サモンナイト 勇者と姫と越響者   作:玄武Σ

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第26話 戦い終わって、一件落着

『そんな、馬鹿な……』

 

ライの攻撃によって心臓を破壊されたディガルドが、ポツリと呟いた。

 

『召喚師や天使といった存在と手を組んだとはいえ、他者の命を奪うなんて発想もないこの世界の住人が……生命の駆け引きもやったこともない軟弱な下等生物が……俺を、禍太刀の悪魔王ディガルドを、打ち滅ぼすってのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故だああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

ディガルドは力の限り叫んだ。彼には、ライや御使い達はともかくフロニャルドの住人達にまで自分が負けたことに納得がいかないようだ。

 

「確かにあなたの言う通り、僕やこの世界の人達は戦争とか人が傷つくようなことを全くと言っていいほど経験していないから、弱いかもしれない」

 

そんな中、シンクが口を開いた。

 

「でも、姫様やエクレ達フロニャルドのみんなはこの世界に大切な人がいる。そして、僕もフロニャルドで大切な人が何人もできた。僕もみんなも、その大切な人達のために戦ったからあなたに勝てたんです」

「人は大切な人達のためになら、本来の何倍もの力が出せるし、奇跡だって起こせるんです」

「そのために粘ったから、ライの仲間達が間に合った。これもある意味奇跡じゃな」

 

シンクに並んで、ミルヒやレオも口を開く。誰かへの思い、それが力となって巨悪を打ち破った、この結果はそういうことである。

 

 

『……なるほど、要するに俺はてめぇらを舐めきっていたってことか』

 

すると、さっきあれほど荒れ狂っていたディガルドが突然落ち着き出した。

 

『どの道、俺は心臓を潰されたからもうすぐ死ぬ。けど……

 

 

 

 

 

 

 

 

ただじゃ死なねえぜ、俺は』

 

すると、ディガルドはいきなり体に残っていた魔力を口に集める。それも、口元ではなく口内にだ。

 

「? あの者は何をするつもりでござるか?」

 

ブリオッシュがディガルドの行動に首を傾げていると、魔力の充填が終わった。

 

『はぁあああああああ……』

 

ディガルドは空を見上げながら口から息を吐き出す仕草を取ったかと思うと、息の代わりに大量の黒い煙が上がる。その煙は、ものすごい勢いで広がっていき、やがては戦場全体を覆っていった。

 

「な、なにこれ……?」

「急に、力が……」

「ま、まさかコレは……」

 

その時、リシェルをはじめとした何人かが膝をつき出し、心なしか顔色も徐々に悪くなっている。そんな中、エクレールはこの煙に覚えがあり、その反応を見たライもこの煙の正体に気が付いた。

 

「これって、まさかあの時の!?」

『察しがいいな。そうだ、あの砦で俺がばら撒いた生命を削る瘴気だ』

「やはりか。だが、あの時よりも強力になってる……!」

『ご名答。このまま放っときゃ、このあたりの国全体に瘴気が行き届いて、そこにいる奴は全員この世とおさらばってわけだ』

 

ミオン砦で初めてディガルドと戦った時、彼はこの“生命力を削り取る瘴気”を吐き出して逃げた。あの時の物は未完成だったが、ディガルドのパワーアップに伴ってこの瘴気の効果も強力になっている。それにより、ついに命を奪えるほどの物と化していたのだ。

 

『至極単純だが、支配できずに死ぬんだったら、まとめて道連れにしてやるぜ』

「貴様、なんということを……!」

 

セイロンが怒りに満ちた表情でディガルドの方を見る。その時、ディガルドの体が足元から徐々に変色してきた。

 

『へへ、どうやらもう限界みたいだな……感覚がどんどん無くなってきやがったぜ…』

 

キリサキゴホウから禍太刀を引き抜いた際にその体が土となって朽ち果てたが、それと同じ現象がディガルドに起こったのだ。ディガルドの体はどんどん土になっていき、頭以外がすべて土になったところで再び口を開く。

 

『じゃあ、俺は先に逝ってるぜぇ……あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! あひ、ひひぃ……』

 

