サモンナイト 勇者と姫と越響者   作:玄武Σ

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お待たせしてすみませんでした。
学業などの諸々の事情で投稿が遅れてしまいました。
魔物についてはちょっとしたアレンジを加えてみました。


第20話 災厄、降臨

ライ達が砦に突入しようとしていたその頃、レオは砦のてっぺんにある簡易テラスで仮眠を取っていた。そして、その様子を何やら悲しそうな目で見ているルージュがいる。ミルヒが死ぬかもしれない予言、それが急に悪化したというため、精神的な疲れがたまっていたのだろう。そんな中でも無理をしている彼女を憂い手の表情のようだ。

そんな中、レオはある夢を見ていた。

 

 

 

 

~星も見えぬ曇天に、嫌な絵が見えよる~

 

そこに映っていたのは、曇り空の中で宙に浮かんでいる武闘台のような場所。どうやら、グラナ砦の武闘台のようで、その中央にたたずむ人影あった。

その人影は顔が陰になっていたが、どうやらミルヒのようである。そして、そのミルヒの隠れている顔の、目の部分から何やら液体が流れていく。どうやら泣いているらしく、涙を流していたようだ。

 

~泣くな、泣かんでくれミルヒ。お前を悲しませるようなことは…お前を苦しめるものは…~

 

そのレオの言葉が響いたと同時に、血飛沫と瓦礫が飛び散った。

 

 

 

 

 

レオの目の前には、大きく抉られた武闘台があり、その部分に沿って右半身が丸ごとなくなったミルヒの姿があった。左半身だけとなったミルヒは悲しみに満ちた表情で絶命しており、そのまま抉られた個所から地上に向かって落ちていく。

そして、絶望に染まり切った表情のレオの目の前には、ミルヒを殺した者の姿があった。

 

それは、魔人だった。全身に武者甲冑を纏い、側頭部から生えた二本の角、両目とは別に額から生えた巨大な目玉、どす黒い色をした蝙蝠のような翼、先端部分が三又に裂けた鋼鉄で覆われた尻尾、そして一番に目を引くのは、右腕と一体化した禍々しいオーラを纏った赤い大太刀。まさに、魔人と呼ぶに相応しい姿だった。

 

『ふはははは…っあははっ、あは! あーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!!』

 

魔人は狂った笑い声をあげながら、レオにもその太刀を振り下ろし…

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

そこで目を覚ますレオの顔色はひどく悪かった。夢とはいえ、幼馴染が惨殺される光景を見たのだから当然だろう。

そんな彼女の様子を見て、ルージュは先程よりも心配している表情となっていた。

 

 

 

 

一方、砦内に潜入したライ達は階段を駆け上がってレオの元を目指していた。

しばらく上っていると、扉があったので開く。その先には広間があり、映像板が一つだけ置いてあった。

 

『まったく、待ちくたびれたぞ。そこに居るのは勇者と垂れ耳、あとはライも居るか?』

 

いきなりレオの声が部屋一帯に響いたかと思うと、映像板にレオの姿が映し出された。こちらの人員を推測で言っているような口ぶりから、レオの方からこちら側は見えないようだ。

 

『儂は今、この砦の最上階の天空武闘台に居る。ここまでたどり着いた褒美に、貴様らに一騎打ちのチャンスをくれてやろう』

 

すると、レオは持っていた斧を構え、こちらにも見えやすいようにする。そして、ライ達にはその斧に見覚えがあった。

今回の戦を告知する際に賭けの対象として見せてきた、ガレットの宝剣グランヴェールだったのだ。

 

『グランヴェールもエクスマキナも、ここにある。これを奪えば、ポイント的に貴様らの勝利は確定じゃろうな』

 

レオの誘うかのような口ぶりにライ達は思わず警戒する。

 

『無論、一人ずつでは相手にはならんだろうから、二人か三人でまとめてかかってきても構わん。儂はその時に貴様らを倒してパラディオンを奪い、そのままミルヒの陣をぶちのめしに行く。さあ、上がってこい!!』

 

最後に敵意を見せつけるかのようなことを言って檄を飛ばし、通信が終了した。

 

