夕焼けのシルエットに映る人影。
そこにいたのは、まぎれもなく「彼」だった。
そして「彼」だけじゃなく、もう2人いた。「彼」よりもずっと背が低く、ずっと髪の毛が長い彼女。そして、小さくて、彼の顔立ちをなぞるように生まれてきたであろう赤ちゃん。
あの日、「また10年後」と言い残して消えた「彼」。
まだ、3年しか経っていないのに。
どうして?
なぜ?
わけもわからずに立ち尽くす私を、眩しすぎるくらいに夕焼けが照らす。
あれは3年前の11月の終わりのことだった。
あの時の私は普通の女の子で、「彼」は普通の男の子で、私たちは普通のお付き合いをしていた。
私は「彼」のことが普通に好きだった。
何もかも普通。小説みたいなロマンチックな出会いもなければ、三角関係なんかもなかった。
その日も、普通に待ち合わせして、普通にお買い物して、普通にごはん食べて...何もかもが普通に終わるはずだった。
帰り際、私の家の近くの新川橋に差し掛かるところで「彼」は唐突に言った。
「次会うの、10年後ね。」
意味がわからなかった。
冗談だと思ったが、「彼」は冗談を言うような人ではない。
話は決して上手くない。どちらかというと『コミュ障』に分類できるくらいの人だったと思う。
だから、冗談でも、嘘でも、絶対にないと思った。
「行かないで」
理由よりも先に自分の本心が出た。
「彼」は困った顔をしながら、この場を断ち切るように言った。
「10年後の今日、この橋のまんなかで。」
「彼」は振り向かずに去っていった。
私は何も言わなかった。言って困らせたくなかったのかもしれない。
「彼」が本当に好きだったんだと、そのとき気づいた。
そこから数日は立ち直れなかった。
周りには普通に立ち振る舞っていたけれど、「彼」が気になってしかたがなかった。
それでもメールは送らなかった。送っても返ってはこない。そんな気がしたから。
1ヶ月後、ふとした瞬間に声が聴きたくなった。
一言だけ、メールを送った。
「電話してもいい?」
返ってくるはずのない返信を待っている自分が馬鹿みたいだった。
2ヶ月経って、ようやく普通の生活になったような気がした。
「彼」に対する感情は薄まっていた。
目の前にやってくることを深く考えもせずにやりすごすだけ。
私ってこんなに無気力人間だったっけ?って思ったが「彼」と付き合う前も多分こんな感じだったのだと思う。
ちょうど1年経ったあの日、ふと思い立って新川橋に行ってみたが「彼」は当たり前のように現れなかった。
2年経ったあの日も新川橋に行ってみたが現れなかった。
そして3年経った今日。どうせ現れないと思ってボサボサのノーメイクで行ったら「彼」がいた。
なんでよ。