スピーチを一通り終えて、立食パーティーを楽しむ面々。そんな中、ライはシンクに話しかける。
「そういや、シンクが記憶持ったまま帰る条件に物を渡すってのあったよな」
確かに、ライはエルゴからシンクの送還には一定の条件がないと記憶が物が持ち帰れないと聞かされていた。そしてその条件は3つで、、「送還から再召喚まで91日以上空ける」「召喚主以外の3名以上に“また来る”という誓約とともに勇者が身につけていた物(内容は問わないが勇者が自身の居た世界から持ち込んだ物の方が良い)を預けておく」「召喚主に対しては勇者と召喚主の名前が書かれた約束の書と誓約の品を渡しておく」となっている。最初の一つはしょっちゅうフロニャルドに行くわけにもいかないので特に問題ないが、残り二つは渡すための物が必要になる。後になって調べてみてもそう書かれた資料が発見されたため、確証もあった。
「何か、渡す物とか相手は決まってるのか?」
「はい。ダルキアン卿とユッキーには既に渡してありますし、騎士団長にエクレ、リコにも渡す物は決めてあって…」
「結構な人数だな。3名以上ってことは、3名ギリギリでもいけるだろ?」
「そうなんですけど、条件以前に僕とこの世界で親しくなった人たちの繋がりが欲しいっていうのもあるんです。たぶん、条件を知らなくてもやってたと思いますよ」
それほどにまで、シンクがフロニャルドで得た絆は大きく強いものだったようだ。その様子に、ライも納得している。
「ただ、姫様に渡す分を考えると残りがケータイとか必需品になってしまうんで、ライさん達の分が無いのが申し訳なくて…」
「気にすんなよ。オレたち期間以外は無条件で行き来できるようになっちまったから、そういうのはフェアに思えねえんだわ。あ、これはオレが勝手に思ってるだけだからあんま気にすんなよ」
それを話している途中、今度はエニシアとリシェルがやって来る。
「あ、二人ともどうも。リシェルさんもエニシアさんも、ドレス似合ってますね」
と、シンクは二人の格好を素直に褒める。だが…
「褒めてくれるのはうれしいんだけど…」
「あんまり複数の女の子にそう言う褒め言葉を無闇に言うのも、どうかと思うわよ」
二人が呆れながら言うのを聞くシンクだったが、頭に疑問符を浮かべている。あまりの鈍さに、ライ達は思わずため息をつくのだった。
「そういえばシンク、姫様にはなにをあげるの?」
「あ、それあたしも気になる」
そんな中、今まで黙っていたミルリーフが尋ねてくる。エクレールに並んでいい雰囲気になっていたミルヒなのだから、なんとなくいいものを渡しそうな感じがしたため気になるのは当然だろう。
「ちょっと、これにしようかなって」
そう言ってシンクは、ズボンのポケットからあるものを取り出す。
「懐中時計? それって、買うと結構するんじゃねえのか?」
「シンク君って、向こうじゃ一般庶民だって聞いたけど…」
「これ、貰い物なんですよ。ライさんは、僕が姫様に呼ばれた理由の大会のこと聞いてますよね」
そう言われて、ライはあることを思い出した。アイアンアスレチックという大会で2位になったのをミルヒが星詠みで覗いたことが、シンクを勇者として呼んだきっかけだということをだ。
「そういや、そんな話もしたな。最近、いろいろありすぎて忘れてたよ」
「で、その大会で2位になった景品がこれなんですよ。だから、結構思い入れがあって…」
話している内に、声がどんどん小さくなっていく。おそらく、大会の時の悔しさがぶり返してきたんだろう。
「シンク、その……」
「いいんです。もうあらかた吹っ切れたんで」
微妙な空気になってしまったので、この話はここで打ち切りとなった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日、朝になってついにシンクの送還の時が来た。
まずは、謁見の間にてシンクの帰還式典が行われた。その式にはライ達も参加することとなり、彼らも機能のパーティーでの恰好で出席する。
そして……
「ぐぬぬ…」
この日はアロエリも事前に取り押さえられて、しっかり正装をさせられて式典に参加していた。ちゃんと、彼女の体に合わせて背中部分が開いているドレスなので問題なしだ。