「あのみなさん」

「姫様、本当に大丈夫なんですか?」

 

その時、ミルヒはライ達に声をかける。シンクの反応からして、彼女が何をしようとしているのか知っているようだが……

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その頃、レオはというと…

 

「レオ様…」

「問題ない。待っていれば勇者達が何も知らずにパラディオンを運んでくるじゃろう。それで少しは星の運命(さだめ)も変わるかもしれんしな」

 

心配するルージュに、大丈夫だということを知らせるレオ。だが、やはりその表情には陰りがあった。レオは武闘台の端によって、気を紛らわすように戦場を見渡す。先程から曇っていた空がさらに黒く染まっており、レオは並々ならぬ不安を感じ取っていたのだった。

そして昇降機が武闘台に到着。扉が開いて中から出てきたのは……

 

 

 

 

 

 

「お邪魔いたします、レオンミシェリ閣下」

 

ミルヒだった。ライもシンクもエクレールもおらず、彼女がたった一人でレオのもとにやってきたのだ。ドレス調の鎧を纏い、バスターソードのような大剣を携えている。ミルヒは完全戦闘態勢に入っていたのだ。

レオは戦場に直接乗り込まないであろう人物、しかもそれが守ろうとしている幼馴染であったため、激しく動揺している。

 

「レオ様が国の宝剣をかけて戦うというのなら、私も宝剣を手にこの場に来なくてはいけないと思い、失礼ながら勝手に推参いたしました」

 

ミルヒの言い分は尤もだったが、レオ自身はそれについての予想を全くしていなかったようだ。幼馴染で彼女のことをよく知っていることから、普段の守られている立場だったのが今もそのまま残っているとでも思ったのだろう。よく知っているが故に固定概念が染みついたという弊害だった。

 

「レオンミシェリ閣下、どうかお聞かせください。この戦の本当の理由、レオ様のお心の真実の在り処を!」

 

ミルヒがレオに対して問い詰めながら右手を差し出すと、その手にはエクセリードだけでなくパラディオンも指輪の形で彼女の指に嵌っていた。それによってミルヒが本気であることをさらに実感したため、レオの動揺はさらに激しくなった。

すると、いきなりレオのそばで控えていたルージュが駆け出す。ミルヒに近づきながら懐からナイフを取り出し、それでミルヒに刺突を放ってきたのだ。

だが、ミルヒもある程度の戦闘訓練を受けていたのか、咄嗟に剣を構えてその攻撃を防いだ。

 

「ルージュ!私は今、レオ様と!」

「お叱りは後でいくらでも!ですが、今は説明を差し上げている時間がございません!」

 

ルージュも辛そうな様子で告げると、そのままミルヒの剣を弾いて彼女に隙を作る。そしてその隙に宝剣を奪おうとミルヒに手を伸ばそうとする。

だが…

 

「きゃああ!?」

 

いきなり指輪の片方、エクセリードが強い光を発し出し、それによってルージュが弾き飛ばされた。

やがて光が晴れると、ミルヒの右手には先程の剣ではなく、ピンクを基調とした短剣が握られていた。どうやらこの土壇場でエクセリードが覚醒したようだ。

 

「宝剣が必要なら、事情を説明していただければ、いくらでもお貸しします。なのに、どうしてレオ様は私に何も教えてくださらないのですか?」

 

ミルヒはそう言いながら、意思表示の行動としてエクセリードをレオに見せるように構える。その様子からレオの表情はさらに曇っていく。

 

「昔はあんなに仲良くしてくださって…いつも優しくしてくださって…宝剣のことだけじゃないです…このところの戦のことだって…」

 

言葉を紡ぐごとにミルヒの声が涙ぐんだものに変わっていく。

 

「レオ様は……レオ様は、そんなに私のことをお嫌いに……?」

 

最後に叫ぶように訴えかけてくるミルヒは、ついに目に涙を浮かべるまでの段階に達していた。

その時のミルヒを見たレオは、自分がミルヒを守ろうと突き放した結果、状況を作ってしまったことを悟る。そして同時に、ミルヒを追い込んでしまったことに対しての強い負い目も感じていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