ディガルドは反り返りながら高笑いを上げるが、すぐにそれは止み、無事だった頭も含めて、体の全てが土になった。そして、その反り返った体が重力に従って倒れていき、その衝撃で木端微塵になった。

 

「やつめ、とんでもない置き土産を残しおって…!」

「このままでは、人を含めた辺り一帯の生き物が死に絶えてしまうでござる」

「親方様、どうすれば!?」

 

事態を引き起こした張本人が死に、仮に生きていたとしても解呪出来ないかもしれないという、どう足掻いても絶望としか言えない状況となってしまった。

そんな中……

 

「なあ、ギアン」

「? どうしたんだい?」

 

いきなり、ライが何かを決断したかのような表情になり、ギアンに声をかける。

 

「今のオレは、エニシアに潜在能力を引き出されているから、普段よりも力があるんだよな」

「ああ、それは間違いないけど…」

「あと、こういう奴も天使の奇跡とかで浄化できるか?」

「悪魔の負の力によるものなら出来るはず……まさか君!?」

 

ギアンはライの質問の内容から、彼が何をしようとしているのか察しが付く。そして、それを横で聞いていたリシェル達もライの考えに気が付く。

 

「まさか、あの時にあたし達を助けてくれたっていう……」

「ああ。今の状態なら、あの時ほど消耗はしないはずだからな」

 

それを話した後、ライはミルリーフとエニシアに呼びかける。

 

「ミルリーフ、エニシア、力を貸してくれ」

「うん、もちろん!」

「一緒に頑張ろう、ライ」

 

ミルリーフとエニシアはライに同意したかと思うと、彼の両脇に並んで二人が魔力を流し込んだ。“慈愛の恵み”という、自身の魔力を他者に分け与えて回復させるという特殊な技だ。本来ならば召喚師が魔力切れを起こした際に使うのだが、今回は特殊なケースだ。

 

「ライさん、一体何を……」

「すぐに終わらせて楽にしてやるから、待ってろ」

 

シンク達を安心させるように話した後、いきなりライの体が光り出した。その光は、抜かれた禍太刀がライを襲おうとしたときに発したもので、淡く優しい光だった。

 

「光よ、光の滴よ…」

 

ライはそのまま状態のまま両手を広げ、呪文を唱え始めた。彼の周囲に魔力が立ち込める。

 

「水面に弾け、きらめく数多の輝きよ…

我が声を聞くのなら、集いて奇跡の力となりたまえ…」

 

呪文が進むと、ライの魔力が強まっていく。そして、それと同時にライの体の光が、淡い白から金色に変わっていく。

 

「金色の慈雨となりて全てを貫き、不浄を洗い流したまえ!!」

 

ライの呪文詠唱が終わると、纏っていた金色の光が天へと放たれ、そのまま雨のようになって降り注いでいく。

 

「こ、これは……」

「とっても、温かいです…」

「見ていて心が安らぐでござる」

 

美しい金色の雨を目の当たりにして、それに惹かれるシンク達。ブリオッシュもこのようなものを見るのは初めてのようで、食い入るようにそれを見つめている。

すると、辺り一帯に変化が起こった。

 

「! ディガルドの撒いた瘴気が…」

「どんどん消えていっとる……」

 

金色の雨はそのまま辺り一帯に広がっていき、やがて瘴気の蔓延している場所の全てに広がって降り注いだ。そして、金色の雨が瘴気に触れると薄くなっていき、やがては消え去ってしまった。だが、変化はそれだけではなかった。

 

「ユキ、お前顔色が良くなってないか?」

「ありゃ? 確かに調子が良くなったでござる。というか、エクレも」

「? そういえば、いつの間にかダルさが消えている……」

 

金色の雨は瘴気を消し去るにとどまらず、体を蝕まれたエクレール達を癒していく。

 

「おぬし等、これはいったい何なんじゃ?」

「先程のエニシア殿の力と同様に、拙者もこのようなものは見たことがないでござる。よければ、説明してもらえるでござるか?」

 

レオとブリオッシュが代表してライの使った力について尋ねると、リビエルが前に出てきて答える。

 

「“慈雨の大奇跡”、ありとあらゆる不浄を浄化する金色の雨を降らす力……私の治癒の奇跡のように、天使やその系譜に連なる生命体、その中でも高位の存在にのみ行使可能な力です」

