サモンナイト 勇者と姫と越響者   作:玄武Σ

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英雄王伝説に突入。長くなったので分けさせていただきました。


第40話 パスティヤージュ英雄王伝説 Rebirth the archenemy

ビスコッティ、ガレット、パスティヤージュの三国共同興行開催が決定。ビスコッティとガレットから勇者と領主たちが、パスティヤージュ公国にて集結することとなった。また、その際にライ達リィンバウムからのゲスト一行も付き添いでパスティヤージュへと向かうこととなった。同時にドラジェ領国との貿易関連の会議のため、レザン王子とマグナ一行もパスティヤージュへと向かう。

ドラジェは立地上の関係から遠征費の問題があり、残念ながら今回の共同興行には参加できない。しかし、特別ゲストとして解説などのため、マグナ達と共に参加するということが決定するのだった。

 

パスティヤージュのエスナート宮にて。

 

「では、最後の議題に入ろうかの」

「はい。保留になっていた件ですね」

 

宮殿に集まった各国の領主たちが会議を行っていた。そんな中で、クーベルがミルヒとレオに話しかける。

 

「しかし、今日のお姉たちは随分と……つやっつやじゃのう!」

 

そう言ってクーベルはレオとミルヒを見てみると、肌の張りや髪の艶がいつもより良くなっているようだった。

ミルヒも普段とは違う髪のまとめ方をしており、印象がかなり変わっていた。

 

「クー様こそ、尻尾のしっとり感が……」

「いつにも増してよくなっておるではないか」

 

ミルヒ達に指摘されたとおり、クーベルも尻尾の毛並が普段以上によくなっていた。そのことについて、クーベルが嬉しそうに話し出す。

 

「実は、レベッカが優しくブラッシングしてくれてな。加えてポムニットが髪もすいてくれて、全身の毛並がスンバらしいことになったんじゃ」

 

そう嬉しそうに話すクーベルの様子から、勇者及びリィンバウム組との関係が良好であることは見て取れた。

 

「そうであったか。実は儂もなぁ……」

 

話を聞いたレオも、今度は自分と勇者たちとの間にあったことを話し出す。

 

「七海が地球式のオイルマッサージをしてくれて、加えてミントが肌にいいリィンバウムの果実を食事用に提供してくれてのぉ……おかげで肌もすべすべなんじゃ。おまけにギアンが公務を手伝ってくれて、空いた時間でクラウレが手合わせをしてくれて、おかげで体調もすこぶるいいんじゃよ」

「私も今朝はシンクと湖でいっぱい遊んで、その後で髪も結ってくれたんです。ちなみに、リボンもお気に入りのにしちゃいました。あとセイロンさんがストラって技で書類仕事の肩こりも治療してくれたから、同じく体調もいいんです」

 

レオに続いてミルヒまで何があったか語り出す。こちらも勇者とリィンバウム組との関係は良好なようだ。

 

「結論は、三国いずれも勇者は世話好きの良い者達ということじゃな。そしてリィンバウム一行も、同じくらい良き者達じゃな」

「ですね」

「……みなさん、勇者様達が世話好きでいいですね」

 

三国の勇者たちの話を終えた直後、聞き役に回っていたレザンが口を開く。その様子は、何故か少し疲れているようにも見えた。

その様子が気になり、レオたちはつい話しかける。

 

「えっと……レザン王子、どうしたんじゃ?」

「何やら、お疲れみたいですけど……」

「ちょっと、マグナさん達に問題がありまして。この間の聖ハルヴァ―との戦で召喚した時は、みなさんとても強くて頼りになる勇者様達だと思ったんですが……」

 

一度間を置いてから、レザンは再度語り始める。

 

「マグナさんは誰かが起こしに行かないと昼まで寝るし、それを普段起こしてくれるバルレルさんが昼間から酒盛りするし、アメルさんは厨房でのお手伝いでどの料理にも必ず芋を入れるし……」

