マックス達が陣地に着くと扉が開いていた。壁も壊れていなく、敵に攻められこじ開けた様ではなかった。
「見張りもいないし、扉も開いたままだ。」
マックス達は盾を構えながら慎重に陣地の中に入って行った。
「これは...」
中に入るとそこら中に薬莢と血が飛び散り、隊員達がナイフで防壁に縫い付けられていた。
弾痕は陣地の中に集中していて扉も開いている。侵入者の死体や引きずった跡はない。これらのことから、侵入者は内側に侵入し、一方的に遠征隊を殺した後、扉から出て行ったことがわかった。
マックスは隊員に近寄りナイフを抜こうとしたが、ナイフは防弾チョッキのセラミックプレートを貫通し、壁まで刺さっていて引き抜けなかった。隊員の肉体が完全に機能停止しているのを確認すると、ドッグタグを回収しオルガマリーに報告した。
「敵はナイフを使い、隊員を防弾チョッキごと壁に縫い付けました。先ほどの骸骨とは、比べ物にならないぐらいの力を持った強力な敵がここを襲撃したようです。」
「その様ね。生存者はいないの?」
「全員のドッグタグは無事でしたので、死者はいません。魂的ではなく肉体的な死者は陣地にいた全員です。全員が心臓、腎臓、頭など致命傷になる臓器を貫かれ機能停止しました。」
「誰かの肉体にここの隊員のドッグタグを付けたら当時の様子がわからない?」
「この肉体は個人に調整された戦闘用ホムンクルスです。作業用ホムンクルスではないので、入る魂の形が限定されています。肉体の型に合わない魂を入れると最悪の場合、肉体が弾けます。これ以上の戦力低下は避けるべきなので、行わない方が良いでしょう。」
「ふむ...そうですか。」
安全が確保されてようやく陣地に入れた立香は壁に縫い付けられた隊員に驚いたが、マックスがドッグタグを持っているのを見ると立香は安堵した。
「みなさんのドッグタグはその...無事でしたか?...もしかして...」
「いえ、全員分ありました。敵はドッグタグの秘密を知りませんから、壊さなかったようです。ハンティングトロフィーを集めるような輩じゃなくて助かりました。」
「そうですか、良かったですね! あっ...えっと...隊員さんが傷ついたのは、よくないんですけど...だから...その...」
立香は自分が隊員の死を喜んでいるみたいになってしまったので、誤解されてしまったと思い、手を横に振り必死に誤解を解こうとしていた。マックスは、フッと笑うとドッグタグを指で弄びながら
「わかっておりますよ、マスター殿。基地に帰れば予備の肉体がありますからこいつらはすぐに蘇れますので、心配は無用です。あまり此奴らを甘やかさないでください。」
立香はマックスの持つドッグタグが小さく揺れた様な気がした。自身の言葉に抗議されたと気づいたマックスは、ドッグタグの紐を指に引っ掛けてグルグルと回し始めた。遠征隊の仲の良さに立香はクスリと笑ってしまった。
「しかし、今はかなりまずい状況です。」
「人数が減ってしまいましたしね。」
「人数もそうですが、陣地の放棄を考えなくてはなりません。」
マックスの言葉に立香とオルガマリーは驚いた。
「なんでよ、マックス!どうして、放棄しなくちゃいけないの⁉︎ 確保するのにあんなに死者を出しといて、今更⁉︎」
「そうですよ! 物資も来なくなちゃいます!」
立香とオルガマリーはマックスに抗議したが、マックスは陣地の弾痕を指差し
「敵は明らかに中に侵入しています。敵は既に陣地内に侵入する方法を見つけているはずです。ここを守っても、部下たちと同じようになるだけです。」
マックスは陣地の危険性を解いたが、立香達はあまり納得していないようだった。
「まぁ、カルデアに相談してからでも遅くないでしょう。」
マックスは召喚サークルに魔力を通して、カルデアに通信を入れた。
『...通信安定。こちら、基地システム通信部隊です。定時連絡前ですが何かありましたか、マックス隊長?』
「緊急事態だ。副隊長、ロマ二医療班長、ダヴィンチ技術開発部部長を出してくれ。」
『現在、ロマ二医療班長しかおりません。開発部部長はカルデアのシステムの復旧、副隊長は特異点に送る装備の準備でおりません。』
「ロマ二でも良いから、早く出してくれ。」
『今変わります。』
隊員の画像が消えるとすぐにロマンが現れた。
『緊急事態だって、何があった⁉︎ みんなは無事かい⁉︎』
「状況を報告する。陣地防衛組8人がやられた。一方的な戦闘だったらしい。」
