ハーレルヤ♪ハーレルヤ♪ハレルヤ♪ハレルヤ♪晴れるー屋♪ 作:有限世界
帝国と共和国の模擬戦後、晴れる屋においてお疲れ様会が行われいた。なお、本日の参加者は新人戦の6名と監督約のリサにリューゼル、そして店長ではないのに勝手に場所を提供しているアッシュである。もう彼が店長でいいんじゃないかなと多くの人は思っている。なお、中堅戦のメンバーは違う場所で打ち上げを行っている。
「なんでボクが自分のお疲れ様会の料理を作っているんでしょうか?」
「「「今更⁉」」」
配膳も終ろうかとしたころに晴れる屋バイトのレネット・スクラームが今更な質問をした。そりゃ他の皆同じ事を思うだろう。もっともリサとリューゼルという戦闘巧者に至っては、流石アッシュの弟子だなぁと場違いな感想を漏らしかかったが。
余談だが、アッシュの師匠も似たようなところがあり、あながち間違いではなかったりする。当人の元々の資質か後天的なものかは定かではないが。
「そういう疑問は最初に言えよ」
お前が言うな。
「何か?」
「「何でも」」
怪訝な視線を感じたアッシュは訊ねてみるものの視線の主達からは否定された。
「それよりもアッシュが料理しないのは珍しいわね。どういう風の吹き回しかしら?」
常連のリサが誤魔化すために聞いてみる。
「今回、晴れる屋はお金を貰ってない。つまり、晴れる屋的には金を貰うに
「「失敗したなぁ」」
この中では料理人としてのアッシュをよく知る2人は頭を軽くかいた。因みにこれは金を払っていれば良かったとか、そういう意味ではない。
「ちょっと待ってください!久しぶりの外出なのにそんな食事なんですか⁉」
帝国の金髪で小柄な少女、エレノア・ホビリアーンが叫んだが、
「流石に隊食堂よりマシなものがでるでしょ。下手に不味いのだと信用問題に関わりますから」
同僚で未来の白色団長候補のコーガ・リョゴンにやんわり否定された。戦闘要因らしからぬ雰囲気の持ち主だが、彼の本領は指揮官能力である。
「ジャッシュは?って、楽しそうですね、君は」
既にナイフとフォークを持って準備万端な同僚に彼は毒付いた。因みに真顔、どうでもいいから早く食わせろといった顔だが。これでも未来の精鋭候補である。リューゼルの弟子として見たら納得できるのかもしれないが。
「ここ、評判なのですが順番待ちが大変そうで来たことなかったので残念です」
と言うのは新米ギルド員のレニア・ハーティーである。
「アッシュさんの料理が……」
「流石に監修はしているから、誰かさんと違って酷いのはでない。そこは安心しろ」
がっかりしている誰かさんを突き放す。
「そこは気にしてないわ。だってアッシュの弟子なんでしょ?」
「そこらの店より美味しそうだよね」
アッシュが言うまでもないと力強い常連2人は楽観的だった。
「では何を失敗したんですか?」
コーガが質問した。
「「希少食材を持ってくればよかった」」
「成る程!」
「?ああ、そういう事ですか」
常連、というよりは希少食材の調理について知っているミーヤは直ぐにわかり、続いてコーガが気がついた。晴れる屋とは縁のない人が気がつかないのは普通なので、彼の頭の回転が異常なのである。
「他の3人はわかったかしら?」
リサは面白そうな人材を見て笑みを浮かべた後、まだわかってない新人達の方を向く。ジャッシュはお手上げと両手を上げ、エレノアも唸ってギブアップを宣言した。
「もしかして持ち込みの食材を調理して貰えるんですか?」
「おそらくね。それも、フグとかも調理して貰えた可能性もあったんだよな。場合によってはもっと面倒な
わかったのはレニア、それにコーガが付け加える。この2人の評価を遥か上の位階にいる3人は上げる事にした。
因みに爆裂茸は強い力を加えると爆発するキノコで、包丁を入れたり噛んだ瞬間に破裂するので普通にやっても食べられない。なので爆発をしないように解体する必要がある。
「いやいや、流石にあれの成功率は7割程度だから、僕に持ってこられても困るよ。失敗したら店が吹き飛ぶもん」
「5割じゃない事に驚きなんだけど。アッシュが例外なのは置いといて」
「そりゃあんなもん100%解体できなきゃ店で出せないだろうが」
あるんだ、そんなメニューが。常連以外は呆れと驚き半々くらいの表情をした。
因みにこの爆裂茸、破壊力的には小部屋が壊れるくらいの威力で、冒険者用の道具屋にて攻撃アイテムとして普通に売られている。
なお解体方法は、最初に傘の先を切るか付け根のところを切るかのどちらかで爆発を回避できる、というものである。どちらが正解かは物によって違い、失敗すると爆発力があがる。なので普通は成功率は5割である。