「い、芋ですか?」

 

アメルの話で芋という単語が出てきて、ついミルヒは聞き返してしまう。

 

「はい。本人曰く、『お芋さんはやせた土地でも育って栄養満点なんですから』って嬉しそうに言いながら、どの料理にも分量の差こそあれど芋を必ず入れるんです。おかげで城内の大半の者が食事に飽きが生じてしまって……」

「えっと、それは……」

「相当好きみたいじゃな。やはり解決するには、よく話し合うしかなさそうじゃのう」

「ですよね……けど、悪いことばかりじゃないですよ」

 

しかし、表情を切り替えてレザンは再び語り始める。その表情は安心した様子だった。

 

「戦意外でも時折マグナさんがすごく頼もしかったり、ネスティさんもギアンさんみたく公務を手伝ってくれたり、ハサハちゃんも幼く見えて実はしっかりしてたり……まあつまり、みなさんのところの勇者様みたいにとても頼りになるいい方達ではあるんですよ」

「そうじゃな。アヤセの追い剥ぎウサギたちもかなりの数を退治していたようじゃし、実力や度胸はかなりのものじゃろうな」

「結局、みなさんすごくいい勇者様に恵まれたってことですね」

 

最後にミルヒのその一言で、この話題は締めくくられたのだった。

 

 

 

その頃、勇者達とリィンバウム組はテラスに集まって談笑していた。ちなみに、ドラジェからマグナ達やレザン王子を送るために、ライとミルリーフも同行していたため、久しぶりの顔合わせとなっていた。

 

「で、レオ様がとってもかわいくてねぇ!」

「クー様も超かわいいの! 元気で明るくて、甘えん坊でね」

 

こちらも勇者達で領主の魅力について話していた。どちらかと言えばカッコいい、凛々しいという評価が出そうなレオにまで可愛いという評価がなされているあたり、かなり親密なようだった。

 

「はっはっは。領主様達を可愛がるのは勇者の基本だよ、君達」

 

そんな中で、シンクが妙に上から目線で語りながらアイスティーを口に運ぶ。

 

「シンク、何で上から目線なの?」

「その喋り方、正直気持ち悪いからやめなさい」

「ソレにシンクだって、姫様のこと可愛がっているじゃない」

「そりゃ、勇者だからね。当然だよ」

「……シンク、流石にオレも腹立ってきた。ぶん殴っていいか?」

「ライ、落ち着けって。七海たちも抑えて抑えて」

「シンク君も、あんまりみんなを煽ったらダメですよ」

 

七海達幼馴染組だけでなく、ライ達もシンクの様子に苛立ちを覚える。そしてそれをマグナが宥め、アメルが諌めていた。

どうにか落ち着いたところで、七海はあることが気になってシンクに再び話しかける。

 

「そういえば、イスカさんやエアさんはどうなったの?」

「みなさん元気だよ。イスカさんは風月庵の近くに工房を作るらしくて、そのままダルキアン卿達としばらく一緒に住むんだって。で、エアさんも同じ鍛冶師として、勉強させてもらうために向こうに泊まるってさ」

 

つまりはエアもビスコッティに滞在するということだ。その言葉を聞いた七海は、彼らに助けられたということだけあって安心した様子である。

 

「あれ? そういえば、僕らって今日は仕事ないのかな?」

「そういえば、そうだね。じゃあ、みんなでどこか行ってみる?」

 

ふとシンクが気づいた時、エニシアが提案をする。しかし、レベッカはそれを聞いて思い出すようにシンク達に告げた。

 

「それなんだけど、シンクとライさんは後でクー様が合いに来てほしいって。あと、出来ればエニシアとマグナさんもだって」

「俺達もか。ハサハ、行くか」

「うん、お兄ちゃん」

「じゃあ、私はみんなとお風呂行ってますね」

 