同時刻、ライ達は先程の広間で待機していた。レオと一対一で話がしたいというミルヒからの希望によるものだ。

 

「ライさん、やっぱり僕らも行った方がよかったんじゃないですか? なんだか胸騒ぎがします」

 

待っている間ソワソワしていたシンクは、思わずライに尋ねてしまう。

 

「ああ、オレもさっきから嫌な予感がバリバリだ。だから行きてえんだけど…」

「昇降機がこちらからでは動かせないから仕方ないだろ。それに、一人で行きたいとおっしゃった姫様の意思を無視なんぞできるか」

 

シンクだけでなく、エクレールやライも内心では不安があったようだ。ただし、スルーされていたもののエクレールは尻尾の動きに心情が現れていたので一目瞭然だったが。

そんな中、シンクがある場所を見ていた。

 

「ねえ、エクレ。ここから行けそうじゃない?」

 

シンクが指摘した場所を見てみると、そこは展望台に続く渡り廊下となっており、壁をよじ登れば上に行けそうな様子であった。

まあ、シンクの身体能力なら問題もないだろう。

 

「まあ、行けそうだな」

「だが、姫様は来ないでほしいと…」

 

ライもエクレールもこれは登れる、と判断する。だが、エクレールはミルヒの言っていたことを未だに引きずっている。

すると、シンクがこんなことを言い出した。

 

「イヤ、姫様は『ここから先は私一人で』って言ったんだから、こっちから上に行けば大丈夫」

「子供か貴様は」

 

そう言ってシンクはそのまま壁をよじ登っていく。だがエクレールの言う通り、子供の屁理屈のような言い分であった。

 

「シンク、オレも行く。戦力は多い方がいいだろ」

「ライさん、助かります」

「おい! お前まで…」

 

ライまでシンクと一緒に行くことに、憤慨するエクレールだったが…

 

「この間の悪寒がここで的中するかもしれねえからな。後で怒られようが、惨事になるよりはマシだろ」

「なんだったら、エクレは休んでて。僕とライさんで行ってくるから」

「……誰が行かんと言った」

 

結局、三人で上に登っていくこととなった。

 

 

「なあ、なんか雷がさっきより激しくないか?」

「たしかにそうだな。今日は嵐が来るなんて予報もなかったし…」

 

ある程度の高さまで登り切ったライは、エクレールにそう聞く。実際、自然界での雷はある程度の間を置いて起こるため、ここまで連続して雷が落ちるのは不自然極まりなかったのだ。

するとその瞬間…

 

―ゴゴゴゴゴゴゴ―

いきなり雷とは別に地響きのような音が聞こえだしたのだ。しかも、音は下からではなく上、すなわちミルヒ達のいる武闘台から聞こえてくるのだ。

 

「これは……エクレ、ライさん!!」

「まさかの的中かよ!!」

「だな。急いで上がるぞ!!」

 

危惧していた事態が起こったため、三人はスピードを上げるのだった。

 

 

 

その頃、天空武闘台ではありえない事態が起こっていた。

なんと、屋上から武闘台が丸ごと削り取られ、ミルヒとレオを乗せたまま空中へと上昇していたのだ。

 

『こ、これはいったい!? グラナ砦名物、天空武闘台が上昇しているように見えますが…』

「ちょ!? あ、あれ!!」

 

パーシーがその様子を遠くから実況していると、カメラを回していた隣の男性が何かに気づく。

 

暗雲から何かが現れた。見たところ黒い球体のようで、周囲には電流が走っており、禍々しいオーラのようなもの感じ取れた。

そして、その中で眠っていた何かが目を開きだす。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

上昇していく武闘台の上で、ミルヒとレオは突如現れた球体にその意識を向けられていた。

 

「あれは、このあたりの土地神様?」

「いや、ちがう」

 

何を思ったのか、ミルヒはあの球体を土地神と勘違いしてレオに否定された。

 

「昔ダルキアンから聞いたであろう。おそらく、昔地の底に封じられたという禍々しき魔物であろう」

 

レオが目の前の暗黒球の正体について推測を立てていると…

 

『Gyuaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!』

 

