おっさんに言われ、俺は一応劇場内を見て回ることにした。するとロビーに椿がいた。
大輔「椿?何してるんだ?こんなとこで」
椿「玄関の鍵を開けに来たんです…鍵がかかっていたらあやめさん、帰ってこれないから…」
そうか…さくら達全員からしたら、俺の分身が抱き抱えて帰ったあやめは、殺女から出て本体だけと思ってるのか。
大輔「椿、だったら笑って迎えてやれ。そんな顔じゃ、帰ってきたあやめも心配するぞ」
椿「森川さん…そう…ですよね。あたし、笑顔でいます!いつあやめさんが帰って来てもいいように!」
大輔「ああ、その粋だ!お前は元気がなきゃな!」
椿「はい!それじゃあ森川さん。あたしそろそろ行きます」
そして椿は売店に戻っていった。さて、俺も他の奴の所に行くか。俺が次に訪れたのは事務局だ。中を見るとかすみがいた。
大輔「かすみか。何してんだ?こんな時間まで」
かすみ「森川さん…いえ、伝票整理が終わらなくて…伝票の枚数が、数える度に違うんです…その…集中力が続かなくて…」
大輔「…かすみ、少し休め」
かすみ「で、ですが…」
大輔「いいから。少し待ってろ」
俺はそう言い残しキッチンに向かう。今のあいつは平常心じゃないからな。落ち着かせる飲み物でも淹れるか。俺は飲み物を用意して事務局に戻った。
大輔「ほら。これでも飲め」
かすみ「これは?」
大輔「ミルクココアだ。不安や緊張から解放されたい時に飲むにはもってこいだ」
かすみ「…いい香りですね」
そう言いながらかすみは一口飲んだ。
かすみ「…とても落ち着きます」
大輔「そうか」
俺はかすみの近くに椅子を寄せて座る。
大輔「……」
かすみ「……」
大輔「…何も聞かないんだな」
かすみ「……」
大輔「お前も知ってると思うが…俺はあやめの奴を撃った」
かすみ「…はい。私達も映像ですが見てましたので」
大輔「そうか…」
ハァ…生きてるのを知っているのは俺だけ。だが、意識を取り戻さない限り教える訳にはいかないからな。
大輔「幻滅しただろ?」
かすみ「えっ?」
大輔「俺を好いてくれてるあいつを躊躇いもなく撃ったことに…」
かすみ「……」
かすみはミルクココアを飲む手を止める。
かすみ「…いいえ、私はそうは思いません」
大輔「…何故そう思う?」
かすみ「…あやめさんが頼んでいたのは聞きました。大神さんが撃てない代わりに、森川さんが撃ったと言う事を。けれど、あやめさんは…嬉しかったんじゃないでしょうか?」
大輔「……」
かすみ「最後は…大好きな人の手で…終われたんですから」
大輔「…そうか」
大好きな人の手で…か。本当にそうなのか、あやめ本人に確認してみるか。
かすみ「私、少し夜風に当たってきます。このままでは…伝票整理なんてできそうにありませんから…」
大輔「そうか」
かすみ「ミルクココアご馳走様でした。とても美味しかったです」
大輔「ああ。お粗末様」
そしてかすみは事務局を出ていった。さて、次は誰のとこ行くか…再び歩いてると、音楽室から音が聞こえてきた。中を除くと由里がレコードを聴いていた。
大輔「由里か」
由里「森川さん」
大輔「レコード聴いてたのか」
由里「ええ。どんなに辛い時も、好きな音楽を聞いていると元気が出るから…」
大輔「そうか…」
由里「ねぇ。森川さんは、辛い時や悲しい時、どうやって自分を元気づける?」
大輔「俺か?そうだなぁ…」
辛い時や悲しい時…か。昔だったら、完全にそのまま落ち込んでただろうが、今は由里と同じだな。
大輔「なんだかんだで、俺もやっぱり音楽聞くだろうな」
由里「そっか。それじゃ森川さん。一緒に元気になりましょう。そして、元気になったら他の皆にも元気を分けてあげてね。今は…皆どうやって立ち直ればいいか、分からないでいるはずだから。それが分かれば、森川さんがあやめさんにした事を理解できると思うの」
大輔「そうか。ありがとうな」
俺はそう言いながら由里の頭を撫でるのだった。
由里「も、も〜…///私もう行くからね!」
顔を赤くして、由里は音楽室を出ていった。
大輔「…さて、俺も行くか」
何照れてんだか俺…さて、別の場所に行くか。俺は二階に上がる。すると図書室の方から気配を感じた。これは…紅蘭だな。中を覗くと、テーブルに伏してる紅蘭がいた。
大輔「…紅蘭か。こんなとこにいると風邪引くぞ」
紅蘭「ううん…ウチの事なんか、どうでもええんや。それより、あやめはん…あやめはん、どないなってしもたんやろ…」
大輔「……」