「あんたも、こういう場にはちゃんと出なさいよね」
「こんなしおらしい恰好を、人前でする羽目になるとは……」
アロエリは兄のクラウレから、女を捨てた戦士として育てられたのだが、弱気になったりするとしおらしい女口調になったりする。彼女としてはかなり恥ずかしいようで、今回はそれに匹敵しうるようだ。
一方、玉座に座るミルヒの前にはシンクとライが並んで佇んでいる。
「ビスコッティの勇者シンクと委託騎士ライは、それぞれの役目を終えて故郷へと帰還することとなった。では、勇者シンクは勇者の剣”神剣パラディオン”を、召喚主ミルヒオーレ姫へ」
元老院の一人がそ言うと、シンクはミルヒの前に足を進める。そして、指に嵌めていた指輪形態のパラディオンを取り外し、ミルヒに手渡す。
そんなこんなで、元老院による進行のもとで式典は終わりを告げた。
その後、シンクはフロニャルドに召喚された際に着ていた服に着替える。ライ達にとっては変わった意匠の服だったが、シンク曰く学校での制服なのだという。
そして、全員でセルクルに乗って、エクレールに先導される形で召喚台に向かっていた。リシェル達がこちらに来る際に乗って来たマシンが、召喚台に停めているので目的地は一緒ということだ。
「まったく、最後まで貴様らのお守をさせられるのか」
「そう言わないでよ。僕はエクレが見送りで嬉しいよ」
「なんだかんだ言って、オレらもここでの付き合いはエクレールが一番長いからな。オレも正直ほっとしてるぜ」
「ありがとう、エクレ」
「そうそう。最後になっちゃったけど、エクレにも」
すると、シンクは左腕に嵌めていたリストバンドを外して、エクレールに差し出す。
「なんだ? もう3人以上に渡した筈だろ」
「ライさんにも言ったんだけど、みんなと僕の繋がりみたいなものが欲しくってさ。エクレにも同じだよ」
「そういや、他のみんなには何を渡したんだ?」
「騎士団長とダルキアン卿に、財布に入っていた記念コインを一個ずつ、ユッキーには携帯ストラップ、リコにはボールペンとテープレコーダーをね」
「聞いたことのねえ物も混じってるけど、結構な数だな」
「リコにいたってはふたつだよ」
そんなこんなで先頭でライ達は色々と話をしている。その一方、後方のリシェル達は…
「入り込む隙がないわね」
「やっぱり、ついこの間にいきなり来た私達とは、付き合い方が違うしね」
「なに。次来た時にでも親睦を深めれば埋め合わせは効こう」
それから少しして召喚台に到着、エクレールとはここで別れることになった。そこには既にミルヒと、シンクをフロニャルドに連れて来た隠密部隊の犬、タツマキがいた。
「タツマキ! お前も来てたのか」
「この子もお見送りがしたいそうです」
それからしばらくタツマキを撫でていたシンクだったが、やがてはタツマキも召喚台から去っていった。
「では、送還の際は召喚主と勇者しか、召喚台にはいられないので…」
「わかったわ。あたし達が先に出発すればいいのね」
「すみません。出来れば、一緒にお見送りしたかったのですが…」
そう言ってリシェルがマシンの発進準備に、エニシアとギアンがゲートを開く準備に取り掛かる。三人が準備に入った後、ミルヒがライ達に申し訳なさそうに告げる。
「いや。姫殿は別に悪くないのだから、気に病む必要などない」
「また会えるんですから、埋め合わせもその時にしますので」
そんなミルヒを、セイロンとリビエルでフォローする。
「じゃあな、シンク。またな」
「はい。ライさんも、お仕事がんばってください」
「ミルリーフも元気でいてくださいね」
「姫様こそ、げんきでね~」
ライ達も最後の挨拶を済ませて、マシンに乗り込む。中に入ると、乗車スペースの中央に設置されたある物に、エニシアが魔力を照射している。
「これは、ラウスの枝か?」
「ああ。これとエルゴが教えてくれた勇者召喚の知識を合わせることで、リィンバウムとフロニャルドを行き来できるんだ。やろうと思えば、ラウスブルグごと移動できるらしいよ」
「そ、それはまた…」
ギアンが教えた移動手段に、思わずライは顔を引きつらせる。まあ、ラウスブルグをこっちに持って行ったら、いろいろと面倒な事態にはなりそうだから当然だろう。