「え? じゃあ、ライさんも天使なんですか!?」

「いいえ、ライは天使ではありません。まあ、本人の口から聞いた方がよさそうですが……」

 

やがて、瘴気がすべて消え去ったところで、金色の雨が止んだ。

 

「よっし、浄化完りょ……」

 

ライがシンク達のいる方に振り返って、そちらに歩みを始めるが、いきなりよろけ出す。

 

「ライさん、どうしたんですか!?」

「いや、ちょっと今ので消耗しすぎただけだ……」

 

シンク達が駆け寄ると、ライの顔色があまり好ましくなく、息遣いも荒くなっている。

 

「リシェル、シンク達にオレの秘密を代わりに話してくれねえか? もう、意識が飛びそうで……」

「本当はあんたが直接話す方がいいけど………わかったわ。ただし、細かい部分とかはあんたの口から話しなさいよ」

 

リシェルはライの頼みを聞いて、呆れ顔で了承する。

 

「すまねぇ…な」

「あんたはとりあえず寝ときなさい。そんで、早めに回復すること」

「あぁ…わか…った…」

 

その時、ライの瞼が閉じ、そのまま力なく崩れていった。

 

『ライさん!』

 

いきなりの事態を見て、シンク達は慌ててライの方に駆け寄る。

 

「ライさん、しっかr…」

「zzz……zzz」

 

その時、ライの口から何かが聞こえる。どうやら寝息を立てているだけで、彼自身は無事だったようだ。

 

「こいつ、心配させておいて呑気に…」

「店主殿は以前にもあの力を使ったのだが、その時も意識が飛んでな。まぁ、そうそう使うものでもないから当分は使いこなせないと思うので、勘弁してやってくれたまえ」

 

セイロンは憤慨しようとするエクレールをなだめ、「あっはは」と偉そうな笑い声をあげる。

 

「じゃあ、あれに乗ってどっか腰を落ち着けられそうなとこに行くわよ。ライのこととかあたし達がどうやってここに来たかも、そこでゆっくり話すわ」

 

そう言ってリシェルは、自分たちが乗ってきた乗り物を指す。セイロンが眠っているライを担ぎ、全員で問題の乗り物に乗りこむ。

中はバスのように椅子がいくつも並んでおり、20人ほどの人数を乗せられるスペースがあった。リシェルは中に入ると先頭の席に座り、スイッチを押す。すると、動力機関の起動音のような音が聞こえ、起動を確認したリシェルは操縦桿を握る。

 

「ねえ、誰かここの近くに町とかが無いか知らない?」

「町はないが、近くに砦があるからそこで頼む」

「了解。じゃあ、案内して」

 

レオを隣に座らせたリシェルは、彼女のナビゲートのもとで操縦し、グラナ浮遊砦へと向かうのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここは、どこだ?」

 

ライが目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。辺りには灰色の光景が広がり、物が何一つない殺風景な空間にいた。

 

『ここは何処でもない空間です。あなたの意識のみを呼び込ませていただきました』

 

いきなり、不思議な声が聞こえた。否、聞こえたのではなくライの頭に直接響いたのだ。

 

「だ、誰だ?」

『こちらです』

 

ライの前に現れたのは、不思議な光の塊だった。

 

『邪悪を退けてくれて感謝します、界の狭間を制する少年』

「この声……あの時の夢で聞いた!」

 

光の塊が発した声は、ライがフロニャルドに来る直前、夢で聞いた不思議な声そのものだった。

 

『私は、このフロニャルドの意思。あなた方の言葉で言うエルゴです』

「エルゴ……確か、リシェルが言ってた世界に宿る意思…」

 

界の意思(エルゴ)、リィンバウムとそれを取り巻く四つの世界に宿るという大いなる意思。世界に存在する全ての物はエルゴから枝分かれして誕生し、それらが世界を形作っているという伝承がリィンバウムには残っている。

かつてリィンバウムを侵略者から救った伝説の英雄、“誓約者(リンカー)”はこのエルゴの恩恵を受けていたため、エルゴの王とも呼ばれている。それのことから、エルゴはいかに強大な存在かが見て取れる。

 