「リューゼル司令官、提案したい事があるのですが」
「うん。多分君が思っていることと同じ事を考えた」
「大量の料理を作る訓練も必要だから、週1なら出せるぞ。ただそれなら違う奴も出したいからローテーションになるだろうが」
コーガ、リューゼルの2人は同じ事を考えており、そしてアッシュも何を考えているか理解した。
「まだまともな内容で良かった」
勝手に決められる自分の人事に対して当人も理解した上でそんな事を呟いた。
これでまともとは君も苦労しているねと、そんな生暖かい目で黒の新人たちは彼を見た。
「あの……、ご本人の意志は確認しなくていいのでしょうか?」
間違いなくこの中で1番の常識人が常識的な事を訊ねたが、
「弟子に人権はない」
アッシュが宣った一言に問うた当人はフリーズし、弟子は涙を流した。
「何故なら弟子は人間じゃないから」
そんなトドメの一言にジャッシュはレネットの肩をポンと叩いて慰めの視線を送った。
レネットは理解した。ジャッシュも
「私もあのくらい厳しく教育した方がいいのかしら?」
とあるスパルタ漫画を脳内で思い返しながら、リサはちらっとミーヤの方を見た。彼女は土下座で止めてくださいと懇願していたが。
フリーズしていたレニアは自分の周囲に非常識な人がいないことに感謝した。まあ超人もいないのだが。
このタイミングでようやくレネットに帝国軍の食事を作らせようという意図に気がついたエレノアがこっそりと隣の同僚に質問する。
「ねえコーガ。料理の腕と爆裂茸の解体成功率って関連があるの?」
「あるらしいよ。何でも、料理の腕が一定のレベルを越えたら食材をどう調理したらいいか感覚的に解るって話があるし」
あくまでそんな話があるだけだよっとコーガは注釈を付けたが、
「あー、あの感覚ね」
レネットはそれが事実だと告げた。そして彼の師匠は補足する。
「食材の声と呼ばれるものだ。けど、あの
「解体だけならできるよ。けど、ボクが作れるのは爆裂茸の串焼きとかで料理とは言えないものだけどね。だから声がわかっても料理が上手いかは別の話になるんだよね」
「アッシュ、詳しい説明をしてくれないかしら?」
リューゼルのトンでも発言を受けて1番詳しそうなアッシュにリサは訊ねた。
「例えばだ、切り方によって甘くなったり苦くなったりする食材がある」
あるんだ、そんな食材が。そんな感想を抱いたものが幾人もいたがここは飲み込む。
「他の食材と組み合わる場合はどのくらいに甘さを抑えてどれだけ苦味を加えるべきか、そんなのは声だけだとわからないぞ」
極端な話、食材の声を聞くだけだと食材単体なら完璧に対応できるが、組み合わせには対応できないということでもある。美味しいものと美味しいものを混ぜ合わせても美味しくなるとは限らないのだ。
「そんな訳で100点と100点の調理法で50点の料理が完成するとか、80点と80点の調理法で100点の料理になるとか、莫大な経験が必要だ」
「因みに司令官の爆裂茸解体成功率はいかほどで?」
気になった部下が質問した。
「十割大丈夫だよ。その代わり、料理は下手だから下拵えしかできないけど」
「狂理の修行内容に料理があったはずだが」
「戦闘に特化させると無駄じゃないかというボクの師匠の方針によってオミットされたんだよ。食材の声と解体の方は理解できたけど」
「師匠が無駄な修行をするとは思えない。更に8割教えたら卒業で残りの2割は自分でたどり着けという人だから、料理の鍛練の先にアレ以外も絶対に何かあるはずだぞ」
そんなリューゼルとアッシュのやり取りを帝国の黒い者達は恐ろしい者を見る目で見ていた。具体的に言うと彼らの司令官と同レベルの危険人物として。
「失礼ですが、貴方も狂理の使い手なのですか?」
リューゼルの流派と同じなのかとコーガは質問した。
「破門されたし、もう剣を振るうつもりもないからその質問に対しては違うと答える。うちのアルバイトも同様だな」
自棄に捻くれまくった返答だが、使えるが使い手ではないと答えた。
しかし彼等は見ていた。レネットに対する無茶振りの仕方は自分達の司令官に通じるものが、というよりも魑魅魍魎だらけの帝国青の上位陣や赤と同じノリだと。
「真に受けないほうがいいよ。アッシュは開祖の直弟子だから大概の使い手より部分的には上なんだよね。多分、帝国の赤と部分的には同格か超えるところがあるし」
下手するとそれより厄介な可能性もある。特に自覚症状がないところが。
「ということはレネット君も全力を出さないと死ぬような訓練してきたのね」