そのまま、アメルやリシェルと別れてライ達はテラスを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、ハサハちゃんの尻尾も触り心地よさそうだね」

「ユキちゃんとおんなじで狐だし、きっとフワフワだよ」

 

去っていくハサハの後ろ姿を見て、七海とレベッカがそんな話をしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「どうぞ~」

 

ノックをするとクーベルの声が聞こえたので、そのまま中に入る。

 

「おお、よく来てくれたのぉ」

「やあみんな、待ってたよ」

「まったく、待ちくたびれたぞ」

「まあいいじゃないですか、ネスティさん」

 

クーベルの傍には何故かギアンとレザン、そして黒髪とメガネの青年の姿があった。

この青年こそがマグナ一行の最後の一人、マグナの兄弟子であるネスティ・バスクだ。ちなみに、マグナからの愛称はネスである。

 

「あれ、ネス達もなんでいるんだ?」

「これから行く場所が、パスティヤージュの言い伝えに由来する遺跡らしくてね。それで、興味があって僕やギアンも同行することにしたんだ」

「僕は会議が予定より早く終わって、暇だったもので。レオ様やミルヒ姫も、記者会見にいってしまいましてね」

「なるほどね。で、クー様は何をするつもりで?」

「それは行ってからのお楽しみじゃよ」

 

 

その後、人数が思ったより多かったため、至竜形態のミルリーフに乗って移動となった。

 

「おお、流石は竜じゃな! ミルリーフ、すごいのぉ!!」

「クー様、ありがとう。けど、やろうと思えばもっと早く飛べるよ!」

「ミルリーフ、それ以上早く飛んだらオレらが振り落されるから」

 

 

そしてやって来たのは、巨大な石柱が立った不思議な丘だった。

 

「な、なんだここ?」

「ここは英雄王の丘といってな」

「英雄王? なんかすごい仰々しい名前だな」

 

クーベルから聞いたこの場所の名前を聞いて、マグナは正直な感想を述べる。

すると、クーベルがこの場所のいわれを説明し始める。

 

「英雄王とは、パスティヤージュ公国建国の祖で、ウチのご先祖様に当たるお方じゃ。かつてこの地に魔物が現れ、人々が危機に陥った時に当時の領主様は勇者召喚を行った。召喚に応え現われた勇者様は魔物を打ち倒し、ついには魔物たちの王をも撃破して世界に平和をもたらしたのじゃ」

「あ、その話なら聞いたことがあります。結構有名な伝説ですよね」

 

パスティヤージュ異国にも伝わっているあたり、どうやら結構有名な伝説らしい。そして、それを聞いてギアンやネスティは、リィンバウムにも伝わるある伝説を思い出した。

 

「なるほど。エルゴの王みたいな伝説の英雄ってわけだね」

「エルゴの王? 何じゃそれ??」

「大昔にリィンバウムと四世界の戦争を止めた伝説の英雄ですよ。詳しく話すと長くなるから、また今度ということで」

「わかった。すごく気になるが、今はこっちの話じゃな。で、召喚を行った領主様は戦いの中で亡くなってしまったのじゃが、遺言で勇者が新たな王となり、白き英雄王として人々の希望を担ったそうなんじゃよ」

「え? つまりそれって……」

 

今の話を要約すると、クーベルはフロニャルドの住人と地球人がつがいになって生まれた子、その子孫ということになる。ライやエニシアが該当するある存在が思い当った。

 

「クー様は響界種の末裔なんだね」

「あろ、ざいど? また聞いたことのない言葉じゃのう」

「またリィンバウム特有の単語ですか?」

 

クーベルもレザンも首を傾げる。それもそうかと思いつつ、ギアンが自ら説明を始めた。

 

「響界種は平たく言えば、異なる世界の種族同士のハーフという意味なんだよ。悪魔とのハーフであるポムニットや、妖精とのハーフであるライとエニシア、僕も幽角獣という幻獣を父に持った響界種なんだよ」

