東方零人記~とうほうれいじんき~   作:†Ria†

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狂暴化したレミリアと対峙する零たち

レミリアはその圧倒的な力で勝負を決めにかかるが…

そこに現れた霊夢により、事態は一度鎮静化する…。






第4話~波紋

 

【紅魔館・レミリアの部屋】

 

「………ん…」

 

あれから数時間がたち、日も傾いてきた頃。

 

眠っていたレミリアは目を覚まし、ゆっくりと体を起こした。

 

「お嬢様!!」

 

ガバッ! と、ベッドの横に立っていた咲夜は、すかさずレミリアに抱きつく。

 

レミリア「……咲夜…?」

 

咲夜に抱きつかれたままフと視線を横に向ければ、そこには同じベッドの上で眠るパチュリーの姿があった。

 

「勝手に使わしてもらってるわよー」

 

そんな声が次に聞こえ正面を見やれば

 

レミリア「…霊夢」

 

部屋にあるテーブルを囲むように腰かける、霊夢たちの姿がそこにあり

 

魔理沙「………」

 

そこから、魔理沙が執拗にレミリアの顔を覗きこんでいた。

 

レミリア「……なによ」

 

魔理沙「……どうやら、正気にもどったみたいだな」

 

はぁぁっ と大きく息を吐きながら口にした魔理沙。

 

レミリア「…どういうこと?」

 

変にボーッとする頭で魔理沙の言葉の意味を考えながらも、キッと彼女を睨むレミリア。

 

魔理沙「おっと…そのままの状態で睨まれても、てんで怖くはないぜ?」

 

レミリア「はぁ?」

 

魔理沙の言葉の意味が分からずレミリアが呟けば

 

霊夢「…あんた、ほんとに何も覚えてないみたいね」

 

レミリア「だから、なんのこと?」

 

文「あなたの隣で眠る魔女。

ずいぶんな怪我をしたんですが」

 

魔理沙「おいお前…」

 

文「あなたが刺したんですよ。

あ、指したの間違いか。

あと、そのメイドの背中も」

 

咲夜「っ!」

 

この場の皆がいい辛い事をサラッと伝える文

 

レミリア「………は?」

 

レミリアは意味が分からない。と言いたげな様子ながらも、スッと布団をめくり、パチュリーの腹部に触れた。

 

パチュリー「んう……」

 

そこはじんわりと熱をもっており、包帯で硬くテーピングされていた。

 

レミリア「……咲夜」

 

パチュリーの怪我を確認し、すぐに咲夜の背中へ手を伸ばす。

 

するとそこにも、やはり包帯の巻かれた跡があり。

 

レミリア「……私が、パチェと咲夜を…」

 

咲夜「お嬢様……」

 

レミリアは本当に記憶がないようで、自身の手を見て唖然としていた。

 

咲夜「お嬢様、この傷はお嬢様がつけたものでは……」

 

レミリア「黙りなさい」

 

咲夜はレミリアを気遣い口にしたが、レミリアは吸血鬼

自分の爪に残るかすかな血の匂いが、咲夜とパチュリーのものだと、すぐに気がついた。

 

レミリア「答えて霊夢。

私が気を失っている間になにがあったの?」

 

霊夢「……それは、私より魔理沙たちのほうが知ってるわよ。

私は、紫に言われて後からきただけだし」

 

淹れてあった紅茶を飲みながら、霊夢は答え

 

レミリアは、魔理沙、文、そして零へと視線を向けた。

 

レミリア「……あんたは?」

 

零「ん……? 僕は零。まぁ人間だ。

ちょっと事情があってここにいる」

 

レミリア「……魔理沙」

 

魔理沙「うーん、悪いが、私たちだってよくわかってないんだ。

説明もなにもないが……」

 

と言い、続ける

 

