第2部、開始です。
第30話 再びフロニャルドへ I"ll be back
『俺は、このフロニャルドが嫌いだ』
一人の男が、ある集団にハッキリとそう告げていた。その男は背中の右側に白い翼を、左側には蝙蝠に似たを生やした奇怪な外見をしている。
『おい、考え直すんだ○○○○○!!』
『そうです! もっと時間を置いて暮せば、きっとあなたもこの世界を好きなる筈なのです!!』
男に必死に問いかけるのは、銀髪と黒装束の男と、瞳に星のマークが入った、白い服を着た金髪の女性。そのそばにはリスのような耳と尻尾を生やした女性がいる。
『残念だが、そういう訳にもいかねえ。これは俺が考え抜いた結果見つけた、この世界での俺の役目だ』
『そんなことをしても、死んだ君の両親は喜ばないと思うぞ。むしろ、悲しませてしまう』
『ああ。世界の垣根を越えて、俺を生んでくれた両親への不義だってのは重々承知だ。だが、それでも俺はやる気だ』
『本気、なのでござるか?』
先程の二人とは別の男女二人が男に声をかけた。二人とも茶髪で狼のような耳を生やしており、雰囲気も似ているので兄妹と思われる。
『本気の本気だ。俺はこのフロニャルドの在り方を変える。それがダメだったら……』
そこまで行った後、男は間を置いて再び口を開いた。
『フロニャルドを滅ぼす』
「はっ!?」
ある日の朝、風月庵の一室。ビスコッティ隠密隊頭領ブリオッシュ・ダルキアンは目を覚ますと同時に勢いよく起き上った。
「まさか、あのころの夢を見るとは、何かの前兆でござろうか?」
冷や汗を書きながら神妙な表情を浮かべる彼女には、いつもの余裕が見当たらない。本人も言ったように、あの過去の夢に何かあるようだ。
「今日は勇者殿が再びこちらに来る日。何も起こらなければよいでござるが……」
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ある日のこと。ライはいきなりテイラーに呼び出され、ブロンクス邸を訪れていた。
「さて、今回お前さんを呼び出した理由だが、当然今回の売り上げについてだ」
そう言って、テイラーは帳簿を開いてライに見せてくる。
「ミュランスの星で頂点に輝いたお前のことだから、不在だったあの16日の穴埋めは確実に出来るとは思っていた。だが、結果は想像以上だった」
フロニャルドで不在だった16日分の遅れを取り戻すべく仕事に勤しんで、店の新メニューにビスコッティで覚えた料理をいくつか出してもみた(材料などは似たような味のもので代用)。その結果、過去最高の売り上げに達したのだ。
「お前さんが向こうで覚えた料理が、まさかあそこまで好評だったとはな」
「ええ。オレも、まさかここまで人気が出るとは思ってませんでした」
「そこで私は、このリィンバウムにおいての未知なる美味、言い換えれば金のなる樹がフロニャルドにはまだ眠っていると見た。そこで、お前にある仕事を申し付ける」
そして、テイラーからある仕事の内容を突き付けられ、それを宿屋に戻って一同に話してみることにした。
~忘れじの面影停~
「フロニャルド美食調査?」
「なんというか、シェアナイトの突撃並みに直球な名前ですわね」
真っ先に反応したのは、エニシアとリビエルだった。リビエルに至っては、最近ご無沙汰していた例え話も飛び出している。
「しかし、パパもとんでもないこと思いついたものね。異世界に直接乗り込んで売れそうなもの見つけて来いって」
「その商魂の逞しさがあるから、オレもこうやって仕事に専念できたんだろうな」
リシェルの身も蓋もない物言いに飽きれつつも、テイラーのフォローをするライ。やはり、実父の代わり育ててくれた恩は大きかったようだ。
「しかし、妙なタイミングで向こうから手紙がきたよな」
ライの手には、一通の手紙があった。その手紙はフロニャルドの文字(通称フロニャ文字)で書かれており、差出人はリコッタだった。
実はライたちがリィンバウムに帰る前に、リコッタからある物を持たされていた。それは紋章術を応用した発信機のような物で、これを基にタツマキをはじめとした隠密用の犬達を送り込めるようになったのだとか。
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それから数日、ついに目的の日が訪れた。見送りにはグラッドやテイラーが来ている。
ちなみに、今回フロニャルド行きが決まったのは、以下のメンバーだ。
・ミルリーフ(ライが行くなら彼女も当然)
・リシェル(マシンの操縦が彼女しかできない)
・ルシアン(前回は留守番だったため)
・ポムニット(リシェル達の世話役として)
・ミント(フロニャルドの珍しい植物が研究できると思った)
