「行くぞ、バルレル!!」
「よっしゃ、暴れるぜ!!」
マグナは青年化したバルレルと共に、強大な魔力を纏いながら魔王へと突撃していく。そして手にした得物で斬りかかった。
「くそ、舐めるな!」
対する魔王も、黒い輝力を両腕に纏わせてマグナ達の攻撃を防ぐ。しかし、マグナは再度剣を振るい、バルレルは一歩引いて刺突を放ち、絶え間なく攻撃を加えていく。
「流石に二対一は攻撃が激しいな。だが、このままでは決定打に欠け……うぉお!?」
直後に魔王の頭上目掛けて雷が落ちてきたため、そのまま飛び退いてしまう。しかもその雷は、落ちた個所が
「お兄ちゃん達を、傷つけさせない!」
雷を落としたのは、どうやらハサハのようだ。ハサハは元々このような技に長けた妖怪なのだが、大人の姿になったことで威力が向上したという。
そしてハサハの追撃が終わったのを確認すると同時に、今度は魔王が攻撃に入った。
「なめんじゃねえ、ガキどもが!!」
魔王は近くにあった木を引っこ抜いてしまったのだ。素の身体能力も高いようで、まだまだそこが知れなかった。
魔王がその木を投げつけたと同時に、マグナは懐から二つのサモナイト石を取り出す。しかし驚くことに、そのサモナイト石は赤と紫の属性が異なる石だったのだ。
「来い! ブラックラック&金剛鬼!」
それによって召喚されたのは、黒い布の中に頭蓋骨のような頭がいくつも浮かんだ不気味な姿の悪魔と、巨大な金棒を携えた鬼だった。それぞれ沈黙と恐怖を司る中級悪魔の化身と、原初の鬼族に分類される、決して弱くない召喚獣だ。
そして、金剛鬼が飛んできた木を金棒で粉砕し、ブラックラックが魔王の懐に魔力の爆発を起こして攻撃していく。
「ぬぉおお!? 今のは召喚……けど勇者じゃない何かが…」
「よそ見してる場合か、おい!」
魔王が驚いている間に、バルレルは近づいて追撃をかけ、ハサハがそれに合わせて雷撃を叩き込んでいく。
「このまま追撃行くぞ。行け、テテ&ゴレム!」
更にマグナは黒と緑のサモナイト石を取り出し、それでも召喚術を行使した。これでマグナは、全ての属性の召喚術を使ったことになる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ま、マグナさん凄い……」
マグナの凄まじい力に、ライもシンクも驚愕する。そんな中、上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ライに御子様、大丈夫ですか!?」
「助太刀に来てやったが、何やらそれどころではなさそうだな」
駆けつけてきたのは、リビエルとクラウレだった。クラウレはリハビリのついでにレオ達と同行してきたのだが、その際にリビエルに国の案内を頼んでいたため合流が遅れたのであった。
「あの男は、たしかドラジェという国に勇者として呼ばれた召喚師の……」
「魔力も強大ですが、全ての属性の召喚術を使えるのが凄いですわ」
「本当だ。まるでライさんみたい」
「あれが
マグナの凄まじい力を目の当たりにして茫然とする一同に、先程から黙っていたネスティが声をかけてくる。
「調律者……マグナさんも言ってたけど、なんなんですか?」
「かつて、リィンバウムに侵略行為を行った一体の悪魔がいた。クレスメントはその悪魔をリィンバウムに招き入れる代りに、強大な魔力を与えられた一族の名なんだ」
シンクがふと、先程から何度も耳にしたその言葉についてネスティに尋ねる。するとネスティはいきなり語り始めた。
「しかしその悪魔、”虚言と奸計の悪魔王メルギトス”の侵略を知った当時のクレスメント家の召喚師たちは、その助力をしたことへの罪の意識と恐怖から門を閉鎖した。けど魔力はその後も残って、あまりにも強大だったために周囲はそんな尊称を付けた。”運命を律する者”という、尊大すぎる異名をね」
「メルギトス……本人も強大な魔力を秘めていますが、それ以上に狡猾さで恐れられる上級魔王ですね」
リビエルの言葉に「ああ」と短く返事を返すネスティ。流石にサプレス出身であるリビエルは、メルギトスがいかに恐ろしい悪魔かを知っているようだ。