『遠征隊が一方的に8人も⁉︎ 』
ロマンは顎に手を当て、しばらく唸っていた。しばらくするとロマンは、2004年の出来事の一覧を表示した。一覧に中には赤く強調された『聖杯戦争開催』という文字があった。
『ふむぅ、魔獣や死徒を滅してきた守護者上がりの8人が死亡...2004年の冬木...強力な魔獣...もしかすると聖杯絡みかもしれない。』
「確かにここは、2004年の冬木だ。しかし、聖杯は回収したのだろう。」
『でも、ここは特異点だ。何かの拍子に聖杯から漏れた残滓で、強化されたモンスターがいるかもしれない。』
「聖杯の残りカスでこの災害ということか。」
『聖杯自体はないと思うよ。あんな、大魔術の塊がほいほいあったら、世の中すごいことになちゃうよ。』
「まあな。でも、実際に世界がすごいことなってるから、我々が活動しているのだ。聖杯はないという選択肢を最初から削るべきではない。」
『それもそうだね。とりあえず、特異点の魔力で強化された何かがいることは確かだから、集団で行動するべきだね。』
「ああそうだな。するとやはり、召喚サークルの放棄になるか。」
ロマンは困ったように頭を掻いていた
『そうするしかないね。何もせずに放置するとサークルが壊されるかもしれないけど、特異点にいる活動可能な遠征隊はマックス含めて27人。立香くんと所長を守るにも少なすぎるからね。何かを切り落とさないと。』
マックスとロマンは同時にため息を吐いた。遠征隊はマスターなしでは特異点に行けないので、現状では人数不足を解決することができないのだ。
『そうするとこの装備はどうするのだろう?』
「何かあるのか?」
『副隊長がそちらに送る車両の準備をしてるんだ。えっと、確か...BTR-80だっけ。』
「80は一世代前のだ。遠征隊が使っているのはBTR-90だな。」
『そうだったね。後は砲台とエンジンの一部を持ってくるだけなんだけどいる?』
「いや、やめておこう。送られてきてもバラバラにされている車両を組み立てる余裕はない。」
『だよね〜、副隊長にはボクが言っておくよ。』
ロマンと話しているマックスの横でオルガマリーが膨れ始めた。オルガマリーは部下たちが、上司である自身に伺いもせずに勝手に話が進んで行くことに不満だった。
「ちょっと! 勝手に話進めないでよ。私が一番偉いの! 上司放置して勝手に決めないで!」
「しかし、これが最善です。」
『代案ないですよ。』
「でも、会議すれば何かあるかもしれないのよ。」
「しかし、人数的な問題は現状では会議では解決不可能です。」
『今のカルデアで、レイシフトできる人がいないんですよ。ダヴィンチちゃんがマスターと契約してたら行けたけど、立香くんとはしてないからね。』
ロマンとマックスに否定されたオルガマリーは、ぐぬぬと唸り始めた。
「でも、ちょっとは私を話しに入れなさいよ...寂しいじゃない。」
オルガマリーは、ごにょごにょと何かを言うともう知らないとサークルから出て行ってしまった。
『まだ、ボク達じゃ彼女の孤独を埋められないか...』
「彼女は未だに自身は認められていないと思っている節がある。」
『...』
「...」
「『ロマンが(マックスが)いうこと聞かないからな(からね)』」
二人は同時に責任を押し付けあった。しばらく見つめ合うと
『ふふふ』
「ククク」
と笑い出した。サークルの外にいた立香は突然の笑い声に、幽霊かと思いビクッとしたが、マックス達だとわかると怪訝な様子でサークルを眺めていた。一方、オルガマリーは笑われたと思い、一層膨れていた。
マックスとロマンは外で拗ねているオルガマリーに気付かずそのまま談笑していた。
「やはり、ロマンとは気があう。」
『ならさ、遠征隊の人達にボクへの対応を直すように言ってくれないかな。』
「ロマンの余計な一言のせいだろう。」
『でも装備を改造しなかったら、遠征隊は素手で特異点に行くことになってたよ。』
「装備がなければ、特異点に行くという話は出なかっただろう。」
『前所長は前々から行かせる気だったよね。』
「この話は堂々巡りになるから、置いておこう。とりあえず、我々はこれから教会の霊脈を見に行く。」
『みんなを待たせちゃってるからね。...マックス。』
サークルを出ようとしたマックスが振り返ると真面目な顔をしたロマンが、マックスを見ていた。
「なんだ?」
『所長を助けられるかい?』
マックスはポケットから小さな金属板が通っているネックレスを取り出した。金属板には文字が刻まれているだけで、特に魔術はかかっていなかった。