エレノアが身に降りかかった苦難を思い出して染々言った。いや、流石に料理人にそんな事はさせないだろうと知らない人達は思った。甘い。
そしてさめざめと泣きながらのレネットの証言がこれだ。
「全力を出せば助かるならマシなんですねぇ」
それどういう事?まさかとある漫画の達人達のノリを知っているリサ以外は見当もつかない。
「拉致されて猟に行った先で、『全力しか出せず狩られるのが先か、ここで全力を超えた力を得て強くなって狩るのが先か好きにしろ』と言って猛獣の前に放り困れた事が何度もありますから」
更に酷かった。
「貴方は料理人に何を求めているのよ?」
付き合いの長いリサが呆れながら言った。
「トッピロキングマンモーの単独狩猟目指して。無論、美味しい仕止め方でな」
さらっと言っているが、殺神種以外の最強生物候補だったりする。因みに帝国の赤とかアッシュの師匠とか頭おかしくなる級は除く。あれらは殺神種扱いでいい。
「いや、それ青の上位陣が3人くらい必要だからね。美味しい仕止め方だと7人くらい必要だし」
アッシュが目指すところにリューゼルがすかさず突っ込んだ。なお、リサは『群青の風』なら半壊する可能性を言おうとしたのだが、その辺りに帝国の頭おかしさが伺える。因みに戦闘能力的に殺神種の星巡りより格上認定されてたりするが、活動範囲が狭い事と積極的に攻撃してくる事がないので危険生物ランキングではそこまで順位は高くない。
「いや、案外余裕だよ。無防備状態のところを首筋にサクッとやれば。それで何匹か単独で狩ってるし」
成る程、そんな手があるのか、という風にはならない。常識人が恐る恐る質問する。
「あの~、魔力感知できる上に心音で位置を把握できる聴覚持ちの化け物にどうやって近づくのでしょうか?」
「心臓を止めて」
この言葉に皆唖然とする他はない。そしてリサやリューゼルは思い出す。こいつも頭おかしくする側の人間だったと。そして帝国の黒3人は赤と同じノリの人だと判断した。
「たまに青の人の、心臓が止まったのに自力で胸を叩いて再稼働させるのと違うんですか?」
それはそれで十分に頭おかしいが、
「よく知ってるね、コーガ。けど
あと、流石に心臓が止まったままだと死んじゃうと思うんだよね。少なくとも僕は死ぬ」
心臓が止まったらまた動かせばいいとばかりに言っているが、1度止まったら普通はそう簡単に動かない。彼は彼で頭おかしい帝国の青だ。
赤はどうだろう。赤ならやるかもなぁ。そして生きているんだろうな。口には出さないがリューゼルはそんな事を考えていた。正解。
「僕もしょっちゅう心臓が止まって無理やり蘇生されていますけどね」
とんでも発言に部外者の血の気が引いた。
「止まっても死なないように普段から鍛えるべきだ。いざって時に再始動できないとそのまま死ぬからな」
色々な意味でおかしい。頭おかしいリューゼルでさえおかしく感じる。
「というか、そう簡単に心臓を止めれるもんなの?」
「慣れれば」
「あ……」
とある魔法を使ったリサは気がついた。そして冷や汗をかきながら確認する。
「ひょっとして、今心臓を止めてるのかしら?生命探知の魔法に引っ掛からないのだけど」
「止めてるぞ。安静状態なら一時間くらいはいける。激しい動きなら5分と持たないが、狩猟には十分だ」
いや、だから何で心臓止まっているのにそんなに平然としているんですかね?というかそう簡単に止めれるんですか?突っ込むのも馬鹿馬鹿しくなった面々にもうそんな気力はない。が、考えるのが仕事だと1人だけ何とか思考して、
「血液を魔法で送れば死なないだろうけど、魔法使わず生きていられるってどういう理屈ですか?」
因みに病気と怪我を同時にしている等の回復魔法を使えない時に応急措置としてそういう魔法を使うことはある。あるのだが、そもそも魔力感知する敵に対して隠密行動するのにそんな魔法を使うはずがない。コーガの質問に対して
「全身の筋肉を収縮させて血を巡らせている。流石に心臓には敵わないから激しい運動には向かないが」
「ともかく、食事にしましょう。レネット君がアッシュみたいにならないように祈りながら。
「そうだね。せっかくの料理が冷めると勿体ないし。
「そんな言葉は聞こえないように言って欲しかった!」
リサとリューゼルの言葉に項垂れるレネットだった。
因みに食事は思ったより美味しかったらしく、レニアは常連となることを決めた。
そして帝国に料理修行の名目でアルバイト達がローテーション配置されて、彼等の食料事情が改善された事も付け加えよう。
因みに体調不良で打ち上げを休んで次の日風邪で寝込んだことあり。