「その後も色々とあって、クレスメントと僕の一族は共にある罪を犯してしまった」
「罪? それに一族って……」
首を傾げるシンクを見て、ネスティはいきなり服を、ハイネックの襟のような部分をめくり出す。
「え!?」
「ネ、ネスティさん……」
「その体……何なんですか?」
「その魂の輝き方……あなた、人間ではありませんね」
シンク達は思わずギョッとした。ネスティの肌には、なんと金属光沢を放つ幾何学的な模様が浮かんでいたのだ。しかもあとから植えつけたものではなく、完全に肌と一体化しており、ライ達ですら驚愕してしまう。リビエルも魂を見れる天使の特性から、彼の正体にいくらかの察しがついたようだ。
「僕は元々
少し間を置いて言い放った言葉は、更に衝撃的なモノであったのだ。
「召喚獣を機械改造したゲイル、誓約とプログラムの二重拘束で自我を完全に抹消した兵器にしてしまったんだ」
「兵器……まさか傀儡戦争で悪魔が狙ってたっていう、改造召喚獣の兵器」
「ああ。自我の末梢により体が完全に壊れるまで戦いをやめない、まさに生命を冒涜した兵器さ。これじゃあ、どっちが悪魔かわかんない物だな」
そのゲイルが数年前の戦争の原因の一つであるとリシェルが気づき、ネスティも自嘲気味に肯定する。
そしてそのまま話の続きを始めた。
「その所為でリィンバウムの人間全てに、それまで協力していた天使や龍神といった異界の友たちは信頼を捨てて去ってしまい、あるゲイルの暴走した力でメルギトスを封印することに成功した」
「そしてそのゲイル、豊穣の天使アルミネ……私の前世で当時の調律者アルスの恋人でもありました」
「あ、貴女が伝説に聞いたアルミネの……普通の人間じゃないとは思っていましたが、まさか」
アメルの正体を知り、リビエルも驚く。天使はエルゴの意志に背くとサプレスを追われ堕天使の烙印を押されてしまう。しかしアルミネは、当代の調律者アルス・クレスメントへの愛を貫くためにエルゴの意思に背いてしまった。その上、アルミネに親友であるアルスを取られると思った、ネスティの祖先イクシアに唆されてゲイルに改造されてしまう。
しかし、アルミネは読心の奇跡-文字通り人の心を読む力でイクシアの真意を知り、自身が拒めばイクシアはアルスを守るため自らをゲイル化してしまうともわかったため、自ら進んでゲイル化したのであった。
「しかしその後、クレスメント家はメルギトスの策謀で魔力を失ったが、何の因果かマグナがその魔力に目覚めた上に先祖たちの罪を知ってしまった。けど、それを受け入れて立ち直ったマグナと僕を始めとした仲間と共に復活したメルギトスに挑み、ようやく完全に奴を葬り去ったんだ」
「それが、傀儡戦争の裏で起こった事件、なのね」
ライ達は傀儡戦争の裏側と、そこにまつわる事実を知り、ただひたすら驚愕する。当事者でないシンク達も、あまりにも業の深い過去に、ただ驚きを隠せずにいた。
「マグナはその決戦時に、”運命を律する”のでなく”運命を超える”と宣言し、改めて”超律者”と名乗った。ドラジェに勇者として呼ばれたのは、そんな強い精神を持った、僕の自慢の弟弟子ってわけだよ」
「運命を律するんじゃなく超える、か……」
マグナが新たに名乗ったそれは、前に進む覚悟と希望に満ち溢れた物だと、ライは察知する。
そんな中、アメルが話題を切り替えるのだが、そこでも驚愕の事実が判明した。
「それとバルレル君もハサハちゃんも、とっても強いんですよ。特にバルレル君は狂嵐の魔公子、メルギトスに匹敵する悪魔王なんです」
「「「「「ええええええええええ!?」」」」」
「あ、あの木端悪魔が、狂嵐の魔公子、でしたの?」
「しかも例の悪魔と同格……」
アメルの口から語られたバルレルの正体に何人かが絶叫し、他は開いた口が塞がらない状態になっている。リビエルに至っては腰を抜かして情けない姿を見せていた。
「じゃあ、ハサハちゃんも高位の土地神か何かなんですか?」
「いや、彼女は手に持ってる宝珠の魔力で人に変化しただけの、ありふれた妖怪だ。ただ、無理に力を引き出すと宝珠の魔力が尽きて人への変化が出来ないから、マグナが輝力をその代用にしてあの姿になっているだけだよ」