魔理沙「あの時のお前は、どうも無差別にいろんなもんを攻撃してたみたいだな。

パチュリーと……咲夜はそんなお前が傷つけた。

それは文の言う通り事実だ。

けど、それ以前の事はむしろこっちが聞きたいくらいだぜ。

私たちはただ、この零を襲ったコウモリの妖怪について、お前ならなにか知ってるんじゃないかと思って、ここにやってきただけなんだからな」

 

レミリア「……コウモリの妖怪?」

 

零「あぁ、村の付近にいたんだが、急に襲われたんでな」

 

レミリア「知らないわね……。

……それに、私はただ、フランの様子を…!」

 

そこまで話し、レミリアはハッとする。

 

レミリア「そうだ…、フラン! フランはどこ!?」

 

“悪魔の妹”

『フランドール・スカーレット』

レミリアの妹であり吸血鬼。

ウェーブのかかったような濃い黄色の髪と深紅の瞳。

背中から生える、一対の枝に七色の結晶がぶら下ったような特殊な翼が特徴だ。

 

咲夜「お嬢様、それが……」

 

霊夢「落ち着きなさい。

フランドールならこの館にはいなかったわ。

散々捜したけどね。

そもそも私も、紫からフランが消えたって聞いてここに来たんだから」

 

レミリア「……フラン」

 

魔理沙「レミリア、なにか知ってるのか?」

 

レミリア「……思い出したのよ。

今日の昼頃……私は、フランに襲われたわ」

 

霊夢「いつもの姉妹喧嘩じゃなくて?」

 

レミリア「あれは暇潰しよ。

けど、今日は違った」

 

文「と、言いますと?」

 

わくわく。とでも言いたげに、ペンと手帳を準備する文

 

レミリア「フランは無表情で、まるで、なにかに操られている様だったわ」

 

魔理沙「操られる? あのフランがか?

ハハッ、それが本当だとしたら、その操った奴は到底、私たちの手におえるもんじゃないな」

 

零「……そのフランっての、そんなに強いのか?」

 

魔理沙「ん? あぁ。そりゃ、ありとあらゆる物を破壊する程度の能力者だしな」

 

零「……なんだよそのとんでも能力」

 

レミリア「……それでも、姉の私なら、フランと対等以上に戦う事は可能よ」

 

零「それも、ずいぶん説得力のある話だ」

 

実際レミリアと刃を交えた零は呟き

 

レミリア「でも、今日は勝てなかった。

フランは恐らく、なにか別の力を得ていたんだわ」

 

霊夢「フランにやられて、その後アンタは?」

 

レミリア「気を失ったわ。

それで、起きたらこの様よ」

 

フフッと、皮肉を込めて笑うレミリア。

 

文「ふむふむ。つまり、吸血鬼の妹を操っていた第三者こそが、吸血鬼をおかしくさせた人物だと」

 

レミリア「……? 私も操られていたんじゃないの?」

 

メモを取りながら喋る文の言葉を不思議に思い、レミリアは尋ねる。

 

魔理沙「いや、あの様子だと、操られてたってよりは…」

 

 

 

 

「理性を失っていた…。」

 

 

 

 

魔理沙「うおっ!?」

 

レミリア「…あんたは……」

 

零「誰だ…?」

 

魔理沙の背後の空間に裂け目が入り

声の主は、その裂け目を開くとその場に現れた。

 

霊夢「紫、あんた……いったい何を知ってるの?」

 

裂け目から現れた八雲紫に特に驚きもせず、魔理沙の感想の続きを、先に言い当てた紫に不信感を抱き、霊夢は問う。

 

紫「別になにも……。

それとなく予想してみただけよ」

 

フッと微笑み霊夢に返す紫。

 

霊夢「…………」

 

紫「それより……。

あなたね、霊夢の言っていた「奴」って言うのは」

 

手にする扇子でピッと零を指し、紫は零を眺める。

 

零「な、なんだよ……」

 

紫「………あなた……」

 

と、言いかけ、止める。

 

紫「なんでもないわ。

…そうだ。忘れる所だったわ。…霊夢、また仕事よ」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

【博麗神社】

 

