Fate/Grand Order ■■特異点 魔海狂想都市ルルイエ   作:クトゥルフ時計

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勢いでやった。後悔はしていない。匿名なのは気分です。


プロローグ「浮上、そして災厄」

 ――――ア―――――――フ―グ―――

 

 

 

 

 ―ア――ア――――ル――フ―グ―――

 

 

 

 

 イア――ア―ク――ル――フ―グン――

 

 

 

 

 イア―イア―クト―ル――フタグン――

 

 

 

 

 イア―イア―クトゥルフ―フタグン――

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 ある日のカルデアにて、その災禍は起きていた。

 

 無数の苦痛(トラウマ)の軍勢がすれ違う数多の者共の心を苛み、その暴虐に舞い散る頁が華を添える。無邪気な絵本が暴れまわり、女を狙う殺人鬼の刃が駆け巡る。

 

 阿鼻叫喚。地獄絵図。

 

 まさしくそう形容すべき様相の中で、鎧と大盾を備えた一人の少女が走っていた。

 

 トラウマを振り払い、頁を千切り、絵本を避け、刃をいなす。

 

 そうして辿り着いたのは一つの扉。乱暴に入室のボタンを押すと、中にいた黒髪の青年に目を向ける。

 

「先輩、無事ですか!?」

 

 先輩。そう呼ばれた青年――藤丸立香――は不安げな瞳を少女に合わせ、困惑で十割を構成する叫びを以て彼女に問うた。

 

「いやいやマシュ、これどういうこと!? なんかいきなり外は騒がしくなるし、Dr.ロマンからも『外に出ないで!』って通信入るし、何がなんだかわからないよ!」

 

「落ち着いてください先輩! わからないのは私も同じです! 一先ずドクターから話があるそうなので、急ぎ向かいましょう!」

 

 鎧と大盾の少女――マシュ――は返事も聞かず、部屋に備え付けのベッドから立ち上がった立香を乱暴に肩に担ぐ。「うわっ!」と立香は突然のことに驚くも、しかしその驚愕を噛み締める間も与えられずに、走り出すマシュの肩で顔に当たる風を感じた。

 

「少しの辛抱をお願いします先輩!」

「わからないけどわかった!マシュ、お願い!」

「はい!」

 

 そうして二人は吹き荒れる暴力の嵐の中を進む。無数の刃に襲われながら、無数の恐怖をその身に受けて。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 空気が抜ける音と共に、Dr.ロマンのいる部屋のドアが開かれる。彼が振り向くと、そこにはマシュの肩から下ろされ少し具合が悪そうにしている立香と彼の背中をさすっているマシュの二人がいた。

 

「酔った……」

「あはは、災難だったね立香君」

 

 二人の無事を確認して安堵の息を吐き、ロマンは軽くはにかんだ。が、すぐに顔を引き締め、

 

「さて、早速で悪いけど。とにかくこの状況の説明からさせてもらおうと思うよ」

 

 手持ちのタブレットを弄るのをやめ、ロマンは二人へ顔を向ける。

 

「まず、君たちも見たと思うけどサーヴァントが暴れだしてる。今確認した限りでは、シェイクスピア、アンデルセン、ナーサリー・ライム、ジャック・ザ・リッパーの四人だ。それぞれが一種の恐慌状態――――いや、発狂とでもいうべき状態に陥っている」

 

 ロマンは二人にタブレットを見せた。四つに分かれた画面からは、サーヴァントたちが各々の方法で地獄を作り出している惨状がありありと映し出されている。

 

「っ、ドクター、これは……!?」

 

 マシュが悲嘆の声をあげる。仕方が無いだろう、いくら英霊の力を持っていようと、内面はまだ幼い少女だ。ついこの間まで楽しく談笑できていたはずの仲間の突然の変貌に驚くのも無理はない。

 

「マシュ、残酷なようだけど受け入れてほしい。これが今のカルデアの現状だ。最早彼らに言葉は通じないと思った方がいい」

「でもこれは余りにもっ……!!!」

「マシュ、落ち着いて」

 

 息を荒くしてロマンに詰め寄るマシュの腕を立香が掴む。苦虫を噛み潰したように表情を歪めるマシュだったが、すぐにそれも消える。

 