「……それ、紋章術を相当使いこなせんと出来ないはずなんじゃが、マグナは規格外すぎじゃないかのう?」
ハサハの人化&大人化の詳細を聞いたレベッカとクーベルも、驚きを隠せないでいる。そんな中、レオが彼らを召喚したレザンにあることを聞いていた。
「レザン王子……お主、とんでもない当たりくじを引いたのではないか?」
「みたいですね。僕も以前に話を聞いて、同じリアクションを取ってしまいましたよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「つ、強い……」
「もうあんたは終わりだ。許しを請いてもう悪事を働かないと約束するなら、見逃してやってもいいぜ」
マグナはエルシードの切っ先を魔王に向けながら告げる。前回の追い剥ぎウサギの一件から、マグナは魔物は悪魔と違い更生の余地があると考え、せめてもの慈悲の言葉を投げかけたのだ。
しかし、魔王の口から返ってきた答えは望んでいた物とは違った。
「ふざけんな……この魔王カルバドスがお前のようなガキに手も足も出ねぇなんて、プライドが許さねぇ!!」
「聞く耳なしか……バルレル、一気にとどめを刺すぞ。ハサハも援護を頼む」
「おぅ、あれで行くか」
「わかった、お兄ちゃん」
そして、ハサハが宝珠に魔力を充填し、マグナとバルレルも紋章砲を撃つ準備に入り、揃って駆け出す。しかし魔王も同時に黒い紋章を背後に展開し、そこに黒い輝力を充填していく。しかもマグナ達よりも早く充填が完了してしまった。
「行くぜ……魔王紋・暗黒波動撃!!」
直後に魔王の背後の紋章から、無数の黒い光弾がマグナ達を目掛けて撃ちだされる。そして最後に、黒い光線が照射されて爆発を起こした。
「……流石にあれを喰らったら、ただじゃすまないだろうな」
「誰がただじゃすまないって?」
魔王が勝利を確証した直後、マグナの声が聞こえた。そして爆風が晴れると、ハサハが結界を張って攻撃を防ぎきっていたことが判明する。
「な!?」
「「喰らえ、紋章砲!」」
直後にマグナとバルレルが魔王の懐に潜り込み、紋章砲を放つ。そして紋章砲を喰らった魔王は、そのまま上空へと打ち上げられていく。
「とどめは、任せる。力を貸してくれ」
マグナは懐から新たなサモナイト石を取り出し、呟きながら召喚術を行使する。そしてその際のエネルギーは、今までの召喚術と比較にならないほどのエネルギーがほとばしっていた。
「来い、レヴァティーン!!」
「ギュワァアアアアアアアアアアアアアア!!」
マグナが召喚獣の名を叫ぶと、虚空からその召喚獣が姿を現したが、それは一体の竜だった。紫を基調とした体に頭部と胸部に金色の装甲を付け、天使のような翼と光の輪を備えていた。そのため、至竜形態のミルリーフに匹敵する威圧感と神秘的なオーラを兼ね備えている。
「まさか、あれは……」
「ギアン、知ってるの?」
「ああ。あれは至竜の一体だ」
サプレスのサモナイト石で竜が召喚されたため、ギアンが真っ先に反応し、その正体は驚くべきものだった。
「レヴァティーンは元はサプレスの天使だったんだが、怠惰の悪魔王という大悪魔を倒すために魂を昇華させて竜に至った存在なんだ。”戒の霊竜”の異名を持つ、サプレスの最強召喚獣の一角でもあるんだよ」
至竜とは魂の昇華で後天的に竜となった存在で、それ以外の幻獣の竜や、セイロンの種族である竜人は途中段階の亜竜と分類されている。メイトルパの召喚獣が専売特許のギアンだが、至竜について知識を集めていたこともあるためサプレスの召喚獣であるレヴァティーンについても詳しかったようだ。
「レヴァティーン、今俺達が空に撃ちあげたやつが敵だ。とどめを頼む」
「任された。超律者よ、邪悪の芽は我が滅して進ぜよう」
マグナとわずかな会話を終えたレヴァティーンは、そのまま高速で空に飛び上っていく。その際、口元に膨大な魔力を収束していた。
そして、上空に打ち上げられた魔王の付近までレヴァティーンが到達した。
「な!? これは神龍の類……」
「消し飛べ、ギルティブリッツ!!」