「だから、とにかく大変なんです! “諏訪子”様が消えちゃって!」

 

霊夢「なんだ……、依頼ってあんたからだったのね。

早苗」

 

空も夕闇に染まる頃、神社に戻ってきた霊夢に向かい、あわあわと説明するのは

 

“山に住む奇跡の現人神”

『東風谷早苗(こちやさなえ)』

胸の位置ほどまである緑のロングヘアーで、髪の左側を一房髪留めでまとめ、前に垂らしている少女。

幻想郷にあるもう1つの神社、守矢神社の巫女だ。

 

早苗「ちょっ! ちゃんと聞いてます!?」

 

魔理沙「聞いてるも何も、説明らしい説明なんててんで受けてないじゃないか」

 

早苗「私は霊夢さんに話してるんですよ!」

 

霊夢「あーはいはい。分かったわよ。

あんたん所の神様の片方が消えたのね?

……で、どっちが消えたわけ?」

 

早苗「全然聞いてないじゃないですか! 諏訪子様ですよ!」

 

“名存実亡の神様”

『洩矢諏訪子(もりやすわこ)』

守矢神社に祀られている本来の祭神で謎の神。

 

霊夢「へー。そりゃあんたの所も大変ねぇ。

これでウチに参拝客が流れてくればいいけど」

 

早苗「全く解決する気ないですよね!?」

 

霊夢「……だって、いきなり消えたとかって言われてもねぇ。

気まぐれで家出でもしてるのかもしれないし。

そもそも確証もないのに決めつけるのは……」

 

「確証ならあるわ」

 

と、突然そんな声が空から聞こえ、霊夢たちの前に降り立ったのは

 

複数の紙垂を取り付けた大きな注連縄を輪にしたものを背中に装着した、青髪の女性。

 

早苗「神奈子様!」

 

“独立不撓の神様”

『八坂神奈子(やさかかなこ)』

日本の神道の神であり、守矢神社のもう一人の神。

 

霊夢「……あんたまで出てくるなんて、珍しいわね」

 

神奈子「それだけ事態が深刻ってことね。

早苗が言うように、諏訪子が消えたのは本当よ。

アイツがどこに居ようと、私ならその存在を確認できてたのに。

それが今日の昼、突然消えた」

 

霊夢「……ってことは、あんたの所も……。って事になるわね」

 

神奈子「? どういうこと」

 

霊夢「紅魔館の吸血鬼。その妹も、今朝行方を眩ませたのよ」

 

早苗「えっ!?」

 

神奈子「同じ日のほとんど同じ時に……。

これは、いよいよなにかあるわね」

 

真剣な眼差しで、指を顎に当て考える神奈子。

 

早苗「……ところで、あの方は……?」

 

と、早苗はずっと気になってはいたのだが、タイミングが無く聞けずにいた零の存在を指摘した。

 

霊夢「あぁ……。容疑者よ、今回の」

 

早苗の質問に、めんどくさそうに答える霊夢。

 

早苗「よ、容疑者ですか!?」

 

零「おいおい、まだ僕を疑ってたのか……」

 

霊夢「当たり前でしょ。胡散臭いのよ、あんた。

それに、スペルカードの効力を掻き消したって話だし」

 

零「……」

 

文「てへ☆」

 

知らない筈の情報を霊夢が知っている理由を予測し、文に視線を向ければ、文はペロッと舌を出しながらコツンと頭を叩いた。

 

早苗「スペルカードの効力を掻き消す……?」

 

零「あれは……、僕もよく分かってないんだよ。

そもそも、吸血鬼や神が消えた時って、僕はもうあんたたちと出会ってた時だと思うが?」

 

霊夢「ふん。能力が分からない以上、なにを言っても無駄よ」

 

零「お、お前な~……」

 

まるで聞く耳を持たない霊夢に、零が項垂れ

 

神奈子「ふ~ん……」

 

そんな零に神奈子は近づき、彼の頭からつま先までを流し見る。

 

神奈子「……悪くない男じゃない」

 

零「えっ?」

 

神奈子「安心しなさい、霊夢が本気で疑ってれば、もうボコボコにされてる頃だから」

 

シシッと笑いながら零の肩をパシパシ叩く神奈子。

 

零「あー……、じゃあやっぱ疑われてるんだな。

もうボコられたし」

 

神奈子「あら、そりゃ残念」

 

霊夢「あーもー! そんな話はどうでもいいのよ!