「ギアン、魔力充填完了したよ」
「ああ。こっちも術式が組めたところだ」
二人の準備が完了すると、上空に魔方陣が出現する。それは、ライ達が最初にフロニャルドに呼ばれた際に現れた、桜色の魔法陣だった。
「じゃあ、このまま飛ばすわよ~」
リシェルがマシンの発進レバーを思いっきり倒すと、そのまま大地から飛び立つ。そして、そのまま一気に上昇して魔法陣目掛けて飛んでいく。魔方陣は大体高度一万メートルほどの高さに現れたが、マシンは勢いよく飛んでいき、3分もしないうちに半分以上を登り切った。
「みんな、窓の方を見てくれ!」
そんな中、ライはあるものに気づき、仲間たちの視界を窓の方にやる。そこには、天に昇っていく桃色の光があった。
「あれは……」
「たぶん、シンクだな」
「シンクも、これで帰れるんだね」
天に昇っていくシンクはどんどんライ達のマシンと距離を縮めていき、最終的にマシンを追い抜いて、そのままフロニャルドから消えていった。
「は、早いですわね…」
「まさか、これの飛行速度を追い抜くなんてね…」
唖然とした様子でいると、いつの間にかもうゲートが目の前に迫っていた。
「みんな! 揺れるけどシートベルトは大丈夫!?」
「え? シート、なんだって?」
ライとミルリーフがリシェルの言ったことを理解できなかったが、周りを見回すと座席についている黒い帯のようなもの、シートベルトを腰に巻いていた。
そして、そのままゲートにマシンが突入する。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「ふええええええええええええ!!」
ゲートをくぐった瞬間、マシンを強烈な振動が襲う。乗っていたメンバーはシートベルトを締めていたので特に問題無さそうだが、ライとミルリーフはそもそもシートベルトが何かを分かっていなかったため、強烈な振動をその身をもって味わうこととなってしまった。
「あ、ゴメン言い忘れてた! 座席にある黒い帯、シートベルトっていうんだけど、それで体を固定しないと痛い目に合うから!!」
「もう遅ぇよ!!」
ライはミルリーフと二人で、どうにか空いている座席の背もたれにしがみついて耐え抜いている。とっさの判断のおかげで重傷は避けられたのだった。
「でも、もうそろそろ着くわよ!!」
リシェルに言われたその数秒後、ライ達はゲートを抜けていた。そして、その先には懐かしいような色の空が目に映る。そして、窓から地上を見下ろすと、本当に懐かしいものが見えていた。
「……トレイユの町」
「帰って来たんだね、パパ」
16日ぶりだったが、このところの濃厚な出来事を体験したこともあって、非常に懐かしくも感じていた。そんな中、リシェルはマシンを自身の家、すなわちブロンクス邸に飛ばす。
そして、ブロンクス邸が見えてくると、庭の方に人だかりが出来ているのに気付く。
「あれは…」
「ライさんが帰って来た!!」
「ようやくか…」
「帰って来たか、あいつ」
「ライ君、お帰りー!!」
「ライさん、お嬢様、お帰りなさいましー!!」
「ご主人、お帰りなさーい!!」
「ライ、アロエリ、ギアン様…」
集まっていたのは、トレイユの住人や宿屋の居候といった、ライのかけがえのない仲間達だった。喋っていた順に、ルシアン、テイラー、グラッド、ミント、ポムニット、シンゲン、そして最後の御使いでアロエリの兄クラウレだ。
「みんな…」
「みんな、なんだかんだ言ってアンタが好きなのよ。感謝してあげなさいよね」
そのままリシェルは、マシンを庭の真上に持っていき、着陸態勢に入る。そして、地面までまだいくらか距離のある中でライとミルリーフは、窓から身を乗り出して、待っている面々に向かって声をかけた。
「みんな…
ただいま!」
サモンナイト 勇者と姫と越響者
第1部・完
ようやく1期最終回。まさかここまで1年近くかかるとは夢にも思いませんでした。とりあえず2期までは続ける予定なので、まだまだお付き合いいただけたら幸いです。
それでは、今後も「サモンナイト 勇者と姫と越響者」をよろしくお願いします。