球体から咆哮のようなものが聞こえ、それに合わせて大気が震えだした。魔物が封印されているという仮説は、今このとき確定した。

 

―ドーーーーーーーーン―

咆哮と同時に遠くから爆音が聞こえたかと思うと、砦付近で地面から突然火柱が立つという現象まで発生、一般参加の兵達や下級の騎士達がそれから逃げ惑っていた。封印されていた魔物であることを考えると力は強大だが、咆哮で天変地異が起こるという異常な現象を起こす辺りから相当のもののようだ。

 

「きゃああ!?」

「ミルヒ!!」

 

目の前の事態に茫然としていた二人だが、今度はその火柱が浮き上がった武闘台にまで直撃する高さまで上がった。その時の衝撃でバランスを崩してしまったミルヒは、その場で倒れこんだ。

うつ伏せに倒れたミルヒ顔を上げ、あの球体の方に視線を移す。

 

「Uahuuuu……aaaa」

 

球体の中では封じられている魔物がそこから抜け出そうと必死にもがいている。その際に見える手足の形状から、魔物は鋭い巨大な爪を持っているようだ。

だが、ミルヒは別のところが気になった。魔物の体のどこかの箇所が見えたのだが、何かが刺さっているように見えた。

 

(大きくて怖い魔物かもしれないけど……あの子、泣いている?)

 

刺さっているものを見て何かを感じ取ったのか、ミルヒは魔物についてそう評していた。すると、もがいていた魔物がついに球体を突き破り、はっきりとした姿がさらけ出された。

魔物は近くの山ほどある巨体で四足歩行、狼や狐を彷彿とさせる容姿で頭部は岩のような甲殻に覆われている。そして、尻尾は5,6本ほど生えており、そのいずれもが黒い輝力のような光に覆われている。

 

「Uuaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

魔物が再び咆哮を上げると、その周囲に魔物自身を模した怨霊のようなものまで出現し出した。

 

(これがあの予言の、ミルヒを死に至らしめる…)

 

レオは星詠みで予言した宝剣所有者の死、ひいてはフロニャルド滅亡をもたらす元凶であると推測する。すると、それと同時にある疑問を感じた。

 

(さっき儂が見た夢の化け物と違う? それとも、あれは単なるイメージじゃったのか?)

 

そう思いつつもレオはグランヴェールを、ミルヒはエクセリードを手に取り、構えようとする。

すると、魔物の視線がミルヒに、正確には手に握られているエクセリードの方に向けられた。

 

「Guaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

その瞬間、魔物がこれまでで一番と思われた咆哮を上げる。すると、それに合わせて武闘台の床から武器が先端に生えた無数の触手が生えてきた。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

再び魔物が咆哮を上げると、その触手がミルヒを目掛けて攻撃を仕掛けてきた。

 

「はぁあ!」

 

だが、レオが咄嗟にグランヴェールを構えて防御の紋章術を発動。それによって攻撃は防がれる。

 

「でやあああああああああ!!」

 

その後に出来た隙をついて、レオは紋章砲で触手をまとめて切り裂く。

 

「大丈夫か、ミルヒ?」

「あ、はい…」

 

レオは早速ミルヒの安否を確認する。一方のミルヒは、ついさっきまでの自身に対して冷たい態度だったレオがいきなり助けてくれたことに対して、少なからず困惑しているようであった。

その時、ミルヒはあることに気づく。魔物がいつの間にか新しい触手を生やして、こちらに攻撃を仕掛けてこようとしていたのだ。

 

「レオ様、危ない!!」

 

ミルヒは咄嗟にレオの前に躍り出て、エクセリードで防御をしようとする。

 

「駄目じゃ、ミルヒ!!」

 

レオが叫ぶも、時既に遅しだった。

 

 

 

魔物の攻撃はエクセリードの刀身を貫き、ミルヒの体に達していたのだ。

その光景を見て、レオは星詠みで見た彼女の死のヴィジョンがフラッシュバックした。さらに魔物はミルヒの脇腹に打撃を加えて吹っ飛ばし、そのまま纏わりついていた霊魂のようなものに、ミルヒの体を丸呑みにさせる。その霊魂は取り込んだミルヒを取り込もうと、魔物の本体に向かって飛んでいった。