とにかく、なにか異変が起きている事は分かったわ。

動くにしても今日は遅いし、見たところ月に異変もない。

なら、捜索するのは明日の朝よ」

 

パンパンッ!と手をはたき、空に浮かぶ月を見上げて話す霊夢。

 

神奈子「ま、私は依頼を受けてくれるならなんでもいいわ」

 

霊夢「あぁ、あと……神奈子」

 

神奈子「うん?」

 

霊夢「早苗は貸してもらうわよ。

人……神捜しなら人手が多いに越したことないでしょうし」

 

神奈子「えぇ。最初からそのつもりよ」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

魔理沙「それじゃ、また明日か……」

 

霊夢「……なにいってんの、アンタは駄目よ」

 

ボソッと呟いた魔理沙に、霊夢はさも当然のように言って、息をついた。

 

魔理沙「……え? な、抜け駆けはなしだぜ霊夢!」

 

霊夢「………魔理沙、アンタ、レミリアにつけられた傷があるんでしょ」

 

ピッと魔理沙の横腹を指さしつつ指摘する

 

魔理沙「えっ……。なんでそれを……」

 

霊夢「それなりに付き合いもあるんだし、あんたがやせ我慢してる事くらい分かるわよ」

 

零「魔理沙……そうなのか?」

 

魔理沙「っ……」

 

霊夢が指摘するまで気づかなかった零は、魔理沙の横腹に視線を向け尋ねた。

 

魔理沙「……あー、分かったよ。

しばらく大人しくさせてもらうぜ」

 

降参、と言わんばかりに両手を上げ、魔理沙はそれを認めた。

 

魔理沙「ま、そう言う事だから、霊夢の面倒はお前に任せたぜ」

 

ポンッと、隣に立つ零の肩を叩く

 

零「は……? ちょっと待て、もしかして僕まで協力するのか?」

 

霊夢「なにいってんのよ。

私の面倒がどうこうってのは放っておいて、異変に関わってるかもしれない奴を野放しにはしておけないでしょ。

当然、一緒に行動してもらうわよ」

 

零「んな勝手な……」

 

文「そう言う事なら、私も参加させてもらいますよ!

ま、NOと言ってもついていきますけど」

 

霊夢「……好きにしなさい」

 

文「よしっ」

 

霊夢「それじゃあまた明日……。

……ちなみに言っとくけど、あんたの寝る場所はないからね?」

 

くるっと零に振り向き霊夢は話し

 

零「……さっそく野放しにする気満々じゃないか……」

 

零は項垂れた。

 

早苗「なら、ウチに泊まりますか?」

 

零「…………ん?」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

【妖怪の山 山中 守矢神社】

 

零「えっと……東風谷、塩ってどこにあるかな?」

 

早苗「あぁ、それならそこの棚の上に…」

 

博麗神社から追い出され守矢神社で一夜を明かす事となった零は、神奈子の食事を作る早苗の手伝いをしていた。

 

早苗「ありがとうございます、お手伝いまでしてもらって」

 

零「いや、一晩泊めてもらうんだ。

これくらいはしないとな」

 

早苗「そんな、気にしなくても良いのに。

こっちは諏訪子様を捜すのを手伝ってもらうんですし、寝床くらい」

 

零「あぁ……それは、あの暴力巫女からの命令だから。

あんたが気にすることないさ」

 

早苗「暴力巫女……確かに、私もコテンパンにされた事あったなぁ」

 

零の口にした霊夢の仮名を聞き、過去、霊夢にそうされた事を思い返して顔を青くする早苗。

 

零「東風谷が……? でも、見たところ人間……だよな?

