最終回です。
それではご覧ください。
太宰家にて春歌の手料理をご馳走になり、夜も更けてきたため、カバンを手に取り、玄関に向かう。
「じゃ、また明日な」
「あ………。うん」
「…どうした?」
「何でもないよ!また明日ね」
人の何でもないや大丈夫は当てにならないとはこの事だな。だって明らかに今寂しそうな顔してたし。春歌の友達から聞いた話だが、春歌は俺と出会ってから感情が豊かになったとか。初体験が多くていい刺激にもなったんだろう。それと同時に感情が出やすくなったって事か。別に悪い事じゃないけど。
まだ9時ちょい過ぎだし、11時までに帰れれば問題ない。
「んじゃ、春歌の部屋行くか」
「…え?帰らないの?」
「……やっぱ帰るか」
「待って!もうちょっと一緒にいたい!」
「分かったから」
若干浮足立ってる春歌の隣を歩き、前回来た時よりも片付いている春歌の部屋へきた。
「座って」
ベッドの上で自分の座っている隣をポンポンと手で誘導する春歌。
「何するんだ?」
「さあ?」
「何も考えてないのかよ」
「だってまだ帰したくなかったから」
「明日会えるじゃねぇかよ」
「気分の問題!」
強引に話を終らせ、意味もなく袖を掴む春歌。しばらくして春歌の横顔を窺うと、上目遣いでこちらを見ていた。わずかに頬が赤に染まっている。
「な、なんだ?」
「八幡はさ、この状況で何も思わない?」
「この状況?」
「年頃の男女が誰もいない家で2人きり」
「………この変態」
「なっ!?」
全くこの子は一体何を言ってるんだか…。そんなえっちぃ子だとはね……。
何も思わねぇわけないだろ。俺だって一応男だ。結構我慢してる方だ。あのね、今だってドキドキしてハートキャッチされそうなんだよ。もう付き合ってる時点でキャッチされてるか。
「ねえ、本当に何もしなっ…!」
不安な表情を浮かべる春歌の頭にそっと手を置いた。
「何も思ってないわけじゃねぇよ。ただ、俺も不安なだけだ」
「…別に一線超えるわけじゃないよ。ただ、過剰に触れ合うというか」
「いや、俺だってぶっちゃけそうしたい。けど、俺が耐えきれねぇ……」
「…………えええ!」
「触れるとあまりの刺激で気絶しそうだ」
「えぇ…」
あ~、失望されたか。理性が人1倍強い分、そういう事にはヘタレを超えたチキン野郎なんだよ。煩悩もあるし性欲もあるが、体と精神が追いついていない状態なんだ。
事情を話したら、見事に心底呆れられてしまった。
「子供か!?」
「う、うるせえ。仕方ねぇだろ……」
「いつもはチラチラ見てるくせに」
「ぐっ…」
「はぁ、じゃあ私からした方がいっか」
そう言って春歌は俺の両肩を勢いよく掴み、無理矢理キスをした。春歌は結構力を入れていたみたいで、危うく歯同士がぶつかりそうになった。さらにその勢いでベッドに仰向けで倒された。
「これじゃ、立場が逆……」
「ああ。お前ビッチになってる」
「八幡がヘタレだからでしょ!」
ごもっともです。
「俺、そろそろ帰るわ」
「あ、もうこんな時間。じゃ、また明日ね」
「おう」
◆
俺が超絶怒涛のヘタレ高校生という事を暴露した翌日。いつもと同じ時間に家を出て、登校。教室に入り、俺はいつものように真っ先に席に座り、本を開いて、自分の世界を創る。
「おはよう」
しばらくして、俺の世界に入り込み、笑顔で挨拶をしてくれるのは、最初で最後の彼女であり、婚約者の春歌。
「おう、おはよう」
今の様子じゃ、昨日の事は特に気にしてないようだな。切り替えが早すぎてまだ気にしてた俺が恥ずかしくなってくる。
特に何事も無く、トラブルに巻き込まれるわけでもなく、ただただ平穏に過ごす彼女との高校生活。これからも普通に平和に過ごしたい。厄介ごとは面倒くさいからな。
「ねえねえ八幡」
「どした?」
「昨日の事皆に話したら、『かわいい』って言ってるよ」
「はぁ!お前何言ってんだよ!」
彼女は舌を出しながら悪戯な笑みを浮かべ、すぐにその場を去った。あいつ後でお仕置きする。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
これにて完結です。個人的にはこのシリーズ、あまり完璧には書けてないと思ったりしちゃってます………。前作で全話オリジナルにしたおかげかな。たはは……。
読んでくれた皆さん、ありがとうございました。オリヒロ『太宰春歌』は、どこか別の短編集に載せたいと思います。もうこんな企画しない………。
それでは、アデュー。