魔王がレヴァティーンの姿を見た直後に気になることを呟くが、レヴァティーンはそれが耳に入らずに必殺のブレスを放つ。そして、それによって巨大な爆発がエッシェンバッハ城の上空で起こった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「で、魔王は倒したけどこの後どうするんですか?」
「英雄王様は封印に成功したそうじゃが、どうすれば?」
「封印していたということは、滅する方法が無かったということですよね。だったら衛星兵器の攻撃も効くかどうか……」
いつの間にか空が晴れており、決着がついていたのは明白だった。しかし、マグナに倒された魔王は全身黒焦げで意識も失ってはいるがまだ死んでおらず、ネスティの考えた仮説もあり得なくはなかった。もしもに備え、レヴァティーンにも戻らずに待機してもらっている。
そんな中、英雄王の丘がある方角から光が立っているのが見えた。
『くじけない心、及び召喚の呼び声承認』
直後、魔王の封印が解除された時と同じ音声が何処からともなく聞こえてきたかと思うと、上空に巨大な魔方陣が出現した。
『召喚条件、オールクリア。英雄王アデライドを召喚します』
すると、魔方陣の中心から金髪の女性が出現した。
魔王と同じく”全裸”でだ。
「ライ、見ちゃダメ!!」
「おわ!? わかってるって!」
「え、なに、何も見えない!!」
咄嗟に男性陣は目隠しをされてしまうが、まあ当然だろう。
「勇気の心、フル充填!」
現れた女性が口上を述べると同時に、その体に衣装が纏わっていく。魔王と対をなすような、純白の衣装であった。
「みんなの想いが私の力、聖なる希望を呼ぶ声に、私はいつでも応えます!」
最後にティアラのような物が頭部にかぶさると、同時に女性が目を開ける。するとその瞳には、星のような文様が浮かんでいた。
そして銃を抜き、腰に剣を携え、ポーズを決めながら名乗りを上げる。
「英雄王アデライト・グランマニエ! ここに見参! ……なのです♪」
現れた女性は、確かに英雄王と名乗った。もし本当なら、彼女がクーベルの先祖ということになる。
「えっと、この人が英雄王?」
「ていうか、女の人だったのか」
女性な上に、すごく軽そうな性格に見えたため、ライ達はつい茫然としてしまう。
「あら? 特に危機という様子でもなさそうなのですが……」
目覚めた英雄王、彼女は辺りを見回した後で首を傾げる。そんな中で、ライとマグナが彼女に近づいて声をかける。
「あの、折角出てきてくれたところ、申し上げにくいんですが」
「……魔王はもう俺達の方で倒しちゃって」
ライとマグナの視線の先には、まだ黒焦げで気絶している魔王の姿があった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「この石碑は、英雄王様の召喚台だったんですね」
「はい。世界に危機が訪れて英雄王の力が必要になった時に備え、奇跡の力を蓄えていたのです」
その後、英雄王アデライド(通称アデル)から話を聞いたところ、この魔王(以下ヴァレリー)は魔物の王ではないということが判明した。というか、ヴァレリーはアデルにパスティヤージュの領主となる遺言を残した当時の領主の弟、つまりパスティヤージュの王族なのだという。
「えっと、その……知らないとはいえ叩きのめしてすみませんでした」
「我も迂闊であった。よくよく見れば邪悪な気配は微塵も感じられぬのに、言われるがまま全快の一撃を叩き込んですまなかった」
「けっ。わかりゃいいんだよ、わかりゃ」
直接手を下したマグナとレヴァティーンが、代表してヴァレリーに謝罪をする。その様子に、ヴァレリー本人は不機嫌そうな様子だった。
「で、世界を救った英雄の仲間にさっきみたいな仕打ちは、当然不敬なんだろうな」
「けど、アメル達にまたあんなことしたら、どうなるかわかってるんだろうな?」
「ま、マジですんません。許して下さい!」
直後にライとマグナは笑顔を浮かべてはいたものの、その凄みは心臓の弱い人間ならそれだけでショック死するのではないかというほど、凄まじい物だった。流石にヴァレリーも応えているようだ。
そんな中、アメルが近づいてヴァレリーの手を握る。
「へ?」
「ちょ、アメル?」