なんでアイツに? まさか、あんたもあの巫女の変な言いがかりで……」

 

早苗「あ~いえ。あれは私たちが悪かったようですし。

退治されたのは仕方ないです。

あ、ちなみに私は現人神! 人間にして神なのです!」

 

と、その大きめな胸に手を当て訴える早苗。

 

零「現人…神? それって結局どっちなんだ?」

 

早苗「へ? どっちって……どっちもですけど」

 

零の質問に、早苗は「何言ってんですか?」とでも言いたげに当たり前のように返し。

 

零「……あ、そうなんだ」

 

その回答を聞き、零はそれ以上の質問が無意味だと理解した。

 

早苗「あと、私の事は早苗でいいですよ。

東風谷なんて……呼ばれなれてなくて違和感あるし」

 

零「え? あ、あぁ。なら、僕の事も…」

 

早苗「あ、ご飯炊けたみたい。

それじゃあさっそく食事にしましょう。

私もおなかペコペコだし、あまり遅くなると神奈子様の機嫌が…。

さぁ零さん、行きますよ」

 

零「あ、あぁ…(わざわざ言う必要もなかったか…)」

 

マイペースな早苗に軽く振り回され、零は食事を食器に盛りつけ始めた。

 

 

30分後……。

 

 

神奈子「いやぁ、あなた随分いい腕してるじゃない!」

 

零「……はぁ」

 

食事を済ませ、すっかり出来上がった神奈子に絡まれる零の姿がそこにあった。

 

神奈子「早苗の作る料理は、そりゃ不味くはないけど無難も良いところだからねぇ、久しぶりに美味しい夕飯だったわよっ」

 

上機嫌そうにそう話す神奈子は、杯に日本酒を注ぎ

 

神奈子「ほら、あなたも呑んでえおきなさい」

 

零「ん、あぁ…」

 

神奈子から杯を受け取り、注がれた酒を一気に飲み干す。

 

零「ぷはぁ! ……うっ、凄いアルコール高いなこれ」

 

早苗「あー! 神奈子様ダメですよ! 鬼や神様が飲むような度数の高いお酒を常人に飲ませたら!」

 

言って、ヒョイッと零から杯を奪う早苗。

 

神奈子「そんなケチ臭いこと言わないでいいでしょ?

それにほら、まったく酔ってないみたいだけど?」

 

早苗「えっ?」

 

零「ん? な、なんだ?」

 

神奈子の指摘を受け、早苗は驚いたような表情で零の顔を見る。

 

早苗「あれ……? 大丈夫なの?」

 

零「え? なにが?」

 

早苗「あ、いや……なんともないならいいんだけど」

 

酔っぱらうどころか顔色1つ変えていない零を見て、早苗は不思議そうに神奈子の持つ酒瓶を見つめていた。

 

神奈子「それにしても…零とか言ったわよね。あなた、妙な因果を持ってるようね」

 

零「…? なんの事だ」

 

神奈子「なんだ、気づいてなかったの?」

 

零「生憎、僕は自分の名前以外の記憶がなくてな」

 

神奈子「……なるほどねぇ」

 

零の話を聞き、神奈子は何に納得したのか一人呟き

 

早苗「記憶がない? それって、なにも覚えてないって事?」

 

そんな会話に、早苗が割ってはいる。

 

零「あぁ。だから僕は自分の力の事もなにも分からないんだ。

もともと記憶を巡る旅の途中だった所を、あの暴力巫女に捕まえられてな」

 

早苗「それは……また災難でしたね」

 

零「まったくだよ。いきなり妖怪を消し去った犯人だと決めつけられるし…」

 

神奈子「けど、実際少しは戦えるんでしょ?