・シンゲン(ライがいないと白いご飯が食えないとか言い出す)
・クラウレを含めた御使い全員(ミルリーフが行くから当然)
・エニシア(向こうのメンバーと改めて親交を深めたい)
・ギアン(エニシアの保護者)
ちなみに、クラウレの翼は以前に敵として戦った傷が原因で飛べなくなってしまったが、エニシアを妖精郷(古き妖精の住む異空間の集落)に連れて行った際に、彼女の母が高度な奇跡の行使で治療、また飛べるようになったという。ただし、まだ感覚などが戻っていないため現在はリハビリ中だとか。
向こうの戦興行で、実戦の勘を取り戻すというのがクラウレの目標に組み込まれてもいるという。
「ライ、すまんな。俺も休みが取れれば付いて行ってやれたんだが」
「気にすんなって。兄貴はリシェルのいない平和な日常でも送って…」
「人を危険物扱いするな!!」
「いて!?」
つい出てしまった失言で、リシェルに一発殴られるライ。平常運転でとりあえず安心だ。
「じゃあ、私やポムニットさんでみんなの引率をやっておくので、グラッドさんはお仕事がんばってください」
「ミントさん……」
ミントからのエールを受けて、思わず顔を赤らめるグラッド。
「はい! 精一杯、職務に
よっぽど嬉しかったのか、まだ顔が赤く、敬礼しながら大声で返事をするグラッド。
「みんな、移動の準備が終わったよ」
「おお、すぐ行く」
エニシアが呼ぶ声が聞こえたので、ライも返事を返す。彼女とギアンは先にマシンに乗り込み、フロニャルドへの転移の準備を行っていたようだ。
「じゃあ兄貴、そろそろ行ってくる」
「おお、行ってこい!」
ライ達はグラッドに挨拶をして、そのままマシンに乗り込む。リシェルが操縦席に座り、残りのメンバーが一般座席に座る。
「じゃあ、フロニャルドにレッツゴー!!」
リシェルが声高々に叫んでマシンの操縦桿を握る。そして、一気に上空に上がると同時に、空間の歪みが生じて、そこにマシンが飛び込んだ。
フロニャルドへと続く回廊に突入したら、以前帰ってくるときと同じように凄まじい衝撃が襲ってきた。しかし、前回はシートベルトをしなかったために痛い目を見たライとミルリーフだったが、今回はしっかりとシートベルトを締めているので特に問題無さそうだった。
そして、回廊を抜けたその瞬間
「うわぁ……」
「いやはや、これはまた……」
「すごい景色ですね……」
「これは、リィンバウムじゃたぶん見れない光景だね……」
「少なくとも、メイトルパでも見れないだろうな」
いくつもの島が空の上に浮いている、幻想的な光景だった。そう、これこそが異世界フロニャルドである。前回来れなかったルシアン、シンゲン、ポムニット、ミント、クラウレはその光景に見入っている。
「じゃあ、早速……」
ギアンがいきなり席を立ったかと思うと、マシンの出入り口を開けだした。そして、召喚術を発動させる。
「召喚、ワイヴァーン!!」
ギアンが召喚したのはワイヴァーンだった。呼び出されると同時に、猛々しく咆哮を上げるその姿は見る者を圧倒する。
そして、ギアンはエニシアを抱きかかえて、マシンからワイヴァーンに飛び移って、ライに呼びかける。そしてそこに、アロエリとクラウレ、そしてミントが続く。
「僕達はこのままガレットに直接行く! ライ達は向こうの彼らによろしく言っといてくれ!!」
「わかった!!」
そのまま、マシンとギアンたちを乗せたワイヴァーンは別々の方向へと飛んでいく。その進行先にはそれぞれピンクと青の光の柱が立っている。ライ達にはこの光の柱の正体に見当がついていた。
「シンクもちょうど来たみたいだな。ナイスタイミングだぜ」
あの光は勇者召喚によるものらしく、同じタイミングでシンク達も呼ばれたようだ。青い光の柱はガレットによるモノで、手紙にはガレットも勇者召喚を行うと書かれていたのだが、その通りになっていた。ギアン達も勇者召喚の光を頼りに、ガレットの方角へワイヴァーンを飛ばす。
しばらく飛んでいると、見覚えのある台座とそこを降りた先に複数の人影を見る。人影はビスコッティに勇者として呼ばれたシンク、そのそばにビスコッティ共和国現当主ミルヒ、そしてその友人のリコッタ、エクレール、ユキカゼといったといった面々だったが、一人だけ見覚えのないツインテールの少女がいた。
「シンク達と一緒にいるのは………たぶん、話に聞いてた幼馴染だな」
「レベッカ、あだ名はベッキーだっけ?」
シンクからは話だけを聞いていた、幼馴染だろうと推測するが、会ってみないことには何とも言えなかった。
「よっし。とりあえず、着陸させるわよ!」
「ああ、頼む」