『まずは、いきなりこの世界にあなたをお呼びしたことを謝らせてください』

「え?」

 

いきなりの謝罪の意に、ライは困惑する。その内容によると、ライはエルゴによってフロニャルドに召喚されたということになる。

 

『事の始まりは、あのディガルドと名乗る者がこのフロニャルドに現れたことから始まりました』

 

エルゴはそのまま、ライを呼ぶに至った経緯について語り出す。

 

『本来ならばあそこで勇者と姫のみで魔物を退治し、依代にされていた土地神を開放してそれで終わる筈でした。しかし、どういうわけか星の運命に歪みが生じ、あらざる事態としてあの者が突如として現れてしまったのです』

「つまり、本当はディガルドがフロニャルドに来るのは、ありえないことだったっていうのか?」

 

本来はディガルドはフロニャルドに現れず、シンク達だけで魔物を倒してすべてに決着がついたのだという。

 

『そして私は、あの者の意識を通じてあなたのいた世界、リィンバウムの英傑達なら対抗できるかもしれないとあなたを召喚させていただきました。』

「なるほど……って、ちょっと待ってくれ」

 

ライはエルゴが自分を呼んだ理由について、腑に落ちないことが一つあった。

 

「オレも直接は会ったことないけど、もっと強い人たちがいた筈だからそいつらを呼べばよかったんじゃねえのか? あと、認めたくねえけど、オレの親父もかなり強いし……」

 

ライはかつて出会った者達から聞いた程度だが、伝説級の人物たちの存在を知っていた。自由騎士の少年アルバから聞いた“エルゴに選ばれし勇者”、彼の上司に当たる元旧王国の騎士ルヴァイドが話した“運命を超えし若者”、とある島から来た鬼の皇子スバルの恩師だという“救い、切り開く者”、そういった存在達がリィンバウムを危機から救ったというのだ。ライがクソ親父と嫌っている父親、冒険者ダイバ・ケンタロウも妻である古妖精メリアージュの力の恩恵で不死身に近い強靭な肉体を得ており、剣一本で滝や工学兵器の攻撃を両断するという人間の領域を超えた存在と化していた。そんな者達がいる中、古妖精の響界種という特殊な生まれで力も強大だが、先に述べた者達に比べたらまだ力も弱く、年若くて彼らより場数で劣るライを選んだのかは疑問だった。

 

『それは、あなたの力の質がこの世界と最も相性が良かったからですよ』

「へ?」

 

エルゴの言葉に、ライは間の抜けた声を出してしまうが、エルゴはかまわずに続ける。

 

『このフロニャルドは、守護の力に包まれた大地が広がる優しい世界。故に、天使という聖なる存在、その系譜に連なる“古き妖精”の血を引くあなたの、優しい力……このフロニャルドにこそ最も相応しいと思ってあなたを召喚させてもらいました』

 

 

 

『ですが、ディガルドが想像以上の力を身に着けてしまったために、あなたのお仲間も呼ばざるを得ませんでした。そこに関しても謝らせてください』

「リシェルたちが来たのもアンタによるものか。イヤ、そこに関しては助かったし、みんな気にしねえだろうからそこはいいや」

 

まあ、リシェル達はレンドラ―達軍団長との因縁についても言及しなかったし、御使いの面々も今はギアンたちと特に問題なく接している。そういう意味では、あ、あまり目先での迷惑は気にしない性質(たち)なのだろう。

 

『その際に、このフロニャルドを行き来するための秘法をあなたのお仲間に授けたのですが、危機を救ってくれたお礼にそのまま差し上げます』

「え、いいのか?」

『あなたにはもっとこの世界を知って欲しい、そしてあなたのお仲間にもこの世界を知って欲しいので、そのまま使ってください』

 

とりあえず、エルゴの言葉に甘えておくことにした。そして、さらに嬉しい知らせが入る。

 

『あなたと出会った勇者の少年ですが、帰る手段は存在して、今日(こんにち)の内に彼を呼んだ国の者達が発見しています』

「! それは本当なのか!?」

『はい。ですが、ある条件を提示する必要があります』

 

自分達だけでなくシンクが帰る手段があるというのがわかりライも嬉しくなるが、エルゴによるとまだ何かあるらしい。

 

