレオが側近であるバナード将軍を連れて会見を行っている。
『四日後より予定していたガレット領民の戦闘競技会、この内容を少々変更しようと思う』
どうやら戦興業に関係のある会見のようだ。そしてレオは話を続ける。
『先の戦での敗北に加えて、ビスコッティには勇者が召喚され、それと同時に偶然ビスコッティ側に就くこととなったライという名の戦士も現れ、武勇名高きダルキアン卿までが帰国した。終いには昨夜のミオン砦戦での謎の乱入者による戦の中断、ここまで苦汁を舐めさせられて国内に籠っていては獅子団戦士の名折れであろう』
そして、レオは不敵な笑みを浮かべながら告げた。
『よって、ビスコッティに新たな戦を申し込む!』
その発表と同時にカメラのフラッシュが一斉にたかれた。ライやミルリーフだけでなく、食堂に居合わせていたシンクやリコッタ達全員が作業を止めてそのニュースに見入る。
『急な戦を申し込む手前、付随興業はビスコッティ側が好きにやってくれて構わん。商工会や個人商店の参加も大歓迎じゃ。無論、賞金は大量に用意するぞ。皆、稼ぎ時じゃからこぞって参加してくれ! ビスコッティ側の承諾を得次第、チケットの売り出しを開始する。開催まで時間が無いゆえ少々慌しくなるが、こちらも詳細は追って説明しよう。参加の意思がある者皆にきちんと行き渡るようにするゆえにな』
すると、レオが目を細めたかと思うと、衝撃的なことを告げた。
『そして、国家間の勝利懸賞として賭けたい物がある』
それと同時に、傍で控えていたレオの家臣と思われる男が、豪勢な刺しゅうを施された布で覆われた物の近くに立ち、その布を勢いよく取り払う。
その下から現れたのは、青白い光を纏った戦斧と、その真上に浮かんでいる青と緑が混ざったような色の光球だった。
『ガレットの宝剣、【魔戦斧グランヴェール】と【神剣エクスマキナ】』
国の代表の証であるはずの宝剣を、賭けの対象にするというのだ。この発表と同時に、会見に集まっていた記者たちの視線が宝剣に集中し、再びカメラのフラッシュがたかれる。
『この会見を聞いているな? ミルヒオーレ姫殿下。ビスコッティにも、これに見合うものを出してもらえれば僥倖じゃ』
レオは壇上から立ち上がったかと思うと、今度はミルヒにメッセージを投げかける。同時刻に自室でニュースを聞いていたミルヒは当然、城に務めており現在のレオの様子の可笑しさに気付いている者たち全員がこの意味を理解した。
「ライさん、これって…」
「宝剣に見合うもの、つまりビスコッティも賭けろって言ってやがるのか」
「そうでござるな。でも、これではまるで…」
ビスコッティの宝剣を賭けろ、つまり本気でビスコッティを侵略すると言っているようなものだった。
『ガレット、ビスコッティ両国民に告ぐ。己の国のため、自らのため、戦う勇気があるのならこの戦に馳せ参じよ!!』
そんな政治的問題を知らずにいる国民達は、レオの言葉と同時に歓声を上げ、今後の戦への期待と興奮を高鳴らせているのだった。