ヴァレリーも突然のことで驚く中、アメルが話し始める。
「マグナやお姫様達に酷いことしたみたいなのでつい言いそびれてしまいましたが、あなたが本心から邪悪な存在じゃないというのは、初めて見た時から気づいていました。それに、さっきあなたの傷を治した時に記憶も少し流れ込んできまして……」
天使の生まれ変わりであるアメルは、人の身でありながら治癒の奇跡を使える。そしてこの力は、相手の心に直接触れてその苦しみを和らげ、そのまま肉体ごと癒してしまうという物だった。そして、それによって相手の記憶や感情を読むこともでき、ヴァレリーの記憶や本心を知ったわけだ。
「あなたはアデルさんやお姉さんのこと、いつも気遣って行動していたみたいですし、魔王の名も人々のために必要悪になろうと名乗っていたところもあるみたいで……すごく優しい人だっていうのはわかりました」
そしてアメルは聖母のような慈悲深い笑顔を浮かべながら、告げる。
「だから、私はあなたを許します。マグナ達にも言って聞かせるので、安心してください」
アメルのその言葉を聞いた瞬間、ヴァレリーは滝のように涙を流しだす。
「あ、あなたは俺の女神です。ありがどお゛ござい゛ま゛ずぅううう!」
アメルのその言葉がよほど嬉しかったのか、ヴァレリーはダミ声になりながらもアメルに礼と称賛の言葉を送った。
「女神っていうのが何かは知りませんが、私は天使です。厳密に言えば、生まれ変わりですけど」
変わらず笑みを浮かべるアメルは、そんなことを言っている。事実だが、何かおかしく見えたが周りの大半が気づいていなかった。土地神という存在が身近だったり、神の概念がリィンバウムに存在しなかったり、というのが主な原因だろう。
「では、私たちは再び眠りにつかせていただきます」
「もうちょっと自由にしたかったが、仕方ねえか」
そう言ってアデルは石碑に近づき、そのまま眠りにつくための準備に入ってしまった。
「クーベル、英雄王様とあの魔王殿を引き留められるかの?」
「ウチも折角じゃし、英雄王様たちには今の時代を見て欲しいからの」
「魔王さんも悪い方ではないと確証も持てましたからね」
「それもそうだけど……」
「私達としては……」
「ですよね」
「え、姫様達も? みんな考えることは一緒ね」
「うんうん」
領主一同がアデル達の引き留めについて相談する中、ミルヒやリシェル達一部の女子はあることが気になっていた。
「まあ、なんだかんだ言ってお前が一番かわいいけどな」
「どの口が言うんですか、どの口が」
(((((あの二人の関係が、ものすごく知りたい~~!)))))
ヴァレリーがアデルに近づくなり、どこからどう見ても恋人同士にしか見えない雰囲気と会話になってしまう。始めたのはヴァレリーの方だが、アデルもまんざらではなさそうだ。
「あの、お二人ともそんなに急いで戻られなくても」
「そうだよ。フロニャルドと地球だけじゃなくって、リィンバウムのこともはなしたいのに」
アデル達を引き留めるため、クーベルとミルリーフは声をかけて食いつきそうな話題を上げる。
「若い人たちの世界に、年寄りが長居する者でもありませんよ」
「ジジイとババアはさっさと退散するわ」
「それにしても、一日くらいはいてもいいと思うぜ。今のフロニャルドの様子とか、故郷の地球とか、気にならないっていうはずもないだろ」
ライもアデルを止めようと声をかける。実際、自分が救った世界の顛末くらいは知っても罰は当たらないだろうし、アデルも人の子なので故郷もいくらかは恋しい筈だった。しかし、アデルは優しげな笑みを浮かべてライ達に語り掛けてくる。
「可愛い子孫や姫様達、彼らと交流するいろんな世界の勇者たちの姿が見れただけで満足です。きっと、あなた方ならフロニャルドをもっといい世界に出来ると、私は信じているので野暮という物なのですよ」
アデルが告げると同時に、石碑の光が強まった。封印の準備が完了したようだ。
「それでは、なのですー!」
最後にアデルが別れの挨拶を告げる。しかし……
「あら?」
いつまでたっても封印が行われず、それどころか段々と石碑の光がくすみ始めたのだ。
『英雄の眠り機構、術式回路に問題が発生。修復を、しゅうふく……しゅ、しゅうふ、く……』