「うん、辛いだろうけど我慢してね。事態はそれだけじゃないんだから」

「それだけじゃないって……他にも何かあったんですか?」

「ああ。信じがたいことだけどね。――――ダ・ヴィンチちゃんが意識不明の昏睡状態だ。覚醒の目処はまだついていない」

「ッ……」

 

 言葉を失った。これまで彼らの優秀なブレインとして少なくない貢献をしてきたレオナルド・ダ・ヴィンチが、あろうことか意識不明だというのだ。しかし、「何故?」という疑問が二人の脳裡を過る。それを口にする前に、その問いを予感していたかのようにロマンが言った。

 

「彼女はつい先程……他のサーヴァントたちが暴れ出す直前に自ら強力な電流を流して意識を途絶えさせた。まさかサーヴァントの体に効くようなスタンガンを作ってたとは……て、そうじゃなかった。

 なんにせよ、今回彼女からの助言は得られない。僕たちだけで解決するしかないんだ。

 そして、彼女がそんな自傷行為紛いのことをした理由は……うん、僕もよくわからないんだけどね」

 

 ロマンは言葉を一端濁す。一瞬目を泳がせて、疲れたように指で目頭を摘まんだ。

 

「彼女曰く『天才と馬鹿は紙一重と言うけれど、馬鹿と狂人は違うからね! 頭が痛い! 私は寝るよ! 夢も見たくないね!』だそうだ。意味はわからないけど、切羽詰まっているのは確実だろうね。何せ()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて尋常じゃない」

 

 たしかにその通りだ。眠いだけなら横になればいい。しかしそれだけでは足らなかったから、今回のような行動に出たのだろう。

 

 夢を見ないように意識を断絶し、簡単には目覚めぬ眠りに落ちるというのは明らかに普通じゃない。少なくとも、普段のレオナルド・ダ・ヴィンチならそんなこと絶対にしない。

 

 ならば、彼女がそうまでして避けたかったものがあるのだ。それに、

 

「……頭が痛いってどういうこと?」

 

 立香の疑問はそこにあった。ただの頭痛、というわけではないだろう。……ひどい偏見だとは思うが、そもそも彼女のような自由人の天才が頭痛に悩まされるようなタマとは思えない。ならば原因はきっと他にある。彼にはどうしても、そう思えてならなかった。

 

「ダ・ヴィンチちゃんがそんなこと言うって、一体何があったのかな」

 

 ロマンは首を横に振る。

 

「それだけは最後まで口を割らなかったよ。でも、彼女らしい仕事だけはしていってくれた。意識を絶つ直前に、彼女は今回の騒動の原因であろう場所だけは割り出してくれたんだ」

 

 くるりと回転椅子を回し、身体を夥しい数のコンピューター類に向け、ロマンは指を動かす。暫くして立香たちの前に表示されたウィンドウには、世界地図のある一点を映していた。

 

「ダ・ヴィンチちゃんによるとね、今回の騒動の原因は此処にあるみたいなんだ」

「いや、此処って……」

 

 立香が漏らした呟き。そこに映っていたのは――――

 

「……太平洋?」

 

 紛うことなき青。間違うことなき青。

 

 それはもういっそ清々しいくらいの、大海原だった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 空の輝きは一層強く、光の瞬きは一層鮮明に。

 

 無限の宇宙が、有らん限りの空に祝福にも似た災厄の光を閃かせる。

 

 それは星だ。旧くより人の営みに寄り添ってきた、天蓋を彩る無数の宝石。

 

 あるときは吉兆を。あるときは凶兆を。

 

 あるときは平穏を。あるときは戦乱を。

 

 人の全てをそれは見ていた。人の全てをそれは知っていた。

 

 遥かな星は空をなぞり、正しき位置へと還っていく。

 

 星辰は揃う。その輝きは力を纏い、地上に新たな変化を齎した。

 

 太平洋の奥底、踏み入れられざる暗い領域の果てに鎮座するその神は、今永き眠りの中で狂った夢を見る。

 

 浮上する。冒涜的な石造りの海底都市が、星の助けを得てその姿を現す。

 

 フングルイ・ムグルウナフ・クトゥルフ・ルルイエ・ウガフナグル・フタグン。

 

 ルルイエの館にて死せるクトゥルフ、夢見るままに待ちいたり。

 

 ――――目覚めの時は来た。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「君達にはここに行ってもらいたい。そして今回の元凶の発見と、出来ればその沈静化もお願いしたいんだ」