「助けたいが肝心の材料がない。副隊長の話では、倉庫からすべて盗まれていたらしいじゃないか。」
『ああ、すっからかんだったよ。』
「こっちで最後の材料が見つかれば、所長を助けられる。」
『彼女を連れ帰ってくれ、頼む。』
マックスはロマンに背を向けて、格好よく去ろうとした。
「我々を誰だと思っている。泣く子も黙るカルデア特異点遠征隊だぞ。」
『一部しかいないけどね。』
せっかく格好よく決めたのにロマンの一言に、苦い顔でマックスは振り返った。振り返るとロマンがしてやったりという顔で笑っていた。
「貴様は本当に一言多いな。」
『ふふふ、そうみたいだね。任せたよ。』
「こちらにいるお姫様方は任せろ。砦を頼むぞ。」
『任して、凱旋のための飾り付けをしとくよ。』
「ククク」
『ふふふ』
互いに冗談を言い合い緊張をほぐすと、マックスは仕事の顔に変え
マックスがサークルから出るとオルガマリーが膨れっ面で腕を組んで仁王立ちしていた。
「緊急事態だというのに呑気にお喋りとはね。」
マックスは助けを求め立香とマシュを見たが、マシュは遠征隊の死体からナイフを抜く作業をしていて、立香は死体を丁寧に片付けていてこちらを見てなかった。周囲の隊員を見たが、警戒しなくては、と全員がバラバラに散ってしまった。
「なんか今日は反抗的ね、マックス。」
「そんなことはありませんよ、所長殿。」
「演説に遅刻しかける、カルデアの壁を壊す、上司を馬鹿にする。今日だけでこんなにしてるのよ。」
オルガマリーは指で数えながら、今日の失態をマックスに突き付けた。オルガマリーはなぜか得意げにマックスを見ていた。
(今日の所長は何時もよりも面倒くさいな...)
マックスは心の声が、顔に出ないようにしながらどう切り抜けるか考えた。特異点に来てからオルガマリーが面倒くさくなったのは、立香がいるからだ。立香が慕っているマックスを上司として躾けている様子を立香に見せれば、立香は自分を馬鹿にしてこないだろうと思っていたのだ。
これら一連の行動は無意識のうちに行われている。オルガマリーの自己防衛本能によって行われているのだ。周囲の厳しい非難がオルガマリーに舐められないようにしなくてはならないという一種の強迫観念を植え付けたので、無意識の内に新人に上下関係を教え込もうとしている。
「二つ目は本官は関わっていません。」
「細かいことはいいの! 始末書を書きたくなければ、馬車馬の如く駈け回りなさい。」
「...yes,ma'am」
いつもの様な周囲を奮い立たせる様な返事ではなく、どうにでもな〜れというマックスの心がよくわかる様な気の無い返事だった。
「 今度こそいいとこ見せるわ! 全員教会に向かって出発!」
遠征隊は陣地にあった重火器を担ぎ、教会へと歩き出した。
「サーヴァント、ミツケタ。エモノモ、タクサン。」
近くのビルの上に立つ黒い影は、誰にも気づかれることなく、自分の狩場へと迷い込んだマックスたちを見ていた。
来週の投稿はお休みさせてください。1週間ほど栃木に行く予定があるので、忙しくてできそうにありません。
これからも、紅葉餅をよろしくお願いします。
ここから、筆者の独り言です。聞き流してくれて結構です。主観的なものが多く入っているので、個人の感想と思ってみてください。また、差別などの意図はありません。
今回、ホムンクルスのことを少し書いてふと思うことがあったんです。「魂は肉体に引っ張られる」とう話についてなんですけど、よくts小説でだんだん肉体の性別に心が寄っていくという描写に疑問が湧いたんですよ。この話は性同一性障害を持つ人の存在から、間違っているのではないかと思ったんですよ。そんで、性同一性障害を持つ友人に聞いたんですよ。そしたら「魂が体を引っ張てるにきまってる。見てよだから私はこんなに綺麗なのよ。」って言われたんですよ。すごく考えさせられる一言でした。新しい物の見方をさせてくれる一言でした。
まあ、だからと言って、ts小説が間違っているとも思いません。前提条件がそもそも違いますからね。だけど、何か障害を持っていてもこんなに綺麗に人生を送れるんだと思いました。
本作と関係ない話はここまでにしましょう。作者がすごく感動したので、書いただけです。ちなみに、友人と話した後、夕飯をおごりました。なんか、ものすごい罪悪感があったんですよ。友人の彼氏を呼んで焼肉行きました。財布が軽くなりました。