段々と音声が乱れていき、最後にはそのまま機能を停止してしまった。
「ま、まさか壊れてしまったのか?」
「そ、そのようなのです」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日の夜
「やっぱり経年劣化、長い時間の所為で機能がいかれてしまったらしい」
「やっぱり、年月には勝てないか……」
七海とレオ、それからクラウレに付き添う形で、宮殿内を散策するネスティとレザンの姿があった。融機人であるネスティも修理に協力できないかと石碑を調べてみたが、パスティヤージュ独自の晶術技術は流石に解析できなかったらしい。そのため、復旧にはもうしばらくかかるようだ。
「しかし、タダの小娘にしか見えないようで、彼女も相当の修羅場をくぐってきたようだな」
「クラウレもそう思うか。流石に英雄王の名も伊達ではないか」
結局、「魔王=魔物の王」と勘違いしたままマグナがヴァレリーを倒してしまったために、アデルの勇志は見られずじまいだった。しかし、クラウレもレオも戦術眼は磨かれているので、その二人が評するアデルの実力が相当のものというのは確実であった。
「ところでレオ様、英雄王様たちはどうしてるんですか?」
「ああ。当面はパスティヤージュに滞在するそうじゃ」
「今は宛がわれたお部屋に、マグナさん達がお邪魔してるはずです」
一方その頃
「そんなわけで、お芋さんは甘くて栄養満点、しかもやせた土地でも育つ凄い食べ物なんですよ」
「そうなのですか! どうやら私は、芋を侮っていたようですね」
アメルはアデルにまで芋の素晴らしさを広めようとしており、アデルも興味津々になっている。しかし、アメルの知る芋は地球風で言うサツマイモなのに対し、アデルは地球のフランス出身なので知っている芋がジャガイモという擦れ違いがあったわけだが、今はまだ知る由もなかった。
「お前の恋人、いい子なんだが変なとこあるな」
「けど、そこも含めて俺はアメルが大好きなんだけどな」
一方でマグナは、ヴァレリーがまたセクハラをしないかと警戒して、気を引くために世間話に興じていた。その内にアメルとののろけ話に発展し、ヴァレリーも負けじと話を合わせてすっかり仲良くなってしまったようだ。
「で、あのバルレルとか言うガキが見当たらねえがどうしたんだ?」
「また酒盛りに行ってるよ。ガレット戦士団のみなさんとえらく仲良くなったみたいで……」
同時刻、パスティヤージュの上空で空中散歩を楽しむ一行の姿があった。レベッカにクーベル、リシェルとルシアン、そしてリビエルであった。リシェルは以前の戦で乗っていたグラビィティボードに乗っているが、ルシアンはクーベルのスカイヤーに乗せてもらっている。
「しかし、マグナがそんなとんでもない力の持ち主じゃったとはのぅ……」
「はい。私達もビックリですよ」
「あんなのほほんとした人が、まさか傀儡戦争終結の英雄なんてね」
「しかもメルギトスを倒して、魔公子を護衛獣にするなんてすごすぎますわね。しかも戒の霊竜様にまで信頼を置かれているとは……」
「そんな英雄の姿が見れた上に、ご先祖様達に会えた。今日は凄い一日じゃったな」
「はい。僕なんかほとんど何もしてないのに、すごく疲れましたよ」
同時刻、今度はシンクとライの寝室にて。
「ダルキアン卿の不穏な夢に、マグナみたいな規格外な召喚師が勇者として呼ばれた。加えて、英雄王なんて人まで封印から覚める。こりゃ、本気で何か起きそうだな」
「はい。けど、春先に起こったあの一件を考えれば、何とかなるんじゃないかと思えてしまいます」
「……それもそうだな。けど、油断はしないに越したことないだろ」
そんなこんなで、とんでもない騒動の起きた一日も終わろうとしていた。
かなりのボリュームになったので後半、ちょっと雑になってしまったかもしれません。そこの辺り、ご容赦お願いします。
そしてついに6の最新情報が出ましたが、世界観や時系列が謎を呼びまくっているという事実。しかし公式サイトによればユニット召喚が出来るらしく、召喚システムの見直しがされるようなので期待大だと思います。