「異世界同士のハーフ、ですか。なんというか、ワールドワイドですね」

「世界の垣根を越えて生まれたせいか、響界種は種族単体よりも魔力等の力が強大なんだ。けど、人間ベースの響界種が多いためか、成長し切る前に力に耐えきれないで死んでしまうケースもあるんだよ」

「うむ、それはとんでもない……けど、ウチは早逝したご先祖様達の話は一切聞いたことが無いのじゃが……」

 

再び首を傾げるクーベルだったが、すぐにギアンがある仮説を述べた。

 

「たぶん、フロニャルドの住民は魔力や特異な力を持たない場合が多いのが要因だと僕は思うね。ユキカゼのような土地神ならともかく、普通の住民たちはメイトルパの亜人のような突出した身体能力も、不可思議な力も無いしね」

「なるほどのぅ……戦自慢のガレットならともかく、運動が苦手でそう言った特異な力ともパスティヤージュ国民ならそう言うこともなさそうじゃの」

 

そしてクーベルは納得したところで、先程の話の続きを始めた。

 

「そして、ここは英雄王が眠る土地であると同時に魔王が封印された場所でもある。英雄王様は、眠りの中で今も魔王の封印を守り続けておられるそうじゃ」

「え……それって、結界か何かで封鎖したほうがいいんじゃ?」

 

クーベルの口から聞き捨てならない言葉が出てきたため、マグナが咄嗟に反応する。かつてマグナ達が倒した、虚言と奸計を司る悪魔王メルギトス。彼も大昔に、マグナの先祖たちによってアルミネスの森という場所に封印されていたため、邪悪な存在は出てこれないようにするのは当然の措置の筈だ。

 

「ええ。珍しくマグナが正論を吐いたんですから、今からでも誰も立ち入れないようにした方がいいのでは……」

「まあ待て。ここにはそれとは別に、英雄王の継承者が石碑に触れると素敵な奇跡が起きる、という言い伝えもあるのじゃよ」

「えっと……それもあるから封鎖はあえてしていない、と?」

「まあ、そうじゃな」

 

ネスティはつい頭を抱える。その封印された魔王というのがどれほど危険な存在かはわからないが、封印されているからにはフロニャルドに害意を持っている可能性は大きい。その封印を「素敵な奇跡」などという、眉唾物のような伝承の為に人が立ち入れる可能性のある状況で放置するのは、何時封印が説かれるかという危険が高かった。

そんな中、クーベルが石碑に近づいて行く。

 

「で、それでウチも石碑に何度か触れてみたんじゃが……」

 

そう言ってクーベルは、早速石碑を触ってみる。すると、クーベルが振れた個所を中心に不思議な光を発する、幾何学的な線状の模様が浮かび上がってきた。ライ達もつい見とれてしまうが、すぐにその模様は消えてしまう。

 

「こんな反応をして、それ以降何も起きん。レベッカや七海にも触らせたんじゃが、無反応でのぉ」

「なるほど。それで俺らを呼んだわけですか」

「今のところ触ったのが女の子だけだから、男の勇者であるシンクか、オレらリィンバウムの住人なら違う反応も考えられるってわけか」

「あ、じゃあ僕が先に触らせてもらいますね」

「あ、コラ!」

 

ネスティが静止をかけるも、シンクはそのまま石碑に近づいて触ってしまう。しかし、無反応であった。

 

「そうじゃ。一緒にはまだ触っておらんかったな」

 

するとクーベルが何かに気づいたように、シンクの手の上に自身の手を重ねてみる。すると、先程よりも強い光を発し始めたのだ。しかも、例の幾何学的な模様が石碑全体に浮かび上がるという、大きな変化まで起こった。

 

「な、なんか共鳴してる!?」

「本当に、奇跡が起きるのか!?」

『継承者承認。封印を解除します』

「え? 今、聞き捨てならない言葉が……」

 