紅蘭「ウチ…あやめはんのお役に立ててたんやろうか?マリアはんのように、銃の名手でもなければ、カンナはんのように力もない。…強いて言うなら、手先がちょっとだけ器用なくらいや。ホンマ言うたら…学校っちゅうとこにも行ったことないしな…そんなウチをあやめはんは拾ってくれた。日本で勉強もさせてくれたんや。あやめはんはウチの大事なお人や…それやのに…グスッ…ウチ…あやめはんに、きちんとしたお礼もできてへんのに…」
大輔「紅蘭…」
紅蘭にとっては、あやめは姉であり母親でもあったって訳か。そんな相手を撃った俺の事は、顔には出してないが恨んでる筈だ。
大輔「……」
紅蘭「森川はん…?」
大輔「お前らが俺の事をどう思っても構わない。実際俺はあやめを撃ったんだからな」
紅蘭「……」
大輔「だが、諦めんのか?お礼を言わずに、そのまま諦めんのかお前は…」
紅蘭「うん…そうやね。諦めたら…全てが終わってまう」
大輔「その気持ちは誰にも負けないもんだろ?」
紅蘭「せや!この気持ちだけは誰にも負けへんつもりや!」
大輔「その気持ちがあれば充分だ」
紅蘭「…ありがとうな、森川はん。ウチ、そろそろ部屋に戻りますさかい」
大輔「ああ。まず今日はゆっくり休むんだな。じゃあな」
俺はそう言い残して図書室を出ていった。するとさくら達が寝泊まりする部屋の通路で、アイリスが自分の部屋の前にいた。
アイリス「大輔お兄ちゃん…」
大輔「アイリス…どうした?」
アイリス「眠れないの…怖い夢が出てきて…眠れないの」
大輔「そうか。とにかく部屋に戻るぞ。その格好じゃ風邪引くぞ」
俺はアイリスと一緒に部屋に入った。なんだかんだで、ここ帝劇の彼奴等の部屋に入ったのはアイリスの所が初だな。
大輔「で、どんな夢見たんだ?」
俺はアイリスを寝かして、近くにあった椅子に座った。
アイリス「…誰もいないの。みんな…真っ暗になるの」
大輔「……」
アイリス「さくらも…米田のおじちゃんも…真っ暗なとこに行っちゃうの。皆、いなくなっちゃう。あやめお姉ちゃんみたいに…皆、皆…」
大輔「アイリス…」
やはりどんだけ大人ぶってても、まだまだ子供なんだよな…コイツは…
アイリス「大輔お兄ちゃんは行かないよね!アイリスの事置いて、どっかに行っちゃわないよね!!ひとりぼっちはヤなの…お願いだから、アイリスをひとりにしないで…」
こんな子供に、こんな事を思わせるなんてな。
大輔「安心しろ」
俺は寝転んでるアイリスの頭を撫でる。
大輔「俺がお前を置いてどっかに行くと思うのか?あやめやさくら達と同じで、俺の事を思ってんだろ?そんな女共を置いて行くなんて、男の風上にも置けない事は俺にはできねぇよ」
アイリス「ホントにホント…大輔お兄ちゃん…アイリスの側にいてくれる?」
大輔「もちろんだ。俺はルールは破るが、約束は絶対にやぶらねぇ」
アイリス「…ありがとう。大輔お兄ちゃん…大好き。ねぇ大輔お兄ちゃん…みんな、みんなずっと一緒だよね。あやめお姉ちゃん…早く帰ってくるといいね」
大輔「ああ…そうだな」
早く意識を取り戻してくれればいいが…
アイリス「ふわぁぁぁぁ…アイリス、もう眠くなっちゃった。ねぇ大輔お兄ちゃん…アイリスが眠るまで、側にいてくれる?」
大輔「ああ。だから安心して眠りな」
アイリス「それとね…アイリスが寝ても、電気は消さないでね」
大輔「了解だ」
アイリス「それじゃあ…おやすみなさい」
大輔「ああ。おやすみ」
アイリス「すぅ…すぅ…」
そして暫くして、アイリスは眠った。俺は言われた通り電気を点けっぱなしにして、起こさない様にそっと部屋を出たのだった。
大輔「はぁ…アイリスの言葉が一番染みたぜ」
俺は目尻に涙を浮かべていた。
大輔「ハハッ。あやめの奴が無事だって分かってるが…情けねぇ」
この世界に来て、初めて流したかもな…涙をよ。
大輔「…さて、次の奴の所に行くか」
織姫とレニに対して
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大輔に織姫&レニ両方
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大輔に織姫。大神にレニ
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大輔にレニ。大神に織姫
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大神に織姫&レニ両方