 

「ミルヒ……」

 

最初は茫然としていたレオだったが、その表情は次第に怒りに満ちたものへと変わっていく。

 

「貴様ぁあああああああああああああああ!!」

 

レオは体中に輝力を纏う。彼女の憤怒の感情に合わせるかのように、その出力は普段の彼女と桁違いだった。

レオはこの状態で魔物を撃滅しようとするが……

 

 

 

「ぐわぁあ!?」

 

いきなり黒いエネルギーがどこからともなく飛んできて、レオに命中する。突然の不意打ちに対応出来なかったレオは、そのまま吹っ飛ばされてしまう。

 

「おいおい。俺としては、もうちょっとあんたに絶望して欲しかったんだけどな」

 

いきなり不意打ちを仕掛けてきた相手のものと思われる声が聞こえた。しかも、レオにも聞き覚えがある声だった。

どうにか起き上がり、レオはその声のした方に顔を向ける。

 

「き、貴様は!?」

「おう。久しぶりだな、領主様」

 

そう、ミオン砦で乱入してきたサプレスの悪魔、ディガルドである。

 

「貴様、あの後ライ達に仕留められたと聞いたが、なぜ生きている? フロニャ力の恩恵を受けられないで致命傷を受けたら遅かれ早かれ生きてはいられぬ筈…」

「ある親切なお方が瀕死の俺を治療してくれてな。まあ、そいつについては素性をバラすなって釘を刺されてるんで誰かは言わないがな」

 

レオと言葉を交わしたディガルドは、何を思ったのか、魔物の方に向かって飛んでいく。驚くことに、魔物はディガルドに対して全く攻撃を仕掛けなかったのだ。悪魔である彼を、自身と似たような存在だとでも思っているのだろうか?

あっという間にディガルドは魔物の背に降り立った。

 

「えーっと……あった、あれだな」

 

ディガルドは辺りを見回して何かを探していると、目当てのものを見つけてすぐにそれに近づいた。

それは魔物の頭部の辺りに突き刺さった、赤い色をした不気味な刀だった。抜けないようにするためか、その周囲を何本もの鎖で固定されている。おそらく、先程ミルヒが見つけたものはこれだったのだろう。

すると、ディガルドはその刀の柄をいきなり握りだした。

 

「……なるほど。こいつの名前はキリサキゴホウ…シルターンの妖怪みてぇな名前だな。で、肝心の操り方は……よっし」

 

柄を握った瞬間、魔物の名を始めとしたいくつかの情報がディガルドの脳内に流れてきたのだ。

 

「じゃあ、早速あの女を殺っちまうか!!」

 

ディガルドはいきなり刀に魔力を流し込み、それをレバー操作の要領で前に倒しだす。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

「何!?」

 

それと同時に魔物が咆哮を上げ、レオを目掛けて尻尾を勢いよく伸ばし出した。

だが、レオもただ黙ってやられてやる気はなかった。

 

「でやああああああ!!」

 

グランヴェールに輝力を纏わせて、向かってきた尻尾に対して振り下ろす。攻撃を喰らった尻尾は勢いよく弾き飛ばされた。

だが、それだけでは終わらなかった。

 

「がああ!?」

 

レオが弾いたのとは別の尻尾が、背後から攻撃してきたのだ。さらに、また別の尻尾が勢いよく振り下ろされて、レオを武闘台の床に叩き付ける。そして、また別の尻尾と、先程弾かれた尻尾が持ち直した物が、一発ずつレオに振り下ろされた。もはやこれは戦いではない、一方的なリンチであった。

 

「さて、こいつはどうするかな……そうだ」

 

ディガルドは何かを思いついたかと思うと、先程と同じ要領で尻尾を操作する。

操作された尻尾は、箒で床を掃くような動きでレオを吹き飛ばす。そして、纏わりついていた霊魂の一つに彼女を取り込ませたのだ。

 

「あの女を取り込んだのは、たぶん持っていた剣が関係してるだろうな。なら、似たようなものを持ったあの女も、取り込んで損はないはずだな」

 