『ある条件を満たさないと、彼はこの世界に二度と来れないうえに、ここで得た物は記憶を含めて全て持ち帰ることが出来ないのです』

「な!?」

『ですが、あなたと共に邪悪を退けてくれた彼へのお礼として、その条件をお教えします』

 

そして、エルゴが教えてくれたその条件は、「送還から再召喚まで91日以上空ける」「召喚主以外の3名以上に“また来る”という誓約とともに勇者が身につけていた物(内容は問わないが勇者が自身の居た世界から持ち込んだ物の方が良い)を預けておく」「召喚主に対しては勇者と召喚主の名前が書かれた約束の書と誓約の品を渡しておく」の三つだった。

 

「なるほど条件が結構厳しいな。でも、ここで聞けて助かった」

『先程も言いましたが、彼にもフロニャルドの危機を退けたお礼としてです。お気になさらずに』

 

この空間に来てから、なんだか至れり尽くせりな状況となるライだった。

 

『では、このあたりでお別れとしましょう。そろそろあなたを帰す頃合いですし』

「あ……なんか、意識が徐々に…」

 

どうやら、ライの意識が元いたところに戻っていくようだ。

 

『界の狭間を制する少年、それではさようなら』

 

エルゴの言葉を聞き終えたところで、ライの意識は再び途切れた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ん? ここは……」

 

ライが目を覚ますと、そこはどこかの一室で、ライはベッドに寝かされていた。眠い目を擦りながら窓を覗くと、日が沈みかけているのが見えた。戦の開始が昼食後、そこから日が沈むまでは大体6時間ほどなので、割と早く目を覚ましたようだ。フロニャ力が何かしたのか、エニシアによって強化されたため負担が減ったのか、どちらにしても数日寝込まないですんだようだ。

 

「…パパ?」

 

ドアが開く音と同時に聞き覚えのある少女の声がしたので、ライはそちらに視線を向ける。部屋に入ってきたのは、ミルリーフだった。

 

「パパ、もう起きて平気なの?」

「ああ、なんとか。フロニャ力のせいかエニシアのおかげかはわかんねえけど、あの時ほど疲れがたまってねえんだ」

 

ライは別に強がって言っているわけで話無く、実際に彼は倒れた直後よりも顔色が良く、体から活力がにじみ出ているような感じがしている。

 

「ライ、目を覚ましたのね!」

 

すると、開いているドアからリシェルが部屋に入って来て、それを皮切りにシンクにエクレール、リコッタにユキカゼ、そしてエニシアが部屋に入ってきてライのもとに駆け寄る。

 

「おお、みんな。無事だったか」

「それはこちらのセリフだ、馬鹿者。心配させおって……」

 

エクレールもツンケンした態度だったが、はっきりと心配した言っていたので、ライも悪い気はしなかった。

 

「そういえば、あの後どうなったんだ? 戦とかそういうの」

「それが、魔物の出現やディガルドの一件が気づかぬうちに報道されていてな。そのおかげでみんな非難していたが、怪我人が多く出たために中止になった」

「そ、そうなのか」

「でも、死者や行方不明者は出てないらしいんで、安心してください」

「ちなみに、埋め合わせで姫様の臨時ライブが開かれるでありますよ」

 

シンク達から戦についての話を聞いた後、今度はシンクの方からライにあることを尋ねてきた。

 

「ライさん、聞きましたよ。ライさんがエニシアさんと同じで、人間と妖精のハーフだって」

「ああ。まあ、改めてオレの口から話すわ」

 

そして、ライは自身の出生について簡潔に説明する。母メリアージュが古き妖精という天使の系譜に連なる特殊な妖精であること、その血と共に強大な力を引き継いで生まれたこと、つい最近にそのことを知ったこと、そういったことを包み隠さずに話した。

 

「言いそびれただけで、別に隠してたわけじゃねえんだ。偏見とか持つかもしれねし、無理に信じろとは言わねえ」

「いや、あんなものを見せられたら信じるしかないだろ」

「って、そう言えばそうだな」

 

エクレールに言われて苦笑するライ。まあ、ただの人間に瘴気を浄化する雨を降らせるのは、いくらなんでも無理があるので仕方もなかったが。

 

「偏見なんて持ちませんよ」

 