石碑から電子音声のような物で「封印を解除」という言葉が確かに発せられた。ライ達は嫌な予感を感じ、警戒して石碑の方を凝視する。すると、石碑を中心に巨大な光の柱が出現したため、ライはミルリーフを、マグナはハサハを、シンクはクーベルをそれぞれ守ろうと、咄嗟に覆いかぶさる。

 

 

 

「……何も起こらねえな。ミルリーフ、無事か?」

「だいじょうぶだよ、パパ」

「……お兄ちゃん、ハサハも大丈夫」

「そっか、よかった。でも一体、何が」

「気を付けてください、何かがいます!」

 

お子様たちの無事を確認して、安心するライとマグナであった。しかし直後に、レザンが石碑の傍に人影が出現したことに気づいて警戒を呼び掛ける。

 

 

「なんだよ……人がせっかくいい気分で寝てたのに」

 

忌々しそうに呟いていた人影は、声音からして男のようだ。そして先程の余波で舞い上がった土煙が晴れると、その容貌が明らかになった。

 

「……え?」

「「ミルリーフ(ハサハ)、見るな!!」

「クー様も見ないで!」

「何じゃ!? 何も見えん!!」

 

現れたのは銀髪で体に不気味な文様を刻み込んだ、”全裸”の男であった。子供の教育上悪い要素しかなかったので、クーベルを含めたお子様たちは咄嗟に目隠しをされる。お子様を除いて唯一の女子だったエニシアも、顔を赤くしながら自身の眼を隠す。

 

「アデルは?」

 

男は周りを見ながら、人の名前のような物を呟く。そんな中、ギアンはナイフを抜いて構えながら男に問いかける。

 

「君は何者だ? 何が目的で、全裸でエニシアたちの前に出てきたんだい?」

「アデル抜きで俺だけ目覚めたってことは……こいつは繊細一隅の好機!!」

「貴様、僕の話を……」

「ギアン、落ち着いて。貴方、よければ話を聞かせても……」

 

エニシアがどうにか指の隙間からわずかに覗き、男の下半身を見ないようにして問いかける。

しかし男はエニシアの言葉も無視して右手を天へと掲げたかと思うと、そこから黒いエネルギーが発せられた。そしてそれが男の体に纏わりついたかと思うと、そのまま衣服へと変化する。黒を基調とした、マント付の悪者臭いデザインの服だった。

 

「そこのガキども、ちょっとこい」

「話無視して命令って、何様のつもりだてめぇ」

「ライさん、落ち着いて。で、あなたは一体?」

 

男の傍若無人っぷりに苛立っていたライをシンクが宥め、再度男に問いかける。すると、男はマントを翻しながら名乗りを上げた。

 

 

 

「俺の名は、ヴァレリア・カルバドス。人は俺を、魔王と呼ぶがな!!」

「ま、魔王……だと!?」

「やっぱりここは封鎖しとくべきだったじゃないか!!」

 

まさかとは思っていたが、魔王が復活してしまい、ネスティも憤慨する。あまりの事態に、ライ達は武器やサモナイト石を構えて臨戦態勢に入る。しかし、いきなり魔王が右手に黒い紋章を発現し始める。

 

「ガキども、この魔王の束の間の自由のために……」

 

直後、ライ達の足元に同様の紋章が発生した。

 

「な、速い!?」

「しまった!」

「貴様らの命、捧げてよこせええええええ!!」

 

そのまま魔方陣から強い光が発せられ、ライ達はそれに飲み込まれてしまった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うっぷ……近頃のガキは輝力のボリュームがあるな」

 

何やら満足そうな様子で、魔王は腹をさすっている。その後ろでは、シンクとクーベル、レザンとネスティ、そしてエニシアとハサハが目を回して倒れていた。

 

「さて、腹も膨れたことだし早速……」

「待ちたまえ、君」

「……え?」

 