 

 ロマンの言葉に立香は「いやいやいやいや」と首を振って反論する。

 

「行くも何もここ海でしょ!? まさかオケアノスのときみたいに船で行くっていうの!?」

「そうじゃないよ。確かに地図には乗ってないけど、ここにはちゃんと陸地がある」

「……どういうこと?」

 

 立香は首を捻る。ロマンの言葉が全くと言っていいほど理解できないのだ。ロマンの指し示す地点には間違いなく海しかない。しかし彼曰く其処にはきちんと何かがあるというのだ。矛盾している。

 

「本当に訳のわからないことだらけなんだけどね、ここは物理的にも魔術的にも()()()()んだ。確かに其処にあるのに、()()()()()()()で存在している。矛盾しているようだけどね。

さて、話を戻そう。さっきも言った通り、ここには陸地がある。というより、()()()()()()()()()()

「……は?」

 

 間抜けな返事をしてしまった立香は悪くないだろう。さっき、とロマンは言った。陸地が浮かび上がるなど、そんな地殻変動級の現象がそう簡単に起きるわけがない。というより、有り得ないのだ。

 

 プレートの移動や火山の噴火によって大陸が出来上がったのは有名な話ではあるが、それが多大な時間をかけて行われたというのは自明。間違っても〝さっき〟など軽い言葉で済まされていいものではない。

 

 マシュも同じことを考えていたのだろう。立香より先にロマンに疑問をぶつける。

 

 するとロマンの返答は、

 

「ああそうだね、言い方が悪かった。出てきたのは厳密に言えば都市だ。海底に沈む古代都市、とでも言えばいいかな」

「それはアトランティスのような?」

「似てるけど多分違うと思うよ。これまでにアトランティスが浮上したという記録は無いし、もしそうならこれまでの歴史が塗り替えられ――――」

 

 そこまで言ったとき、響いた爆音。部屋の中からでも感じ取れる狂気と近づいてくる暴虐の嵐の気配がすぐそこに迫っていた。

 

「……どうやらのんびりしている時間は無さそうだ。急ぎ君達にはここに向かってもらうよ」

 

 そう言ってロマンはレイシフトの準備に取り掛かる。ドアの外で繰り広げられているであろう光景から目を逸らし、立香とマシュはロマンの作業をじっと見ていた。

 

 刻一刻と時間は進む。トラウマの軍勢、舞い散る頁、無邪気な暴力、殺人鬼の刃。それぞれがそれぞれ違う形の傷痕をカルデアの壁に刻み続ける。

 

 立香とマシュの心に若干の焦りが生じる。しかしそれはすぐにロマンの言葉が吹き消した。

 

「よし、準備完了!二人とも用意は良い?」

 

 投げられた確認の問い。間髪入れず、答えは返される。

 

「はい!藤丸立香、いつでも行けます!」

「マシュ・キリエライト、同じく!」

 

 顔を引き締め答える二人に迷いはない。幾度となく特異点を乗り越えてきた彼等に、戸惑う理由は与えられないのだ。

 

 ロマンは軽く二人を一瞥し、優しく微笑む。

 

「よろしい。では、レイシフト開始だ!」

 

 その言葉を引き金に、二人の体は現代から離れていく。カルデアの危機を救うため、数多のサーヴァントと共に時代を駆けた二人は今、狂気の都へと足を踏み入れる。

 

「フォウフォーウ!」

「わっ、フォウさん!?」

 

 一匹も、彼等に付いていった。

 

 ロマンは彼等の出立を見届け、いずれ来るであろう暴れるサーヴァントに向き合おうと覚悟を決める。しかし、途端に静かになる部屋の外。

 

 困惑のままに彼はドアを開ける。そこには無数の破壊の跡があった。だが――――そこにサーヴァントは一人もいなかった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 舞台は1925年、3月23日。

 

 南緯47度9分、西経126度43分の太平洋沖。

 

 星辰が揃い、狂気の都はその姿を現す。

 

 〝特異点■■ 魔海狂想都市ルルイエ〟

 

 ここに開幕。




キャラの把握が上手くないのは私の至らなさによるところ。そこはご了承ください。

更新は遅くなると思います。というか多分一ヶ月超過とかよくあると思います。そこも何卒ご理解いただきたいです。
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