僅かにだけど、不思議な力を感じるからね」

 

零「…低級な妖怪程度ならな。

けど、あの巫女と出会ってからは化け物じみた力の持ち主としか出会ってないからな」

 

溜め息混じりに言って、零は神奈子と早苗を見やった。

 

早苗「?」

 

神奈子「ふふっ」

 

零「まったく……自信も折れかけだよ、こっちは…」

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

翌朝

 

【守矢神社 境内の中の住居】

 

……ガサガサガサガサッ!!

 

零「……ん?」

 

それは、まだ日も完全に昇りきる前

 

零「なんの音だ……?」

 

零は外から聞こえた木々のざわめくような音を耳にして目を覚ました。

 

「……───?」

 

零「……早苗?」

 

次いで聞こえた声は、なにを言っているのかは聞き取れなかったものの、確かに早苗のもので

 

……ガラッ

 

零は借りている部屋の、外とを区切る襖を開けた。

 

零「……早苗!」

 

そこには、確かに早苗が居り

 

早苗「……」

 

早苗は零に気づいていないのか、境内に立ち尽くして空を見上げたまま。

 

零も彼女に続いて空を見上げれば

 

零「……なんだあれ」

 

空には、黒いカラスのような翼を持つ集団が飛び交っていた。

 

「鴉天狗。

天狗の一種であり、里の人間から神として崇められる事もある神格化した妖怪です。

他の妖怪よりも個々の力や団結力が強く、そして排他的。

その為、住処であるこの山に不用意に立ち入るものには集団で対応しているのでしょう」

 

不意に聞こえたその声に、零が視線を向ければ

 

零「神奈子…」

 

そこには、住居の屋根近くにまで浮かんで空を見つめる神奈子の姿があった。

 

零「じゃあ、今がまさに」

 

神奈子「えぇ、何者かが不用意に入り込んだようだけど……少し騒動が大きいみたいね」

 

零「……僕が昨日ここに来た時はなにもなかったぞ?」

 

神奈子「それはあなたがこの神社の巫女である早苗と一緒だったからでしょう。

私たちはこの山に受け入れられていますから」

 

零「なるほどね」

 

神奈子の説明に納得し、零は再び空へと視線を向ける。

 

零「それにしても、あの天狗たちに目をつけられた奴は不運だな。

もしなにも知らずに山に入ったんだとしたら同情するよ」

 

神奈子「……そうね」

 

零の感想に同調し、神奈子はなにを感じたのか、静かに目を細めた。

 

 

「もし、本当に何も知らないのであれば……」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

【博麗神社までの道中 魔法の森】

 

零「え? 文が?」

 

早苗「えぇ、大天狗から侵入者の排除を命じられて追いかけ回してるみたいです。

それで、今日の散策には参加できそうにないと」

 

零「まぁ、確かにすごい数だったもんな。

影のせいで空が曇ってるのかと思ったよ」

 

寝起きに零が聞いた話し声は早苗が文と話していた声だったようで、零はそれを聞き、先程目撃したばかりの鴉天狗の大群を思い返していた。

 

早苗「それにしても、あそこまで天狗たちの動きが激しいのは私も初めて見ました。

普段は侵入者との接触にもあの鴉天狗一匹程度なのに」

 

零「え? そうなのか?」

 

早苗「はい。なにやら神奈子様も様子が変でしたし…」

 

零「……そうか?」

 

早苗の話を聞き、昨日の神奈子と今朝の神奈子とを比べ、その変化が分からず頭に?を浮かべる。

 

早苗「……これは、もしかしたら」

 

真剣な眼差しで、顎に指を当て考える早苗

 

零「……なんだよ?」

 

零はそんな早苗の発する真剣な空気に呑まれ、食い入るようにして問い返した。

 

早苗「間違い無い……新たな異変の臭いがするわ!!」

 

グッと拳を握り、キラキラと瞳を輝かせる早苗。

 

零「……なんで楽しそうなんだよ」

 

早苗「だって! たまには私も活躍したいですからっ!」

 

零「……まぁとにかく、今は紅白巫女と合流するぞー」

 

キラキラ星を撒き散らす早苗を華麗にスルーし、零は森の中の道を先行して歩いて行った。

 

早苗「やはり幻想卿に馴染んだ今の私なら異変の1つや2つや3つ……!