魔王はどこかへ行こうとした時に背後から声が聞こえ、つい振り返ってしまう。そこには、ライとミルリーフ、ギアンとマグナが立っていた。特に、ギアンは禍々しいオーラをバックに怒りの形相で立っていた。

 

「オレらの仲間に手を出して、このままで済むと思うなよ」

「な!? お前ら、俺の魔王紋を喰らって何で……」

「人より頑丈な体質でね、呪いとかそう言うのが効きにくいんだよ。それより、さっき君は命をよこせって言ったよね」

「え? ああ、そう言ったが……」

「へぇ……遠慮はいらないな。ライ、マグナ、ここは僕に譲ってくれないかな?」

「ああ。エニシアたちの安否も確かめたいし、任せる」

「ありがとう。それじゃ、まずは君にならって自己紹介しようか……」

 

ライと話しを付けたギアンは、さらに禍々しいオーラを立ち昇らせ、そのままナイフから長剣に持ち替える。

 

「僕の名はギアン……

 

 

 

 

 

 

魔獣調教師ギアン・クラフトスだ!!」

 

直後、ギアンの眼が赤く染まり、額に歪んだ形状の角が生えてきた。この角こそが幽角獣との響界種である証で、ギアンに自己再生能力を与える力の源であった。

 

「な、なんだその姿……」

「貴様が知る必要などない!!」

 

直後にギアンの両目から不気味な光が発せられる。そして、それを浴びた魔王の体に異変が生じた。

 

「な!? 体が、動かない……」

「他者の動きを封じる邪眼だ。諸に喰らって動けなくなるのは当然だろ」

 

直後、ギアンは魔王の目前にまで迫っており、そのまま剣で斬りかかろうとしていた。

 

「ちっ、舐めるな貴様!!」

 

直後、魔王の体から輝力のような黒いエネルギーが生じて、ギアンを弾き飛ばす。やはり魔王を名乗るだけあってか、一筋縄ではいかないようだ。

 

「ふっ、ならばこれを喰らうがいい!!」

 

ギアンも今のは予想はしていたようで、吹き飛びながらコートの下から大量の暗器を出して投げつける。

しかし、直後に魔王は防御結界のような物を出してそれらを防ぎきってしまった。

 

「この程度の奇襲、口ほどにも……って、なぁああ!?」

 

直後、顔から左右に伸びた刃状の牙を持った猪だった。猪は牙で切り付けてきたが、魔王は咄嗟にそれを両手で押さえてしまう。

 

「奇襲に呼んだブレイドボアの攻撃も防ぐか。ならレミエスで一気に……」

 

今の猪もメイトルパの幻獣で、ギアンが召喚したようだ。そして、今度は切り札のレミエスを召喚しようと懐のサモナイト石を取り出す。しかし……

 

「せっかくの自由、こんなところで無駄にしてたまるか!!」

「あ、待て!」

 

魔王は戦闘を放棄してそのまま逃げ去ってしまう。

 

「逃がしたか…………まあいいか。ライ、エニシアたちの容態は?」

 

しかしギアンも気持ちを切り替えて、エニシアやシンクの安否を確かめに行く。

 

「ギアン、みんな無事みたいだ」

「はい……なんとか立てそうです」

 

シンクも疲労は見えているが、危篤状態には到底見えなかった。直後、同じく起きていたレザンが何故かという推測を告げた。

 

「たぶん、あの魔王は輝力を吸収したんだと思います。あれはフロニャ力と生命力を混ぜて作るエネルギーですから、盗られて疲労するのは当然かと」

「なるほど……で、あの魔王は何で逃げたんだ?」

「魔物の王なら、いくらギアンでも一人くらいなら余裕で倒せそうな気もするんだけどな……」

 

魔王の謎は深まるばかりだが、今はメンバーの回復を優先し、魔王を倒すために万全の状態にしておくことにした。

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