ディガルドは、これによって魔物が強化されると睨んでいたようだ。もしそうなら、このキリサキゴホウという魔物はさらに強くなってしまうと思われる。

 

「さて、お前にはもう一仕事してもらうか」

 

ディガルドは魔物に命令を出す前置きを言いながら再び刀の柄を握る。

 

「どっか適当な街に行って、破壊の限りを尽くせ。恐怖の感情が俺の糧になるのだからな、そうすりゃ俺は力を大悪魔クラスに底上げできるからな」

 

指示を出しながら再びレバーのように柄を動かし、魔物の進行方向を変える。そして、それによって魔物はグラナ砦から離れていく。

 

「レオ様ああああああああああ!」

 

目の前で君主が喰われてしまったルージュは、絶望のあまりにレオの名を叫ぶ。

 

 

「おいおい、まさかあれが例の魔物ってやつか?」

「そのようだな。だが、なぜここから離れているんだ?」

 

それからすぐに、ライ達が最上階に到達した。今来たばかりで事情を知らないライ達は、キリサキゴホウが砦から離れる理由の見当がついていなかった。

 

「パパーー!」

「勇者様――!!」

 

いきなり上空から声が聞こえたのに反応して、ライ達は視線をそちらに映す。すると、ハーランに乗ったミルリーフとリコッタがこちらに降り立とうとしていた。

 

「パパ、あの怪物って…」

「いや、オレにもさっぱりで」

 

ミルリーフが事情を求めてきたが、ライ達も事情の把握をできていなかったので説明が出来なかった。

 

「ねえ、あれって…」

「あれは……ルージュ殿!!」

 

シンクがルージュの存在に気づき、ライ達総出で彼女に近づく。

 

「ルージュ殿、あの魔物はいったい? それから、姫様とレオ閣下は何処に?」

「みなさん、実は……」

 

ルージュが事のあらましを話す。そして、全員が事情を理解した。

 

「姫様達があの魔物に取り込まれただと!?」

「しかも、ディガルドが一緒に…」

 

状況を全員が理解し、エクレールが現状についてまとめる。

 

「姫様とレオ閣下は、おそらくあの魔物に取り込まれつつある。今は二人の持っている宝剣の守護でどうにか耐え凌いでいるが、それもお二人の輝力次第だ。いつまでももたん」

「つまり、輝力が尽きたら二人は消化されちまうのか?」

「……おそらく」

 

状況は絶望的である。だが、それを聞いてむしろ闘志を燃やす人物が一人いた。

 

「……そんなの、させるかよ!!」

「シンク……だな。させたら駄目だよな」

 

シンクにつられて、ライ達も闘志を燃やしていく。

すると、ミルリーフの体がいきなり輝きだし、その状態で砦のから飛び降りた。そして、一瞬光が強くなったかと思うと、至竜形態になってそのまま飛び上がってきた。

 

「パパ、シンク、あれを追うから早く乗って!!」

「ああ、わかった」

「ミルリーフ、ありがとう」

「私も行かせてもらうぞ」

 

そのままミルリーフの背中にライ、シンク、エクレールが乗り込む。いつでも行ける状態になった。

 

「皆様、自分はルージュ殿についているであります」

「そうだな。ルージュさんを一人にしておくのも心配だからな」

「リコ、ルージュ殿を頼んだぞ」

 

リコッタは残していくことになったが、これで出撃準備は完了だ。

 

「じゃあ、飛ばすよ!!」

「おお、頼む!」

 

そのまま、ミルリーフはライ達を乗せ、キリサキゴホウのいる方に向かって飛び立つのであった。

 

 

 

~彼らだけでは荷が重い、誰か援軍を…~

 

どこかで、何かがそんなことを思った。それが人なのかどうかはわからないが、どうやらライ達の戦力についての心配をしているようだ。

 

~お願い……界の狭間を制する者を助けて…~

 

誰かは、新たに別の者達に助けを求めた。その誰かのいる世界

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィンバウムへ。

 




レオ閣下も取り込まれる展開は、実は書いている途中で思いつきました。
そして、最後に立ったフラグですが、果たしてその真相は……?

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