すると、シンクが口を開く。それに合わせて、リコッタとエクレールも言葉を発する。

 

「偏見も何も、ライ様がいなかったら自分達は死んでいたかもしれないですし、むしろ感謝しているであります」

「お前がどんな力を持っていようが、人間じゃなかろうが、お前はお前だろ」

「ていうか、僕やみんながそんなことで偏見を持ったら、僕たち絶対に仲良くなんてなれないし」

 

シンクの言うことも尤もだが、それでもこの言葉はうれしいものだった。

 

「よかったね、パパ」

「ああ。みんないいやつだな」

 

ライ達がシンクやエクレールの言葉に感動していると、ユキカゼが衝撃のカミングアウトをし出した。

 

「というか、それを言うなら拙者も土地神でござるし。異種族の交流なんてこの世界じゃ当たり前でござるよ」

「「「へぇ……ええ!?」」」

 

ユキカゼの一言で、シンクとライ、そしてミルリーフが同時に驚く。一方、ここに来て間もないリシェルとエニシアは当然だが、エクレールやリコッタは全く驚いていない。どうやら、最初から知っていたらしい。

 

「ユキ、まさかお前言ってなかったのか?」

「あれ、そうだったでござるか? 拙者は土地神の子でござるよ」

 

茫然とするライとシンクに対し、胸を張りながら「尊敬してもよいでござるよ」と冗談交じりに言うユキカゼ。その一方で、ミルリーフは少し気まずそうな表情をしている。

 

「ミルリーフ、その顔ってまさか…」

「うん。なんとなく、姫様やエクレとはちがう種族って気づいてたから」

 

ミルリーフはユキカゼと初めて会ったその時、なんとなくだがフロニャルド基準の人間とは種族的に違うということを察していた。なのになぜ、さっき驚いていたのかというと……

 

「てっきり何か事情があって隠してると思って、気づかないフリしてたのに……」

「え……ミルリーフ、気を遣わせてごめんでござる」

 

ちょっとしょぼくれるミルリーフを見て、あやまるユキカゼ。その光景に、場が和んだ。ちなみに、鬼妖界シルターンでは「人は野に、鬼は山に住む」という暗黙の了解があるため、異なる種族同士の干渉はしないようになっている。ミルリーフはユキカゼが似たような掟を破っていると思ってこのような気遣いをしたというわけだ。

 

「……あ! リコッタ、さっき夢でシンクの送還についてのお告げ? みたいなのを聞いたんだけど…」

「ほ、本当でありますか!?」

 

ライは、忘れかけていたさっきの夢の話をする。得た情報を伝え終えると、一緒になってそれを聞いていたリシェル達も会話に入ってきた。

 

「なるほど。例の声が教えてくれたのね」

「ああ。その時に聞いたけど、リシェル達をここに呼んだのってエルゴだったんだな」

「厳密には、エニシアとギアン、あとリビエルに呼びかけられたのよ」

 

リシェルが告げたのは妙に限定的なメンバーだったが、そこにはある共通点があった。

 

「私はライと同じで古き妖精の血を引いてるし、ギアンも幽角獣の響界種だからね」

「リビエルによると、どっちも天使の系譜に連なる生命体だかららしいわ。天使はエルゴに反すると堕天使扱いされることから、エルゴに対して何か密接なところがあるそうよ」

「はぁ……ところで、そのリビエルとか他の御使い、あとギアンはどうした?」

「なんか、お姫様達お偉いさんと話しに行ってるわ」

「まあそれは置いといて、おかげで勇者様の送還問題が何とかなったであります。あとは、学院のみんなが発見してくれた送還術式があれば、勇者様も帰れるでありますよ」

「とりあえず、今のところ全問題は解決だな」

 

すると、シンクが何かを思い出して、ライにそれを告げた。

 

「ライさん、体の方が大丈夫なら僕と一緒に来てくれませんか? 騎士団長が会いたいそうで…」

「ロランさんが? わかった、一緒に行くか」

「待ちなさい、折角だから送るわ」

 

そういうわけで、ライ達はリシェルの乗り物で目的の場所に向かうのだった。

 




フロニャルドのエルゴについては強引な気もしますが、ご容赦ください。

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