リシェルはそのままマシンをシンク達のいる傍まで着陸させる。その際、窓の外を除くとレベッカ(仮)がポカンと口を開けたまま固まっていた。
「オッス、シンク」
「ライさん、お久しぶりです!!」
「姫様、やっほー!」
「わぁ、ミルリーフ! お久しぶりです!」
真っ先に下りたライとミルリーフは、シンクたちに挨拶をする。久しぶりの再会に、シンク達も嬉しそうだった。
「ライ殿~! 久しぶりでござるー!!」
「って、おわ!?」
すると、ユキカゼがライに向かって飛び掛かり、そのままハグを始めた。
「ああ!? ユッキー、ズルいであります!!」
「さっきリコはシンクに真っ先に抱き付いたでござるから、これでおあいこでござるよ~」
「ちょ、ユキ! やめっ……」
抱きしめられているライはユキカゼの豊満なバストを顔に押し付けられ、凄まじくドギマギしている。
一方、その様子が面白くない人物が一人いた。
「姉さん、お願いだから落ち着いて」
「わ、わかってるわよ。あの子はライに対してその気はないんだから……」
リシェルは顔を赤くしながら、どうにか怒りを抑えようとしていた。頭では分かっていても、恋する乙女としては意中の相手がこんなことになっているのは面白くないだろう。
ユキカゼがようやく落ち着いたところで、ライはレベッカに向き合う。
「間違ってたら悪いけど、お前がシンクの幼馴染のレベッカか?」
「は、はい。ところで、あなたは?」
ライの推測は当たっており、やはり彼女がレベッカだった。一方、当のレベッカ本人はいきなり現れたライ達に対して困惑していたので、自己紹介に入ることにした。」
「オレはライ。前にこっちでシンクと親しくさせてもらったんだ、よろしくな」
「その娘のミルリーフです。よろしく、ベッキー」
そして、今度はミルリーフがレベッカに挨拶をする。その時、レベッカの耳に娘という単語が引っ掛かった。
「えっと、私と同年代で、その年の子供が?」
「あ、血は繋がってないからな。この年で産ませてねえから、安心しろ」
「あ、そうなんだ。ビックリしたぁ……」
困惑するレベッカを見て、ライは誤解を生まぬようにさっさと説明する。
「それにしても……」
そして、レベッカは再びミルリーフの方を見る。
「ねえ、シンク。あのミルリーフって子、可愛すぎない?」
「ベッキーもそう思う? 実は、僕や姫様もすっかり骨抜きに……」
以前フロニャルドに来た際、ミルリーフはその愛らしさからビスコッティ各地で絶大な人気を博し、勝手にミルヒと人気を二分するアイドルとして扱われていた。レベッカはその愛らしさに魅了された、新たな犠牲者と化していたのだった。
「ねぇシンク、今度はSFチックな乗り物からいろんな人が出て来たんだけど……ていうか、人?」
降りて来た面子を見て、レベッカは反応に困った。まあ、いきなりハイテクマシンからメイドやら天使やらが下りてきたのだ。地球出身の彼女からしたらありえない存在が目の前に何人もいて、しかもその面々に統一性が全くないのだ。当然の反応だろう。
「あんたがレベッカね? あたしはリシェル・ブロンクス、ライの幼馴染よ」
「弟のルシアン・ブロンクスです。よろしくね、レベッカちゃん」
「お二人の世話係をさせてもらっている、メイドのポムニットと申します」
「自分はシンゲン。旅の三味線弾き件、用心棒でござんす」
「御子様、先程自己紹介を成されたミルリーフ様の教育係、リビエルと申します」
「我は龍人族のセイロンだ。よろしくな、娘よ」
「は、はあ……」
挨拶をされる中、どう反応していいかわからないでいるレベッカだった。
そんな中、今度はミルヒが一同の前に出てきた。
「お久しぶりのライさんやリシェルさん達、そして初めましての方々……
ようこそフロニャルドへ。私達は、あなた方を歓迎いたします」
「ああ、これはどうも」
「いやはや。歓迎、感謝いたします」
ミルヒの歓迎の挨拶に、年長者であるポムニットとシンゲンが対応する。すると、その直後に食う方が上がる音が聞こえた。
「お。早速やってるみたいだな」
「はい。みなさん、私達に付いて来てください」
そのままミルヒ達が近くに留めていたセルクルの方に駆けていく。流石に人数分は用意できていなかったようで、ライ達は乗って来たマシンで後を追いかけることにする。
「ねえシンク、聞きたいことが山ほどあるんだけど……」
「大丈夫。全部説明するから」
一刻も早く事情の説明を求めるレベッカだったが、シンクはかまわずに彼女の手を引きながら走る。そして、そのままセルクルに跨った。
「では、目的地は本日の戦場”ファルネット”!」
「出発!!」
ユキカゼが目的地を宣言すると、シンクは元気よく声を出す。
そして、走り出したセルクルを追いかけてハイテクなマシンが空を行くのだった。