って、あーん! 待って~!!」

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

【魔法の森 人里付近】

 

零「あれ……?」

 

早苗を置いて先行して道を進んできた零は、もう少しで森を抜けるという所で正面から向かってくる1つの影を見つけた。

 

早苗「足速いですよ~!」

 

はぁ、はぁと肩で息をしつつ、零に追い付いた早苗は

 

早苗「あっ! 霊夢さ~んっ!」

 

零が見つめる先からこちらに向け歩いてきている霊夢を視界に捉えて手を振った。

 

早苗「おはようございますっ」

 

霊夢「あー、おはよ」

 

元気一杯に挨拶する早苗に粗末に返し

 

霊夢「……」

 

霊夢は零をジトッと見つめる。

 

零「な、なんだよ…」

 

霊夢「…早苗、あんたなんもされなかった?」

 

零の問いには答えず、霊夢は早苗に振り向き

 

早苗「へっ??」

 

早苗はすっとんきょうな声を出して頬に指を当てた。

 

零「するわけないだろっ!」

 

早苗が霊夢の言葉の意味を理解するより早く零は叫び

 

零「それよりっ、なんでここにいるんだよ?

落ち合うのはそっちの神社だったはずだろ?」

 

仕切り直して、霊夢に尋ねた。

 

霊夢「事情が変わったのよ。

そっちの山で変な妖気を感じたから様子を見に行こうとしてたの。

鴉天狗も騒いでたしね」

 

零「あぁ、今朝のアレか」

 

早苗「えっ!? じゃあ諏訪子様捜しは!?」

 

霊夢「なに言ってんのよ。

それこそ、あの騒動が関係してるかもしれないでしょ?」

 

さも当たり前のように言って、不安がる早苗の頭をぺちんっと叩く霊夢。

 

早苗「おぉ! なるほど! 煙のない所に火は立たないですからねっ!」

 

零「逆だ逆。 しかもちょっと使い方違うだろ」

 

霊夢「と言うか…あんたも不思議に思わなかったわけ?」

 

いつものポケポケな様子の早苗は置いておき、零へと振り向いて問いかける霊夢。

 

零「あー…いや、なんとなく感覚が狂ってたのかも。

昨日から色々ありすぎたし」

 

「それに…」と続け、早苗へと振り向く零。

 

零(早苗のポケポケが移ったのかな…)

 

霊夢「…? ま、いいわ。あんたが使えない事は分かってた事だし。

さっさと調査に向かうわよ」

 

零「なっ! 誰が使えないって!?」

 

霊夢「ほら、行くわよ早苗」

 

早苗「はいっ!」

 

零「おいっ! 無視するなーー!」

 

 





名前 :東風谷 早苗
読み :こちや さなえ

二つ名:祀られる風の人間、山に住む奇跡の現人神

能力 :奇跡を起こす程度の能力

種族 :人間

呼称 :早苗、早苗さん、青巫女

所持スペルカード代表:
秘術「グレイソーマタージ」
奇跡「神の風」

備考:
現人神。
一子相伝の秘術を持つ人間。
性格は真面目だが、少々抜けている所もあり、普通の人間とは感性がズレている節もある。
自分の力に自信を持っていて、故に過信しすぎる事もある。

元々は風の神様を祀る人間だったらしいが、秘密の多い秘術で雨や風を降らす奇跡を起こしているうちに、周りの人間は秘術を使う人間自体を信仰するようになっていった。

それにより彼女のような秘術を扱う人間は人間でありながら信仰を集め、やがて現人神となった。

現在は守矢神社の巫女であり、実は諏訪子の遠い子孫でもある。

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